説明

車輪駆動装置

【課題】減速機構の少なくとも一部が車輪の内側に配置される車輪駆動装置において、該車輪駆動装置の伝達容量をより大きく確保する。
【解決手段】減速機構G1の少なくとも一部が、車輪50の内側に配置される車輪駆動装置10であって、ケーシング30と、該ケーシング30と相対回転する相対回転部材たるフランジ体34と、ケーシング30及びフランジ体34との間に配置される軸受48と、減速機構G1を密封するシールするオイルシール62と、を備え、軸受(アンギュラボール軸受)48の外輪70は、その外周がケーシング30の内側に配置される本体部74と、該本体部74から軸方向に延在され、その外周がケーシング30から露出する延在部76とを有し、オイルシール62は、該延在部76とフランジ体(相対回転部材)34とに当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪を駆動する車輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にフォークリフトの車輪を駆動する装置が開示されている。
【0003】
この車輪駆動装置は減速機構の一部が車輪の内側に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−159794号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、減速機構の少なくとも一部が車輪の内側に配置される車輪駆動装置にあっては、狭い車輪の内側空間に減速機構(の少なくとも一部)を収めつつ、いかにして大きな伝達容量を確保するかが重要なテーマとなる。
【0006】
本発明は、減速機構の少なくとも一部が車輪の内側に配置される車輪駆動装置において、該車輪駆動装置の伝達容量をより大きく確保することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、減速機構の少なくとも一部が、車輪の内側に配置される車輪駆動装置であって、ケーシングと、該ケーシングと相対回転する相対回転部材と、前記ケーシング及び相対回転部材の間に配置される軸受と、前記減速機構の存在する空間をシールするオイルシールと、を備え、前記軸受の外輪は、その外周が前記ケーシングの内側に配置される本体部と、該本体部から軸方向に延在され、その外周がケーシングから露出する延在部とを有し、前記オイルシールは、該延在部と前記相対回転部材とに当接する構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0008】
ケーシングの半径方向内側にオイルシールを配置する場合、このオイルシールの軸方向内側に軸受を組み込むことを可能とするためには、ケーシングのオイルシール配置面の内径は、該軸受の外輪の外径よりも大きい必要がある。また、ケーシングの強度を確保するためには、該ケーシングには一定の厚さが必要である。
【0009】
したがって、車輪の半径方向内側に減速機構を配置する関係で、ケーシングの外径の大きさに制限があると、必然的に外輪の外径(軸受の径)も小さくならざるを得ず、確保し得る伝達容量も低下してしまう。
【0010】
本発明では、軸受の外輪を延長し、ケーシングから露出させた延在部の内側にオイルシールを配置するようにしたため、軸受の径がケーシングのオイルシール配置面の内径の影響を受けずに済む。そのため、軸受の径をより大きくすることができ、より大きな伝達容量を確保できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、減速機構の少なくとも一部が車輪の内側に配置される車輪駆動装置において、該車輪駆動装置の伝達容量をより大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る車輪駆動装置がフォークリフトの車輪駆動装置に適用されている構成例を示す主要部断面図
【図2】図1の全体断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る車輪駆動装置がフォークリフトの車輪駆動装置に適用されている構成例を示す主要部断面図、図2は、その全体断面図である。
【0015】
この車輪駆動装置10は、モータ12と、該モータ12の回転を減速する減速機構G1と、を備える。
【0016】
減速機構G1は、この実施形態ではその全てが車輪(タイヤ)50の内側に配置されている。
【0017】
