説明

透明導電膜の製造方法および有機EL発光素子

【課題】トップエミッション型有機EL発光素子の上面側の電極に適する低抵抗性の透明導電膜を室温で製膜する。
【解決手段】基板1の上に第1の電極2を形成し、その上に発光層3を形成し、その後、ガリウム添加酸化亜鉛を主成分とするターゲット材11を用い、酸素ガスを含有しない雰囲気とし、スパッタ装置内空間10にArガスのフローのみを流入し、かつ基板1に対して加熱することなく、通常レベルの磁場12を備えるスパッタ法によりガリウム添加酸化亜鉛膜をマスク15越しに基板1の上に製膜する製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光素子に用いる透明導電膜の製造方法および有機EL発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の薄型表示素子(以下、「FPD」と略記する)として、有機EL発光素子が脚光をあびている。有機EL発光素子は、高速応答性、視認性、輝度などの点で格段に優れており、新世代の表示素子や照明光源として期待されている。現在、広く使用されている偏光板付きLCDは、偏光板による光損失が大きく、絶対的な明るさを得るのが難しい。光吸収型等の表示素子と異なり、有機EL発光素子は自発発光型の表示素子であるため、明るい表示を得ることができる。その基本的構成や動作原理は、例えば、非特許文献1に示されている。
【0003】
有機EL発光素子は電極間に発光層を備え発光層に電流を通電することにより発光する。透明電極としては、LCDと同様に錫ドープ酸化インジウム(ITO)がもっぱら使用されている。非特許文献1では、陽極材料としてITO、酸化錫、金の半透過膜、ポリアニリンが例示され、陰極材料として、Mg合金、アルミニウム合金、金属カルシウムなどが示されている。
【0004】
また、有機EL発光素子は多層構造を備える電子デバイスである。その発光層の材料としては、陽極側から正孔輸送層、発光層、電子輸送層などが形成される。現在、有機EL発光素子の長寿命化と高輝度化、カラー表示化を目標として、さらなる研究が進められている。
【0005】
このように、次世代のFPDの有力候補として有機EL発光素子の優れた表示特性が期待されている。しかし、基本的に大きな問題が残っている。有機EL発光素子は、明るい表示を得ることができる。その反面、電流駆動型であるためLCDに比べて大電流を電極から発光層に供給しなければならない。
【0006】
単純マトリックス型の電極構成で、マルチプレックス駆動を行う場合には、各行の選択期間だけ電流が流れる。そして電流に応じて発光層が発光して表示が行われる。例えば、数百μm幅の電極構成で、陽極本数が100本程度の有機ELパネルを、1/64デューティ比で駆動する場合を想定する。
【0007】
発光効率が1cd/Aであって、平均輝度300cd/mで点灯させるには、選択期間に陰極に流れ込む電流の総和は172.8mAとなる。このように大電流が流れるため、電圧が上昇して階調表示時の表示ムラが発生したり、使用する陽極ドライバにかかる圧力が上昇するなどの問題が生じる。かかる問題を回避するためには、電圧上昇を抑制するための電極や配線の低抵抗化の技術が重要となる。
【0008】
このような問題を残しているが、有機EL発光素子は既に携帯電話のサブ画面の表示素子として市場で既に採用されている。また、白色光源としても採用が検討されている。これらの従来例1の有機EL発光素子の透明電極にはLCDと同様にITOが依然用いられている。従来の透明導電膜の製造装置や製造方法をそのまま適用できるからである。
【0009】
図2に従来の有機EL表示素子の部分断面図を示す。この有機EL表示素子は、同図に示すように透明基板101、陽極120a、補助配線130、開口絶縁膜140、有機EL層160、周辺シール材190、吸湿剤191、対向基板180などを備えている。ガラスなどの透明基板101上には、陽極120aが設けられている。補助配線130は、接続端子側パターン部130bおよび内側パターン部130aとから構成されている。
【0010】
