説明

転がり軸受ユニット

【課題】外輪のクリープの発生を防止し、円滑に調心することができるようにする。
【解決手段】内輪11と外輪12の間に複数のボール14が設けられた玉軸受をピロー形の軸受箱としての軸受箱13に組み込んだものである。外径面が凸状球面をなす外輪12の外径側に、内径面が凹状球面をなす軸受箱13がすきま嵌めにより嵌め合わされる。この嵌め合わせ部Pの軸受箱13の内径面の軸方向両端部に周溝22が設けられ、Oリング23が嵌められる。このOリング23の弾性締め付け力で外輪12が回り止めされて、外輪12のクリープが防止される。また、外輪12が軸受箱13に対して軸方向に傾くとき、嵌め合わせ部Pに金属接触が発生せず、調心に必要な力を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、凹球面状の内径面を有する軸受箱と、内輪と凸球面状の外径面を有する外輪との間で複数の転動体が介在される転がり軸受とからなり、軸受箱の内径側に転がり軸受の外輪が嵌め合わされた転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
軸受箱の内径側に転がり軸受の外輪を嵌め合わせた転がり軸受ユニットは、回転軸への取り付けが容易で汎用性があるため、ベルトコンベアやフィルム等の帯状体を巻き掛けるローラ等の回転軸の支持に幅広く用いられている。
【0003】
この転がり軸受ユニットは、転がり軸受の外輪と軸受箱との嵌め合い面が球面となっており、その嵌め合い面により、回転軸のベンディング(曲がりや反り)、取り付け誤差を許容することができる。このため、軸受間距離が大きく、ミスアライメントが避けられない場合などにも適用することができる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−250549号公報
【0004】
また、この転がり軸受ユニットでは、通常、外輪と軸受箱との嵌め合いが所定の嵌め合い、例えば、JIS B 0401により標準化された寸法公差および嵌め合いである「公差域クラスH7」または「公差域クラスJ7」となるように仕上げられている。これにより、外輪の外径面と軸受箱の内径面とが接触し、その接触による摩擦抵抗で外輪の周方向への回り止めがなされ、外輪のクリープを防止している(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】NTN株式会社 転がり軸受総合カタログ(CAT.No.2202−VIII/J E−68〜71ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記非特許文献1に記載の転がり軸受ユニットでは、その外輪の外径面と軸受箱の内径面との仕上がり寸法のばらつきによって、外輪と軸受箱との接触状態がばらつくことがあった。このため、回転軸が傾いて外輪が軸受箱の軸方向に対して傾くとき、外輪と軸受箱との摩擦抵抗が大きくなることがある。摩擦抵抗が大きくなると、調心に必要な力が大きくなりすぎ、回転軸のベンディング等に対応することが難しく、円滑な調心が行われない。
【0006】
また、外輪と軸受箱との摩擦抵抗が大きくなると、調心時に外輪と軸受箱との嵌め合わせ部が磨耗し、嵌め合わせ部にすき間が発生して外輪がクリープするという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、外輪のクリープの発生を防止し、円滑に調心することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、凹球面状の内径面を有する軸受箱と、内輪と凸球面状の外径面を有する外輪との間で複数の転動体が介在される転がり軸受とからなり、前記軸受箱の内径側に前記転がり軸受の外輪が嵌め合わされた転がり軸受ユニットにおいて、前記軸受箱の内径面に複数の周溝が設けられ、前記軸受箱と前記外輪の嵌め合わせがすきま嵌めとなっており、前記周溝に嵌められたリング状部材が前記周溝と前記外輪の外径面とにより圧縮された構成としたのである。
【0009】
この構成によると、軸受箱の周溝に嵌められたリング状部材が周溝と外輪の外径面によって圧縮されるため、このリング状部材は外輪の外径面を押し付け、この押し付けによる摩擦抵抗で外輪のクリープが防止される。また、軸受箱と外輪との嵌め合いがすきま嵌めとなっているので、回転軸が傾いて外輪が軸受箱の軸方向に対して傾くとき、外輪は軸受箱と接触せず、外輪と軸受箱との摩擦抵抗が生じないため、調心に必要な力が大きくなり過ぎず、調心が円滑に行われる。また、外輪と軸受箱とは接触しないため嵌め合わせ部での磨耗が生じない。
