説明

運転支援装置、方法およびプログラム

【課題】制動力の大きさが過度に上昇することを抑制しながらエネルギーを回収する技術の提供。
【解決手段】車両の前方の目標位置および当該目標位置における目標車速を特定し、前記車両の減速を開始する減速開始位置と前記目標位置との間を複数の区間に分割し、前記減速開始位置と前記目標位置との間において車速を前記目標車速に減速させる回生ブレーキを発生させるためにバッテリに対して充電すべき目標充電電力を前記複数の区間を構成する各区間において異なる値に設定し、前記複数の区間を構成する各区間において前記車両に搭載された発電機を制御して前記バッテリに対して前記目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り心地の低下を抑制しながら高い充電効率でバッテリに対して充電を行うように支援する運転支援装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において回生ブレーキによって減速し、制動エネルギーをバッテリに回収する技術が知られている。例えば、特許文献1においては、バッテリの受け入れ可能パワーWin(充電電力に相当)が制動力Fbr×速度V(×効率)であることが開示されている。また、一般的に、バッテリの発熱や性能の劣化を防止しながら当該バッテリに最大の電力を充電するには充電電力を一定にすることが効果的であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−221889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術によれば、回生ブレーキによって減速する際には一定の充電電力でバッテリに充電する回生ブレーキを発生させることが効果的である。この構成によれば、回生ブレーキによる制動を行っている場合に車両に作用する制動力の大きさと車速とは反比例の関係となる。従って、この構成においては、回生ブレーキによって制動を行って車速を低下させると車両に作用する制動力の大きさが急激に増大する。このため、車速が低下するほど急激に乗り心地が悪くなってしまう。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、制動力の大きさが過度に上昇することを抑制しながらエネルギーを回収する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明においては、車両の減速開始位置と目標位置との間を複数の区間に分割し、複数の区間を構成する各区間において異なる値の目標充電電力を設定し、複数の区間を構成する各区間においてバッテリに対して目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて車両を目標車速に減速させる。
【0006】
特定の目標充電電力を設定する回生ブレーキにおいては、上述のようにバッテリの充電電力が車両に作用する制動力の大きさと車速との積に等しい(あるいは比例する)とみなすことができる。従って、減速開始位置から目標位置まで単一の充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて制動を行うと車速に反比例して制動力の大きさが増大し、車速を低下させる過程において制動力の大きさが過度に大きくなってしまう。そこで、車両の減速開始位置と目標位置との間を複数の区間に分割し、各区間において異なる目標充電電力を設定して車速を目標車速まで低下させる構成とする。従って、上述の単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる構成と比較して、制動力の大きさの過度の上昇を抑制しながらエネルギーを回収することが可能である。
【0007】
ここで、目標特定手段は、車両の前方の目標位置および目標位置における目標車速を特定することができればよい。すなわち、目標車速(あるいは目標車速以下)とすべき道路上の位置を定義して目標位置とし、目標車速と対応付けて特定することができればよい。目標位置は、目標車速が0km/hである停止線の位置や特定の車速以下で走行すべき徐行区間の開始位置のように、道路上の地物に対応付けられていても良いし、信号機が示す信号に応じて目標車速を特定するとともに停止すべき場合に信号機に対応する停止線を目標位置とする構成としても良く、種々の構成を採用可能である。
【0008】
目標充電電力設定手段は、減速開始位置と目標位置との間において車速を目標車速に減速させることができるように、複数の区間の設定と各区間における目標充電電力の設定を行うことができればよい。すなわち、上述の単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる構成と比較して、制動力の大きさの最大値が小さくなる状態で車速を目標車速まで減速させることができるように、各区間の長さおよび各区間における目標充電電力の値を設定することができればよい。減速開始位置は、車両において回生ブレーキによる減速を開始する位置であればよく、目標位置との距離に基づいて決定する構成や、車両における運転者の操作(例えば、減速開始指示を行うためのペダルに対する操作)に基づいて決定する構成など、種々の構成を採用可能である。なお、区間の数は複数であればよく、各区間に目標充電電力を設定することによって制動力の大きさの上限を抑制することができればよい。従って、予め決められた数に分割する構成や、減速開始位置と目標位置との距離が長いほど分割数を増加させる構成や予め決められた制動力の大きさの上限値を超えない範囲でできるだけ少ない数に分割する構成など種々の構成を採用可能である。
【0009】
減速制御手段は、各区間において設定された目標充電電力をバッテリに対して充電する回生ブレーキを発生させて目標位置における車速が目標車速となるような減速制御を行うことができればよい。すなわち、目標位置における車速が目標車速となるように各区間における目標充電電力が設定されているので、各区間を走行する過程において、各区間に対応付けられた目標充電電力をバッテリに対して充電する回生ブレーキを発生させるように、発電機を制御する。
【0010】
