説明

転舵システムおよび燃料電池車両

【課題】車両が他の物体と衝突したときに衝突物の車両への侵入を抑制する。
【解決手段】各車輪12を独立して転舵させる転舵装置14と、車体11への衝突を検知する衝突センサ15と、衝突センサ15から衝突検知信号を受信した場合に、衝突検知信号に含まれる衝突位置情報と各車輪12の位置情報とに基づいて各車輪12をそれぞれ独立して転舵させる車両衝突時転舵制御を実行するECU17とを備える燃料電池車両10であって、ECU17は、車両衝突時転舵制御において、各車輪12の向きが衝突箇所を中心とする同心円の接線方向とそれぞれ合致するように各車輪12を転舵させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵システムおよび燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1および2には、車両が衝突を回避することができないと判定した場合に、自車両の進行方向を変える等して衝突による衝撃や乗員の負傷を軽減させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−188129号公報
【特許文献2】特開2006−273266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、車載発電システムとして燃料電池を搭載する燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の開発が進められている。燃料電池は、燃料である水素と酸素を反応させて発電するシステムである。したがって、燃料電池車両が衝突し、その衝突による衝撃で燃料電池が損傷する可能性がある。特に、柱状の物体と衝突した場合には、衝突箇所に荷重が集中するため、衝突物が車両の内部にまで侵入し、燃料電池を損傷させる可能性が高まる。
【0004】
燃料電池は、車両中央の床下部分に配置されることが多く、その配置範囲は車両の側面付近にまで及ぶ。一般に、自動車の車体は、前方や後方からの衝突に対する耐久性に比べ、側方からの衝突に対する耐久性の方が低い。したがって、上記特許文献1および2に記載されている技術を用いて衝突時の衝撃を軽減したとしても、例えば、車両側面に柱状の物体が衝突した場合には、衝突物が車両の内部にまで侵入し、燃料電池を損傷させるおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するために、車両が他の物体と衝突したときに衝突物の車両への侵入を抑制することができる転舵システムおよび燃料電池車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係る転舵システムは、それぞれ独立して転舵可能な複数の車輪と、衝突を検知する衝突検知手段と、衝突検知手段によって衝突が検知された場合に、車両を上方から見たときに車両が衝突箇所を中心にして回転可能なように各車輪をそれぞれ独立して転舵させる転舵制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、車両が衝突した場合に、衝突箇所を中心にした車両の回転を容易にすることができ、車両が回転することで衝突物が車両内部に侵入する事態を抑制することができる。
【0008】
上記転舵システムにおいて、上記転舵制御手段は、各車輪をそれぞれ独立して転舵させる際に、各車輪の向きが衝突箇所を中心とする同心円の接線方向とそれぞれ合致するように制御することとしてもよい。
【0009】
これにより、各車輪の向きを、衝突箇所を中心とする同心円の接線方向にそれぞれ合致させることができるため、車両状態を、衝突箇所を中心に最も回転し易い状態に移行させることができる。
【0010】
上記転舵システムにおいて、上記衝突検知手段は、車両側面の衝突を検知することとしてもよい。
【0011】
これにより、一般に車両の前面および後面よりも衝突耐久性が劣る車両側面への衝突によって衝突物が車両内部に侵入する事態を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る燃料電池車両は、上記転舵システムと、反応ガスである酸化ガスおよび燃料ガスの供給を受け、当該反応ガスの電気化学反応により電力を発生する燃料電池と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、車両が衝突した場合に、衝突箇所を中心にした車両の回転を容易にすることができ、車両を回転することで衝突物が車両内部に侵入する事態を抑制することができる。それゆえに、衝突により燃料電池が損傷する事態を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両が他の物体と衝突したときに衝突物の車両への侵入を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る転舵システムの好適な実施形態について説明する。実施形態では、本発明に係る転舵システムを燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)に搭載した場合について説明する。
【0016】
まず、実施形態における転舵システムを搭載した燃料電池車両の構成について説明する。図1は、燃料電池車両を模式的に示した概略構成図である。
【0017】
