説明

転動体、転動体の製造方法及び動力伝達装置

【課題】耐焼付性に優れた転動体、その製造方法及び耐焼付性に優れた転動体を備えた動力伝達装置を提供する。
【解決手段】転動体は、基材と、該基材の表面に形成される皮膜とを備える。この転動体における皮膜は、上記基材の硬度より高い硬度及び上記基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを少なくとも表面構成要素として含む。
転動体の製造方法は、上記転動体を製造する方法であって、基材の表面への皮膜の形成を、溶射材を用いた溶射法によって行う方法である。この転動体の製造方法における溶射材は、上記基材の硬度より高い硬度及び上記基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体、転動体の製造方法及び動力伝達装置に関する。
更に詳細には、本発明は、耐焼付性に優れた転動体、その製造方法及び耐焼付性に優れた転動体を備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高面圧下で用いられるトロイダル式無段変速機用転動体においては、機械構造用鋼に対してプラスマ高濃度浸炭処理又はプラスマ高濃度浸炭処理に更にショットピーニング処理を施し、耐久性を向上させたものが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−338493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばトラクションドライブを用いた多段変速機や四輪駆動車両のトランスファは、クラッチ機構を転動体に持たせる構造となっているが、このようなすべりを伴う条件下で使用する転動体についての研究は殆ど知られていない。
【0005】
そこで、本発明者らが、上記特許文献1に記載された転動体をすべりを伴う条件下で使用する転動体として用いたところ、例えば変速時や駆動力伝達時などに発生するすべりによって、発熱量が大きくなり、焼付きが発生してしまうという新たな問題を見出した。
【0006】
本発明は、このような新たな問題を解決するためになされたものである。
そして、本発明の目的とするところは、耐焼付性に優れた転動体、その製造方法及び耐焼付性に優れた転動体を備えた動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。
そして、その結果、基材の表面に、基材の硬度より高い硬度及び基材の融点より高い融点を有する硬質粒子と金属単体や合金などの金属材とを表面構成要素として含む皮膜を形成することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の転動体は、基材と、該基材の表面に形成される所定の皮膜とを備えたものである。
そして、この転動体における所定の皮膜は、上記基材の硬度より高い硬度及び上記基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを少なくとも表面構成要素として含むものである。
【0009】
また、本発明の転動体の製造方法は、上記本発明の転動体を製造する方法であって、基材の表面への皮膜の形成を、所定の溶射材を用いた溶射法によって行う方法である。
そして、この転動体の製造方法における所定の溶射材は、上記基材の硬度より高い硬度及び上記基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを含むものである。
【0010】
更に、本発明の動力伝達装置は、上記本発明の転動体を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐焼付性に優れた転動体、その製造方法及び耐焼付性に優れた転動体を備えた動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る転動体における皮膜の構造の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る動力伝達装置の一例を示す断面図である。
【図3】焼付き試験の要領を示す斜視説明図である。
【図4】焼付き試験における荷重条件を示すグラフである。
【図5】実施例1における皮膜のX線回折分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の転動体、転動体の製造方法及び動力伝達装置について詳細に説明する。
【0014】
まず、本発明の一実施形態に係る転動体について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の転動体における皮膜の構造の一例を示す概略図である。
図1(A)は、皮膜の構造を表面から観察した概略図であり、図1(B)は、皮膜の構造を断面から観察した概略図である。
図1に示すように、本実施形態の転動体1は、基材2と、基材2の表面に形成される所定の皮膜4とを備えたものである。
そして、この転動体1における所定の皮膜4は、基材2の硬度より高い硬度及び基材2の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子4aと、金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材4bとを表面構成要素として含むものである。
