説明

車輪用回転支持装置

【課題】取付部4aとバッキングプレート2aとの間部分を通じて異物が侵入する事を防止できるだけでなく、エンコーダ20に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる低コストの車輪用回転支持装置を実現する。
【解決手段】取付部4aを外輪6aの軸方向内端部に設け、この取付部4aの軸方向内側面を、この外輪6a及びハブ8のうちで軸方向に関して最も内側に位置させる。又、外輪6aの軸方向内端寄り部分に、非磁性板製で有底円筒状のカバーキャップ35を内嵌し、このカバーキャップ35の底部を介して、エンコーダ20とセンサ22とを軸方向に対向させる。又、バッキングプレート2aを、中央部に通孔を有しない略円板状に構成する事で、このバッキングプレート2aによって外輪6aの軸方向内端開口部を塞ぐ。これにより、接触式の組み合わせシールリングを省略できて、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を回転自在に支持すると共に、例えばこの車輪の回転速度を検出する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
アンチロックブレーキシステム(ABS)或いはトラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為には、車輪の回転速度を検出する必要がある。この様な目的で車輪の回転速度を検出する為に従来から、回転速度検出装置付の車輪用回転支持装置が、広く知られている。又、エンコーダとして永久磁石を使用する事によりセンサの構造を簡略化して、このセンサの小型化を図る構造も、例えば特許文献1、2に記載されている様に、従来から知られている。更に、独立式の懸架装置に非駆動側の車輪(従動輪)を支持する為の構造も、特許文献3、4等に記載され、従来から広く知られている。
【0003】
図4は、このうちの特許文献3に記載された、非駆動側の車輪(従動輪)を支持する為に用いられる車輪用回転支持装置を示している。この構造の場合には、車輪を回転自在に支持する為の転がり軸受ユニット1を、ドラムブレーキを構成するバッキングプレート2を介して、懸架装置を構成するナックル3に支持固定している。
【0004】
前記転がり軸受ユニット1は、外周面の軸方向中間部に外向フランジ状の取付部4を、内周面に複列の外輪軌道5a、5bをそれぞれ有し、使用時にも回転しない外輪6と、外周面に複列の内輪軌道7a、7bを有し、使用時に車輪と共に回転するハブ8とを備える。このハブ8は、ハブ本体9と内輪10とを組み合わせて成る。このうちのハブ本体9は、軸方向外端部(軸方向に関して外とは、自動車への組み付け状態で幅方向外側となる部分を言い、図4の左側。反対に、自動車への組み付け状態で幅方向中央側となる、図4の右側を内と言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)外周面に前記車輪を結合固定する為のフランジ11を、軸方向中間部外周面に外側の内輪軌道7aを、軸方向内端部外周面に小径段部12を、それぞれ形成している。前記内輪10は、外周面に内側の内輪軌道7bが形成されており、前記小径段部12に外嵌された状態で、前記ハブ本体9の軸方向内端部に形成したかしめ部13によりその軸方向内端面が抑え付けられ、このハブ本体9に対し固定されている。そして、前記ハブ8の外周面に設けた前記各内輪軌道7a、7bと前記外輪6の内周面に設けた前記各外輪軌道5a、5bとの間に、それぞれ転動体である複数個の玉14、14を設ける事により、前記外輪6の内径側に前記ハブ8を回転自在に支持している。
【0005】
前記外輪6の内周面と前記ハブ8の外周面との間で、前記各玉14、14を設置した空間15の軸方向両端開口は、それぞれシールリング16と組み合わせシールリング17とにより塞いでいる。このうちのシールリング16は、芯金を前記外輪6の軸方向外端部に内嵌固定した状態で、シールリップの先端縁を前記ハブ本体9の軸方向中間部外周面に直接摺接させる事により、前記空間15の軸方向外端開口部を塞いでいる。これに対し、前記組み合わせシールリング17は、前記外輪6の軸方向内端部に内嵌固定したシールリング18と、前記内輪10の軸方向内端部に外嵌固定した断面略L字形のスリンガ19とを組み合わせて成るもので、前記空間15の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0006】