【0010】
調心に必要な力をさらに小さくする必要がある場合、例えば、回転軸に掛かる荷重の変化が大きく、外輪の軸受箱の軸方向に対する傾きが頻繁に変化する場合、前記軸受箱と前記外輪の嵌め合わせ部の前記リング状部材の間にグリースが塗布された構成を採用することができる。
【0011】
グリースが塗布されると、リング状部材が外輪の外径面に押し付けられるので、グリースが前記嵌め合わせ部のリング状部材の間で密封される。その密封されたグリースによって、前記嵌め合わせ部に潤滑皮膜が形成され、潤滑性が付与される。その結果、外輪が軸受箱に対して軸方向に傾くときに大きな力が必要とならず、調心時に必要な力が小さくなり調心がより円滑に行われる。
【0012】
前記構成において、軸受箱に転がり軸受を組み込む際、その内輪または外輪が軸受箱に当り、組み込みが難しくなるおそれがある。そこで、前記軸受箱の内径面にぬすみ部が一端面から軸方向中央部にわたって形成された構成とすると、このぬすみ部によって内輪または外輪の軸受箱との接触が避けられ、軸受箱に転がり軸受を組み込むことが可能となる。
【0013】
前記軸受箱の内径面にぬすみ部が形成された構成を採用した場合、前記軸受箱の周溝が前記軸受箱の内径面の軸方向中央部と他端面の間に設けられた構成を採用すると、周溝が軸受箱のぬすみ部を避けるように設けられる。
【0014】
周溝が軸受箱のぬすみ部を避けるように設けられると、軸受箱に転がり軸受を組み込む際に、周溝内のリング状部材が邪魔にならず、組み込み性が確保される。また、リング状部材の間にグリースを塗布した場合、そのグリースを前記嵌め合わせ部のリング状部材の間で密封することができ、グリースによる潤滑性を保持することができる。
【0015】
また、前記外輪にその内径面から外径面に通じる油道が設けられた形式を用いる場合、その油道の外径側開口部が、複数の前記周溝のうちのいずれの2本の周溝の間からも外れた箇所に位置するように設けられることによって、前記内輪と外輪との間に形成された軸受空間の密封を確保することができ、グリースによる潤滑性を保持することができる。
【0016】
前記リング状部材が、弾性を有する合成ゴム製のOリングであると、Oリングの弾性締め付け力で外輪を回り止めすることができる。また、Oリングが外輪の外周面に押し付けられ弾性変形し、外輪の外径面に密着する。この密着により外輪がさらに周方向に回転し難くなって外輪のクリープ防止性能が向上する。
【0017】
また、軸受箱と外輪の嵌め合わせ部に塗布されるグリースは、基油(潤滑油)と増ちょう剤とその他の添加剤等から構成されるが、その基油粘度が、40℃において100mm/s以上であれば、グリースのちょう度を適宜に設定した場合、グリースが塗布される嵌め合わせ部にすき間が生じることなく、長期間の潤滑性保持のために必要なグリース量を密封することができる。また、軸受箱の内径面と外輪の外径面と接触していない部分がなくなるため、嵌め合わせ部のリング状部材の間に高い保持力で保持され、長期間にわたって嵌め合わせ部に潤滑性を付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明の転がり軸受ユニットは、軸受箱の内径面の周溝に嵌められたリング状部材が周溝と外輪の外径面とにより圧縮され、軸受箱と外輪との嵌め合いをすきま嵌めとすることにより、外輪が軸受箱と接触せず、回転軸の調心に必要な力が大きくなり過ぎず、調心が円滑に行われる。また、軸受箱のリング状部材が外輪の外径面を押し付けるので、この押し付けによる摩擦抵抗で外輪のクリープを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の第1実施形態を図1〜図3に示す。
この実施形態の転がり軸受ユニットは、図1に示すように、内輪11と外輪12の間に複数のボール14が設けられた転がり軸受10としての玉軸受をピロー形の軸受箱13に組み込んだものであり、各ボール14は、保持器15により周方向に間隔をおいて保持され、内輪11と外輪12との間の軸受空間はシール19で密封されている。
【0020】
前記内輪11は、外輪12の軸方向の幅よりも幅広に形成され、その外径面にボール14が転走する内輪軌道16を有しており、その内輪軌道16の中心から一端部までの長さが、他端部までの長さよりも長く形成されている。