なお、本発明において、「硬度」は、例えばビッカース硬度(HV)で規定することができるが、これに限定されるものではなく、他の尺度を用いてもよい。
また、本発明において、「表面構成要素」とは、皮膜の構造を表面から観察したときに表面を構成する要素のことであり、例えば図1(A)に示された転動体においては、硬質粒子4aと金属材4bとが相当する。
【0015】
このような構成とすることにより、耐焼付性に優れた転動体となるので、クラッチ機構を転動体に持たせる構造であるトラクションドライブを用いた多段変速機や四輪駆動車両のトランスファなどの動力伝達装置に用いることが好適である。
【0016】
また、転動体においては、皮膜の硬度が基材の硬度より高いことが好ましい。
このように皮膜自体の硬度を基材の硬度より高くすることにより、従来の転動体の表面硬度より表面硬度が高くなるので、より耐焼付性が優れた転動体となる。
【0017】
以下、各構成について更に詳細に説明する。
【0018】
(基材2)
基材2としては、従来の転動体の基材として用いられているものを適用することができる。
このような基材としては、例えば、日本工業規格(JIS)で規格されたJIS G4051 機械構造用炭素鋼鋼材(SC)、JIS G4052 焼入れ保証した構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G4053 構造用合金鋼(マンガン鋼(SMn)、マンガンクロム鋼(SMnC)、クロム鋼(SCr)、クロムモリブデン鋼(SCM)、ニッケルクロム鋼(SNC)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM))、JIS G4401 炭素工具鋼鋼材(SK)、JIS G4403 高速度鋼鋼材(SKH)、JIS G4404 合金工具鋼鋼材(SKS、SKD、SKT)、JIS G4805 高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ)などで作製されたものを挙げることができる。
こららは、代表的には、硬度が700〜800HV程度であり、融点が1400〜1500℃程度である。
【0019】
(硬質粒子4a)
硬質粒子4aとしては、上述した基材と比較して相対的に高い硬度及び高い融点を有するものであれば、特に限定されることなく適用することができる。
このような硬質粒子としては、例えば、炭化物、硼化物、窒化物、珪化物、硫化物、酸化物、炭素の硬質粒子を挙げることができる。
一般に、上述した硬質粒子は、高硬度且つ高融点を示すものが多い。
また、これらは1種が単独で、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0020】
炭化物の硬質粒子としては、例えば炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(Cr)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、炭化硼素(BC)、炭化ケイ素(SiC)などからなる硬質粒子を挙げることができる。
硼化物の硬質粒子としては、例えば硼化チタン(TiB)、硼化ジルコニウム(ZrB)、硼化バナジウム(VB)、硼化ニオブ(NbB)、硼化タンタル(TaB)、硼化クロム(CrB)、硼化モリブデン(Mo)、硼化タングステン(W)、硼素(B)、硼化アルミニウム(AlB12)、硼化ケイ素(SiB)などからなる硬質粒子を挙げることができる。
窒化物の硬質粒子としては、例えば窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化クロム(CrN)、窒化硼素(c−BN)、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)などからなる硬質粒子を挙げることができる。
酸化物の硬質粒子としては、例えば酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化トリウム(ThO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化マグネシウム(MgO)などからなる硬質粒子を挙げることができる。なお、酸化マグネシウムは例えばジルコニウム酸マグネシウムとして含れていることが好ましい。
炭素の硬質粒子としては、ダイヤモンド(C)などから硬質粒子を挙げることができる。
【0021】
その中でも、硬度が高く、融点が高く、密度が高い炭化タングステン(WC、ビッカース硬度:2350HV、融点:2776℃、密度:15.72g/cm)が特に好ましい。
炭化タングステンは、密度が高いため、後述する溶射法によって皮膜を形成する際に、空孔が少ない緻密な皮膜を形成し易いという利点がある。
【0022】
(金属材4b)
金属材4bとしては、例えば金属単体や合金を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。例えば金属間化合物や固溶体であってもよい。
これらは1種が単独で、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
このような金属単体としては、例えばコバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)などを挙げることができる。