なお、回生ブレーキは車両に搭載された発電機を制御することによって実現することができればよい。すなわち、回生ブレーキは車輪の回転を発電機に伝達して当該発電機に接続されたバッテリを充電しながら車両に制動力を作用させる制御であればよい。この限りにおいて発電機とエンジンとの関係や車両の駆動手法は種々の手法を採用可能であり、エンジンと、モーターとしての発電機とのいずれかまたは双方によって駆動されるハイブリッド車両に本発明を適用しても良いし、エンジンを備えない電気自動車に本発明を適用しても良い。
【0011】
さらに、複数の区間を構成する各区間が減速開始位置に近いほど対応する目標充電電力が大きくなるように当該目標充電電力を設定する構成としてもよい。すなわち、車速が大きい区間であるほど目標充電電力が大きくなるように当該目標充電電力を設定する。上述のように、特定の目標充電電力をバッテリに充電する回生ブレーキを発生させる場合、充電電力は車両に作用する制動力の大きさと車速との積に等しい(あるいは比例する)とみなすことができる。従って、特定の車速を想定した場合、目標充電電力が大きいほど大きな制動力を発生させることができる。また、車両に作用させる制動力の大きさが大きい場合、制動力の大きさがより小さい場合と比較して車速を低下させるまでに必要な距離が短くなる。従って、複数の区間を構成する各区間が減速開始位置に近いほど対応する目標充電電力が大きくなるように目標充電電力を設定することにより、車両を減速させるために必要な距離をむやみに長くすることなく、早い段階で効果的に車速を低下させることができる。
【0012】
さらに、車速が大きい場合には、車速が小さい場合と比較して空気抵抗等によるエネルギー損失が大きいため、車速が大きい期間が長いほど回生ブレーキによって回収できないエネルギーが増大する。しかし、車速が大きい区間であるほど目標充電電力が大きくなるように目標充電電力を設定すれば、車速が大きい期間を短くできるため空気抵抗等によるエネルギー損失を減らすことが可能になり、回生ブレーキによって回収可能なエネルギーを増大させることができる。
【0013】
さらに、バッテリの性能に関連した目標充電電力を設定してもよい。例えば、車両の減速開始位置と目標位置との間を第1区間と当該第1区間の後の第2区間に分割し、第1区間における目標充電電力をバッテリに対して充電可能な最大充電電力とし、第2区間における目標充電電力をバッテリの性能を低下させることなく連続して充電可能な連続充電電力とする構成を採用可能である。すなわち、減速開始直後の区間においては最大限の電力をバッテリに充電する回生ブレーキを発生させ、次の区間においてはバッテリの性能を維持するための連続充電電力をバッテリに充電する回生ブレーキを発生させる。
【0014】
発電機を制御してバッテリに対して所定の電力を充電する回生ブレーキを発生させる構成においては、バッテリの性能を低下させることなく連続して充電可能な連続充電電力を定義することができる。当該連続充電電力は、通常、バッテリに対して充電可能な最大充電電力よりも小さく、バッテリに対する充電電力をバッテリにおける温度上昇を防止するような電力に制限することによってバッテリの性能を維持する構成となっている。
【0015】
この構成において、第2区間よりも車速が相対的に大きい第1区間の目標充電電力を最大充電電力とすることにより、車速が大きい第1区間において早期に車速を低下させることができるとともにエネルギー損失が多い状態をできるだけ短期間に抑制することができる。そして、車速が低下した後の第2区間における目標充電電力を連続充電電力とすることにより、車速が低下した後においてバッテリの性能劣化を抑制することが可能になる。
【0016】
なお、第1区間と第2区間との長さは減速開始位置から目標位置までの間の距離に応じて決定すればよい。例えば、減速開始位置から目標位置までの間の距離が、連続充電電力を充電する回生ブレーキのみによる制動で目標車速まで車速を低下させるための距離よりも短い場合、最大充電電力を充電する回生ブレーキによる制動を行う必要がある最低限の長さによって第1区間の長さを定義し、残りを第2区間とする構成を採用可能である。また、連続充電電力を充電する過程においてバッテリを冷却することが可能な構成であれば、最大充電電力を充電することによって上昇した温度上昇分を連続充電電力の充電過程で低下させることができるように第2区間の長さを設定する構成としてもよい。
【0017】
さらに、本発明のように複数の区間を構成する各区間において異なる目標充電電力を設定して各区間において回生ブレーキによって制動する手法は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のような装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、車両に備えられる各部と共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。例えば、以上のような装置を備えたナビゲーション装置や方法、プログラムを提供することが可能である。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、装置を制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】運転支援装置を含むナビゲーション装置のブロック図である。
【図2】運転支援処理を示すフローチャートである。
【図3】(3A)は車速の推移を模式的に示す図であり、(3B)は充電電力の推移を模式的に示す図である。
【図4】(4A)は車速の推移を模式的に示す図であり、(4B)は充電電力の推移を模式的に示す図である。
【図5】(5A)は車速の推移を模式的に示す図であり、(5B)は充電電力の推移を模式的に示す図である。
【図6】(6A)は車速の推移を模式的に示す図であり、(6B)は充電電力の推移を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ナビゲーション装置の構成:
(2)運転支援処理:
(3)他の実施形態:
【0020】
(1)ナビゲーション装置の構成:
図1は、本発明にかかる運転支援装置を含むナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置10は、CPU,RAM,ROM等を備える制御部20、記録媒体30を備えており、記録媒体30やROMに記憶されたプログラムを制御部20で実行することができる。本実施形態においては、このプログラムとして運転支援プログラム21を実行可能である。運転支援プログラム21は、制御部20がナビゲーション処理を実行している状態において実行される。