この車輪駆動装置10は、後述するフランジ体(相対回転部材)34が車体フレーム32に固定され、この減速機構G1の出力部材であるケーシング30が、該車体フレーム32に固定されたフランジ体34に対して相対的に回転する。車輪50は、該ケーシング30と一体的に回転する。
【0018】
以下、詳述する。
【0019】
モータ12の出力軸12Aは、スプライン14を介して減速機構G1の入力軸16と連結されている。減速機構G1は、この実施形態では、遊星歯車である外歯歯車24、26および該外歯歯車24、26が内接噛合する内歯歯車28を有する偏心揺動型の遊星歯車減速機構が採用されている。
【0020】
減速機構G1の入力軸16は、該減速機構G1の半径方向中央(軸心O1の位置)に配置されている。入力軸16には、該入力軸16と軸心のずれた2つの偏心体18、20が一体に形成されている。各偏心体18、20の外周には、軸受21、23を介して外歯歯車24、26が外嵌されている。外歯歯車24、26は、内歯歯車28に内接噛合している。
【0021】
内歯歯車28は、内歯を構成する円筒状の内歯ピン28A、28Bと、該内歯ピン28A、28Bを貫通してこれを回転自在に保持する保持ピン28Cと、該保持ピン28Cを回転自在に支持する保持ピン溝28Dを有するとともに、ケーシング30と一体化された内歯歯車本体28Eとで、主に構成されている。保持ピン溝28Dは、要するに内歯ピン28A、28Bの組み込み溝として機能している。
【0022】
内歯歯車28の内歯の歯数(内歯ピン28A、28Bの数)は、外歯歯車24、26の外歯の歯数よりも僅かだけ(この実施形態では1だけ)多い。
【0023】
前記外歯歯車24、26の軸方向車体側には、車体フレーム32に固定されたフランジ体34が配置され、軸方向反車体側にはキャリヤボルト36およびキャリヤピン42を介して該フランジ体34と一体化されたキャリヤ体38が配置されている。キャリヤ体38には、内ピン40が一体に形成されている。
【0024】
内ピン40は、摺動促進部材44と共に、外歯歯車24、26に貫通形成された内ピン孔24A、26Aを、隙間を有して貫通している。内ピン40の先端はフランジ体34の凹部34Aに嵌め込まれている。内ピン40は、外歯歯車24、26の前記内ピン孔24A、26Aの一部と摺動促進部材44を介して当接しており、外歯歯車24、26の自転を拘束している(揺動のみを許容している)。
【0025】
キャリヤピン42は、外歯歯車24、26に貫通形成されたキャリヤピン孔24B、26Bを、隙間を有して貫通し、フランジ体34の軸方向端部に当接している。但し、キャリヤピン42は、外歯歯車24、26の前記キャリヤピン孔24B、26Bとは当接しておらず、外歯歯車24、26の自転の拘束には寄与していない。
【0026】
減速機構G1の入力軸16は、一対のアンギュラボール軸受52、54を介してフランジ体34およびキャリヤ体38に回転自在に支持されている。
【0027】
減速機構G1の出力部材たるケーシング30は、軸方向外側(反車体側)に位置するテーパードローラ軸受46および軸方向内側(車体側)に位置するアンギュラボール軸受48を介して、フランジ体(ケーシングと相対回転する相対回転部材)34およびキャリヤ体38に回転自在に支持されている。フランジ体34は、車体フレーム32に固定されている。
【0028】
ケーシング30の軸方向反車体側の端面には、ボルト47によって第1ホイール部材49が連結され、該第1ホイール部材49を介してフォークリフト(全体は図示略)51の車輪(タイヤ)50が装着される。
【0029】
すなわち、この実施形態では、(ケーシング30と相対回転する相対回転部材である)フランジ体34の方が車体フレーム32に固定され、ケーシング30が回転することで、該ケーシング30と固定された車輪50が駆動される。アンギュラボール軸受48がケーシング30と相対回転部材であるフランジ体34との間に配置される軸受に相当している。
【0030】
なお、本実施形態では、テーパードローラ軸受46の外径が、アンギュラボール軸受48の外径よりも小さい。そして、外径が小さく形成されたテーパードローラ軸受46の径方向外側の空間SP1に、エア注入用のチューブ60が配置されている。
【0031】
チューブ60は、反車体側に向けて曲げられ、ケーシング30の円周方向の一部に軸方向に形成された切り欠き30Aに収められるとともに、ケーシング30にボルト47を介して固定された第1ホイール部材49の孔49Aを貫通して車輪50の外側へ引き出されている。第1ホイール部材49は、ロックリング64を介して第2ホイール部材53と連結・固定されている。
