説明

転写定着装置及び画像形成装置

【課題】ニップ部から送出された記録媒体の転写定着ベルトに対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルトの速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合が軽減される、転写定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】1次転写部100に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側であってニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側に転写定着ベルト27の弛みが生じるように構成される。そして、転写定着ベルト27の弛みが生じている位置であってニップ部の近傍の位置で、転写定着ベルト27の幅方向の一部を転写定着ベルト17の外周面側から押圧して転写定着ベルト27を局所的に変形させる押圧部材85を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、記録媒体上にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置と、それを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の電子写真方式を用いた画像形成装置と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置では、転写工程と定着工程とを同時におこなう転写定着装置を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1〜3等参照。)。
このような転写定着装置を備えた画像形成装置は、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置に比べて、表面性の粗い記録媒体を使用しても画像品質の低下が起こり難いという利点がある。
【0003】
詳しくは、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置では、表面性の粗い記録媒体を使用すると、中間転写ベルト等の中間転写体が記録媒体の表面性に追従できずに中間転写体と記録媒体との間に微小ギャップが形成されてしまう。そのため、その微小ギャップが形成された部分で異常放電が発生して、中間転写体上に担持された画像が記録媒体上に正常に転写されずに、画像が全体としてボソボソになってしまう。
これに対して、転写定着装置を備えた画像形成装置では、トナー像に対して転写と同時に熱を加えるため、トナーが軟化・溶融して粘弾性を帯びたブロック状の塊になる。そのため、表面性の粗い記録媒体を使用して定着部材と記録媒体との間に微小ギャップが形成されても、その部分に画像が塊として転写されてしまう。したがって、画像は、ボソボソにならずに、良好で高画質なものになる。
【0004】
さらに、転写定着装置を備えた画像形成装置は、転写・定着工程がおこなわれるニップ部(転写定着部材と加圧部材との当接位置である。)に搬送される記録媒体上に未定着のトナー像が担持されないために、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置に比べて、記録媒体の搬送経路に対する制約が少なくなる。すなわち、転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置は、定着工程がおこなわれるニップ部(定着部材と加圧部材との当接位置である。)に搬送される記録媒体上に未定着のトナー像が担持されるために、転写部から定着部に至る搬送経路には未定着トナー像に接触しないための制約が課せられる。したがって、転写定着装置を備えた画像形成装置は、記録媒体の搬送経路に対する設計上の自由度が高く、記録媒体の搬送性を高めることができる。
【0005】
一方、特許文献2、3には、転写定着ベルトの速度変動が1次転写部に影響して出力画像上にショックジターが生じないように、転写定着ベルトにおけるニップ部(転写定着部)の上流や下流に弱テンション部(転写定着ベルトに弛みが生じる部分である。)を設けて、その弱テンション部で転写定着ベルトの速度変動を吸収する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の転写定着装置(特許文献2、3に開示された転写定着装置)は、出力画像上にショックジターが生じないように、ニップ部の上流や下流において転写定着ベルトの弱テンション部を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体の転写定着ベルトに対する分離性が低下してしまう不具合があった。
【0007】
詳しくは、ニップ部の下流側にて転写定着ベルトの緩みを形成しているために、ニップ部の位置で転写定着ベルトを介して加圧部材に圧接する対向ローラに対する転写定着ベルトの巻き付きが緩くなって、転写定着工程後に記録媒体が転写定着ベルトから分離する位置における転写定着ベルトの曲率が大きくなってしまう。そのため、ニップ部から送出された記録媒体が、転写定着ベルトから分離されにくくなってしまう。そして、このような分離不良が生じると、記録媒体のジャム(紙詰まり)が生じてしまうことになる。
【0008】
特に、ニップ部に送入される前に記録媒体の表面を加熱する方式をとった転写定着装置であって、厚さが薄くてコシの弱い記録媒体(例えば、45〜55K程度の用紙である。)を用いる場合には、記録媒体が転写定着ベルトに密着する方向にカールしやすいために、上述した分離不良が無視できないものになっていた。
また、転写定着ベルトは、転写工程と定着工程とを両立させるものであるため、中間転写ベルト(転写工程と定着工程とを別々におこなう画像形成装置において1次転写工程・2次転写工程がおこなわれるものである。)に比べて、材料選択の幅が狭くなってしまう。そのため、転写定着ベルトの材料面から、転写定着ベルトの外周面における離型性(表面性)を向上させる方策にも限界がある。
【0009】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ニップ部から送出された記録媒体の転写定着ベルトに対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルトの速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合が軽減される、転写定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の請求項1記載の発明にかかる転写定着装置は、記録媒体にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置であって、像担持体に対向する1次転写部で当該像担持体上に形成されたトナー像が転写されるとともに、複数のローラ部材に張架された転写定着ベルトと、前記転写定着ベルトに圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、を備え、前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側に前記転写定着ベルトの弛みが生じるように構成され、前記転写定着ベルトの前記弛みが生じている位置であって前記ニップ部の近傍の位置で、前記転写定着ベルトの幅方向の一部又は全部を前記転写定着ベルトの外周面側又は内周面側から押圧して前記転写定着ベルトを局所的に変形させる押圧部材をさらに備えたものである。
【0011】
また、請求項2記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部への記録媒体の搬送がおこなわれないときには前記転写定着ベルトから離間するように制御されるものである。
【0012】
また、請求項3記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項2に記載の発明において、前記押圧部材は、記録媒体の先端部が前記ニップ部から送出されるタイミングで前記転写定着ベルトを押圧して、当該記録媒体の後端部が前記ニップ部から送出されるまでに前記転写定着ベルトから離間するように制御されるものである。
【0013】
また、請求項4記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部に搬送される記録媒体の厚さが所定値以上である場合に前記転写定着ベルトから離間するように制御されるものである。
【0014】
また、請求項5記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部に搬送される記録媒体の先端部から画像が形成されない範囲が所定値以上である場合に前記転写定着ベルトから離間するように制御されるものである。
【0015】
また、請求項6記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項5のいずれかに記載の発明において、前記押圧部材によって前記転写定着ベルトが変形される位置に向けて前記転写定着ベルトの外周面側から空気を送り込む送風手段をさらに備えたものである。
【0016】
また、請求項7記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項6のいずれかに記載の発明において、前記転写定着ベルトを介して前記押圧部材に当接して前記押圧部材によって変形される前記転写定着ベルトの変形量又は/及び形状を規制する規制部材をさらに備えたものである。
【0017】
また、請求項8記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項7のいずれかに記載の発明において、前記押圧部材を、その先端部が前記転写定着ベルトの外周面に当接するとともに、その中央部が記録媒体の搬送を案内する分離爪としたものである。
【0018】
また、請求項9記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項8のいずれかに記載の発明において、前記複数のローラ部材のうちの1つであって前記転写定着ベルトを駆動するとともに、前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側に配設された駆動ローラと、前記複数のローラ部材のうちの1つであって前記ニップ部の位置で前記転写定着ベルトを介して前記加圧部材に圧接するとともに、その回転速度が可変制御される対向ローラと、を備え、前記対向ローラの回転速度を可変制御することで、前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側に生じさせる前記転写定着ベルトの弛みと、前記駆動ローラに対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側に生じさせる前記転写定着ベルトの弛みと、を調整するものである。
【0019】
また、請求項10記載の発明にかかる転写定着装置は、前記請求項1〜請求項9のいずれかに記載の発明において、加熱体によって加熱されるとともに、前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体を案内しながら当該記録媒体の転写定着面を加熱する伝熱部材と、前記伝熱部材に案内される記録媒体を当該伝熱部材に向けて付勢する付勢部材と、を備えたものである。
【0020】
また、この発明の請求項11記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項10のいずれかに記載の転写定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ニップ部の下流側近傍の位置で弛みが生じている転写定着ベルトを押圧して局所的に変形させる押圧部材を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体の転写定着ベルトに対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルトの速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合が軽減される、転写定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】転写定着装置の一部を示す拡大図である。
【図3】転写定着装置に設置される加熱装置を幅方向にみた図である。
【図4】転写定着ベルトに弛みが生じている状態を示す図である。
【図5】対向ローラの近傍を幅方向にみた図である。
【図6】転写定着ベルトの弛み部を押圧部材で押圧している状態を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2における転写定着装置の一部を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3における転写定着装置の一部を示す図である。
【図9】別の転写定着装置の一部を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態4における転写定着装置の一部を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態5における定着装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0024】
実施の形態1.