【0021】
本実施形態における車両は、GPS受信部41と車速センサ42とジャイロセンサ43と発電機44とバッテリ45とを備えており、各部を必要に応じて利用して制御部20が運転支援プログラム21による機能を実現する。
【0022】
GPS受信部41は、GPS衛星からの電波を受信し、図示しないインタフェースを介して車両の現在位置を算出するための情報を出力する。制御部20は、この信号を取得して車両の現在位置を取得する。車速センサ42は、車両が備える車輪の回転速度に対応した信号を出力する。制御部20は、図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の現在車速を取得する。ジャイロセンサ43は、車両に作用する角速度に対応した信号を出力する。制御部20は図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の走行方向を取得する。車速センサ42およびジャイロセンサ43は、GPS受信部41の出力信号から特定される車両の現在位置を補正するなどのために利用される。また、車両の現在位置は、当該車両の走行軌跡に基づいて適宜補正される。
【0023】
発電機44は、回転子を備えるとともに当該回転子が図示しないギアを介して車輪を駆動する車軸に接続されており、車輪の回転に応じて発電機44の回転子が回転することによって発電し、発電した電力によってバッテリ45を充電する装置である。発電機44は図示しないインタフェースを介して制御部20と接続されており、制御部20は発電機44に対して制御信号を出力することによってその発電の状態を制御することで回生ブレーキを発生させ、その制動力を調整することができる。
【0024】
バッテリ45は、発電機44に接続されており、発電機44が発電した電力によって充電され、蓄電した電力を発電機44に対して供給して当該発電機44をモーターとして機能させる。すなわち、本実施形態における発電機44は、車両を駆動するモーターとしての機能も有しており、発電機44がバッテリ45から電力の供給を受けて回転すると、当該回転は図示しないギアを介して車輪に伝達されて車両が前進あるいは後進する。なお、本実施形態にかかる車両はさらに図示しないエンジンを備えており、エンジンと、モーターとしての発電機44とのいずれかまたは双方によって駆動されるハイブリッド車両であるが、むろん、エンジンを備えない電気自動車に対して本発明を適用しても良い。
【0025】
なお、バッテリ45は図示しないインタフェースを介して制御部20と接続されており、制御部20がバッテリ45に対して制御信号を出力するとバッテリ45からバッテリ45の状態(温度および電圧)を示す信号を出力する。制御部20は、当該信号に基づいてバッテリ45の状態を特定する。
【0026】
運転支援プログラム21は車速を目標車速に減速させるまでの間に複数の目標充電電力を設定し、各目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる機能を実現するため、目標特定部21aと目標充電電力設定部21bと減速制御部21cとを備えている。また、記録媒体30には地図情報30aが予め記録されている。
【0027】
地図情報30aは、車両が走行する道路上に設定されたノードを示すノードデータ,ノード間の道路の形状を特定するための形状補間点データ,ノード同士の連結を示すリンクデータ,道路やその周辺に存在する地物(道路上の停止線や白線、横断歩道など)を示すデータ等を含んでいる。本実施形態においては、地物の直前で車両を停止させる必要がある場合に、車両を停止させる位置を目標位置として定義しており、地物を示すデータに目標位置を示すデータが対応付けられている。また、本実施形態において、目標位置は車両を停止させる必要がある位置であるため、目標車速は0km/hである。
【0028】
目標特定部21aは、車両の前方の目標位置および当該目標位置における目標車速を特定する機能を制御部20に実現させるモジュールである。すなわち、制御部20は、目標特定部21aの処理により、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43などの出力信号に基づいて車両の現在位置を特定し、地図情報30aを参照して当該現在位置の前方の所定範囲内に存在する目標位置を特定する。目標車速は0km/hに固定されている。
【0029】
目標充電電力設定部21bは、車両の減速開始位置と目標位置との間を複数の区間に分割し、減速開始位置と目標位置との間において車速を目標車速に減速させる回生ブレーキを発生させるためにバッテリに対して充電すべき目標充電電力を複数の区間を構成する各区間において異なる値に設定する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態において、制御部20は、目標充電電力設定部21bの処理により、回生ブレーキによって現在車速から目標車速まで車両を減速させることができるような、減速開始位置と目標位置との間における複数の区間の長さと各区間においてバッテリに対して充電すべき目標電力の大きさとの組み合わせを設定する。
【0030】
なお、本実施形態において、制御部20は、複数の区間を構成する各区間の位置が減速開始位置に近いほど対応する目標充電電力が大きくなるように当該目標充電電力を設定する構成を採用している。具体的には、制御部20は、車両の減速開始位置と目標位置との間を第1区間と当該第1区間の後の第2区間とに分割し、第1区間における目標充電電力の方が第2区間における目標充電電力より大きくなるように電力を設定する。
【0031】
減速制御部21cは、複数の区間を構成する各区間においてバッテリに対して目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させることによって、目標位置における車速が目標車速となるように車両を減速させる機能を制御部20に実現させるモジュールである。すなわち、制御部20は、第1区間と第2区間のそれぞれを走行する過程において、発電機44に対して制御信号を出力して目標充電電力をバッテリ45に対して充電する回生ブレーキを発生させる。この結果、各区間を走行する過程で減速開始位置から目標位置までの間において発生させるべき制動力が車両に対して作用し、目標位置における車速が目標車速となるように車両が減速される。以上の構成によれば、第1区間と第2区間とのそれぞれで異なる目標充電電力がバッテリ45に対して充電される。