【0032】
なお、減速機構G1は、アンギュラボール軸受48の軸方向外側に配置されたオイルシール62、ケーシング30のアンギュラボール軸受48の外輪の受け面30Cに形成した溝30D内に配置されたOリング31、および、ケーシング30の反車体側端部にボルトを介して取付けられたカバー体45とケーシング30との間に配置されたOリング41によって密封されている。
【0033】
この実施形態では、前記ロックリング64が存在するために、第1ホイール部材49が、この部分で半径方向内側に突出している。一方、前記アンギュラボール軸受48およびオイルシール62は、この車輪50の第1ホイール部材49のロックリング64の径方向内側に位置している。そのため、この部分のケーシング30の外径を任意にこれ以上大きくできないという制限がある。
【0034】
そこで、この実施形態では、以下のような構成を採用している。
【0035】
図1を参照して、アンギュラボール軸受48は、独立した専用の外輪70、転動体であるボール72、および独立した専用の内輪73を備える。
【0036】
アンギュラボール軸受48の外輪70は、本体部74、該本体部74から軸方向車体側に延在され、その外周がケーシング30から露出する延在部76と、を有している。
【0037】
外輪70の本体部74は、その外周がケーシング30の内側の(軸心O1と平行な)配置面30B、および該配置面30Bから連続して軸心O1と直角に延在する受け面30Cの2面に当接して配置されている。本体部74は、ボール72の転走面74A、該転走面74Aからオイルシール62側に伸びる転走面延長部74B、および該本体部74の反オイルシール側の端部に突出形成された突起部74Cを有している。
【0038】
外輪70の延在部76は、本体部74からカギ型により径を大きくした態様で軸方向車体側に延在している。すなわち、延在部76の外径d4は、本体部74の外径d1よりも大きく、延在部76とケーシング30は、軸方向から見て(d4−d1)の分、重なっている。延在部76は、オイルシール62の装着面76Aを有する。装着面76Aの内径D3は、外輪70の本体部74の転走面74Aから伸びる転走面延長部74Bの内径D2よりも大きい。
【0039】
オイルシール62は、この延在部76の装着面76Aと、ケーシング30と相対回転する部材であるフランジ体34との間に当接・配置されている。オイルシール62の内径D1は、内輪73の最外径d3よりも大きく形成されている。これは、ケーシング30に外輪70、ボール(転動体)72、及びオイルシール62を組み込んだ状態で、内輪73を組み込んだ状態のフランジ体34を図1、図2の左側から組み込むことを意図したためである。そのため、フランジ体34は、アンギュラボール軸受48の内輪73の配置面34Bの外径d2よりも大きな径(オイルシール62の内径D1に対応した径)のオイルシール面34Eを有している。
【0040】
なお、本実施形態では、このように、オイルシール62の内径D1が、内輪73の最外径d3よりも大きいため、オイルシール62に必要な高さを確保するのが困難な状況でありながら、前述したように、延在部76の外径d4を軸方向から見てケーシング30と重なるほど大きく取ることによって、オイルシール62の装着面76Aの内径D3を大きく確保し、オイルシール62の必要な高さt5を確保している。
【0041】
これらの寸法の大小の設定による作用効果については、後述する。
【0042】
この実施形態では、アンギュラボール軸受48およびテーパードボール軸受46は、接触角(転動体と外輪、内輪との接触点を結ぶ直線(作用線)が径方向に対して有している角度)θ1、θ2が零ではなく、互いに背面合わせで組み込まれている。
【0043】
このため、該アンギュラボール軸受48の作用線F1とケーシング30の外周との交点P1がアンギュラボール軸受48の軸方向の中心48C1よりもδ1だけ反車体側にずれている。一方、本実施形態は、出力部材が減速機構G1のケーシング30であるため(いわゆる枠回転の減速装置であるため)、ケーシング30、第1、第2ホイール部材49、53、および車輪(タイヤ)50が、相対回転することなく、一体的に回転する。したがって、これらの部材間で回転位相がずれることがない。そのため、図1、図2のエリアA1(ホイール部材49の軸と直角の面)よりも車体側の領域では、前述したように、ケーシング30の外周のエア注入用のチューブ60を配置している部分にだけ切り欠き30Aを形成すると共に第1ホイール部材49に孔49Aを形成している。
【0044】
