説明

透明ポリマーフィルムおよびその製造方法、並びに、それを用いた光学補償フィルム、積層フィルムおよび液晶表示装置

【課題】弾性率が高く、湿度寸法変化が小さく、適切な透湿度を有する透明ポリマーフィルムを提供する。
【解決手段】40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100g/(m2・day)以上である透明ポリマーフィルムを(Tg+50)℃以上で10%以上延伸して透明ポリマーフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性率が高く、寸法変化が小さく、適切な透湿度を有する透明ポリマーフィルムおよびその製造方法に関する。また、本発明は、該透明ポリマーフィルムを用いた光学補償フィルム、積層フィルム、偏光板、およびそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、光学補償フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマービニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーのフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、該フィルムは光学用途のフィルムとして広く採用されている。
【0003】
これらのうち、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースアシレート、特にセルロースアセテートやセルロースアセテートプロピオネートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0004】
このような偏光板を使用した液晶表示装置においては、高延伸された偏光膜を使用するため、外部環境の変化による偏光板の寸法変化に伴い、液晶表示装置の表示画面の4辺もしくは4隅に光漏れが発生することがある。このような光漏れは、視認しやすくて表示装置の品質に大きな影響を与えてしまうため、改善すべき重要な問題である。
【0005】
この対策として、偏光板を他の部材と貼合する粘着剤に応力吸収・緩和の機能を持たせることで、光学欠陥を低減させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では欠陥を低減させることはできるものの、欠陥の本質的な原因である偏光板の寸法変化を改善できないため、改善が求められていた。
【特許文献1】特開2000−109771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、弾性率が高く、寸法変化が小さく、適切な透湿度を有する透明ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、本発明の透明ポリマーフィルムを用いた光学補償フィルム、並びに、本発明の透明ポリマーフィルムを、光学補償フィルム、光学補償フィルムの支持体、または積層フィルムとして、他のポリマーフィルムと直接貼合し、優れた光学性能を発揮することのできる積層フィルムや偏光板を提供することにもある。さらに、本発明の目的は、熱や湿度環境の変化に伴い画面の周辺部に発生する光漏れが抑制された、信頼性の高い液晶表示装置を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は下記の手段により解決される。
[態様1]
40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100g/(m2・day)以上である透明ポリマーフィルムを(Tg+50)℃以上で10%以上延伸する工程を含むことを特徴とする透明ポリマーフィルムの製造方法。
[態様2]
前記延伸を(Tg+60)℃以上で行うことを特徴とする態様1に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[態様3]
前記延伸を200℃以上で行うことを特徴とする態様1または2に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[態様4]
前記延伸によって透明ポリマーフィルムの弾性率が1.1〜100倍になることを特徴とする態様1〜3のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[態様5]
前記延伸を20%/分以上の延伸速度で実施することを特徴とする態様1〜4のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【0008】
[態様6]
前記延伸が、周速が異なる少なくとも2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する装置内において行う縦延伸であることを特徴とする態様1〜5のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
[態様7]
態様1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により製造される透明ポリマーフィルム。
[態様8]
弾性率が5GPa以上であり、且つ、40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100〜2000g/(m2・day)であることを特徴とする透明ポリマーフィルム。
[態様9]
湿度膨張係数が6×10-5/%RH以下であることを特徴とする態様7または8に記載の透明ポリマーフィルム。
[態様10]
全光透過率が90%以上であることを特徴とする態様7〜9のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
[態様11]
ヘイズが2%以下であることを特徴とする態様7〜10のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
[態様12]
セルロースエステルを主成分であるポリマーとして含有することを特徴とする態様7〜11のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
[態様13]
前記セルロースエステルがセルロースアセテートであることを特徴とする態様12に記載の透明ポリマーフィルム。
[態様14]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを少なくとも一枚有する光学補償フィルム。
【0009】
[態様15]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム上に光学異方性層を設けたことを特徴とする光学補償フィルム。
[態様16]
前記光学異方性層がディスコティック液晶を含有することを特徴とする態様15に記載の光学補償フィルム。
[態様17]
前記光学異方性層が棒状液晶を含有することを特徴とする態様15に記載の光学補償フィルム。
[態様18]
前記光学異方性層がポリマーフィルムからなることを特徴とする態様15〜17のいずれか一項に記載の光学補償フィルム。
[態様19]
前記ポリマーフィルムが、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミドおよびポリアリールエーテルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー材料を含むことを特徴とする態様18に記載の光学補償フィルム。
【0010】
[態様20]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを少なくとも一枚有する積層フィルム。