【0032】
一般に、バッテリの充電電力は車両に作用する制動力の大きさと車速との積に等しい(あるいは比例する)とみなすことができる。従って、特定の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて制動を行うと車速に反比例して制動力の大きさが増大するため、車速を低下させる過程において制動力の大きさが過度に大きくなってしまう。
【0033】
しかし、本実施形態においては、車両の減速開始位置と目標位置との間を第1区間と第2区間とに分割し、各区間において異なる目標充電電力を設定して車速を目標車速まで低下させる。従って、上述の単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる構成と比較して、制動力の大きさの過度の上昇を抑制しながらエネルギーを回収することが可能になる。
【0034】
さらに、本実施形態においては、車速が大きい第1区間において、第2区間よりも目標充電電力が大きくなるように当該目標充電電力が設定される。特定の車速を想定した場合、目標充電電力が大きいほど大きな制動力を発生させることができる。また、車両に作用させる制動力の大きさが大きい場合、制動力の大きさがより小さい場合と比較して車速を低下させるまでに必要な距離が短くなる。従って、第1区間における目標充電電力が第2区間における目標充電電力よりも大きくなるように目標充電電力を設定することにより、車両を減速させるために必要な距離をむやみに長くすることなく、早い段階で効果的に車速を低下させることが可能である。
【0035】
さらに、車速が大きい場合には、車速が小さい場合と比較して空気抵抗等によるエネルギー損失が大きいため、車速が大きい期間が長いほど回生ブレーキによって回収できないエネルギーが増大する。しかし、車速が大きい区間である第1区間の方が第2区間よりも目標充電電力が大きくなるように目標充電電力を設定すれば、車速が大きい期間を短くできるため空気抵抗等によるエネルギー損失を減らすことが可能になり、回生ブレーキによって回収可能なエネルギーを増大させることが可能である。
【0036】
(2)運転支援処理:
次に、本実施形態にかかる運転支援処理を詳細に説明する。図2は、運転支援処理を示すフローチャートであり、当該運転支援処理は車両が走行している過程において所定期間(例えば、100ms毎)に実行される。
【0037】
運転支援処理において、まず制御部20は、ブレーキがオフであるか否かを判定する(ステップS100)。すなわち、制御部20は、図示しない制動部に制御信号を出力して制動力調整ペダルによる操作量を特定し、制動力調整ペダルが操作されていない場合にブレーキがオフであると判定する。ステップS100にてブレーキがオフであると判定されない場合には、ステップS105以降の処理をスキップする。すなわち、本発明による運転支援は行わない。
【0038】
ステップS100にてブレーキがオフであると判定された場合、制御部20は、目標特定部21aの処理により、車両の前方の所定範囲内に目標位置が存在するか否かを判定する(ステップS105)。すなわち、制御部20は、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在位置を特定し、地図情報30aを参照して車両の前方の所定範囲における地物を示すデータを抽出し、地物を示すデータに目標位置を示すデータが対応付けられている場合、車両の前方の所定範囲内に目標位置が存在すると判定する。ステップS105にて目標位置が存在すると判定されない場合には、ステップS110以降の処理をスキップする。すなわち、本発明による運転支援は行わない。
【0039】
次に、制御部20は、スロットルがオフであるか否かを判定する(ステップS110)。すなわち、制御部20は、図示しないスロットルバルブの開度を調整するためのスロットル制御部に対して制御信号を出力してスロットルバルブの開度を特定し、スロットルバルブの開度が0である場合にスロットルがオフであると判定する。ステップS110にてスロットルがオフであると判定されない場合には、ステップS115以降の処理をスキップする。すなわち、本発明による運転支援は行わない。
【0040】
次に、制御部20は、バッテリ45への最大充電電力と連続充電電力とを特定する(ステップS115)。ここで、最大充電電力はバッテリ45の性能や状態等に応じて決められる、バッテリ45に対して充電可能な電力の最大値であり、制御部20は、バッテリ45に制御信号を出力することによってバッテリ45の状態を特定して当該最大充電電力を特定する。また、連続充電電力はバッテリの性能を低下させることなく連続して充電可能な電力であり、予め決められた値が制御部20によって特定される。なお、最大充電電力は連続充電電力も大きい。
【0041】
次に、制御部20は、第1区間にて最大充電電力、第2区間にて連続充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて目標位置において目標車速とする場合の車速を参照車速として特定する(ステップS120)。すなわち、本実施形態においては、第1区間においてバッテリ45に対して最大充電電力を充電し、第2区間においてバッテリ45に対して連続充電電力を充電する状態を想定して車速の推移を参照車速として特定する。そして、後述するステップS135あるいはS145において、当該参照車速と現在車速とを比較しながら第1区間および第2区間の長さと各区間における目標充電電力を調整する構成を採用している。
【0042】
図3Aは、参照車速の特定を例示する図である。同図3Aにおいては、横軸に位置、縦軸に車速および制動力の大きさを示しており、実線によって参照車速、一点鎖線によって制動力の大きさを示している。また、本例においては原点Oが車両の現在位置であり、原点O〜位置Z1eまでの区間が第1区間、位置Z1e〜位置Z2eまでの区間が第2区間である。なお、図3Bにおいては、図3Aと同様の横軸に対し、縦軸を充電電力として示しており、最大充電電力がPm(W)、連続充電電力がPc(W)である。
【0043】
