説明

送水制御方法とその装置およびこれを用いた送水制御システム

【課題】 容量の異なるポンプ複数台を切り替えながら運転する際に、安定な水量と圧力を確保でき、ポンプの締切り状態がなく、安全に運転できる送水制御装置とそのシステムを得る。
【解決手段】 本発明の送水制御装置1は、圧力指令10の値を演算する圧力調節部13と、圧力調節部の結果を基に複数の送水ポンプ6、7のモータ制御装置4、5に送る制御指令を演算するモータ運転指令部14と、送水量の変動により容量の異なるポンプへの切替えを判断するポンプ切替判断部11とを有し、複数のポンプを並列運転させながら、送水量の変動により回転数を制御し、ポンプの切替え制御を行うもので、ポンプを切替える際に、後起動の第2ポンプ7の起動時の吐出圧力が先起動の第1ポンプ6の吐出圧力より小さくなるように第2ポンプの回転数を制御する速度演算部12を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の送水ポンプを圧力変動が無く安定して送水するための送水制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上水道施設において、受水槽や配水池へ送水・配水する際、大きく変動する需要量に対応するため、2台以上の複数台ポンプを並列運転させかつ回転数制御することで、きめ細かな制御を行っている。
従来、複数台の送水ポンプを制御する送水制御装置を用いたシステムは、図3のようになっている。図において、1は送水制御装置、2は圧力計、3は流量計、4、5はモータ制御装置、6は先起動する第1ポンプ、7は後起動する第2ポンプ、8、9は吐出弁、10は圧力指令である。送水制御装置1はポンプ切替判断部11と、圧力調整部13と、モータ運転指令部14とからなっている。
この送水制御装置はつぎのように動作する。すなわち、送水量は時々刻々と変動しているが、安定した送水圧力を常に確保できるように、圧力調整部13において圧力計2の現在値と圧力指令10(設定値)の偏差をなくすためのポンプの回転数を演算し、モータ運転指令部14からモータ制御装置4へ回転数の指令値を渡し制御している。夜間などの小流量になる時間帯においては、第1ポンプ6の1台のみが運転を行う。送水量が増加するにつれ回転数を増加するように指令を行うが、流量の現在値が第1ポンプ6の送水可能な最大流量を越えると、ポンプ切替判断部11にて、ポンプを切替えることを判断する。第2ポンプ9は運転指令により起動するとともに、吐出側の圧力が上昇したことを確認し、吐出弁9を開くことで、送水を開始する。次に、第1ポンプ6は、停止指令により、吐出弁8を閉め停止させる。この様な制御により、広範囲の需要量に対して、安定した水圧と流量を供給している。
また、他の従来例として、ポンプの運転台数を追加しても配水の圧力が低下しないように運転中の流量制御余裕代を合計した総合的な余裕代を差し引いた配水量に達したときに追加運転するものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−265967号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来のポンプ複数台の並列運転において、容量の異なるポンプを切替える場合、後から起動するポンプの吐出側の圧力が、先に起動しているポンプの運転圧力より大きいと、先起動しているポンプは圧力で後発のポンプに負けてしまい、切替中に、第1ポンプは、運転しているが流量が流れない締め切り状態となってしまう。締切り運転はポンプを過熱させるため、寿命を損なうことに加え、無送水が発生することによるシステム非常停止を引き起こし、送水圧力、流量が安定的に確保できなくなるという問題もある。
そこで本発明は、容量の異なるポンプ複数台を切り替えながら運転する際に、安定な水量と圧力を確保でき、ポンプの締切り状態を無くすことで送水制御システムを安全に運転することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するために、本発明はつぎのように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、設定圧力値と計測値との偏差から適正な圧力値を演算する圧力調節部と、前記圧力調節部の結果を基に複数の送水ポンプのモータ制御装置に送る制御指令を演算するモータ運転指令部と、送水量の変動により容量の異なる前記ポンプへの切替えを判断するポンプ切替判断部とを有し、複数のポンプを並列運転させながら、送水量の変動により回転数を制御し、ポンプの切替え制御を行う送水制御方法において、前記ポンプを切替える際に、後起動の第2ポンプの起動時の吐出圧力が先起動の第1ポンプの吐出圧力より小さくなるように前記第2ポンプの回転数を速度演算部により制御するものである。
