車体用部品及びその高周波焼入れ方法
【課題】要請される強度分布を焼入れ処理で容易に得られる車体用部品及びその高周波焼入れ方法を提供すること。
【解決手段】車体用部品であってプレス成形品となっているセンターピラー10は、上下方向を長手方向とする中間頂部11と、中間頂部11の車両前後方向における両側において中間頂部11から共に車両内側に屈曲し、屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部12とを備え、中間頂部11と側翼部12には、外輪郭を二点鎖線19で示す高周波焼入れによる焼入れ領域Qと非焼入れ領域とが設けられ、非焼入れ領域に、高周波焼入れ前の前記プレス成形時に形成された孔18が設けられ、焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合は長手方向に変化している。
【解決手段】車体用部品であってプレス成形品となっているセンターピラー10は、上下方向を長手方向とする中間頂部11と、中間頂部11の車両前後方向における両側において中間頂部11から共に車両内側に屈曲し、屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部12とを備え、中間頂部11と側翼部12には、外輪郭を二点鎖線19で示す高周波焼入れによる焼入れ領域Qと非焼入れ領域とが設けられ、非焼入れ領域に、高周波焼入れ前の前記プレス成形時に形成された孔18が設けられ、焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合は長手方向に変化している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、焼入れ処理された車体用部品及びその高周波焼入れ方法に係り、例えば、センターピラー、フロントバンパービーム、フロントサイドフレーム等の各種車体用部品に適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
車体の一部を形成する車体用部品であって、前席と後席との間の支柱となるセンターピラーは、断面ハット形状に形成されている。具体的には、センターピラーは、上下方向となった長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での長手方向と直交する方向の両側において、すなわち、車両前後方向における両側において中間頂部から同じ側である車両内側に屈曲し、長手方向に延びているとともに屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、これらの側翼部の先端から互いに離れる車両前後方向に延びるフランジ部とからなる。このセンターピラーは、サイドドアのウインドガラスを通した車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅寸法が小さい細長状に形成されるが、他車や壁等との側面衝突に対する対策のために大きな強度が求められる。
【0003】
センターピラーの強度を大きくするための従来の方策として、センターピラーに補強材であるリーンフォースを設けることや、センターピラーを焼入れ処理することが知られている。
【0004】
前者によると、センターピラーの全体重量が増加することになり、車体重量の軽量化の要請に反することになるため、後者が好ましい。また、後者において、センターピラーを焼入れ処理するに際しては、センターピラーに作用する荷重を有効に受けられるようにするために、大きな強度が必要される箇所ではその大きな強度となるようにし、小さい強度で足りる箇所ではその小さい強度となるにし、要請される強度分布を得られる焼入れ処理を行うことが望ましい。
【0005】
このような焼入れ処理を行う従来技術として、特開平10−17933号が知られている。この従来技術では、センターピラーの車両前後方向の幅全体を高周波焼入れ装置で焼入れ処理するとともに、この焼入れ処理により、上下方向の硬度分布が要請される強度分布と対応した分布となるようにし、このような硬度分布を得るために、センターピラーに対して高周波焼入れ装置を移動させて焼入れ処理する際に、この移動速度を変化させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この従来技術において、要請される強度分布を得る方策は、この強度分布と対応した硬度分布をセンターピラーに生じさせることであるが、強度分布と対応した硬度分布を得るためには、センターピラーの材質等の各種条件を考慮した制御技術などの高度の技術が必要となる。
【0007】
本発明の目的は、要請される強度分布を焼入れ処理によって容易に得られるセンターピラー等の車体用部品を提供すること、及びこの車体用部品を生産するために用いる高周波焼入れ方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車体用部品は、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品において、前記中間頂部と前記一対の側翼部とのうち、少なくとも一対の側翼部に焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記幅方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっていることを特徴とするものである。
【0009】
この車体用部品では、中間頂部と一対の側翼部とのうち、少なくとも一対の側翼部に焼入れ領域と非焼入れ領域とが設けられ、前記幅方向における焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっているため、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定によって強度の大きさを決めることができ、このため、要請される強度分布を容易に得られる。また、非焼入れ領域により、焼入れ領域に対するこの非焼入れ領域の割合に応じた靭性も確保できる。
【0010】
この車体用部品において、強度を車体用部品の長手方向に変化させず、強度分布をこの長手方向に一様のものとする場合には、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させなくてもよく、また、強度を車体用部品の長手方向に変化させ、一様の強度分布とさせない場合には、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させればよい。後者の場合には、車体用部品の長手方向の一部に、全部が焼入れ領域又は非焼入れ領域となった部分を設けてもよい。
【0011】
また、焼入れ領域を中間頂部にも設けてもよく、このように焼入れ領域を中間頂部にも設ける場合には、中間頂部におけるこの中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の全体に亘って焼入れ領域を設けてもよく、この方向の両側だけに焼入れ領域を設け、これらの焼入れ領域の間を非焼入れ領域としてもよい。
【0012】
後者によると、非焼入れ領域によって車体用部品の靭性を確保できることになる。また、この非焼入れ領域に孔を形成することもできる。
【0013】
また、本発明に係る車体用部品は、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品において、前記中間頂部と前記一対の側翼部とのうち、少なくとも中間頂部に焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっていることを特徴とするものである。
【0014】
この車体用部品では、中間頂部と一対の側翼部とのうち、少なくとも中間頂部に焼入れ領域と非焼入れ領域とが設けられ、中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定によって強度の大きさが決まることになるため、この車体用部品でも要請される強度分布を焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定で容易に得られ、また、非焼入れ領域により、焼入れ領域に対するこの非焼入れ領域の割合に応じた靭性も確保できる。
【0015】
この車体用部品においても、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させないことにより、強度を車体用部品の長手方向に変化させなくてもよく、また、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させることにより、強度を車体用部品の長手方向に変化させてもよい。後者の場合には、車体用部品の長手方向の一部に、全部が焼入れ領域又は非焼入れ領域となった部分を設けてもよい。
【0016】
また、中間頂部に設ける焼入れ領域は、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の両側だけに設け、これらの焼入れ領域の間を非焼入れ領域としてもよい。
【0017】