図3Aに示すような参照車速および制動力の大きさは、各区間の充電電力をバッテリ45に充電する状態に対応した単位時間毎の参照車速および加速度の推移を特定する処理を繰り返すことによって決定される。まず、制御部20は、連続充電電力Pcに基づいて目標位置における制動力を特定する。本実施形態においては、バッテリに対する充電電力である連続充電電力Pcが車両に作用する制動力の大きさと車速との積に等しいとみなすが、目標車速である0km/hを直接的に扱うことを避けるため、目標位置における車速を0にほぼ等しい所定の車速V2e(例えば、1km/h)とする。そして、連続充電電力Pcを当該所定の車速V2eで除することによって目標位置Z2eにおける制動力F2eを特定する。この結果、目標位置Z2eにおける制動力がF2e,参照車速が所定の車速V2eに設定される。なお、ここで制動力は車両の前方を正の方向として定義され、制動力F2eは負の数である。
【0044】
次に、制御部20は、目標位置Z2eにおいてこれらの参照車速および制動力となっているために必要な単位時間だけ過去の時点での参照車速を特定する。すなわち、目標位置における制動力F2eを車両の重量で除した値が車両に作用する加速度(車両の前方を正の方向とした場合の負の加速度)であるため、当該加速度と過去に遡ることを示す負数の単位時間との積を目標車速に相当する所定の車速であるV2eに加えれば、単位時間だけ過去の時点での参照車速が特定される。また、当該参照車速と単位時間とを乗じて得られる距離だけ進行方向後方の位置を単位時間だけ過去の時点での車両の位置とする。
【0045】
そして、上述のように、車両に作用する制動力の大きさと車速との積が連続充電電力に等しいとみなすと、連続充電電力を、車速で除した値によって車両に作用する制動力の大きさを定義することができる。そこで、上述のように、単位時間だけ過去の時点での参照車速を算出した後に、当該参照車速で連続充電電力を除することによって単位時間だけ過去の時点での制動力の大きさを特定することができる。この処理を繰り返すことにより、各位置における参照車速と制動力の大きさとを特定することができる。
【0046】
例えば、発電機44によってバッテリ45に対して連続充電電力Pcを充電している状態で目標位置Z2eの目標車速がV2e、制動力がF2eである状態を実現するために、制御部20は、単位時間だけ過去の時点での参照車速V21をV2e+(−T)×(Ft/M)(km/h)として算出する。ここで、Tは単位時間の長さである。また、制御部20は、単位時間だけ過去の時点での車両の位置を目標位置Z2eより距離V21×T(m)だけ進行方向後方の位置Z21とする(図示せず)。この結果、位置Z21における参照車速がV21となり、制御部20は、当該位置Z21における制動力F21を(−Pc/V21)(N)として特定する。
【0047】
さらに、制御部20は、位置Z21において車両に作用する加速度a21が(−Pc/(V21・M))(m/s2)であるとし、位置Z21における状態よりも単位時間だけ過去の時点での車両の参照車速V22をV21+(−T)×(−Pc/(V21・M))として特定する。さらに、単位時間だけ過去の時点での車両の位置を位置Z21より距離V21×Tだけ進行方向後方の位置Z22とする。制御部20は、以上の処理を参照車速が中間目標車速Vt(km/h)になるまで繰り返し、参照車速が当該中間目標車速Vtとなる位置を位置Z1eとする。ここで、中間目標車速Vtは、制動力の大きさが非連続に変化した場合であっても運転者が違和感を覚えない車速として予め特定された車速の範囲の最大値である。従って、位置Z1eにおいて制動力の大きさの非連続な変化が生じた場合であっても運転者に違和感を与えることはない。また、中間目標車速Vtを、運転者が違和感を覚えない車速として予め特定された車速の範囲の最大値とすることにより、連続充電電力Pcが目標電力となっている期間を長期間にすることができる。なお、中間目標車速Vtは種々の手法で特定可能であり、例えば、予め充分な母数の運転者に対する実験を行って所定の確率以上の運転者が違和感を覚えない範囲として特定された車速の範囲の最大値以下に設定する構成等を採用可能である。
【0048】
次に、制御部20は、発電機44によってバッテリ45に対して最大充電電力Pmを充電している状態で位置Z1eから過去に遡った場合の参照車速および制動力の大きさの推移を特定する。すなわち、制御部20は、位置Z1eを基点として単位時間だけ過去の時点での参照車速V11をVt+(−T)×(F1e/M)(km/h)として算出する。ここで、F1eは、第2区間についての参照車速および制動力の大きさを特定する際に特定された位置Z1eにおける制動力である。また、制御部20は、位置Z1eを基点として単位時間だけ過去の時点での車両の位置を位置Z1eより距離V11×T(m)だけ進行方向後方の位置Z11とする(図示せず)。この結果、位置Z11における参照車速がV11となり、制御部20は、当該位置Z11における制動力F11を(−Pm/V11)(N)として特定する。
【0049】
さらに、制御部20は、位置Z11において車両に作用する加速度a11が(−Pm/(V11・M))であるとし、位置Z11における状態よりも単位時間だけ過去の時点での車両の参照車速V12をV11+(−T)×(−Pm/(V11・M))として特定する。さらに、単位時間だけ過去の時点での車両の位置を位置Z11より距離V12×Tだけ進行方向後方の位置Z12とする。制御部20は、以上の処理を位置が現在位置と一致するあるいは現在位置よりも後方になるまで繰り返す。なお、図3Aにおいては、現在位置(あるいは現在位置に最も近い位置)における参照車速をV0として示している。
【0050】
以上のように、ステップS120にて参照車速を特定すると、制御部20は、現在車速が現在位置の参照車速以下であるか否かを判定し(ステップS130)、ステップS130において現在車速が現在位置の参照車速以下であると判定されない場合、制御部20は第1区間の長さが長くなるように変更するとともに第1区間の目標充電電力を最大充電電力、第2区間の目標充電電力を連続充電電力に設定する(ステップS135)。すなわち、現在車速が現在位置の参照車速以下であると判定されない場合、ステップS120で特定された第1区間の目標充電電力を最大充電電力、第2区間の目標充電電力を連続充電電力に設定する回生ブレーキを発生させても目標位置において目標車速まで減速させることはできない。
【0051】
そこで、本実施形態においては、目標充電電力を最大充電電力とする第1区間の長さを長くすることによって目標位置において目標車速まで減速させることが可能な目標充電電力を設定する構成としている。具体的には、制御部20は、最大充電電力をバッテリ45に対して充電する回生ブレーキを発生させて現在位置において現在車速の車両を減速させた場合の車速の推移を特定し、車速が参照車速と一致する位置あるいは参照車速以下になる位置を第1区間の終了位置Z1eとする。
