説明

透明磁性膜と磁化パターンの読み取り方法、透明磁性膜の製造方法及び磁化パターン

【課題】書き換え回数が十分に維持され、高速で再現性良く記録・再生が可能な透明磁性膜とその再生方法、透明磁性膜の製造方法及び磁化パターンを提供する。
【解決手段】支持体上に、分散剤で覆われたチタニアナノシート(透明且つ印加磁界により支持体面に対し垂直方向に磁気異方性を発現可能なもの)と水溶性高分子を含む分散液を塗工法又は印刷法により連続膜形状又はパターン膜形状で設け磁界を印加(、磁力線方向が支持体に平行)しながら乾燥してチタニアナノシート積層膜を形成(例えば、波長依存性を有する複数のナノシートを分割配置又は厚さ方向積層して形成)して透明磁性膜とする。透明磁性膜に情報を磁化パターンとして磁気又は/及び光により記録・再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明で既存のデザインなどの可視性が維持でき、高速且つ十分な書き換え回数が得られ、再現性や信頼性のある記録・再生が可能な記録媒体に関し、詳しくは、支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能な透明磁性膜とその磁化パターンの読み取り方法、透明磁性膜の製造方法及び磁化パターンに関する。
【背景技術】
【0002】
日本でバーコードが30年ほど前に標準化されて以来、現在では100近い日用雑貨にバーコードが使用されている。これらの用途の中で特にデザインを重視する場合や、郵便物の仕分けなどにおいては、透明バーコードが重要性を持ち、多くの市場で用いられている。これらのバーコードでは紫外光を照射すると蛍光を発する色素を含むインクが用いられている。例えば、シアノ基及びカルボニル基を有するポリマーまたは低分子化合物を含む透明インクを用いてパターンを形成して利用(郵便、一般物流、物品管理など)することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、発明者らは先に、磁気光学効果の大きな磁性膜をファラデー回転角が大きく、且つ可視光に透明なチタニアナノシートからなるチタニア磁性ナノ薄膜に関して提案している(例えば、特許文献2参照)。
上記チタニアナノシートの組成式はTi格子位置に磁性元素が置換した層状チタン酸化物微結晶を結晶構造の基本最小単位である層1枚まで剥離して得られるものである。
【0004】
また、磁気バーコードとしては以下の技術が提案されている。
例えば、磁気容易方向が走査方向に対して所定の角度を成すように形成された複数の磁化パターン(傾斜角を有する四辺形状の磁性体及び非磁性体の各小片を交互に配設)を有する磁気バーコードに関して提案されている(例えば、特許文献3参照)。
上記提案によれば磁気バーコードの情報を多くすることができるとされているが、この提案ではバリウムフェライトやマグネタイトなどの粉末磁性体を使用しており、また磁気ヘッド(磁気コイル使用)を用いて読み書きする方式である。すなわち、膜の透明性は得られないばかりか、磁気異方性は膜面内にある。
また他の例として、非磁性体からなる基体上に光硬化型樹脂を含有する磁性層が形成されている磁気記録媒体が提案されている。ここで、磁性層を形成する磁性体の大部分が磁性層の塗布方向に対して所定の方向に磁場配向され、一部が無配向かあるいは前記配向方向とは別の方向に磁場配向された構成とされている。これにより、磁気情報の読み取りスピードが速い場合においても識別情報が正確に判別できるとされている(例えば、特許文献4参照)。この提案でも磁場配向されるが、特許文献3と同様にバリウムフェライト等を塗布方式で支持体上に設けるものであり、膜の透明性は得られないばかりか、磁気異方性は膜面内にある。
【0005】
広く使用されている光磁気ディスクは、ディスクからの反射レーザー光の偏光面の回転を検知して、1または0の判定をするディジタル記録である。この場合の磁性体は強磁性金属を用い不透明でかつ連続膜の一部分にビットを記録したり、読み出したりするものである。
いずれにしても、従来技術においては、無色透明で既存のデザインなどの可視性が維持でき、高速且つ十分な書き換え回数が得られ、再現性や信頼性のある記録・再生が可能な記録媒体に要求される次の3つの条件を同時に満たすものは無かった。
(1)目視確認ができない程度に透明である材料(透明体)で、(2)透明体が磁性体であり、且つ(3)磁性体が、印加磁界により支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能である(支持面に垂直な方向に磁気異方性を有する)、所謂、垂直磁化膜であるもの。
【0006】
【特許文献1】特許第3523135号公報
【特許文献2】特開2006−199556号公報
【特許文献3】特許第3858338号公報
【特許文献4】特開平6−325358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術で述べたように、透明であるが特殊な手段で読み書きが可能なパターンは用途が広く、強い要望がある。これに対してポリマーまたは低分子化合物を含む透明インクを用いてパターンを形成する方法には、次のような課題があった。パターンの消去ができないために、例えば、工場の製造工程で付けられた工程の経過内容を記載したタグのような場合に、内容を逐次書き換えていくことができず、何十工程分を追加していくしか方法がなかった。これに対して書き換え可能な磁性体を用いた方法がいくつか提案されているが、透明な磁性体を用いるものではないだけでなく、磁気コイルから発生する磁界を利用する磁気ヘッド方式による読み書きに限定されており、磁性体と直接接触させて記録・再生するために、使用回数が増えるにつれて磁性膜が磨耗や剥離して使用回数に制限が生ずるとか、読み書きのスピードは接触のために高速度とすることは困難であった。
本発明者らは、上記要請に応えるため、新規な磁気光学材料について研究を進め、特開2006−199556号公報に開示しているようなチタニアナノシートを見出した。さらに、層状チタン酸化物を酸処理して得たチタニアナノシートの表面をTBA(テトラブチルアンモニウム)などの分散剤で覆い(包囲)、水溶性高分子(ポリマー:ゼラチンなど)を加えた分散液として用いることによって、可視光透過率の大幅な向上が図れ、しかも磁性膜の生産性を高めることができることを見出した。
しかし、上記チタニアナノシートは磁化容易軸が面内に残存する磁性膜であり、磁気的な垂直異方性は不十分(垂直方向に磁界を印加して測定したヒステリシスにおける角型比が1になっていない)であったため、磁気光学材料としての利用には制限があった。
なお、垂直磁気異方性が大きいということは、磁気スピンが膜面に対して垂直に向き安いことを意味するが、膜面に入射する光はスピンと平行の場合に最大の磁気光学効果を示すので、この垂直磁気異方性が大きいことは光を用いて読み書きする場合には非常に重要な特性となる。
例えば、膜面内に磁気異方性を有する磁性膜を用いると、小さな磁気光学効果しか得られず、膜厚を厚くして対応すると磁性膜を透過する光量が吸収のために大きくなり、再生信号のS/Nが劣化するということになる。更に垂直磁気異方性が大きいということは、磁気記録や磁気再生において、記録密度が大幅に増加できることである。膜面に対して横向きに磁化されると、磁化が小さくなった場合に、磁性体表面から磁束が漏れにくくなり読み出し感度が低下する課題がある。基本的には磁性体膜面内に発生する反磁界によって、隣接した磁区同士が反発して磁力が弱まるが、垂直磁気記録方式では、磁力が弱まるどころか強め合う作用があるため、安定して記録密度を向上させることができる。現在垂直磁気記録方式は光磁気ディスクで採用されているが、ビットサイズ径は数十nmであり、直接比較することはできないが、QRコードの最小ドット径0.5mm程度とは大幅にパターン面積を縮小できる。