また、このような合金としては、例えばコバルト(Co)−クロム(Cr)やニッケル(Ni)−クロム(Cr)、ハステロイ(Hastelloy)、クロム(Cr)−モリブデン(Mo)、タングステン(W)−クロム(Cr)、ニッケル(Ni)−コバルト(Co)−クロム(Cr)、タングステン(W)−コバルト(Co)、ニッケル(Ni)−クロム(Cr)−アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)−モリブデン(Mo)などを挙げることができる。
その中でも、コバルト(Co)を好適に用いることができる。
コバルト(Co)は、塑性変形し易いため、緻密な皮膜を形成し易い。
【0023】
皮膜を構成する他の要素としては、例えば、後述する溶射法によって皮膜を形成する場合に硬質粒子として炭化タングステンを用いたときのη相を挙げることができる。
なお、η相は低級炭化物と言われることもある。
後述する溶射法によって皮膜を形成する場合に溶射材の構成成分である硬質粒子として炭化タングステンを適用すると、溶射材の他の構成成分である金属材としての金属単体や合金に、炭化タングステンの成分が溶出する。
このとき、金属材としてコバルト(Co)を適用すると、例えば炭化タングステン(WC、WC)の他にWCoCなどの複炭化物からなるη相が形成されることとなる。
η相は、一般に金属単体や合金に比較して、硬度や融点が高いものである。
従って、η相を含ませることにより、より耐焼付性が優れた転動体となる。
【0024】
次に、本発明の一実施形態に係る転動体の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の転動体の製造方法は、上述した本発明の一実施形態に係る転動体の製造方法の一例である。
具体的には、転動体を製造するに当たって、基材の表面への皮膜の形成を、基材の硬度より高い硬度及び基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを含む溶射材を用いた溶射法によって行う。
このような製造方法とすることにより、粒径が数μm〜数十μmの溶射材を基材表面に吹き付けることができるので、必要な部分にだけ高い成膜速度で皮膜を形成することができる。
また、このような製造方法とすると、溶射材における硬質粒子の含有割合を高く設定することができ、且つ必要な部分にだけ皮膜を形成することができるので、転動体を低コストで製造することができるという利点もある。
【0025】
また、溶射法については、例えば大気中で行う溶射法であることが好ましい。
大気中で皮膜の形成を行うことができると、大型の転動体の製造に対しても容易に適用することができる。
なお、雰囲気制御された条件で行うことが可能であることは言うまでもない。
【0026】
更に、溶射法ついては、例えば高速フレーム溶射法であることが好ましい。
高速フレーム溶射によって皮膜の形成を行うと、溶射材における硬質粒子の成分を金属単体や合金中に溶出させ易い。
その結果、皮膜中にη相を形成させやすくなり、皮膜の硬度及び融点が向上し、より耐焼付性が優れた転動体を得ることができる。
【0027】
また、溶射法における溶射材は、例えば上述した硬質粒子と上述した金属材を含む粒子とを用いて造粒した溶射材であることが好ましい。
硬質粒子と金属材粒子とから造粒した溶射材を用いる場合には、溶射材における組成の自由度が高く、微小な一次粒子が得られれば、あらゆる成分の組み合わせが可能になる。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係る動力伝達装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る動力伝達装置の一例である四輪駆動車両のトランスファを示す断面図である。
動力伝達装置の一例である四輪駆動車両のトランスファ100は、ハウジングH内に転動体の例である入力軸10及び出力軸20が配置されている。
入力軸10は、ボールベアリング31、32によりハウジングHに対して回転自在に支持されており、出力軸20も同様に、ボールベアリング33、34によりハウジングHに対して回転自在に支持されている。
入力軸10は更に、ハウジングH内に配されたローラベアリング35、36によってもハウジングHに対して回転自在に支持されており、出力軸20は更に、ハウジングH内に配したローラベアリング37、38によってもハウジングHに対して回転自在に支持されている。
【0029】
このため、入出力軸10、20の同じ軸直角面内に位置するローラベアリング35、37を、共通なベアリングサポート39内に抱持し、このベアリングサポート39をボルト40等の任意の手段でハウジングHの対応する内側面に取着する。
また、入出力軸10、20の同じ軸直角面内に位置するローラベアリング36、38を、共通なベアリングサポート41内に抱持し、このベアリングサポート41をボルト42等の任意の手段でハウジングHの対応する内側面に取着する。
【0030】
入力軸10の両端をそれぞれ、ハウジングHから突出させ、該入力軸10の図中左端を変速機(図示せず。)の出力軸に結合し、図中右端をリヤプロペラシャフト(図示せず。)を介してリヤファイナルドライブユニット(図示せず。)に結合する。
出力軸20の図中左端を、ハウジングHから突出させ、該出力軸20の突出左端をフロントプロペラシャフト(図示せず)を介してフロントファイナルドライブユニット(図示せず。)に結合する。
【0031】
入力軸10は、軸受鋼(SUJ)で形成されており、その軸線方向中程に軸受鋼(SUJ)で形成された第1ローラ11を有し、その表面には、高速フレーム溶射法によって、WC−Co皮膜12が形成されている。