【0052】
図4Aは、現在位置および目標位置の関係が図3Aと同様の関係である場合の第1区間の長さを特定する様子を説明する図である。図4Aに示すように、現在位置における現在車速がVcであり、現在位置以後において最大充電電力Pmを充電する回生ブレーキを発生させる場合、現在位置における制動力は(−Pm/Vc)となる。制御部20は、この状態において、車両に作用する加速度acが(−Pm/(Vc・M))(N)であるとみなす。さらに、制御部20は、単位時間後における車両の位置が現在位置より(Vc×T)(m)前方の位置Z01(図示せず)であるとともに、当該位置Z01における車速Vc1が(Vc+((−Pm/(Vc・M))×T))(km/h)であるとみなす。このような処理によれば、現在位置より(Vc×T)(m)前方の位置Z01における制動力を(−Pm/Vc1)、加速度ac1を(−Pm/(Vc1・M))として特定することができる。制御部20は、以上の処理を車速が図3Aに示す第2区間の参照車速と一致する(あるいは第2区間の車速以下となる)位置まで繰り返す。
【0053】
図4Aにおいては、現在位置から最大充電電力Pmを充電する回生ブレーキを発生させて減速した場合の車速と第2区間の参照車速が一致した位置を第1区間の終了位置としており、位置Z1eとして示している。なお、図4Aにおいては、位置Z1eよりも後方における参照車速を二点鎖線、位置Z1eよりも前方における参照車速を実線、制動力の大きさを一点鎖線にて示している。以上のように、ステップS135において制御部20は、ステップS120によって特定した第1区間の長さを変更し、合わせて第2区間の長さを短くすることによって第1区間および第2区間の長さを決定し、図4Bに示すように、第1区間の目標充電電力を最大充電電力Pm、第2区間の目標充電電力Pcを連続充電電力に設定する。
【0054】
そして、制御部20は、減速制御部21cの処理により、第1区間を走行する過程において最大充電電力をバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力し、第2区間を走行する過程において連続充電電力をバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力して減速制御を行う(ステップS140)。この結果、車両が現在位置から目標位置まで走行する過程で、図4Aの実線で示すように車速を減速させて目標位置において目標車速となるように制御することができる。以上のように、ステップS135,S140に示す処理によれば、ステップS110にてスロットルがオフであると判定された場合の車両の現在位置が減速開始位置となる。さらに、減速開始位置から目標位置までの区間を第1区間および第2区間に分割した状態で、各区間における目標充電電力を異なる電力に設定した状態で減速制御が行われる。従って、単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて目標車速まで減速させる構成と比較して、制動力の大きさの過度の上昇を抑制しながらエネルギーを回収することが可能である。
【0055】
一方、ステップS130において、現在車速が現在位置の参照車速以下であると判定された場合、制御部20は第1区間における目標充電電力を変更し、現在車速を中間目標車速に減速させるための電力を第1区間における新たな目標充電電力として設定し、第2区間の目標充電電力を連続充電電力に設定する(ステップS145)。すなわち、現在車速が現在位置の参照車速以下であると判定された場合、ステップS120で特定された第1区間の目標充電電力を最大充電電力以下に設定して回生ブレーキを発生させたとしても目標位置において目標車速まで減速させることができる。
【0056】
そこで、本実施形態においては、第1区間における目標充電電力を最大充電電力以下に設定しなおす構成としている。具体的には、制御部20は、第1区間において現在車速を中間目標車速Vtまで減速させるための電力を特定する。当該電力を特定するため、本実施形態においては、予め定義されたマップを参照する。すなわち、本実施形態においては、現在車速を特定の中間目標車速Vtに減速させるために必要な充電電力が、現在位置から第1区間の終了位置までの距離および現在車速Vdの値毎に予め特定され、マップとして定義されている。
【0057】
図5Aは、現在位置および目標位置の関係が図3Aと同様の関係である場合の第1区間の目標充電電力を特定する様子を説明する図であり、図5Bは、図5Aに対応する目標充電電力を説明する図である。ステップS145において、制御部20は現在位置とステップS120で特定された第1区間の終了位置Z1eとの間の距離を特定し、現在車速Vdを特定し、マップを参照して当該距離および現在車速Vdに対応する充電電力Pdを特定する。そして、当該特定された充電電力Pdを第1区間における目標充電電力として設定する。また、現在位置を減速開始位置に設定し、第2区間の目標充電電力を連続充電電力Pcに設定する。
【0058】
次に、制御部20は、減速制御部21cの処理により、減速開始位置以降、第1区間を走行する過程において電力Pdをバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力し、第2区間を走行する過程において連続充電電力Pcをバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力して減速制御を行う(ステップS150)。この結果、車両が現在位置から目標位置まで走行する過程で、図5Aの実線で示すように車速を減速させて目標位置において目標車速となるように制御することができる。以上のように、ステップS145,S150に示す処理によれば、第1区間において減速開始位置における車速を中間目標車速に減速させるように目標充電電力が設定され、第2区間において中間目標車速を目標車速に減速させるように目標充電電力が設定される。従って、単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させて目標車速まで減速させる構成と比較して、制動力の大きさの過度の上昇を抑制しながらエネルギーを回収することが可能である。