同図に示すように、燃料電池車両10は、車体11と、4本の車輪12を構成する右前輪12FR、左前輪12FL、右後輪12RRおよび左後輪12RLと、各車輪に対応してそれぞれ設けられるインホイールモータ13および転舵装置14と、車体11の左右の両側部に設けられる衝突センサ15と、燃料電池システム16と、車両全体を統括制御するECU(Electronic Control Unit)17とを有する。
【0018】
インホイールモータ13は、各車輪12を独立して回転駆動させる。インホイールモータ13は、例えば、図示しないロータ、ステータおよび減速機構を有する。
【0019】
転舵装置14は、各車輪12を独立して転舵させる。転舵装置14は、例えば、図示しない転舵モータおよびタイロッドを有する。
【0020】
衝突センサ15は、車体11への衝突を検知するセンサであって、衝突を検知した場合に、衝突した位置に関する衝突位置情報を含む衝突検知信号をECU17に送信する。
【0021】
燃料電池システム16は、反応ガスである酸化ガスおよび燃料ガスの供給を受けて電気化学反応により電力を発生する燃料電池と、酸化ガスとしての空気を燃料電池に供給する酸化ガス配管系と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池に供給する水素ガス配管系と、システムの電力を充放電する電力系とを有する。
【0022】
燃料電池は、例えば、高分子電解質型燃料電池であり、多数の単セルを積層したスタック構造となっている。単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面にカソード極を有し、他方の面にアノード極を有し、さらにカソード極およびアノード極を両側から挟み込むように一対のセパレータを有する構造となっている。この場合、一方のセパレータの水素ガス流路に水素ガスが供給され、他方のセパレータの酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、これらの反応ガスが化学反応することで電力が発生する。
【0023】
燃料電池は、車両10中央の床下部分に配置されており、その配置範囲は車両10の左右両側面付近にまで及ぶ。
【0024】
ECU17は、衝突センサ15から衝突検知信号を受信した場合に、衝突検知信号に含まれる衝突位置情報と各車輪12の位置情報とに基づいて各車輪12をそれぞれ独立して転舵させる車両衝突時転舵制御を実行する。なお、ECU17と転舵装置14とで転舵制御手段を構成する。
【0025】
図2を参照して車両衝突時転舵制御について具体的に説明する。図2は、車両の右側面後方にポールが衝突したときに実行される車両衝突時転舵制御を説明するための模式図である。図2は、車両10を上から見たときの平面図を座標面上に重ねて示した図である。図2では、車両の右側面のうち、右前輪12FRと右後輪12RRとの中点が、座標の原点として設定されている。Pは、車両に衝突したポールを示す。なお、ポールとしては、例えば、信号機や標識、街灯等の支柱および電柱等の柱状の物体が該当する。ただし、車両が衝突する物体は、柱状の物体に限定されず、衝突したときに車両への荷重が衝突箇所に集中し、車両がその周辺を回転可能な物体であればよい。
【0026】
最初に、衝突センサ15がポールPの衝突を検知すると、衝突センサ15は、衝突位置情報を含む衝突検知信号をECU17に送信する。衝突位置情報としては、例えば、図2に示す座標面上の座標であって、ポールPが衝突した位置の中心を示す座標(以下、衝突座標という。)に関する情報が該当する。
【0027】
続いて、ECU17が衝突検知信号を受信すると、ECU17は、衝突検知信号に含まれる衝突位置情報と、予めメモリに登録されている各車輪12の位置情報とを用いて、各車輪12の転舵角度をそれぞれ算出する。各車輪12の位置情報としては、例えば、図2に示す座標面上の座標であって、各車輪12のそれぞれの基準位置を示す座標(以下、右後輪座標、右前輪座標、左後輪座標、左前輪座標という。)に関する情報が該当する。
【0028】
以下に、右後輪12RRの転舵角度を算出する手順を説明する。まず、衝突座標を中心として、衝突座標と右後輪座標とを結ぶ線を半径とする円CRRを求める。次に、円CRRの円周上にある右後輪座標を接点とする接線TRRを求める。次に、接線TRRと車体11の右側端部を示す直線との間の角度θRRを求める。この角度θRRが、右後輪12RRの転舵角度となる。
【0029】
これと同様にして、右前輪12FRの転舵角度は、衝突座標と右前輪座標とを結ぶ線を半径とする円CFRの接線TFRと車体11の右側端部を示す直線との間の角度θFRを求めることで算出される。なお、図2に示す右前輪12FRおよび右後輪12RRの転舵角度はそれぞれ90度となる。
【0030】
また、左後輪12RLの転舵角度は、衝突座標と左後輪座標とを結ぶ線を半径とする円CRLの接線TRLと車体11の左側端部を示す直線との間の角度θRLを求めることで算出される。さらに、左前輪12FLの転舵角度は、衝突座標と左前輪座標とを結ぶ線を半径とする円CFLの接線TFLと車体11の左側端部を示す直線との間の角度θFLを求めることで算出される。
【0031】
続いて、各車輪12の転舵角度を求めたECU17は、各車輪12の向き(車輪が回転したときに車輪が移動する方向)が衝突箇所を中心とする同心円の接線方向とそれぞれ合致するように制御する。具体的に説明すると、ECU17は、転舵角度を含む制御信号を各転舵装置14にそれぞれ送信する。各転舵装置14は、制御信号に含まれる転舵角度を目標値に設定し、自転舵装置14に対応する車輪12を目標値に合致するように転舵させる。
【0032】