図1〜図6にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのカラー複写機の装置本体、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部(露光部)、20Y、20M、20C、20BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応したプロセスカートリッジ、21は各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKにそれぞれ収容された像担持体としての感光体ドラム、22は感光体ドラム21上を帯電する帯電部、23Y、23M、23C、23BKは感光体ドラム21上に形成される静電潜像を現像する現像装置、24は感光体ドラム21上に形成されたトナー像を転写定着ベルト27に転写する転写バイアスローラ、25は感光体ドラム21上の未転写トナーを回収するクリーニング装置、を示す。
【0025】
また、27は複数色のトナー像が重ねて転写される転写定着部材としての転写定着ベルト、29は転写・定着工程後の転写定着ベルト27を清掃するベルトクリーニング装置、32Y、32M、32C、32BKは各現像装置23Y、23M、23C、23BKに各色のトナーを補給するトナー補給部、51は原稿Dを原稿読込部55に搬送する原稿搬送部、55は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、61は転写紙等の記録媒体Pが収納される給紙部、66は記録媒体P上にトナー像を転写・定着する転写定着装置、67は転写・定着工程直前の記録媒体Pを加熱する加熱装置、68は転写定着ベルト27に圧接してニップ部(転写定着部)を形成する加圧部材としての加圧ローラ、85は転写定着ベルト27の幅方向中央部を外周面側から押圧する押圧部材、88は転写定着ベルト27を加熱するヒータ、91は記録媒体をPを加熱装置67に向けて付勢する付勢部材としてのブラシ状部材、を示す。
【0026】
ここで、転写定着装置66は、転写定着ベルト27、加圧部材としての加圧ローラ68、ベルトクリーニング装置29、押圧部材85、加熱装置67、付勢部材としてのブラシ状ローラ91、ヒータ88、等で構成される。
また、各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKは、それぞれ、感光体ドラム21、帯電部22、クリーニング装置25が、一体化されたものである。そして、各プロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKにおける感光体ドラム21上では、それぞれ、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)の画像形成がおこなわれる。
【0027】
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成時の動作について説明する。
まず、原稿Dは、原稿搬送部51の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部55のコンタクトガラス53上に載置される。そして、原稿読込部55で、コンタクトガラス53上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0028】
詳しくは、原稿読込部55は、コンタクトガラス53上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部(不図示である。)で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
【0029】
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応するプロセスカートリッジ20Y、20M、20C、20BKの感光体ドラム21上に向けて発せられる。
【0030】
一方、4つの感光体ドラム21(像担持体)は、それぞれ、図1の時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム21の表面は、帯電部22との対向位置で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム21上には、帯電電位が形成される。その後、帯電された感光体ドラム21表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する。
書込み部2において、光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応して射出される。レーザ光は、ポリゴンミラー3に入射して反射した後に、レンズ4、5を透過する。レンズ4、5を透過した後のレーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる(露光工程である。)。
【0031】
イエロー成分に対応したレーザ光は、ミラー6〜8で反射された後に、紙面左側から1番目のプロセスカートリッジ20Yの感光体ドラム21表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラー3により、感光体ドラム21の回転軸方向(主走査方向)に走査される。こうして、帯電部22にて帯電された後の感光体ドラム21上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
【0032】
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、ミラー9〜11で反射された後に、紙面左から2番目のプロセスカートリッジ20Mの感光体ドラム21表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、ミラー12〜14で反射された後に、紙面左から3番目のプロセスカートリッジ20Cの感光体ドラム21表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、ミラー15で反射された後に、紙面左から4番目のプロセスカートリッジ20BKの感光体ドラム21表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
【0033】
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム21表面は、それぞれ、現像装置23Y、23M、23C、23BKとの対向位置に達する。そして、各現像装置23Y、23M、23C、23BKから感光体ドラム21上に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム21上の潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム21表面は、それぞれ、複数のローラ部材28A〜28Cに張架・支持された転写定着ベルト27との対向位置(1次転写部である。)に達する。ここで、それぞれの対向位置には、転写定着ベルト27の内周面に当接するように転写バイアスローラ24が設置されている。そして、転写バイアスローラ24の位置で、転写定着ベルト27上に、感光体ドラム21上に形成された各色の画像(トナー像)が、順次重ねて転写される(1次転写工程である。)。
【0034】
そして、1次転写工程後の感光体ドラム21表面は、それぞれ、クリーニング装置25との対向位置に達する。そして、クリーニング装置25で、感光体ドラム21上に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム21表面は、不図示の除電部を通過して、感光体ドラム21における一連の作像プロセスが終了する。
【0035】
他方、感光体ドラム21上の各色のトナー像が重ねて転写・担持された転写定着ベルト27の表面は、図中の矢印方向に走行して、加圧ローラ68(加圧部材)との当接位置(ニップ部である。)に達する。すなわち、1次転写部の位置で転写定着ベルト27に1次転写されたトナー像は、ヒータ88の位置を通過して、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部(転写定着部)に達する。ここで、本実施の形態1における転写定着装置66は、従来のものとは異なり、転写定着ベルト27自体を直接的に加熱するヒータ88の加熱量が小さく設定されている。
そして、転写定着ベルト27上のトナー像Tは、ニップ部(転写定着部)にて、記録媒体Pの転写定着面(おもて面)に転写されるとともに定着される(転写・定着工程である。)。詳しくは、記録媒体Pの転写定着面がニップ部の直前で加熱装置67によって加熱されて、ニップ部にて転写定着面の熱によって、ヒータ88によって予め加熱されたトナー像がさらに加熱され溶融されるとともに、ニップ部の圧力によってトナー像が転写定着面に定着される。なお、転写定着装置66の構成・動作については、後で図2〜図6を用いてさらに詳しく説明する。
その後、転写定着ベルト27表面は、ベルトクリーニング部29の位置に達する。そして、転写定着ベルト27上の残トナー等の付着物がベルトクリーニング装置29に回収されて、転写定着ベルト27上の一連の転写定着プロセスが完了する。
【0036】