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、無色透明で既存のデザインなどを阻害することなく視認でき、書き換え回数が十分に維持されると共に、磁気または/および光により高速で再現性良く記録・再生が実施できる信頼性の高い透明磁性膜とその記録(磁化パターン)の読み取り方法(再生方法)、透明磁性膜の製造方法及び磁化パターンを提供することを目的とする。
なお、本発明で用いる「パターン膜形状」及び、「磁化パターン」における「、パターン」とは、型や類型および図形や模様の意味である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔11〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
〔1〕:上記課題は、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が連続膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を塗工法により前記支持体上に塗布し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とする透明磁性膜により解決される。
【0011】
〔2〕:上記課題は、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜がパターン膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液をインクとし印刷法により前記支持体上に印刷し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とする透明磁性膜により解決される。
【0012】
〔3〕:上記〔2〕に記載の透明磁性膜において、前記パターン膜形状が、線もしくは点からなるチタニアナノシート積層膜により支持体上に設けられたことを特徴とする。
【0013】
〔4〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の透明磁性膜において、前記連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜が、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ一次元もしくは二次元方向に分割配置して形成されたことを特徴とする。
【0014】
〔5〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の透明磁性膜において、前記連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜が、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ厚さ方向に異なる層として形成されたことを特徴とする。
【0015】
〔6〕:上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の透明磁性膜において、前記チタニアナノシートが、組成式:Ti2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示される層状チタン酸化物を出発物質として酸処理により得られた薄片粒子であることを特徴とする。
【0016】
〔7〕:上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の透明磁性膜において、前記チタニアナノシート積層膜に、情報が磁化パターンとして磁気的に記録されたことを特徴とする。
【0017】
〔8〕:上記課題は、〔7〕に記載の透明磁性膜における磁化パターンの読み取り方法であって、
前記透明磁性膜に光照射し、磁化強度に応じて偏光面回転角が異なる磁化パターン各部位から反射する光の有する複数の偏光面回転角を検出してその組み合わせにより情報を識別し、固有の情報を読み取ることを特徴とする磁化パターンの読み取り方法により解決される。
【0018】
〔9〕:上記課題は、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が連続膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜の製造方法であって、
分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を塗工法により前記支持体上に塗布し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成することを特徴とする透明磁性膜の製造方法により解決される。
【0019】
〔10〕:上記課題は、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜がパターン膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜の製造方法であって、
分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液をインクとし印刷法により前記支持体上に印刷し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成することを特徴とする透明磁性膜の製造方法により解決される。
【0020】
〔11〕:上記課題は、〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の透明磁性膜のチタニアナノシート積層膜に、情報がパターン状に磁気記録されたことを特徴とする磁化パターンにより解決される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の透明磁性膜によれば、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が、連続膜形状、もしくはパターン膜形状で設けられるため、磁化パターンを従来よりも大幅に縮小して設けることができ、また繰り返し記録・再生することができる。チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を用いて塗工法または印刷法により連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられ、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されるため、チタニアナノシート膜の積層数が多く(例えば、1000層以上)なっても整然と配列され可視光透過率が大幅に向上され、磁気光学効果が大きく(ファラデー回転角が大きく)垂直磁気異方性が大きいため、磁気記録・再生において記録密度が大幅に増加する。
なお、チタニアナノシートの出発物質としては層状チタン酸化物からなる分子層におけるTi格子位置に磁性元素が置換したもの、特に、組成式がTi2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示されるものが本発明において好適である。
すなわち、本発明の透明磁性膜を用いれば、無色透明で既存のデザインなどを阻害することなく視認でき、書き換え回数が十分に維持されると共に、磁気または/および光により高速で再現性良く記録・再生が実施でき、人目にふれることなく繰り返し高速度情報処理を行うような用途(例えば、透明二次元バーコードなど)に好適に用いることができる。
