説明

遊星歯車減速装置

【課題】予圧調整を簡易に行なうことのできる遊星歯車減速装置を提供する。
【解決手段】内ピン140と第1支持フランジ150を(単一の部材として)一体的に構成し、前記内ピン140の先端面140Aと第2支持フランジ160に設けた凹部146の底面146Aとの間にシム170を配置する。更に、第2軸受164の外輪164Aにおける玉164Cとの接触面を第1軸受154側へ向かうに従い半径方向内側に向かって盛り上がるように形成し、且つ、第2軸受164の内輪164Bにおける玉164Cとの接触面を反第1軸受154側に向かうに従い半径方向外側に向かって盛り上がるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車とを備え、前記内歯歯車と外歯歯車との相対回転成分を出力として取り出す遊星歯車減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車とを備え、当該内歯歯車と外歯歯車との相対回転成分を出力として取り出す遊星歯車減速装置が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1において、図5に示されるような遊星歯車減速装置が開示されている。
【0004】
この遊星歯車減速装置10は、入力軸12、偏心体14、2枚の外歯歯車16(16A、16B)、内歯歯車18、相対回転取出機構K、及び第1、第2支持フランジ50、60を主な構成要素として備える。
【0005】
各外歯歯車16は、該外歯歯車16を貫通する内ピン孔30を備える。前記相対回転取出機構Kは、この内ピン孔30と、前記第1支持フランジ50及び第2支持フランジ60に嵌合され、且つ前記内ピン孔30に内ローラ42を介して遊嵌される内ピン40と、内ローラ42とで構成されている。内ピン40には段部40aが形成され、第1、第2支持フランジ50、60の位置を規制している。
【0006】
図示せぬモータによって入力軸12が回転すると、偏心体14が該入力軸12と一体的に回転する。偏心体14の外周は入力軸12の軸心に対して偏心しているため、入力軸12が1回転すると該偏心体14の外周に装着されている外歯歯車16が1回揺動する。この結果、内歯歯車18に対して外歯歯車16が両歯車18、16の歯数差に相当する分だけ相対回転する。この相対回転が、相対回転取出機構Kの内ピン孔30・内ローラ42及び内ピン40を介して第1、第2支持フランジ50、60へと取り出される。
【0007】
なお、外歯歯車16の揺動成分は、相対回転取出機構Kにおける内ピン孔30と内ローラ42、及び内ローラ42と内ピン40との遊嵌によって吸収される。この結果、(内歯歯車18と外歯歯車16の歯数差)/(外歯歯車16の歯数)に相当する減速比を実現することができる。
【0008】
この遊星歯車減速装置10は、コンパクトで高い減速比を得ることができるという利点があり、さまざまな分野で利用されている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−65162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この種の遊星歯車減速装置の分野、特に産業用ロボットを駆動する減速装置として用いられる場合には、非常に高い回転精度が要求される。特に、バックラッシを無くしてロボットの作業部の位置決め精度を高めるのは重要であり、使用により、事後的に調整が必要となる場合には、その調整を簡易且つ効果的に行なうことができることが望ましい。
【0011】
更に、産業用ロボットに利用される場合の特徴として、モータ等の駆動力が正転方向に伝達されるのみならず、正転と反転、更には加減速及び停止を繰り返しながら、複雑に伝達される。これに起因して、遊星歯車減速装置における動力伝達部分(部材)においては、単に一方向に連続回転を続ける場合に比べてよりストレスが掛かり易いため、耐久性の面でも相応の特性が要求される。第1、第2支持フランジ部への内ピンの嵌入部が「段部」形成のために細くなっているのは、この点で好ましくない。
【0012】
又、遊星歯車減速機の機構上、相対回転を取り出す第1支持フランジは、内ピンを介して軸方向反対側の第2支持フランジと一体化している場合がある。このような場合に、支持フランジや内ピンの段部形成等に僅かでも製造誤差が存在すれば、その誤差が組立誤差となり、がた付き、バックラッシの増大に繋がってしまう。