ここで、転写定着装置66のニップ部に搬送される記録媒体Pは、給紙部61から搬送ガイド63、レジストローラ64、加熱装置67等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、記録媒体Pを収納する給紙部61から、給紙ローラ62により給送された転写紙Pが、搬送ガイド63を通過した後に、レジストローラ64に導かれる。レジストローラ64に達した記録媒体Pは、転写定着ベルト27上のトナー像とタイミングを合わせて、転写定着ベルト27と加圧ローラ68とのニップ部(転写定着部)に向けて搬送される。このとき、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pは加熱装置67の伝熱板67b(図2を参照できる。)に案内されるとともに、ブラシ状ローラ91によって伝熱板67bに向けて付勢されながら、記録媒体Pの転写定着面のみが加熱装置67(伝熱板67b)によって加熱される。
その後、フルカラー画像が転写・定着された記録媒体Pは、排紙搬送経路を通過して、排紙ローラ80によって装置本体1外に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセスが完了する。なお、本実施の形態1における画像形成装置は、記録媒体Pの搬送速度(又は、プロセス線速)が、300mm/秒程度に設定されている。
【0037】
なお、本実施の形態1において用いられるトナーは、低温定着に適したものであることが好ましい。具体的に、トナーの軟化点(1/2流出温度)は100℃程度であることが好ましい。
トナー結着樹脂としては、以下の組成のものを使用することができる。
例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエン等のスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、 スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンーイソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体等のスチレン系共重合体が挙げられる。
また、以下の樹脂を混合して使用することもできる。ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックス等が挙げられる。この中で特に、ポリエステル樹脂を含有しているものは充分な定着性を得るために、好ましい。特に結晶性ポリエステル樹脂は、紙接触時に充分に軟化溶融し、定着強度とともに色再現性の高い画像形成が可能となる。ポリエステル樹脂は、アルコールとカルボン酸との縮重合によって得られるが、用いられるアルコールとはポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等のジオール類、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリエキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のエーテル化ビスフェノル類、これらを炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の炭化水素基で置換した2価のアルコール単体、その他の2価のアルコール単体を挙げることができる。
また、ポリエステル樹脂を得るために用いられるカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、マロン酸、これらを炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の炭化水素基で置換した2価の有機酸単量体、これらの酸無水物、低級アルキルエステルとリノレイン酸の2量体、その他の2価の有機酸単量体を挙げることができる。
バインダー樹脂として用いるポリエステル樹脂を得るためには、以上の2官能性単量体のみによる重合体のみでなく、3官能以上の多官能性単量体による成分を含有する重合体を用いることも好適である。かかる多官能性単量体である3価以上の多価アルコール単量体としては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−サルビタン、ペンタエスリトール、ジペンタエスリトール、トリペンタエスリトール、蔗糖、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1.3.5−トリヒドロキシメチルベンゼン、その他を挙げることができる。
また3価以上の多価カルボン酸単量体としては、例えば1,2,4−ペンゼントリカルボン酸、1,2,5−ペンゼントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンボール3量体酸、これらの酸無水物、その他を挙げることができる。
【0038】
また、本実施の形態1に用いるトナーには、転写定着工程時の転写定着ベルト27表面でのトナーの離型性を向上する目的で、離型剤を含有させることができる。離型剤として、公知のものをすべて使用できるが、特に脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス、モンタンワックス及び酸化ライスワックス、エステルワックスを単独又は組み合わせて使用することができる。カルナウバワックスとしては、微結晶のものが良く、酸価が5以下であり、トナーバインダー中に分散したときの粒子径が1μm以下の粒径であるものが好ましい。モンタンワックスについては、一般に鉱物より精製されたモンタン系ワックスを指し、カルナウバワックス同様、微結晶であり、酸価が5〜14であることが好ましい。酸化ライスワックスは、米ぬかワックスを空気酸化したものであり、その酸価は10〜30が好ましい。各ワックスの酸価が各々の範囲未満であった場合、低温定着温度が上昇し低温定着化が不充分となる。逆に酸価が各々の範囲を超えた場合、コールドオフセット温度が上昇し低温定着化が不充分となる。ワックスの添加量としてはバインダー樹脂100重量部に対して1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部の範囲で用いられる。1重量部未満では、その離型効果が薄く所望の効果が得られにくい。また、15重量部を超えた場合はキャリアへのスペントが顕著になる等の問題が生じる。
また、外添加剤として、トナーの流動性を向上させる目的で、シリカ、酸化チタン、アルミナ等、さらに必要に応じて脂肪酸金属塩類やポリフッ化ビニリデン等を添加しても良い。
特に、転写定着装置66は、トナーを充分に加熱することが可能であるため、サブミクロンの大粒径シリカ等の添加剤を比較的多量に用いても定着性や定着温度に影響を与えないため、流動性・転写性を考慮した外添処方が可能である。
【0039】
次に、図2〜図6にて、本実施の形態1において特徴的な転写定着装置66について詳述する。
図2は、転写定着装置66の一部を示す拡大図である。図3は、加熱装置67を図2のX方向から幅方向にみた図である。図4は、転写定着ベルト27に弛みが生じている状態を示す図である。図5は、対向ローラ28Bの近傍を幅方向にみた上面図である。図6は、転写定着ベルト27におけるニップ部下流側の弛み部を押圧部材85で押圧している状態を示す図である。
図2に示すように、転写定着装置66は、転写定着ベルト27、加圧部材としての加圧ローラ68、ベルトクリーニング装置29、押圧部材85、加熱装置67、付勢部材としてのブラシ状ローラ91、ヒータ88、等で構成される。
【0040】
ここで、転写定着部材としての転写定着ベルト27は、基材(ベース層)上に、弾性層、離型層が順次形成された多層構造のエンドレスベルトである。基材(ベース層)は、層厚が80μmのポリイミド樹脂で形成されている。弾性層は、記録媒体P表面の凹凸に追従するためのものであって、層厚が200μmのシリコーンゴムで形成されている。離型層は、ベルト表面のトナーや紙粉に対する離型性を確保するためのものであって、層厚が10μmのフッ素樹脂で形成されている。
【0041】
図1及び図2を参照して、転写定着ベルト27は、複数のローラ部材28A〜28Cに張架・支持されている。
複数のローラ部材のうちの1つは、駆動ローラ28Aであって、転写定着ベルト27を駆動するためのものである。詳しくは、駆動ローラ28Aは、1次転写部100に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側であってニップ部(転写定着部)に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側に配設されている。駆動ローラ28Aは、その一端側の軸部が駆動モータ(不図示である。)に接続されていて、図2の反時計方向に回転することで、その外周面に巻装された転写定着ベルト27との摩擦抵抗によって転写定着ベルト27を図2の反時計方向に走行させる。
【0042】
図1を参照して、転写定着ベルト27を張架・支持する複数のローラ部材のうちの1つは、従動ローラ28Cであって、転写定着ベルト27との摩擦抵抗によって図1の反時計方向に従動する。