つまり、前記チタニアナノシート積層膜に、情報が磁化パターンとして磁気的に記録されたものであることが好ましい。
また、パターン膜形状を、線もしくは点からなるチタニアナノシート積層膜により支持体上に設ける構成とすれば、記録・再生プロセスを容易とすることができる。
また、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上に分割配置する構成とすれば、組み合わせによって記録情報量を大幅に増やすことができ、また複雑なパターン形成が容易となって、セキュリティ上解読を困難にする効果を持たせることができる。
また、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ厚さ方向に異なる層として形成する構成とすれば、パターンを同一面積内に高密度に記録・再生することが可能になる。
また、本発明の磁化パターンの読み取り方法によれば、磁化パターン各部位から反射する光の有する複数の偏光面回転角を検出してその組み合わせにより情報を識別し、固有の情報を読み取る(読み出す)ようにしたので、非接触でかつ高速再生が可能となり、長期間信頼性の高い繰り返し記録・再生ができる。
本発明の製造方法によれば、チタニアナノシート積層膜が生産性良く連続膜形状もしくはパターン膜形状で整然と配列されて製膜(例えば、1μm以上の膜厚)され透明磁性膜とされる。得られる透明磁性膜は、品質が安定しており信頼性も高く、上記機能を発揮できる。
本発明の磁化パターンによれば、磁気または/および光により高速で再現性良く記録・再生が実施でき、書き換え回数が十分に維持される。また、無色透明で既存のデザインなどを阻害することなく視認でき、人目にふれることなく高速度情報処理をすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
前述のように本発明における透明磁性膜は、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が連続膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を塗工法により前記支持体上に塗布し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とするものであり、
また、支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜がパターン膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液をインクとし印刷法により前記支持体上に印刷し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の透明磁性膜においては、先ず以下の3点を同時に満足することを課題に研究を進めた。
(1)それ自体が目視確認ができない程度に透明である透明磁性体を見い出し適用する。
(2)磁気光学効果を有する透明磁性体の使用により、高速度に、且つ繰り返し記録・再生する。
(3)透明磁性体として、印加磁界により支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能な(支持体面に垂直な方向に磁気異方性を有する)、所謂、垂直磁化膜を開発して、光と磁気スピンの相互作用の強化による大きな偏光面回転角度を利用して、大きなS/Nを得る。
【0024】
上記課題に対して、発明者らは次の点を新たに解明し、この結果を基に解決した。
すなわち、チタニアナノシート自体は一枚だけでは、その極端に膜厚の薄い扁平な形状のために、膜面内に磁化容易軸を有する面内磁化膜である。チタニアナノシートを積層して、1μm以上に厚く製膜すると、膜内には空孔が多く存在し、またチタニアナノシートは一枚ずつ支持体面に平行に積層させるのは困難である。
検討の結果、チタニアナノシートの表面を分散剤で覆い、水溶性高分子を加えた分散液を用いて形成したチタニアナノシートの膜面に外部磁場を水平に印加して配列させることによって、良好な積層膜(例えば、50層程度)が形成されることを見出した。しかし、50層程度積層しただけではチタニアナノシート膜はまだ面内磁化を示すものであった。
上記チタニアナノシート膜においても、磁場を印加したり、支持体表面の接触角を低下させたりすることにより、チタニアナノシートの配列性に一定の効果があるが、そこで得られる積層膜の磁気特性は面内磁化膜と言われる膜面に磁化容易軸を有するものであった。
そこで、本発明者らは厚み約1nmのチタニアナノシートを1000層以上(即ち、1μm以上の膜厚)の厚さで、より整然と配列する方法について鋭意検討した。
検討を重ねた結果、次の3点が重要であることがわかった。
【0025】
すなわち1点は、印加する磁場強度は大きすぎても、小さすぎても好ましい垂直磁化を作製することはできず、膜厚に比例して印加磁場を大きくする必要がある点である。
垂直磁気異方性が従来不十分な理由としては、印加磁場強度が3テスラ程度であり、十分ではなかったことがわかった。今回我々は1μm以上の膜厚で製膜する場合には、膜面方向に5テスラ以上12テスラまでの強磁場を印加することにより、完全な垂直磁化膜を得ることに成功した。すなわち、試料膜面に垂直に磁場を印加してVSM測定やファラデー回転角測定した場合の角型比は1である。結果を図1に示す。図1に示す磁場強度と膜厚の関係から本発明に用いるチタニアナノシートの垂直磁化膜形成条件がわかる。垂直磁化膜は〇で示し、面内磁化膜には×で示した。
【0026】
2点目はナノシートの縦と横の寸法(厚み以外)に依存して、印加磁界強度を変化させる必要があるということである。実際の検討結果を図2に示す。図2に示す磁場強度とX線回折強度の関係から本発明に用いるチタニアナノシートの垂直磁化膜形成条件がわかる。垂直磁化膜は〇で示し、面内磁化膜には×で示した。
検討に用いた大型ナノシートの平均寸法は2〜3μmであり、小型ナノシートとしては平均0.5μmのものを選んだ。大きなナノシートに対しては大きな磁場印加が必要であることがわかった。
【0027】
また3点目としては、支持体表面に親水化処理を施した場合には、垂直磁化膜が得られることもわかった。支持体とナノシート分散液とのなじみが良いと、乾燥時によりナノシート間の積層がスムーズになり、密着積層するために、上下の磁気的層間関係が強まって垂直磁気異方性が現れると考えられる。実際の検討結果を図2に併せて示す。図2の縦軸は、X線回折測定における角度(2θ)が約4.9°(d=1.8nm)に現れる一次回折線ピークの強度であり、ナノシートの配向性能を示している。
【0028】
図3には本発明に用いるチタニアナノシートの代表的なファラデー回転角測定結果を示す。縦軸は測定波長を500nmとした場合のファラデー回転角の相対的な値を示している。本発明はこの透明垂直磁化膜の発明によって初めてなし得たものである。またこの垂直磁化膜は高い透明性だけでなく、巨大な磁気光学効果を有しており、特に、本発明において好ましく用いられる組成式がTi2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示される層状チタン酸化物を出発物質として酸処理により得られるチタニアナノシートにおけるMとして、FeとCoを同時にFe:Co=1:5の原子比で用いた場合には、50deg/μmという巨大なファラデー回転角が得られることを確認している。
【0029】
勿論上記ような巨大なファラデー回転角を有する無色透明の垂直磁化膜は従来存在しなかった。
