説明

透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法

【課題】FIB加工による薄板化を行うTEM用観察試料の作製において、FIB加工試料台への試料設置における試料表面の傾斜誤差を精度高く補正する。
【解決手段】観察を行う試料表面とその近傍の斜面部に、それぞれ直線状をなす目印があり、各部の目印の直線状位置関係に関し、一直線に繋がっていない場合、あるいは平行関係にない場合、FIB加工面は所定の位置から傾いており、試料台の回転機構などを用いて、前記関係が一直線に繋がるように調整することで、試料面の傾斜を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)を用いて観察するための観察試料の作製方法に関し、特に、対象とする試料の表面の、加工用集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)に対する傾斜を補正し、このFIBによって、所期の目的に合わせた正確なTEM用の薄板状観察領域を観察試料中に形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、FIBを用いた透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法(TEM用試料作製法)については、主に次に述べる2種類の方法が行われてきた。
【0003】
一つは、対象とする試料を、高速回転外周刃加工装置(ダイシングソー、ダイサー)により10〜数10μm程度の試料の厚み加工を行った後、更にその薄くした場所を集束荷電粒子ビーム(集束イオンビーム、FIB)により数10〜100nm程度の厚みまで加工して更に薄板化する方法(ここでは、この方法を、ダイシングソー法と称する)である(例えば、特許文献1、2、3)。
【0004】
このダイシングソー法を、図1を用いて説明する。図1(a)において、例えば半導体デバイスなどから、ダイシングソーで断面凸の字状のTEM試料1を切り出す。TEM試料1の側面部2の長さaを例えば、1.5mm、断面凸部3の断面厚さbを例えば、0.04mm(40μm)とする。こういったTEM試料1を、TEM用試料支持台であるメッシュ4(例えば、3mmφの金属製メッシュ)に、接着剤を用いて貼りつける。次に、本TEM試料1を、この断面凸部3における所期の観察場所5を、FIBを用いて所期の方向に薄板化加工を行うべく、FIB装置内でTEM試料の傾斜を、例えば試料回転機構6などにより調整する。
【0005】
図1(b)に観察場所5の近傍拡大図を示す。本図において、断面凸部3(断面厚さb)の観察箇所5に対して、図中Aで示すようなFIB(例えば集束Gaイオンビーム)の走査処理による断面凸部3の表面から深さ方向へ、断面凸部の側面部7の所定の位置を両面エッチング加工することにより、厚さc(例えば50nm)、深さdの薄板部8が形成される。ここにおいて、薄板部8に垂直方向BからTEM観察が行われる。
【0006】
もう一つのFIBを用いた従来のTEM用試料作製に関する方法は、半導体デバイスなどの任意の箇所を分離する場合、上記のようなダイシングソーや割る手段などを用いず、当初からFIBの三次元加工技術で所要箇所を分離・加工する方法(ここでは、この方法を、マイクロサンプリング法と称する)である(例えば、特許文献4)。
【0007】
このマイクロサンプリング法を、図2、3を用いて説明する。図2(a)の試料配置模式図において、FIB装置内の試料台上9にTEM試料10をセットする。Aで示したFIB(例えば集束Gaイオンビーム)を用い、TEM試料10中のTEM観察位置11を含む周囲を照射・エッチングする。図2(b)の照射・エッチング後のSIM(Scanning Ion Microscope;走査イオン顕微鏡)で得られた図に示すように、TEM観察場所11を含む周囲を4つの角穴で孤立した長さe(例えば、20μm)の分離試料12を画定し(この際、例えば、図中のDで示す箇所に、底部打ち抜き後の分離試料を保持するためのブリッジ部Dを形成しておき)、図2(c)のSIM図で示すように、TEM試料10を、例えば45度ないし60度傾斜させて分離試料12の底部13をFIBで打ち抜く。
【0008】
次いで図2(d)のSIM図に示すように、TEM試料10の傾斜を元に戻し、金属製のプローブ14の先端を分離試料12の、例えば右端表面の接触部Eに接触させ、FIBのビーム誘起堆積膜の形成機能によって、接触部Eに例えばタングステン、カーボン、あるいは白金の堆積膜を形成し、プローブ14と分離試料12を接続する。その後、ブリッジ部DをFIB加工により切断して、プローブ14の先端に取り付けられた形の分離試料12をTEM試料10から分離する。
【0009】
こうして得られた分離試料12を、図3(e)の模式図に示すように、端面が平坦化されたメッシュ15上にプローブ14を用いて運搬し、メッシュの端面16に接触させる。図3(f)の図は、メッシュ15の端面16を上方から観察したSIM図であるが、本図に示すように、図中、分離試料12の上側の側面及び端面16の一部に、先と同様に、堆積膜Fを形成することで、ここにおいてメッシュ15に固定する。