この非焼入れ領域によって車体用部品の靭性を確保できることになる。また、この非焼入れ領域に孔を形成することもできる。
【0018】
以上のように焼入れ処理される車体用部品の第1番目の例は、センターピラーである。センターピラーに設ける焼入れ領域は、サイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応するセンターピラーの部分とすることが好ましい。
【0019】
これによると、センターピラーのうち、サイドドアのウインドガラスを通した車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅寸法が小さくなっている部分について、他車や壁等との側面衝突に対して要請される強度を付与できることになる。
【0020】
また、センターピラーの焼入れ領域は、上部から下部に亘って一様の強度分布となるものでもよいが、上部から下部へ連続的に拡大する末広がり状の領域となっているものでもよい。
【0021】
後者によると、他車等からの大きな側面衝突荷重を受ける箇所についての強度をより大きなものにできるとともに、その箇所より上の強度が次第に小さくなる部分において、衝突エネルギを有効に吸収できる。また、焼入れ領域は連続的に拡大するものであって、急激に変化する部分がなく、したがって強度分布も急激に変化しないため、他車等からの衝突荷重等を受けたときにセンターピラーが折曲するなどを防止できる。
【0022】
サイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応する部分が焼入れ処理されるセンターピラーには、焼入れ領域の上部及び下部においてリーンフォースを設けてもよい。焼入れ領域の上部に設けるリーンフォースによると、車体を形成する他の部材のルーフ部分との大きな接合強度を確保でき、焼入れ領域の下部に設けるリーンフォースによると、サイドドア用ヒンジの取付箇所の強度を大きくできる。
【0023】
なお、このようにサイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応する部分が焼入れ処理されたセンターピラーが使用される車両の種類によっては、焼入れ領域の上部と下部に設けるリーンフォースのうち、一方のリーンフォース、例えば、上部のリーンフォースを省略してもよい。
【0024】
また、センターピラーには、焼入れ領域が設けられたセンターピラーの長手方向の範囲と同じ又は略同じ長さを有するリーンフォースを設けてもよい。これによると、センターピラー全体の重量は増加するが、同じ全体重量となっているセンターピラーよりも、焼入れ処理による強度分だけセンターピラーの全体強度を大きくできる。
【0025】
焼入れ処理される車体用部品の第2番目の例は、フロントバンパービームである。このフロントバンパービームの焼入れ領域は、左右のフロントサイドフレームの先端が結合される左右両側の結合部で大きくし、左右の間の中央部に向かって次第に小さくすることが好ましい。
【0026】
これによると、左右の間の中央部が前方に張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービームの中央部に軽微な衝突荷重が作用したときには、強度がそれ程大きくなくて靭性が大きい中央部で有効に受けることができ、大きな衝突荷重は、強度が大きくなっていてフロントサイドフレームが結合されている左右の結合部で有効に受けることができる。
【0027】
焼入れ処理される車体用部品の第3番目の例は、先端部がフロントバンパービームに結合されるフロントサイドフレームである。このフロントサイドビームの焼入れ領域は、先端部と、この先端部から間隔を開けて後退した箇所の後退部とで大きくし、これらの間の中間部で小さくすることが好ましい。
【0028】
これによると、フロントバンパービームからの大きな衝突荷重がフロントサイドフレームに作用したとき、強度が小さい中間部が座屈の生ずる座屈ポイントとなり、この座屈ポイントによって衝突エネルギをフロントサイドフレームで有効に吸収できる。
【0029】
以上の他、焼入れ処理される車体用部品は、フロントフロアの左右の端部に接合されるサイドシルでもよく、リアサイドフレームでもよく、リアサイドフレームリーンフォースでもよい。また、センターピラーにリーンフォースを設ける場合には、このリーンフォースでもよく、本発明が適用される車体用部品は、任意な車体用部品でよい。
【0030】
また、車体用部品を焼入れ処理するための焼入れ装置は、高周波焼入れ装置でもよく、レーザー焼入れ装置でもよく、ガス火炎焼入れ装置でもよく、任意な形式の焼入れ装置でよい。
【0031】
本発明に係る車体用部品の高周波焼入れ方法は、初めに、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品を製造するとともに、この製造時において、前記中間頂部に、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を形成し、次いで、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこの中間頂部の両側を高周波焼入れ装置で焼入れすることを特徴とするものである。
【0032】
この高周波焼入れ方法によると、中間頂部に、この中間頂部の面内での長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を設けなければならない場合には、車体用部品の製造時にこの孔を形成することになり、この後、中間頂部の面内での長手方向と直交する方向における中間頂部の両側を高周波焼入れ装置で焼入れするため、焼入れ処理される箇所は孔を形成した箇所から外れることになる。このため、孔の周囲に焼入れエネルギが集中することはなく、これにより、焼入れむらが生ずるのをなくすことができる。
【0033】
この高周波焼入れ方法において、車体用部品がプレス成形で製造される鋼板製品である場合には、孔はプレス成形時に打ち抜き加工で形成される。
【0034】
以上説明した本発明は、任意な引張り強さを有する鋼板から車体用部品を製造する場合に適用できる。この引張り強さは441.29925N/mm2級でもよく、490.3325N/mm2級でもよく、588.399N/mm2級でもよく、686.4655N/mm2級でもよく、784.532N/mm2級でもよい。
【0035】
しかし、車体用部品の材料として、引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板を用いると、この引張り強さはそれ程大きくないため、プレス加工によって複雑な形状の製品を製造でき、したがって、製造しようとする車体用部品が複雑な形状のものであっても、この車体用部品をプレス加工で所定どおり製造できる。
【0036】
また、車体用部品の材料として、引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板を用いると、焼入れ温度を比較的低い温度である900℃以下、例えば、750℃〜900℃の範囲内にある温度とすることができ、特に、800℃〜850℃の範囲内にある温度とすると、この焼入れ温度では亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層が破壊されないとともに、焼入れによる所定の強度を確保できるため、車体用部品の材料として錆に有効な亜鉛メッキ鋼板を用いながら、車体部品として必要な強度も得られることになる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、要請される強度分布を焼入れ処理によって車体用部品に容易に設けることができるという効果を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車体用部品であるセンターピラーが適用された四輪車両の左右のサイドボディうち、左側のサイドボディ1を示す。サイドボディ1は、車両外側のアウターパネルと車両内側のインナーパネルとの接合で形成されているとともに、図1のS2−S2線断面図である図2で示されているように、これらのアウターパネル2とインナーパネル3における前席と後席の間のセンターピラー部2Aと3Aで形成される内部空間4に、本実施形態に係るセンターピラー10が配置されている。
【0039】
このセンターピラー10は、長手方向である上下方向に延びている中間頂部11と、この中間頂部11の面内での上下方向と直交する方向の両側において、すなわち、車両前後方向における両側において中間頂部11から共に車両内側に屈曲し、上下方向に延びているとともに屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部12と、これらの側翼部12の先端から互いに離れる車両前後方向に延びるフランジ部13とからなる。したがって、センターピラー10は、ハット形状の断面を有する。
【0040】