これらの構成と相まって、本実施形態に係るケーシング30では、アンギュラボール軸受48からの荷重を十分に受けられるように、オイルシール62側に向けて、該ケーシング30の外周と前記作用線F1との交点P1付近までは、厚い厚さt1を維持し、また、外輪70の受け面30Bの半径方向外側においても厚い厚さt2を確保している。換言するならば、アンギュラボール軸受48の作用線F1上には、該アンギュラボール軸受48の外輪70および外輪70を支持するケーシング30(の厚い部分)の双方が位置している。その一方で、該交点P1よりも前記オイルシール62側では、該交点P1に近い位置P2から軸方向車体側端部に向けてケーシング30の厚みがt2からt3へと徐々に直線的に小さくなり、ケーシング30とロックリング64近傍の第1ホイール部材49との干渉を効果的に回避している。
【0045】
なお、前記内歯歯車28の内歯を構成する前記内歯ピン28Aおよび該内歯ピン28Aの保持ピン28Cの保持ピン溝(内歯ピンの組み込み溝)28Dは、受け面30Cの軸方向内側(減速機構全体に対する内側:この実施形態では軸方向反車体側)に位置している。換言するならば、この実施形態では、アンギュラボール軸受48が、内歯歯車28の内歯ピン28Aまたは該内歯ピン28Aを貫通する保持ピン28Cの保持ピン溝28Dと隣り合わせとなっている。そのため、前記外輪70の本体部74の突起部74Cによって内歯歯車28の保持ピン28Cの軸方向の位置規制を行っている(突起部74Cを保持ピン28Cの位置規制部材として活用している)。
【0046】
以下、この実施形態に係る減速機構G1の作用を説明する。
【0047】
モータ12の出力軸12Aの回転は、スプライン14を介して減速機構G1の入力軸16に伝達される。入力軸16が回転すると、偏心体18、20(の外周)が偏心運動を行い、軸受21、23を介して外歯歯車24、26が揺動する。この揺動により、外歯歯車24、26と内歯歯車28との噛合位置が順次ずれてゆく現象が生じる。
【0048】
外歯歯車24、26と内歯歯車28との歯数差は、1に設定されており、また、各外歯歯車24、26の自転は、車体フレーム32側に固定された内ピン40によって拘束されている。このため、入力軸16が1回回転する毎に、自転の拘束されている外歯歯車24、26に対して内歯歯車28が歯数差に相当する分だけ自転(回転)することになる。
【0049】
この結果、入力軸16の回転により、1/(内歯歯車の歯数)に減速された回転速度にて内歯歯車本体28Eと一体化されているケーシング30が回転する。ケーシング30の回転により、該ケーシング30に(ボルト47によって)固定されている第1ホイール部材49を介してフォークリフト51の車輪(タイヤ)50が回転する。
【0050】
ここで、本実施形態では、アンギュラボール軸受48の外輪70およびオイルシール62が、車輪50の第1、第2ホイール部材49、53を連結するロックリング64の径方向内側に位置している。一般に、ケーシングの半径方向内側にオイルシールを配置する場合、このオイルシールの軸方向内側に軸受を組み込むことを可能とするためには、ケーシングのオイルシール配置面の内径は、該軸受の外輪の外径よりも大きい必要がある。また、ケーシングの強度を確保するためには、該ケーシングには一定の厚さが必要である。したがって、本実施形態のように、ケーシングの外径がロックリング近傍のホイール部材等によって制限を受ける場合、従来の手法では、必然的に外輪の外径(軸受の径)も小さくならざるを得ず、確保し得る伝達容量が低下してしまう。
【0051】
しかしながら、本発明では、アンギュラボール軸受48の外輪70を延長し、ケーシング30から露出させた延在部76の内側にオイルシール62を配置するようにしたため、アンギュラボール軸受48(の外輪70の本体部74)の外径d1がオイルシール62の装着面76Aの内径D3の影響を受けずに済む。そのため、アンギュラボール軸受48(の外輪70の本体部74)の外径d1を大きくとることができ、より大きな伝達容量を確保できる。
【0052】
また、(延在部76の半径方向外側にはケーシング30が存在しないため)延在部76の外径d4を、本体部74の外径d1よりも大きくすることができ、延在部76の肉厚t4も十分に確保できる。尤も、アンギュラボール軸受48の外輪70の延在部76は、ケーシング30より強度のある素材でできているため、(例えば配置関係上必要ならば)逆に、図1、図2の延在部76の厚さt4をより薄くし、延在部76の外径d4をより縮小することも可能である。
【0053】
