説明

透明フレキシブルプリント配線板及びその製造方法

【課題】透明フィルムと透明導電膜との密着性、柔軟性、及び耐熱性に優れた透明フレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】焼成工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明ポリイミドフィルム1を用意する。インクジェット法により、透明ポリイミドフィルム1上に、ITO微粒子及びバインダー含有するITOインクを所定のパターン状に印刷する。その後、このITOインクを230℃〜300℃で焼成することにより、バインダーの比率が5〜10重量%の透明導電膜2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明フレキシブルプリント配線板及びその製造方法、特に、耐熱性を有する透明フレキシブルプリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばタッチパネルに用いられる透明配線板として、ガラス基板を使用したものが知られている。この透明配線板は、ガラス基板上にITO(Indium Tin Oxide)膜を形成し、その後、エッチングによりITO膜を加工し、所望のパターンを有する透明導電膜(透明配線パターン)を形成したものである。この透明配線板は、ガラス基板を使用しているため、重く壊れやすい上、高価であるという問題がある。
【0003】
また、近年、電子ペーパー等への応用から、軽量かつ耐衝撃性を有する透明配線板が要求されている。
【0004】
そこで、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate:PET)、又はポリエチレンナフタレート(Polyethylene Naphthalate:PEN)からなる透明フィルムを、基板として用いた透明配線板が知られている。
【0005】
この透明配線板は、次のようにして作製される。まず、PET又はPENからなる透明フィルム上に、スパッタリングによりITO膜を形成する。その後、露光及び現像工程等を行い、所定のパターンを有するレジスト層をITO膜上に形成する。そして、このレジスト層をマスクにしてITO膜をエッチングし、所望のパターンを有する透明導電膜を透明フィルム上に形成する。
【0006】
しかし、上記の透明配線板については、部品実装を行うプリント配線板として用いるには、耐熱性が十分でないという問題がある。
【0007】
通常のPETの耐熱温度は130℃程度であり、耐熱PETでも耐熱温度は約150℃である。そのため、PETを用いた透明配線板は、高温での熱処理、例えば、リフロー工程、ACF(Anisotropic Conductive Film)接続工程を必要とする製品(タッチパネル、電子ペーパー、LED照明、EL照明等)には適用できない。
【0008】
また、PETの透明フィルム上に形成されたITO膜に関しては、耐屈曲性を必要とするフレキシブルプリント配線板として用いるには、柔軟性及び透明フィルムとの密着性などに関して十分な特性が得られていない(非特許文献1参照)。
【0009】
一方、PENは比較的高い耐熱温度(約180℃)を有するため、特殊はんだを使用した低温リフロー工程や、低温でのACF接続工程であれば実施可能である。しかし、PEN及び特殊はんだは高価であり、製造設備も特殊なものが必要となるため、生産コストが高くなってしまうという問題がある。
【0010】
また、透明配線パターンを形成するためにエッチング工程を行う場合、廃棄される材料が多く材料の使用効率が低い上に、大量の炭酸ガス(CO)を発生するため、環境にやさしい工程への変更が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS VOLUME 82, NUMBER 19 (12 MAY 2003) “Performance of flexible polymeric light-emitting diodes under bending conditions”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、耐熱性に優れた透明フレキシブルプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムを用意し、インクジェット法により、前記透明絶縁フィルム上に、ITO微粒子及びバインダーを含有するITOインクを所定のパターン状に印刷し、前記ITOインクを焼成することにより、前記バインダーの比率が5〜10重量%の透明導電膜を形成することを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムを用意し、スクリーン印刷法又はインクジェット法により、前記透明絶縁フィルム上に、PEDOTインクを所定のパターン状に印刷し、前記PEDOTインクを乾燥させることにより、透明導電膜を形成し、前記透明導電膜の少なくとも一部を覆うように、耐熱性の透明な絶縁保護膜を印刷手法により形成することを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムと、前記透明絶縁フィルム上に形成された、ITOインクを焼成してなる透明導電膜であって、バインダーの比率が5〜10重量%である透明導電膜と、を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板が提供される。