説明

軸受用樹脂材料および樹脂製転がり軸受

【課題】耐圧縮変形性の優れた軸受用樹脂材料、耐荷重性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】樹脂にフラーレン類を配合してなる軸受用樹脂材料であって、式(1)により表わされる樹脂中のフラーレン類の平均分子間距離Lが、3 nm〜12 nm。


nはフラーレンの配合モル濃度[mol/L]、Nはアボガドロ数、Rはフラーレン分子の直径[nm]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂にフラーレン類を配合した軸受用樹脂材料、および該軸受用樹脂材料を用いた樹脂製転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維などのマイクロメーターオーダー以上の繊維強化材や、マイクロメーターオーダー以上の粒状充填材を用いた強化樹脂は、通常著しく機械的特性が向上する。しかし、転がり軸受軌道輪や軌道盤に用いた場合、軌道面上に、圧縮疲労による充填材界面からの剥離が発生し、短寿命となる。このため通常、補強材を添加した樹脂を使用することができず、樹脂製転がり軸受には樹脂単独で適用されており、耐荷重性に劣る。従来からの樹脂製転がり軸受は金属製の転がり軸受に比べて耐薬品性、耐食性に優れるため特殊環境用転がり軸受として、特に腐食環境で用いられているが、耐荷重性(耐圧縮変形性)に劣るためその適用範囲は比較的狭く、耐荷重性の向上が望まれている。
【0003】
ナノサイズの物質であるカーボンナノチューブ(以下、CNTという)はアスペクト比が大きく、また機械的強度も優れ、さらに優れた導電性も有するため、樹脂材料の強化材、導電材として期待されている。しかし、CNTの有する大きな凝集力または繊維同士の強固な絡み合いのため、凝集物を形成しやすく樹脂中への均一分散が難しいという問題があり、現時点では樹脂製転がり軸受の材料として適用が困難である。
一方、フラーレン類は異方性を持たない、または異方性が非常に小さく、さらにサイズがナノオーダーであるため、異方性(高アスペクト比)を有するCNTとは異なり機械的な補強効果が期待できないと考えられている。また、導電性も有していないことから、CNTと比べると、フラーレン類を配合した結晶性熱可塑性樹脂に関する公知の知見は非常に少ない。
フラーレン類を配合した結晶性熱可塑性樹脂に関する知見としては、
(1)結晶化速度を速くするため 0.1〜2000 ppm のフラーレン類を結晶性熱可塑性樹脂に配合する方法(特許文献1)、
(2)主に耐熱性向上を目的として結晶性熱可塑性樹脂 100 重量部に対してフラーレン類を 0.25〜50 重量部配合する方法(特許文献2)、
(3)同じく主に耐熱性向上を目的としてフラーレン配合非結晶性熱可塑性樹脂中の濃度を 1000 ppm 以下に制御する方法(特許文献3)、
(4)同じく主に耐熱性向上を目的としてフラーレン配合熱硬化性樹脂を用いる方法(特許文献4)、
(5)熱可塑性樹脂における射出成形時のスキン層の厚みを制御する目的でフラーレン類を配合する方法(特許文献5)が知られている程度である。
【0004】
特許文献1は結晶化速度を速めるための手法であるため、もともと結晶化速度の速い樹脂、例えばポリアセタール(以下、POMという)樹脂、ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK、PEEK)系樹脂などには、その原理上実質的な効果は期待できない。また特許文献1では、炭素クラスター濃度として 0 ppm および 200 ppm の 2 水準しか評価されていないため 0.1〜2000 ppm の広範囲において開示されている効果が発現されるかどうかは不明であり、さらに機械的特性に関しては何ら具体的な効果は示されていない。
特許文献2〜特許文献4は基本的に耐熱性の向上手法であり、圧縮変形性、圧縮疲労特性(耐剥離性)を含む機械的特性については何も評価結果が示されていない。
特許文献5はスキン層制御手法であり、この特許でも圧縮変形性、圧縮疲労特性については何も言及されていない。
なお、通常樹脂の機械的特性を向上させる手法として、ガラス繊維やカーボン繊維を配合する、繊維強化が行なわれている。これらの繊維による繊維強化によって樹脂の圧縮特性は飛躍的に向上するが、これらのようなミクロオーダー以上の繊維を用いた場合、局部的な繰り返し圧縮が加わる用途では、圧縮疲労によって充填材界面を起点とする亀裂が伸展し、剥離が発生する。
【特許文献1】特開平10−310709号公報
【特許文献2】特開2004−182768号公報
【特許文献3】特開2004−182771号公報
【特許文献4】特開2004−182775号公報
【特許文献5】特開2004−167801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる状況に対応するためになされたもので、耐圧縮変形性、特に耐圧縮永久変形性の優れた軸受用樹脂材料、および耐荷重性に優れる樹脂製転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軸受用樹脂材料は、樹脂にフラーレン類を配合してなる軸受用樹脂材料であって、下記式(1)により表わされる前記樹脂材料中のフラーレン類の平均分子間距離Lが、3 nm〜12 nm であることを特徴とする。
【数1】