【0013】
これを防止するために、支持フランジや内ピン等の全ての部材をより精度良く製作することも考えられるものの、元々、精度が高く製作されている部材の精度を更に高めるには非常にコスト高となり、現実問題として妥当ではない。特に、前記従来例の場合、位置規制のための段部は、内ピンを両サイドから加工した「残り」の部分で形成するため、寸法精度の確保は非常に難しい。
【0014】
そこで、本発明は、これらの不具合を解消するべく提案されたものであって、バックラッシやがた付きが少なく、又、事後調整作業が容易な遊星歯車減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車とを備え、前記内歯歯車と外歯歯車との相対回転成分を出力として取り出す遊星歯車減速装置において、前記外歯歯車の軸方向一方側に第1軸受を介して配置された第1支持フランジと、前記外歯歯車の軸方向他方側に第2軸受を介して配置された第2支持フランジと、前記第1支持フランジと一体的に形成されると共に、前記外歯歯車を貫通して前記第2支持フランジにまで延在された内ピンと、該内ピンと前記第2支持フランジとを圧接可能なボルトと、を備え、且つ、前記第2支持フランジと前記内ピンとの間にシムを挟装して前記内ピンと前記第2支持フランジとを前記ボルトを介して圧接することにより、上記不具合を解消したものである。
【0016】
本発明では、内ピンを第1支持フランジと(単一の部品として)一体的に形成し、更に、内ピンと第2支持フランジをボルトにより圧接することにより、本減速装置の中核となる第1支持フランジ−内ピン−第2支持フランジ−第2軸受部分の予圧調整を容易に且つ的確に行なうことができる。又、必要ならば、若干の構成上の工夫により第1支持フランジと第1軸受との予圧調整も同時に行なうこともできる。又、シムの厚さを変更することにより調整が可能となるため、複数の内ピンのうち、必要な箇所に必要な厚さのシムを挟装することで、部品の製造誤差を吸収できる。この結果、部品の製造精度を必要以上に上げる必要がなく、コスト上昇を抑えることができ、且つ、予圧の調整不良に起因するがた付きの発生やバックラッシの増大を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、装置の中核を構成する部材の予圧調整作業が容易且つ的確に行える遊星歯車減速装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態の例を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る遊星歯車減速装置を示す図5相当の縦断面図である。
【0020】
この遊星歯車減速装置110は、入力軸112、偏心体114(114A〜114C)、3枚の外歯歯車116(116A〜116C)、内歯歯車118、相対回転取出機構K1を主な構成要素として備える。また、相対回転取出機構K1の構成要素の一つである内ピン140を両持ち的に支持するために、外歯歯車116の軸方向両サイドに第1支持フランジ150及び第2支持フランジ160を備える。
【0021】
前記入力軸112は、第1、第2支持フランジ150、160にそれぞれ当接している第3軸受152、第4軸受162によって回転自在に支持されている。この入力軸112は、中央に大径の中空部112Aを備え(ホロー構造)、図示せぬモータのモータ軸とスプライン112Bを介して連結可能とされている。尚、モータ軸とスプライン112Bとの間に歯車を介して連結しても良い。
【0022】
前記偏心体114は、入力軸112と一体的に成形されている。偏心体114は、3つの偏心部114A〜114Cを備える。各偏心部114A〜114Cの外周の中心OeA〜OeCは、それぞれ入力軸112の軸心Oiに対してΔEだけ偏心している。また、各偏心部114A〜114Cの偏心位相は互いに120度ずれている。
【0023】
前記3枚の外歯歯車116(116A〜116C)は、偏心体114の各偏心部114A〜114Cにローラ117(117A〜117C)を介してそれぞれ回転自在に装着されている。ローラ117は、入力軸112を支持している第3軸受152、第4軸受162によってその軸方向の位置決めがなされている。なお、外歯歯車116が軸方向に3枚並列に配置されているのは、伝達容量の増大を意図したためである。各外歯歯車116には、該外歯歯車116を貫通する内ピン孔130を備える。
