説明

透明電極及びその形成方法

【課題】 透光性を有する基材に長期間の使用に応答性を劣化させることがない透明電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 透光性を有する基材に、透明電極層を備える透明電極であって、前記基材を樹脂により構成し、前記透明電極層の面方向に圧縮応力を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明、且つ、導電性が長期に亘り安定した耐久性の求められる透明電極及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、情報の表示と入力を行うために使用される抵抗膜式タッチパネルは、各透明導電層が形成された2枚の基板同士を所定の間隔をおいて対向させることにより構成されている(例えば、特許文献1)。このタッチパネルの各透明電極に所定の電圧を印可し、外力により各透明電極層同士が接触した際の電圧の変化等により外力が加わった位置を特定することができる。
この透明電極層は、透光性を有するガラス等の強度の高い平板に、必要に応じて低屈折率及び/又は高屈折率の透明誘電体層を積層し、その上にITO等の透明導電材料を成膜して、150℃乃至250℃の加熱処理をすることにより得られる。
しかしながら、この透明電極層を、樹脂基材に形成する場合には、基材の軟化温度が低いため、成膜した透明電極層の熱処理ができず、しかも、初期の導電性が良好であっても、長期間使用しているうちに、抵抗値が高くなり、応答速度が悪くなり実用できないという問題があった。
また、樹脂基材のように柔軟な材料では、加熱結晶化ができないので破壊されやすい状態の薄膜が形成され、徐々にマイクロクラックが生じ、抵抗値が高くなり応答性が悪くなるという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−163932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明では、透光性を有する基材に長期間の使用に応答性を劣化させることがない透明電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者等は、鋭意検討の結果、使用する際に、透光性を有する基材に形成された透明電極層の面方向に平行乃至ほぼ平行に圧縮応力を付与して形成することにより、マイクロクラックが発生しても長期に亘り導電性が安定することを知見し、下記の通りの解決手段を見出した。
即ち、本発明の透明電極は、請求項1に記載の通り、透光性を有する基材に、透明電極層を備える透明電極であって、前記基材を樹脂により構成し、前記透明電極層の面方向に圧縮応力を有することを特徴とする。
また、本発明の透明電極の形成方法は、請求項2に記載の通り、透光性を有する基材に、透明電極層を備えるようにするために透明電極層を形成する方法であって、前記基材を樹脂により構成し、前記基材の面方向に引張応力をかけて透明電極層を成膜し、その後、前記基材の引張応力を緩和することを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の透明電極の形成方法において、前記基材を湾曲させることにより前記引張応力をかけ、前記透明電極層を形成後に、前記基材を平板状にすることにより、前記引張応力を緩和することを特徴とする。
また、請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の透明電極の形成方法において、前記基材を、前記基材の厚さの500〜600倍の曲率半径で湾曲させ、前記基材に、前記基材の厚さの2×10−4〜4×10−4%の厚さの前記透明電極層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、透明電極は圧縮応力がかかった状態で使用されるために、マイクロクラックが発生しても長期間に亘り導電性が安定した透明電極が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に使用する透光性を有する基材としては、入力ペンや指等による押圧によって撓み得るものであって、薄い透明樹脂により構成される。例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ノルボルネン系樹脂等の種々の樹脂からなるものを用いることができる。
【0008】
前記基材に対して形成される透明電極層は、導電率を向上するようにドーピングされたZnO、TiO、ITO等の金属酸化物を、スパッタリング、真空蒸着等により形成することができる。尚、前記透明電極層は、透過される情報の視認性を向上させるために、ニオビウム等の屈折率が2以上の材料からなる高屈折層やSiO等の屈折率が1.5以下の材料からなる低屈折率層を介して積層するようにしてもよい。
【0009】
本発明において、前記透明電極層は面方向、即ち、透明電極層の延出する方向と平行乃至ほぼ平行に圧縮応力を有している。これにより、マイクロクラックが透明電極層に生じた場合であっても導通不良を抑えることができる。尚、この圧縮応力は、透明電極層の面方向において、その外周側から内方側に向かって付与されることが好ましく、更に好ましくは、透明電極層の両側から中心線方向に付与されることが好ましい。
【0010】
前記透明電極の形成方法は、透明電極層に圧縮応力を付与できれば特に制限するものではないが、基材の面方向に引張応力をかけておき、透明電極層を形成した後、引張応力を緩和する方法等が挙げられる。また、平板状の基材を、円筒状の支持体の表面に沿うようにして固定して、透明電極層を形成した後、前記平板状の基材を平板状の戻すようにして圧縮応力を付与することが好ましい。透明電極層への圧縮応力の付与が、基材を支持体等に取り付けるだけの簡単な構成によりできるからである。
また、前記基材を、前記基材の厚さの200〜1000倍、好ましくは、500〜600倍の曲率半径で湾曲させ、前記基材に、前記基材の厚さの2×10−4〜4×10−4%の厚さの前記透明電極層を形成することが好ましい。200倍より小さい場合は、基材にかかるストレスが強すぎるために透明電極層の圧縮破壊が生じ、1000倍より大きい場合は、基材にかかるストレスが不足して、形成された透明電極層の圧縮応力が充分でないため期待される効果が低いためである。
【実施例1】
【0011】
次に、本発明の一実施例について説明する。
シクロオレフィンポリマー製の厚さ1.1mmの透光性を有する基材1を、真空チャンバー内の曲率半径55cmの回転ドラム2表面に固定し(図1)、真空チャンバー内を10−4Pa程度に排気した。
金属ターゲットとして、高屈折材料のニオビウムと低屈折材料のシリコンを使用した。真空チャンバー内にアルゴンガスを導入し、各金属ターゲットに交互に、金属ターゲット側が負電位となるように約500Vの電圧を印加し、アルゴン放電を発生させてスパッタリングし、基材1上に薄膜を形成した。その後、回転ドラム2が回転して酸化プラズマゾーンに達し、薄膜が酸化され、金属酸化物薄膜に変換されるようにし、基材1上に、厚さ45nmの低屈折率の金属薄膜層3と厚さ30nmの高屈折率の金属薄膜層4とを積層した。
次に、真空チャンバー内に、アルゴンガス及び酸素の混合ガス(混合比150:1)を300sccmで流し、ITOカソードに約5kWの直流電力を印加し、プラズマ放電を発生させた。その後、図2に示すように、透明電極層5としてITOを厚さ20nm成膜した。
【0012】
次に、透明電極層5が形成された基材1を真空チャンバー内の回転ドラム2から取り外し、図3に示すように、平板状体に戻して、本実施例の透明電極層5を備えた基材1とした。
この基材1に対して、以下の条件で表面抵抗テストと摺動テストを実施した。その結果を表1に示す。
尚、比較対照とするために、透明電極層に圧縮応力を付与しないように、回転ドラムに平板状のまま基材を、回転ドラムに固定して、上記実施例と同じ処理を行った結果を比較例として同表に示した。
同表中の摺動テストは、透明電極層5に、PETにITOを成膜したフィルムを重ね、PET上から曲率0.8mmのプラスチックペン先に250gの荷重を架けて10万回摺動させてからPETフィルムを取り外した後の透明電極層5の摺動傷を目視検査した。また、表面抵抗値については、4端子表面抵抗計にて測定した。
また、実施例及び比較例ともに各2個のサンプルを使用したため、同表中、実施例は実施例1及び2、比較例は比較例1及び2として示した。
【0013】
【表1】

