説明

透明導電性積層体の製造方法

【課題】透明性が高く各層間で優れた密着性を持たすことができ、且つ、大気中でも短時間で透明導電層の結晶化を実現する。
【解決手段】透明基板層11の片面に少なくとも透明導電層13,14,15を形成する工程と、前記透明基板層に透明樹脂フィルムを貼り合わせた状態で加熱する工程とからなり、前記透明基板層は少なくとも金属酸化化合物層13、酸化ケイ素層14、及び酸化インジウム・スズ層15が順に積層されてなり、前記加熱処理は大気中で行われる処理。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子機器に用いられる透明導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器には、ディスプレイ上の入力デバイスとして、透明なタッチパネルが用いられている。このタッチパネルの形式としては、抵抗膜式や静電容量式などが挙げられる。このうち抵抗膜式タッチパネルは専用のペンを用いた入力が可能であり、家電などの入力機器に用いられている。また、静電容量式タッチパネルはマルチタッチが可能であり、モバイル機器などに多く用いられている。
【0003】
タッチパネル用途での透明導電性フィルムでは、抵抗膜式においては、上下の電極が接触するため、機械的耐久性が求められる。そのため、機械的強度を持たせる為に、フィルムを加熱することでITO(インジウムティンオキサイト)を結晶化させる手段が取られている。静電容量式においては、透明導電層のパターン形状が目立ちにくいことの他に、異なるパターンを有する複数の導電性フィルムを貼り合せるといった技術が必要となる。
【0004】
また、タッチパネルは光学部品であるため、その中の部材として用いられる透明導電膜には低い電気抵抗、可視光に対する高い透過率と高い耐久性などが要求される。ITO膜は、導電性が良好で、しかも可視光波長域での透光性が良好のため、各種のディスプレイ、タッチパネル及び太陽電池の透明電極、熱反射ガラス、防曇、防氷、帯電防止ガラス、電磁シールガラス等に利用されている。ITO膜の成膜方法については、マグネトロンスパッタリング法、加速電子ビームを照射するEB蒸着法などの方法が工業的に広く用いられている。具体的には、下記特許文献1〜5などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−314999号公報
【特許文献2】特開平6−320661号公報
【特許文献3】特開平7−207439号公報
【特許文献4】特開平8−174746号公報
【特許文献5】特開平8−192492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、真空中で加熱処理することで、透明導電層を短時間で結晶化する方法が提案されている。しかし、大気中で透明導電性積層体を加熱処理する場合、真空中で加熱処理するのに比べ、加熱処理時間が長くなってしまう問題がある。時間短縮には加熱温度を上げることが考えられるが、フィルム上に導電層が成膜されている場合、加熱できる温度に限りがある。
【0007】
特許文献2及び3によれば、マグネトロンスパッタリング法を用いて積層体を作製することによって、可視光域での透過率が高い透明導電膜を作る方法を提案されている。しかし、得られた透明導電薄膜は一定の耐性を持っている一方、上記透明導電膜は基材自身の強度が不十分であり、且つ透明導電膜の密着性と耐久性も不十分であるという欠点がある。
【0008】
特許文献4及び5では、透明基板の片面あるいは両面に透明硬質な有機物質層によるハードコート層が設けられ、その上に、酸化ケイ素とITO透明導電膜を積層する方法が提案されている。この方法から、得られた透明導電膜は密着性と一定の耐性を持っているがタッチパネルへの応用において、上記透明導電膜の耐久性は不十分である。
【0009】
本発明の透明導電性積層体の製造方法は前記従来技術の問題点を解決し、大気中で透明導電性積層体を短時間で結晶化させて、フィルムなどの基材に対して透明導電性積層体を作製し、ディスプレイあるいはタッチパネル向けとして提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に記載の発明は、透明基板層の片面に少なくとも透明導電層を形成する工程と、前記透明導電層に透明樹脂フィルムを貼り合わせた状態で加熱する工程を備えて透明導電性積層体の製造方法を構成した。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1の透明導電性積層体の製造方法において、前記透明導電層を金属酸化化合物、酸化ケイ素層及び酸化インジウム・スズ層を順に設けて作製したことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2の透明導電性積層体の製造方法において、前記透明樹脂フィルムの密着力は0.01N/20mm以上0.1N/20mm以下であり、耐久温度が300℃以下に設定して作製したことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3の透明導電性積層体の製造方法において、前記加熱処理により前記透明導電層を結晶化させて作製したことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