【0010】
次いで、プローブ14を、例えば、図中の切断場所Gにおいて、FIB加工にて分離試料12から切断する。図3(g)の模式図に、メッシュ15の端面16上に、分離試料12の側面と端面16の一部に形成された堆積膜Fにより固定した様子を示す。
【0011】
そして、図1(b)に示したものと同様に、分離試料12をFIB加工により、例えば、厚さ50nmの薄板部を形成することで、TEM観察場所を有するTEM用試料が作製される。
【特許文献1】特開平5−180739号公報
【特許文献2】特開平8−261894号公報
【特許文献3】特開平8−261898号公報
【特許文献4】特開平5−52721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ダイシングソー法においては、TEM用試料はメッシュに接着剤で固定されるが、一般に、試料側面とメッシュ面とが必ずしも平行ではない(あるいは、試料表面とメッシュ面が必ずしも直角ではない)ため、TEM用試料の所要とする向きがFIB加工の向きに対して適性とは必ずしもならない。つまり、FIBのイオンビーム方向軸とTEM観察方向軸の両者に対して、垂直となるべき軸が、傾いて試料が配置される場合があり、その結果、FIB加工後の薄板のTEM観察面が、試料の表面から加工深さが増加するにつれて、所要の観察面とはずれた面となる場合がある。
【0013】
従来は、ダイシングソー法で切り出されたTEM試料の切断面である側面部(つまり、図1(a)におけるTEM試料側面部2ないし断面凸部3の側面部7であって、同図中の斜線部に相当)を参照面として、試料の傾き6を補正していた。図1(b)における薄板部8の深さdが、例えば1μm程度ないしそれ以下と浅い場合で観察するときは、観察試料の深さ方向に関する(薄板部の)TEM観察結果は、さしたる支障は無かった。
【0014】
しかし、例えば、トレンチキャパシタ型DRAMで、とくに、近時、開発・製品化されているアスペクト比の大きなトレンチキャパシタを有する製品に関し、そのトレンチキャパシタ部の形成状況を深さ方向断面にてTEM観察しようとする場合を考える。図4は、典型的なトレンチキャパシタ型DRAMのトレンチキャパシタ形成部の深さ方向断面を模式的に示した図である。トレンチキャパシタ17は、Si基板に、例えば深さf(例えば10μm)、例えば直径200nmの細孔を形成し、その孔の側壁に例えばONO膜で数nm厚で覆った後、例えば多結晶シリコンを充填してトレンチ型キャパシタとし、これが所定の間隔をおいて周期的に形成される。
【0015】
この図4のトレンチキャパシタ部の深さ方向断面図は、図1(b)の図中のCで示した方向から断面凸部5を見た場合と同じ断面構成であって、トレンチキャパシタ17が断面凸部5の凸部表面から下方向に向かい、深く、周期的の形成されているものとする。このとき、図1(b)において、深さdをトレンチキャパシタの深さf(例えば10μm程度)の深さまでに薄板部8を形成してトレンチキャパシタ17の深さ方向の断面をTEM観察しようとする場合、このトレンチキャパシタ17の深さ方向断面が深さf(10μm程度)にわたって均一に現れるよう、この試料のより正確な(対FIBの)傾斜角度調整を行って、FIBで加工する必要がある。
【0016】
仮に、図4に示すように、例えば薄板部の厚さc(例えば50nm厚)のTEM観察用の薄板部8の深さ方向が、トレンチキャパシタ17の深さ方向とずれて形成されたとすると、表面近傍Hではトレンチキャパシタ17断面のTEM観察が可能であっても、深いところでのそのTEM観察はできなくなる。つまり、この様な、特にアスペクト比の高い観察箇所を、比較的幅広くTEM観察するためのFIBによる試料作製においては、より正確なFIB軸に対する試料配置角度の調整が重要になる。
【0017】
この正確なFIB軸に対する試料配置角度の調整が重要である事情は、マイクロサンプリング法を用いた作製法でも同じ様に生じる。図3(e)、(f)、(g)において、分離試料12をメッシュ15に堆積膜で固定するとき、先に、「TEM試料10を、例えば45度ないし60度傾斜させて分離試料12の底部13をFIBで打ち抜く」と記したように、分離試料12の底面は斜めに切断されている。このことから、分離試料12の表面に対して、FIBが入射する加工軸が正確に垂直となるように直立させてメッシュの端面16に固定することは困難な作業であり、実際上、傾いた状況で固定される場合が多い。
【0018】
従って、ダイシングソー法の場合で述べたように、表面から深く形成された(アスペクト比の高い)素子の深さ方向断面を、深さ方向全域でカバーできるように、TEM観察用の薄板部をFIBで正確に加工することは非常に困難となる。つまり、この様な場合に有効な、TEM観察方向とTEM観察範囲が正確に確保できる、FIB入射軸に対する試料の傾斜角度調整のための手段が重要になる。