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の寸法変化率を有する透明絶縁フィルムと、前記透明絶縁フィルム上に形成された、PEDOTインクを乾燥してなる透明導電膜と、前記透明導電膜を覆うように形成された、耐熱性の透明な絶縁保護膜と、を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板が提供される。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムと、前記透明絶縁フィルム上に形成された、ITOインクを焼成してなる透明導電膜であって、バインダーの比率が5〜10重量%である透明導電膜と、前記透明導電膜を覆うように形成され、底面に前記透明導電膜の一部が露出した開口部を有する、耐熱性の透明な第1の絶縁保護膜と、前記開口部内、及び前記第1の絶縁保護膜の上に印刷されたPEDOTインクを乾燥させてなるジャンパー接続部と、前記ジャンパー接続部を覆うように形成された、耐熱性の透明な第2の絶縁保護膜と、を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムを基板として用いる。これにより、透明導電膜を焼成工程により形成する際、透明導電膜にクラックが発生したり、透明導電膜が透明絶縁フィルムから剥がれることが防止され、その結果、高品質の透明フレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係る高品質の透明フレキシブルプリント配線板は、高温・長時間の焼成工程に耐える透明絶縁フィルムを基板として用いているため、高温・短時間のリフロー工程やACF接続工程などの熱工程に対する耐熱性も有する。
【0020】
さらに、焼成されたITOインク膜(透明導電膜)に含まれるバインダーの比率を5〜10重量%とすることで、透明フィルム基板と透明導電膜との密着性、柔軟性及び導電性のいずれについても優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)及び(b)は、それぞれ実施例1及びその変形例に係る透明フレキシブルプリント配線板の断面図である。
【図2】実施例2に係る透明フレキシブルプリント配線板の断面図である。
【図3】実施例3に係る透明フレキシブルプリント配線板の断面図である。
【図4】実施例4に係る透明フレキシブルプリント配線板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明では、透明フレキシブルプリント配線板の基板として、耐熱性を有し、絶縁性の透明フィルムを使用する。そして、インクジェット法又はスクリーン印刷法などの印刷手法を用いて、透明フィルム上に透明導電膜を形成可能なインクを印刷する。このようなインクとして、ITOインクの他、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)インクのような有機系の導電性ポリマーを用いたインクを使用することができる。その後、インクを焼成若しくは乾燥させ、所定のパターンを有する透明導電膜を形成する。
【0023】
まず、透明フィルムが満足すべき耐熱性について説明する。ここで、耐熱性とは、高温の熱工程を経た後において、所定の機械的及び光学的な特性を満たすことをいう。このような熱工程には、印刷されたインクの焼成工程(例えば、230℃〜300℃、1時間)、透明フレキシブルプリント配線板に部品を実装する際のリフロー工程(例えば、大気中において260℃、短時間(数秒〜数十秒程度))等がある。
【0024】
透明フィルムに求められる光学的な特性として、光透過率が大きく低下しないことや、着色(黄変等)しないことが挙げられる。
【0025】
一方、透明フィルムに求められる機械的な特性として、熱工程に伴う寸法変化率が挙げられる。ここでいう寸法変化率は、熱工程(インク焼成(乾燥)工程又はリフロー工程等)において所定の温度まで加熱し、その後室温まで徐冷する過程における透明フィルムの伸び率あるいは縮み率である。
【0026】
この寸法変化率は、次式で定義される。
(L−L)/L×100 [%]
ここで、Lは熱工程の最高温度における透明フィルムの寸法であり、Lは室温における透明フィルムの寸法である。
【0027】