陰極170は、前記補助配線130を介して外部の接続配線193と接続部材192を介して電気的に接続されている。このように、有機EL表示素子は、一般的に、陰極と接続端子との間に補助配線130が設けられ、電流が補助配線130を介して接続端子に流れるような構造を採用している。有機EL層160の発光は、陽極120aと陰極170との間に電流を流すことによって行われる。また、電子デバイスに適用できる透明導電膜として、ITO以外にガリウム添加酸化亜鉛(以下、GZOとも略記する。)等の組成の材料も知られている(特許文献1、特許文献2、非特許文献2)。
【0011】
また、ガリウムとケイ素とを含有する酸化亜鉛系の透明導電膜が液晶ディスプレイに用いることができ、製膜時における膜特性が安定であり、優れた耐湿性を有することが知られている(特許文献3)。
【0012】
次に、有機EL発光素子の電極について説明する。従来例2として「有機ELダイオード用の陽極材料としてのドープされた酸化亜鉛」(“Doped ZnO thin films as anode materials for organic light-emitting diodes”,The Solid Films 420-421(2002),p539−543)をあげる(非特許文献3)。この従来例2には、アルミニウム添加酸化亜鉛(以下、AZOとも略記する。)、GZOおよびジルコニウム添加亜鉛酸化膜(ZZO)を用いて有機EL発光素子の陽極に適用する試みが示されている。この論文の表2では、有機EL発光素子の陽極としてGZOよりもAZOが適しているとの評価が示されている。
【0013】
従来例2では、透明導電膜の形成にパルスレーザ堆積法が用いられ、単膜の場合の製膜温度が約250℃、素子形成の場合が約300℃である。また、有機EL発光素子の形式はボトムエミッションである。
【0014】
【特許文献1】特許第3004518号公報
【特許文献2】特許第3453805号公報
【特許文献3】特開平8−111123号公報
【非特許文献1】有機EL発光素子とその工業化最前線、株式会社エヌ・ティー・エス 発行、1998年11月30日 初版発行
【非特許文献2】「透明導電膜とその応用−材料、特性、応用」、ファインセラミックスレポート、日本ファインセラミックス協会、2003年、No.3
【非特許文献3】“Doped ZnO thin films as anode materials for organic light−emitting diodes”,The Solid Films 420-421(2002),p539−543
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、有機EL発光素子は発光層などの有機物質からなる薄膜層が多層化されており、その上部に、プロセス温度が高温となる透明導電膜を形成することが困難であった。有機物質の層に熱履歴を与え、発光特性、信頼性などに影響を生じるからである。
【0016】
また、有機EL発光素子の発光に必要な大電流を供給するために抵抗率を下げることが依然として大きな課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明の態様1は、有機EL発光素子のトップ側の電極に用いる透明導電膜の製造方法であって、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含むターゲット材を用い、酸素ガスを含まない雰囲気中で、かつ基板に対してスパッタによる温度上昇以外に加温することなく、ガリウム添加酸化亜鉛膜を発光層の上側にスパッタ法により形成する透明導電膜の製造方法を提供する。
【0018】
態様2は、有機EL発光素子のトップ側の電極に用いる透明導電膜の製造方法であって、酸化ガリウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素を含むターゲット材を用い、酸素ガスを含まない雰囲気中で、かつ基板に対してスパッタによる温度上昇以外に加温することなく、ガリウムとケイ素が添加された酸化亜鉛膜を発光層の上側に形成する透明導電膜の製造方法を提供する。
【0019】
態様3は、スパッタ時の基板温度が10〜100℃である態様1または2に記載の透明導電膜の製造方法を提供する。
【0020】
態様4は、スパッタ時の基板温度が室温である態様1または2に記載の透明導電膜の製造方法を提供する。
【0021】
態様5は、ターゲット材に含まれる酸化ガリウムが5〜7質量%である態様1、2、3または4に記載の透明導電膜の製造方法を提供する。
【0022】