【0019】
そこで、本発明の課題は、FIBでのTEM用観察試料の作製法において、特に観察試料の表面に直線的あるいは周期的に、目印(マーク)がSIMなどで検知可能に配置されている場合などにおいて、その目印をもとに、特に表面から深さ方向に深く行うFIB加工方向に対する加工試料の傾斜角度を、高精度加工の要請に足る、補正調整する方法を提供することにある。
【0020】
この方法を適用することで、特にTEM試料形成のためにFIB加工が表面より深く行われる場合でも、観察試料の傾斜を補正することで正確にFIB方向を定めて加工することができるため、所要のTEM観察面を深さ方向に長いスパンにわたって(例えば、深く埋め込まれたトレンチキャパシタの深さ方向断面などを、表面近傍からキャパシタ底部近傍まで)TEM観察可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、
集束イオンビームによる、透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法において、
平面部と段差部を有する観察対象試料の各々の表面に、直線状に連結した又は離散した目印を有し、
前記それぞれの目印の位置関係から、前記観察対象試料表面の前記集束イオンビームに対する傾斜を補正することを特徴とする透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法、によって可能となる。
【0022】
さらに、前記段差部は、斜面あるいは段差底面である。
【0023】
また、前記観察対象試料は半導体装置であり、前記目印は半導体基板に形成されたデバイス形成用領域である。
【0024】
そして、前記目印は、予め前記互いに隣り合う平面部と段差部に加工形成された溝または孔である。
【発明の効果】
【0025】
TEM試料形成のためにFIB加工が、特に、表面より深く行われ、そのとき深い加工個所でも所要の観察場所の表出が正確求められる場合でも、本発明の方法を適用することによって観察試料の傾斜を補正することでき、正確にFIB方向を定めて加工することができる。このため、例えば、深く埋め込まれたトレンチキャパシタの深さ方向断面などを、表面近傍からキャパシタ底部近傍まで、深さ方向に長いスパンにわたってTEM観察可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1の実施例)
トレンチキャパシタ型DRAMのトレンチキャパシタの深さ方向断面のTEM観察用試料の作製する場合について、図5を用いて述べる。
【0027】
トレンチキャパシタは、通常、チップ表面から基板内に深く、かつ表面から見て周期的に配置されている。図1を用いて述べたように、ダイシングソー法でこのDRAM試料の観察場所(その深さ方向断面が観察できるように切り出されるトレンチキャパシタ部)を切り出し、メッシュに貼り付けた後、TEM観察場所(薄板化加工する場所)から離れた場所において、FIBを用いて、その表面に斜面形成エッチングを行う。
【0028】
具体例を図5(a)に示す。図5(a)は、図4で示したものと同様な、トレンチキャパシタ17部の断面の模式図であり、TEM観察場所の延長にあって、かつその場所より離れた箇所、例えば、図1(a)において、断面凸部3の端部近傍を示しているものとする。そして、図1(b)のようにメッシュに貼付後、これをFIB装置内で、FIB加工によって薄板部8を形成する前に、断面凸部3の端部を切り欠く様に、FIBで斜め加工を行い、図5(a)に示す様に、表面領域18と隣接した斜面領域19を形成する。
【0029】
斜面領域19の加工角度や加工長さ(範囲)は、後の角度調整の判定に足る範囲で行えば良い。
【0030】
次に、図5(b)、(c)は、図5(a)の表面側を、試料の真上から(つまり、FIBの入射面を)観察したときの模式図を示す。
【0031】
試料をFIB加工するための装置には、通常、試料台上に載置した試料の状況を観察するために、集束イオンビームの試料表面への走査照射によって放出される二次粒子(イオンや電子)を検知して、試料観察像を得る機能を有している。即ち、SIM(走査イオン顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)の機能である。これらの機能を用いることで、基板上でのトレンチキャパシタ17(配列方向の断面)の存在箇所を、模式的の示した図5(b)、(c)のように観察することは容易である。つまり、図5(b)、(c)は、FIB照射方向に垂直な面から観察された、表面領域18と、一部深さ方向に斜め加工された斜面領域19とを含む、トレンチキャパシタの周期的配置方向断面を示す試料面の観察像である。
【0032】
斜面領域19における各トレンチキャパシタ17の観察断面は、図中、左方向(表面領域18と隣接した斜面領域19との境界から離れる方向)にあるものほど、表面から深い個所における断面を見ていることになる。
【0033】