又、前記スリンガ19の円輪部の軸方向内側面には、永久磁石製で円輪状のエンコーダ20を、全周に亙って添着している。被検出面であるこのエンコーダ20の軸方向内側面には、S極とN極とを円周方向に関して交互に、且つ、等間隔で配置している。
【0007】
又、前記ナックル3の一部で、前記エンコーダ20の被検出面と軸方向に対向する部分に、センサ取付孔21を形成し、このセンサ取付孔21に回転速度検出用のセンサ22を挿通支持している。そして、このセンサ22の先端部に設けた検出部を、前記エンコーダ20の被検出面に近接対向させている。この為、車輪と共に回転する前記ハブ8の回転に伴って、前記センサ22の出力信号が、このハブ8(エンコーダ20)の回転速度に比例した周波数で変化するので、このセンサ22の出力を図示しない制御器に送れば、前記ABSやTCSを適切に制御できる。
【0008】
一方、前記バッキングプレート2は、図5に示した様に、ドラムブレーキ23の一部を構成するものであり、略円輪状に形成されている。前記バッキングプレート2の中央部には、大きな直径を有する円形の係合孔(通孔)24が形成されており、この係合孔24の周囲には、この係合孔24よりも小径の複数個のブレーキ側取付孔25、25が形成されている。更に、これら各ブレーキ側取付孔25、25よりも径方向外方には、1対のブレーキシュー26a、26b、ホイールシリンダ27、アンカ28等のブレーキ構成部材が支持されている。又、前記バッキングプレート2は、前記ドラムブレーキ23を前記ナックル3(図4参照)に支持固定するだけでなく、上述の様なブレーキ構成部材を、ドラム29と共に、泥水や走行時に車輪が跳ね上げた飛び石等から保護する機能も持つ。この様なバッキングプレート2は、鋼板等の金属板にプレス加工を施す事で、所定の形状に加工すると共に孔あけ加工(打ち抜き加工)を施した後、防錆効果を得る為のカチオン電着塗装を施す等して造られる。
【0009】
又、前記特許文献3に記載された構造の場合、前記転がり軸受ユニット1を、前記バッキングプレート2を介して、前記ナックル3に支持固定する為に、このナックル3に、片面(軸方向外側面)側に開口する有底で円形の支持孔30を設けると共に、この支持孔30の周囲に複数の取付孔31を設けている。そして、前記転がり軸受ユニット1を前記ナックル3に支持固定するには、先ず、前記ナックル3の片面に、前記バッキングプレート2を、前記係合孔24と前記支持孔30、及び、前記各ブレーキ側取付孔25、25と前記各取付孔31とを、それぞれ整合させた状態で添設する。そして、前記転がり軸受ユニット1を構成する外輪6のうちで、前記取付部4の軸方向内側面よりも軸方向内方に突出する状態で設けられた円筒状のパイロット部32を、前記係合孔24及び前記支持孔30に挿通し(係合させて)、前記取付部4の軸方向内側面を、前記バッキングプレート2を介して前記ナックル3の片面に突き当てる。次いで、結合部材である複数のボルトを、前記各通孔31及び前記各ブレーキ側取付孔25、25にそれぞれ挿通させ、前記取付部4に形成した複数のフランジ側取付孔(ねじ孔)33、33に螺合し更に締め付ける。この結果、前記取付部4が、前記ナックル3に結合固定されて、前記転がり軸受ユニット1が、前記バッキングプレート2を介して、前記ナックル3に支持固定される。
【0010】
以上の様な構成を有する前記特許文献3に記載された従来構造の場合、次の様な面から未だ改良の余地がある。
前記従来構造の場合、前記ハブ8が中実体である(駆動輪用のハブの様に中心部にスプライン孔が形成されていない)為、泥水等の異物が、このハブ8の内側を通じて、前記支持孔30の内側の空間34に回り込む事はない。又、この支持孔30には底部が設けられていると共に、この支持孔30の内周面と前記パイロット部32の外周面との間部分、及び、前記センサ取付孔21の内周面と前記センサ22の外周面との間部分には、通常、それぞれOリング等の密封部材を用いた防水処理が施される。従って、前記空間34は、理論的には密封性が確保された(密閉された)状態になる為、前記各玉14、14を設置した空間15の軸方向内端開口部を塞いでいる前記組み合わせシールリング17は、省略できるとも考えられる。
【0011】