ここで、従動ローラ28Cの位置には、転写定着ベルト27の外周面に対向するようにベルトクリーニング装置29が設置されている。ベルトクリーニング装置29には、クリーニングブレード29aが設置されている。そして、クリーニングブレード29aによって、転写・定着工程後の転写定着ベルト27がクリーニングされる。すなわち、転写定着ベルト27上に形成されたトナー像Tがニップ部で記録媒体P上に転写定着された後に、転写定着ベルト27上に残留するトナーがクリーニングブレード29aによって機械的に掻き取られる。クリーニングブレード29aによって掻き取られたトナーは、自重落下してベルトクリーニング装置29内に回収される。
【0043】
図2を参照して、転写定着ベルト27を張架・支持する複数のローラ部材のうちの1つは、対向ローラ28Bであって、図2の反時計方向に回転する。対向ローラ28Bの位置には、転写定着ベルト27の外周面に対向するように加圧ローラ68(加圧部材)が設置されている。また、対向ローラ28Bは、速度可変型の駆動モータ(不図示である。)に接続されていて、その回転速度が可変制御される。そして、対向ローラ28Bの回転速度(回転数)を可変制御しながら、転写定着ベルト27のニップ部上流側・下流側の弛みを調整する。これについては、後で詳しく説明する。
【0044】
ここで、加圧ローラ68は、アルミニウム等からなる円筒状の芯金上に表面層(離型層)が形成されたものであって、図2の時計方向に回転する。加圧ローラ68は、不図示の加圧機構によって、転写定着ベルト27を介して対向ローラ28Bに圧接する。こうして、加圧ローラ68と転写定着ベルト27との間に、所望のニップ部(転写定着部)が形成される。
加圧ローラ68の表面層としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(4フッ化エチレンバーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、等を用いることができる。
【0045】
加熱装置67は、転写定着装置66におけるニップ部の入口側の近傍に配設されている。加熱装置67は、加熱体67a、伝熱部材としての伝熱板67b、電極67c、等で構成される。
加熱体67aは、伝熱板67bと電極67cとに挟持されている。本実施の形態1では、加熱体67aとして、所定のキューリー点に達すると抵抗が急激に上昇する抵抗発熱体を用いている。具体的に、加熱体67aとして、チタン酸バリウム系半導体磁器素体からなる正特性サーミスタを用いている。また、本実施の形態1では、図3に示すように、加熱体67a(正特性サーミスタ)を幅方向に10個並設している。
伝熱部材としての伝熱板67bは、板厚が0.2mmのステンレス鋼板である。伝熱板67bは、レジストローラ64の近傍からニップ部の近傍にかけて延設されていて、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pを案内する案内板(ガイド板)として機能する。また、伝熱板67bは、ニップ部に向けて搬送される記録媒体Pの転写定着面(おもて面)に接触して、加熱体67aで発生した熱を記録媒体P(転写定着面)に伝熱する機能を有する。さらに、伝熱板67bには交流電源71が接続されていて、一方の電極としても機能することになる。
【0046】
加熱体67aを挟持する電極67c及び伝熱板67bには、交流電源71が接続されていて、スイッチ72が接続されることにより加熱体67aの両端にAC100ボルトの電圧が印加される。これにより、加熱体67a内に電流が流れて加熱体67aが発熱することになる。さらには、加熱体67aの熱が伝熱板67bから記録媒体Pの転写定着面に伝えられる。
なお、本実施の形態1では、伝熱板67bの材料として、熱伝導率が高く、同体積における熱容量が低く、比較的安価な銅を用いているために、加熱効率が高く比較的安価な加熱装置67を提供することができる。
【0047】
ここで、加熱体67aは、記録媒体Pの発火点よりも低いキューリー点を有するものを用いることが好ましい。これにより、加熱体67aは、その自己温度制御機能によって、記録媒体Pの発火点以上に昇温する不具合が抑止される。
具体的に、本実施の形態1では、加熱体67aのキューリー点を200℃に設定している。これにより、加熱体67aの温度が200℃を超えたときに、電極67cと伝熱板67bとの間の抵抗が急激に上昇して、加熱体67a内に流れる電流が低下する。詳しくは、加熱体67aの温度が210℃のとき加熱体67a内に流れる電流は1/2に低下して、加熱体67aの温度が220℃のとき加熱体67a内に流れる電流は1/4に低下する。
このように構成された加熱体67aは、1200ワットの電力で6秒後に190〜200℃にまで昇温して、その後は自己温度制御機能により210℃以上に昇温することはない。加熱体67aを210℃以下で制御する場合には、図示しない温度センサを用いてPID制御等によって所望の温度に制御する。制御回路が故障しても、上述のように210℃以上にはなり得ないので安全性が確保される。また、本実施の形態1では、幅方向に複数の加熱体67aを並設しているために、複数の加熱体67aによってそれぞれの自己温度制御がおこなわれて、幅方向の温度ムラを10℃以下にすることができる。
【0048】
このように構成された加熱装置67は、上述したように、転写・定着工程直前の記録媒体Pの転写定着面(おもて面)のみを加熱するものである。換言すると、加熱装置67は、記録媒体Pの裏面(転写定着面に対する裏面である。)が昇温する前に(おもて面から裏面に熱が伝達される前に)記録媒体Pがニップ部に搬送されるように転写定着面を加熱する。
【0049】
本願発明者は、160℃に加熱された銅板(厚さ1mm)に記録媒体P(厚紙300g紙)を60msec接触させてその後に雰囲気温度40℃の空中に搬送(空走)したときの、記録媒体Pの転写定着面の温度変動をシミレーションした。その結果、銅板によって約140℃まで加熱された記録媒体Pが、雰囲気温度40℃の空中に10msec(搬送速度300mm/秒の場合、3mmの搬送距離に相当する。)搬送されるだけで110℃まで温度が低下するのがわかった。したがって、転写定着工程前の記録媒体Pの加熱効率を上げるためには、記録媒体を加熱する伝熱部材(伝熱板)をできる限りニップ部に近接させることが必要になる。
本実施の形態1では、伝熱板67bを板状に形成して、その先端をできる限りニップ部に近づけるとともに、その搬送方向の長さをできる限り長く設定しているために、転写定着工程前の記録媒体Pの加熱効率を向上させることができる。
【0050】
本願発明者は、ブラシ状部材91を設置せずに、伝熱板67bの加熱温度を140〜200℃に設定して、伝熱板67bから送出された後の記録媒体P(リコー社製「コピー用紙6200」)の転写定着面の温度変動を確認した。その結果、伝熱板67bから送出されてから0〜60msecでは記録媒体Pの転写定着面の温度低下が15℃以下であることがわかった。
【0051】
ここで、本実施の形態1における伝熱板67bは、記録媒体Pを案内する案内面(記録媒体Pに接触する面である。)に、フッ素樹脂粒子を含有するニッケルメッキが覆設されている。具体的には、ニッケルメッキの皮膜中に30vol%のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を分散させている。このようなコーティングは、析出状態の硬度がHv300程度であって通常の樹脂コーティングに比べて硬く、すべり性、耐摩耗性、離型性にも優れている。したがって、伝熱板67bにトナーや紙粉が付着する不具合を軽減できるとともに、伝熱板67bの耐久性を向上させることができる。
なお、伝熱板67bの案内面(記録媒体Pに接触する面である。)を、耐摩耗性が高いダイヤモンドライクカーボン(DLC)やグラファイトライクカーボン(GLC)で覆設することもできる。
【0052】
本実施の形態1における加熱装置67は、記録媒体Pの転写定着面の温度が、ヒータ88によって補助的に加熱される転写定着ベルト27の表面温度よりも高くなるように、転写定着面を加熱している。すなわち、転写定着ベルト27に担持されたトナー像Tは、主として、ニップ部にて記録媒体Pから受ける熱により加熱・溶融されることになる。
本実施の形態1では、記録媒体Pの転写定着面を加熱していて、出力画像上にて充分な光沢を得るための温度を独立して設定できるので、転写定着ベルト27の温度(定着設定温度)を低くできる。また、記録媒体Pは転写・定着工程の直前に加熱されるので、過剰に加熱されずに、トナーTと記録媒体Pとの密着性も必要以上に高められることはない。
すなわち、本実施の形態1の構成によれば、低温定着が可能であって、装置のウォームアップ時間を短縮できて、省エネルギ化を向上させることができる。また、転写定着ベルト27への熱移動を抑制できるので、転写定着ベルト27の耐久性を向上させることができる。さらに、転写定着ベルト27の加熱温度が低減されるために、転写定着ベルト27の熱劣化を抑制できる。
【0053】
また、本実施の形態1における転写定着装置66は、伝熱板67bによってニップ部に案内される記録媒体Pを、ブラシ状ローラ91(付勢部材)によって伝熱板67bに押し付ける(付勢する)ように構成されている。このように構成することにより、伝熱板67bに対する記録媒体Pの密着力と密着時間が向上するために、伝熱板67bによって記録媒体Pの表面を確実に目標温度まで温度上昇させて、定着不良を抑制することが可能となる。
【0054】