【0021】
内輪11の一端部の軸受箱13の外側には、ボール入り止めねじ32が設けられ、内輪11に挿通される回転軸31が相対回転しないように固定される。このボール入り止めねじ32を締め込むと、内部に組み込まれたボールが回転軸31の外周面を圧接する。
【0022】
外輪12は、その内径面にボール14が転走する外輪軌道17が設けられ、その外径面が凸状球面をなしている。外輪12の内径面の外輪軌道17の軸方向両側には、シール係止溝21が全周にわたって設けられ、その係止溝21に円環状のシール19の外周縁部が係止している。
【0023】
前記シール19は、その内周縁部が内輪11の外径面に摺接し、内輪11と外輪12との間の軸受空間を密封している。また、シール19の軸方向外側に円環状のスリンガ20の内周縁部が内輪11に固定される。そのスリンガ20の外周縁部と外輪12の内径面の肩部との間でラビリンスシールが形成され、前記軸受空間の内部への水分や埃の浸入を防止する(図2参照)。
【0024】
前記外輪12が嵌め合わされる軸受箱13は、内径面が凹状球面を有し、外輪12の外径面の凸状球面に対応している。この軸受箱13の内径面には、図3に示すように、一端面から軸方向中央にかけてぬすみ部25が設けられている。
【0025】
このぬすみ部25は、玉軸受を軸受箱13に組み込むために軸受箱13に設けられる。すなわち、軸受箱13の内径側に玉軸受を嵌め合わせるとき、その内輪11または外輪12が軸受箱13に当り、組み込みが難しくなるおそれがある。このため、前記ぬすみ部25で内輪11等と軸受箱13の接触を避ける(内輪11等を逃がす)ことにより、内輪11等が軸受箱13に当たらずに組み込むことが可能となる。
【0026】
また、軸受箱13の内周面には、軸方向に間隔をおいて2本の周溝22、22が全周にわたって設けられている。この両周溝22は、前記軸受箱13のぬすみ部25を避けるように、軸受箱13の内径面の軸方向中央部と軸方向他端部の間に設けられる。
【0027】
この周溝22にはリング状部材が嵌められており、このリング状部材は、弾性を有する合成樹脂によって形成されたOリング23である。このOリング23は、外輪12の外径側に軸受箱13が嵌め合わされると、周溝22と外輪12の外径面とによって圧縮される。この圧縮によってOリング23が弾性変形して外輪12の外周面に密着し、その弾性締め付け力によって外輪12が軸受箱13に対して回り止めされ、外輪12のクリープが防止される。
【0028】
ここで、前記軸受箱13と、外輪12との嵌め合わせは、外輪12の外径面と軸受箱13の内径面が接触しない程度のすき間を有する状態での嵌め合わせであればよい。具体的には、JIS B 0401により標準化された寸法公差および嵌め合いである「公差域クラスG7」となるすきま嵌めであればよい。
【0029】
すきま嵌めとすることにより、回転軸31が傾くと、外輪12がOリング23を介して、軸受箱13に対してすき間を保った状態で軸受箱13に対して軸方向に傾く。その結果、前記嵌め合わせ部Pに外輪12と軸受箱13との金属接触が発生せず、非特許文献1に記載のものと比して、調心に必要な力を小さくすることができる。
【0030】
また、前記調心に必要な力をさらに小さくする必要がある場合、例えば、回転軸31に掛かる荷重の変化が大きく、外輪12の軸受箱の軸方向に対する傾きが頻繁に変化する場合など、嵌め合わせ部PのOリング23の間にグリースGを塗布してもよい。
【0031】
グリースGを塗布すると、Oリング23は、外輪12の外径面を押し付けているので、Oリング23との間の嵌め合わせ部PにグリースGが密封され、そのOリング23の間の嵌め合わせ部Pに潤滑皮膜が形成される。この潤滑皮膜により、回転軸が傾いて外輪12が軸受箱13に対して軸方向に傾くときに、その嵌め合わせ部Pに潤滑性が付与され、グリースGを塗布しない場合と比して、調心に必要な力が小さくなり、調心がさらに円滑に行われる。
【0032】
前記嵌め合わせ部PのOリング23の間に塗布されるグリースGは、一般に、基油(潤滑油)と増ちょう剤とその他の添加剤等から構成されるが、その基油粘度が、40℃において100mm/s以上であれば、グリースGのちょう度を適宜に設定した場合、グリースGが密封される嵌め合わせ部Pにすき間が生じることなく、長期間の潤滑性保持のために必要なグリース量を封入することができる。
【0033】