しかしながら、前記取付部4は、前記バッキングプレート2を介して、前記ナックル3の片面に結合固定されており、このバッキングプレート2には、前述した様に、プレス加工によって、前記係合孔24及び前記各ブレーキ側取付孔25、25が形成されている。これら係合孔24とブレーキ側取付孔25、25とは、径方向に隣接した状態で形成されており、これら係合孔24とブレーキ側取付孔25、25との間に存在する部分の径方向に関する幅寸法Wは小さい。この為、プレスによる打ち抜き時に、前記係合孔24と前記各ブレーキ側取付孔25、25との間部分の肉厚が薄くなり易くなる。従って、バッキングプレート2の肉厚が円周方向及び径方向に関して不均一(不同)になったり、このバッキングプレート2の平面度が低くなる可能性がある。この結果、前記取付部4を、このバッキングプレート2を介して、前記ナックル3に結合固定した際に、結合部材である前記各ボルトによる軸力の影響も加わって、前記取付部4と前記バッキングプレート2との間部分、及び、このバッキングプレート2と前記ナックル3との間部分のうち、円周方向に隣り合う前記各ボルト(ブレーキ側取付孔25、25)同士の間部分に、隙間が形成され易くなる。そして、当該部分を通じて泥水等の異物が、前記空間34へと侵入し易くなる。
【0012】
前記従来構造の場合には、この様にして侵入する可能性のある泥水等の異物が、前記空間15内にまで侵入する事を防止する為に、前記組み合わせシールリング17を設けているが、この組み合わせシールリング17は、シールリング18とスリンガ19とから構成されており、高価である。又、前記ハブ8が回転する際に、シールリング18を構成する複数のシールリップの先端縁が相手面であるスリンガ19に摺接する為、摩擦損失が発生する事が避けられない。更に、前記組み合わせシールリング17によっても、前記エンコーダ20の被検出面に、侵入した泥水や塵埃等の異物が付着する事は防止できない。この為、このエンコーダ20が異物の付着により損傷する可能性があると共に、このエンコーダ20の円周方向に亙る規則的、周期的な磁気変化が乱れ、前記センサ22の出力信号の信頼性が低下する可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−203415号公報
【特許文献2】特開平10−332427号公報
【特許文献3】特開2002−365303号公報
【特許文献4】特開2007−85393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、外輪を構成する取付部とバッキングプレートとの間部分を通じて異物が侵入する事を有効に防止できるだけでなく、エンコーダの被検出面に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる構造を、低コストで実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の車輪用回転支持装置は、ナックルと、バッキングプレートと、転がり軸受ユニットと、エンコーダと、センサとを備える。
このうちのバッキングプレートは、複数個のブレーキ側取付孔を有し、前記ナックルの片面に添設される。
又、前記転がり軸受ユニットは、外輪と、ハブと、転動体とを備えたものである。
このうちの外輪は、複数個のフランジ側取付孔が形成された外向フランジ状の取付部を有し、この取付部を、前記バッキングプレートを介して前記ナックルの片面に突き当てた状態で、このナックルに結合固定される。又、前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道が形成されており、使用時にも回転しない。
又、前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に車輪を支持固定した状態で、この車輪と共に回転する。
又、前記転動体は、前記両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。
又、前記エンコーダは、軸方向内側面を円周方向に関して磁気特性が交互に変化する被検出面とし、前記ハブにこのハブと同心に支持固定されている。
更に、前記センサは、使用時に回転しない部分に支持された状態で、検出部を前記エンコーダの被検出面に対向させている。
【0016】
特に本発明の場合には、前記取付部を、前記外輪の軸方向内端部に設けている。そして、この取付部の軸方向内側面を、この外輪及び前記ハブのうちで軸方向に関して最も内側に位置させている。
又、前記外輪の軸方向内端寄り部分に、非磁性板製で有底円筒状のカバーキャップを内嵌固定している。そして、前記エンコーダの被検出面と前記センサの検出部とを、このカバーキャップの底部を介して軸方向に対向させている。