この寸法変化率は、透明フレキシブルプリント配線板の品質を確保する上で特に重要である。本発明では、焼成工程の温度から室温に戻るまでの寸法変化率が所定の値以下の透明フィルムを用いる。この理由は、寸法変化率が大きい場合、焼成後の透明導電膜にクラックが発生したり、透明導電膜が透明フィルムから剥がれたりする虞が大きくためである。このような透明導電膜の損傷が生じる主な理由は、ITOインク及びPEDOTインクのいずれを用いる場合も、焼成(乾燥)工程を経て得られる透明導電膜の収率が25重量%以下と低く、焼成(乾燥)時に大きな体積変化が生じていることによる。
【0028】
よって、透明フレキシブルプリント配線板の品質を確保するために、基板として用いる透明フィルムは所定の寸法変化率を満たす必要がある。
【0029】
具体的には、ITO微粒子及びバインダーを含有するITOインクを透明導電膜の材料として用いる場合、焼成工程(230℃〜300℃、1時間)に伴う寸法変化率は、±0.2%以下であることが必要である。
【0030】
なお、PEDOTインクを用いる場合においても、寸法変化率は±0.2%以下であることが望ましい。PEDOTインクを用いて有機透明導電膜を形成する場合、インク印刷後の乾燥温度は100〜150℃であり、ITOインクの焼成温度に比べて低いものの、寸法変化率が大きい場合、ITOインクと同様、形成された透明導電膜にクラックや剥離が発生するからである。
【0031】
次に、透明導電膜を形成するためのインクに要求される特性について説明する。
【0032】
PEDOTインク等を乾燥して得られる有機透明導電膜は、有機物を多く含み、透明フィルムとの密着性が良く、十分な柔軟性も持っている。
【0033】
ITOインクの場合、透明フィルムとの密着性及び柔軟性を確保するため、ITOインク中のバインダーの比率を調整する必要がある。これにより、インク焼成後、若干のバインダーを残し、完全なITOの結晶状態にならないようにする。ただし、透明導電膜の導電性を大きくするためには、バインダーの比率を下げなければならない。よって、バインダーの比率は、透明導電膜の導電性、密着性及び柔軟性を考慮して調整するのが好ましい。
【0034】
具体的には、ITOインクを用いた場合、焼成後の透明導電膜の柔軟性、密着性および導電性の観点から、焼成後におけるバインダーの比率は5〜10重量%以下であることが望ましい。
【0035】
この焼成後におけるバインダーの比率は次式で定義される。
/WITO×100 [%]
ここで、Wは焼成後におけるバインダーの重量であり、WITOは焼成後におけるITOインク(透明導電膜)の重量である。
【0036】
また、ITOインク及びPEDOTインクともに、インクジェット法で印刷する場合、印刷されたインクの滲みや厚みのムラを抑えるために、インクの粘度及び表面張力が所定の範囲にあることが必要となる。
【0037】
具体的には、インクの粘度については、室温(23℃)において2〜20mPa・Sの範囲にあることが必要である。
【0038】
インクの表面張力については、室温(23℃)において20〜40mN/mの範囲にあることが必要である。さらに、表面張力は、印刷直後の透明フィルム上でのインクの滲みを抑えるために、室温(23℃)において25〜35mN/mの範囲にあることが望ましい。
【0039】
なお、透明フィルムについても、印刷後のインクの滲みや厚みのムラを抑えるために、適当な表面張力を有するものを使用する必要がある。
【0040】
透明フィルムの表面状態及び温度に依存する表面張力を代替し、実測可能なパラメータとして、透明フィルムと、その上に滴下された液体との接触角が挙げられる。具体的には、透明フィルムと、その上に滴下された水滴との接触角が、室温(23℃)において60〜80°の範囲となる透明フィルムを用いることが望ましい。
【0041】
ところで、後述の実施例において説明するように、本発明に係る透明フレキシブルプリント配線板は、必要に応じて、透明導電膜を保護するために、透明導電膜の一部又は全部を覆うように形成された耐熱性の絶縁保護膜を備えても良い。PEDOTインクを用いた有機透明導電膜の場合、熱工程時の酸化を防止するため、絶縁保護膜を設けることが不可欠である。
【0042】
この絶縁保護膜の材料には透明性と耐熱性が要求される。耐熱性に関しては、絶縁保護膜を形成した後のリフロー工程に耐えるため、260度以上で短時間(数秒〜数十秒程度)の熱工程に対して耐性を有することが必要である。
【0043】
絶縁保護膜の材料には、透明導電膜を浸食、溶解しない溶剤を使用する必要がある。絶縁保護膜は、材料の高使用効率化及び工程の簡略化の観点から印刷手法で形成することが望ましい。
【0044】
以下、本発明に係る4つの実施例について説明する。実施例1は、インクジェット法によりITOインクを印刷した実施例である。実施例2及び実施例3は、PEDOTインクを、スクリーン印刷法及びインクジェット法でそれぞれ印刷した実施例である。実施例4は、絶縁保護膜を介して2層の透明導電膜を形成した実施例である。