[態様21]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの少なくとも1枚と、その他のポリマーフィルムとが貼合されていることを特徴とする積層フィルム。
[態様22]
前記透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向と、前記その他の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向とのなす角が15°以下であることを特徴とする態様21に記載の積層フィルム。
[態様23]
前記その他の透明ポリマーフィルムの主成分であるポリマーがポリビニルアルコールであることを特徴とする態様21または22に記載の積層フィルム。
[態様24]
前記その他の透明ポリマーフィルムが偏光膜であることを特徴とする態様21〜23のいずれか一項に記載の積層フィルム。
[態様25]
全光透過率が50%以下であることを特徴とする態様20〜24のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【0011】
[態様26]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを少なくとも一枚有する偏光板。
[態様27]
態様20〜25のいずれか一項に記載の積層フィルムからなる偏光板。
[態様28]
表面に、ハードコート層、防眩層および反射防止層からなる群より選択される層を少なくとも一層設けた態様26または27に記載の偏光板。
【0012】
[態様29]
態様7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム、態様14〜19のいずれか一項に記載の光学補償フィルム、態様20〜25のいずれか一項に記載の積層フィルム、および態様26〜28のいずれか一項に記載の偏光板からなる群より選択されるフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性率が高く、寸法変化が小さく、適切な透湿度を有する透明ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、本発明の透明ポリマーフィルムを用いた光学補償フィルム、並びに、本発明の透明ポリマーフィルムを、光学補償フィルム、光学補償フィルムの支持体、または積層フィルムとして、他のポリマーフィルムとオンラインで直接貼合し、優れた光学性能を発揮することのできる積層フィルムや偏光板を提供することもできる。さらに、熱や湿度環境の変化に伴い画面の周辺部に発生する光漏れを抑制することができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明の透明ポリマーフィルムおよびその製造方法、位相差フィルム、積層フィルム、偏光板、および、液晶表示装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
《透明ポリマーフィルム》
本発明の透明ポリマーフィルムは、弾性率が5GPa以上であり、且つ、40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100〜2000g/(m2・day)であることを特徴とする。
【0016】
[弾性率]
本発明における弾性率は、長さ150mm、巾10mmのフィルム試料を用意し、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ISO1184−1983の規格に準じ、初期試料長100mm、引張速度10mm/minにて測定し、応力−歪み曲線の初期の傾きから求めた引張り弾性率である。フィルム試料の長さ方向と幅方向の取り方によって一般に弾性率は異なるが、本発明では弾性率が最大となる方向でフィルム試料を用意して測定した値を本発明の弾性率として表記する。
本発明のフィルムの弾性率は5GPa以上であり、6〜30GPaが好ましく、7〜20GPaがより好ましく、8〜15GPaがさらに好ましい。弾性率を本発明の範囲に調整する方法については、後述する。
【0017】
[弾性率変化]
本発明における弾性率変化は、前記方法にしたがって求めた延伸処理前のフィルムの弾性率をE0、延伸処理後のフィルムの弾性率をE1としたとき、下記式により算出される。
弾性率変化[倍]=E1/E0
本発明における弾性率変化は、1.1〜100倍が好ましく、1.3〜10倍がより好ましく、1.5〜8倍がさらに好ましく、2〜5倍が特に好ましい。弾性率変化が1.1倍以上であれば、ポリマー鎖の配向が進むため、外力を受けた場合の寸法変化を低減させることが可能であるという点で好ましく、弾性率変化が100倍以下であれば偏光板の保護フィルムとして用いた場合に偏光子の寸法変化を効率的に抑制できるという点で好ましい。
【0018】
[湿度膨張係数]
本発明における湿度膨張係数を測定する際には、弾性率が最大となる方向を長手方向として切り出した長さ25cm(測定方向)、幅5cmのフィルム試料を用意し、該試料に20cmの間隔でピン孔を空け、25℃、相対湿度10%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL0とする)。次いで、試料を25℃、相対湿度80%にて24時間調湿後、ピン孔の間隔をピンゲージで測長する(測定値をL1とする)。これらの測定値を用いて下記式により湿度膨張係数を算出する。
湿度膨張係数[/%RH]={(L1−L0)/L0}/(R1−R0
本発明のフィルムの湿度膨張係数は6.0×10-5/%RH以下が好ましく、4.0×10-5/%RH以下がより好ましく、3.0×10-5/%RH以下がさらに好ましく、2.0×10-5/%RH以下が最も好ましい。湿度膨張係数が6.0×10-5/%RH以下であれば、偏光板の保護フィルムとして用いた場合に、偏光板を湿熱環境で保持した前後に発生する周辺部の偏光度低下や偏光面のズレを抑制できるという点で好ましい。
【0019】
[全光透過率]
本発明における全光透過率は、長さ40mm、幅80mmの試料を、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度60%でJIS K−6714の規格に準じ、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)にて測定したものである。
本発明のフィルムの全光透過率は90%以上であり、91%以上が好ましく、92%以上がより好ましく、93%さらに好ましく、94%以上が特に好ましい。
【0020】
[ヘイズ]
本発明におけるヘイズは、長さ40mm、幅80mmの試料を、25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度60%でJIS K−6714の規格に準じ、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)にて測定したものである。
本発明の透明ポリマーフィルムのヘイズは2%以下であることが好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が特に好ましく、場合により0.2%以下が最も好ましい。
【0021】
[透湿度]
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップをフィルムを用いて蓋をし、且つ密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。なお、透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、各条件によらず、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準とする。また、透湿度は、膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明における「膜厚80μm換算の透湿度」とした。