ここで、ブラシ状ローラ91は、芯金上に、ポリイミド繊維やアラミド繊維等が植毛されたブラシ布が螺旋状に巻回された耐熱性を有するローラ状部材であって、図2の時計方向に回転する。そして、レジストローラ64の位置を通過した記録媒体Pは、伝熱板67bに案内されて、ニップ部の直前で、ブラシ状ローラ91に付勢されて伝熱板67bに押し当てられながら、伝熱板67bによって加熱された後に、ニップ部に送入されることになる。
なお、本実施の形態1におけるブラシ状ローラ91は、その外径が30mm、ブラシ毛の毛足長さが10mm、ブラシ毛の原糸太さが1330T/120F、ブラシ毛の密度が10万〜15万本/inch2に設定されている。また、ブラシ状ローラ91のブラシ毛は、上述のものに限定されることなく、フッ素樹脂や、耐熱性の樹脂や金属、又は、それらの表面に低摩耗材料をコーティングしたもの、等を用いることもできる。ブラシ状ローラ91に耐熱性をもたせることで、伝熱板67bの熱によってブラシ状ローラ91のブラシ毛が熱劣化する不具合を軽減することができる。
【0055】
ブラシ状ローラ91は、記録媒体Pとの接触位置における線速度が記録媒体Pの搬送速度に対して同等以上になるように回転駆動されることが好ましい。すなわち、ブラシ状ローラ91は、記録媒体Pの搬送速度と等速又はそれ以上の速度で、図2の時計方向に回転することが好ましい。
このような構成により、記録媒体Pがブラシ状ローラ91と伝熱板67bとの接触位置に進入するときに、ブラシ状ローラ91に引っ掛かって搬送性が低下する不具合を防止することができる。なお、本実施の形態1では、ブラシ状ローラ91の記録媒体Pとの接触位置における線速度が、記録媒体Pの搬送速度に対して1〜3%速くなるように設定されている。
【0056】
また、付勢部材としてブラシ状ローラ91は、伝熱板67bに案内される記録媒体Pに複数個所で点接触又は線接触することになる。記録媒体Pとの接触面積を極力小さくして記録媒体Pを伝熱板67bに押圧することで、ブラシ状ローラ91の側に熱が移動して記録媒体Pの加熱効率が低下する不具合を抑止することができるとともに、記録媒体Pの搬送性が低下する不具合を抑止することができる。
なお、本実施の形態1では、伝熱板67bに圧接するブラシ状ローラ91の加圧幅(ニップ幅)が3〜12mmになるように設定されている(3〜5kgf程度の加圧圧に相当する。)。
【0057】
このように、本実施の形態1における転写定着装置66は、ヒータ88による転写定着ベルト27の加熱を最小限に抑えて、トナーの加熱・溶融に必要な熱量を、ニップ部に搬送される直前に記録媒体Pを効率的に加熱することで補足するものである。しかし、その場合に、加熱された記録媒体Pから転写定着ベルト27が多量かつ不均一な分布の熱を受けて、転写定着ベルト27の幅方向(記録媒体の搬送方向に直交する方向である。)に温度ムラが生じて、定着ムラやオフセット等の定着不良画像が発生しやすくなってしまう。
これに対して、ニップ部を通過した後の転写定着ベルト27の表面の幅方向の温度分布を均一化するヒートパイプを、ニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側に設置することもできる。ヒートパイプは、その内部で熱を効率的に対流させることで、転写定着ベルト27表面の幅方向の温度分布を均一化する。これにより、転写定着ベルト27の加熱を最小限に抑えてニップ部に搬送される直前の記録媒体Pを加熱装置67によって加熱する場合であっても、定着ムラやオフセット等の定着不良が発生するのを抑止することができる。
【0058】
なお、本実施の形態1では、加熱装置67の加熱体67aとして抵抗発熱体(正特性サーミスタ)を用いて伝熱板67bを加熱体67aによって加熱されるように構成した。これに対して、伝熱板67bを所定のキューリー点に達すると透磁率が低下する金属材料で形成して、伝熱板67bを電磁誘導により加熱することもできる。そして、このような場合にも、上述したものと同様の効果を得ることができる。
具体的に、加熱装置は、ニッケル、鉄等の整磁合金からなる板厚0.3mm程度の伝熱板と、伝熱板に対向する誘導コイル(加熱体)と、等で構成される。このような構成により、誘導コイルに20kHzの高周波電圧が印加されると、伝熱板が電磁誘導加熱されて、記録媒体Pの転写定着面に熱を伝えることになる。なお、伝熱板は、整磁合金中のニッケル成分の比率が40%程度に設定されていて、その温度が200℃(キューリー点)に達すると透磁率が急激に低下して電磁誘導加熱されなくなる。具体的に、このように構成された伝熱板は、1200ワットの電力で3秒後に190〜200℃にまで昇温して、その後は自己温度制御機能により210℃以上に昇温することはない。
【0059】
また、本実施の形態1では、伝熱部材として板状の伝熱板67bを用いた。これに対して、伝熱部材としてローラ状の伝熱ローラを用いることもできる。具体的に、伝熱ローラは、その内部に加熱体としてのヒータが固設されていて、ブラシ状ローラ91に圧接してニップを形成している。そして、伝熱ローラは、図2の反時計方向に回転することで、記録媒体を加熱しながらニップ部に向けて搬送する。
【0060】
以下、図4〜図6等を用いて、本実施の形態1における転写定着装置66において特徴的な、押圧部材85の構成・動作について詳述する。
図4を参照して、本実施の形態1における転写定着装置66は、1次転写部100に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側であってニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側に、転写定着ベルト27の弛みが生じるように構成されている。さらに、ニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側にも、転写定着ベルト27の弛みが生じるように構成されている。すなわち、転写定着ベルト27は、ニップ部の前後の範囲で、図4の一点鎖線で示すベルトの仮想軌跡(ベルト弛みがない場合のベルトの軌跡である。)に対して緩やかな曲率をもって張架されている。
【0061】
具体的に、図4を参照して、転写定着ベルト27の周長は、3つのローラ部材28A〜28Cによって弛みなく張架される周長よりも長くなるように設定されている。そして、1次転写部100の上流側において、従動ローラ28Cとクリーニングブレード29a(ベルトクリーニング装置29)とで転写定着ベルト27を挟み込むようにして転写定着ベルト27の搬送方向に対して負荷を与えている。さらに、1次転写部100の下流側において、駆動ローラ28Aによって充分な駆動力にて転写定着ベルト27を駆動している。したがって、1次転写部100における転写定着ベルト27の張力が常に大きくなって、それ以外の範囲が弱テンション部となる。これにより、出力画像上にショックジターが生じる不具合を未然に防止することができる。詳しくは、記録媒体Pの先端がニップ部(転写定着ベルト27と加圧ローラ68との当接位置である。)に突入する瞬間と、記録媒体Pの後端がニップ部から送出される瞬間と、には、転写定着ベルト27の速度変動が生じやすい。そして、この速度変動によって、1次転写部100でおこなわれる1次転写工程においてショックジター(出力画像に転写定着ベルト27の走行方向に対応した方向の伸縮が生じる現象である。)が生じてしまう。このように転写定着ベルト27の速度変動が1次転写部100に影響しないようにするためには、駆動ローラ28Aからニップ部を通り従動ローラ28Cに至る範囲における転写定着ベルト27の張力が、1次転写部100における転写定着ベルト27の張力よりも小さくなるように、設定する必要がある。本実施の形態1では、1次転写部100における転写定着ベルト27の張力が常に大きくなって、それ以外の範囲が弱テンション部となるように設定しているため、転写定着部で生じた転写定着ベルト27の速度変動が弱テンション部で吸収されて、出力画像上にショックジターが生じる不具合が防止される。
【0062】
さらに、本実施の形態1では、転写定着ベルト27を一定速度で駆動する駆動ローラ28Aに対して、対向ローラ28Bは、その回転速度を可変できるように構成されている。そして、対向ローラ28Bの回転速度を可変制御することで、1次転写部100に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側であってニップ部(転写定着部)に対して転写定着ベルト27の走行方向下流側に生じさせる転写定着ベルト27の弛み(ニップ部下流側の弛みである。)と、駆動ローラ28Aに対して転写定着ベルト27の走行方向下流側であってニップ部に対して転写定着ベルト27の走行方向上流側に生じさせる転写定着ベルト27の弛み(ニップ部上流側の弛みである。)と、を調整している。これにより、駆動ローラ28Aと転写定着ベルト27との間に滑りが生じた場合であっても、対向ローラ28Bの回転速度を調整することによって、ニップ部の上流側又は下流側に偏った弛みを生じさせることなく、ニップ部の上流側と下流側とにそれぞれバランスよく弛みを生じさせることができる。したがって、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果が、安定的に発揮されることになる。
【0063】
なお、本実施の形態1では、ニップ部上流側における転写定着ベルト27の幅方向両端部の弛み量を検知する変位センサ110A、110Bと、ニップ部下流側における転写定着ベルト27の幅方向両端部の弛み量を検知する変位センサ110C、110Dと、を設置している。また、本実施の形態1における転写定着装置66は、加圧ローラ68の幅方向両端部の加圧力を可変することで、対向ローラ28Bに対する加圧ローラ68の幅方向の加圧バランスを可変できるように構成されている。そして、これらの変位センサ110A〜110Dの検知結果に基いて、対向ローラ28Bの回転速度や加圧ローラ68による加圧バランスを可変している。