従って、図5(b)において記した、表面領域18において観察されるトレンチキャパシタの周期的に配置された断面の並び方向線(仮想線)L1と、斜面領域19のそれの並び方向線(仮想線)L2が、同図のように一直線上にある場合は、トレンチキャパシタ17が周期的に並んだこの領域において、各トレンチキャパシタ17の深さ方向は、観察している試料表面に対し垂直方向(即ち、FIBの入射方向)と一致していることになる。
【0034】
しかし、図5(c)に示すように、表面領域18において観察されるトレンチキャパシタの周期的に配置された断面の並び方向線L1と、斜面領域19のそれの並び方向線L2が、同図のように一直線上に無い場合、各トレンチキャパシタ17の深さ方向は、観察している試料表面に対し垂直方向(即ち、FIBの入射方向)と一致しておらず、トレンチキャパシタ17の深さ方向に深くなるに従って、FIBの入射位置とのずれの幅が大きくなる。
【0035】
この様な状況で、TEM観察場所をFIBによる薄板部加工を深く行うと、図4で説明した状況、つまり、薄板部の深い場所でトレンチキャパシタ17の深さ方向の断面のTEM観察ができなくなるといった状況が生じることとなる。
【0036】
よって、図5(c)の様な観察がなされたときは、表面領域18において観察されるトレンチキャパシタの方向線L1と、斜面領域19のそれの並び方向線L2が一致するように、TEM観察用試料の傾斜を、メッシュが搭載された試料台機構が有する回転機構20などにより調整することで、FIB加工のための試料の表面に対するFIB入射する方向が補正され、所期の方向に深く加工された(深い位置のトレンチキャパシタ深さ方向の断面まで正しく加工された)TEM観察のための薄板部を形成することができる。
【0037】
以上の説明においては、表面領域18におけるトレンチキャパシタ17の並び方向(仮想)線L1と斜面領域19におけるトレンチキャパシタ17の並び方向(仮想)線L2の対比で説明したが、一定の深さにおけるトレンチキャパシタ17の並び方向(仮想)線の情報を得るためには、斜面を形成する方法に留まらないことは明らかであり、表面領域のトレンチキャパシタ(あるいは、深く形成されたマークや目印)の並び方向線と、所定の深さにステップ状に所要の広さをもつ段差面を形成し、その面でのトレンチキャパシタ(あるいは、深く形成されたマークや目印)の並び方向線を比較すれば良い。段差面は、例えば、FIBで例えば四角形や円形の垂直穴を形成しその底面を上記の段差面として用いることも可能である。
【0038】
(第2の実施例)
次に、前述のマイクロサンプリング法によってTEM観察試料を形成する際に、観察すべき箇所を、深さ方向において正確に調整して薄板化し、TEM観察に適したものとする例について述べる。
【0039】
まず、図2(a)、そして図2(b)に従って、ブリッジ部Dで繋がった分離試料12を画定する。次に、図2(c)のSIM図で示すように、TEM試料10を、例えば45度ないし60度傾斜させて分離試料12の底部13をFIBで打ち抜く。この様に、分離試料12の底面は斜めに切断されていることから、この分離試料12をFIBが入射する加工面が正確に垂直となるように直立させてメッシュの端面16に固定することは困難な作業であり、実際上、傾いた状況で固定される場合が多いことを述べた。
【0040】
以下に容易に試料表面とメッシュの端面とが平行になるよう(つまり、試料表面に対してFIBが正確に垂直に入射するよう)に調整する例を示す。
【0041】
まずはじめに、試料台上に試料表面と試料台表面とが平行となるように固定する。図6(a)は、このときの観察状況を示したものであり、図2(b)の分離試料12がブリッジ部DでTEM試料10から分離されていない状態で、分離試料12の表面(この表面は試料台の表面と平行に固定されている)を、SIMあるいはSEMで観察したときの模式図である。このとき、TEM試料12の観察表面は試料台表面と平行(つまり、TEM試料表面に対してFIBが垂直に入射)状態である。
【0042】
ここにおいて、分離試料12の、FIBで薄板化する場所である観察場所11から離れた箇所に、FIBを用いて、表面領域21に接し、これから次第に深くなる、一定領域を有する斜面領域22を形成する。この斜面領域22の幅は勿論、分離試料12の幅と同じである必要は無いし、例えば斜面状の底面を有する角穴形状でも良い。
【0043】
この斜面領域22を形成後、FIBを用いて、図示するように、表面領域21と斜面領域22を連続して通過するように、直線的な溝をなす、溝線L3、溝線L4を形成する。その結果、図示するように、溝線L3、溝線L4は互いに連続した直線状になる。このように基準となるマーク(目印)を形成する。
【0044】
こうして溝線L3、L4が形成された分離試料12を、図2、図3で示した手法によってTEM試料11から分離し、メッシュ上に搭載したときの表面側を観察したときの例の模式図が、図6(b)である。この観察例においては、表面領域21の溝線L3と斜面領域22の溝線22が、境界で折れ曲がった様にSIMあるいはSEMで観察されている。