例えば、1μm厚みの透明で大きなファラデー回転角を有する従来の磁性膜の代表として挙げられるBi置換鉄ガーネットでは約7deg/μmというファラデー回転角を有するが、可視光の400〜450nmでは大きな吸収を生じるために黄色の着色がある。また製膜にはスパッタ法などの真空製膜法を用い、結晶化のための基板温度は600℃程度とすることが必要で、本発明のように紙やフィルムなどへの適用は無理であった。
一方、本発明に用いる上記チタニアナノシートにおける、ファラデー回転のヒステリシス繰り返し再現性は従来の磁性体と同様に十分であった。なお、本発明に用いるチタニアナノシート膜における1μm厚み膜の吸光度の波長依存性(分光透過率)は図4に示す通りで、無色透明である。
【0030】
<分散液について>
本発明の透明磁性膜において、チタニアナノシート積層膜を形成するために用いられる分散液は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含むものであることが好ましい。
すなわち、チタニアナノシートのみの分散液をそのままスピンコーターなどを用いて塗布法により薄膜(1μm程度)を形成するとランダムに積層したナノシートからの光散乱によって透明性が損なわれる傾向がある。そのため、分散体であるナノシートの表面を適当な分散剤の添加により覆って(包囲して)、ナノシートの凝集を回避すると共に、水溶性高分子を加えることにより、光散乱が低減して透明性が改善される。
チタニアナノシートはマイナス電荷を帯びているため、凝集を回避できる分散剤が必要であるが、例えば、TBA(テトラブチルアンモニウム)が好ましく用いられる。また、水溶性高分子としては、ゼラチンなどの天然高分子、カルボキシメチルセルロースなどの半合成高分子、ポリビニルアルコールなどの合成高分子等が挙げられる。
上記分散液を用いて塗工法または印刷法により連続膜形状もしくはパターン膜形状で膜を設けて、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加して乾燥しチタニアナノシート積層膜を形成することによって、膜の積層数が多く(例えば、1000層以上)なっても整然と配列される。このようなチタニアナノシート積層膜を形成することによって、
可視光透過率が大幅に向上し、磁気光学効果が大きく(ファラデー回転角が大きく)垂直磁気異方性を大きくすることができる(磁気記録・再生において記録密度が大幅に増加する。)。また、連続膜形状もしくはパターン膜形状のチタニアナノシート積層膜を設けた透明磁性膜を生産性良く得ることができる。
【0031】
〔チタニアナノシートについて〕
前述のように、本発明で用いる分散液では、分散体として、組成式:Ti2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示される層状チタン酸化物を出発物質として酸処理により得られたチタニアナノシートが好ましく用いられる。
つまり、本発明に用いるチタニアナノシートは、チタン酸化物からなる分子層におけるTi格子位置に少なくとも磁性元素からなる1種の金属が置換した層状チタン酸化物微結晶を化学的処理によって結晶構造の基本最小単位である層1枚にまで剥離して得られる薄片粒子(以下チタニアナノシートと呼ぶ)からなる磁性半導体ナノ薄膜である。以下にこのナノシート作製方法に関して述べる。
【0032】
層状構造を有するチタン酸化物粉末に塩酸などの酸水溶液を接触させ、生成物をろ過、洗浄後、乾燥させると処理前に層間に存在したアルカリ金属イオンが全て水素イオンに置き換わり、水素型物質が得られる。次に、得られた水素型物質をアミン等の水溶液中に入れ撹拌すると、コロイド化する。このとき、層状構造を構成していた層が1枚1枚にまで剥離することとなる。
【0033】
上記前段の酸処理は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、特公平6−88786号公報、特許第1966650号及び特公平6−78166号公報、特許第1936988号、特開平9−25123号公報、特許第2671949号に開示されている方法などが適用できる。
【0034】
上記出発化合物である層状チタン酸化物としては、レピドクロサイト型チタン酸塩のTi格子位置に遷移金属元素(V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu)が少なくとも1種置換した層状チタン酸化物[Ti2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種、0<x<2)]などを用いることができる。より好ましくは、Fe又はCo元素を0<x<0.8の範囲に置換することである。
室温以上での強磁性特性を誘起する遷移金属元素としては、Fe又はCo元素を0<x<0.8の範囲に置換することが望ましいが、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選ばれる少なくとも1種の遷移金属濃度の調整、2種以上の金属の組み合わせ、ドーパントの添加などにより強磁性特性、例えば、磁化率、磁気光学特性、磁気転移温度などを調整することが可能となる。
【0035】
上記の層状チタン酸化物Ti2-x4を酸処理して水素型(H0.8Ti2-x4・nHO)に変換後、適当なアミンなどの水溶液中で振盪することにより、ゾル化する。このゾル溶液中には母結晶を構成していた層、すなわちナノシートが1枚ずつ水中に分散している。
ナノシートの厚みはその出発母結晶の結晶構造に依存するが、1nm前後と極めて薄い。一方、横サイズはμmオーダー(例えば、0.3〜数μm)と超扁平であり、形状において非常に高い2次元異方性を有する。
【0036】
なお以上で説明したチタニアナノシートにおいては、可視光域におけるファラデー回転角の波長依存性が極めて少ない透明磁性体として形成することができる。従って波長依存性が小さくなければならないレンズとしても利用することができるようになった。例えば、実施例1で示す、CoFe同時置換ナノシートが挙げられ、可視光域での波長依存性は極めて少ない。
【0037】
本発明の透明磁性膜におけるチタニアナノシート積層膜は、連続膜形状で設けられてもよいし、パターン膜形状で設けられてもよい。適用される目的や支持体などに応じて適宜選択することができる。
分散液をインクとし印刷法により支持体上に印刷する場合、一般的な凸版印刷(フレキソ印刷、活版印刷)、平版印刷(オフセット印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、孔版印刷(スクリーン印刷)等を用いることができる。また、近年特に簡易型印刷方式として用いられるインクジェット方式も用いられる。
印刷する線幅としては0.1μm幅としても、読み取りは可能であるので、パターンを従来よりも小さくでき、全体の印刷面積を減少させることができる。
チタニアナノシート積層膜の形成は、通常の顔料を用いて印刷された別のデザインの形成後、例えば、カラーインクでの印刷後に行うことが好ましい。これはカラーインクの多くが不透明であるために、チタニアナノシート積層膜の磁気的な記録を再生しにくくすることを回避するためである。また、カラーインクによる印刷後であっても、黒色画像上の磁気的な記録は反射光では再生が困難であるので、このような場合には磁気ヘッドによる記録と再生方法を選択することが好ましい。
【0038】
本発明においては、上記のように分散液をインクとして支持体上にチタニアナノシート積層膜をパターン膜形状で印刷する印刷法を用いることもできるが、分散液を支持体上にチタニアナノシート積層膜を全面に連続的(連続膜形状)で塗布(印刷も含む)する塗工法を用いることもできる。この場合、印刷した後に、連続膜形状のチタニアナノシート積層膜の所定部分(部分的)に磁気的な印刷、即ち、磁気記録をする方法を選択することもできる。