更に、前記バッキングプレートを、その中央部に通孔を有しない略円板状(本明細書及び特許請求の範囲で円板状とは、円形で中央部に孔が形成されていない形状を言い、円輪状は含まない。)として、前記外輪を前記ナックルに結合固定した状態で、この外輪の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0017】
上述した様な本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記バッキングプレートのうちで、前記エンコーダの被検出面に軸方向に対向する部分に、センサ取付孔を設ける。そして、前記センサを、このセンサ取付孔に挿入した状態で、前記バッキングプレートに支持固定する。
【発明の効果】
【0018】
以上の様な構成を有する本発明の車両用回転支持装置によれば、外輪を構成する取付部とバッキングプレートとの間部分を通じて異物が侵入する事を有効に防止できるだけでなく、エンコーダの被検出面に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる構造を、低コストで実現できる。
即ち、本発明の場合には、取付部を外輪の軸方向内端部に形成する事で、この外輪からパイロット部を省略すると共に、このパイロット部を省略する事に伴って、バッキングプレートから、このパイロット部を挿入する為に中央部に設けられていた通孔を省略している。この為、バッキングプレートを造る際に、ブレーキ側取付孔をプレス加工により形成する場合にも、このバッキングプレートに、薄肉の部分が生じたり、平面度が低下する事を有効に防止できる。従って、外輪の取付部とバッキングプレートとの間部分に、隙間が形成される事を有効に防止でき、当該部分を通じて泥水等の異物が侵入する事を有効に防止できる。
又、本発明の場合には、外輪の軸方向内端寄り部分に、カバーキャップを内嵌しているだけでなく、その中央部に通孔を有しない略円板状のバッキングプレートを、外輪の軸方向内端開口部を塞ぐカバーとして機能させられる。この為、エンコーダを、2重のカバーにより外部空間から遮蔽できて、このエンコーダの被検出面に異物が付着する事を有効に防止できる。
更に、本発明の場合には、バッキングプレート自体にカバーとしての機能を持たせられると共に、別途用いるカバーキャップも、組み合わせシールリングに比べて低コストで造れる。この為、組み合わせシールリングを用いた従来構造の場合に比べて、コストを抑えられる。又、組み合わせシールリングを用いた従来構造の場合の様に、シールリップの先端縁が相手面に摺接する事もない為、摩擦損失が発生する事もない。
従って、本発明によれば、外輪を構成する取付部とバッキングプレートとの間部分を通じて異物が侵入する事を有効に防止できるだけでなく、エンコーダの被検出面に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる構造を、低コストで実現できる。
【0019】
又、請求項2に記載した発明によれば、センサをナックルに対して支持する必要がなくなる為、このナックルにセンサを支持する為のセンサ取付孔を形成する必要がなくなる。この為、このナックルの加工が容易になる。又、外輪のパイロット部を挿入する為に形成していた有底の支持孔を、この支持孔から底部を取り除いた如き貫通孔に変更できる為、ナックルを軽量化する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す半部断面図。
【図2】同じく本例の車輪用回転支持装置に組み込むドラムブレーキの1例を示す正面図。
【図3】本例の車輪用回転支持装置と従来構造の車輪用回転支持装置との各部の寸法及び形状を比較し易くする為に、上半部に本例の構造を下半部に従来構造をそれぞれ示した断面図。
【図4】同じく従来構造を示す半部断面図。
【図5】同じく従来構造のドラムブレーキの1例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の1例]
図1〜3(図3は上半部のみ)は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、車輪を回転自在に支持する為の転がり軸受ユニット1aを、バッキングプレート2aを介して、懸架装置を構成するナックル3aに支持固定する部分の構造にある。その他の部分の構成及び作用効果に就いては、基本的に前述した従来構造の場合と同様であるから、共通する部分の説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、先に説明しなかった部分を中心に説明する。