請求項2に記載の発明は、前記速度演算部が第1ポンプの特性曲線を記憶した第1特性曲線記憶部と、前記第1ポンプの現在の吐出圧力を演算する吐出圧演算部と、前記吐出圧力の演算値を記憶する吐出圧記憶部と、前記第2ポンプの特性曲線を記憶した第2特性曲線記憶部と、前記第2ポンプに指令する回転数を演算する回転数演算部と、前記演算した回転数を第2ポンプへ指令する回転数指令部とからなるものである。
請求項3に記載の発明は、前記吐出圧演算部が前記第1ポンプの第1特性曲線記憶部の特性曲線と現在の流量および回転数から吐出圧力を演算するものである。
請求項4に記載の発明は、前記回転数演算部が前記第2ポンプの第2特性曲線記憶部の特性曲線から前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい値となる前記第2ポンプの回転数を演算するものである。
請求項5に記載の発明は、前記回転数指令部は、前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい値となる回転数を前記第2ポンプに指令するものである。
請求項6に記載の発明は、設定圧力値と計測値との偏差から適正な圧力指令値を演算する圧力調節部と、前記圧力調節部の結果を基に複数の送水ポンプのモータ制御装置に送る制御指令を演算するモータ運転指令部と、送水量の変動により容量の異なる前記ポンプへの切替えを判断するポンプ切替判断部とからなり、前記複数のポンプを並列運転させながら、送水量の変動により回転数を制御し、ポンプの切替え制御を行う送水制御装置において、前記ポンプ切替判断部と前記モータ運転指令部との間に、第2ポンプの起動時の吐出圧力が先起動の第1ポンプの吐出圧力より小さくなるようにする速度演算部を設けたものである。
請求項7に記載の発明は、前記速度演算部は、先起動の第1ポンプの特性曲線を記憶した第1特性曲線記憶部と、前記第1ポンプの現在の吐出圧力を演算する吐出圧演算部と、前記吐出圧力の演算値を記憶する吐出圧記憶部と、前記第2ポンプの特性曲線を記憶した第2特性曲線記憶部と、前記第2ポンプに指令する回転数を演算する回転数演算部と、前記演算した回転数を第2ポンプへ指令する回転数指令部とからなるものである。
請求項8に記載の発明は、前記吐出圧力演算部は、前記第1ポンプの第1特性曲線記憶部の特性曲線と現在の流量および回転数から吐出圧力を演算するものである。
請求項9に記載の発明は、前記回転数演算部は、前記第2ポンプの特性曲線記憶部の特性曲線から前記第1ポンプの現在の吐出圧以下となる前記第2ポンプの回転数を演算するものである。
請求項10に記載の発明は、前記回転数指令部は、前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい回転数を前記第2ポンプに指令するものである。
請求項11に記載の発明は、請求項6から請求項10記載の送水制御装置と、複数の送水ポンプと、前記送水ポンプを駆動させるモータ制御装置と、前記送水ポンプの吐出側に設けられた吐出弁と、吐出弁の後段に設けられた圧力計および流量計とを備えた送水制御システムである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1および6に記載の発明によると、後起動の第2ポンプの圧力を先起動の第1ポンプの運転点より小さくしたので、第1ポンプが締切り運転で過熱損傷するのを防ぐことができ安全性の高い送水制御装置が得られる。
請求項2および7に記載の発明によると、第1、第2のポンプの特性曲線を記憶し制御回転数を判定することができるので、ポンプが締切り運転で過熱損傷するのを防ぐことができる。
請求項3および8に記載の発明によると、第1ポンプの運転点を自動で演算できるので、圧力計器が無い場合でも、現在の運転点を演算でき、設備を追加する必要が無い。
請求項4および9に記載の発明によると、第2のポンプの圧力が先起動のポンプの運転点以下になるように回転数を決定できるので、第1ポンプが締切り運転で過熱損傷するのを防ぐことができる。
請求項5および10に記載の発明によると、第2ポンプの圧力が第1ポンプの運転点より小さい回転数を指令できるので、無送水が発生することによるシステムの非常手停止を引き起こすことを防ぐことができるため操作性がよい。
請求項11に記載の発明によると、システムを非常停止させることなく水を供給できる自動制御システムを構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例】
【0007】