図3にはセンターピラー10の全体の正面図が示され、この図3では、アウターパネル2が除かれ、インナーパネル3が示されている。センターピラー10の上下端部には車両前後方向へ膨出した膨大部14,15が形成され、したがって、センターピラー10の全体形状は、略I型となっている。アウターパネル2とインナーパネル3との間に組み込まれるセンターピラー10は、上下の膨大部14,15が、アウターパネル2のルーフ部とフロア部及びインナーパネル3のルーフ部3Cとフロア部3Dとに、また、図2で示したフランジ部13が、アウターパネル2のセンターピラー部2Aのフランジ部2B及びインナーパネル3のセンターピラー部3Aのフランジ3Bとにそれぞれスポット溶接で接合されることにより、アウターパネル2とインナーパネル3とに結合される。
【0041】
また、図3で示されているように、センターピラー10の上部と、上下方向の略中央部又はこれよりも少し下側の部分とには、リーンフォース16,17が配置され、これらのリーンフォース16,17はセンターピラー10にスポット溶接で接合される。
【0042】
図2で示されているとおり、センターピラー10の中間頂部11には孔18が形成され、この孔18は、図3で示すように、中間頂部11の長手方向に複数設けられている。これらの孔18は、アウターパネル2、インナーパネル3、センターピラー10、リーンフォース16,17及びその他の必要部品で製造されたサイドボディ1を電着塗装するために電着塗装液に浸漬した際に、アウターパネル2とインナーパネル3のセンターピラー部2A、3Aで形成される内部空間4に侵入した電着塗装液を、アウターパネル2のセンターピラー部2Aとセンターピラー10の間の狭い隙間5にも確実に侵入させ、アウターパネル2のセンターピラー部2Aの内面も所定どおり確実に電着塗装できるようにするためのものである。
【0043】
以上において、センターピラー10は、厚さが1.0mm又は1.2mm又は1.4mm又は1.6mmであって、引張り強さが441.29925N/mm2級の亜鉛メッキ鋼板をトランスファプレス加工することにより製造され、このトランスファプレス加工による製造時において、孔18が打ち抜き加工で形成される。
【0044】
図4は、以上のようにして孔18が形成されるセンターピラー10のうち、焼入れ処理される部分を拡大して示した要部拡大図である。外輪郭が二点鎖線19で示された焼入れ領域Qは、一部がリーンフォース16,17と重複しながらリーンフォース16と17との間に設けられる。図5は図4のS5−S5線断面図、図6は図4のS6−S6線断面図、図7は図4のS7−S7線断面図であり、これらの図4〜図7で理解できるように、焼入れ領域Qは、中間頂部11と一対の側翼部12とに設けられるとともに、これらの中間頂部11と一対の側翼部12において、焼入れ領域Qは上部から下部へ連続的に拡大する末広がりの領域となっている。
【0045】
また、図4で示されているとおり、焼入れ領域Qは、車両のサイドドアに設けられるウインドガラス20(図3も参照)の配置用窓孔と対応するセンターピラー10の部分に設けられる。
【0046】
そして、本実施形態では、焼入れ領域Qは車両前後方向の2個所にあり、これらの焼入れ領域Qのうちの中間頂部11における領域は、中間頂部11の面内におけるセンターピラー10の長手方向と直交する方向の両側、言い換えると車両前後方向の両側に設けられ、これらの領域が、焼入れ領域Qのうちのそれぞれの側翼部12における領域と連続している。
【0047】
図4で示されている孔18は、車両前後方向に分かれて2個設けられた焼入れ領域Qのうち、中間頂部11の車両前後方向の両側に形成された領域の間に設けられている。
【0048】
中間頂部11と一対の側翼部12において、焼入れ領域Q以外は焼入れされていない非焼入れ領域である。上述したとおり、焼入れ領域Qは上部から下部へ連続的に拡大する末広がり状となっているため、これとは逆に非焼入れ領域は、上部から下部へ連続的に減少する先細り状となっている。したがって、中間頂部11及び一対の側翼部12には焼入れ領域Qと非焼入れ領域とがあるとともに、中間頂部11において、車両前後方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合が、上部から下部に移行するに伴い焼入れ領域Qの比率が大きくなるように、センターピラー10の長手方向に変化し、一対の側翼部12においても、側翼部12の幅方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合が、上部から下部に移行するに伴い焼入れ領域Qの比率が大きくなるように、センターピラー10の長手方向に変化している。
【0049】
以上説明した焼入れ領域Qは、前述した亜鉛メッキ鋼板からセンターピラー10をトランスファプレス加工で製造してこの製造時に孔18も形成した後、高周波焼入れ装置でセンターピラー10を焼入れ処理することによって形成される。
【0050】
図8は、この高周波焼入れ装置30の概要を示す。高周波焼入れ装置30は、発振装置31と、この発振装置31に接続されているとともに、センターピラー10の上にセット又はセンターピラー10と対面セットされる車両前後方向の一対のコイル部32とを有し、センターピラー10に車両前後方向に分かれて形成される焼入れ領域Qごとに設けられているこれらのコイル部32の形状等の設定により、センターピラー10に上述した焼入れ領域Qを設けることができる。
【0051】
この高周波焼入れ装置30による焼入れ処理により、センターピラー10に図4〜図7で示す焼入れされた焼入れ領域Qが設けられることになる。
【0052】
以上説明した実施形態によると、センターピラー10の中間頂部11及び一対の側翼部12には焼入れ領域Qと非焼入れ領域とが設けられ、中間頂部11では、車両前後方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合により、側翼部12では、側翼部12の幅方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合により、センターピラー10の強度が決まるため、要請されるとおりのセンターピラー10の強度をこれらの割合で設定でき、センターピラー10の長手方向における強度分布は、焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合をセンターピラー10の長手方向に決めることによって容易に設定できる。
【0053】
また、センターピラー10に設ける焼入れ領域Qは、サイドドアに設けられるウインドガラス20の配置用窓孔と対応した部分であり、この部分は、センターピラー10のうちでも車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅が小さく形成される部分であるが、この部分に焼入れ領域を設けるため、他車や壁等との側面衝突の荷重に対する充分な強度をこの部分に付与できる。
【0054】
また、焼入れ領域Qより下の部分は、ウインドガラス20より下のサイドドアの部分に組み込まれる補強用ビームで補強されるから、この補強用ビームで焼入れ領域Qより下の部分についての衝突荷重に対する強度が確保されるとともに、焼入れ領域Qはセンターピラー10の上部から下部へと拡大する末広がり状となっているため、他車等からの大きな側面衝突荷重を受ける箇所についての強度をより大きなものにでき、また、その箇所より上の部分であって、強度が次第に小さくなり、非焼入れ領域の拡大によって靭性が次第に大きくなっている部分において、衝突エネルギを有効に吸収できる。
【0055】
また、焼入れ領域Qは連続的に変化するものであって、急激に変化するものになっておらず、したがって、焼入れ処理によって強度が急激に変化する箇所は生じていないため、他車等からの衝突荷重等を受けたときにセンターピラー10が折曲するなどを防止できる。
【0056】
また、センターピラー10には、焼入れ領域Qの上下において、リーンフォース16,17が設けられているため、焼入れ領域Qの上部のリーンフォース16により、車体を形成する前記アウターパネル2やインナーパネル3のルーフ部分との大きな接合強度を確保でき、焼入れ領域Qの下部のリーンフォース17により、サイドドア用ヒンジの取付箇所の強度を大きくできる。また、これらのリーンフォース16,17により、焼入れ領域Qの上下端部において、センターピラー10の強度が急激に低下するのをなくすことができる。
【0057】
さらに、センターピラー10に設ける焼入れ領域Qのうち、中間頂部11における領域は、中間頂部11における車両前後方向の両側に分かれて設けられ、これら両側の中間部に、すなわち非焼入れ領域となっている部分に、前述したように電着塗装時に必要となる孔18が形成されており、孔18を形成した後に行う高周波焼入れ作業によって焼入れ領域Qをセンターピラー10に設けても、焼入れ領域Qは、孔18の箇所から外れている中間頂部11における車両前後方向の両側に設けるため、高周波焼入れエネルギが孔18の周囲に集中してしまって焼入れむらが生ずることはない。
【0058】