【0024】
前記内歯歯車118は、遊星歯車減速装置110のケーシング111と一体化されている内歯歯車体118Bと、内歯118Aを構成するローラ状のピンとによって構成されている。
【0025】
前記第1支持フランジ150及び第2支持フランジ160は、第1軸受154、第2軸受164によってケーシング111にそれぞれ回転自在に支持されている。第1支持フランジ150には駆動対象である外部機械(図示略)が、図示せぬボルト等を用いて連結可能とされている。また、第1支持フランジ150は、内ピン140を(自身の一部として)一体的に備える。具体的には、第1支持フランジ150と内ピン140とは鍛造にて一体形成されている。
【0026】
又、前記第1軸受154と第2軸受164の外輪154A、164Aはそれぞれケーシング111に固定されている。一方、第1軸受の内輪154Bは第1支持フランジ150に、更に、第2軸受の内輪164Bは第2支持フランジ160にそれぞれ固定されている。尚、ここで「固定されている」とは一体的に成形することも含む概念である。
【0027】
各外輪154A、164Aの玉(転動体)154C、164Cとの接触面は、共にそれぞれの軸受154、164の軸方向外歯歯車116側(第1軸受154を基準とすれば第2軸受164側、第2軸受164を基準とすれば第1軸受154側)へ向かうに従い、玉154C、164Cの円弧と略同様の円弧を描いて半径方向内側に向かって盛り上がっている。より具体的に説明すると、第2軸受164の外輪164Aには、玉164Cと接触している接触面C3が存在している。該接触面C3における前記外輪164Cの半径方向の厚みHは、外歯歯車116側(第1軸受154側)が最も厚く形成され(H1)、反外歯歯車116側が最も薄く形成されている(H2)。
【0028】
一方、第1軸受154の外輪154Aにおいても軸方向対称に同様の構成とされている。即ち、各外輪154A、164Aは、玉154C、164Cの外歯歯車側への移動を規制している。
【0029】
これとは逆に各内輪154B、164Bの玉154C、164Cとの接触面の形状は、反外歯歯車側に向かうに従い半径方向外側に向かって盛り上がった形状とされている。即ち、各内輪154B、164Bは、玉154C、164Cの反外歯歯車側への移動を規制している。
【0030】
前記相対回転取出機構K1は、この内ピン140と、内ローラ142と、外歯歯車116に形成された内ピン孔130とで構成されている。各内ピン140の外周には内ローラ142が回転自在に装着されており、内ピン孔130と内ピン140はこの内ローラ142を介して動力伝達を行う構成とされている。
【0031】
ここで、図2を参照しながら、内ピン140と第2支持フランジ160との連結構造について説明する。図2は、図1における矢視II部の拡大図である。
【0032】
図2に示されるように、前記第2支持フランジ160には、前記内ピン140が嵌入可能な凹部146が形成されている。該凹部146に内ピン140が嵌入しており、内ピン先端面140Aと凹部底面146Aとの間には、シム170が挟装されている。本実施形態では2枚のシム170が挟装されているが、必要に応じてシム170の枚数及び厚みは調整可能である。2種〜3種程度の厚さのシム170を用意し、これらを適宜に組み合せて用いれば幅広い調整が可能である。
【0033】
シム170は、扁平なドーナツ状の形状を有しており、中央に内ピン140と第2支持フランジ160とを連結するボルト180が挿通可能な穴170Aが空いている。
【0034】
図1に戻って、本実施形態において内ピン140と一体的に形成されている第1支持フランジ150には、全体的に表面硬度を上げるための浸炭焼入焼戻し処理(硬化処理)がされている。更に軸受の内軸として機能する部位C2には、高周波焼入処理がされている。尚、硬化処理として、窒化処理を施しても良い。
【0035】
図1の符号185はグリスを封入するための封入口、符号187はシール部材である。
【0036】
次に、この遊星歯車減速装置110の作用を説明する。
【0037】
