説明

連続加熱装置

【課題】輻射式ヒータを用いて透過性の高い被加熱体(フィルム)を温度ムラなく、効率的に加熱する。
【解決手段】輻射式ヒータ加熱面と対向する被加熱体の裏面に、被加熱体を透過した輻射式ヒータのエネルギーを利用して加熱される輻射(黒体)率が高く熱伝導率の良い蓄熱板を配置する。更に輻射式ヒータをフィルム状樹脂等の幅方向及び流れ(進行方向)に分割し、夫々の輻射式ヒータ出力をヒータと被加熱体を挟んだ相対位置の蓄熱板に設置した温度計の入力で加熱制御することにより、被加熱体の表裏面両面より均一温度を保てる輻射エネルギーを被加熱体に与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状樹脂等の二軸延伸機において、輻射式ヒータを用いて被加熱体として例えば光透過性の高いフィルム状樹脂等を連続加熱する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム状樹脂等の二軸延伸機においては、延伸中の最適温度加熱は不可欠な要素である。前記の加熱に用いる連続加熱装置は従来ヒータにて加熱した熱風をフィルム状樹脂等に直接吹き付ける熱風循環式が多く、吹き付ける熱風そのものの温度をコントロールすることで、被加熱体が最適温度となるようにしていた。しかし、送風によるシートのたわみ延伸の不均一が起る恐れがある。
【0003】
そこで、このような延伸の制度の向上、被加熱体となるフィルム状樹脂等の高温延伸要求及び加熱装置のコンパクト化の要求から、特開2004−144421号公報(特許文献1)や特開2005−16282号公報(特許文献2)に示されるように、赤外線による輻射式ヒータを用いた加熱装置が用いられている。
【0004】
例えば特許文献2では、予備加熱、延伸、冷却の各工程の領域を異なる領域に区画して、延伸する領域に輻射式のヒータを配置してシート状物を延伸に適した温度に調整し延伸機によりシート状物を搬送しつつ延伸するものが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−144421号公報
【特許文献2】特開2005−16282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2は輻射式のヒータを使用するものであっても、シート状物の表面での温度の不均一さが生じてしまうこと、これを抑制するためのヒータの構造についてはなんら考慮されていなかった。このため、シート状物を高温で延伸する場合に、信頼性が著しく損なわれてしまうという問題には十分に配慮されてなかった。
【0007】
すなわち、輻射によるヒータを用いて電磁波の透過性が高いシート状物を加熱する場合、輻射エネルギーは透過するためシート状物に効率的に伝わらない。さらに、ヒータが複数のエレメントが連結されて構成されている場合には、シート状物の表面に当る輻射エネルギーがシート状物の幅方向に均一にならず、シート状物の表面に温度むらが生じてしまい、延伸の性能が不均一になるという問題がある。
【0008】
さらにまた、従来技術では、高温に調節された状態で生じる問題点には十分に考慮されていない。すなわち、シート状物の種類によっては、延伸に好適な温度がより高温になってしまい、この高温度が延伸機の駆動に適さない場合がある。この状態で運転すると延伸機の機械的な動作に支障を生じてしまうことになる。さらには、高温度による延伸機の潤滑油の飛散によるシート状物の汚染等の問題が生じてしまう。
【0009】
また従来技術で輻射式ヒータ加熱面と対向する被加熱体の裏面に、被加熱体を透過した輻射式エネルギーを反射さる反射板を設置して被加熱体の裏面へ輻射式エネルギーを戻す方法、あるいは被加熱体の裏面にも輻射式ヒータを別途設置する方法も考えられるが、輻射エネルギー均一化の解決とはらない。(輻射式ヒータ特性としての輻射エネルギーの強弱は相殺されない)