【実施例1】
【0045】
実施例1では、透明ポリイミドフィルム(70μm厚)を基材とし、この透明ポリイミドフィルム上に、インクジェット法を用いてITOインクを所定のパターン状に塗布する。ここで、透明ポリイミドフィルムは、三菱ガス化学(株)製のネオプリム(LH−3430)を用いた。焼成時の温度(本実施例では230℃)から徐冷して室温に戻る過程おける透明ポリイミドフィルムの寸法変化率、即ち、焼成工程に伴う寸法変化率が0.2%以下であることを確認した。
【0046】
ITOインクは、有機バインダーを含み、溶剤中にITO微粒子が分散している一般的なものを使用した。
【0047】
次に、本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板の製造方法について説明する。
【0048】
(1)インクジェット条件の最適化(ITOインクの粘度及び表面張力を前述の範囲とする)を行った後、インクジェット法によりITOインクを透明ポリイミドフィルム1上に所定のパターン状に印刷した。なお、印刷前に、透明ポリイミドフィルム1を40〜60℃に予備加熱しておくことが好ましい。これにより、着弾後にインク液滴が濡れ広がることを防止することができる。
【0049】
(2)その後、インク液滴が印刷されたサンプルを、120℃で30分間乾燥させ、ITOインク中の低沸点の溶剤を蒸発させた。
【0050】
(3)その後、230℃、1時間の焼成工程を大気中で行い、印刷されたITOインクを焼成することにより、所定のパターンを有する透明導電膜2(ITO膜)を形成した。透明導電膜2中に残留しているバインダーの比率は、5〜10重量%の範囲にあることを確認した。
【0051】
なお、焼成工程の雰囲気は、窒素ガス又は還元ガスでもよい。還元ガスは、窒素に数%程度の水素を添加したガスを用いる場合と、減圧下にギ酸(HCOOH)を導入したガスを用いる場合とがある。焼成工程の雰囲気は、透明導電膜に要求される導電性と、設備等の費用との関係で選択される。即ち、形成された透明導電膜の導電性は、大気<窒素<還元ガスの順に高くなる。設備費用も、この順に高くなる。よって、目的に合わせて雰囲気を選択することが好ましい。
【0052】
上記の工程を経て作製された透明フレキシブルプリント配線板100を図1(a)に示す。
【0053】
なお、図1(b)に示す透明フレキシブルプリント配線板100Aのように、透明導電膜2を覆う透明な絶縁保護膜3を形成してもよい。この絶縁保護膜3は、例えば、透明レジストを印刷することにより形成することができる。絶縁保護膜3は、透明ポリイミドフィルム1及び透明導電膜2と同様、透明フレキシブルプリント配線板が経ることとなる熱工程(リフロー工程等)に対して耐熱性を有することが必要である。
【0054】
本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板100について、光透過率、電気抵抗(導電性)、密着性、柔軟性および耐熱性を評価した。評価結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
表1の評価結果からわかるように、ITOインクを焼結して得られた透明導電膜2は、透明ポリイミドフィルム1に強く密着しており、また、柔軟性も有している。さらに、通常のリフロー工程(ピーク温度270℃)を3回経ても特性変化がなく、十分な耐熱性を持っていることが確認された。
【0056】
また、光透過率及び電気抵抗についても良好な特性を示すことが確認された。
【0057】
なお、比較のため、230℃の焼成工程に伴う寸法変化率が0.2%よりも大きい透明ポリイミドフィルムを用いて、透明フレキシブルプリント配線板を作製した。ここでは、三菱ガス化学(株)製のネオプリム(L−3430)を使用した。上記と同じ条件でITOインクを塗布し焼成を行ったところ、透明導電膜にクラックが発生し、また、透明導電膜が部分的に剥離することを確認した。このように、透明フィルムの寸法変化率が透明フレキシブルプリント配線板の品質に大きな影響を与える。
【実施例2】
【0058】
実施例2では、実施例1と同じ基材(透明ポリイミドフィルム1)上に、スクリーン印刷法を用いてPEDOTインクを所定のパターン状に塗布する。PEDOTインクは、市販されているものを用いた。
【0059】
次に、本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板の製造方法について説明する。
【0060】
(1)印刷版と印刷条件を最適化した後、スクリーン印刷法によりPEDOTインクを透明ポリイミドフィルム1上に所定のパターン状に印刷した。
【0061】
(2)その後、インク液滴が印刷されたサンプルを、130℃で30分間乾燥させることにより、透明導電膜4(PEDOT膜)を形成した。
【0062】