さらには、上記構成により、次のような作用効果も得られる。
【0054】
例えば、ケーシング30は、アンギュラボール軸受48の作用線F1とケーシング30の外周との交点P1付近から、肉厚t2を徐々に減少させることができ、この結果、外輪70の本体部74のオイルシール62側において肉厚t3にまで大きく低減されている。この点について詳述すると、この実施形態では、アンギュラボール軸受48として接触角が零でない(作用線F1が径方向から傾いている)アンギュラボール軸受48(およびテーパードローラ軸受46)を採用し、これを背面合わせで組み込むようにしている。
【0055】
このため、ケーシング30の外周と作用線F1との交点P1を、アンギュラボール軸受48(のボール72)の軸方向中央48C1よりも軸方向反車体側にδ1だけずらすことができる。逆に言うならば、δ1だけずらしたとしても、アンギュラボール軸受48の作用線F1上には、該アンギュラボール軸受48の外輪70および外輪70を支持するケーシング30(の厚い部分)の双方が位置しているため、強度は十分に確保されている。したがって、結果としてアンギュラボール軸受48の軸方向中央48C1よりも反車体側の位置P2からケーシング30の肉厚をt2から徐々にt3へと減少させることが可能となり、その分、ケーシング30とロックリング64との干渉を一層確実に回避することができている。
【0056】
また、もし、減速機構の径方向の寸法短縮を意図して、単に外輪(あるいは内輪)を省略した場合には、ケーシング、あるいはフランジ体に相応の転走面硬度を確保するために、熱処理(表面硬化処理)等を施さなければならなくなるが、本実施形態においては、外輪70および内輪73が独立しているため、ケーシング30あるいはフランジ体34に対し、この転走面形成のために外輪70の配置面30Bや受け面30Cに熱処理を施す必要がない。そのため、減速機構G1が遊星歯車減速機構であって、その内歯歯車28の内歯を構成する内歯ピン28A(を保持する保持ピン28C)を支持する保持ピン溝(内歯ピン28Aの組み込み溝)28Dが、ケーシング30の受け面30Cの軸方向内側に位置している構成とされているにも拘わらず、該保持ピン溝28Dが熱歪みを有してしまうのを防止できる。この作用効果は、内歯歯車の内歯が、内歯ピンによってではなく、内歯歯車本体(ケーシング)に直接形成されている構成であっても享受できる。
【0057】
更には、外輪70が存在することを活用して、該外輪70の本体部74に突起部74Cを形成することで、この突起部74Cを保持ピン28Cの位置決めに活用することもできる。
【0058】
また、内輪73の最外径d3よりもオイルシール62の内径D1が大きく形成されているため、ケーシング30に外輪70、ボール(転動体)72、及びオイルシール62を組み込んだ状態で、内輪73を組み込んだ状態のフランジ体34を図1、図2の左側から組み込むことができる。そのため、組み付けが容易である。
【0059】
更に、本実施形態では、フランジ体34の外側に位置するケーシング30が回転することから(外輪回転荷重であることから)内輪73は、フランジ体34に隙間嵌めや中間嵌めで組み込むことができる。そのため、この点でも組み付けが容易である。
【0060】
そして、このように内輪73の最外径d3よりもオイルシール62の内径D1を大きく形成した場合には、オイルシール62自体の半径方向の寸法(高さ)t5を大きく確保することが困難となりがちであるが、本実施形態では、外輪70の本体部74の転走面74Aから伸びる転走面延長部74Bの内径D2よりも、延在部76のオイルシール62の装着面76Aの内径D3の方が大きく形成されているため、オイルシール62の必要な高さt5を確実に確保することができている。
【0061】
また、延在部76の外径d4についても、延在部76の外側にケーシング30が存在しないため、該外径d4をより大きくして延在部76の肉厚を図1、図2の肉厚t4よりも厚く確保したり、逆に、(延在部76の素材の強度が高いので)状況によっては図1、図2の肉厚t4よりも若干薄くして、外径d4を更に小さくすることも可能である。
【0062】
これも、形状的な設計の自由度の高い外輪70の延在部76とフランジ体34との間にオイルシール62が配置されている構成を積極的に利用した相乗効果と言える。
【0063】