【0022】
本発明のフィルムの透湿度は、80μm換算で100g/(m2・day)以上である。前記80μm換算の透湿度を100g/(m2・day)以上としたフィルムを使用することで、偏光膜と直接貼合することができる。前記80μm換算の透湿度としては、100〜1500g/(m2・day)がより好ましく、300〜1000g/(m2・day)がさらに好ましい。
また、本発明の透明ポリマーフィルムを後述のように偏光膜と液晶セルとの間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合、本発明の透明ポリマーフィルムの透湿度は、80μm換算で500g/(m2・day)未満であることが好ましく、100〜450g/(m2・day)がより好ましく、100〜400g/(m2・day)がさらに好ましく、150〜300g/(m2・day)が最も好ましい。このようにすることで、湿度もしくは湿熱に対する偏光板の耐久性が向上し、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0023】
80μm換算で100g/(m2・day)以上の透湿度を有する本発明のフィルムを調製するには、ポリマーの親疎水性を適切に制御するか、フィルムの密度を低下させることが好ましい。前者の方法として、例えば、ポリマー主鎖の親疎水性を適切に制御し、さらに疎水的もしくは親水的な側鎖を導入する方法などが挙げられ、後者の方法として、例えば、ポリマー主鎖に側鎖を導入する、製膜時に用いる溶媒の種類を選択する、製膜時の乾燥速度を制御する、などの方法が挙げられる。
【0024】
[Tg]
本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、DSCの測定パンにフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、再度30℃から250℃まで昇温したときにベースラインが低温側から偏奇し始める温度を測定することにより決定する。
本発明のフィルムのTgは、80℃〜300℃であることが好ましく、100℃〜200℃であることがより好ましく、130℃〜180℃であることがさらに好ましい。
【0025】
[ポリマー]
本発明の透明ポリマーフィルムの構成要素となるポリマーとしては、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、ポリアミドおよびポリイミド等を挙げることができる。前記ポリマーは、適切な透湿度を達成するために、主鎖もしくは側鎖に水酸基、アミド、イミドまたはエステル等の親水的な構造を有することが好ましい。前記ポリマーとしては、セルロースエステルが好ましい。
前記ポリマーとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることもできる。
前記ポリマーの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。前記ポリマーの含水率が好ましい範囲内にない場合には、前記ポリマーを加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
これらのポリマーは単独で用いてもよいし、2種類以上のポリマーを併用してもよい。
【0026】
前記セルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられ、その中でもセルロースアシレートが特に好ましい。
なお、本発明の透明ポリマーフィルムの主成分であるポリマーとしては、上述のセルロースアシレートを用いることが好ましい。ここで、「主成分であるポリマー」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0027】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸が最も好ましい。
前記セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースエステルは、セルロースと複数の酸とのエステルであってもよい。また、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0028】
本発明の透明ポリマーフィルムにおいては、酢酸とのエステルを有するセルロースアシレートであるセルロースアセテートが特に好ましく、溶媒への溶解性の観点から、アセチル置換度が2.70〜2.87のセルロースアセテートがより好ましく、2.80〜2.86のセルロースアセテートが最も好ましい。ここでアセチル置換度とは、セルロースの2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子がアシル基で置換されている割合の合計を意味し、すべてのヒドロキシル基が置換されている場合の置換度は3となる。
【0029】
セルロースアシレートの合成方法に関する基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0030】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0031】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0032】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0033】
《透明ポリマーフィルムの製造方法》
本発明の透明ポリマーフィルムは、ポリマーや各種添加剤を含有するポリマー溶液から溶液流延製膜方法によって作製することができる。また、ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ後述の延伸温度よりも高い場合には、本発明の透明ポリマーフィルムを溶融製膜法によって製膜することで作製することもできる。溶融製膜法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
以下では、本発明における好ましい実施態様を例にとって、透明ポリマーフィルムの製造方法を具体的に説明する。
【0034】
[ポリマー溶液]
(溶媒)
本発明の透明ポリマーフィルムは、例えば、ポリマーや必要に応じて各種添加剤を含有するポリマー溶液を溶液流延製膜方法等によって製膜することで作製することができる。
本発明の透明ポリマーフィルムの作製に用いられるポリマー溶液(好ましくはセルロースエステル溶液)の主溶媒としては、該ポリマーの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
【0035】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の透明ポリマーフィルムの作製に用いられるポリマー溶液(好ましくはセルロースエステル溶液)の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。
【0036】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0037】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0038】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0039】
本発明の透明ポリマーフィルムを構成するポリマーがセルロースアシレートを含む場合、全溶媒中に好ましくは5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することがバンドからの剥離荷重低減の観点から好ましい。