具体的に、ニップ部上流側の変位センサ110A、110Bによる検知結果と、ニップ部下流側の変位センサ110C、110Dによる検知結果と、を比較して、ニップ部上流側のベルト弛みが大きくてニップ部下流側のベルト弛みが小さいと判断された場合には対向ローラ28Bの回転速度を加速して、ニップ部上流側のベルト弛みが小さくてニップ部下流側のベルト弛みが大きいと判断された場合には対向ローラ28Bの回転速度を減速して、ニップ部の上流側と下流側のベルト弛みのバランスをとる。また、幅方向一端側の変位センサ110A、110Cの検知結果と、幅方向他端側の変位センサ110B、110Dの検知結果と、を比較して、幅方向両端のベルト弛みのバランスが悪いと判断された場合には、加圧ローラ68による加圧バランスを可変して、幅方向両端のベルト弛みのバランスを補正する。
【0064】
ここで、本実施の形態1では、図4を参照して、転写定着ベルト27の弛みが生じている位置(弛み部)であってニップ部の近傍の位置(ニップ部下流側の位置である。)に、押圧部材85が設置されている。この押圧部材85は、不図示の駆動モータに接続された軸部85aを中心にして回動することで、転写定着ベルト27の外周面に対して接離可能に構成されている。そして、図6を参照して、転写定着ベルト27の幅方向の中央部を転写定着ベルト27の外周面側から押圧して転写定着ベルト27のニップ部下流側の弛み部の幅方向中央部を局所的に変形させる。
このような構成により、ニップ部から送出された記録媒体Pの先端部は、ベルト弛みによって曲率が大きくなっている転写定着ベルト27に密着することなく、押圧部材85によって凹状に変形されて曲率が小さくなった位置で転写定着ベルト27から曲率分離することになる。したがって、転写定着工程後に転写定着ベルト27に対して記録媒体Pの分離不良が生じる不具合が抑止される。特に、本実施の形態1における転写定着装置66は、ニップ部に送入される前に記録媒体Pの表面を加熱装置67で加熱しているために、厚さが薄くてコシの弱い記録媒体(例えば、45〜55K程度の用紙である。)を用いる場合に、記録媒体Pが転写定着ベルト27に密着する方向にカールしやすいが、そのような場合であっても押圧部材85により転写定着ベルト27のニップ部下流側に凹部を形成することで記録媒体Pの分離不良を抑止することができる。
また、本実施の形態1では、転写定着ベルト27におけるニップ部下流側の一部(幅方向中央部)のみを押圧部材85によって押圧しているので、転写定着ベルト27における弱テンション部の全体的なバランスが大きく崩れることはない。したがって、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果を維持しつつ、転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良を抑止することができる。
【0065】
なお、本実施の形態1では、転写定着ベルト27におけるニップ部下流側の幅方向の一部(幅方向中央部)のみを押圧部材85によって押圧したが、転写定着ベルト27における弱テンション部の全体的なバランスをある程度維持できるのであれば、転写定着ベルト27におけるニップ部下流側の幅方向の全部を幅方向全域にわたって押圧部材85によって押圧することもできる。
【0066】
ここで、本実施の形態1における押圧部材85は、その先端部が転写定着ベルト27の外周面に当接するとともに、その中央部が記録媒体Pの搬送を案内する分離爪として機能する。詳しくは、押圧部材85の表面は、摩擦係数の低いPFA等の低摩擦材料でコーティングされている。そして、図6に示すように、押圧部材85が転写定着ベルト27の外周面に当接した状態で、押圧部材85の先端部から軸部85aに至る下面の形状が、なだらかに記録媒体Pの搬送経路に沿うように形成されている。これにより、ニップ部から送出された記録媒体Pの先端部が転写定着ベルト27に密着してしまった場合であっても、分離爪としても機能する押圧部材85によって、記録媒体Pが転写定着ベルト27から機械的に分離されて搬送経路に導かれることになる。
【0067】
また、本実施の形態1において、押圧部材85は、ニップ部への記録媒体Pの搬送がおこなわれないときには転写定着ベルト27から離間するように制御されることが好ましい。すなわち、ニップ部への記録媒体Pの搬送がおこなわれないときには図4に示すように押圧部材85は転写定着ベルト27から離間して、ニップ部への記録媒体Pの搬送がおこなわれるときには図6に示すように押圧部材85は転写定着ベルト27の弛み部を押圧する。
これにより、押圧部材85による転写定着ベルト27の表面へのダメージを軽減することができる。
【0068】
その際、押圧部材85は、記録媒体Pの先端部がニップ部から送出されるタイミングで転写定着ベルト27を押圧して、その記録媒体Pの後端部がニップ部から送出されるまでに転写定着ベルト27から離間するように制御されることがさらに好ましい。すなわち、記録媒体Pの先端部がニップ部から送出されて転写定着ベルト27に密着する直前のタイミングで、押圧部材85によって転写定着ベルト27を押圧して凹部を形成する。そして、記録媒体Pの先端部が転写定着ベルト27から確実に分離された後に、押圧部材85を転写定着ベルト27から離間する。
これにより、押圧部材85が転写定着ベルト27を押圧する時間を必要最小限に軽減することができ、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果を確実に維持しつつ、転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良を効率的に抑止することができる。
【0069】
また、本実施の形態1において、押圧部材85は、ニップ部に搬送される記録媒体Pの厚さが所定値以上である場合に転写定着ベルト27から離間するように制御させることもできる。具体的に、厚さが厚くてコシが強い記録媒体P(厚紙)を通紙する場合には、ニップ部下流側において転写定着ベルト27の弛みが大きくても転写定着ベルト27から分離されやすい反面、ニップ部に送出される際のショックが大きくなる。したがって、このような厚紙を通紙する場合には、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止することを優先して、押圧部材85を転写定着ベルト27に押し当てて転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良に対する余裕度を向上させる制御をおこなわない。なお、記録媒体Pの厚さは、給紙部61や搬送経路中に設けた紙厚センサ(不図示である。)によって検知することができる。
【0070】
また、本実施の形態1において、押圧部材85は、ニップ部に搬送される記録媒体Pの先端部から画像が形成されない範囲が所定値以上である場合に転写定着ベルト27から離間するように制御させることもできる。具体的に、記録媒体P上に形成する画像の先端の余白部が広い場合(先端余白部の搬送方向の長さが長い場合である。)には、記録媒体Pの先端部が転写定着ベルト27に密着しにくく、転写定着ベルト27の弛みが大きくても転写定着ベルト27から分離されやすい。したがって、このような場合には、押圧部材85が転写定着ベルト27を押圧することによる転写定着ベルト27へのダメージを軽減するために、押圧部材85を転写定着ベルト27に押し当てて転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良に対する余裕度を向上させる制御をおこなわない。なお、記録媒体Pの先端部から画像が形成されない範囲は、書込み部2に入出力される画像データ等から検知することができる。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、ニップ部の下流側近傍の位置で弛みが生じている転写定着ベルト27を押圧して局所的に変形させる押圧部材85を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体Pの転写定着ベルト27に対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルト27の速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合を軽減することができる。
【0072】
なお、本実施の形態1では、加熱装置67とヒータ88とが設置された転写定着装置66に対して本発明を適用したが、加熱装置67とヒータ88とのうちいずれか一方のみが設置された転写定着装置66(紙加熱のみをおこなう装置、又は、紙加熱をおこなわない装置、である。)に対しても、当然に本発明を適用することができる。
また、本実施の形態1では、転写定着ベルト27の外周面に対向する位置にヒータ88(加熱手段)を設置したが、転写定着ベルト27の内周面に対向する位置にヒータ88(加熱手段)を設置することもできる。
そして、これらの場合であっても、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0073】
実施の形態2.