(3)その後、図2からわかるように、透明導電膜4を保護するための透明な絶縁保護膜5(約10μm厚)を、透明導電膜4(端子部4aを除く。)を覆うように印刷手法により形成した。この絶縁保護膜5は、PEDOTインクを乾燥してなる有機導電膜である透明導電膜4が熱工程の際に酸化することを防止するために設けられる。
【0063】
なお、絶縁保護膜5も、透明ポリイミドフィルム1及び透明導電膜4と同様、透明フレキシブルプリント配線板が経ることとなる熱工程(リフロー工程等)に対して耐熱性を有することが必要である。絶縁保護膜5の材料となる透明レジストは、市販の顔料入りのレジストから顔料を除去することで、透明かつ耐熱性のあるものが容易に得られる。
【0064】
(4)その後、透明導電膜4のうち外部と接続するための端子部4aに、インクジェット法により銀ナノインクを印刷した。なお、銀ナノインクに限らず、金ナノインクなど他の導電性インクを用いても良い。
【0065】
(5)その後、図2に示すように、130℃,30分間の焼成工程を行い、印刷された銀ナノインクを硬化させることにより、端子保護膜6を形成した。この端子保護膜6の膜厚は約1μmであった。
【0066】
上記の工程を経て図2に示す透明フレキシブルプリント配線板200が得られる。
【0067】
この透明フレキシブルプリント配線板200について、光透過率、電気抵抗(導電性)、密着性、柔軟性および耐熱性を評価した。評価結果を表2に示す。
【表2】

【0068】
表2の評価結果からわかるように、PEDOTインクを乾燥させて得られた透明導電膜4は、透明ポリイミドフィルム1に強く密着しており、また、柔軟性も有している。さらに、通常のリフロー工程(ピーク温度270℃)を3回経ても、特性変化が殆どなく、十分な耐熱性を持っていることが確認された。
【0069】
また、光透過率及び電気抵抗についても良好な特性を示すことが確認された。
【0070】
なお、電気抵抗に関しては若干の変化(±10%以下)が見られたが、初回のリフロー工程後、電気抵抗の変化は殆ど無くなることを確認した。このことから、透明導電膜4の表層が酸化することによって電気抵抗が若干変化するものの、それ以降のリフロー工程においては、表層に形成された酸化層が保護膜として機能し、さらなる劣化は防止されていると推定される。
【実施例3】
【0071】
実施例3では、実施例1と同じ基材(透明ポリイミドフィルム1)上に、インクジェット法を用いてPEDOTインクを所定のパターン状に塗布する。PEDOTインクは、市販されているものを用いた。
【0072】
次に、本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板の製造方法について説明する。
【0073】
(1)インクジェット条件の最適化(PEDOTインクの粘度及び表面張力を前述の範囲とする)を行った後、インクジェット法によりPEDOTインクを透明ポリイミドフィルム1上に所定のパターン状に印刷した。なお、印刷前に、透明ポリイミドフィルム1を50〜60℃に予備加熱しておくことが好ましい。これにより、着弾後にインク液滴が滲み広がることを防止することができる。
【0074】
(2)その後、図3からわかるように、インク液滴が印刷されたサンプルを、130℃で30分間乾燥させ、透明導電膜7(PEDOT膜)を形成した。
【0075】
(3)その後、図3からわかるように、透明導電膜7を保護するための透明な絶縁保護膜8(約10μm厚)を、透明導電膜7(端子部7aを除く。)を覆うように印刷手法を用いて形成した。この絶縁保護膜8も、透明ポリイミドフィルム1及び透明導電膜7と同様、透明フレキシブルプリント配線板が経ることとなる熱工程(リフロー工程等)に対して耐熱性を有することが必要である。なお、絶縁保護膜8の材料となる透明レジストは、市販の顔料入りのレジストから顔料を除去することで、透明かつ耐熱性のあるものが容易に得られる。
【0076】
(4)その後、図3からわかるように、透明導電膜7のうち外部と接続するための端子部7aに、インクジェット法により銀ナノインクを印刷した。なお、銀ナノインクに限らず、金ナノインクなど他の導電性インクを用いても良い。
【0077】
(5)その後、130℃,30分間の焼成工程を行い、印刷された銀ナノインクを硬化させることにより、端子保護膜9を形成した。この端子保護膜9の膜厚は約1μmであった。
【0078】
上記の工程を経て図3に示す透明フレキシブルプリント配線板300が得られる。
【0079】
この透明フレキシブルプリント配線板300について、光透過率、電気抵抗(導電性)、密着性、柔軟性および耐熱性を評価した。評価結果を表3に示す。
【表3】

【0080】
表3の評価結果からわかるように、PEDOTインクを乾燥させて得られた透明導電膜7は、透明ポリイミドフィルム1に強く密着しており、また、柔軟性も有している。さらに、通常のリフロー工程(ピーク温度270℃)を3回経ても、特性変化が殆どなく、十分な耐熱性を持っていることが確認された。
【0081】
また、光透過率及び電気抵抗についても良好な特性を示すことが確認された。