図示せぬモータ軸の回転により、入力軸112が回転すると、該入力軸112と一体化されている偏心体114が回転する。偏心体114の外周は入力軸112の軸心Oiに対してΔEだけ偏心しているため、該偏心体114の回転によりローラ117を介して3枚の外歯歯車116がそれぞれ120度の位相差をもって内歯歯車118に内接しながら揺動回転する。この例では、内歯歯車118がケーシング111と一体化されているため、入力軸112が1回転することによって外歯歯車116が1回揺動回転すると、該外歯歯車116は、内歯歯車118に対して両歯車116、118の歯数差に相当する分だけ相対的に回転(自転)することになる。
【0038】
この相対回転は、相対回転取出機構K1を構成する内ピン孔130、内ローラ142及び内ピン140を介して第1、第2支持フランジ150、160側に取り出される。外歯歯車116の揺動成分は、相対回転取出機構K1における内ピン孔130と内ローラ142、及び内ローラ142と内ピン140との遊嵌によって吸収される。この結果、(内歯歯車118と外歯歯車116の歯数差)/(外歯歯車116の歯数)に相当する減速比を僅か一段で実現することができる。
【0039】
この実施形態に係る遊星歯車減速装置110においては、第1支持フランジ150と駆動対象である外部機械(図示略)とを、図示せぬボルト等を用いて連結するようにしてあるため、結局、該第1支持フランジ150側を介して外部機械を駆動することができる。なお、第1支持フランジ150を固定して、ケーシング111自体を出力部材(いわゆる枠回転構造)として活用することも可能である。
【0040】
又、内ピン140と第2支持フランジ160の間に様々な厚さのシム170を挟むことによって、遊星歯車減速装置110の軸方向の長さL1(図1参照)を調整することが可能となる。この長さL1を調整するということは、当該遊星歯車減速装置100全体の組み付けのがたの調整、ひいてはラジアル方向のがたの調整を行なうことを意味する。仮に、挟装するシム170をより薄いものとすれば長さL1は短縮されることとなるが、前述したように、第1軸受154及び第2軸受164の外輪154A、164Aにおける玉154C、164Cとの接触面が外歯歯車116側に向かうに従い半径方向内側に向かって盛り上がった形状をしており、及び内輪154B、164Bにおける玉154C、164Cとの接触面が反外歯歯車側へ向かうに従い半径方向外側へ向かって盛り上がった形状をしていることに起因して、玉154C、164Cの半径方向の位置ががたなく定まると同時に、軸方向の位置もがたなく定まることとなる。即ち、接点(玉154Cと外輪154A、玉154Cと内輪154B、玉164Cと外輪164A、玉164Cと内輪164B)の予圧が同時にバランスする位置に規定され、第1軸受154及び第2軸受164はそれぞれがたなく、且つ必要以上の接触圧を生じることなく組み付けられる。それに応じて、内歯118A、外歯歯車116、内ローラ142等の位置も所定の位置に組み付けられることとなり、結果として回転時のラジアル方向のがたつきが小さくなる傾向となる。
【0041】
尚、前記シム170は、常に全ての内ピン140と第2支持フランジ160の間に挟装する必要はなく、各内ピン140や第2支持フランジ160の製造誤差に起因する長さL1のバラツキを修正するように挟装可能である。よって、いずれかの内ピン140に対して一箇所でもシム170が挿入されている限り、各内ピン140において挟まれるシム170の厚さや枚数、更には、挟装しない等の選択は自由である。
【0042】
又、本実施形態では、ボルト180を取り外し、第2支持フランジ160を取り外すことで簡単にシム交換が行なえるため、装置の使用により経時的に再調整が必要となった場合等には、その調整作業を簡単に行なうことができる。
【0043】
更に本実施形態では、当該シム170の厚さの調整のみで、第1軸受154及び第2軸受164の予圧を同時に調整することができるため、それぞれを独立して調整する場合と比べて調整作業の時間も短縮することができる。
【0044】
又、本実施形態のように、内ピン140と第1支持フランジ150を(単一の部材として)一体的に構成し、且つ、第1軸受154の内輪154Bとしても機能させる場合には、単一部材であっても各部位に応じて必要となる特性が異なってくる。即ち、相対回転成分を取り出すという本来の内ピン140として機能する部位C1では、摺動性の他に特に耐磨耗性及び、寸法精度の確保が求められる。一方、軸受の内輪として機能する部位C2では、摺動性の他に特に耐転動疲労性が求められる。