また、出力軸20も、軸受鋼(SUJ)で形成されており、その軸線方向中程に軸受鋼(SUJ)で形成された第2ローラ21を有し、その表面には、高速フレーム溶射法によって、WC−Co皮膜22が形成されている。
これらは、第1ローラ11及び第2ローラ21が共通な軸直角面内に配置されている。
そして、第1ローラ11及び第2ローラ21が相互に径方向へ押し付けられ、ローラ外周面における皮膜同士が符号12a、22aで示す箇所において予圧下に押圧接触される。
【0032】
つまり、ベアリングサポート39、41は、第1ローラ11及び第2ローラ21の軸間距離を、第1ローラ11の半径と第2ローラ21の半径との和値よりも小さくすることで、第1ローラ11及び第2ローラ21間に径方向押圧力を発生させている。
この径方向押付力によって第1ローラ11及び第2ローラ21間で伝達可能なトルクが決まる。
なお、図2においては、第1ローラ11及び第2ローラ21の両方に皮膜12、22を形成しているが、耐焼付性が満足できる場合にはどちらか一方のみに皮膜を形成してもよい(図示せず。)。
【0033】
トランスファー100は、例えば後輪が滑りやすい路面にあり、前輪が滑りにくい路面にある場合、入力軸10が回転して出力軸20は回転していない状態になる。
そのとき、車両を走行させるために入力軸10の第1ロータ11と出力軸20の第2ロータ21とを押付けることで出力軸20に駆動力が伝達される。
その際、出力軸20は回転していない状態なので、押付けられることで大きなすべり速度を持って駆動力が伝達することになる。
そして、本発明の転動体を適用したトランスファにおいては、所定の皮膜が形成されているため、焼付きが発生を抑制ないし防止して、駆動力を十分に伝達することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1〜実施例13、比較例1〜5)
表1に示す各基材の表面に対して、酸化アルミニウム粒子を使用したブラスト処理をした。
次に、表1に示す硬質粒子及び金属材粒子を用いて造粒して得られた溶射材を用いて表2に示す条件の高速フレーム溶射を行い、表1に示す硬質粒子と金属材とを表面構成要素として含む皮膜を基材の表面に形成して、実施例1〜実施例13の転動体(ブロック及びリング)を得た。
なお、比較例1〜比較例5については、皮膜を形成していない基材自体を、比較例1〜比較例5の転動体(ブロック及びリング)とした。
実施例1における溶射材の組成は、WC−12質量%Coである。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
[性能評価]
(焼付き試験)
ブロックオンリング摩擦摩耗試験機(FALEX社製、LFW−1)を用いた焼付き試験を行った。
まず、各例の焼付き試験用の転動体(焼付き試験用ブロック及びリング)を作製した。
具体的には、実施例1〜実施例13の転動体(ブロック及びリング)の皮膜表面をダイヤモンドホイールを用いて研削し、次いで、ダイヤモンド砥粒を用いてラッピングして、実施例1〜実施例13の焼付き試験用の転動体(焼付き試験用ブロック及びリング)を得た。
このとき、焼付き試験用ブロックは、その形状が6.35×15.75×10.16mm(ASTM試験法準拠)であり、皮膜の厚みが120μm、表面粗さがRa0.03μmであった。
また、焼付き試験用リングは、その形状がφ34.99mm(ASTM試験法準拠)であり、皮膜の厚みが300μm、表面粗さがRa0.03μmであった。
一方、比較例1〜比較例5の転動体(ブロック及びリング)の表面をダイヤモンドホイールを用いて研削し、次いで、ダイヤモンド砥粒を用いてラッピングして、比較例1〜比較例5の焼付き試験用の転動体(焼付き試験用ブロック及びリング)を得た。
このとき、焼付き試験用ブロックは、その形状が6.35×15.75×10.16mm(ASTM試験法準拠)であり、表面粗さがRa0.03μmであった。
また、焼付き試験用リングは、その形状がφ34.99mm(ASTM試験法準拠)であり、表面粗さがRa0.03μmであった。
【0039】
次に、各例の焼付き試験用の転動体をブロックオンリング摩擦摩耗試験機に取り付けて、図3に示すように配置させ、表3に示す条件下、焼付き試験を行った。
得られた結果を表1に併記する。
【0040】
【表3】

【0041】
表1に示すように、本発明外の比較例1〜比較例5の転動体においては、250lbs〜400lbsの荷重で焼付きが発生したが、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13の転動体では、500lbsの荷重でも焼付きが発生しなかった。
このことから、本発明の転動体は、耐焼付性が優れていることが分かる。
【0042】
また、焼付き試験後に実施例1の焼付き試験用転動体(焼付き試験用ブロック及びリング)の断面硬度を測定したところ、基材(SUJ2)の硬度は700HV〜750HVであり、皮膜の硬度は1100HV程度であった。
このように、皮膜自体の硬度を基材の硬度より高くしたため、耐焼付性が優れているとも考えられる。
【0043】
本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13から分かるように、硬質粒子としては、WC、Crなどを単独で又は組み合わせて用いることができることが分かる。
このように、炭化物を適用したため、耐焼付性が優れているとも考えられる。