から4の透明導電性積層体の製造方法において、前記加熱処理が大気中で行われる処理であり、加熱温度が80℃以上150℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下に設定して作製したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から5の透明導電性積層体の製造方法において、前記透明樹脂フィルムが粘着層を有し、透明導電層と貼り合わせた状態で加熱処理して作製したことを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から6の透明導電性積層体の製造方法において、前記加熱処理をロールトゥロール方式で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の透明導電性積層体の製造方法によれば、透明性が高く各層間で優れた密着性を持たすことができる。また、透明導電層に透明基板層の反対側に透明樹脂フィルムを張り合わせた状態で加熱処理することで、大気中でも短時間で透明導電層を結晶化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る透明導電性積層体の製造方法による透明導電性積層体の断面説明図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る透明導電性積層体の製造方法による透明導電性積層体の断面説明図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る透明導電性積層体の製造方法による透明導電性積層体の断面説明図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る透明導電性積層体の製造方法による透明導電性積層体の断面説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る透明導電性積層体の製造方法による透明導電性積層体の断面説明図である。
【図6】本発明による透明導電性積層体をX線回析装置を用いて結晶化の評価を行った分析結果を示した特性図である。
【図7】比較例として作製した透明導電性積層体を同様のX線回析装置を用いて結晶化の評価を行った分析結果を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る透明導電性積層体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態による透明導電性積層体10を示すもので、透明プラスチック基材11として、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースおよびこれらの共重合樹脂、ゼラチン、カゼインなどの有機天然化合物などから、合成した透明な基板が例示できる。詳しい例として、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、トリアセテート(TAC)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファンなどが、好ましくはPET、PC、PMMA、TACなどが挙げられるが、この限りではない。
【0021】
本発明では、透明プラスチック基材11として、特に上記のポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、トリアセテート(TAC)などを利用できる。しかし、上記透明基板層の機械的な強度が不十分なため、その上に成膜した製品は機械的な強度が不十分である。この問題を解決するために、図2及び3に示す第2及び第3の実施の形態のように、透明プラスチック基材21(31)と金属酸化物層23(33a、33b)との間に第1のハードコート層22a(32a)を挿入することができる。ハードコート層は、透明プラスチック基材21(21)の表面に1層のみ設けてもよいが、さらに、透明プラスチック基材21(31)の強度を増加した時に発生するカールを抑制するために、透明プラスチック基材21(31)の裏面に第2のハードコート層22b(32b)を挿入することも可能である。
【0022】
本発明の第1のハードコート層22a(32a)と第2のハードコート層22b(32b)の膜厚については、1μm以上8μm以下であることが好ましい。膜厚が薄いとハードコート層の性能が出にくい。膜厚が厚いとハードコート層の性能が出やすいが、クラック発生の可能性が高くなる。そして、第1のハードコート層22a(32a)の膜厚と第2のハードコート層22b(32b)の膜厚の調整することにより、得られた透明導電薄膜積層体20(30)の表裏の応力が対称となるべく調整することができる。
【0023】
本発明のハードコート層に用いられる硬化性樹脂には、電離放射線や紫外線照射により硬化する硬化性樹脂や熱硬化性の樹脂が挙げられる。具体的には、紫外線硬化型であるアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド類等のアクリル系や、有機珪素系の樹脂、熱硬化型のポリシロキサン樹脂等が好適である。以上の樹脂が挙げられるが、この限りではない。
【0024】