態様6は、基板上に、第1の電極、正孔輸送層、発光層、第2の電極としての透明導電膜、光取り出し面の順に形成されてなる有機EL発光素子であって、透明導電膜がガリウム添加酸化亜鉛を主成分とする有機EL発光素子を提供する。
【0023】
態様7は、透明導電膜にケイ素がさらに含まれてなる態様6に記載の有機EL発光素子提供する。
【0024】
態様8は、アクティブマトリックス駆動のためのTFTが備えられてなる態様6または7に記載の有機EL発光素子を提供する。
【0025】
態様9は、トップ側からのみ発光する態様6、7または8に記載の有機EL発光素子を提供する。
【0026】
また、上記の有機EL発光素子において、第1の電極と第2の電極をドットマトリックス型の構成とし、マルチプレックス駆動による表示を行うことができる。また、トップ側およびボトム側の両面から発光させることもできる。ボトム側の電極を非透明電極とした場合は、トップエミッション型の有機EL発光素子となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、良好な特性を示す有機EL表示素子用の透明導電膜を形成できる。発光特性がすぐれており、相対的に明るい表示を達成できる。また、長期信頼性が改善されたFPDを形成できる。特に、発光層を形成した後に、素子へのダメージを低減し、上部電極(透明陰極)を形成できるので素子特性を安定化することができる。また、量産製造において高い歩留を達成できる。
【0028】
また、素子の構造上、上部電極(透明陰極)の平坦性はあまり問題にならず、他の素子構造に影響を与えることが少ない。また、マスク法で第2の電極としての透明導電膜を製膜するのでエッチング工程を必要とせず、エッチング工程による素子へのダメージ印加を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に用いる基板として、ガラス、プラスチックフィルム等の透明な基板を使用することができる。プラスチックの場合には、ポリカーボネート、ポリメタアクリレート、ポリスルホンなどがあげられる。
【0030】
陽極側に用いる透明導電膜としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)薄膜、ドープ酸化錫の膜を使用することができる。また、仕事関数の大きい銀、金等の金属、ヨウ化銅などの無機導電性物質、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子により構成してもよい。陽極用の電極の膜厚は、必要とする透明性に依存するが、可視光の透過率が60%以上、好ましくは80%以上であり、この場合の膜厚は一般的には5〜1000nm、好ましくは10〜500nmである。金属電極としてはAl、Cr等が使用できる。
【0031】
図5を参照し有機EL発光素子の素子基板200の構成例について説明する。発光層3は、金属または透明物質を主成分とする電極2の上に設ける。発光層3に用いる物質としては、蛍光量子収率が高く、透明電極4からの電子注入効率が高く、さらに電子移動度が高い化合物が有効であり、公知の有機発光性物質、たとえば、8−オキシキノリン系錯体、テトラフェニルブタジエン、スチリル系色素、オキサジアゾール系色素などを使用することができる。このような発光層3の膜厚は、通常10〜200nmであり、好ましくは、20〜80nmである。
【0032】
正孔輸送層5は、図5に示すように電極2と発光層3との層間に必要に応じて設けることができる。この正孔輸送層5に用いる正孔輸送材料としては、電極2からの正孔注入障壁が低く、さらに正孔移動度が高い材料が使用できる。このような正孔輸送材料としては、公知の正孔輸送材料が使用できる。正孔輸送層の膜厚は、通常、10〜200nmであり、好ましくは、20〜80nmである。
【0033】
電極2と正孔輸送層5との層間に、リーク電流の防止、正孔注入障壁の低減、密着性向上等を目的として、界面層6を設けてもよい。この界面層6を設けるときの膜厚は5〜100nmが好ましい。
【0034】
電子輸送層7は、発光層3と透明電極4との層間に必要に応じて設けることができる。この電子輸送層7の電子輸送性物質としては、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、p−フェニレン化合物、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体などの電子親和力が大きく電子の移動度が大きい物質が好適である。