しかしながら、硬質粒子は、基材より高硬度且つ高融点である硬質粒子であれば、これらに限定されるものではなく、上記説明したものを適用することができる。
このことは、本発明の構成より類推することができる。
【0044】
この皮膜をX線回折分析した結果を図5に示す。
図5から高速フレーム溶射法によって、WC−Co粒子が加熱されたことにより、被膜成分中に炭化タングステン(WC、WC)とη相(CoC)が存在することが分かる。
また、このように、炭化タングステンと共にη相を含むため、耐焼付性が優れているとも考えられる。
【0045】
本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13の転動体の製造方法において説明したように、粒径が数μm〜数十μmの溶射材を基材表面に吹き付けることができるので、必要な部分にだけ高い成膜速度で皮膜を形成することができる。
また、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13の転動体の製造方法において説明したように、溶射法により大気中で皮膜の形成を行うことができると、大型の転動体の製造に対しても容易に適用することができる。
更に、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13の転動体の製造方法において説明したように、高速フレーム溶射によって皮膜の形成を行うと、溶射材における硬質粒子の成分を金属単体や合金中に溶出させ易く、皮膜中にη相を形成させやすくなる。
その結果、皮膜の硬度及び融点が向上し、より耐焼付性が優れた転動体を得ることができる。
更にまた、本発明の範囲に属する実施例1〜実施例13の転動体の製造方法において説明したように、硬質粒子と金属材粒子とから造粒した溶射材を用いる場合には、溶射材における組成の自由度が高い。
そして、微小な一次粒子が得られれば、あらゆる成分の組み合わせが可能になる。
【0046】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、本発明は、トラクションローラや、圧延ローラ、ガイドローラ、ころ軸受などに適用することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 転動体
2 基材
4 皮膜
4a 硬質粒子
4b 金属材
10 入力軸
11 第1ローラ
12、22 皮膜
20 出力軸
21 第2ローラ
31、32、33、34 ボールベアリング
35、36、37、38 ローラベアリング
39、41 ベアリングサポート
40、42 ボルト
100 四輪駆動車両のトランスファ
H ハウジング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
上記基材の表面に形成され、該基材の硬度より高い硬度及び該基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを少なくとも表面構成要素として含む皮膜と、
を備えたことを特徴とする転動体。
【請求項2】
上記皮膜が、上記基材の硬度より高い硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の転動体。
【請求項3】
上記硬質粒子が、炭化物、硼化物、窒化物、珪化物、硫化物、酸化物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の硬質粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の転動体。
【請求項4】
上記硬質粒子が、炭化タングステンからなる硬質粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の転動体。
【請求項5】
上記皮膜が、η相を含むことを特徴とする請求項4に記載の転動体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の転動体を備えたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の転動体の製造方法であって、
基材の表面への皮膜の形成を、該基材の硬度より高い硬度及び該基材の融点より高い融点を有する少なくとも1種の硬質粒子と金属単体及び合金の少なくとも一方からなる金属材とを含む溶射材を用いた溶射法によって行うことを特徴とする転動体の製造方法。
【請求項8】
上記溶射法が大気中で行う溶射法であることを特徴とする請求項7に記載の転動体の製造方法。
【請求項9】
上記溶射法が高速フレーム溶射法であることを特徴とする請求項7又は8に記載の転動体の製造方法。
【請求項10】
上記溶射材が、上記硬質粒子と上記金属材を含む粒子とを用いて造粒した溶射材であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つの項に記載の転動体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233539(P2012−233539A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103193(P2011−103193)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000237259)富士岐工産株式会社 (6)
【Fターム(参考)】