図1は、本発明の実施例を示す送水制御システムのブロック図である。図において、12は速度演算部である。本発明の送水制御装置1は、ポンプ切替判断部11、速度演算部12、圧力調整部13、モータ運転指令部14からなる。なお、従来と同じ構成要素については同じ符号を付してその説明を省略し、異なる点のみ説明する。
本発明が従来技術と異なる構成は、速度演算部12を設けた点である。
速度演算部12の詳細を図2のブロック図に示す。図において、12aは先起動の第1ポンプ6の特性曲線を予め記憶させた第1曲線記憶部、12bは第1ポンプ6の吐出圧を演算する吐出圧演算部、12cは第1ポンプ6の吐出圧を記憶する吐出圧記憶部、12dは後起動の第2ポンプ7の特性曲線を記憶させた第2曲線記憶部、12eは第2ポンプ7の回転数を演算する回転数演算部、12fは第2ポンプ7の回転数指令を送る回転数指令部である。
吐出圧演算部12bは、第1曲線記憶部の値と流量現在値から、吐出圧力を演算する。回転数演算部12eは、吐出圧記憶部12cに記憶された吐出圧よりも圧力が下回るように第2ポンプ7の回転数を演算する。ポンプ切替判断部11で、次のポンプを起動すると判断した場合に、圧力調整部13に代って、ポンプに回転数指令を与える。
次に、本発明の送水制御装置の動作について図3を用いて説明する。図3は第1ポンプ6と第2ポンプ7の特性曲線である。
第1ポンプ6は送水流量が変化しても、吐出圧力が一定になるように圧力調整部13で制御されているか、もしくは、第1ポンプ6は固定回転数で運転されているとする。
送水管の流量がQ1を越えると、第1ポンプ6だけでは、流量をまかなえない事から、ポンプ切替判断部11は第2ポンプ7を起動し、送水圧力が確立したら第1ポンプ6を停止するよう指令することとなる。
その手順は、まず、第1ポンプ6の吐出圧演算部12bにて、第1ポンプ6の吐出圧を演算する。すなわち、現在の回転数、流量現在値と第1特性曲線記憶部12aから読み出した特性曲線の値から吐出圧を算出する。図ではA点がポンプ運転点であり、吐出圧をH1として第1ポンプ6の吐出圧記憶部に記憶する。
次に、第2ポンプ7の回転数演算部12eにて、第2ポンプ7に指令する回転数を演算する。
第2ポンプ7の特性曲線記憶部12dにて記憶された特性曲線より、第2ポンプ7の回転数演算部12eでは、流量がゼロ地点において第1ポンプ6の吐出圧H1を下回る回転数を割り出す。
算出された回転数を回転数指令部12fでは、第2ポンプ7の回転数指令値としてモータ運転指令部14へ送り、第2ポンプ7のモータ制御装置5へ与える。第2ポンプ7は起動を開始すると共に、指令回転数まで上昇し、圧力が上昇したことを確認し、吐出弁9を開くとともに、第1ポンプ6を停止させる指令をする。指令により、第1ポンプ6の吐出弁8は閉じ、その後、第1ポンプ6を停止させる。
第1ポンプ6が完全に停止した後、圧力現在値が圧力設定値になるように圧力調整部13で第2ポンプ7の制御を行う。
この様にすることで、第1ポンプ6は、第2ポンプ7が起動すると同時に、無送水状態になることを避けることができるため、システムを異常停止させることなく、また締切り運転によるポンプの過熱を防止できることから、いかなる場合でも、給水を断つことなく、安定して送水することができる。
なお、第2ポンプ7から第1ポンプ6に切り替える場合(容量の大きいポンプから容量の小さいポンプに切り替える場合)も同様にして、第2ポンプの特性曲線の吐出圧よりも圧力が下回るようにする。
また、本実施例では容量の小さいポンプ1台と容量の大きいポンプ1台について説明したが、これに限らず、容量の種類は何種類でもよく、同じ容量のものを複数台配置した場合でも適用できる。本発明は容量の異なるポンプを切り替える際に適用できるものである。
【0008】
このように、本発明による送水制御装置は、ポンプの切替をスムーズに行えることから、断水を引き起こすことがなく、ポンプの締切り運転をなくすことからポンプの過熱損傷を防ぐことができるので、安定した水の供給ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の送水制御システムを示すブロック図である。
【図2】本発明の送水制御装置の一部詳細を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に用いたポンプの特性曲線図である。
【図4】従来の送水制御システムを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0010】
1 送水制御装置
2 圧力計
3 流量計
4、5 モータ制御装置
6 第1ポンプ
7 第2ポンプ
8、9 吐出弁
10 圧力指令