【実施例4】
【0082】
本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板は、複数の透明配線層を有する。即ち、PEDOTインクを乾燥させてなる透明なジャンパー接続部によって、基板上に形成された透明導電膜の所定の部分同士が電気的に接続された構成を有する。
【0083】
次に、本実施例に係る透明フレキシブルプリント配線板の製造方法について説明する。
【0084】
(1)実施例1で説明した方法により、透明フレキシブルプリント配線板100(図1(a)参照)を得る。
【0085】
(2)その後、インクジェット法を用いて、透明導電膜2を保護するための透明な絶縁保護膜10を形成する。この絶縁保護膜10は、図4からわかるように、開口部10aを有し、この開口部10aの底面には透明導電膜2の一部が露出している。なお、この絶縁保護膜10も、透明ポリイミドフィルム1及び透明導電膜2と同様、耐熱性を有することが必要である。
【0086】
(3)その後、インクジェット条件を最適化(PEDOTインクの粘度及び表面張力を前述の範囲とする)した後、図4からわかるように、印刷手法(例えばインクジェット法)によりPEDOTインクを開口部10a内、及び絶縁保護膜10上に印刷した。なお、印刷前に、透明ポリイミドフィルム1を40〜60℃に予備加熱しておくことが好ましい。これにより、着弾後にインク液滴が滲み広がることを防止することができる。
【0087】
(4)その後、インク液滴が印刷されたサンプルを、130℃で30分間乾燥させることにより、透明なジャンパー接続部11(PEDOT膜)を形成した。図4からわかるように、このジャンパー接続部11は、透明導電膜2の所定の部分同士を電気的に接続するものである。
【0088】
(5)その後、図4に示すように、ジャンパー接続部11を保護するための透明な絶縁保護膜12(2μm厚)を、ジャンパー接続部11を覆うように印刷手法を用いて形成した。この絶縁保護膜12も、透明ポリイミドフィルム1及び透明導電膜2等と同様、透明フレキシブルプリント配線板が経ることとなる熱工程(リフロー工程等)に対して耐熱性を有することが必要である。
【0089】
上記の工程を経て図4に示す透明フレキシブルプリント配線板400が得られる。
【0090】
この透明フレキシブルプリント配線板400について、光透過率、電気抵抗(導電性)、密着性、柔軟性および耐熱性を評価した。評価結果を表4に示す。
【表4】

【0091】
表4の評価結果からわかるように、透明導電膜2及びジャンパー接続部11は、十分な密着性及び柔軟性を有している。さらに、通常のリフロー工程(ピーク温度270℃)を3回経ても、特性変化が殆どなく、十分な耐熱性を持っていることが確認された。
【0092】
また、光透過率及び電気抵抗についても良好な特性を示すことが確認された。
【0093】
本実施例によれば、複雑な配線パターンを有する、透明フレキシブルプリント配線板を作製することができる。
【0094】
なお、本実施例では、透明ポリイミドフィルム1上にITOインクを焼結させた透明導電膜2を形成したが、これに代えて、実施例2及び実施例3で説明したようにPEDOTインクを乾燥させてなる透明導電膜を形成してもよい。
【0095】
以上4つの実施例を説明した。これらの実施例では、基板となる透明絶縁フィルムとして、透明ポリイミドフィルムを用いたが、寸法変化率等の条件を満たせば、アラミド系又はナノアロイ系の透明フィルムなどの透明絶縁フィルムを使用することもできる。
【0096】
以上説明したように、本発明によれば、透明フィルム基板と透明導電膜との密着性に優れ、柔軟性および耐熱性を備える透明フレキシブルプリント配線板が提供される。
【0097】
さらに、本発明によれば、透明導電膜および絶縁保護膜をすべて印刷手法で形成することで、従来のエッチングプロセスを用いた製造方法に比べて材料の無駄が無く、環境負荷の小さい透明フレキシブルプリント配線板を製造方法が提供される。
【0098】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明は、上述した個々の実施例に限定されるものではない。異なる実施例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 透明ポリイミドフィルム
2,4,7 透明導電膜
4a,7a 端子部
3,5,8,10,12 絶縁保護膜
6,9 端子保護膜
10a 開口部
11 ジャンパー接続部
100,100A,200,300,400 透明フレキシブルプリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムを用意し、
インクジェット法により、前記透明絶縁フィルム上に、ITO微粒子及びバインダーを含有するITOインクを所定のパターン状に印刷し、
前記ITOインクを焼成することにより、前記バインダーの比率が5〜10重量%の透明導電膜を形成する、