また、Rth低減の観点から、本発明の透明ポリマーフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上であり、且つ、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を好ましくは1〜15質量%、より好ましくは1.5〜13質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有することが好ましい。
【0040】
本発明の透明ポリマーフィルムの作製に用いられるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例を以下に挙げるが、本発明で用いることができる組み合わせはこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
【0041】
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/5/5/10
(3)ジクロロメタン/イソブチルアルコール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2
(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/ブタノール=90/10
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=75/5/10/5/5
(15)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブチルアルコール/シクロヘキサン=60/18/3/10/7/2
(16)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/イソブチルアルコール=70/10/10/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5
(24)1,3−ジオキソラン=100
(25)ジクロロメタン/メタノール=85/15
(26)ジクロロメタン/メタノール=92/8
(27)ジクロロメタン/メタノール=90/10
(28)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(29)ジクロロメタン/エタノール=90/10
【0042】
また、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とした場合の詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0043】
(溶液濃度)
調製する前記ポリマー溶液中のポリマー濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記ポリマー濃度は、ポリマーを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、ポリマーの濃度を低下させることもできる。
【0044】
(添加剤)
本発明の透明ポリマーフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤を含むことができる。前記添加剤の例としては、可塑剤(好ましい添加量はポリマーに対して0.01〜10質量%、以下同様)、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。
【0045】
前記可塑剤や前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レターデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースアシレートと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レターデーションの湿度変化を低減させることができる。また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレターデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明の透明ポリマーフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
【0046】
レターデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、本発明においてより好ましく用いられるセルロースアセテートをポリマーとして用いる場合、前記分子量3000以下の添加剤の添加量は、前記ポリマーに対し0.01〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0047】
本発明の透明ポリマーフィルムを構成するポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合に好適に用いることのできる可塑剤については、特開2001−151901号公報に記載がある。また、赤外吸収剤については、特開2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。また、前記添加剤については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)16頁〜22頁にも記載がある。
【0048】
(ポリマー溶液の調製)
前記ポリマー溶液の調製は、例えば、特開2005−104148号公報の106〜120頁に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してポリマー溶液を得ることができる。
【0049】
[流延、乾燥]
本発明の透明ポリマーフィルムは、従来の溶液流延製膜方法に従い、従来の溶液流延製膜装置を用いて製造できる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(ポリマー溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することができる。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。本発明においては、金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。
【0050】
上記、流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0051】
このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶媒量は0〜2質量%が好ましく、より好ましくは0〜1質量%である。乾燥終了後、そのまま熱処理ゾーンへ搬送してもよいし、フィルムを巻き取ってからオフラインで熱処理を実施してもよい。熱処理前の透明ポリマーフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。また、一旦フィルムを巻き取る場合には、好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0052】
[延伸]
本発明では、目的の弾性率を達成するために、上記製膜された透明ポリマーフィルムを、Tgを大きく超えた高温条件下で延伸する。
【0053】
(温度)