ハードコート層の形成方法は、主成分である樹脂と紫外線を吸収する材料を溶剤に溶解させ、ダイコーター、カーテンフローコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、スピンコーター、マイクログラビアコーターなどの公知の塗布方法で形成する。
【0025】
本発明の金属酸化物層13(23,43)は、高屈折率の金属酸化物層である。金属酸化物層13(23,43)に用いられる材料としては、ZnO、TiO、CeO、Sb、SnO、Y、La、ZrO、Al、Nb等が挙げられるが、この限りではない。
【0026】
金属酸化物層13(23,33a,33b)の屈折率は、透明プラスチック基材11(21,31)とハードコート層の屈折率が1.5以上1.7以下であるため、1.7以上2.6以下であることが好ましい。この範囲にすることで、ハードコート層の屈折率より高いので、高屈折率材料として用いることができる。
【0027】
また、金属酸化物層13(23,33a,33b)の光学膜厚は、5nm以上25nm以下であることが好ましい。光学膜厚は、金属酸化物の屈折率をn、膜厚をdとしたときに、ndで表される。
【0028】
本発明の酸化ケイ素層14(24,34a,34b)は、低屈折率の金属酸化物層であり、SiOxで表される。ここで、xは酸素原子の数である。酸化ケイ素層14(24,34a,34b)の屈折率は、1.3以上1.5以下であることが好ましい。この範囲にすることで、得られた酸化ケイ素層14(24,34a,34b)の屈折率が低いので、低屈折率材料として用いることができる。ここで、酸化ケイ素層14(24,34a,34b)の屈折率は、酸素原子の数xで調整することができ、その値は1.5以上2.0以下であることが好ましい。また、酸化ケイ素層14(24,34a,34b)の光学膜厚は50nm以上110nm以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の金属酸化物層13(23,33a,33b)及び酸化ケイ素層14(24,34a,34b)は、屈折率及び光学膜厚をそれぞれ上記範囲に調整することにより、所望の光学特性を有する透明導電性積層体10(20,30)を得ることができる。具体的には、後述するように、透明性が高く、ヘーズの値が小さく、良好な透明導電性積層体10(20,30)を得ることができる。そして、本発明の透明導電性積層体10(20,30)は酸化インジウム・スズ層15(25,35a,35b)自身の特有な黄色味を軽減することができる。
【0030】
また、本発明の金属酸化物層13(23,33a,33b)及び酸化ケイ素層14(24,34a,34b)の作用としては、単純な光学調整だけではなく、密着性改善作用もある。金属酸化物層13(23,33a,33b)及び酸化ケイ素層14(24,34a,34b)を成膜することによって、酸化インジウム・スズ層15(25,35a,35b)との親和性が良くなり、透明導電性積層体10(20,30)の密着性を改善することができる。
【0031】
本発明の金属酸化物層13及び酸化ケイ素層14は、図1のように、透明プラスチック基材11の一方の面のみに設けてもよく、また、透明プラスチック基材11の両方の面に設けてもよい。また、図2または4に示す第2または第4の実施の形態のように、透明プラスチック基材21(41)の一方の面にハードコート層を設ける場合は、ハードコート層表面に金属酸化物層23(43)及び酸化ケイ素層24(44)を順に設けることができる。また、図3または5に示す第3または第5の実施の形態のように、透明プラスチック基材31(51)の両方の面にハードコート層を設ける場合は、第1のハードコート層32a(52a)表面に第1の金属酸化物層33a(53a)及び第1の酸化ケイ素層34a(54a)を、第2のハードコート層32b(52b)表面に第2の金属酸化物層33b(63b)及び第2の酸化ケイ素層34b(54b)を、それぞれ順に設けることができる。
【0032】
本発明の積層膜の成膜方法としては、膜の特性を得るために、気相成膜が好ましい。気相成膜方法には、マグネトロンスパッタリング法や、加速電子ビームを照射するEB蒸着法などの物理真空蒸着法(PVD)と化学気相成長法(CVD)がある。この中で、マグネトロンスパッタリング法が特に好ましい。
【0033】
本発明の酸化インジウム・スズ層15(25,45)は、酸化スズの含量が2wt%以上15wt%以下のターゲットを用いて成膜することが好ましい。酸化スズの含量が2wt%より少なくなるとキャリア密度が低すぎで、導電性能が著しく落ちる。酸化スズの含量が15wt%より多くなると酸化インジウム・スズ層15(25,45)の構造が変化し、導電性能も悪くなる。
【0034】
酸化インジウム・スズ層15(25,45)の光学膜厚が30nm以上80nm以下であることが好ましい。30nmより薄い場合、膜厚が薄く性能が得られない。また、80nmより厚いと得られた膜の透過率は低下し、光学特性が低下する。
【0035】
透明導電層は、加熱処理することにより、透明導電層の抵抗を低下させ、光学特性及び機械的耐久性を向上させることができる。加熱処理する場合、透明導電層を短時間で結晶化させるために、透明導電層表面に、透明樹脂フィルム47(57a,57b)を貼り合わせて加熱処理することが好ましい。透明導電層表面に透明樹脂フィルム47(57a,57b)を貼り合わせて加熱処理することにより、透明導電層を大気を遮断した状態で加熱処理することができるため、大気中で加熱処理しても短時間で透明導電層を結晶化させることができる。