ここで、nはフラーレンの配合モル濃度[mol/L]を、N はアボガドロ数を、Rはフラーレン分子の直径[nm]をそれぞれ表わす。
上記フラーレン類が、酸基や水酸基により化学修飾されていないフラーレン類であることを特徴とする。
【0007】
上記フラーレン類は、C60 およびC70 から選ばれた少なくとも1つのフラーレン類を主成分とすることを特徴とする。
上記樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
上記熱可塑性樹脂は、150℃以上で溶融混練可能な熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
上記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であることを特徴とする。
上記熱可塑性樹脂は、エーテル基、ケトン基および芳香族基から選ばれた少なくとも1つの基を含む熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0008】
本発明の樹脂製転がり軸受は、内輪および外輪とからなる軌道輪もしくは軌道盤と、転動体と、保持器とを備えてなる樹脂製転がり軸受であって、上記軌道輪もしくは軌道盤、および保持器から選ばれた少なくとも1つの部材が、上記の軸受用樹脂材料を用いて成形されることを特徴とする。
樹脂材料を用いて形成される樹脂部材以外の部材が、耐食性部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軸受用樹脂材料は、樹脂に、ナノ粒子であるフラーレン類を配合した材料であって、フラーレン類の配合モル濃度を調整しフラーレン類の分子間距離を所定の範囲に制御するので、耐圧縮変形性、特に耐圧縮永久変形性に優れた軸受用樹脂材料として利用することができ、この樹脂材料を用いて耐荷重性に優れる樹脂製転がり軸受を得ることができる。
また、本発明の樹脂製転がり軸受は、無潤滑下、水中などの防錆処理が施せない用途に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において樹脂に配合されるフラーレンは、炭素5員環と6員環から構成され、球状に閉じた多様な多面体構造を有する炭素分子である。該フラーレンは、グラファイト、ダイヤモンドに続く第3の炭素同素体として1985年にH.W.KrotoとR.E.Smalley等によって発見された新規な炭素材料である。代表的な分子構造としては、60 個の炭素原子が 12 個の五員環と 20 個の六員環からなる球状の切頭正二十面体を構成する、いわゆるサッカーボール状の構造のC60 が挙げられ、同様に 70 個の炭素原子からなるC70 、さらに炭素数の多い高次フラーレン、例えばC76 、C78 、C82 、C84 、C90 、C94 、C96 などが存在する。これらのうちのC60 およびC70 が代表的なフラーレンである。また、これらを反応させて多量体が得られる。本発明においては、フラーレンであれば球状、あるいは多量体のいずれも使用できる。
【0011】