【0022】
前記転がり軸受ユニット1aは、使用時にも回転しない外輪6aと、使用時に車輪と共に回転するハブ8とを備える。このうちの外輪6aは、外周面に外向フランジ状の取付部4aを、内周面に複列の外輪軌道5a、5bをそれぞれ有する。又、前記ハブ8は、外周面に複列の内輪軌道7a、7bを有し、使用時に車輪(従動輪)と共に回転する。又、前記各外輪軌道5a、5bと前記各内輪軌道7a、7bとの間には、複数個の玉14、14が転動自在にそれぞれ設けられている。
【0023】
特に本例の場合には、前記取付部4aを、前記外輪6aの軸方向内端部に設けており、この取付部4aの軸方向内側面を、この外輪6a及び前記ハブ8のうちで軸方向に関して最も内側に位置させている。この為、この外輪6aの軸方向内端部には、従来構造の外輪6に設けられていた円筒状のパイロット部32(図3の下半部、図4参照)は存在しない。別の言い方をすれば、本例の場合には、前記取付部4aを前記外輪6aの軸方向内端部に設ける事で、前記パイロット32を省略している。前記取付部4aには、複数のフランジ側取付孔(ねじ孔)33、33が形成されており、この取付部4aの軸方向内側面は、前記外輪6aの中心軸に直交する仮想平面に対し平行である。
【0024】
前記ハブ8は、前述した従来構造の場合と同様、ハブ本体9と内輪10とを組み合わせて成る。このうちのハブ本体9は、軸方向外端部外周面に車輪を結合固定する為のフランジ11を、軸方向中間部外周面に外側の内輪軌道7aを、軸方向内端部外周面に小径段部12を、それぞれ形成している。前記内輪10は、外周面に内側の内輪軌道7bが形成されており、前記小径段部12に外嵌された状態で、前記ハブ本体9の軸方向内端部に形成したかしめ部13により軸方向内端面を抑え付けられている。尚、内輪をハブに対し固定する為に、このハブの軸方向内端部に形成した雄ねじ部に螺合したナットにより、内輪の軸方向内端面を抑え付ける事もできる。
【0025】
又、前記外輪6aの内周面と前記ハブ8の外周面との間で、前記各玉14、14を設置した空間15の軸方向両端開口のうち、軸方向外端開口部に就いては、前述した従来構造と同様、シールリング16により塞いでいる。これに対して、前記空間15の軸方向内端開口部は、有底円筒状のカバーキャップ35により塞いでいる。このカバーキャップ35は、SUS304等、オーステナイト系である、SUS300系列のステンレス鋼板の如き、非磁性金属板に絞り加工等の塑性加工を施す事により、全体をシャーレ状に構成している。即ち、前記カバーキャップ35は、円形平板状の底板部36と、この底板部36の外周縁から軸方向外方に直角に折れ曲がった円筒部37とを備える。この様なカバーキャップ35は、この円筒部37を、前記外輪6aの軸方向内端寄り部分(取付部4aの軸方向内側面よりも軸方向外側部分)の内周面に締り嵌めで内嵌固定する事で、この外輪6aに支持固定している。この際、この外輪6aの軸方向内端面(取付部4aの軸方向内側面)を基準として、前記カバーキャップ35の底板部36の軸方向位置を規制する。これにより、この底板部36の軸方向外側面を、エンコーダ20の軸方向内側面に対して、微小隙間を介して近接対向させる。尚、本例の場合には、前記底板部36のうちで、前記エンコーダ20と軸方向に対向する部分よりも内径側部分を、軸方向内方に突出させている。
【0026】
又、本例の場合、永久磁石製で円輪状のエンコーダ20を、磁性金属板を断面L字形で全体を円環状とした支持環38の円輪部の軸方向内側面に、全周に亙って添着している。そして、この支持環38を、前記外輪6aに前記カバーキャップ35を内嵌固定するのに先立って、前記内輪10の軸方向内端部に締り嵌めで外嵌固定している。尚、エンコーダ20を構成する永久磁石としては、ゴム磁石、プラスチック磁石、フェライト磁石等、各種永久磁石を適宜使用できる。
【0027】
又、前記バッキングプレート2aは、鋼板等の金属板にプレス加工を施す事で、所定の形状に加工すると共に孔あけ加工(打ち抜き加工)を施した後、防錆効果を得る為のカチオン電着塗装を施す等して造られている。この様にして造られる前記バッキングプレート2aは、従来構造のバッキングプレート2とは異なり、その中央部に、前記パイロット部32を挿通(係合)させる為の円形の係合孔24(図3の下半部、図4、5参照)は形成しておらず、略円板状に形成されている。これに対し、前記取付部4aを前記ナックル3aに結合固定する際に利用するボルト等の結合部材(図示省略)を挿通させる為のブレーキ側取付孔25、25に就いては、従来構造の場合と同様に、径方向中間部の円周方向複数個所(図示の例では4個所)に形成している。