本発明の製造方法では、透明ポリマーフィルムを、(Tg+50)℃以上で延伸する工程を有する。前記熱処理温度は、より好ましくは(Tg+60)℃以上であり、さらに好ましくは(Tg+65)〜(Tg+150)℃、特に好ましくは(Tg+70)℃〜(Tg+100)℃である。この温度は、ポリマーフィルムの主成分であるポリマーがセルロースアシレートの場合には、200℃以上であり、好ましくは210〜270℃であり、さらに好ましくは220〜250℃である。このように延伸温度を設定することで、ポリマー鎖の運動性を向上させることができるため、延伸倍率の増大に伴うフィルムの白化(ヘイズ上昇)やフィルムの切断を防ぐことができる。また、後述のように延伸速度や延伸倍率を調整することで、ポリマー鎖の凝集や配向と、同時に起こる熱緩和とのバランスを適切に制御することができる。したがって、本発明の製造方法に従うことにより、フィルム中のポリマー鎖の凝集や配列を高度に進めることができ、従来は達成することのできなかった弾性率が非常に大きく、湿度寸法変化が小さく、適度な透湿度を有する本発明の透明ポリマーフィルムを製造することが可能となる。
【0054】
(延伸方法)
延伸は、フィルムの両端をチャックで把持しこれを搬送方向と直交する方向に広げて実施してもよいが(横延伸)、好ましい延伸方向は搬送方向であり、例えば、出口側の周速を速くした2つ以上のニップロール間に加熱ゾーンを有する装置内にて縦延伸(ゾーン延伸)することが好ましい。延伸倍率はフィルムに要求する弾性率に応じて適宜設定することができ、10〜500%が好ましく、30〜200%がより好ましく、50〜150%がさらに好ましく、70〜100%が特に好ましい。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。なお、ここでいう「延伸倍率(%)」とは、以下の式を用いて求めたものを意味する。延伸速度は20%/分以上が好ましく、20〜10000%/分がより好ましく、50〜5000%/分がさらに好ましく、100〜1000%/分がさらにより好ましく、150〜800%/分が特に好ましい。
【0055】
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0056】
本発明の透明ポリマーフィルムは単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のポリマーフィルムを意味する。そして、複数のポリマー溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のポリマーフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、ポリマーの分子量分布やポリマーの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなポリマーフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0057】
[表面処理]
本発明の透明ポリマーフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0058】
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明の透明ポリマーフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。
また、本発明の透明ポリマーフィルム上に設けられる機能性層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、使用することができる。
【0059】
《光学補償フィルム》
本発明の透明ポリマーフィルムは、光学補償フィルムとして用いることができる。なお、「光学補償フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差フィルム、位相差板、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、光学補償フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
【0060】
本発明の透明ポリマーフィルムは、そのまま光学補償フィルムとして用いることができる。また、本発明の透明ポリマーフィルムを複数枚積層したり、本発明の透明ポリマーフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して光学補償フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0061】
また、場合により、本発明の透明ポリマーフィルムを光学補償フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて光学補償フィルムとして使用することもできる。本発明の光学補償フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよい。
【0062】
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0063】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0064】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0065】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0066】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0067】
(ポリマーフィルムからなる光学異方性層)
前記光学異方性層は、ポリマーフィルムから形成してもよい。前記ポリマーフィルムは、光学異方性を発現し得るポリマーから形成することができる。前記光学異方性を発現し得るポリマーの例には、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、および、セルロースエステル(例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート)が含まれる。また、前記ポリマーとしては、これらポリマーの共重合体若しくはポリマー混合物を用いてもよい。
【0068】
《積層フィルム》
本発明の透明ポリマーフィルムまたは光学補償フィルムは、本発明の透明ポリマーフィルムまたは光学補償フィルムと貼合して積層することができる。また、本発明の透明ポリマーフィルムまたは光学補償フィルムは、本発明外の透明ポリマーフィルムまたは光学補償フィルムと貼合して積層することもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
上記フィルム同士の積層は、オンラインでもオフラインでも実施することができるが、生産性の観点からオンラインで実施されるほうが望ましい。この場合、本発明の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向と、本発明外の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向とのなす角が小さければ、本発明外の透明ポリマーフィルムの環境による寸法変化を抑制できるため好ましく、本発明の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向と、本発明外の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向とのなす角は15°以下が好ましく、10°以下がより好ましく、5°以下がさらに好ましく、2°以下が最も好ましい。
【0069】
本発明外の透明ポリマーフィルムの主成分となるポリマーとしては、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、ポリアミド、ポリイミド、およびアミロース等を挙げることができ、この中でもポリエステルおよびビニルポリマーが好ましく、ポリエチレンテレフタレートおよびポリビニルアルコールがより好ましく、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0070】