フラーレンの製造法には、レーザ蒸発法、抵抗加熱法、アーク放電法、熱分解法などがあり、具体的には、例えば特許第2802324号に開示されており、これらは、減圧下あるいは不活性ガス存在化、炭素蒸気を生成し、冷却、クラスター成長させることによりフラーレン類を得ている。
一方、近年、経済的で効率のよい大量製造法として燃焼法が実用化されている。燃焼法の例としては、バーナーが減圧チャンバー内に設置された装置を使用し、系内を真空ポンプにて換気しつつ炭化水素原料と酸素とを混合してバーナーに供給し、火炎を生成する。その後、上記火炎により生成した煤状物質を下流に設けた回収装置により回収する。この製造法において、フラーレンは煤中の溶媒可溶分として得られ、溶媒抽出、昇華等により単離される。得られたフラーレンは通常C60 、C70 および高次フラーレンの混含物であり、さらに精製してC60 、C70 等を単離することもできる。
本発明で用いるフラーレンとしては、構造や製造法を特に限定するものではないが、特にC60 、C70 の炭素数のもの、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0012】
60 、C70 に代表されるフラーレン類は昇華性を有する炭素系分子である(昇華温度 600℃以上)。このため常温では凝集体となっているが、加熱することによりその凝集力は弱くなっていく。なお、フラーレン類は親油性であるため、基本的に樹脂に対する分散性は優れる。
樹脂中でフラーレン類(参考:C60 分子直径は約 0.7〜0.8 mm )が単分散したと仮定した際の平均分子間距離が所定の範囲( 3〜12 mm )となるよう、樹脂にフラーレン類を配合すると、溶融混練時、樹脂固化時、および熱処理時に発生するフラーレン類の凝集を防ぐことができ、フラーレン類の優れた添加効果の利点のみを利用できることがわかった。この方法によれば圧縮変形性、特にフラーレン類の凝集体の破壊による永久変形量の増加が発生せず、永久変形量を小さくすることができる。またフラーレン類のサイズが 1 nm 以下と非常に小さいため、局部的な圧縮を受けた場合にもフラーレン類/樹脂界面に応力集中が発生せず、樹脂が有する本来の圧縮疲労特性を維持することが可能となる。なお、従来からの繊維強化法では、圧縮変形性は向上するが、圧縮疲労特性は著しく悪化する。
【0013】
式(1)の誘導方法について以下に示す図に基づいて説明する。この図は樹脂と、樹脂に配合されたフラーレン分子とにより形成されたバルクの形状を示す模式図である。この模式図に示すように、バルクの形状を、正三角形 2 個からなる菱形を底面とし、この正三角形 4 個からなる正三角錐の高さと同じ高さを有する菱形六面体とする。樹脂と、均一に配合されたフラーレン分子とにより形成されたバルク中に、存在するフラーレン分子の数から分子間距離を求める。
上記菱形六面体であるバルクの高さhは、一辺の長さをaとする正三角錐の高さとするので、式(2)で表わされ、
バルクの底面積Sは、式(3)で表わされ、
バルクの体積Vは、式(4)で表わされ、
式(2)、式(4)よりバルクの一辺aは、式(5)で表わされる。
【数2】