【0045】
これは、この場合の分離試料12の表面が、図6(a)で、溝線L3、L4を形成したとき(つまり、TEM試料の観察表面は試料台と平行状態)と同じでは無く、FIB加工の向きから傾いている(FIBに垂直面でない状態である)と判断される。従って、このL3、L4が一直線になるように、メッシュの回転機構23を用いて傾きを変えることで、分離試料の本来の向きの補正を行うことができる。この後、補正された分離試料12に対して観察場所11をFIB加工して薄板化を行い、適正な深さ方向を有すTEM観察用の薄板部を得る事ができる。
【0046】
上記の例においては、表面領域21に接して次第に深くなる斜面領域22を形成したが、表面領域境界から急な段差をもって底面領域を形成して、図6(a)のように溝線を両領域に連続的に形成しても良い。この場合に対応する図6(b)では、溝線L3、L4は互いに接せず、両溝線は平行しないので、回転補正によって、互いに接し、平行(直線)状となるようにする。
【0047】
また、上記の例においては、基準となる目印として、FIB加工による直線的な溝を用いたが、これに限ることは無い。基本的に、仮想的な直線をなす目印の集合であればよく、例えば円形孔を離散的に仮想的な直線をなすように形成し、この仮想線を用いて、上記の様な調整を行えば良い。
【0048】
(第3の実施例)
第1の実施例では、トレンチキャパシタ型DRAMにおけるトレンチキャパシタ形成部の深さ方向のTEM観察を行うためのFIB加工する場合の例を示した。本実施例では、例えばトレンチキャパシタ型DRAMにおいて、デバイスの表面に周期的に形成されるゲート電極の平面方向での形成状況を、広範囲にわたって、均一の試料深さでもって、いわゆる平面TEM観察するためのFIB加工する例を示す。
【0049】
図7は平面TEM観察をための試料作製を説明する図である。図7(a)は図1(a)と同様に、ダイシングソー法で切り出されたTEM試料24がメッシュ4の端面に搭載された状況を模式的に示したものである。
【0050】
TEM試料24は、片側側面のみからダイサーで凸型加工されているのは、TEM試料24のゲート電極が形成された表面側を加工せず、反対側の基板側からのみ研削加工することを示す。ここで、Aは、さらに薄板加工するためのFIB入射方向を表す。図7(b)は、図7(a)の、メッシュを反対側から見たとき、つまりゲート電極が形成された平面が正面となっているときの模式図であり、観察場所25をFIBで、この切削部を裏側からのみの加工で薄板化し、薄板側面に垂直な方向BからTEM観察(平面TEM観察)を行う。
【0051】
デバイス表面に周期的に多数形成されたゲート電極を、広範囲にわたり、均一な条件で各電極の形成状況を、表面側からTEM観察(すなわち平面TEM観察)するためには、電極形成面(表面側)は残し、裏面側(基板側)から、均一な厚さをもった薄板をFIBで正確に形成する必要がある。つまり、ゲート電極形成面(TEM観察面)に対して、FIB入射方向が正確に平行をなすように、TEM試料が配置される必要がある。
【0052】
図8(c)、(d)は、そのための方法を説明するための模式図ある。図8(c)は、図7(b)で、方向Bから見たときのデバイスのゲート電極形成面を観察したときであって、ゲート電極27が周期的に配置されていることを示す。
【0053】
この状況において、FIBを用いて観察場所から離れた場所に斜面形成加工を行い、表面領域28(つまり、図7(a)のTEM試料24をA方向から見て平坦な表面状況にある領域)と斜面領域(同じく、図7(a)のTEM試料24をA方向から見て徐々に左側に行くに従い深く切れ込むように斜面加工された領域)を形成する。
【0054】
図8(d)に、この様に加工された観察試料を上から(つまり、図7(a)のTEM試料24をA方向から)見たときの模式図を示す。
【0055】
このとき、基板30上のゲート電極27の断面の配置状況を観察することができる。表面領域28でのゲート電極27の断面の方向線(仮想線)L5と、表面領域29でのゲート電極27の断面の方向線(仮想線)L6を比較することで、TEM試料25がFIB入射方向に対して正確に位置しているか否かが判定でき、各方向線が平行でない場合は、メッシュの回転機構を用いて、平行と観察できるように、試料の傾斜を補正することが可能となる。
【0056】
こうして試料の傾斜補正を行い、FIB加工を正確に行うことで、図8(c)でのゲート電極27に関し、同図における下方向に多数配置されたゲート電極のTEM観察についても、同じ観察条件で平面観察を行うことができる。本例においては、斜面領域の形成について述べたが、第1の実施例で述べたのと同様に、これに限らないことはいうまでも無い。
【0057】
以上述べた本発明の方法を適用することにより、深さが10μmないしそれ以上の広範囲にわたってTEM観察が可能なTEM用試料を容易に作製できるようになった。
【0058】