また、センターピラー10は引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板をプレス加工することにより製造され、この引張り強さはそれ程大きくため、複雑な形状のセンターピラー10を所望の形状どおりに形成でき、しかも、この引張り強さを有する鋼板を焼入れ処理する場合の焼入れ温度は比較的低い温度である900℃以下、例えば、750℃〜900℃の範囲内にある温度でよく、特に、焼入れ温度を800℃〜850℃の範囲内にある温度とすると、この温度では亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層が破壊されないとともに、焼入れによる所定の強度を確保できることになり、このため、センターピラー10の材料として錆に有効な亜鉛メッキ鋼板を用いながら、センターピラー10として必要な強度も得られることになる。
【0059】
図9は、焼入れ領域Qが設けられているセンターピラー10の長手方向の範囲と同じ又は略同じとなった長さのリーンフォース40をセンターピラー10にスポット溶接で接合した実施形態を示す。この実施形態によると、リーンフォース40の分だけセンターピラー10の全体重量は増加するが、同じ全体重量を有するセンターピラーと比べた場合、センターピラー10に焼入れ領域Qを設けたことによる強度の増加分だけ、センターピラー10の全体強度を大きくできるという利点を得られる。
【0060】
なお、この実施形態において、リーンフォース40は、図3及び図4で示されているリーンフォース16,17とは別の部材としてセンターピラー10に設けてもよく、リーンフォース16,17を兼ねる上下寸法の長い部材としてセンターピラー10に設けてもよい。また、上下寸法の長いリーンフォース40にリーンフォース16,17を重ねて接合してもよい。
【0061】
図10〜図18は、焼入れ処理をフロントバンパービームとフロントサイドフレームに適用した場合の実施形態を示す。図10は、フロントバンパービーム50と左右一対のフロントサイドフレーム60とを結合する前の斜視図で、図11は、その結合後の平面図、図12は、その結合後の側面図である。そして、図13は、図11のS13−S13線断面図、図14は、図11のS14−S14線断面図、図15は、図11のS15−S15線断面図、図16は、図12のS16−S16線断面図、図17は、図12のS17−S17線断面図、図18は図12のS18−S18線断面図である。
【0062】
図10〜図12で示されているとおり、長手方向の中央部が前方へ張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービーム50の左右両側において、左右一対のフロントサイドフレーム60の先端部が、溶接により又はボルト等の締結具により、フロントバンパービーム50に結合される。これらのフロントサイドフレーム60は、FF四輪車両のエンジンルーム内において、左右のサイドボディとダッシュボードパネルとに結合される。
【0063】
図10及び図13〜図15で示されているように、フロントバンパービーム50は、車両の左右方向である長手方向に延びる中間頂部となっている前面部51と、この前面部51の面内での長手方向と直交する方向における両側において、言い換えると上下の両側において共に車両後方へ屈曲し、屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部となっている上面部52及び下面部53と、これらの上面部52と下面部53の後端部同士を結ぶ後面部54とからなり、上面部52と下面部53と後面部54は、前面部51と同じく、フロントバンパービーム50の長手方向に延び、その長さはフロントバンパービーム50の全長に亘るものとなっている。
【0064】
フロントバンパービーム50に設けられる焼入れ領域Qは、上面部52でのその領域Qの外輪郭を二点鎖線55で示す図11、及びフロントバンパービーム50の長手方向におけるその領域Qの変化を示す図13〜図15のとおり、左右一対のフロントサイドフレーム60の先端部が結合される左右両側の結合部で大きくし、左右の間の中央部に向かって次第に小さくなっている。
【0065】
焼入れ領域Qがこのようになっていると、左右の間の中央部が前方に張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービーム50の中央部に軽微な衝突荷重が作用した場合には、強度がそれ程大きくなく、その代わりに非焼入れ領域によって靭性が大きくなっている中央部において、その軽微な衝突荷重を有効に受けることができる。一方、大きな衝突荷重は、非焼入れ領域よりも大きい焼入れ領域Qによって強度が大きくなっていて、フロントサイドフレーム60が結合されている左右の結合部で有効に受けることができる。
【0066】
図10及び図16〜図18で示されているように、フロントサイドフレーム60は、車両前後方向である長手方向に延びる中間頂部となっているウェブ部61と、このウェブ部61の面内での長手方向と直交する方向における両側において、言い換えると上下の両側において共に車両内側に屈曲し、屈曲方向を幅方向とする上下の一対の側翼部となっているフランジ部62,63と、を備えており、これらのフランジ部62,63は、ウェブ部61と同じく、フロントサイドフレーム60の長手方向に延びている。
【0067】
このような形状を有するフロントサイドフレーム60に設けられる焼入れ領域Qは、ウェブ部61でのその領域Qの外輪郭を二点鎖線64で示す図12、及びフロントサイドフレーム60の長手方向におけるその領域Qの変化を示す図16〜図18のとおり、フロントバンパービーム50に結合される先端部と、この先端部から間隔を開けて車両後方へ後退した箇所の後退部とで大きく、これらの間の中間部で小さくなっている。
【0068】
これによると、フロントバンパービーム50からの大きな衝突荷重がフロントサイドフレーム60に作用したとき、先端部と後退部との間の強度が小さい中間部を座屈が生ずる座屈ポイントとすることができ、この座屈ポイントによって大きな衝突エネルギをフロントサイドフレーム60で有効に吸収できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、センターピラー等の車体用部品を焼入れするために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体用部品であるセンターピラーが適用されている四輪車両の左右のうちの左側のサイドボディを示す斜視図である。
【図2】図1のS2−S2線断面図である。
【図3】図1のサイドボディを形成するアウターパネルとインナーパネルのうち、インナーパネルとの関係で示したセンターピラーの全体正面図である。
【図4】焼入れ処理される部分を拡大して示したセンターピラーの要部拡大図である。
【図5】図4のS5−S5線断面図である。
【図6】図4のS6−S6線断面図である。
【図7】図4のS7−S7線断面図である。
【図8】センターピラーにセットしたときの高周波焼入れ装置の概要を示す斜視図である。
【図9】焼入れ領域が設けられたセンターピラーの長手方向の範囲に亘るリーンフォースをセンターピラーに設けた実施形態を示す図2と同様の図である。
【図10】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合する前を示す斜視図である。
【図11】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合した後を示す平面図である。
【図12】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合した後を示す側面図である。
【図13】図11のS13−S13線断面図である。
【図14】図11のS14−S14線断面図である。
【図15】図11のS15−S15線断面図である。
【図16】図12のS16−S16線断面図である。
【図17】図12のS17−S17線断面図である。
【図18】図12のS18−S19線断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 センターピラー
11 中間頂部
12 側翼部
20 サイドドアのウインドガラス
30 高周波焼入れ装置
32 コイル部
50 フロントバンパービーム
51 中間頂部である前面部
52 側翼部である上面部
53 側翼部である下面部
60 フロントサイドフレーム
61 中間頂部であるウェブ部
62,63 側翼部である上下のフランジ部
Q 焼入れ領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、焼入れ処理された車体用部品及びその高周波焼入れ方法に係り、例えば、センターピラー、フロントバンパービーム、フロントサイドフレーム等の各種車体用部品に適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
車体の一部を形成する車体用部品であって、前席と後席との間の支柱となるセンターピラーは、断面ハット形状に形成されている。具体的には、センターピラーは、上下方向となった長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での長手方向と直交する方向の両側において、すなわち、車両前後方向における両側において中間頂部から同じ側である車両内側に屈曲し、長手方向に延びているとともに屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、これらの側翼部の先端から互いに離れる車両前後方向に延びるフランジ部とからなる。このセンターピラーは、サイドドアのウインドガラスを通した車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅寸法が小さい細長状に形成されるが、他車や壁等との側面衝突に対する対策のために大きな強度が求められる。