【0045】
そこで、本実施形態においては、第1支持フランジ150(内ピン140)全体を、部材の変態点を超えない範囲で一旦浸炭焼入焼戻し処理を施し、更に、軸受の内輪として機能する部位C2(オイルシール187と接触する面でもある)には、高周波焼入の処理を施している。内ピン140として機能する部分C1は、高精度に加工した後に高周波焼入処理をすると歪んで再加工が必要となるため行なわない。なお、本実施形態では構成上、この部分C1をストレート加工によって加工することができるため、高い寸法精度の確保が容易である。
【0046】
これにより、部位C1は摺動性、耐磨耗性及び高寸法精度を確保でき、部位C2は摺動性および耐転動疲労性に優れた性質を確保できることになる。
【0047】
なお、「変態点」とは、加熱時(処理時)に部材の結晶構造が変化し、オーステナイトが生成し始める温度のことを意味している。
【0048】
又、上述の硬化処理は、浸炭焼入焼戻し処理及び高周波焼入処理に限られるものではなく、窒化処理や研磨する等、必要とされる硬度やコストを考慮して、適宜変更可能である。
【0049】
次に、他の実施形態として図3を用いて遊星歯車減速装置310について説明する。なお、ここでは、前述した遊星歯車減速装置110と同一又は類似する部分については、下2桁に同一の符号を付すに止め、重複説明は省略する。
【0050】
前述の遊星歯車減速装置110と比べて、遊星歯車減速装置310の特徴は、ねじ部N3(第1支持フランジ350と第2支持フランジ360とを連結しているボルト380が螺合可能なねじ部)の位置が異なる点にある。即ち、第2支持フランジ360に設けられた凹部346Bに嵌入している内ピン340の嵌入している部分、即ち、内ピン340のこの凹部346Bに対応する軸方向位置P3以外の部分(内ピン340と第1支持フランジ350の少なくとも一方)にねじ部N3が設けられている点が特徴となる。なお、便宜上、図の上部側のボルト(380)はその記載を省略してある。
【0051】
このような構成で、ねじ部に発生する応力と、減速機にかかる荷重によって生じる嵌入部(曲げ応力が最も大になる部分)の位置が重なることを避けることにより、内ピンに働く応力を分散し、ボルト380の耐久性を高めることができる。
【0052】
次に他の実施形態として図4を用いて遊星歯車減速装置410について説明する。ここでも重複説明は省略する。
【0053】
この遊星歯車減速装置410においても、特徴はねじ部N4の位置にある。ここではねじ部N4が第1支持フランジ450(に対応する軸方向位置)に設けられている。このような構成とすれば必然的に使用するボルト480は長いものとなり、更にねじ部とボルトの頭とが離れ、ボルトの内力係数を大きくすることができ、ボルトが切れ難くなる効果が発揮される。なお、ここでも、遊星歯車減速装置310で説明したと同様に、第2支持フランジ460の凹部446Bに対応する軸方向位置P4にはねじ部が設けられていないため、剪断力に対する耐久性は確保されている。
【0054】
尚、上記実施形態の例においては、3枚の外歯歯車が軸方向に併設された例が示されていた。本発明は、内ピンを両持ち支持するようにしているため、このように外歯歯車が軸方向に複数枚並設されている場合に特に顕著な効果が得られる。しかしながら、本発明は、必ずしもこのように3枚、あるいはそれ以上の外歯歯車が並設された場合にその適用が限定されるものではなく、例えば、図示しないが、外歯歯車が2枚のみ装備された減速装置にも適用可能であり、さらには、外歯歯車が1枚のみの減速装置にも同様に適用可能である。
【0055】
また、上記実施形態の例においては、内ピンの周りに内ローラが被せられた構成が示されていた。本発明においては、この内ローラの存在は、必ずしも必須ではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
ラジアル方向のがた付きやバックラッシの調整が非常に高い精度で要求される産業用ロボットの分野において適用されることは勿論、装置の運転時間が長いものや、正転・反転の繰り返しが多い装置に利用される場合等、精度が要求され、且つ、がたが生じ易い使用態様で使用される遊星歯車減速装置の分野において広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態の1つである遊星歯車減速装置110の全体側断面図