【0035】
電子輸送層7と透明電極4との層間に、界面層8を必要に応じて設けることもできる。この界面層を設けることにより、駆動電圧の低減や発光効率の向上、長寿命化を達成することができる。界面層は透明電極からの電子注入を容易にする効果や透明電極との密着性をあげる効果がある。
【0036】
界面層6,8の材料としては、トリフェニルアミンの誘導体である4,4’,4”−トリス{N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ}トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’,4”−トリス{N,Nジフェニルアミノ}トリフェニルアミン(TDATA)、銅フタロシアニン(CuPc)等やアルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物、酸化物を好ましく使用できる。本出願人は、このようなトップエミッション型の有機EL発光素子の製造方法および構造について、特願2003−69854に示した。
【0037】
本発明に係る有機EL発光素子は、上述したように、非表示面側に基板を配し、表示面側に封止気体を配するのが一般的である。なお、封止気体としては、二つの基板の一方に凹面を設けて基板の四辺周辺をシール材で囲み、密閉空間を形成し気体を封入する。一般的に乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の乾燥不活性気体が使用される(図2、3および5において、封止気体の図示を省略している。)。また、密閉空間内に乾燥剤を配置することが好ましい。内部に侵入した水分を捕集できるからである。
【0038】
本例の有機EL発光素子の構造は以下の通りである。光を素子の上部側(反基板面側)から取り出すトップエミッション型のものである。その層構造は、ボトム側から順に「(ガラス基板またはTFT基板)/(透明)陽極/正孔輸送層(NPD)/発光層(Alq)/透明陰極/光取出し面」である。電子デバイスの構造として、一般的に陽極と陰極は相互に交換可能であるが、上記の第1の電極を陽極、第2の電極を陰極として用いる。
【0039】
本発明では、基本的に酸素ガスを含有しない雰囲気中でスパッタを行い、かつ、スパッタ時のITOの場合よりは相対的に低温な領域に設定し、透明導電膜を製膜する。好ましくは、基板温度を20〜80℃で製膜する。特に好ましくは、基板温度を室温雰囲気で製膜する。透明導電膜の形成時に、有機化合物からなる発光層へのダメージ発生を抑制できるからである。用いるターゲット材に含まれる酸化ガリウムの含有量を5〜7質量%とすることが好ましい。製膜後の透明導電膜の低効率を低減でき、かつ高い光透過性を示すからである。
【0040】
スパッタは、マグネトロンスパッタ、対向スパッタ、ECRスパッタのいずれでもよい。大面積の製膜を行う観点では、マグネトロンスパッタか対向スパッタが好ましい。スパッタの電源は直流(DC)、交流(AC、RF、VHF)、多極のいずれのものでもよい。生産工程で製膜装置を簡素化するには、DC、ACおよびRFの電源方式が好ましい。
【0041】
マグネトロンスパッタの場合、強磁場カソードを用いると、高エネルギー粒子がカソード近傍に束縛され、基板に到達しにくいため、有機層にダメージを与えることを回避できる。よって、有機EL発光素子を製造する際、強磁場カソードを備えたマグネトロンスパッタや対向ターゲット式のスパッタを用いることがより好ましい。
【0042】
また、基板とスパッタカソードとの間に電気的に接地した金属メッシュを配置することにより、高エネルギー粒子が基板に到達することを防止できる。よって、有機EL発光素子を製造する際、金属メッシュを用いることがより好ましい。
【0043】
また、本発明により製膜する透明導電膜は、その後にエッチング工程を必要とする場合、エッチングでのパターニング性が良好であり、エッチング時間を短縮できるので素子形成の上で好適である。
【0044】
(陰極単膜の作製と評価)
基板1の上に透明導電膜からなる第2の電極4を形成する。この評価用の単膜素子50を以下のようにしてスパッタ法で形成する(図3参照)。基板には、無アルカリガラス(コーニング社製品番1737)を準備する。基板を洗浄するために、アルカリ液での洗浄と、IPAによる乾燥を行う。