上述したように車両衝突時転舵制御が実行されると、各車輪12は、それぞれ独立して転舵し、車両10は、車両を上方から見たときに衝突箇所を中心に回転することになる。すなわち、例えば、図3(a)に示すように、車両10が自車の右方向にあるポールPに衝突する場合には、図3(b)に示すように、各車輪12がそれぞれ独立して転舵され、車両10が衝突箇所を中心にして矢印方向に回転する。
【0033】
このように、車両10の側面に柱状の物体が衝突した場合であっても、衝突箇所を中心にして車両10を回転させることができるため、衝突物が車両10の内部に侵入する事態を抑制することができる。
【0034】
ここで、ECU17は、物理的には、例えば、CPUと、CPUで処理される制御プログラムや制御データを記憶するROM(メモリ)と、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAM(メモリ)と、入出力インターフェースとを有する。これらの要素は、互いにバスを介して接続されている。入出力インターフェースには、衝突センサ15等の各種センサが接続されているとともに、インホイールモータ13および転舵装置14のモータ等を駆動させるための各種ドライバが接続されている。
【0035】
CPUは、ROMに記憶された制御プログラムに従って、入出力インターフェースを介して各種センサでの検出結果を受信し、RAM内の各種データ等を用いて処理することで、例えば、車両衝突時転舵制御等を実行する。また、CPUは、入出力インターフェースを介して各種ドライバに制御信号を出力することにより、車両10全体を制御する。
【0036】
上述してきたように、本実施形態における転舵システムによれば、車両10の前面および後面に比べて衝突耐久性が劣る車両10の側面に柱状の物体が衝突した場合であっても、衝突箇所を中心にした車両10の回転を容易にすることができる。例えば、走行中の車両10側面に柱状の物体が衝突した場合には、転舵された車輪12の向きに従って各車輪12が回転しながら移動するため、車両10は各車輪12の移動に伴って衝突箇所を中心に回転することになる。一方、停車中の車両10側面に柱状の物体が衝突した場合には、転舵された車輪12の向きに従って各車輪12を移動可能な状態に移行させることができるため、例えば、衝突の衝撃で車両10が動く場合には、衝突箇所を中心にして車両10を回転させることができる。それゆえに、衝突物が車両内部に侵入する事態を抑制することができる。
【0037】
また、衝突物の車両内部への侵入を抑制することで、車両10の側面付近にまで配置されている燃料電池が損傷する事態を抑制することができる。
【0038】
さらに、各車輪12の向きを、衝突箇所を中心とする同心円の接線方向にそれぞれ合致させることで、車両10を最も回転し易い状態に移行させることができる。
【0039】
なお、上述した実施形態では、衝突箇所が車両の側面である場合について説明しているが、車両の前面や後面に衝突した場合も、車両の側面に衝突した場合と同様にして本発明を適用することができる。
【0040】
また、上述した実施形態では、各車輪の向きが衝突箇所を中心とする同心円の接線方向と合致するように転舵させているが、必ずしも同心円の接線方向と合致させる必要はない。車両を上方から見たときに車両が衝突箇所を中心にして回転可能なように各車輪を転舵させることができればよい。
【0041】
また、上述した実施形態では、本発明に係る転舵システムを燃料電池車両に搭載した場合について説明しているが、燃料電池車両以外の各種車両にも本発明に係る転舵システムを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態における燃料電池車両を模式的に示す概略構成図である。
【図2】車両衝突時転舵制御を説明するための模式図である。
【図3】車両衝突時転舵制御を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0043】
10…燃料電池車両、11…車体、12…車輪、13…インホイールモータ、14…転舵装置、15…衝突センサ、16…燃料電池システム、17…ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ独立して転舵可能な複数の車輪と、
衝突を検知する衝突検知手段と、
前記衝突検知手段によって衝突が検知された場合に、車両を上方から見たときに車両が衝突箇所を中心にして回転可能なように各車輪をそれぞれ独立して転舵させる転舵制御手段と、
を備えることを特徴とする転舵システム。
【請求項2】
前記転舵制御手段は、各車輪をそれぞれ独立して転舵させる際に、各車輪の向きが前記衝突箇所を中心とする同心円の接線方向とそれぞれ合致するように制御することを特徴とする請求項1記載の転舵システム。
【請求項3】
前記衝突検知手段は、車両側面の衝突を検知することを特徴とする請求項1または2記載の転舵システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の転舵システムと、
反応ガスである酸化ガスおよび燃料ガスの供給を受け、当該反応ガスの電気化学反応により電力を発生する燃料電池と、
を備えることを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−274550(P2009−274550A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126811(P2008−126811)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】