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決する為に、本発明は移動機構により移動される被加熱体としてのフィルム状樹脂等を輻射式ヒータを用いて連続加熱する装置において、前記輻射式ヒータは個別に温度制御可能な複数のヒータエレメントから構成され、前記輻射式ヒータの加熱面と対向する前記被加熱体の裏面に配置され、前記被加熱体を透過した輻射式ヒータのエネルギーにより加熱されると共に加熱された熱を前記被加熱体の裏面に輻射する蓄熱板と、前記蓄熱板の温度を測定する温度計と、前記温度計からの出力に応じて前記複数のヒータを個別に温度調節する制御装置を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、前記温度計は前記蓄熱板に設けられた複数の温度計からなり、前記制御装置は複数の温度計からの出力に応じて前記複数のヒータエレメントを個別に温度調節することで前記被加熱体の全体温度を制御することを特徴とする。
【0012】
また、前記複数の温度計は前記複数のヒータエレメントに対向するように前記蓄熱板に配置され、前記制御装置は各温度計からの出力に応じて対応する各ヒータを個別に温度調節することで前記被加熱体の全体温度を制御する。
【0013】
また、前記輻射式ヒータは前記被加熱体の幅方向に分割された複数のヒータエレメントからなることを特徴とする。また、前記輻射式ヒータは前記被加熱体の幅方向と移動方向に分割された複数のヒータエレメントからなることを特徴とする。また、前記輻射式ヒータと前記被加熱体を移動させる移動機構との間に、前記輻射式ヒータからの前記移動機構への熱の輻射を抑制するカバーを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被加熱体の裏面に設置した蓄熱板に被加熱体を透過した輻射エネルギーが均一温度で蓄積され、被加熱体の裏面を均一な蓄熱温度により再輻射するので、温度ムラの抑制が行われと共に、輻射ヒータを構成する複数の各ヒータを個別に制御して、フィルム状樹脂等の加熱温度を均一にできる。
【0015】
また本発明によれば、輻射ヒータからの被加熱体の移動機構への熱の輻射を抑制することができるので、延伸機の機械的な動作に支障を生じることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る連続加熱装置の実施例について図面を用いて説明する。図1は、本発明実施例の輻射式ヒータ、被加熱体(フィルム)及び蓄熱板の関係説明図、図2は、非加熱体と蓄熱板における温度を均一に保つ上での着目点の説明図、図3は、上記の図2状態における被加熱体(フィルム)と蓄熱板上の測定結果に基く温度関係説明図である。
【0017】
図1において、被加熱体(フィルム)1は掴み装置2により両端部が掴まれてセットされ、紙面に対し直角方向に搬送されながら延伸される。被加熱体1は、上方に被加熱体表面に対向した輻射式ヒータ3が設けられ、搬送・延伸中にここから発せられる輻射エネルギーにより加熱される。輻射エネルギーは、被加熱体1に対して反射・吸収・透過の3方向に分かれるが、多くの被加熱体1は、透明または半透明で且つ非常に薄い為、吸収率はあまり高くなく、大部分のエネルギーは透過して逃げてしまう。
【0018】
図1に示すように、輻射式ヒータ3により発せられ、被加熱体1を透過した輻射エネルギーは、被加熱体1の下方でその下面に接近して被加熱体1のほぼ全幅にわたり配置された板状の部材である蓄熱板5に吸収される構成となっている。この蓄熱板5は、輻射(黒体)率が高くかつ熱伝導率の良い材質を金属等の材質、例えばアルミニウム及びその合金により構成され、ヒータ3から受けた熱が蓄熱板5の内部全体に短時間でかつ均一に伝導され、蓄熱板5の上表面の全体を偏りやムラのない温度にすることができる。
【0019】
この蓄熱板5の表面温度は被加熱体1の温度以上に保たれており、蓄熱板5から上方へ放射される均一化された輻射エネルギーにより被加熱体1に発生する温度ムラを抑制してこれを加熱することができる。蓄熱板5の上面には、熱の吸収を向上させるため熱の吸収率の高い黒色の材料を配置しても良く、特に被加熱体1の幅方向両端側にこれを配置することが有効である。このような構成により、被加熱体1の下方に、熱伝導率が高く、加熱されて表面が全体的に均一化される板状の部材を近接して配置することで、蓄熱板5の上方で離れた位置に配置された輻射によるヒータ3からの熱の不均一を抑制してより均等に蓄熱板5を加熱してその温度の偏りを抑制できる。
【0020】