【0028】
又、前記ナックル3aへの取付状態で、前記バッキングプレート2aの上方に位置する部分のうち、前記エンコーダ20aの被検出面と軸方向に対向する部分には、回転速度検出用のセンサ22の先端部を挿通する為のセンサ取付孔21aを形成している。又、このセンサ取付孔21aに隣接した部分には、前記センサ22をボルト等により前記バッキングプレート2aに支持固定する為のセンサ締結孔39を形成している。更に、前記ナックル3aへの取付状態で、前記バッキングプレート2aの下方に位置する部分には、このバッキングプレート2aの内側(バッキングプレート2aとカバーキャップ35との間部分)に浸入した泥水等の異物を外部空間に排出する為の水抜き孔40を形成している。本例の場合にも、これら各孔25、21a、39、40を、プレスによる打ち抜き加工により形成しているが、前記センサ取付孔21a、前記センサ締結孔39、及び、前記水抜き孔40の形成位置は、前記各ブレーキ側取付孔25、25からそれぞれ十分に離隔した位置(前述した従来構造に於ける、係合孔24とブレーキ側取付孔25との間の距離Wの少なくとも2倍、好ましくは3倍以上)となる様に規制している。
【0029】
又、本例の場合、前記ナックル3aには、前述した従来構造の場合で、前記パイロット部32を挿入する為に設けられていた有底の支持孔30(図3の下半部、図5参照)に相当する部分に、この支持孔30の底部を取り除いた如き、貫通孔41を形成している。本例の場合、この貫通孔41に前記パイロット部32を挿入する事はないが、この貫通孔41は、前記センサ22の基部を配置すると共に、前記ナックル3aの軽量化を図る為に形成している。又、前記貫通孔41の周囲には、前記取付部4aを前記ナックル3aに結合固定する際に利用するボルト等の結合部材(図示省略)の一部を挿通させる為の複数の取付孔31を設けている。
【0030】
以上の様な構成を有する本例の場合、前記転がり軸受ユニット1aを前記ナックル3aに支持固定するには、先ず、このナックル3aの片面に、前記バッキングプレート2aを、前記各ブレーキ側取付孔25、25と前記各取付孔31とを整合させた状態で添設する。そして、前記転がり軸受ユニット1aを構成する外輪6aの軸方向内端部に設けられた取付部4aの軸方向内側面を、前記バッキングプレート2aを介して、前記ナックル3aの片面に突き当てる。次いで、結合部材である複数のボルトを、前記各通孔31及び前記各ブレーキ側取付孔25、25にそれぞれ挿通させ、前記取付部4aに形成した複数のフランジ側取付孔(ねじ孔)33、33に螺合し更に締め付ける。この結果、前記転がり軸受ユニット1aが、前記バッキングプレート2aを介して、前記ナックル3aに支持固定される。特に本例の場合には、この様に支持固定した状態で、前記外輪6aの軸方向内端開口部が、前記バッキングプレート2a(の中央部分)により塞がれる。
【0031】
尚、前記内輪10の軸方向内端部に前記エンコーダ20を支持する作業、及び、前記外輪6aの軸方向内端寄り部分に前記カバーキャップ35を内嵌する作業は、以上の様に、前記転がり軸受ユニット1aを前記ナックル3aに支持固定する以前に行うが、前記センサ22を、前記バッキングプレート2aに支持固定する作業は、前記転がり軸受ユニット1aを前記キャリア3aに支持固定した後に行う事ができる。尚、この様にセンサ22を支持固定した状態で、このセンサ22の先端部は、前記カバーキャップ35を構成する底板部36の軸方向内側面に対し、当接乃至は近接対向させる。
【0032】
以上の様な構成を有する本例の車輪用回転支持装置によれば、前記外輪6aを構成する取付部4aと前記バッキングプレート2aとの間部分を通じて異物が侵入する事を有効に防止できるだけでなく、前記エンコーダ20の被検出面に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる構造を、低コストで実現できる。