体積Vのバルク中に存在する粒子数をNとすると、一辺上にある平均粒子数はN1/3 個となる。したがって、粒子−粒子の平均中心間距離χ[cm]は式(6)で表わされる。
【数3】

V=1 cm3 とし、粒子濃度をn[mol/L]、アボガドロ数をN とすると、粒子−粒子の平均中心間距離χ[cm]は式(7)で表わされる。
【数4】

したがって、樹脂中でフラーレン類が単分散した場合の平均分子間距離L[ nm ]は以下のように規定すると、樹脂分を溶媒とするフラーレン類のモル濃度n[ mol/L ]、アボガドロ数NA、フラーレン類の分子直径R[ nm ]を用いた式(1)で表わされる。なお、式(1)で表わされる平均分子間距離Lは、固体樹脂中にフラーレン分子を最密充填構造の位置に均一に配置した場合の分子間距離である。またフラーレン類のモル濃度は、常温での樹脂固体中に分散したフラーレンについて、樹脂分を溶媒として算出する。
【数5】

本発明において平均分子間距離Lは、3〜12 nm 、好ましくは 4〜8 nm である。
本発明の軸受用樹脂材料は、フラーレン類を配合していない軸受用樹脂材料に比べて、主に耐圧縮特性、特に耐塑性変形(永久変形)性が向上する。式(1)で計算される平均分子間距離Lが 3 nm 未満の場合、フラーレン類の分子直径Rが 1 nm 程度であることから、隣接するフラーレン分子間距離がフラーレン分子 3 個以下という極めて近い距離となるため、添加したフラーレン分子どうしが溶融混練や成形、または熱処理中に凝集しやすく、本発明の効果である優れた耐圧縮性は得られず、逆に軸受用樹脂材料が圧縮を受けた場合、フラーレン分子の凝集体の破壊、フラーレン分子の持つ可塑化効果などにより、耐圧縮性が悪化する場合もある。
平均分子間距離Lが、12 nm よりも大きい場合、添加されたフラーレン類が非常に低濃度となる(例えばフラーレン分子直径を 1 nm とした場合、300 ppm となる)ため、十分なフラーレン類の添加効果が得られない。
【0014】
フラーレン類は、特に化学修飾等を施していないフラーレン類が熱安定性等の面で好ましく、熱可塑性樹脂に対して優れた分散性を有する。なお、化学修飾を施していないフラーレン類では、C60 またはC70 を主成分とするものが好ましい。これらは単独で主成分とすることも、混合物を主成分とすることもできるが、C60 とC70 との混合物を主成分とするものが精製に要する環境負荷及びコストを考慮すると特に好ましい。
【0015】
本発明の軸受用樹脂材料に使用できる樹脂は、フラーレンを樹脂内に均一に分散できる樹脂であれば特に限定されることなく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらのうち、フラーレンを樹脂内に分散させるための溶融混練や、成形のための熱処理を容易に行なうことができる熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
本発明の軸受用樹脂材料に使用できる熱可塑性樹脂は、150℃以上、好ましくは 180℃以上の温度で溶融混練、射出成形可能な熱可塑性樹脂を用いれば、特にフラーレン類または熱可塑性樹脂に、フラーレン類の分散性向上のための処理を施さなくても、通常の溶融混練法でフラーレン類は良好な分散性を示す。これは 150℃以上の温度にすることによりフラーレン類の凝集力が低下し、実質的に二軸混練機などの溶融混練による軸受用樹脂材料中へのフラーレン類の分散において、凝集力が問題にならない水準まで低下しているものと推測される。
【0017】
本発明の軸受用樹脂材料に使用できる熱可塑性樹脂としては、非晶性樹脂、結晶性樹脂またはこれらの混合樹脂を用いることができるが、疲労強度の観点から結晶性熱可塑性樹脂が適している。非晶性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテルおよび変性ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、エチレン−ビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、実質非晶性樹脂であるポリカーボネートやポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