【0003】
センターピラーの強度を大きくするための従来の方策として、センターピラーに補強材であるリーンフォースを設けることや、センターピラーを焼入れ処理することが知られている。
【0004】
前者によると、センターピラーの全体重量が増加することになり、車体重量の軽量化の要請に反することになるため、後者が好ましい。また、後者において、センターピラーを焼入れ処理するに際しては、センターピラーに作用する荷重を有効に受けられるようにするために、大きな強度が必要される箇所ではその大きな強度となるようにし、小さい強度で足りる箇所ではその小さい強度となるにし、要請される強度分布を得られる焼入れ処理を行うことが望ましい。
【0005】
このような焼入れ処理を行う従来技術として、特開平10−17933号が知られている。この従来技術では、センターピラーの車両前後方向の幅全体を高周波焼入れ装置で焼入れ処理するとともに、この焼入れ処理により、上下方向の硬度分布が要請される強度分布と対応した分布となるようにし、このような硬度分布を得るために、センターピラーに対して高周波焼入れ装置を移動させて焼入れ処理する際に、この移動速度を変化させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この従来技術において、要請される強度分布を得る方策は、この強度分布と対応した硬度分布をセンターピラーに生じさせることであるが、強度分布と対応した硬度分布を得るためには、センターピラーの材質等の各種条件を考慮した制御技術などの高度の技術が必要となる。
【0007】
本発明の目的は、要請される強度分布を焼入れ処理によって容易に得られるセンターピラー等の車体用部品を提供すること、及びこの車体用部品を生産するために用いる高周波焼入れ方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車体用部品は、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品において、前記中間頂部と前記一対の側翼部とのうち、少なくとも一対の側翼部に焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記幅方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっていることを特徴とするものである。
【0009】
この車体用部品では、中間頂部と一対の側翼部とのうち、少なくとも一対の側翼部に焼入れ領域と非焼入れ領域とが設けられ、前記幅方向における焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっているため、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定によって強度の大きさを決めることができ、このため、要請される強度分布を容易に得られる。また、非焼入れ領域により、焼入れ領域に対するこの非焼入れ領域の割合に応じた靭性も確保できる。
【0010】
この車体用部品において、強度を車体用部品の長手方向に変化させず、強度分布をこの長手方向に一様のものとする場合には、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させなくてもよく、また、強度を車体用部品の長手方向に変化させ、一様の強度分布とさせない場合には、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させればよい。後者の場合には、車体用部品の長手方向の一部に、全部が焼入れ領域又は非焼入れ領域となった部分を設けてもよい。
【0011】
また、焼入れ領域を中間頂部にも設けてもよく、このように焼入れ領域を中間頂部にも設ける場合には、中間頂部におけるこの中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の全体に亘って焼入れ領域を設けてもよく、この方向の両側だけに焼入れ領域を設け、これらの焼入れ領域の間を非焼入れ領域としてもよい。
【0012】
後者によると、非焼入れ領域によって車体用部品の靭性を確保できることになる。また、この非焼入れ領域に孔を形成することもできる。
【0013】
また、本発明に係る車体用部品は、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品において、前記中間頂部と前記一対の側翼部とのうち、少なくとも中間頂部に焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合が、要請される強度を得るための割合となっていることを特徴とするものである。
【0014】
この車体用部品では、中間頂部と一対の側翼部とのうち、少なくとも中間頂部に焼入れ領域と非焼入れ領域とが設けられ、中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこれらの焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定によって強度の大きさが決まることになるため、この車体用部品でも要請される強度分布を焼入れ領域と非焼入れ領域との割合の設定で容易に得られ、また、非焼入れ領域により、焼入れ領域に対するこの非焼入れ領域の割合に応じた靭性も確保できる。
【0015】
この車体用部品においても、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させないことにより、強度を車体用部品の長手方向に変化させなくてもよく、また、焼入れ領域と非焼入れ領域との割合を車体用部品の長手方向に変化させることにより、強度を車体用部品の長手方向に変化させてもよい。後者の場合には、車体用部品の長手方向の一部に、全部が焼入れ領域又は非焼入れ領域となった部分を設けてもよい。
【0016】
また、中間頂部に設ける焼入れ領域は、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の両側だけに設け、これらの焼入れ領域の間を非焼入れ領域としてもよい。
【0017】
この非焼入れ領域によって車体用部品の靭性を確保できることになる。また、この非焼入れ領域に孔を形成することもできる。
【0018】
以上のように焼入れ処理される車体用部品の第1番目の例は、センターピラーである。センターピラーに設ける焼入れ領域は、サイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応するセンターピラーの部分とすることが好ましい。
【0019】
これによると、センターピラーのうち、サイドドアのウインドガラスを通した車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅寸法が小さくなっている部分について、他車や壁等との側面衝突に対して要請される強度を付与できることになる。
【0020】
また、センターピラーの焼入れ領域は、上部から下部に亘って一様の強度分布となるものでもよいが、上部から下部へ連続的に拡大する末広がり状の領域となっているものでもよい。
【0021】
後者によると、他車等からの大きな側面衝突荷重を受ける箇所についての強度をより大きなものにできるとともに、その箇所より上の強度が次第に小さくなる部分において、衝突エネルギを有効に吸収できる。また、焼入れ領域は連続的に拡大するものであって、急激に変化する部分がなく、したがって強度分布も急激に変化しないため、他車等からの衝突荷重等を受けたときにセンターピラーが折曲するなどを防止できる。
【0022】
サイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応する部分が焼入れ処理されるセンターピラーには、焼入れ領域の上部及び下部においてリーンフォースを設けてもよい。焼入れ領域の上部に設けるリーンフォースによると、車体を形成する他の部材のルーフ部分との大きな接合強度を確保でき、焼入れ領域の下部に設けるリーンフォースによると、サイドドア用ヒンジの取付箇所の強度を大きくできる。
【0023】
なお、このようにサイドドアにおけるウインドガラス配置用窓孔と対応する部分が焼入れ処理されたセンターピラーが使用される車両の種類によっては、焼入れ領域の上部と下部に設けるリーンフォースのうち、一方のリーンフォース、例えば、上部のリーンフォースを省略してもよい。
【0024】
また、センターピラーには、焼入れ領域が設けられたセンターピラーの長手方向の範囲と同じ又は略同じ長さを有するリーンフォースを設けてもよい。これによると、センターピラー全体の重量は増加するが、同じ全体重量となっているセンターピラーよりも、焼入れ処理による強度分だけセンターピラーの全体強度を大きくできる。
【0025】