【0059】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、複数の区間を構成する各区間において異なる目標充電電力を設定して各区間において回生ブレーキによって制動する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、目標車速は0km/hに限定されず、0km/hよりも大きい車速であっても良い。また、目標位置は、目標車速あるいは目標車速以下とすべき道路上の位置であればよく、特定の車速以下で走行すべき徐行区間の開始位置等であってもよく種々の構成を採用可能である。さらに、目標位置が動的に変動する構成であっても良い。例えば、信号機が示す信号に応じて目標車速を特定するとともに停止すべき場合に信号機に対応する停止線を目標位置とする構成等を採用可能である。
【0060】
さらに、複数の区間は、減速開始位置と目標位置との間において設定されていればよく、単一の目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる構成と比較して、制動力の大きさの最大値が小さくなる状態で車速を目標車速まで減速させることができるように、各区間の長さおよび各区間における目標充電電力を設定することができればよい。減速開始位置は、車両において回生ブレーキによる減速を開始する位置であればよく、目標位置との距離に基づいて決定してもよい。なお、区間の数は複数であればよく、予め決められた数に分割する構成や、減速開始位置と目標位置との距離が長いほど分割数を増加させる構成や予め決められた制動力の大きさの上限値を超えない範囲でできるだけ少ない数に分割する構成など種々の構成を採用可能である。
【0061】
なお、第1区間と第2区間との長さは減速開始位置から目標位置までの間の距離に応じて決定すればよく、上述の構成の他にも種々の構成によって実現することができる。例えば、減速開始位置から目標位置までの間の距離が、連続充電電力を充電する回生ブレーキのみによる制動で目標車速まで車速を低下させるための距離よりも短い場合、最大充電電力を充電する回生ブレーキによる制動を行う必要がある最低限の長さによって第1区間の長さを定義し、残りを第2区間とする構成を採用可能である。また、連続充電電力を充電する過程においてバッテリを冷却することが可能な構成であれば、最大充電電力を充電することによって上昇した温度上昇分を連続充電電力の充電過程で低下させることができるように第2区間の長さを設定する構成としてもよい。
【0062】
さらに、第2区間における目標充電電力を、目標位置において車両に作用させる制動力が、制動動作の終了位置において車両に作用しても運転者が違和感を覚えない制動力の大きさの上限値になるような充電電力に設定してもよい。すなわち、車速が目標車速となる目標位置は、回生ブレーキによる制動によって最も車速が小さくなる、制動動作の終了位置である。制動動作の過程で車両に作用する制動力よりも制動動作の終了位置にて車両に作用する制動力の方が運転者に違和感を与えやすいため、乗り心地のよい車両とするために許容される制動力の大きさの上限は制動動作の過程よりも制動動作の終了位置の方が小さい。そこで、制動動作の終了位置において車両に作用しても運転者が違和感を覚えない制動力の大きさの上限値を目標制動力とし、目標位置において制動力の大きさが当該目標制動力の大きさとなった状態で制動動作が終了するように構成する。
【0063】
このような構成は、例えば、目標位置における目標制動力を運転者が違和感を覚えない制動力の大きさの上限値Ftとし、目標位置における車速を0にほぼ等しい所定の車速V2e(例えば、1km/h)とし、第2区間における目標充電電力をFtとV2eとの積によって特定する構成を採用可能である。この構成によれば、乗り心地のよい車両を提供することが可能である。なお、目標制動力Ftの大きさは運転者が違和感を覚えない制動力の大きさの上限値より小さい値であってもよい。また、当該上限値は、予め充分な母数の運転者に対する実験を行うなどによって特定することができる。
【0064】
さらに、上述の実施形態においては、第1区間と第2区間との境界において制動力が非連続的に変化するため、当該非連続的な変化が発生することによって運転者に違和感を与えないように、第1区間の終了位置において車両に作用する制動力が所定の値Fmax(N)となるように設定してもよい。この構成は、例えば、図2のステップS120〜S150に代えて以下の処理を行うことによって実現可能である。
【0065】
この処理において、まず制御部20は、所定の値Fmaxを取得し、ステップS120と同様の処理によって位置Z1eを特定し、Fmaxを当該位置Z1eにおける制動力とする。但し、本例において、第2区間における目標充電電力は連続充電電力Pcとして説明するが、予め決められた値であってもよいし、目標位置における目標制動力Ftに基づいて設定される充電電力であってもよい。位置Z1eに対応する車速として算出された車速は中間目標車速Vtであるため、制御部20は、当該位置Z1eにおける充電電力Peを(Vt×Fmaxの絶対値)(W)として特定する。本実施形態においては、当該充電電力Peを、現在車速を中間目標車速Vtまで減速させるための電力とし、図6Bに示すように第1区間における目標充電電力として設定する。
【0066】
次に、制御部20は、位置Z1eにおいて、車両に作用する加速度aeがFmax/M(N)であるとみなす。さらに、制御部20は、目標充電電力Peを充電している状態で位置Z1eから単位時間だけ過去の時点での車速Ve1をVt+(−T)×(Fmax/M)(km/h)として算出する。また、制御部20は、位置Z1eを基点として単位時間だけ過去の時点での車両の位置を位置Z1eより距離Ve1×T(m)だけ進行方向後方の位置Ze1とする(図示せず)。この結果、位置Ze1における車速がVe1となり、制御部20は、当該位置Ze1における制動力Fe1を(−Pe/Ve1)(N)として特定する。
【0067】
さらに、制御部20は、位置Ze1において車両に作用する加速度ae1が(−Pe/(Ve1・M))であるとし、位置Ze1における状態よりも単位時間だけ過去の時点での車両の車速Ve2をVe1+(−T)×(−Pe/(Ve1・M))として特定する。さらに、単位時間だけ過去の時点での車両の位置を位置Ze1より距離Ve2×Tだけ進行方向後方の位置Ze2とする。制御部20は、以上の処理を単位時間だけ過去の時点での車両の位置として算出される位置が車両の現在位置である原点Oと一致するあるいは車両の現在位置である原点Oより後方になるまで繰り返す。なお、図6Aにおいては、以上の処理によって算出された車速が現在車速Veと一致する(あるいは現在車速Ve以上になる)位置をZ1sとして示し、単位時間だけ過去の時点での車両の位置が車両の現在位置である原点Oと一致する(あるいは車両の現在位置である原点Oより後方となる)場合の車速をVmaxとして示している。