また、グリースGは軸受箱13の内径面と外輪12の外径面と接触していない部分がなくなるため、嵌め合わせ部PのOリング23の間に高い保持力で保持され、グリースGによって長期間にわたって嵌め合わせ部Pに潤滑性を付与することができる。
【0034】
この第1実施形態において、転がり軸受10として玉軸受をピロー形の軸受箱13に組み込んだものとしたが、この発明に係る転がり軸受ユニットの転がり軸受10は玉軸受に限定されることはない。また、軸受箱13もピロー形のものに限定されることはなく、フランジ形やテークアップ形等の他の形式のものにも適用することができる。
【0035】
次に、この発明の第2実施形態を、図4に基づいて説明する。
この実施形態に係る転がり軸受ユニットは、前記外輪にその内径面から外径面に通じる油道が設けられ、その油道の外径側開口部が、2本の前記周溝の間から外れた箇所に位置するように設けられた点で前述の第1実施形態と相違する。その他の構成は、第1実施形態と同様である。なお、第1実施形態と同一に考えられる構成には同符号を用いる。
【0036】
この構成によると、前記内輪11と外輪12との間に形成された軸受空間に密封されたグリースGが前記油道24を介して漏れることなく、Oリング23の間の嵌め合わせ部Pの潤滑性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1実施形態に係る転がり軸受ユニットを示す縦断面図
【図2】同上の転がり軸受ユニットを示す正面図
【図3】同上の転がり軸受ユニットの軸受箱を示す縦断面図
【図4】第2実施形態に係る転がり軸受ユニットを示す縦断面図
【符号の説明】
【0038】
10 転がり軸受
11 内輪
12 外輪
13 軸受箱
14 ボール
15 保持器
16 内輪軌道
17 外輪軌道
19 シール
20 スリンガ
21 シール係止溝
22 周溝
23 Oリング
24 油道
25 ぬすみ部
31 回転軸
32 ボール入り止めねじ
P 嵌め合わせ部
G グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹球面状の内径面を有する軸受箱(13)と、内輪(11)と凸球面状の外径面を有する外輪(12)との間で複数の転動体(14)が介在される転がり軸受(10)とからなり、前記軸受箱(13)の内径側に前記転がり軸受(10)の外輪(12)が嵌め合わされた転がり軸受ユニットにおいて、
前記軸受箱(13)の内径面に複数の周溝(22)が設けられ、前記軸受箱(13)と前記外輪(12)の嵌め合わせがすきま嵌めとなっており、前記周溝(22)に嵌められたリング状部材(23)が前記周溝(22)と前記外輪(12)の外径面とにより圧縮されたことを特徴とする転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記軸受箱(13)と前記外輪(12)の嵌め合わせ部の前記リング状部材の間にグリースが塗布されたことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記軸受箱(13)の内径面にぬすみ部(25)が一端面から軸方向中央部にわたって形成され、前記周溝(22)が前記軸受箱(13)の内径面の軸方向中央部と他端面の間に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記外輪(12)にその内径面から外径面に通じる油道(24)が設けられ、その油道(24)の外径側開口部が、複数の前記周溝(22)のうちのいずれの2本の周溝(22)の間からも外れた箇所に位置するように設けられたことを特徴とする請求項3に記載の転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記リング状部材が、弾性を有する合成ゴム製のOリング(23)であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の転がり軸受ユニット。
【請求項6】
前記グリースは、その基油粘度が40℃において100mm/s以上であることを特徴とする請求項2に記載の転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−185980(P2009−185980A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29078(P2008−29078)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】