特に、本発明におけるチタニアナノシート積層膜の形成(例えば、印刷)において重要なのは、印刷後のインク乾燥時に磁界の印加が必要な点である。磁界は、透明磁性膜の支持体に平行に磁力線が出るように(磁力線方向が支持体に平行となるように)印加される。必要な磁界強度は膜内において3テスラ以上好ましくは6テスラ以上である。
【0039】
本発明の透明磁性膜は、磁気または/および光により記録・再生が可能とされている。
本発明の支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜(略、「透明垂直磁化膜」)に磁気記録する方法としては主に2種類ある。基本的な方法としては、レーザー光を相対的に移動可能とした透明垂直磁化膜に照射して、レーザー光吸収による熱と透明垂直磁化膜近傍に設けたバイアス磁界を用いて熱磁気記録する方法である。この方法が基本であるとする理由は、非接触記録できることであり、従って記録回数増加に対する耐久性が優れる点である。
【0040】
上記方法により、高速度パターン磁気記録が行える。また、加熱部分だけを記録できることから、微少領域を磁化する場合に適している。レーザー波長は、400nm付近の紫外光が吸収率の点で好ましい。また、バイアス磁界は透明垂直磁化膜の保磁力が加熱により低下した段階で印加するので、100Oe(1Oe≒79A/m)以下程度に弱く、膜面に垂直方向に印加できる方法が用いられる。コイル形状の電磁石を用いても良いし、シート状永久磁石を用いても良い。基本的には上向きか下向きの2通りに2値記録する方法がとられるが、電磁石を用いた場合には、電流値制御による中間調記録も可能となる。なお、図中の「kOe」は、1Oe≒79A/mによりSI単位に換算できる(以降同様)。
【0041】
連続膜形状で設けられているチタニアナノシート積層膜(連続膜)に記録する場合には、レーザー光を情報に応じた所望のパターンで走査し、印加磁界方向を選択して磁界を印加して記録する。つまり、情報が磁化パターンとして磁気的に記録される。
また、パターン膜形状で設けられている線もしくは点からなるチタニアナノシート積層膜に記録する場合には、点や線の1部分に照射して、レーザー光を情報に応じた所望のパターンで走査し、印加磁界方向を選択して磁界を印加して磁化パターンとして記録する。
【0042】
次に、磁気ヘッドを用いて記録する方法について述べる。磁気ヘッドとはコイルに電流をプラス(+)またはマイナス(−)方向(+とは逆方向)に流して磁界を発生させて、加熱することなく特定の場所を磁化するものである。電流量に依存した磁界強度変化を発生させて、磁化の大きさを変えた階調記録の方法も採用できる。コイルの巻き方はなるべく透明垂直磁化膜の膜面に垂直な磁束成分が多くなるように形状が工夫される。
なお、記録方法はこれらに限定されるものではなく、電流による記録など各種の記録方法があるので、適宜選択することができる。
【0043】
上記のように磁化パターンが記録されると、次にこのパターンを再生(磁化パターンの読み取り)することが必要になる。磁化パターンの読み取りにも基本的には2つの方法がある。1つは光を用いる方法であり、光偏光面の回転(ファラデー回転とカー回転に分類される磁気光学効果)を検出する方法、もうひとつは磁気ヘッドを用いる方法である。
光偏光面の回転を検出する方法では、本発明の透明垂直磁化膜を透過した光の偏光面は磁化の方向(上か下)またはその強さに応じて回転する。直線偏光を透明垂直磁化膜に照射し、反射光の偏光面回転角を検知する方法がとられる。
すなわち、透明磁性膜に光を照射して、磁化パターン各部位(磁化強度に応じて偏光面回転角が異なる)から反射する光の有する複数の偏光面回転角を検出してその組み合わせにより情報を識別し、固有の情報を読み取ることができる。
【0044】
偏光面の角度を検出する方法としては、各種の偏光子(検光子)を回転させて透過光の強度をフォトダイオードなどの光検出器で調べる一般的な方法で構わない。また、偏光子を利用しなくても偏光方向が検知できれば構わない。例えば、特許第3694738号公報に提案されているような偏光子を用いない検出方法でもよい。
いずれにしても偏光を用いる方法は、記録と同様に記録媒体と検出器が非接触である点で優れている。磁化パターンを読み取る別の方法としては、磁化パターンの磁化部位上に磁気ヘッドを走査させて、コイルに流れる電流の向きや強さを検知する方法がある。
さらに上記再生方法以外にもホール素子やMR素子などを用いる方法があり適宜選択される。
【0045】
[支持体について]
本発明の透明磁性膜においては、チタニアナノシート積層膜を透明または不透明な支持体上に設けることができる。
支持体材料としては、一般に、アルミニウムのような耐熱性金属、石英ガラス、GGG(ガリウムカドリウムガーネット)、サファイア、リチウムタンタレート、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、単結晶シリコン、Al23、Al23・MgO、MgO・LiF、Y23・LiF、BeO、ZrO2、Y23、ThO2・CaOなどの透明セラミック材料、無機シリコン等の無機材料を用いることができる。
透明支持体として、MMA、PMMA、ポリカーボネット、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、フッ素化ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂などの透明樹脂を用いることができる。また、支持体として、他には水の浸透を押さえた紙類を用いることもできる。
以下、本発明に関してさらに詳細に説明する。
【0046】
<〔1〕、〔2〕に関する説明>
前述のように可視光に透明で、且つ印加磁界により支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能な(支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を有する)チタニアナノシート積層膜が本発明者らによって初めて発明された。
支持体上に連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられるチタニアナノシート積層膜の作製方法は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液(略、チタニアナノシート分散液)を、例えば、5°以下の表面接触角を有する支持体の上に、塗工法により連続膜形状に設けるか、あるいは印刷法によりパターン膜形状で設けて布設された膜を乾燥する時に膜面に平行に3テスラ以上とする強磁界中に配置(磁力線方向が支持体に平行となるように配置)し、磁界を印加する。この場合に乾燥速度を速めるためには、各種ガスの熱風やイオン風などを送風することが好ましい。なお、磁界強度はチタニアナノシートのサイズや分散液濃度及び膜厚によって異なる。膜厚は1〜10μm程度が好ましい。
【0047】
<〔3〕に関する説明>
前記パターン膜形状としては、線もしくは点の形状を保持してチタニアナノシート積層膜を支持体上に印刷できる。
膜の厚みは0.5から10μmに選択される。点もしくは線の幅は0.1から5μmに選択される。パターン膜形状のサイズには制限がないが、特に現状の二次元バーコードなどに較べて、チタニアナノシート積層膜が垂直磁化性の膜であるため、高密度に磁気記録できて、より小さくパターン化できる点に特徴がある。