図1において、更に蓄熱板5の表面に、蓄熱板5の表面温度を検知して出力する温度計10を設置し、この温度計10の出力を受信した結果に基いて、本温度を一定とするよう温度調節器11で電力変換器(サイリスタ)12を介して輻射式ヒータ3の入力電源容量を制御する。被加熱体1の温度は、連続加熱式では接触式で測定することは困難であり、放射式温度計等で間接的に測定管理する場合でも被加熱体1の材質膜厚さによりパラメータの調整が必要である等の問題があった。
【0021】
図1では、蓄熱板5の表面温度は温度バランス平衡状態においては、被加熱体1の表面温度より若干高い値を維持することが出来るので、この温度関係を一旦設定すれば、被加熱体1を容易に管理することが出来る。特に被加熱体1の輻射吸収率等が延伸によるフィルム厚さの変化で変わった場合においても、蓄熱板5は輻射式ヒータ3の余熱により加熱されているので、系の温度バランスを検知して被加熱体1が長時間過加熱状態となるのを防ぐことが出来る。
【0022】
図1に示す構成において、被加熱体1面における温度均一性は、設定温度に対して±数%程度であることが試験により確かめられた。本均一性を分析すると、図2に示す輻射式ヒータ3・被加熱体1・蓄熱板5の5箇所の温度測定箇所(TE)で、相対位置関係の温度測定位置において図3の傾向を持っていることが試験により確かめられた。
【0023】
図3の結果は、フィルム面(被加熱体)においては、輻射式ヒータ3からの輻射エネルギーは、複数のヒータエレメント3aの配置の関係から中央に集中することが分かり、更に装置構成上フィルムの流れ前及び奥側は放熱等の外乱が大きく温度が大きく下がり、フィルムの幅方向左右は輻射エネルギーを遮る影も出来易いため温度が多少下がるものと判断される。また蓄熱板5上においては、蓄熱板5の伝熱性が支配的で温度ムラは発生しないと考えていたが、実際にはフィルム面と同じ温度傾向を示していることが分かった。
【0024】
本発明の実施例における輻射式ヒータ・被加熱体・蓄熱板の相関構成と制御ブロックを図4に示す。輻射式ヒータ3は、被加熱体のフィルム状樹脂等の幅方向及び流れ(搬送による進行方向)に分割して配置された、複数(9個)のヒータエレメント3aで構成される。一方、蓄熱板5には上記ヒータエレメント3aと対向するように複数(9個)の温度計10aが配置される。11aは、各温度計10aの出力を受信してこの温度に基いて、複数の電力変換器(サイリスタ)12aを個別に制御する複数の温度調節器である。各サイリスタ12aは、前記ヒータエレメント3aの対応のエレメントの入力電源容量を個別に制御する。
【0025】
ここで、ヒータエレメント3aとして、加熱応答性が優れるキセノンランプ等のランプヒータが用いられ、温度計として熱伝対が用いられる。
【0026】
本実施例の各ヒータエレメントの個別(分割)制御により、先の図3の輻射式ヒータ及び蓄熱板に挟まれたフィルム温度分布は、蓄熱板5上の温度が高い位置に対応するヒータエレメントの入力電源容量を低く制御し、蓄熱板5上の温度が低い位置に対応するヒータエレメントの入力電源容量を高く制御して、図3に示される蓄熱板5上の温度バラつきを打ち消すように制御する。蓄熱板5上の温度ムラがなくなり、均一化することにより、フィルム面の温度均一性も保つことが可能になる。
【0027】
上記温度制御は、被加熱体1が移動中に連続してなされ、移動に伴って被加熱体1に部分的な温度変化があれば、その温度変化した部分に対して速やかに対応がなされる。このときの温度制御は、蓄熱板5でも温度の均一化が図られるので、制御幅が小さくて済み応答性が良い。
ても、延伸機の機械的な動作に支障を生じることがない。
【0028】
前記図4に示す実施例は、蓄熱板5に各ヒータエレメント3aと対向するように複数(9個)の温度計10aが配置されているが、蓄熱板5上の温度計10aは、各ヒータエレメント3aと対向しなくても良く、また1個でも良い。この場合、図3から輻射式ヒータ3・被加熱体1・蓄熱板5の間の温度関連と、温度分布の傾向を利用して制御する。
【0029】
例えば、温度計が蓄熱板5上の中央に1個配置されている場合、フィルム面(被加熱体)の中央に輻射式ヒータ3からの輻射エネルギーが集中ことと、この中央の温度に対する周囲の温度分布の傾向から、各温度調節機11aを制御して複数の各ヒータエレメント3aの温度を個別に調整する。蓄熱板5上の温度計10aを、各ヒータエレメント3aと対向させないで複数個設置した場合でも、上記と同様にフィルム面(被加熱体)の中央の温度と、これに対する周囲の温度分布の傾向から、各ヒータエレメント3aの温度を個別に調整する。