なお、上記実施形態においては、アンギュラボール軸受48およびオイルシール62が車輪50のロックリング64の径方向内側に位置しているが故に「ロックリングとの関係で発生する空間的干渉」を回避するために本発明を適用していた。しかし、本発明は、必ずしもロックリングとの空間干渉のみに適用が限定されるわけではなく、他の特定の部材との配置関係に適用してもよい。更には、特に他の特定の部材と関係なく、より広く、(ケーシングとその相対回転部材との間の)軸受および該軸受に隣接して配置されるオイルシール近傍の径方向寸法を小さく維持しながら、より大きな伝達容量を確保する、という目的で適用するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態においては、減速機構G1として外歯歯車24、26の中心に配置される入力軸16に偏心体18、20を備える偏心揺動型の遊星歯車機構が採用されていたが、本発明においては、減速機構の構成は、特に限定されない。例えば、外歯歯車の中心からオフセットした位置で複数の偏心体軸が同時に回転することによって、外歯歯車が揺動するタイプの偏心揺動型の遊星歯車機構であってもよい。また、単純遊星歯車減速機構、平行軸減速機構、直交軸減速機構等であってもよく、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0065】
また、内歯歯車についても、上記実施形態においては、該内歯歯車が内歯を構成する内歯ピンを備える構成とされていたが、これに限らず、本発明では、内歯が内歯歯車本体(ケーシング)に直接形成されている構成とされていてもよい。前述したように、この場合でも、外輪が別体なので、内歯の熱歪みの問題を回避することができる。
【0066】
また、軸受についても、上記実施形態においては、接触角が零でない(接触角θ1の)アンギュラボール軸受48が採用されていたが、本発明においては、軸受の種類は特に限定されない。例えば、上記実施形態における反車体側のテーパードローラ軸受46のように、転動体に「円錐ローラ」を用いたものであってもよく、更には、接触角が零である通常のボール軸受、あるいはローラ軸受を採用してもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、外輪70の本体部74に突起部74Cを設け、該突起部74Cに、周辺部材(内歯歯車28の内歯を構成する内歯ピン28Aを保持する保持ピン28C)の軸方向の位置決めの機能を持たせていたが、本発明に係る外輪は、必ずしもこのような構成を有している必要はない。
【0068】
また、上記実施形態においては、外輪70の本体部74の転走面74Aから伸びる転走面延長部74Bの内径D2よりも、延在部76のオイルシール62の装着面76Aの内径D3の方が大きく形成されていた。しかし、この外輪の転走面から伸びる転走面延長部の内径とオイルシールの装着面の内径の大小関係も、特に上記実施形態のように(D2<D3のような関係に)設定する必要はなく、例えば、外輪の転走面の延長部がそのままオイルシールの装着面の内径となっていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態においては、内輪側についても独立した内輪73を有するようにしていたが、本発明は、内輪については、必ずしも独立した内輪を有すること要求するものではなく、フランジ部材と一体化された内輪とされていてもよい。そして、内輪が一体とされているか否かに関わらず、内輪の最外径よりもオイルシールの内径の方が大きいという構成も、(例えば、他の部材の構成如何によっては)必ずしも必須ではない。
【0070】
また、上記実施形態においては、ケーシング30が回転し、相対回転部材であるフランジ体34が車体フレーム32に固定される構成とされていたが、ケーシングが車体フレームに固定され、相対回転部材(上記実施形態ではフランジ体34およびキャリヤ体38)の方が回転する構成であってもよい。この場合は、車輪は相対回転部材の方と一体化されることになる。
【0071】
また、上記実施形態においては、減速機構G1の軸方向全長が車輪50の内側に配置されていたが、本発明では、少なくとも一部が車輪の内側であればよい。その際、軸受(上記実施形態ではアンギュラボール軸受48)の外輪が車輪の内側である場合には、本願発明は特に有効であり、ホイール部材のロックリング等、他の部分と比較してより径方向内側に突出する部材の内側に外輪が配置される場合に、さらに有効である。
【0072】
また、上記実施形態においては、オイルシール62がフランジ体34に直接当接していたが、これに限らず、例えばオイルシール62とフランジ体34との間に、(フランジ体34に取り付けられた)カラーを備えていてもよい。この場合には、カラーが相対回転部材に相当することになる。