図7にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図7は、実施の形態2における転写定着装置の一部を示す拡大図であって、前記実施の形態1における図6に相当する図である。本実施の形態2における転写定着装置は、押圧部材85の近傍に送風手段としての送風ファン115を設置している点が、前記実施の形態1のものとは相違する。
【0074】
図7を参照して、本実施の形態2における転写定着装置66も、前記実施の形態1のものと同様に、転写定着ベルト27、加圧ローラ68(加圧部材)、押圧部材85、加熱装置67、ブラシ状ローラ91、ヒータ88、等で構成される。そして、押圧部材85が転写定着ベルト27のニップ部下流側に当接して転写定着ベルト27の弛み部を局所的に変形させることで、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果を維持しつつ、転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良を抑止することができる。
なお、本実施の形態2では、転写定着ベルト27の弛み部でシワや波打ちが生じないように、転写定着ベルト27を張架・支持する3つのローラ部材28A〜28Cに加えて、弱い当接力で転写定着ベルト27の内周面に当接するようにテンショナ116が設けられている。
【0075】
ここで、図7を参照して、本実施の形態2における転写定着装置66は、押圧部材85によって転写定着ベルト27が変形される位置に向けて転写定着ベルト27の外周面側から空気を送り込む送風手段としての送風ファン115が設置されている。
詳しくは、送風ファン115の送風口にダクトが設置されていて、送風ファン115から送出された空気が押圧部材85によって変形された転写定着ベルト27の凹部に向けて送風される。これにより、押圧部材85によって変形された転写定着ベルト27の凹部まで搬送された記録媒体Pの先端部は、凹部の曲率によって分離されるとともに、凹部に送風された空気の力によって転写定着ベルト27からエアー分離されることになる。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態2によれば、前記実施の形態1と同様に、ニップ部の下流側近傍の位置で弛みが生じている転写定着ベルト27を押圧して局所的に変形させる押圧部材85を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体Pの転写定着ベルト27に対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルト27の速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合を軽減することができる。
【0077】
実施の形態3.
図8及び図9にて、この発明の実施の形態3について詳細に説明する。
図8は、実施の形態3における転写定着装置の一部を示す拡大図であって、前記実施の形態1における図6に相当する図である。また、図9は、別の転写定着装置の変形例を示す拡大図であって、前記実施の形態1における図6に相当する図である。
本実施の形態3における転写定着装置は、押圧部材85によって変形される転写定着ベルト27の変形量や形状を規制する規制部材121、122を設置している点が、前記実施の形態1のものとは相違する。
【0078】
図8を参照して、本実施の形態3における転写定着装置66も、前記実施の形態1のものと同様に、転写定着ベルト27、加圧ローラ68(加圧部材)、押圧部材85、加熱装置67、ブラシ状ローラ91、ヒータ88、等で構成される。そして、押圧部材85が転写定着ベルト27のニップ部下流側に当接して転写定着ベルト27の弛み部を局所的に変形させることで、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果を維持しつつ、転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良を抑止することができる。
【0079】
ここで、図8を参照して、本実施の形態3における転写定着装置66は、転写定着ベルト27を介して押圧部材85に当接して押圧部材85によって変形される転写定着ベルト27の変形量や形状を規制する規制部材としての段付ローラ121が設けられている。
詳しくは、段付ローラ121は、幅方向中央部121a(幅方向の長さが10〜20mm程度に設定されている。)の外径が、幅方向両端部の外径よりも2〜6mmほど小さくなるように形成されている。そして、押圧部材85が転写定着ベルト27を介して段付ローラ121の幅方向中央部121aに当接することで、押圧部材85によって変形される転写定着ベルト27の凹部の変形量や形状が所望のものに規制される。したがって、押圧部材85によって転写定着ベルト27が大きく変形してしまい、弱テンション部が消失してしまう不具合が抑止される。なお、段付ローラ121の幅方向両端部は、弛みが生じている転写定着ベルト27に沿うように小さな力で当接している。
【0080】
また、押圧部材85によって変形される転写定着ベルト27の変形量や形状を規制する規制部材は、上述した段付ローラ121に限定されることなく、図9に示すような弾性ローラ122を規制部材として用いることもできる。
詳しくは、弾性ローラ122は、発泡ウレタン等からなる弾性層が設けられていて、押圧部材85が転写定着ベルト27を介して弾性ローラ122に当接することで、弾性ローラ122が所定量だけ弾性変形して、押圧部材85によって変形される転写定着ベルト27の凹部の変形量や形状が所望のものに規制される。したがって、押圧部材85によって転写定着ベルト27が大きく変形してしまい、弱テンション部が消失してしまう不具合が抑止される。なお、弾性ローラ122は、押圧部材85が転写定着ベルト27から離間しているときに、比較的弱い当接力で転写定着ベルト27の内周面に当接するように構成されていて、転写定着ベルト27の弛み部でシワや波打ちが生じないようにするテンショナとして機能することになる。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態3によれば、前記各実施の形態と同様に、ニップ部の下流側近傍の位置で弛みが生じている転写定着ベルト27を押圧して局所的に変形させる押圧部材85を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体Pの転写定着ベルト27に対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルト27の速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合を軽減することができる。
【0082】
実施の形態4.