焼入れ処理される車体用部品の第2番目の例は、フロントバンパービームである。このフロントバンパービームの焼入れ領域は、左右のフロントサイドフレームの先端が結合される左右両側の結合部で大きくし、左右の間の中央部に向かって次第に小さくすることが好ましい。
【0026】
これによると、左右の間の中央部が前方に張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービームの中央部に軽微な衝突荷重が作用したときには、強度がそれ程大きくなくて靭性が大きい中央部で有効に受けることができ、大きな衝突荷重は、強度が大きくなっていてフロントサイドフレームが結合されている左右の結合部で有効に受けることができる。
【0027】
焼入れ処理される車体用部品の第3番目の例は、先端部がフロントバンパービームに結合されるフロントサイドフレームである。このフロントサイドビームの焼入れ領域は、先端部と、この先端部から間隔を開けて後退した箇所の後退部とで大きくし、これらの間の中間部で小さくすることが好ましい。
【0028】
これによると、フロントバンパービームからの大きな衝突荷重がフロントサイドフレームに作用したとき、強度が小さい中間部が座屈の生ずる座屈ポイントとなり、この座屈ポイントによって衝突エネルギをフロントサイドフレームで有効に吸収できる。
【0029】
以上の他、焼入れ処理される車体用部品は、フロントフロアの左右の端部に接合されるサイドシルでもよく、リアサイドフレームでもよく、リアサイドフレームリーンフォースでもよい。また、センターピラーにリーンフォースを設ける場合には、このリーンフォースでもよく、本発明が適用される車体用部品は、任意な車体用部品でよい。
【0030】
また、車体用部品を焼入れ処理するための焼入れ装置は、高周波焼入れ装置でもよく、レーザー焼入れ装置でもよく、ガス火炎焼入れ装置でもよく、任意な形式の焼入れ装置でよい。
【0031】
本発明に係る車体用部品の高周波焼入れ方法は、初めに、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品を製造するとともに、この製造時において、前記中間頂部に、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を形成し、次いで、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこの中間頂部の両側を高周波焼入れ装置で焼入れすることを特徴とするものである。
【0032】
この高周波焼入れ方法によると、中間頂部に、この中間頂部の面内での長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を設けなければならない場合には、車体用部品の製造時にこの孔を形成することになり、この後、中間頂部の面内での長手方向と直交する方向における中間頂部の両側を高周波焼入れ装置で焼入れするため、焼入れ処理される箇所は孔を形成した箇所から外れることになる。このため、孔の周囲に焼入れエネルギが集中することはなく、これにより、焼入れむらが生ずるのをなくすことができる。
【0033】
この高周波焼入れ方法において、車体用部品がプレス成形で製造される鋼板製品である場合には、孔はプレス成形時に打ち抜き加工で形成される。
【0034】
以上説明した本発明は、任意な引張り強さを有する鋼板から車体用部品を製造する場合に適用できる。この引張り強さは441.29925N/mm2級でもよく、490.3325N/mm2級でもよく、588.399N/mm2級でもよく、686.4655N/mm2級でもよく、784.532N/mm2級でもよい。
【0035】
しかし、車体用部品の材料として、引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板を用いると、この引張り強さはそれ程大きくないため、プレス加工によって複雑な形状の製品を製造でき、したがって、製造しようとする車体用部品が複雑な形状のものであっても、この車体用部品をプレス加工で所定どおり製造できる。
【0036】
また、車体用部品の材料として、引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板を用いると、焼入れ温度を比較的低い温度である900℃以下、例えば、750℃〜900℃の範囲内にある温度とすることができ、特に、800℃〜850℃の範囲内にある温度とすると、この焼入れ温度では亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層が破壊されないとともに、焼入れによる所定の強度を確保できるため、車体用部品の材料として錆に有効な亜鉛メッキ鋼板を用いながら、車体部品として必要な強度も得られることになる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、要請される強度分布を焼入れ処理によって車体用部品に容易に設けることができるという効果を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車体用部品であるセンターピラーが適用された四輪車両の左右のサイドボディうち、左側のサイドボディ1を示す。サイドボディ1は、車両外側のアウターパネルと車両内側のインナーパネルとの接合で形成されているとともに、図1のS2−S2線断面図である図2で示されているように、これらのアウターパネル2とインナーパネル3における前席と後席の間のセンターピラー部2Aと3Aで形成される内部空間4に、本実施形態に係るセンターピラー10が配置されている。
【0039】
このセンターピラー10は、長手方向である上下方向に延びている中間頂部11と、この中間頂部11の面内での上下方向と直交する方向の両側において、すなわち、車両前後方向における両側において中間頂部11から共に車両内側に屈曲し、上下方向に延びているとともに屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部12と、これらの側翼部12の先端から互いに離れる車両前後方向に延びるフランジ部13とからなる。したがって、センターピラー10は、ハット形状の断面を有する。
【0040】
図3にはセンターピラー10の全体の正面図が示され、この図3では、アウターパネル2が除かれ、インナーパネル3が示されている。センターピラー10の上下端部には車両前後方向へ膨出した膨大部14,15が形成され、したがって、センターピラー10の全体形状は、略I型となっている。アウターパネル2とインナーパネル3との間に組み込まれるセンターピラー10は、上下の膨大部14,15が、アウターパネル2のルーフ部とフロア部及びインナーパネル3のルーフ部3Cとフロア部3Dとに、また、図2で示したフランジ部13が、アウターパネル2のセンターピラー部2Aのフランジ部2B及びインナーパネル3のセンターピラー部3Aのフランジ3Bとにそれぞれスポット溶接で接合されることにより、アウターパネル2とインナーパネル3とに結合される。
【0041】
また、図3で示されているように、センターピラー10の上部と、上下方向の略中央部又はこれよりも少し下側の部分とには、リーンフォース16,17が配置され、これらのリーンフォース16,17はセンターピラー10にスポット溶接で接合される。
【0042】
図2で示されているとおり、センターピラー10の中間頂部11には孔18が形成され、この孔18は、図3で示すように、中間頂部11の長手方向に複数設けられている。これらの孔18は、アウターパネル2、インナーパネル3、センターピラー10、リーンフォース16,17及びその他の必要部品で製造されたサイドボディ1を電着塗装するために電着塗装液に浸漬した際に、アウターパネル2とインナーパネル3のセンターピラー部2A、3Aで形成される内部空間4に侵入した電着塗装液を、アウターパネル2のセンターピラー部2Aとセンターピラー10の間の狭い隙間5にも確実に侵入させ、アウターパネル2のセンターピラー部2Aの内面も所定どおり確実に電着塗装できるようにするためのものである。
【0043】
以上において、センターピラー10は、厚さが1.0mm又は1.2mm又は1.4mm又は1.6mmであって、引張り強さが441.29925N/mm2級の亜鉛メッキ鋼板をトランスファプレス加工することにより製造され、このトランスファプレス加工による製造時において、孔18が打ち抜き加工で形成される。
【0044】
図4は、以上のようにして孔18が形成されるセンターピラー10のうち、焼入れ処理される部分を拡大して示した要部拡大図である。外輪郭が二点鎖線19で示された焼入れ領域Qは、一部がリーンフォース16,17と重複しながらリーンフォース16と17との間に設けられる。図5は図4のS5−S5線断面図、図6は図4のS6−S6線断面図、図7は図4のS7−S7線断面図であり、これらの図4〜図7で理解できるように、焼入れ領域Qは、中間頂部11と一対の側翼部12とに設けられるとともに、これらの中間頂部11と一対の側翼部12において、焼入れ領域Qは上部から下部へ連続的に拡大する末広がりの領域となっている。
【0045】
また、図4で示されているとおり、焼入れ領域Qは、車両のサイドドアに設けられるウインドガラス20(図3も参照)の配置用窓孔と対応するセンターピラー10の部分に設けられる。