【0036】
透明導電層に貼り合わせる透明樹脂フィルム47(57a,57b)としてはPET、PC、PMMA、TACなどが挙げられるが、この限りではない。厚いものになると透明導電層との密着性が損なわれるため、フィルムの厚さとしては12um以上200um以下であることが望ましい。
【0037】
透明樹脂フィルム47(57a,57b)は、透明導電層との密着性を考慮して、粘着層を有していてもよい。粘着層の成分としては、例えば、エチレンプロピレンブロツク共重合体(EPM)、エチレンプロピレン共重合体に少量の共役二重結合を有するコモノマーを共重合させて成るエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレン、スチレン−イソプレンブロツク共重合樹脂(SIS)、スチレン−ブタジエンブロツク共重合樹脂(SBS)、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリウレタン、及びポリエーテル、エステルブロツク共重合体より成るポリエステルエラストマー等の熱可塑性エラストマーより選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマーまたはその混合物などが挙げられる。
【0038】
透明樹脂フィルム47(57a,57b)を透明導電層へ貼り合わせる方法としては、透明導電層表面に透明樹脂フィルムを配置し、加圧により貼り合わせ、必要に応じて加熱する、いわゆる通常のラミネート方法により貼り合わせることができる。加圧条件や加熱条件については、後述する密着力が生じる程度まで、透明樹脂フィルムと透明導電層とが密着すれば特に特定されず、フィルムの種類や粘着層の有無によって適宜決定される。
【0039】
透明樹脂フィルム47(57a,57b)は、透明導電層と貼り合せたとき、加熱工程や後工程において十分な、密着性と耐久温度であるものが好ましい。具体的には、透明樹脂フィルム47(57a,57b)と透明導電層との間の密着力が0.01N/20mm以上0.1N/20mm以下であり、かつ、熱変形温度が80℃以上であることが好ましい。密着力が0.1N/20mmより大きい場合、後工程で透明樹脂フィルム47(57a,57b)を剥離するときに、透明導電層から容易に剥離することができず、透明樹脂フィルムの成分あるいは粘着層の成分が付着してしまうため好ましくない。一方、密着力が0.01N/20mmより小さい場合、加熱する工程で透明樹脂フィルム47(57a,57b)と透明導電層とが剥離してしまい、透明導電層を短時間に結晶化させることができないため好ましくない。また、透明樹脂フィルム47(57a,57b)の熱変形温度が80℃より小さい場合、加熱する工程で透明樹脂フィルム47(57a,57b)が熱収縮等で透明導電層との間に隙間が生じ、大気を遮断した状態で加熱処理することができないため、短時間で透明導電層を結晶化させることができない。
【0040】
なお、透明樹脂フィルム47(57a,57b)と透明導電層との間の密着力は、JIS Z 1528に準ずる測定方法により測定することができる。また、JIS K 7191に順ずる測定方法により測定することができる。
【0041】
透明導電層を結晶化するための加熱処理工程として、図4または図5に示す第4または第5の実施の形態のように透明樹脂フィルム47(57a,57b)及び粘着剤46(56a,56b)を酸化インジウム・スズ層45(55a,55b)に張り合わせた状態で、加熱温度が80℃以上150℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下であることが望ましい。上記加熱温度および加熱時間により、透明導電層を十分に結晶化させることができる。
【0042】
加熱処理の方法としては、大気中でフィルムを加熱することができる公知の方法を用いることができ、例えば、熱風ヒーター、IRヒーター等の各種加熱機構が挙げられる。
【0043】
加熱機構は、透明樹脂フィルム47(57a,57b)と酸化インジウム・スズ層45(55a,55b)と貼り合せたとき、透明樹脂フィルム側から加熱できるように配置してもよく、逆側から加熱できるように配置してもよい。特に、図5に示す第5の実施の形態のように、両面で透明樹脂フィルム57a,57bと透明導電層と貼り合せたときは、両面から加熱できるように、加熱機構を配置してもよい。
【0044】
本発明の透明導電層及び透明樹脂フィルム47(57a,57b)は、150℃30分間における熱収縮率が0.5%以下であることが好ましい。この範囲であることで、貼り合わせた状態で加熱する際に剥離することなく大気を遮断した状態で加熱することができる。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