本発明の積層フィルムの全光透過率は特に制限されないが、50%以下が好ましく、30〜50%がより好ましく、40〜49%がさらに好ましい。
【0071】
また、前記本発明外の透明ポリマーフィルムには二色性分子が導入されていることが好ましい。二色性分子としては、I3-やI5-などの高次のヨウ素イオンもしくは二色性染料を好ましく使用することができる。さらに、二色性分子が導入されているフィルムは延伸されていることが好ましく、偏光分離機能を有している、いわゆる偏光膜であることがさらに好ましい。
【0072】
《偏光板》
本発明の透明ポリマーフィルム、光学補償フィルム、または積層フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなり、本発明の透明ポリマーフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。また、本発明の透明ポリマーフィルム、光学補償フィルム、または積層フィルムは、接着剤を用いて偏光膜とロールツーロールで貼合することができる。
【0073】
本発明の透明ポリマーフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明の透明ポリマーフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明の透明ポリマーフィルムを構成するポリマーがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0074】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明ポリマーフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明においては、このように前記透明ポリマーフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0075】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明の透明ポリマーフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれにも好適に用いることができる。また、本発明の透明ポリマーフィルムを液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合には、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0076】
《液晶表示装置》
本発明の透明ポリマーフィルム、光学補償フィルム、積層フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。本発明の透明ポリマーフィルム、光学補償フィルムおよび積層フィルムは、弾性率が高く、湿度膨張係数が小さいため、これを用いた偏光板では、偏光子の熱及び湿度による寸法変化を本発明のフィルムが抑制する。したがって、熱や湿度環境の変化に伴い画面の周辺部に発生する光漏れを抑制することができる。
【0077】
以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0078】
(TN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体として用いることができる。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0079】
(STN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0080】
(VA型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償フィルムや光学補償フィルムの支持体として用いることができる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0081】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償フィルムや光学補償フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。
【0082】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0083】
(反射型液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0084】
(その他の液晶表示装置)
本発明の透明ポリマーフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0085】
[その他の用途]
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明の透明ポリマーフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明ポリマーフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明の透明ポリマーフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0087】
《測定法》
まず、下記の実施例および比較例中で用いた特性の測定法および評価法を以下に示す。
【0088】
[弾性率]
幅方向3点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)を長手方向に100mごとにサンプリングし、前述の方法に従って評価した各点の平均値を求め、フィルムの弾性率とした。なお、特に記載がない限り、搬送方向が長手方向となるようにサンプリングした。
【0089】
[弾性率変化]
前記方法に従って求めた延伸処理前後のフィルムの弾性率変化を算出した。
【0090】
[湿度膨張係数]
幅方向3点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)を長手方向に100mごとにサンプリングし、前述の方法に従って評価した各点の平均値を求め、フィルムの湿度膨張係数とした。
【0091】
[全光透過率]
幅方向5点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、前述の方法に従って評価した各点の平均値を求め、フィルムの全光透過率とした。
【0092】
[ヘイズ]
幅方向5点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、前述の方法に従って評価した各点の平均値を求め、フィルムのヘイズとした。
【0093】
[透湿度]
前述の方法に従って評価した値を膜厚80μm換算の透湿度とした。
【0094】
[Tg]
前述の方法に従って評価した値をフィルムのTgとした。
【0095】
[面状]
フィルム面状は、得られた透明ポリマーフィルムの表面を目視により観察し、次の評価尺度に従って評価した。
○: フィルムの面状が良好で、光学フィルムとして好ましく適用できるもので
あった。
×: フィルムが全面的に白濁してしまい、光学フィルムとしては適用できなか
った。
【0096】
[レターデーション]