即ち、本例の場合には、前記取付部4aを前記外輪6aの軸方向内端部に形成する事で、この外輪6aから前記パイロット部32を省略すると共に、このパイロット部32を省略する事に伴って、前記バッキングプレート2aから、このパイロット部32を挿入する為に中央部に設けられていた係合孔24を省略している。この為、前記バッキングプレート2aを造る際に、前記各ブレーキ側取付孔25、25をプレス加工(打ち抜き加工)により形成しても、このバッキングプレート2aに、薄肉の部分が生じたり、その一部の平面度が低下する事を有効に防止できる。又、本例のバッキングプレート2aには、前記各ブレーキ側取付孔25、25以外に、前記センサ取付孔21a、前記センサ締結孔39、及び、前記水抜き孔40をそれぞれ形成しているが、これら各孔21a、39、40を、前記各ブレーキ側取付孔25、25から十分に離隔した位置に形成している為、これら各孔21a、39、40を形成した事に起因して、前記各ブレーキ側取付孔25、25の近傍部分の肉厚が薄くなったり、平面度が低下する事を有効に防止できる。従って、前記取付部4aと前記バッキングプレート2aとの間部分に、隙間が形成される事を有効に防止でき、当該部分を通じて泥水等の異物が侵入する事を有効に防止できる。
【0033】
又、前記外輪6aの軸方向内端寄り部分に、前記カバーキャップ35を内嵌しているだけでなく、その中央部に係合孔24を有しない略円板状のバッキングプレート2aを、前記外輪6aの軸方向内端開口部を塞ぐカバーとして機能させられる。この為、前記エンコーダ20を、2重のカバーにより外部空間から遮蔽できて、このエンコーダ20の被検出面に異物が付着する事を有効に防止できる。従って、このエンコーダ20が異物の付着により損傷する事を防止できると共に、前記センサ22の出力信号の信頼性を確保できる。
【0034】
更に、本例の場合には、前記バッキングプレート2a自体にカバーとしての機能を持たせられると共に、別途用いるカバーキャップ35も、前述した従来構造で使用されていた様な、組み合わせシールリング17(図3の下半部、図4参照)に比べて低コストで造れる。この為、組み合わせシールリング17を用いた従来構造の場合に比べて、コストを抑えられる。又、組み合わせシールリング17を用いた従来構造の場合の様に、シールリップの先端縁が相手面に摺接する事もない為、摩擦損失が発生する事もない。
この結果、本例の車輪用回転支持装置によれば、前記外輪6aを構成する取付部4aと前記バッキングプレート2aとの間部分を通じて異物が侵入する事を有効に防止できるだけでなく、前記エンコーダ20の被検出面に異物が付着する事を防止でき、しかも、摩擦損失を抑えられる構造を、低コストで実現できる。
【0035】
又、本例の場合には、前記センサ22を前記バッキングプレート2aに支持固定しており、このセンサ22を前記ナックル3aに対して支持する必要がない為、従来構造のナックル3の場合の様に、このナックル3にセンサ取付孔21(図3の下半部、図4参照)を形成する必要がない。この為、従来構造の場合に比べて、前記ナックル3aの加工作業が容易になる。又、このナックル3aに、有底の支持孔30ではなく、この支持孔30から底部を取り除いた如き貫通孔41を形成している為、このナックル3aを大幅に軽量化できると共に、このナックル3aの加工も容易になる。
【0036】
又、本例の場合には、前記バッキングプレート2aに水抜き孔40を形成しており、このバッキングプレート2aの内側に浸入した異物を外部に排出できる。この為、前記取付部4aとこのバッキングプレート2aとの間部分、前記センサ取付孔21aと前記センサ22との間部分、前記センサ締結孔39とこのセンサ22との間部分に、それぞれOリングやシーラントと言った密封構造を設けずに済む(省略できる)。又、図示は省略するが、前記バッキングプレート2aの一部に形成した孔に、その一部を圧入或いはかしめ等により固定したナット(カレイナット)を用いて、前記センサ22を支持固定する事もできる。
【0037】
更に、本例の場合には、前記外輪6aの軸方向内端部からパイロット部32を省略している為、図3の上半部と下半部とを比較すれば明らかな様に、このパイロット部32の径方向に関する厚さ寸法の分だけ、フランジ側取付孔33、33(ボルト等の結合部材)に関するピッチ円直径を小さくできる。この為、前記取付部4aの外径寸法を小さくする事ができる為、前記外輪6aの軸方向寸法が大きくなる(軸方向内方に長くなる)事に起因して重量が増大する事は殆どない。又、前記取付部4aの外径寸法を小さくできる為、前記外輪6aを鍛造加工により形成する際の加工性を向上させる事もできる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した従来構造の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明を実施する場合に、各図に示した構造とは別に、取付部の外径寸法を小さくせずにそのままとして、外輪の内周面のうちでこの取付部の内径側に位置する部分の内径寸法を大きくする事もできる。