【0030】
図5は、被加熱体1の移動機構と輻射ヒータ3の位置関係を示す説明図である。移動機構は、被加熱体1の両端を掴むクリップ14(図1の掴み装置2に相当)と、このクリップ14を紙面に直角方向に移動させるリンク装置15からなっている。13は、輻射ヒータ3と上記移動機構の間に2箇所設けたリンクカバーで、輻射ヒータ3からの熱の輻射を遮り、クリップ14及びリンク装置15の温度が高温にならないように構成されている。リンク装置15に関しては、二重にリンクカバー13が設けられているので、熱の遮蔽機能は高い。
【0031】
このように構成することにより、被加熱体1をリンク装置15に不適切な高い温度まで上げ
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明実施例の輻射式ヒータ、被加熱体、蓄熱板の関係説明図。
【図2】同じく、非加熱体と蓄熱板における温度を均一に保つ上での着目点の説明図。
【図3】同じく、被加熱体と蓄熱板上の測定結果に基く温度関係説明図。
【図4】同じく、輻射式ヒータ・被加熱体・蓄熱板の制御ブロック図。
【図5】同じく、被加熱体1の移動機構と輻射ヒータ3の位置関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0033】
1…被加熱体(フィルム)、2…掴み装置、3…輻射式ヒータ、3a…ヒータエレメント、5…蓄熱板、10、10a…温度計、11、11a…温度調節器、12、12a…電力変換器、11、11a、12、12a…制御装置、13…カバー、14…クリップ、15…リンク装置、14、15…移動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動機構により移動される被加熱体としてのフィルム状樹脂等を輻射式ヒータを用いて連続加熱する装置において、
前記輻射式ヒータは個別に温度制御可能な複数のヒータエレメントから構成され、前記輻射式ヒータの加熱面と対向する前記被加熱体の裏面に配置され、前記被加熱体を透過した輻射式ヒータのエネルギーにより加熱されると共に加熱された熱を前記被加熱体の裏面に輻射する蓄熱板と、前記蓄熱板の温度を測定する温度計と、前記温度計からの出力に応じて前記複数のヒータを個別に温度調節する制御装置を備えたことを特徴とする連続加熱装置。
【請求項2】
前記温度計は前記蓄熱板に設けられた複数の温度計からなり、前記制御装置は複数の温度計からの出力に応じて前記複数のヒータエレメントを個別に温度調節することで前記被加熱体の全体温度を制御することを特徴とする請求項1記載の連続加熱装置。
【請求項3】
前記複数の温度計は前記複数のヒータエレメントに対向するように前記蓄熱板に配置され、前記制御装置は各温度計からの出力に応じて対応する各ヒータを個別に温度調節することで前記被加熱体の全体温度を制御することを特徴とする請求項2記載の連続加熱装置。
【請求項4】
前記輻射式ヒータは前記被加熱体の幅方向に分割された複数のヒータエレメントからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の連続加熱装置。
【請求項5】
前記輻射式ヒータは前記被加熱体の幅方向と移動方向に分割された複数のヒータエレメントからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の連続加熱装置。
【請求項6】
前記輻射式ヒータと前記被加熱体を移動させる移動機構との間に、前記輻射式ヒータからの前記移動機構への熱の輻射を抑制するカバーを設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の連続加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−192141(P2009−192141A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33033(P2008−33033)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】