【図2】図1における矢示II部の拡大図
【図3】本発明の他の実施形態の1つである遊星歯車減速装置310の全体側断面図
【図4】本発明の他の実施形態の1つである遊星歯車減速装置410の全体側断面図
【図5】従来の遊星歯車減速装置の全体側断面図
【符号の説明】
【0058】
110…遊星歯車減速装置
112…入力軸
114…偏心体
116…外歯歯車
118…内歯歯車
K1…相対回転取出機構
130…内ピン孔
140…内ピン
142…内ローラ
146…凹部
150…第1支持フランジ(出力軸)
152、154、162、164…軸受
160…第2支持フランジ
170…シム
180…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車とを備え、前記内歯歯車と外歯歯車との相対回転成分を出力として取り出す遊星歯車減速装置において、
前記外歯歯車の軸方向一方側に第1軸受を介して配置された第1支持フランジと、
前記外歯歯車の軸方向他方側に第2軸受を介して配置された第2支持フランジと、
前記第1支持フランジと一体的に形成されると共に、前記外歯歯車を貫通して前記第2支持フランジにまで延在された内ピンと、
該内ピンと前記第2支持フランジとを圧接可能なボルトと、を備え、且つ、
前記第2支持フランジと前記内ピンとの間にシムを挟装して前記内ピンと前記第2支持フランジとを前記ボルトを介して圧接した
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2軸受は、外輪が前記遊星歯車減速装置のケーシングに固定され、内輪が第2支持フランジに固定され、転動体が前記ボルトの締結力により前記外輪と内輪とに締め付けられている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第2軸受の外輪における転動体との接触面は前記第1軸受側へ向かうに従い半径方向内側に向かって盛り上がるよう形成され、且つ、
前記第2軸受の内輪における転動体との接触面は反第1軸受側へ向かうに従い半径方向外側に向かって盛り上がるよう形成されている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
更に、前記第1軸受の外輪における転動体との接触面は前記第2軸受側へ向かうに従い半径方向内側に向かって盛り上がるよう形成され、且つ、
前記第1軸受の内輪における転動体との接触面は反第2軸受側へ向かうに従い半径方向外側に向かって盛り上がるよう形成されている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記第2支持フランジには凹部が形成され、該凹部に前記内ピンが嵌入している
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記ボルトと螺合可能なねじ部が前記内ピンと前記第1支持フランジの少なくとも一方に形成されると共に、該ねじ部は前記内ピンの前記凹部に嵌入している部分には形成されていない
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記ねじ部は、前記第1支持フランジに形成されている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記第1支持フランジと一体的に形成された内ピンには、所定の硬化処理が施されている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の遊星歯車減速装置を備えたロボットの関節駆動用の遊星歯車減速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−292065(P2006−292065A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113276(P2005−113276)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】