【0068】
また、図6Aにおいては、以上の処理によって算出された車速(Ve2等)および位置Z1eよりも前方に関してステップS120と同様の処理によって特定した車速を実線、制動力の大きさを一点鎖線にて示している。以上のように、車速Vmaxおよび位置Z1sが特定されると、制御部20は、減速制御を行うべきか否かを判定する。すなわち、車両の現在位置における現在車速VeがVmax以上である場合、現在位置より前方に位置Z1sを設定できないため、制御部20は減速制御を実行しない。一方、現在車速VeがVmaxより小さい場合、制御部20は、上述のようにして算出された車速が現在車速Veと一致する位置である位置Z1sを第1区間の開始位置、すなわち、減速開始位置として設定するとともに、第1区間の目標充電電力をPeに設定する。また、第2区間の目標充電電力を連続充電電力Pcに設定する。
【0069】
そして、制御部20は、減速制御部21cの処理により、減速開始位置まで走行する過程で車速を維持し、減速開始位置以降、第1区間を走行する過程において電力Peをバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力し、第2区間を走行する過程において連続充電電力Pcをバッテリ45に充電するように発電機44を制御する制御信号を出力して減速制御を行う。
【0070】
以上の処理においては、車速が中間目標車速Vtとなった時点の制動力の大きさが所定値Fmaxの大きさと一致するように第1区間における目標充電電力を設定している。従って、この構成によれば、車速が中間目標車速となった時点における制動力の大きさを所定値Fmaxの大きさ以下に抑制することができ、乗り心地のよい車両を提供することが可能である。なお、ここでも所定値Fmaxの大きさは、運転者が違和感を覚えない、中間目標車速となった時点の制動力の大きさであればよく予め充分な母数の運転者に対する実験を行うなどによって特定することができる。また、中間目標車速Vtとなった時点での制動力の大きさは、所定値Fmaxの大きさ以下であればよく、当該所定値Fmax以下になるように第1区間における目標充電電力を設定してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…ナビゲーション装置、20…制御部、21…運転支援プログラム、21a…目標特定部、21b…目標充電電力設定部、21c…減速制御部、30…記録媒体、30a…地図情報、41…GPS受信部、42…車速センサ、43…ジャイロセンサ、44…発電機、45…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方の目標位置および当該目標位置における目標車速を特定する目標特定手段と、
前記車両の減速を開始する減速開始位置と前記目標位置との間を複数の区間に分割し、前記減速開始位置と前記目標位置との間において車速を前記目標車速に減速させる回生ブレーキを発生させるためにバッテリに対して充電すべき目標充電電力を前記複数の区間を構成する各区間において異なる値に設定する目標充電電力設定手段と、
前記複数の区間を構成する各区間において前記車両に搭載された発電機を制御して前記バッテリに対して前記目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる減速制御手段と、
を備える運転支援装置。
【請求項2】
前記目標充電電力設定手段は、前記複数の区間を構成する各区間の位置が前記減速開始位置に近いほど対応する前記目標充電電力が大きくなるように当該目標充電電力を設定する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記目標充電電力設定手段は、前記減速開始位置と前記目標位置との間を第1区間と当該第1区間の後の第2区間に分割し、前記第1区間における前記目標充電電力を前記バッテリに対して充電可能な最大充電電力とし、前記第2区間における前記目標充電電力を前記バッテリの性能を低下させることなく連続して充電可能な連続充電電力とする、
請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
車両の前方の目標位置および当該目標位置における目標車速を特定する目標特定工程と、
前記車両の減速を開始する減速開始位置と前記目標位置との間を複数の区間に分割し、前記減速開始位置と前記目標位置との間において車速を前記目標車速に減速させる回生ブレーキを発生させるためにバッテリに対して充電すべき目標充電電力を前記複数の区間を構成する各区間において異なる値に設定する目標充電電力設定工程と、
前記複数の区間を構成する各区間において前記車両に搭載された発電機を制御して前記バッテリに対して前記目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる減速制御工程と、
を含む運転支援方法。
【請求項5】
車両の前方の目標位置および当該目標位置における目標車速を特定する目標特定機能と、
前記車両の減速を開始する減速開始位置と前記目標位置との間を複数の区間に分割し、前記減速開始位置と前記目標位置との間において車速を前記目標車速に減速させる回生ブレーキを発生させるためにバッテリに対して充電すべき目標充電電力を前記複数の区間を構成する各区間において異なる値に設定する目標充電電力設定機能と、
前記複数の区間を構成する各区間において前記車両に搭載された発電機を制御して前記バッテリに対して前記目標充電電力を充電する回生ブレーキを発生させる減速制御機能と、
をコンピュータに実現させる運転支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−130546(P2011−130546A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284816(P2009−284816)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】