幅方向5点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、2cm□の大きさのサンプルを取り出し、下記の方法に従って評価した各点の平均値を求め、ReおよびRthとした。すなわち、まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、632.8nmのHe−Neレーザーを用いて下記式(a)で表される平均屈折率(n)を求めた。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
続いて、調湿されたフィルムを、複屈折測定装置(ABR−10A:ユニオプト(株)製)を用い、25℃、相対湿度60%において、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および、フィルム面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム面法線から±40°傾斜させた方向から632.8nmのHe−Neレーザーを用いてレターデーション値を測定し、さらに上記で求めた平均屈折率を用いて、nx、ny、nzをそれぞれ算出し、下記式(b)および(c)でそれぞれ表される面内方向のレターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。
式(b): Re=(nx−ny)×d
式(c): Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[式中、nxはフィルム面内の遅相軸(x)方向の屈折率であり、nyはフィルム面内のx方向と直交する方向の屈折率であり、nzはフィルムの膜厚方向(フィルム面法線方向)の屈折率であり、dはフィルム膜厚(nm)である。遅相軸はフィルム面内で屈折率が最大となる方向である。]
【0097】
[偏光度]
作製した2枚の偏光板を吸収軸を並行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)および吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc)を測定し、下記式で表される偏光度(P)を算出した。
偏光度P=((Tp−Tc)/(Tp+Tc))0.5
【0098】
[実施例101〜114、比較例101〜106]
(フィルム作製)
各実施例および比較例において下記フィルムを使用した(表1参照)。
【0099】
フィルムA: 特開2005−104148号公報の実施例1にしたがってフィルム
を作製し、フィルムAとした。
フィルムB: 市販のフジタック(T80UZ;富士写真フイルム(株)製)をその
まま使用した。
フィルムC: 特開2005−104148号公報の実施例12にしたがってフィル
ムを作製し、フィルムCとした。
フィルムD: 市販のフジタック(TD80UL;富士写真フイルム(株)製)をそ
のまま使用した。
フィルムE: 市販のポリビニルアルコールフィルム(膜厚75μm、クラレ(株)
製;40℃・相対湿度90%における透湿度=3300g/(m2
day)(膜厚80μm換算))をそのまま使用した(比較例105)。
フィルムF: 市販のゼオノアフィルム(膜厚100μm、日本ゼオン製;40℃・
相対湿度90%における透湿度=0g/(m2・day)(膜厚80
μm換算))をそのまま使用した(比較例106)。
【0100】
(延伸)
各実施例および比較例において下記延伸工程を使用した(表1参照)。
延伸A:
透明フィルムA〜Dについて、ロール延伸機を用いて表1に記載される条件下で縦一軸延伸処理を実施した。ロール延伸機は2つのニップロールからなり、各ロールには表面を鏡面処理した誘導発熱ジャケットロールを用いた。また、各ロールの温度は個別に調整できるようにした。延伸ゾーンはケーシングで覆い表1に記載の温度とした。延伸部の前のロールは徐々に表1記載の延伸温度に加熱できるように設定した。縦横比は3.3となるように延伸間距離を調整し、表1に記載の延伸速度で延伸した。延伸後は冷却して巻き取った。延伸倍率は表1に記載した。
延伸B:
得られた透明フィルムについて、2つのニップロール間に表1記載の温度に調整された加熱ゾーンを有する装置を用いて延伸を実施した。延伸倍率はニップロールの周速を調整することで制御し、縦横比(ニップロール間の距離/ベース幅)は3.3となるように調整した。延伸後は冷却して巻き取った。延伸倍率は表1に記載した。
【0101】
(透明ポリマーフィルムの評価)
得られた各透明ポリマーフィルムの評価を行った。結果を下記表1に示す。
なお、実施例101〜114および比較例101〜104のフィルムの膜厚80μm換算の透湿度は全て300〜1000g/(m2・day)の範囲内であった。また、全ての実施例において、フィルムの弾性率が最大となる方向と、フィルムの搬送方向とのなす角は、3°以下であった。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示したように、本発明の方法により、弾性率が高く、湿度寸法変化が小さいフィルムを製造することができる。
【0104】
[実施例201〜214、比較例202〜205]
【0105】
(偏光板の作製)
得られたフィルムを下記にしたがって鹸化処理し、偏光板を作製し、実施例101〜114のフィルムを用いて作製した偏光板をそれぞれ実施例201〜214とし、比較例102〜104のフィルムを用いて作製した偏光板をそれぞれ比較例202〜204とし、フィルムEを用いて作製した偏光板を比較例205とした。なお、これらの偏光板の全光透過率は40〜45%であった。
【0106】
1)フィルムの鹸化
フィルムを55℃に調温した1.5mol/LのNaOH水溶液(けん化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0107】
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0108】
3)貼り合わせ
得られた偏光膜を、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、フィルムの長手方向と偏光膜の長手方向とが平行になるように、2枚の前記鹸化処理したフィルムで挟みこむようにしてオンラインで貼り合わせた。なお、フィルムFを用いた場合、偏光膜との密着不良のため、偏光板の作製ができなかった。
【0109】
[比較例207]
実施例101のフィルムを用い、前述の(偏光板の作製)中の「3)貼り合わせ」を下記のように変更した以外は比較例201と同様に偏光板を作製し、比較例207とした。
【0110】
3)貼り合わせ
得られた偏光膜の両面に、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、切り出しておいた鹸化処理済みの実施例101のフィルムを、フィルムの弾性率が最大となる方向と、偏光膜の長手方向とが直交するように貼り合わせた。
【0111】
(偏光板の評価)
[初期偏光度]
前記偏光板の偏光度を前述の方法で算出したところ、実施例201〜214および比較例202〜205および比較例207の全ての偏光板が99.9%以上の偏光度を有していた。しかし、比較例106のフィルムを用いた場合、偏光膜との密着不良のため、偏光板の作製ができなかった。
【0112】
[経時偏光度1]
前記偏光板を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度95%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出したところ、実施例201〜214および比較例202〜204および比較例207の全ての偏光板が99.9%以上の偏光度を有していた。しかし、比較例205の偏光板では、偏光度が10%未満に低下してしまった。
【0113】
[経時偏光度2]