【0046】
そして、本実施形態では、焼入れ領域Qは車両前後方向の2個所にあり、これらの焼入れ領域Qのうちの中間頂部11における領域は、中間頂部11の面内におけるセンターピラー10の長手方向と直交する方向の両側、言い換えると車両前後方向の両側に設けられ、これらの領域が、焼入れ領域Qのうちのそれぞれの側翼部12における領域と連続している。
【0047】
図4で示されている孔18は、車両前後方向に分かれて2個設けられた焼入れ領域Qのうち、中間頂部11の車両前後方向の両側に形成された領域の間に設けられている。
【0048】
中間頂部11と一対の側翼部12において、焼入れ領域Q以外は焼入れされていない非焼入れ領域である。上述したとおり、焼入れ領域Qは上部から下部へ連続的に拡大する末広がり状となっているため、これとは逆に非焼入れ領域は、上部から下部へ連続的に減少する先細り状となっている。したがって、中間頂部11及び一対の側翼部12には焼入れ領域Qと非焼入れ領域とがあるとともに、中間頂部11において、車両前後方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合が、上部から下部に移行するに伴い焼入れ領域Qの比率が大きくなるように、センターピラー10の長手方向に変化し、一対の側翼部12においても、側翼部12の幅方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合が、上部から下部に移行するに伴い焼入れ領域Qの比率が大きくなるように、センターピラー10の長手方向に変化している。
【0049】
以上説明した焼入れ領域Qは、前述した亜鉛メッキ鋼板からセンターピラー10をトランスファプレス加工で製造してこの製造時に孔18も形成した後、高周波焼入れ装置でセンターピラー10を焼入れ処理することによって形成される。
【0050】
図8は、この高周波焼入れ装置30の概要を示す。高周波焼入れ装置30は、発振装置31と、この発振装置31に接続されているとともに、センターピラー10の上にセット又はセンターピラー10と対面セットされる車両前後方向の一対のコイル部32とを有し、センターピラー10に車両前後方向に分かれて形成される焼入れ領域Qごとに設けられているこれらのコイル部32の形状等の設定により、センターピラー10に上述した焼入れ領域Qを設けることができる。
【0051】
この高周波焼入れ装置30による焼入れ処理により、センターピラー10に図4〜図7で示す焼入れされた焼入れ領域Qが設けられることになる。
【0052】
以上説明した実施形態によると、センターピラー10の中間頂部11及び一対の側翼部12には焼入れ領域Qと非焼入れ領域とが設けられ、中間頂部11では、車両前後方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合により、側翼部12では、側翼部12の幅方向における焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合により、センターピラー10の強度が決まるため、要請されるとおりのセンターピラー10の強度をこれらの割合で設定でき、センターピラー10の長手方向における強度分布は、焼入れ領域Qと非焼入れ領域との割合をセンターピラー10の長手方向に決めることによって容易に設定できる。
【0053】
また、センターピラー10に設ける焼入れ領域Qは、サイドドアに設けられるウインドガラス20の配置用窓孔と対応した部分であり、この部分は、センターピラー10のうちでも車室内からの大きな視野を確保するために車両前後方向の幅が小さく形成される部分であるが、この部分に焼入れ領域を設けるため、他車や壁等との側面衝突の荷重に対する充分な強度をこの部分に付与できる。
【0054】
また、焼入れ領域Qより下の部分は、ウインドガラス20より下のサイドドアの部分に組み込まれる補強用ビームで補強されるから、この補強用ビームで焼入れ領域Qより下の部分についての衝突荷重に対する強度が確保されるとともに、焼入れ領域Qはセンターピラー10の上部から下部へと拡大する末広がり状となっているため、他車等からの大きな側面衝突荷重を受ける箇所についての強度をより大きなものにでき、また、その箇所より上の部分であって、強度が次第に小さくなり、非焼入れ領域の拡大によって靭性が次第に大きくなっている部分において、衝突エネルギを有効に吸収できる。
【0055】
また、焼入れ領域Qは連続的に変化するものであって、急激に変化するものになっておらず、したがって、焼入れ処理によって強度が急激に変化する箇所は生じていないため、他車等からの衝突荷重等を受けたときにセンターピラー10が折曲するなどを防止できる。
【0056】
また、センターピラー10には、焼入れ領域Qの上下において、リーンフォース16,17が設けられているため、焼入れ領域Qの上部のリーンフォース16により、車体を形成する前記アウターパネル2やインナーパネル3のルーフ部分との大きな接合強度を確保でき、焼入れ領域Qの下部のリーンフォース17により、サイドドア用ヒンジの取付箇所の強度を大きくできる。また、これらのリーンフォース16,17により、焼入れ領域Qの上下端部において、センターピラー10の強度が急激に低下するのをなくすことができる。
【0057】
さらに、センターピラー10に設ける焼入れ領域Qのうち、中間頂部11における領域は、中間頂部11における車両前後方向の両側に分かれて設けられ、これら両側の中間部に、すなわち非焼入れ領域となっている部分に、前述したように電着塗装時に必要となる孔18が形成されており、孔18を形成した後に行う高周波焼入れ作業によって焼入れ領域Qをセンターピラー10に設けても、焼入れ領域Qは、孔18の箇所から外れている中間頂部11における車両前後方向の両側に設けるため、高周波焼入れエネルギが孔18の周囲に集中してしまって焼入れむらが生ずることはない。
【0058】
また、センターピラー10は引張り強さが441.29925N/mm2級の鋼板をプレス加工することにより製造され、この引張り強さはそれ程大きくため、複雑な形状のセンターピラー10を所望の形状どおりに形成でき、しかも、この引張り強さを有する鋼板を焼入れ処理する場合の焼入れ温度は比較的低い温度である900℃以下、例えば、750℃〜900℃の範囲内にある温度でよく、特に、焼入れ温度を800℃〜850℃の範囲内にある温度とすると、この温度では亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層が破壊されないとともに、焼入れによる所定の強度を確保できることになり、このため、センターピラー10の材料として錆に有効な亜鉛メッキ鋼板を用いながら、センターピラー10として必要な強度も得られることになる。
【0059】
図9は、焼入れ領域Qが設けられているセンターピラー10の長手方向の範囲と同じ又は略同じとなった長さのリーンフォース40をセンターピラー10にスポット溶接で接合した実施形態を示す。この実施形態によると、リーンフォース40の分だけセンターピラー10の全体重量は増加するが、同じ全体重量を有するセンターピラーと比べた場合、センターピラー10に焼入れ領域Qを設けたことによる強度の増加分だけ、センターピラー10の全体強度を大きくできるという利点を得られる。
【0060】
なお、この実施形態において、リーンフォース40は、図3及び図4で示されているリーンフォース16,17とは別の部材としてセンターピラー10に設けてもよく、リーンフォース16,17を兼ねる上下寸法の長い部材としてセンターピラー10に設けてもよい。また、上下寸法の長いリーンフォース40にリーンフォース16,17を重ねて接合してもよい。
【0061】
図10〜図18は、焼入れ処理をフロントバンパービームとフロントサイドフレームに適用した場合の実施形態を示す。図10は、フロントバンパービーム50と左右一対のフロントサイドフレーム60とを結合する前の斜視図で、図11は、その結合後の平面図、図12は、その結合後の側面図である。そして、図13は、図11のS13−S13線断面図、図14は、図11のS14−S14線断面図、図15は、図11のS15−S15線断面図、図16は、図12のS16−S16線断面図、図17は、図12のS17−S17線断面図、図18は図12のS18−S18線断面図である。
【0062】
図10〜図12で示されているとおり、長手方向の中央部が前方へ張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービーム50の左右両側において、左右一対のフロントサイドフレーム60の先端部が、溶接により又はボルト等の締結具により、フロントバンパービーム50に結合される。これらのフロントサイドフレーム60は、FF四輪車両のエンジンルーム内において、左右のサイドボディとダッシュボードパネルとに結合される。
【0063】