紫外線硬化型アクリル系樹脂であるユニディックV−9500(DIC社製)を用いて、125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)両面に、ハードコート層(HC(1)及びHC(2))をマイクログラビアコーターにより塗工した。得られたハードコート層の膜厚は、HC(1)、HC(2)ともに3μmである。マグネトロンスパッタリング法にて、この131μm厚のHC(1)/PET/HC(2)フィルム(両面ハードコート付きPETフィルム)のHC(1)の表面上に、金属酸化物層である高屈折率酸化ニオブ(Nb)と低屈折率酸化ケイ素(SiO)を順次に積層した。このとき、Nb層の光学膜厚を19nm、SiO層の光学膜厚を102nmとし、Nb層の屈折率を2.31、SiO層の屈折率を1.46とした。次いで、酸化スズを3wt%含有する酸化インジウム・スズ(ITO)層を、光学膜厚を40nmとして成膜した。加熱処理は透明樹脂フィルムを張り合わせた状態において150℃で15分間加熱した。なお、Nb層及びSiO層は、成膜時の酸素流量(分圧)を変化させることにより、形成される薄膜の酸素欠損の量を変化させ、屈折率を調整した。また、ITO層の成膜時のシート抵抗の制御は、印加電力、成膜時間、酸素流量により調整した。以上により、実施例1の透明導電性積層体を作製した。
【0046】
<比較例1>
実施例1と同様の構成で透明導電性積層体10(20,30,40,50)を作製し、大気中で150℃15分間加熱処理を行った。以上より、比較例の透明導電性積層体を作製した。
【0047】
[結晶性の測定]
リガク社製のX線回折装置を使用して実施例1及び比較例1について、その結晶化の評価をそれぞれ行った。
【0048】
実施例1で得られた透明導電性積層体10(20,30,40,50)はX線回折装置での分析結果より、図6に示されるように加熱処理後に酸化インジウムのピークが確認され、結晶化していることが確認された。しかし、比較例1で得られた透明導電性積層体はX線回折装置での分析結果より、図7に示されるように加熱処理後に酸化インジウムのピークが確認されておらず結晶化していないことが確認された。
【0049】
ここで、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記各実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0050】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の製造方法ではフィルムなどのプラスチック基材に対して透明性が高く、優れた密着性を持ち、且パターン形状を目立たない透明導電性積層体を作製することができる。この作製したITO透明導電性積層体は抵抗膜式タッチパネルや静電容量タイプタッチパネルに応用することが十分可能である。
【符号の説明】
【0052】
10、20、30、40、50・・・透明導電性積層体
11、21、31、41、51・・・透明プラスチック基材
22a、32a、42a、52a・・・第1のハードコート層
22b、32b、42b、52b・・・第2のハードコート層
13、23、43・・・金属酸化物層
33a、53a・・・第1の金属酸化物層
33b、53b・・・第2の金属酸化物層
14、24、44・・・酸化ケイ素層
34a、54a・・・第1の酸化ケイ素層
34b、54b・・・第2の酸化ケイ素層
15、25、45・・・酸化インジウム・スズ層
35a、55a・・・第1の酸化インジウム・スズ層
35b、55b・・・第2の酸化インジウム・スズ層
46、56a、56b・・・粘着層
47、57a、57b・・・透明樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板層の片面に少なくとも透明導電層を形成する工程と、
前記透明導電層に透明樹脂フィルムを貼り合わせた状態で加熱する工程と、
を備えることを特徴とする透明導電性積層体の製造方法。
【請求項2】
前記透明基板層は少なくとも金属酸化化合物、酸化ケイ素層及び酸化インジウム・スズ層が順に積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記透明樹脂フィルムの密着力は0.01N/20mm以上0.1N/20mm以下であり、熱変形温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項4】
前記透明導電層は前記加熱処理により結晶化されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理は大気中で行われる処理であり、加熱温度が80℃以上150℃以下であり、加熱時間が1分以上30分以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項6】
前記透明樹脂フィルムは粘着層を有し、前記透明導電層と貼り合わせた状態で加熱処理されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理はロールトゥロール方式で行われることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の透明導電性積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−61683(P2012−61683A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206985(P2010−206985)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】