【0073】
また、上記実施形態においては、本発明に係る車輪駆動装置をフォークリフトに適用した例が示されていたが、本発明に係る車輪駆動装置は、フォークリフト以外の車両等にも、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
16…入力軸
18、20…偏心体
21、23…軸受
24、26…外歯歯車
28…内歯歯車
30…ケーシング
34…フランジ体
38…キャリヤ体
46…テーパードローラ軸受
48…アンギュラボール軸受
49、53…第1、第2ホイール部材
50…車輪
62…オイルシール
64…ロックリング
70…外輪
72…ボール(転動体)
76…延在部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構の少なくとも一部が、車輪の内側に配置される車輪駆動装置であって、
ケーシングと、
該ケーシングと相対回転する相対回転部材と、
前記ケーシング及び相対回転部材の間に配置される軸受と、
前記減速機構の存在する空間をシールするオイルシールと、を備え、
前記軸受の外輪は、その外周が前記ケーシングの内側に配置される本体部と、該本体部から軸方向に延在され、その外周がケーシングから露出する延在部とを有し、
前記オイルシールは、該延在部と前記相対回転部材とに当接する
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記軸受の外輪が、前記車輪の径方向内側に配置されている
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記軸受の外輪は、前記車輪のホイール部材のロックリングの径方向内側に位置している
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記減速機構は、遊星歯車および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を有する遊星歯車減速機構であり、
前記ケーシングは、前記軸受の外輪の受け面を有し、
前記内歯歯車の内歯または内歯を構成する内歯ピンの組み込み溝が、該受け面の軸方向内側に位置している
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
当該車輪駆動装置は、前記相対回転部材が車体側のフレームに固定され、前記ケーシングが該相対回転部材に対して回転することによって前記車輪が駆動される車輪駆動装置であり、
前記軸受は、独立した専用の内輪を有し、
該内輪が隙間嵌めによって前記相対回転部材に組み付けられている
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記軸受が、接触角が零でない一対の軸受を背面合わせで組み込んだものであり、少なくとも該軸受の作用線上に該軸受の外輪および外輪を支持する前記ケーシングが位置している
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記ケーシングは、前記オイルシール側の軸方向端部に向けて外径が徐々に小さくなっている
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記軸受が、接触角が零でない一対の軸受を背面合わせで組み込んだものであり、
前記ケーシングは、該ケーシングの外周と前記軸受の作用線との交点よりも前記オイルシール側から軸方向端部に向けて外径が徐々に小さくなっている
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記軸受は、専用の内輪を有し、該内輪の最外径よりも前記オイルシールの内径が大きい
ことを特徴とする車輪駆動装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、
前記軸受の外輪の転走面から伸びる転走面延長部の内径よりも、前記オイルシールの装着面の内径の方が大きい
ことを特徴とする車輪駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43524(P2013−43524A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181864(P2011−181864)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】