図10及び図13〜図15で示されているように、フロントバンパービーム50は、車両の左右方向である長手方向に延びる中間頂部となっている前面部51と、この前面部51の面内での長手方向と直交する方向における両側において、言い換えると上下の両側において共に車両後方へ屈曲し、屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部となっている上面部52及び下面部53と、これらの上面部52と下面部53の後端部同士を結ぶ後面部54とからなり、上面部52と下面部53と後面部54は、前面部51と同じく、フロントバンパービーム50の長手方向に延び、その長さはフロントバンパービーム50の全長に亘るものとなっている。
【0064】
フロントバンパービーム50に設けられる焼入れ領域Qは、上面部52でのその領域Qの外輪郭を二点鎖線55で示す図11、及びフロントバンパービーム50の長手方向におけるその領域Qの変化を示す図13〜図15のとおり、左右一対のフロントサイドフレーム60の先端部が結合される左右両側の結合部で大きくし、左右の間の中央部に向かって次第に小さくなっている。
【0065】
焼入れ領域Qがこのようになっていると、左右の間の中央部が前方に張り出した全体形状弓型となっているフロントバンパービーム50の中央部に軽微な衝突荷重が作用した場合には、強度がそれ程大きくなく、その代わりに非焼入れ領域によって靭性が大きくなっている中央部において、その軽微な衝突荷重を有効に受けることができる。一方、大きな衝突荷重は、非焼入れ領域よりも大きい焼入れ領域Qによって強度が大きくなっていて、フロントサイドフレーム60が結合されている左右の結合部で有効に受けることができる。
【0066】
図10及び図16〜図18で示されているように、フロントサイドフレーム60は、車両前後方向である長手方向に延びる中間頂部となっているウェブ部61と、このウェブ部61の面内での長手方向と直交する方向における両側において、言い換えると上下の両側において共に車両内側に屈曲し、屈曲方向を幅方向とする上下の一対の側翼部となっているフランジ部62,63と、を備えており、これらのフランジ部62,63は、ウェブ部61と同じく、フロントサイドフレーム60の長手方向に延びている。
【0067】
このような形状を有するフロントサイドフレーム60に設けられる焼入れ領域Qは、ウェブ部61でのその領域Qの外輪郭を二点鎖線64で示す図12、及びフロントサイドフレーム60の長手方向におけるその領域Qの変化を示す図16〜図18のとおり、フロントバンパービーム50に結合される先端部と、この先端部から間隔を開けて車両後方へ後退した箇所の後退部とで大きく、これらの間の中間部で小さくなっている。
【0068】
これによると、フロントバンパービーム50からの大きな衝突荷重がフロントサイドフレーム60に作用したとき、先端部と後退部との間の強度が小さい中間部を座屈が生ずる座屈ポイントとすることができ、この座屈ポイントによって大きな衝突エネルギをフロントサイドフレーム60で有効に吸収できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、センターピラー等の車体用部品を焼入れするために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体用部品であるセンターピラーが適用されている四輪車両の左右のうちの左側のサイドボディを示す斜視図である。
【図2】図1のS2−S2線断面図である。
【図3】図1のサイドボディを形成するアウターパネルとインナーパネルのうち、インナーパネルとの関係で示したセンターピラーの全体正面図である。
【図4】焼入れ処理される部分を拡大して示したセンターピラーの要部拡大図である。
【図5】図4のS5−S5線断面図である。
【図6】図4のS6−S6線断面図である。
【図7】図4のS7−S7線断面図である。
【図8】センターピラーにセットしたときの高周波焼入れ装置の概要を示す斜視図である。
【図9】焼入れ領域が設けられたセンターピラーの長手方向の範囲に亘るリーンフォースをセンターピラーに設けた実施形態を示す図2と同様の図である。
【図10】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合する前を示す斜視図である。
【図11】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合した後を示す平面図である。
【図12】フロントバンパービームと左右一対のフロントサイドフレームとを結合した後を示す側面図である。
【図13】図11のS13−S13線断面図である。
【図14】図11のS14−S14線断面図である。
【図15】図11のS15−S15線断面図である。
【図16】図12のS16−S16線断面図である。
【図17】図12のS17−S17線断面図である。
【図18】図12のS18−S19線断面図である。
【符号の説明】
【0071】
10 センターピラー
11 中間頂部
12 側翼部
20 サイドドアのウインドガラス
30 高周波焼入れ装置
32 コイル部
50 フロントバンパービーム
51 中間頂部である前面部
52 側翼部である上面部
53 側翼部である下面部
60 フロントサイドフレーム
61 中間頂部であるウェブ部
62,63 側翼部である上下のフランジ部
Q 焼入れ領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えているプレス成形品製の車体用部品において、
前記中間頂部と前記一対の側翼部とに高周波焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記中間頂部における前記焼入れ領域はこの中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の両側にあり、前記中間頂部におけるこれらの焼入れ領域の間は前記非焼入れ領域となっており、この非焼入れ領域に、前記高周波焼入れ前の前記プレス成形時に形成された孔が設けられ、前記焼入れ領域と前記非焼入れ領域との割合は、前記長手方向に変化していることを特徴とする車体用部品。
【請求項2】
初めに、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品をプレス成形によって製造するとともに、
この製造時において、前記中間頂部に、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を形成し、
次いで、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこの中間頂部の両側であって前記孔が形成されていない領域を高周波焼入れ装置で焼入れすることを特徴とする車体用部品の高周波焼入れ方法。
【請求項1】
長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えているプレス成形品製の車体用部品において、
前記中間頂部と前記一対の側翼部とに高周波焼入れされた焼入れ領域と焼入れされていない非焼入れ領域とが設けられているとともに、前記中間頂部における前記焼入れ領域はこの中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向の両側にあり、前記中間頂部におけるこれらの焼入れ領域の間は前記非焼入れ領域となっており、この非焼入れ領域に、前記高周波焼入れ前の前記プレス成形時に形成された孔が設けられ、前記焼入れ領域と前記非焼入れ領域との割合は、前記長手方向に変化していることを特徴とする車体用部品。
【請求項2】
初めに、長手方向に延びている中間頂部と、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側において前記中間頂部から同じ側に屈曲し、前記長手方向に延びているとともに前記屈曲方向を幅方向とする一対の側翼部と、を備えている車体用部品をプレス成形によって製造するとともに、
この製造時において、前記中間頂部に、この中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向における両側の中間部において孔を形成し、
次いで、前記中間頂部の面内での前記長手方向と直交する方向におけるこの中間頂部の両側であって前記孔が形成されていない領域を高周波焼入れ装置で焼入れすることを特徴とする車体用部品の高周波焼入れ方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−62733(P2007−62733A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283572(P2006−283572)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【分割の表示】特願2001−360343(P2001−360343)の分割
【原出願日】平成13年11月27日(2001.11.27)
【出願人】(591214527)菊池プレス工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【分割の表示】特願2001−360343(P2001−360343)の分割
【原出願日】平成13年11月27日(2001.11.27)
【出願人】(591214527)菊池プレス工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]