11 ポンプ切替判断部
12 速度演算部
12a 第1特性曲線記憶部
12b 吐出圧演算部
12c 吐出圧記憶部
12d 第2特性曲線記憶部
12e 回転数演算部
12f 回転数指令部
13 圧力調節部
14 モータ運転指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定圧力値と計測値との偏差から適正な圧力値を演算する圧力調節部と、前記圧力調節部の結果を基に複数の送水ポンプのモータ制御装置に送る制御指令を演算するモータ運転指令部と、送水量の変動により容量の異なるポンプへの切替えを判断するポンプ切替判断部とを有し、複数のポンプを並列運転させながら、送水量の変動により回転数を制御し、ポンプの切替え制御を行う送水制御方法において、
前記ポンプを切替える際に、後起動の第2ポンプの起動時の吐出圧力が先起動の第1ポンプの吐出圧力より小さくなるように前記第2ポンプの回転数を速度演算部により制御することを特徴とする送水制御方法。
【請求項2】
前記速度演算部は、先起動の第1ポンプの特性曲線を記憶した第1特性曲線記憶部と、前記第1ポンプの現在の吐出圧力を演算する吐出圧演算部と、前記吐出圧力の演算値を記憶する吐出圧記憶部と、前記第2ポンプの特性曲線を記憶した第2特性曲線記憶部と、前記第2ポンプに指令する回転数を演算する回転数演算部と、前記演算した回転数を第2ポンプへ指令する回転数指令部とからなことを特徴とする請求項1記載の送水制御方法。
【請求項3】
前記吐出圧演算部は、前記第1ポンプの特性曲線記憶部の特性曲線と現在の流量および回転数から吐出圧力を演算することを特徴とする請求項2記載の送水制御方法。
【請求項4】
前記回転数演算部は、前記第2ポンプの特性曲線記憶部の特性曲線から前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい値となる前記第2ポンプの回転数を演算することを特徴とする請求項2記載の送水制御方法。
【請求項5】
前記回転数指令部は、前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい値となる回転数を前記第2ポンプに指令することを特徴とする請求項2記載の送水制御方法。
【請求項6】
設定圧力値と計測値との偏差から適正な圧力指令値を演算する圧力調節部と、前記圧力調節部の結果を基に複数の送水ポンプのモータ制御装置に送る制御指令を演算するモータ運転指令部と、送水量の変動により容量の異なる前記ポンプへの切替えを判断するポンプ切替判断部とからなり、前記複数のポンプを並列運転させながら、送水量の変動により回転数を制御し、ポンプの切替え制御を行う送水制御装置において、
前記ポンプ切替判断部と前記モータ運転指令部との間に、第2ポンプの起動時の吐出圧力が先起動の第1ポンプの吐出圧力より小さくなるようにする速度演算部を設けたことを特徴とする送水制御装置。
【請求項7】
前記速度演算部は、第1ポンプの特性曲線を記憶した第1特性曲線記憶部と、前記第1ポンプの現在の吐出圧力を演算する吐出圧演算部と、前記吐出圧力の演算値を記憶する吐出圧記憶部と、前記第2ポンプの特性曲線を記憶した第2特性曲線記憶部と、前記第2ポンプに指令する回転数を演算する回転数演算部と、前記演算した回転数を第2ポンプへ指令する回転数指令部とからなることを特徴とする請求項6記載の送水制御装置。
【請求項8】
前記吐出圧力演算部は、前記第1ポンプの特性曲線記憶部の特性曲線と現在の流量および回転数から吐出圧力を演算することを特徴とする請求項7記載の送水制御装置。
【請求項9】
前記回転数演算部は、前記第2ポンプの特性曲線記憶部の特性曲線から前記第1ポンプの現在の吐出圧以下となる前記第2ポンプの回転数を演算することを特徴とする請求項7記載の送水制御装置。
【請求項10】
前記回転数指令部は、前記第1ポンプの現在の吐出圧より小さい回転数を前記第2ポンプに指令することを特徴とする請求項7記載の送水制御装置。
【請求項11】
請求項6から請求項10記載の送水制御装置と、複数の送水ポンプと、前記送水ポンプを駆動させるモータ制御装置と、前記送水ポンプの吐出側に設けられた吐出弁と、吐出弁の後段に設けられた圧力計および流量計とを備えたことを特徴とする送水制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−63982(P2008−63982A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241080(P2006−241080)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】