図10にて、この発明の実施の形態4について詳細に説明する。
図10は、実施の形態4における転写定着装置の一部を示す拡大図であって、前記実施の形態1における図6に相当する図である。本実施の形態4における転写定着装置は、押圧部材86が転写定着ベルト27を内周面側から押圧する点が、押圧部材85が転写定着ベルト27を外周面側から押圧する前記実施の形態1のものとは相違する。
【0083】
図10を参照して、本実施の形態4における転写定着装置66も、前記実施の形態1のものと同様に、転写定着ベルト27、加圧ローラ68(加圧部材)、押圧部材86、加熱装置67、ブラシ状ローラ91、ヒータ88、等で構成される。
【0084】
ここで、図10を参照して、本実施の形態4における転写定着装置66は、押圧部材86が、転写定着ベルト27のニップ部下流側であって、転写定着ベルト27の内周面の幅方向中央部に当接して、転写定着ベルト27の弛み部を局所的に変形させる。
このような場合にも、押圧部材86によって転写定着ベルト27のニップ部下流側の弛み部に凸部が形成されて、この凸部の曲率によってその位置に達した記録媒体Pの先端部が転写定着ベルト27から分離されることになる。したがって、弱テンション部を設けることにより出力画像上のショックジターを抑止する効果を維持しつつ、転写定着ベルト27に対する記録媒体Pの分離不良を抑止することができる。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態4によれば、ニップ部の下流側近傍の位置で弛みが生じている転写定着ベルト27を押圧して局所的に変形させる押圧部材86を設けているために、ニップ部から送出された記録媒体Pの転写定着ベルト27に対する分離性を低下させることがなく、転写定着ベルト27の速度変動によって出力画像上にショックジターが生じる不具合を軽減することができる。
【0086】
実施の形態5.
図11にて、この発明の実施の形態5について詳細に説明する。
図11は、実施の形態5における定着装置を示す図である。本実施の形態5は、押圧部材185が定着装置166に設置されている点が、押圧部材85が転写定着装置66に設置されている前記実施の形態1のものとは相違する。
【0087】
本実施の形態5における画像形成装置は、前記各実施の形態における画像形成装置のように転写工程と定着工程とを同時におこなう転写定着装置66は設置されておらず、転写工程をおこなう転写装置とは別に定着工程のみをおこなう定着装置166が設置されている。
ここで、定着装置166は、加熱ローラ128A、定着ローラ128B、定着ベルト127、加圧ローラ168、押圧部材185、等で構成されている。
定着ベルト127は、加熱ローラ128Aと定着ローラ128Bとによって張架されている。そして、定着ベルト127は、ニップ部(定着ローラ128Bと加圧ローラ168とが圧接する位置である。)の下流側でベルト弛みが生じるように構成されている。具体的に、定着ベルト127の周長は予め大きく形成されていて、駆動ローラとして機能する定着ローラ128Bから加熱ローラ128Aに至る範囲が弱テンション部になるように構成されている。
加熱ローラ128Aの内部には、ヒータ188が設置されていて、加熱ローラ128Aを介して定着ベルト127を加熱している。そして、ニップ部に送入される記録媒体P上のトナー像を、定着ベルト127の熱と、定着ローラ128Bと加圧ローラ168との圧接力と、によって記録媒体P上に定着する。
【0088】
ここで、押圧部材185は、軸部185aを中心にして回動自在に構成されていて、ニップ部から記録媒体Pの先端部が送出されるタイミングで、定着ベルト127の弛み部に当接して定着ベルト127を変形させる。
これにより、定着ベルト127のニップ部下流側に弛み部を設けた場合であっても、ニップ部から送出された記録媒体Pの定着ベルト127に対する分離性を低下させる不具合を軽減することができる。
なお、本実施の形態5のように、転写工程と定着工程を別々におこなう場合には、前記各実施の形態のものとは異なり、定着ニップ部に記録媒体Pが送出入されるときのショックによって出力画像上にショックジターが生じる不具合は発生しない。したがって、出力画像上のショックジターを抑止することを目的として、定着ベルト127のニップ部下流側に弛み部を意図的に形成するメリットはない。しかし、定着ベルト127に強いテンションを与えずに定着ベルト127の機械的な寿命を延ばしたいときなどには、本実施の形態5のような構成が有効である。そして、本実施の形態5では、記録媒体P上に形成した画像の先端余白が狭い場合や、コシの弱い薄紙を通紙する場合などであっても、定着ベルト127のニップ部下流側に形成された弛み部を押圧部材185で変形させているために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト127から良好に分離することができる。
【0089】
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
27 転写定着ベルト(転写定着部材)、
28A 駆動ローラ(ローラ部材)、
28B 対向ローラ(ローラ部材)、
28C ローラ部材、
66 転写定着装置、
67 加熱装置、 67a 加熱体、 67b 伝熱板(伝熱部材)、
68 加圧ローラ(加圧部材)、
85 押圧部材(分離爪)、
88 ヒータ、
91 ブラシ状ローラ(付勢部材)、
100 1次転写部、
115 送風ファン(送風手段)、
121 段付ローラ(規制部材)、 122 弾性ローラ(規制部材)、
P 記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0091】
【特許文献1】特開2006−91101号公報
【特許文献2】特開2008−170908号公報
【特許文献3】特開2008−145680号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にトナー像を転写するとともに定着する転写定着装置であって、
像担持体に対向する1次転写部で当該像担持体上に形成されたトナー像が転写されるとともに、複数のローラ部材に張架された転写定着ベルトと、
前記転写定着ベルトに圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧部材と、
を備え、
前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側に前記転写定着ベルトの弛みが生じるように構成され、
前記転写定着ベルトの前記弛みが生じている位置であって前記ニップ部の近傍の位置で、前記転写定着ベルトの幅方向の一部又は全部を前記転写定着ベルトの外周面側又は内周面側から押圧して前記転写定着ベルトを局所的に変形させる押圧部材をさらに備えたことを特徴とする転写定着装置。
【請求項2】
前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部への記録媒体の搬送がおこなわれないときには前記転写定着ベルトから離間するように制御されることを特徴とする請求項1に記載の転写定着装置。
【請求項3】
前記押圧部材は、記録媒体の先端部が前記ニップ部から送出されるタイミングで前記転写定着ベルトを押圧して、当該記録媒体の後端部が前記ニップ部から送出されるまでに前記転写定着ベルトから離間するように制御されることを特徴とする請求項2に記載の転写定着装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部に搬送される記録媒体の厚さが所定値以上である場合に前記転写定着ベルトから離間するように制御されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項5】
前記押圧部材は、前記転写定着ベルトに対して接離可能に構成され、前記ニップ部に搬送される記録媒体の先端部から画像が形成されない範囲が所定値以上である場合に前記転写定着ベルトから離間するように制御されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項6】
前記押圧部材によって前記転写定着ベルトが変形される位置に向けて前記転写定着ベルトの外周面側から空気を送り込む送風手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項7】
前記転写定着ベルトを介して前記押圧部材に当接して前記押圧部材によって変形される前記転写定着ベルトの変形量又は/及び形状を規制する規制部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項8】
前記押圧部材は、その先端部が前記転写定着ベルトの外周面に当接するとともに、その中央部が記録媒体の搬送を案内する分離爪であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項9】
前記複数のローラ部材のうちの1つであって前記転写定着ベルトを駆動するとともに、前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側に配設された駆動ローラと、
前記複数のローラ部材のうちの1つであって前記ニップ部の位置で前記転写定着ベルトを介して前記加圧部材に圧接するとともに、その回転速度が可変制御される対向ローラと、
を備え、
前記対向ローラの回転速度を可変制御することで、前記1次転写部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側に生じさせる前記転写定着ベルトの弛みと、前記駆動ローラに対して前記転写定着ベルトの走行方向下流側であって前記ニップ部に対して前記転写定着ベルトの走行方向上流側に生じさせる前記転写定着ベルトの弛みと、を調整することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項10】
加熱体によって加熱されるとともに、前記ニップ部に向けて搬送される記録媒体を案内しながら当該記録媒体の転写定着面を加熱する伝熱部材と、
前記伝熱部材に案内される記録媒体を当該伝熱部材に向けて付勢する付勢部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の転写定着装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の転写定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−39328(P2011−39328A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187290(P2009−187290)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】