【0014】
上記表から、実施例1及び2において、表面抵抗値の変化率は、透明電極層を成膜した前後において1%以内であるのに対して、比較例1及び2では4%を超えていた。また、摺動傷についても、実施例1及び2では確認できなかったのに対して、比較例1及び2では、1mm以上の傷を確認することができた。
上記結果から、本実施例の透明電極層は、耐圧・耐摺動性に優れており、耐マイクロクラックに対する抵抗値の変化も極めて少ないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における透明電極層に、圧縮応力を負荷するための装置の一例を示す説明図
【図2】同基材の引張応力を負荷した状態の説明図
【図3】同基材の引張応力を緩和した状態の説明図
【符号の説明】
【0016】
1 透光性を有する基材
2 回転ドラム
3 低屈折率の金属薄膜層
4 高屈折率の金属薄膜層
5 透明電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材に、透明電極層を備える透明電極であって、前記基材を樹脂により構成し、前記透明電極層の面方向に圧縮応力を有することを特徴とする透明電極。
【請求項2】
透光性を有する基材に、透明電極層を備えるようにするために透明電極層を形成する方法であって、前記基材を樹脂により構成し、前記基材の面方向に引張応力をかけて透明電極層を成膜し、その後、前記基材の引張応力を緩和することを特徴とする透明電極の形成方法。
【請求項3】
前記基材を湾曲させることにより前記引張応力をかけ、前記透明電極層を形成後に、前記基材を平板状にすることにより、前記引張応力を緩和することを特徴とする請求項2に記載の透明電極の形成方法。
【請求項4】
前記基材を、前記基材の厚さの500〜600倍の曲率半径で湾曲させ、前記基材に、前記基材の厚さの2×10−4〜4×10−4%の厚さの前記透明電極層を形成することを特徴とする請求項3に記載の透明電極の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−234397(P2007−234397A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54740(P2006−54740)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】