この様な構造によれば、エンコーダの径方向幅寸法を大きく確保し、センサによる出力の増大を図る事もできる。又、バッキングプレートに形成するセンサ締結孔の形成位置に就いては、図示の構造に限定されず、ブレーキ側取付孔に近い位置でなければ、特に制限はない。又、水抜き孔に関しても、図示の形状に限定されず、矩形状、円弧状等、種々の形状を採用する事ができるし、その数も1個に限らず複数でも良い。又、本発明を実施する場合に、ドラムブレーキの構成に就いては、本発明の車輪用回転支持装置を構成するバッキングプレートを備えるものであれば、図示の様な構造に限定されない。又、エンコーダとセンサとは、車輪の回転速度以外の物理量(例えば荷重等)を計測するものであっても良い。
【符号の説明】
【0039】
1、1a 転がり軸受ユニット
2、2a バッキングプレート
3、3a ナックル
4、4a 取付部
5a、5b 外輪軌道
6、6a 外輪
7a、7b 内輪軌道
8 ハブ
9 ハブ本体
10 内輪
11 フランジ
12 小径段部
13 かしめ部
14 玉
15 空間
16 シールリング
17 組み合わせシールリング
18 シールリング
19 スリンガ
20 エンコーダ
21、21a センサ取付孔
22 センサ
23 ドラムブレーキ
24 係合孔
25 ブレーキ側取付孔
26a、26b ブレーキシュー
27 ホイールシリンダ
28 アンカ
29 ドラム
30 支持孔
31 取付孔
32 パイロット部
33 フランジ側取付孔
34 空間
35 カバーキャップ
36 底板部
37 円筒部
38 支持環
39 センサ締結孔
40 水抜き孔
41 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置を構成するナックルと、ドラムブレーキを構成するバッキングプレートと、転がり軸受ユニットと、エンコーダと、センサとを備え、
このうちのバッキングプレートは、複数個のブレーキ側取付孔を有し、前記ナックルの片面に添設されており、
前記転がり軸受ユニットは、複数個のフランジ側取付孔が形成された外向フランジ状の取付部を有し、この取付部を前記バッキングプレートを介して前記ナックルの片面に突き当てた状態でこのナックルに結合固定され、使用時にも回転しない、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する、外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、これら両内輪軌道と前記両外輪軌道との間に両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備えたものであり、
前記エンコーダは、軸方向内側面を円周方向に関して磁気特性が交互に変化する被検出面とし、前記ハブにこのハブと同心に支持固定されており、
前記センサは、使用時に回転しない部分に支持された状態で検出部を前記エンコーダの被検出面に対向させたものである、
車輪用回転支持装置に於いて、
前記取付部が前記外輪の軸方向内端部に設けられており、この取付部の軸方向内側面がこの外輪及び前記ハブのうちで軸方向に関して最も内側に位置しており、
前記外輪の軸方向内端寄り部分に、非磁性板製で有底円筒状のカバーキャップが内嵌固定されており、前記エンコーダの被検出面と前記センサの検出部とが、このカバーキャップの底部を介して軸方向に対向しており、
前記バッキングプレートが、その中央部に通孔を有しない略円板状で、前記外輪を前記ナックルに結合固定した状態でこの外輪の軸方向内端開口部を塞いでいる、
事を特徴とする車輪用回転支持装置。
【請求項2】
バッキングプレートのうちで、エンコーダの被検出面と軸方向に対向する部分にセンサ取付孔が設けられており、センサが、このセンサ取付孔に挿入された状態で、前記バッキングプレートに支持固定されている、請求項1に記載した車輪用回転支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96907(P2013−96907A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241423(P2011−241423)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】