このパターン膜形状のチタニアナノシート積層膜は垂直方向(「上向き」または「下向き」)に磁化され、ある部位は上向きであり、ある部位は下向きに磁化される。全て同一向きの場合もある。このパターンを二次元的に読み出すと、例えば、現状の二次元バーコードのシロとクロのパターンになる。この場合の特徴は、記録のためにレーザー光や磁気ヘッドを走査する必要が無く、既に記録部位が選択されて限定されているので、一括して記録と再生が行える点である。
【0048】
<〔4〕に関する説明>
本発明において連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜は、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを用いて構成することができ、支持体上にそれぞれ一次元もしくは二次元方向に分割配置して形成することができる。
組成式:Ti2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示される層状チタン酸化物を出発物質として得られるチタニアナノシートは、遷移金属元素Mの種類や量を変えることにより、磁気光学効果において異なる波長依存性を示すことが知られており本発明者らによって以下の文献などに報告されている(PHYSICAL REVIEW B 73, 153301 (2006))。
異なる化学式で示される複数のチタニアナノシートを用いてパターンを構成、例えば、赤、青、緑の波長域で磁気光学効果のピークを有する3種類のチタニアナノシートを用いてパターンを形成すると、カラーのパターン(画像)を表示することが可能となる。図5の模式図に、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上に分割配置する構成(例えば、カラーのパターン)を示す。図5において、それぞれの符号51はカラーA(例えば、橙色)、52はカラーB(例えば、緑色)、53はカラーC(例えば、黄色)を示す。
この場合、パターン間にカラー表示しない隙間を設けてもよいし、無くてもよい。パターン形状も矩形のみならず、円形や多角形などが適宜用いられる。パターン形成は、例えば、印刷方法で述べた方法などが用いられる。
【0049】
上記のようなパターン化は、本発明の透明磁性膜において透明で垂直磁気異方性を有するチタニアナノシートを用いたことにより波長依存性制御ができるようになって可能となった。パターンを記録・再生する方法としては、各パターンのピーク波長に対応するレーザー光を用いる場合や、各カラーに対応した部位を選択的に磁気ヘッドで磁気的な記録・再生をする方法がある。記録する磁化の強さを変化させれば、階調記録再生が可能となる。
本発明においては、従来の白黒表示によるバーコードの場合のように2値を用いるのではなく、波長依存性が異なる複数の多値を用いることができるので、記録可能な情報量が格段に拡大した。
【0050】
<〔5〕に関する説明>
本発明において連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜は、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを用いて構成することができ、支持体上にそれぞれ厚さ方向に異なる層として形成することができる。
〔4〕では、複数で且つ磁気光学効果において異なる波長依存性を有するチタニアナノシートを二次元的に分割配置して構成した。〔5〕では複数で且つ磁気光学効果において異なる波長依存性を有するチタニアナノシートを積層配置して構成する。すなわち、チタニアナノシート積層膜(磁性膜)は可視光に透明なので、異なる波長依存性を有するチタニアナノシートを積層しても、各層ごとに別々に磁気記録と再生が可能である。
記録・再生に用いる光(レーザー光)は、異なる波長の光を用いる。先ず、本発明のチタニアナノシート積層膜は吸収が記録・再生に影響しない程度に少ないため、各層において光は透過し、本発明の透明磁性膜が実現し目的が達成される。
【0051】
図6の模式図を参照して、簡単のために2層の場合の磁気記録・再生原理を説明する。
図6において、支持体(61)上にバイアス磁界用マグネットアレイ(62)、550nmに最大ピークを有する透明磁性層〔B層〕(63)、450nmに最大ピークを有する透明磁性層〔A層〕(64)が順次設けられている。
すなわち、1層はファラデー回転角の波長依存性において、450nmに最大ピークを有する透明磁性層とする。550nmでは回転角がゼロである。もう1層は550nmに最大ピークを有する透明磁性層とする。450nmでは回転角がゼロである。膜厚はそれぞれ約2μmである。
波長が450nmのレーザー光を、光学系を用いてA層に直径1μmに集束させて照射する。A層は光吸収による加熱によって保磁力が低下して、層の近傍に配置されたバイアス磁界によって磁化されるが、B層は光が透過するために磁化による磁気記録は生じない。同様にしてA層の磁化はA層のみに集束された450nmのレーザー光によってファラデー回転角が検知されて、再生される。B層の磁気記録と再生は同様にして、550nmのレーザー光を用いて実施される。
層数を増加させれば、更に多重に記録・再生できる。このことは請求項5で説明したと同様に、多値を組み合わせて情報を取り扱うことができるので、従来の2値に対して大幅に取り扱える情報量を拡大することができる。
【0052】
なお、上記記載の透明磁性膜および磁化パターンは、光反射層の上に設けることにより、再生信号においてより高いS/Nを得ることができる。
チタニアナノシートからの反射光は大きいほどパターンの識別が容易となる。従って例えば上質紙の上にチタニアナノシートを設ける場合に、あらかじめアルミニウムなどの反射率の高い薄膜をまず上質紙の上に設けることが好ましい。反射層に誘電体多層膜を用いると着色やテカリが無くなるのでより好ましい。このようにすると塗布時にチタニアナノシートの分散液がしみこまないことや、平滑な面上に形成されることにより、記録再生時の信号強度が大幅に向上する。
【0053】
<〔7〕に関する説明>
前述のように、光と磁気、または磁気ヘッドによって連続膜形状もしくは印刷法により設けられたチタニアナノシート積層膜の膜面に対して垂直方向にスピンを磁化して、磁化部位をパターン化し、磁化パターンとして記録する。
このパターンは二次元バーコードのような線状でもよいし、QRコードのようなパターンなどでもよく、各種の情報がパターン化して記録される。特に重要なことは膜が透明であって、透明磁性膜を目視で確認することが困難であり、かつ磁化は膜面に垂直方向に記録されていることである。
つまり、磁化パターンが垂直に磁化されていることによって、前述の光と磁気スピンの相互作用が強まり、大きなファラデー回転角が得られて、大きな信号のS/Nを得ることができるようになる。また垂直磁化により、上記で説明したように、より高密度に磁化できるのでより微細なパターンを形成しても読み出しが可能となり、透明で且つサイズが小さいので二次元バーコードやQRコードに用いた場合には、コード以外のデザインを外観上邪魔することが無く有用性が高まる。
【0054】
<〔8〕に関する説明>
本発明の透明磁性膜における磁化パターンの読み取り方法として、透明磁性膜(磁化強度に応じて偏光面回転角が異なる)に光照射し、磁化パターン各部位から反射する光の有する複数の偏光面回転角を検出してその組み合わせにより情報を識別し、固有の情報を読み取る方法を用いることができる。
磁化パターンに照射する光としては、光源を用いて特別に照射してもよいし、また特別な装置を用いて照射しなくとも、自然な外光がある状態でもどちらでも構わない。
上記方法によれば、例えば、磁化パターンから反射された光の偏光面方向を二次元的に分割して検知し、バーコードを読み出す場合のようにパターンとして読み出すことができる。この場合の特徴は、従来の印刷によるバーコードと異なり、異なった情報の記録と消去および再生が繰り返し行えることである。すなわち、従来の印刷によるバーコードと異なり、チタニアナノシート積層膜からなる磁性体を用いて記録した情報を半永久的に書き換え可能として使用することができる。