【0045】
次に、透明導電膜の製膜工程を説明する。製膜ガスのフローはArガスのみとする。酸素ガスのフローは用いない。但し、後述する比較例の一部には酸素ガスを用いていない。製膜圧力は0.4Paとなるように調整し、スパッタ装置への投入電力は1.8W/cmとする。投入電力は1kWで、長方形カソードのサイズは5×17(12.7cm×43.2cm)である。ターゲットは以下の成分のものを用いる。図1に本発明の構成の一例を示す。
【0046】
基板1の上に第1の電極2を形成し、その上に発光層3を形成し、その後、ガリウム添加酸化亜鉛を主成分とするターゲット材11を用い、酸素ガスを含有しない雰囲気とし、スパッタ装置内空間10にArガスのフローのみを流入し(300sccm)、かつ基板1に対して加熱することなく、スパッタ法によりガリウム添加酸化亜鉛膜をマスク15越しに基板1の上に製膜する製造方法を提供する。このとき、磁場12を強化したスパッタ法を用いることもできる。
【0047】
GZO:酸化亜鉛を主成分とし、5.7質量%の酸化ガリウムを含有する。
GZS:酸化亜鉛を主成分とし、5.7質量%の酸化ガリウムと、0.1質量%の酸化ケイ素を含有する。なお、このようなターゲット材は旭硝子セラミックス社から提供されており、たとえば、5.7GZO、GZS(商品名)がある。
【0048】
ITO:酸化インジウムを主成分とし、7.5質量%の酸化錫を含有する。なお、GZO、GZSと同様に、IZO(酸化インジウムと酸化亜鉛)についても上記の製造方法を適用できると考えられる。
【0049】
(評価方法)
本発明の透明導電膜の製造および有機EL発光素子の製造に際し、透明導電膜や有機EL発光素子の物性、パラメ−タ等の測定に、下記表1に示す測定装置を用いる。下記表2に、有機EL発光素子の陰極として用いることができる透明導電膜(単膜)の製膜条件および膜特性の実験結果を示す。ターゲット材としてGZSを用いたものである。膜厚は150nmとした。本例の場合、製膜装置の真空排気状態が悪い場合、つまり、背圧が高い状態であっても、低抵抗性で高光透過率の透明導電膜を得ることができる。透明導電膜の透明度が高いので、有機EL発光素子の透明陰極として好適である。駆動電圧として約5.6V、電流効率は約4.0cd/Aが期待できる。本例は試験用の設備のみならず、量産用の設備においても良好な素子特性を得ることができる。なお、透明導電膜の特性評価は、所定の厚みの単膜で行うのが一般的であり、比抵抗や可視光透過率、表面粗さ等を測定する。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
本例の単膜は、製膜用のターゲット材としてGZSを用い、アルゴンガスの雰囲気で形成した。その結果、低抵抗かつ高透過率の特性を得ることができた。また、この透明導電膜は室温での製造が可能であり、かつ酸素プラズマによる有機層へのダメージを回避できるので、有機EL発光素子のトップ側の透明電極(陰極)として好適である。
【0053】
(有機EL発光素子の作製)
以下の手順で素子を作製する。
(1)基板として、ITO付きソーダライムガラスを準備する。酸化ケイ素の下地膜を備え表面を研磨処理済みのものを用いる(旭硝子ファインマテリアルズ社製)。
(2)フォトリソグラフィーでITOをパターニングする。
(3)純水で基板面を超音波洗浄する。その後、有機層形成用の製膜装置に入れる。
(4)酸素プラズマ処理をする。
(5)基板をメタルマスクと重ね合わせ、有機層を蒸着する。NPDを80nm、Alqを60nm製膜するようにする。
(6)真空状態を保持したまま、有機層の蒸着時のメタルマスクのパターンと直交するように別のマスクを重ねる。そして、LiFを0.5nm、Alを5nm製膜する。
【0054】
(7)N保管箱に素子を入れ、グローブボックスを介してマグネトロンスパッタ装置に導入し、所望の背圧まで真空引きをする。マグネトロンスパッタ装置の構成は、磁場強化型ではなく通常の方式のものとし、かつ接地メッシュを用いないものとする。
(8)陰極を150nm製膜する。
(9)有機EL発光素子を封止することなく、窒素雰囲気中で各種の特性測定を行う。
【0055】
下記の表3に本発明に適合する製膜条件の試算例2〜5および比較例A〜Dを示す。なお、表中の有機EL発光素子の特性(注1)は、有機層に10mA/cm2の電流が流れるときの駆動電圧と電流効率の推定性能であり、注2は、有機EL発光素子の発光層への熱履歴が生じることを意味する。