結晶性樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、シンジオタクチックポリスチレン、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6,6ナイロン、4,6ナイロンなどの脂肪族ポリアミド類、芳香族6ナイロン、芳香族9ナイロンなどの芳香族ポリアミド類、POM、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド類、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKという)、ポリエーテルケトンなどの芳香族ポリケトン類、熱可塑性ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、その他溶融状態でも結晶性熱可塑性樹脂を有する液晶樹脂として知られる芳香族ポリエステル類などが挙げられる。
【0018】
本発明の軸受用樹脂材料に使用できる熱可塑性樹脂は、フラーレン類の分散性の面から、特に電子密度の高い、例えばエーテル基、ケトン基、チオエーテル基および芳香族基から選ばれた少なくとも1つの基を、主鎖または側鎖のどちらか一方に有するものが好ましい。これらの基を有する樹脂としては、エーテル基を有するPOM、チオエーテル基を有し、かつ主鎖中に芳香族基を有するポリアリーレンサルファイド類、エーテル基、ケトン基を有しかつ主鎖中に芳香族基を有するPEEKなどの芳香族ポリケトン類などが挙げられる。
【0019】
本発明の樹脂製転がり軸受を図1を参照して説明する。図1はころ軸受の一部切り欠き斜視図である。ころ軸受は内輪1と外輪2との間にころ3が保持器4を介して配置されている。ころ3は内輪1の転走面1aと外輪2の転走面2aとの間でころがり摩擦を受け、内輪1の鍔部1bとの間ですべり摩擦を受ける。上記内輪1、外輪2、転動体であるころ3および保持器4から選ばれた少なくとも1つの構成物が、上記軸受用樹脂材料を用いて成形されている。
各構成物を、本発明の軸受用樹脂材料を用いて成形することにより、耐荷重性および耐疲労特性に優れた軸受となる。
また、本発明の樹脂製転がり軸受は、上記軸受用樹脂材料により形成される樹脂部材以外の部材を、ステンレス、ガラス、セラミックなどの耐食性部材とすることにより、無潤滑下、水中などの防錆処理が施せない用途に好適に利用できる。
【実施例】
【0020】
実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例5
表1に示す原料を用い、表2の組成物を二軸混練機にて溶融混練し、成形用材料とした。この成形用材料を用いて、射出成形により直径 30 mm×厚み 5 mm の円板状試験片を得た。この試験片について、以下の方法により永久変形量および耐圧縮疲労特性を測定した。結果を表2に併記した。
【0021】
永久変形量の測定:
試験片表面を研磨により表面粗さ Ra 0.05μm 以下に調整し、荷重 49 N にて直径 5.6 mm の窒化ケイ素ボールを試験片表面に押しつけた状態で 24 時間保持した後、荷重を除去して、24 時間後の試験片の変形深さを測定し、この値を永久変形量とした。母材樹脂単独の永久変形量を基準( 100%)として、各実施例および各比較例について変形率を求めた。すなわち、母材樹脂としてPOMを用いた実施例1〜実施例2および比較例1〜比較例4の変形率は、比較例1の永久変形量を 100%として、比較例1の永久変形量に対する実施例1〜実施例2および比較例2〜比較例4の各永久変形量の比率を求めた。また、母材樹脂としてPEEKを用いた実施例3および比較例5の変形率は、比較例5の永久変形量を 100%として、比較例5の永久変形量に対する実施例3の変形量の比率を求めた。
判定は、変形率が 100%以上のもの(母材単独と同等または悪化したもの)を「×」、変形率が 100%未満のものを「○」とした。
【0022】
軸受寿命試験:
軸受寿命試験について図2を用いて説明する。図2は軸受寿命試験の概要を示す模式図である。図2に示すように円板状試験片上9に、直径 5.6 mm の窒化ケイ素ボール8を、円板状試験片9と中心を同一にする直径 20 mm (図2にてaで表示)の円上に 10 個等間隔に配置し、互いのボール8同士がぶつからないようボール保持治具7(保持器、6,6ナイロン製)を用いて保持しながら、ボール8とボール保持治具7を円板状試験片上9で 1500 rpm の回転速度にて回転させて、圧縮繰り返し負荷を加える(スラスト軸受形態)。圧縮繰り返し負荷は、荷重5を 147 N にてボール8の上表面に接するボール案内板6に加えられ、ボール8の下表面に接する円板状試験片上9に加えられる。軸受寿命試験は水中 25℃にて、連続 250 時間実施され、試験終了後、円板状試験片上のボール軌道部における剥離の有無を測定した。
【0023】
総合評価:
永久変形量の測定から得られた変形率が 100%未満で、かつ軸受寿命試験にて剥離の発生が認められなかった試験片を「 O.K. 」とし、それ以外の試験片を「 N.G. 」とした。
【表1】