【0055】
従来から光磁気記録媒体(MOディスク)と称される高密度記録可能な、所謂、光磁気ディスクがある。MOディスクの場合にも、磁気的に記録した磁性膜からの反射光の偏光面回転角から磁化状態(1とゼロから成るデジタル情報)が読み出される。しかし、本発明においては、磁化部分がパターン化されており、従来のように単に1とゼロから成るデジタル情報ではないため、より有用性が向上されている点が異なる。
磁化パターンの各部位からの複数の反射光は、それぞれの個所の磁化強度が異なるために、偏光面回転角が磁化強度に応じて異なる。この異なった各反射光の偏光面回転角度のパターンに応じた各種の組み合わせによって、異なる情報を読み出すことが可能になる。
また、本発明の透明磁性膜を構成する要素(磁化膜)は透明性が高められているので、従来の金属などを用いた、透明性が明確に劣る磁化膜とは異なっていて、透過光でも反射光でも自在に効率良く記録・再生できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制約を受けるものではない。
【0057】
(実施例1)
1mm厚の表面を良く洗浄したガラス支持体上に市販の透明超親水化剤を塗布して、表面接触角を5度とした。次に、以下のようにしてFe,Co同時置換チタニアナノシート分散液を作製した。
炭酸カリウム(K2CO3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化コバルト(CoO)、酸化鉄(Fe23)をK0.8Ti1.6Co0.44,K0.8Ti1.2Fe0.84のモル比になるように秤量、混合し、800℃で40時間焼成して磁性元素置換チタン酸カリウム(K0.8Ti1.6Co0.44,K0.8Ti1.2Fe0.84)を合成した。合成した磁性元素置換チタン酸カリウム(K0.8Ti1.6Co0.44,K0.8Ti1.2Fe0.84)粉末1gに対して1規定の塩酸溶液100cm3の割合で接触させ、時々撹拌しながら室温で反応させた。1日毎に新しい塩酸溶液に取り替える操作を3回繰り返した後、固相を濾過水洗して風乾した。
【0058】
得られた層状チタン酸粉末(H0.8Ti1.6Co0.44・nH2O,H0.8Ti1.2Fe0.84・nH2O)0.5gをテトラブチルアンモニウム水酸化物溶液100cm3に加えて室温で1週間程度振盪(150rpm)し、乳白色のチタニアゾルを得た。これを50倍に希釈した溶液を調製した。
【0059】
次いで、ゼラチン溶解液(10重量%)を作製した。同時置換チタニアナノシート分散液100gに対して、ゼラチン20重量%となるように混合した。
【0060】
上記ゼラチンを含む分散液を最初に作製したガラス支持体上に、乾燥後の厚みが約2μmとなるように塗布した後、ガラス支持体に平行な5テスラの強磁界中に配置した。次いで、窒素ガスを流しながら乾燥を開後30分後から10テスラに磁界強度を上げた。
このようにして作製したゼラチンを混合したCoとFeの同時置換ナノシート膜は透明であった。この透明磁性膜のファラデー回転角を波長500nmの光で磁気光学効果測定装置を用いて測定すると、2.4度/μmであった。またヒステリシス曲線の角型比は1で所謂垂直磁化膜であった(図3参照)。保磁力は約1.5kOeであった。
【0061】
次いで、膜上から波長500nmのレーザー光を走査。吸収させて、2次元バーコードの1種を描いた。このときガラス支持体は表面磁束密度が3kガウスの永久磁石上に配置した。このようにして2次元バーコードの磁気パターンを透明磁性膜上に記録した。パターンの黒い部分と白い無地の部分を磁化方向を上下逆転させて記録した。なお、上記表面磁束密度は、1ガウス(G)=100μTにより[SI単位]に変換できる。
【0062】
次に、この磁気パターンを市販の光磁気ディスク用ピックアップと波長500nmのレーザー光を用いて、磁化パターンの上下(膜面垂直方向)の向きを再生して記録した次元バーコードを読み出した。光磁気ディスク用ピックアップには、偏光子と検光子が組み込まれている。
【0063】
(実施例2)
請求項1と同様にして作製したガラス支持体と、同時置換チタニアナノシート分散液を用いて、連続膜ではなく、直径100μm、厚み2μmの円形膜を等間隔に、請求項1と同様の条件で乾燥させて作製した。
これらの膜の透明性や磁気的な特性は実施例1と同様であった。実施例1と同様にしてこの円形膜に磁気記録と、再生を行い、実施例1よりもより小面積で磁化パターンの記録・再生が可能であることがわかった。
次に、ノズルを用いて長さ2mm、幅100〜500nmの線状に、上記と同様にして同時置換チタニアナノシート分散液を塗布した。実施例1と同様にしてこの円形膜に磁気記録と、再生を行い、実施例1よりもより小面積で磁化パターンの記録・再生が可能であることがわかった。
【0064】
(実施例3)
実施例1において作製した同時置換チタニアナノシートにおけるFeとCoの組成比を、Fe:Co=1.5:1.0となるように変えた以外は実施例1と同様にして同時置換チタニアナノシート分散液を作製した。
この分散液を膜化した場合のファラデー回転角の波長依存性データにおいて、波長約600nmにピークを有していた。膜の透明性や磁気的な特性は実施例1と同様であった。
実施例1で作製した分散液と上記分散液を用いて、ガラス支持体上にノズルを使用して
約1mm角の大きさで交互に10回ずつ塗布し、20mm角の塗布膜を得た。
実施例1と同様にしてこの格子状膜に、それぞれのピーク波長のレーザー光を用いて、磁気記録と、再生を行い、2色の磁化パターンの記録・再生が可能であることがわかった。これにより、白黒(スピンが上向きか下向きか)のパターン形成の場合に比較して、2色を用いてパターン形成すると同一パターンを用いた場合でも情報量を4倍に高めることができる。
【0065】
(実施例4)
ガラス基板上に、線幅0.5μmの銅線を、間隔0.5μmで3ターン直径が5μmとなるようにコイル状に巻き、更に縦横に100個づつ、バイアス磁界印加用のマグネットを作製して、アレイ状に配列した。コイルの上には酸化シリコンからなる絶縁層を500nm厚になるようにして、真空製膜法により製膜した。
次に、ファラデー回転角の波長依存性において、550nmに最大ピークを有するチタニアナノシートからなる透明磁性層を実施例1と同様にして作製した。この膜の450nmでは回転角がほとんどゼロであった。次いで、その上に450nmに最大ピークを有する透明磁性層を同様にして作製した。550nmでは回転角がほとんどゼロであった。
膜厚はそれぞれ約2μmである。波長が450nmのレーザー光を、光学系を用いて上層に直径1μmに集束させて照射した。上層の保磁力は800Oeであったが、光吸収による加熱によって30Oeまで低下して、上記で作製したマグネットのバイアス磁界によって磁化された。下層は光が透過するためにマグネットによる磁化は生じていなかった。同様にして上層ののみに集束された450nmの直線偏光によって、測定したファラデー回転角はプラス方向に1.2度の回転を示した。下層の磁気記録と再生も同様にして、550nmのレーザー光を用いて実施した。測定したファラデー回転角はマイナス方向に0.6度の回転を示した。積層した層であり、上から観察して同一個所に、2種類のレーザー光を用いて記録・再生することができた。
【0066】
(実施例5)
予め100nm厚のアルミニウム膜を、真空蒸着法で形成したガラス支持体を用いた他は実施例1と同様にして透明磁性膜の製膜を行った後、磁気記録と、再生を行った。実施例1よりもよりファラデー回転角から読み込んだ信号のS/Nが大幅に向上したために、膜厚を1μm半分にしても磁化パターンの記録・再生が可能であることがわかった。