前記偏光板を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、90℃・相対湿度0%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出したところ、実施例201〜214および比較例202〜204および比較例207の全ての偏光板が99.9%以上の偏光度を有していた。比較例205の偏光板では、偏光度が90%未満に低下してしまい、表示装置用途には適用できないものになってしまった。
【0114】
(TN型液晶表示装置への実装評価)
前記偏光板をTN型液晶表示装置(AQUOS LC20C1S、シャープ(株)製)に組み込まれていた偏光板の代わりに組み込み、60℃・相対湿度0%にて1日保持した後、1時間後に目視にて観察したところ、実施例201〜213の偏光板を組み込んだ場合には、画面の他の部分と比較して画面の4辺に額縁状の光漏れは観測されなかったのに対し、比較例202〜203の偏光板を組み込んだ場合には、画面の他の部分と比較して画面の4辺に額縁状の光漏れが観測され、比較例204の偏光板を組み込んだ場合には、若干の額縁状の光漏れが観測された。実施例214の偏光板を組み込んだ場合には、暗室にてわずかな額縁状の光漏れが観測されたもの実用上問題ないものであり、比較例207の偏光板を組み込んだ場合には、額縁状の光漏れが酷く観測された。また、特開2000−109771号公報の実施例1に記載の粘着剤を用いて比較例202の偏光板を組み込んだ場合には、額縁状の光漏れが低減されたものの、目視にて光漏れが確認された。それに対し、特開2000−109771号公報の実施例1に記載の粘着剤を用いて本発明の偏光板を組み込んだ場合には、額縁状の光漏れは観測されなかった。
【0115】
(VA型液晶表示装置への実装評価)
前記偏光板をVA型液晶表示装置(32V型ハイビジョン液晶テレビモニター(W32−L7000)、日立製作所(株)製)に組み込み、60℃・相対湿度95%にて1週間保持した後、25℃・相対湿度60%に保持し、1日後に目視にて観察したところ、実施例201〜213の偏光板を組み込んだ場合には、画面の他の部分と比較して画面の4隅に光漏れは観測されなかったのに対し、比較例202〜203の偏光板を組み込んだ場合には、画面の他の部分と比較して画面の4隅に光漏れが観測され、比較例204の偏光板を組み込んだ場合には、若干の4隅の光漏れが観測された。実施例214の偏光板を組み込んだ場合には、暗室でわずかな4隅の光漏れが観測されたものの実用上問題ないものであり、比較例207の偏光板を組み込んだ場合には、酷い4隅の光漏れが観測された。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、弾性率が高く、湿度寸法変化が小さく、適度な透湿度を有する透明ポリマーフィルムを提供することができ、優れた光学補償フィルムや積層フィルムを提供することができる。また、本発明の透明ポリマーフィルムは適度な透湿度を有するため、偏光膜とオンラインで貼り合わせることができ、優れた偏光板を生産性よく提供することができる。さらに、熱や湿度環境の変化に伴い画面の周辺部に発生する光漏れを抑制することができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100g/(m2・day)以上である透明ポリマーフィルムを(Tg+50)℃以上で10%以上延伸する工程を含むことを特徴とする透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記延伸を(Tg+60)℃以上で行うことを特徴とする請求項1に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸を200℃以上で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸によって透明ポリマーフィルムの弾性率が1.1〜100倍になることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸を20%/分以上の延伸速度で実施することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記延伸が、周速が異なる少なくとも2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する装置内において行う縦延伸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により製造される透明ポリマーフィルム。
【請求項8】
弾性率が5GPa以上であり、且つ、40℃・相対湿度90%における透湿度が膜厚80μm換算で100〜2000g/(m2・day)であることを特徴とする透明ポリマーフィルム。
【請求項9】
湿度膨張係数が6×10-5/%RH以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の透明ポリマーフィルム。
【請求項10】
全光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
【請求項11】
ヘイズが2%以下であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
【請求項12】
セルロースエステルを主成分であるポリマーとして含有することを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム。
【請求項13】
前記セルロースエステルがセルロースアセテートであることを特徴とする請求項12に記載の透明ポリマーフィルム。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを少なくとも一枚有する光学補償フィルム。
【請求項15】
請求項7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムを少なくとも一枚有する積層フィルム。
【請求項16】
請求項7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルムの少なくとも1枚と、その他のポリマーフィルムとが貼合されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項17】
前記透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向と、前記その他の透明ポリマーフィルムの弾性率が最大となる方向とのなす角が15°以下であることを特徴とする請求項16に記載の積層フィルム。
【請求項18】
前記その他の透明ポリマーフィルムの主成分であるポリマーがポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項16または17に記載の積層フィルム。
【請求項19】
前記その他の透明ポリマーフィルムが偏光膜であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項20】
全光透過率が50%以下であることを特徴とする請求項15〜19のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項21】
請求項7〜13のいずれか一項に記載の透明ポリマーフィルム、請求項14に記載の光学補償フィルム、および請求項15〜19のいずれか一項に記載の積層フィルムからなる群より選択されるフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2007−176164(P2007−176164A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321930(P2006−321930)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】