以上の実施例を含む実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)
集束イオンビームによる、透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法において、
平面部と段差部を有する観察対象試料の各々の表面に、直線状に連結した又は離散した目印を有し、
前記それぞれの目印の位置関係から、前記観察対象試料表面の前記集束イオンビームに対する傾斜を補正することを特徴とする透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0060】
(付記2)
前記段差部は、斜面あるいは段差底面であることを特徴とする付記1記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0061】
(付記3)
前記観察対象試料は半導体装置であり、前記目印は半導体基板に形成されたデバイス形成用領域であることを特徴とする付記1または2記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0062】
(付記4)
前記目印は、予め前記互いに隣り合う平面部と段差部に加工形成された溝または孔であることを特徴とする付記1または2記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0063】
(付記5)
前記溝または孔は、FIBにより加工形成されたものであることを特徴とする付記4記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0064】
(付記6)
前記デバイス形成領域は、トレンチキャパシタ領域であることを特徴とする付記3記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【0065】
(付記7)
前記デバイス形成領域は、電極領域であることを特徴とする付記3記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ダイシングソー法によるTEM試料作製法を説明する図
【図2】マイクロサンプリング法よるTEM試料作製法を説明する図(その1)
【図3】マイクロサンプリング法よるTEM試料作製法を説明する図(その2)
【図4】トレンチキャパシタの深さ方向断面図
【図5】本発明の方法を説明する図(第1の実施例)
【図6】本発明の方法を説明する図(第2の実施例)
【図7】本発明の方法を説明する図(第3の実施例・その1)
【図8】本発明の方法を説明する図(第3の実施例・その2)
【符号の説明】
【0067】
1、10、24 TEM試料
2、26 側面部
3 断面凸部
4、15 メッシュ
5、11、25 観察場所
6、20、23 試料回転機構
7 断面凸部の側面部
8 薄板部
9 試料台
12 分離試料
13 底部
14 プローブ
16 端面
17 トレンチキャパシタ
18、21、28 表面領域
19、22、29 斜面領域
27 ゲート電極
30 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームによる、透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法において、
平面部と段差部を有する観察対象試料の各々の表面に、直線状に連結した又は離散した目印を有し、
前記それぞれの目印の位置関係から、前記観察対象試料表面の前記集束イオンビームに対する傾斜を補正することを特徴とする透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【請求項2】
前記段差部は、斜面あるいは段差底面であることを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【請求項3】
前記観察対象試料は半導体装置であり、前記目印は半導体基板に形成されたデバイス形成用領域であることを特徴とする請求項1または2記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【請求項4】
前記目印は、予め前記互いに隣り合う平面部と段差部に加工形成された溝または孔であることを特徴とする請求項1または2記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。
【請求項5】
前記溝または孔は、FIBにより加工形成されたものであることを特徴とする請求項4記載の透過型電子顕微鏡用観察試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−70155(P2008−70155A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246881(P2006−246881)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】