【0067】
本発明によれば、無色透明で既存のデザインなどを阻害することなく視認でき、書き換え回数が十分に維持されると共に、磁気または/および光により高速で再現性良く記録・再生が実施でき、例えば、透明二次元バーコードなどに好適に用いることができる。
すなわち、チタニアナノシート膜が整然と配列され可視光透過率が大幅に向上され、垂直磁気異方性が大きいため、磁気記録・再生において記録密度が大幅に増加する。パターン膜形状を、線もしくは点とすれば、記録・再生プロセスが容易となる。複数のチタニアナノシート(磁気光学効果において異なる波長依存性を有する)を分割配置することにより、記録情報量を大幅に増やすことができ、複雑なパターン形成が容易となる。同様に、複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ厚さ方向に積層構成すれば、同一面積内で高密度に記録・再生することが可能になる。磁化パターン各部位からの反射光における複数の偏光面回転角を検出して情報を読み取る(偏光面回転角その組み合わせにより情報を識別)ことができ、非接触、高速再生が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に用いるチタニアナノシートの垂直磁化膜形成条件を表す磁場強度と膜厚の関係を示す図である。
【図2】本発明に用いるチタニアナノシートの垂直磁化膜形成条件を表す磁場強度とX線回折強度の関係を示す図である。
【図3】本発明に用いるチタニアナノシートの代表的なファラデー回転角測定結果を示す図である。
【図4】本発明に用いるチタニアナノシートの膜の吸光度の波長依存性(分光透過率)を示す図である。
【図5】本発明において波長依存性の異なる複数のチタニアナノシートを支持体上に分割配置する構成を説明するための模式図である。
【図6】本発明において波長依存性の異なる複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ厚さ方向に異なる層として形成する構成を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0069】
51 カラーA(例えば、橙色)
52 カラーB(例えば、緑色)
53 カラーC(例えば、黄色)
61 支持体
62 バイアス磁界用マグネットアレイ
63 550nmに最大ピークを有する透明磁性層〔B層〕
64 450nmに最大ピークを有する透明磁性層〔A層〕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が連続膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を塗工法により前記支持体上に塗布し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とする透明磁性膜。
【請求項2】
支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜がパターン膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜であって、
前記チタニアナノシート積層膜は、分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液をインクとし印刷法により前記支持体上に印刷し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成されたものであることを特徴とする透明磁性膜。
【請求項3】
前記パターン膜形状が、線もしくは点からなるチタニアナノシート積層膜により支持体上に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の透明磁性膜。
【請求項4】
前記連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜が、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ一次元もしくは二次元方向に分割配置して形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明磁性膜。
【請求項5】
前記連続膜形状もしくはパターン膜形状で設けられたチタニアナノシート積層膜が、磁気光学効果において異なる波長依存性を有する複数のチタニアナノシートを支持体上にそれぞれ厚さ方向に異なる層として形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明磁性膜。
【請求項6】
前記チタニアナノシートが、組成式:Ti2-x4(ただし、M=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuから選ばれる少なくとも1種の遷移金属、0<x<2)で示される層状チタン酸化物を出発物質として酸処理により得られた薄片粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の透明磁性膜。
【請求項7】
前記チタニアナノシート積層膜に、情報が磁化パターンとして磁気的に記録されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の透明磁性膜。
【請求項8】
請求項7に記載の透明磁性膜における磁化パターンの読み取り方法であって、
前記透明磁性膜に光照射し、磁化強度に応じて偏光面回転角が異なる磁化パターン各部位から反射する光の有する複数の偏光面回転角を検出してその組み合わせにより情報を識別し、固有の情報を読み取ることを特徴とする磁化パターンの読み取り方法。
【請求項9】
支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜が連続膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜の製造方法であって、
分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液を塗工法により前記支持体上に塗布し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成することを特徴とする透明磁性膜の製造方法。
【請求項10】
支持体上に、少なくとも可視光に透明で且つ印加磁界により該支持体面に対して垂直方向に磁気異方性を発現可能なチタニアナノシート積層膜がパターン膜形状で設けられ、磁気または/および光により記録・再生が可能とされた透明磁性膜の製造方法であって、
分散剤で覆われたチタニアナノシートと水溶性高分子を含む分散液をインクとし印刷法により前記支持体上に印刷し、磁力線方向が支持体に平行となるように磁界を印加しながら乾燥して形成することを特徴とする透明磁性膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の透明磁性膜のチタニアナノシート積層膜に、情報がパターン状に磁気記録されたことを特徴とする磁化パターン。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−271955(P2009−271955A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118785(P2008−118785)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】