【表2】

【0024】
表2からフラーレン配合の各試験片の変形率および配合されたフラーレンの平均分子間距離のデータを選択し、両者の相関関係について図3に示した。図3は各試験片の変形率と、フラーレンの平均分子間距離との関係を示す図である。図3においてフラーレンの平均分子間距離を示す横軸は対数目盛にて表示されている。
図3に示す結果から明らかなように、本発明で開示される平均分子間距離Lが 3〜12 nm における範囲においてのみ、フラーレン類を添加することにより耐圧縮変形性が向上し、永久変形量が減少する。また表2の評価結果から、実施例の平均粒子間距離の範囲においては剥離は見られない。これらの結果から、本発明の軸受用樹脂材料は、耐荷重性および耐疲労特性に優れた樹脂製転がり軸受材料として適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の軸受用樹脂材料は、樹脂にフラーレン類を配合してなり、フラーレン分子間距離を所定の範囲に制御することにより、耐圧縮性、特に耐圧縮疲労特性に優れた軸受用樹脂材料となるので、この樹脂材料を用いて耐圧縮変形性、特に耐圧縮永久変形性の優れた軸受用樹脂材料および耐荷重性に優れる玉軸受、ころ軸受、スラスト軸受などの樹脂製転がり軸受に好適に利用できる。
また、特に樹脂製転がり軸受の軌道輪もしくは軌道盤に適用可能な耐荷重性および耐疲労特性に優れた軸受用樹脂材料として好適に利用できる。
また、無潤滑下、水中などの防錆処理が施せない用途に使用される軸受の軸受用材料として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ころ軸受の一部切り欠き斜視図である。
【図2】軸受寿命試験の概要を示す模式図である。
【図3】各試験片の変形率と、フラーレンの平均分子間距離との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 内輪
2 外輪
3 ころ
4 保持器
5 荷重
6 ボール案内板
7 ボール保持治具
8 ボール
9 円板上試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂にフラーレン類を配合してなる軸受用樹脂材料であって、
下記式(1)により表わされる前記樹脂材料中のフラーレン類の平均分子間距離Lが、3 nm〜12 nm であることを特徴とする軸受用樹脂材料。
【数1】

ここで、nはフラーレンの配合モル濃度[mol/L]を、N はアボガドロ数を、Rはフラーレン分子の直径[nm]をそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記フラーレン類は、酸基や水酸基により化学修飾されていないフラーレン類であることを特徴とする請求項1記載の軸受用樹脂材料。
【請求項3】
前記フラーレン類は、C60 およびC70 から選ばれた少なくとも1つのフラーレン類を主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の軸受用樹脂材料。
【請求項4】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の軸受用樹脂材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、150℃以上で溶融混練可能な熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項4記載の軸受用樹脂材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の軸受用樹脂材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は、エーテル基、ケトン基および芳香族基から選ばれた少なくとも1つの基を含む熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項4、請求項5または請求項6記載の軸受用樹脂材料。
【請求項8】
内輪および外輪とからなる軌道輪もしくは軌道盤と、転動体と、保持器とを備えてなる樹脂製転がり軸受であって、
前記軌道輪もしくは軌道盤、および保持器から選ばれた少なくとも1つの部材が、請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の軸受用樹脂材料を用いて成形されることを特徴とする樹脂製転がり軸受。
【請求項9】
樹脂材料を用いて形成される樹脂部材以外の部材が、耐食性部材であることを特徴とする請求項8記載の樹脂製転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−84719(P2007−84719A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276267(P2005−276267)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(502236286)フロンティアカーボン株式会社 (33)
【Fターム(参考)】