【0056】
表中のパラメータについて説明する。まず、透明導電膜の膜厚はすべて150nmとする。製膜時に背圧が高いと透明導電膜の比抵抗が高くなりやすい。背圧が悪い場合(製膜装置内の残留水分量が多い場合)には、製膜中に水分が分解され、透明導電膜中に取り込まれ、比抵抗が高くなる。また、用いる基板については、透明導電膜に不純物が混入すると、結晶成長機構などが変化し比抵抗が容易に変化する。一般に、Naなどのアルカリ金属が混入すると比抵抗は高くなる。そのため、上記の単膜では無アルカリガラス基板を用いた。有機EL発光素子などの電子デバイスを形成する場合、生産性などの観点からソーダライムガラス板を用いる場合には、酸化ケイ素などの下地膜をガラス表面に設けた後に、透明導電膜を製膜することが一般的である。なお、膜質がITOである比較例の場合については、アルゴンガスを297sccm、酸素ガスを3sccmとする。製膜圧力は0.4Paとなるように調整する。
【0057】
【表3】

【0058】
(有機EL発光素子の作製)
図1に示すように、発光層3と第1の電極2とを備える素子基板の上部に第2の電極(透明導電膜からなる陰極)をスパッタ法で形成する。基本的に、透明導電膜の製膜時における膜厚、背圧の調整、等の基本条件は上記の実験例1と同様である。
【0059】
有機EL発光素子の発光層にダメージを与えることなく、あるいは抑制することができるので、良好な電気特性をもつ有機EL発光素子用の素子基板100を形成できる(図2)。
【0060】
(例2)
酸化ガリウムおよび酸化亜鉛を含むターゲット材を用い、酸素ガスのフローを用いず、かつ基板に対してスパッタによる温度上昇以外に加温することなくガリウム添加酸化亜鉛膜を発光層の上側にスパッタ法により形成する。酸素プラズマや熱による有機層へのダメージが無いため、良好な素子特性が得られる。
【0061】
(例3)
ターゲット材として、酸化ケイ素を微量に含む以外は、例2と同一の条件とする。本例の場合、製膜装置の真空排気状態が悪い場合、つまり背圧が高い状態であっても、低抵抗性で高光透過率を示す透明導電膜を得ることができる。透明度が高いので有機EL発光素子の透明陰極として好適である。本例の製造方法は、量産用の設備においても良好な素子特性を得ることができる。
【0062】
(例4)
ターゲット材としてGZOを用いる。本例の場合、製膜装置の背圧が高いと比抵抗が高くなる傾向がある。すると、電子デバイスの駆動電圧は上昇し、電流効率も低下してしまう。しかし、ITOを陰極に用いる場合よりは、良好な素子特性を得ることができる。
【0063】
(例5)
ターゲット材としてGZSを用いる。本例の場合、製膜温度を80℃と僅かでも上げることができる。すると、より低抵抗であって、高光透過率の透明導電膜を形成することができる。この透明導電膜を用いて有機EL発光素子の陰極を形成できる。発光層、正孔輸送層、電子注入層等の有機層について、相対的により耐熱性が高い材料を選択し、GZSを用いる透明導電膜の製造方法とを組み合わせることにより、有機EL発光素子の電気特性および光学特性をさらに向上させることができる。
【0064】
(比較例A)
ITOを有機EL発光素子の陰極用の透明導電膜として採用する。この場合、スパッタによる製膜時に基板加熱と酸素を添加すれば低抵抗、高光透過率の透明導電膜が得られる。しかし、有機層は350℃の基板温度と酸素プラズマのダメージを受けやすい。膜構造内に短絡部分を生じると、発光素子としての機能を失うことになる。
【0065】
(比較例B、C)
透明導電膜を基板上にスパッタにより製膜する際、加熱による有機層への熱ダメージを低減するように基板温度を下げる(80℃、室温)。ITOの製膜温度を低下させると、製膜後の比抵抗は上昇し、光透過率も低下する。よって、電子デバイス用の透明導電膜としての機能を達成することが難しい。
【0066】
しかし、有機層上への透明陰極として製膜するた場合、基板温度を350℃で製膜した素子とは異なり、有機EL発光素子へのダメージは相対的に低いと考えられる。それでも、酸素プラズマによる素子へのダメージが存在すると思われる。そのため、同一の製膜温度、「酸素無し」で製膜するGa添加酸化亜鉛を陰極として用いる有機EL発光素子(たとえば、上記の構成例1、2、5)の場合よりも駆動電圧は相対的に高く、また電流効率も低くなる。