ことを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記透明導電膜を形成後、底面に前記透明導電膜の所定の部分が露出した開口部を有する、耐熱性の透明な第1の絶縁保護膜を印刷手法により形成し、
前記開口部内、及び前記第1の絶縁保護膜上にPEDOTインクを印刷し、
前記PEDOTインクを乾燥させることにより、透明なジャンパー接続部を形成し、
前記ジャンパー接続部を覆うように、耐熱性の透明な第2の絶縁保護膜を印刷手法により形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記透明絶縁フィルム上に印刷される前記ITOインクの粘度、及び表面張力は、それぞれ、2〜20mPa・S、及び20〜40mN/m(ともに23℃における値)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記透明絶縁フィルムとして、前記透明絶縁フィルムと、前記透明絶縁フィルム上に滴下された水滴との接触角が、23℃において60〜80°の範囲となる透明絶縁フィルムを用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムを用意し、
スクリーン印刷法又はインクジェット法により、前記透明絶縁フィルム上に、PEDOTインクを所定のパターン状に印刷し、
前記PEDOTインクを乾燥させることにより、透明導電膜を形成し、
前記透明導電膜の少なくとも一部を覆うように、耐熱性の透明な絶縁保護膜を印刷手法により形成する、
ことを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
インクジェット法により前記PEDOTインクを前記透明絶縁フィルムに印刷する場合において、前記透明絶縁フィルム上に印刷される前記PEDOTインクの粘度、及び表面張力は、それぞれ、2〜20mPa・S、及び20〜40mN/m(ともに23℃における値)であることを特徴とする請求項5に記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項7】
前記透明絶縁フィルムとして、前記透明絶縁フィルムと、前記透明絶縁フィルム上に滴下された水滴との接触角が、23℃において60〜80°の範囲となる透明絶縁フィルムを用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁保護膜により覆われず露出した前記透明導電膜の端子部に、導電性インクを印刷し、その後、前記導電性インクを焼成することにより、端子保護膜を形成することを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の透明フレキシブルプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムと、
前記透明絶縁フィルム上に形成された、ITOインクを焼成してなる透明導電膜であって、バインダーの比率が5〜10重量%である透明導電膜と、
を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板。
【請求項10】
230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の寸法変化率を有する透明絶縁フィルムと、
前記透明絶縁フィルム上に形成された、PEDOTインクを乾燥してなる透明導電膜と、
前記透明導電膜を覆うように形成された、耐熱性の透明な絶縁保護膜と、
を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板。
【請求項11】
230〜300℃の熱工程に伴う寸法変化率が±0.2%以下の透明絶縁フィルムと、
前記透明絶縁フィルム上に形成された、ITOインクを焼成してなる透明導電膜であって、バインダーの比率が5〜10重量%である透明導電膜と、
前記透明導電膜を覆うように形成され、底面に前記透明導電膜の一部が露出した開口部を有する、耐熱性の透明な第1の絶縁保護膜と、
前記開口部内、及び前記第1の絶縁保護膜の上に印刷されたPEDOTインクを乾燥させてなるジャンパー接続部と、
前記ジャンパー接続部を覆うように形成された、耐熱性の透明な第2の絶縁保護膜と、
を備えることを特徴とする透明フレキシブルプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−243928(P2011−243928A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117425(P2010−117425)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000230249)日本メクトロン株式会社 (216)
【Fターム(参考)】