【0067】
(比較例D)
さらに、酸素プラズマによる有機層へのダメージを低減するようにプロセス条件を変更する。ITOを室温で、酸素無しでスパッタにより製膜する。本例の場合、ITOは金属リッチな組成になり、透過率が低下する。そのため、電子デバイスとしての電流効率が低下してしまう。
【0068】
以上説明したように、室温で酸素ガスを含有しない雰囲気中で、かつ基板をスパッタによる温度上昇以外に加温することなく透明導電膜を形成することができる。
【0069】
その結果、低抵抗で、高光透過率の透明導電膜を得て、それを有機EL発光素子の陰極に用いることができる。よって、電流駆動型の有機EL発光素子において、優れた電気的特性および光学特性を与え、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、発光光源として、高性能の機能を発現することができる。ITOを用いた一般的な有機EL発光素子に比べて、優れた特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の製造方法の説明図。
【図2】3層構造を備える有機EL発光素子の一例の模式的断面図。
【図3】基板上に透明導電膜を単独製膜した状態を示す模式的断面図。
【図4】単純マトリックス型有機EL発光素子の模式的部分断面図。
【図5】電極間に複層構造を備える有機EL発光素子の模式的部分断面図。
【符号の説明】
【0071】
1:基板
2:第1の電極(陽極)
3:発光層
4:第2の電極(陰極)
5:正孔輸送層
6:界面層
7:電子輸送層
8:界面層
10:スパッタ装置空間
11:ターゲット材
12:磁場
15:マスク
20:スパッタ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL発光素子のトップ側の透明導電膜の製造方法であって、酸化ガリウム、酸化亜鉛を含むターゲット材を用い、酸素ガスを含有しない雰囲気中で、かつ基板に対してスパッタによる温度上昇以外に加温することなく、ガリウム添加酸化亜鉛膜を発光層の上側にスパッタ法により形成する透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
有機EL発光素子のトップ側の透明導電膜の製造方法であって、酸化ガリウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素を含むターゲット材を用い、酸素ガスを含有しない雰囲気中で、かつ基板に対してスパッタによる温度上昇以外に加温することなく、ガリウムとケイ素が添加された酸化亜鉛膜を発光層の上側に形成する透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
スパッタ時の基板温度が10〜100℃である請求項1または2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
スパッタ時の基板温度が室温である請求項1または2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
ターゲット材に含まれる酸化ガリウムが5〜7質量%である請求項1、2、3または4に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項6】
基板上に、第1の電極、正孔輸送層、発光層、第2の電極としての透明導電膜、光取り出し面の順に形成されてなる有機EL表示素子であって、透明導電膜がガリウム添加酸化亜鉛を主成分とする有機EL発光素子。
【請求項7】
透明導電膜にケイ素がさらに含まれてなる請求項6に記載の有機EL発光素子。
【請求項8】
アクティブマトリックス駆動のためのTFTが備えられてなる請求項6または7に記載の有機EL発光素子。
【請求項9】
トップ側からのみ発光する請求項6、7または8に記載の有機EL発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−54098(P2006−54098A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234484(P2004−234484)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】