説明

過給システムの異常検出装置

【課題】吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の異常を正確に且つ迅速に検出する。
【解決手段】内燃機関(200)に備わる過給システムは、相互に並列に配置された排気駆動型の第1過給器(219、220及び222を含む)及び第2過給器(226、227及び229を含む)と、第2過給器に対応する排気通路(210)及び吸気通路(215)夫々を開閉可能な排気切り替え弁(231)及び吸気切り替え弁(232)とを備える。該過給システムは、内燃機関の運転条件に応じて両切り替え弁を開閉することにより、両過給器の作動個数を適宜切り替えることが可能となる。過給システムの異常検出装置では、回転速度センサ(224、230)を介して特定された第1過給器の回転速度及び第2過給器の回転速度に基づいて、ECU(100)によって吸気及び排気切り替え弁が異常状態にあるか否かが判別される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の過給器を備えた過給システムの異常を検出する異常検出装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば特許文献1に開示された過給器の異常判定装置がある。この過給器の異常判定装置によれば、遠心式過給器を備えたエンジンにおいて、遠心式過給器のタービン回転数の変化量に基づいて、ウェストゲートバルブ及びエアバイパスバルブが異常状態にあるか否かを判定できるとされている。
【0003】
また、ツインターボシステムにおいて、吸気制御弁、排気制御弁及び過給圧リリーフ弁の開閉固着を、吸気制御弁の上流と下流の吸気圧の差、及び吸気管圧力に基づいて検出できる過給器付エンジンの故障診断方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
更には、ツインターボシステムにおいて、センサによって検知されたエンジン回転数と過給圧に基づいて、吸気切り替え弁と排気切り替え弁が閉弁状態で固着するか否かを判定する過給器付エンジンの制御装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−56843号公報
【特許文献2】特開平6−346744号公報
【特許文献3】特開平5−98981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の過給システムとしては、複数の過給器を相互に並列に配置し、一方の過給器に対応する吸気通路及び排気通路に吸気切り替え弁と排気切り替え弁を夫々配設し、運転領域に応じて両切り替え弁を開閉することで、過給器の作動個数を適宜切り替える、所謂パラレルツインターボシステムがある。
【0007】
このパラレルツインターボシステムにおいては、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁が正常に機能しないと適切な過給モードを維持することができないため、これらの異常検出が必要となる。然るに、特許文献1に開示された異常判定装置は、この種のパラレルツインターボシステムを前提としておらず、タービン回転数の変化量だけでは、新たに配設される吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の異常を検出することは難しい。
【0008】
一方、特許文献2及び3に開示される装置は、この種のパラレルツインターボシステムに適用され得るが、いずれも過給圧や吸気圧等の圧力値を指標としているため、異常検出の正確性に欠ける点は否めない。他方、例えば、吸気切り替え弁或いは排気切り替え弁の開閉状態を特定し得るセンサ等の検出手段を設けることは可能であるが、明らかにコストの増加を招く。即ち、上記各種技術を含む従来の技術には、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の異常を正確に且つ迅速に検出することが困難であるという技術的な問題点がある。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の異常を正確に且つ迅速に検出し得る過給システムの故障検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る過給システムの異常検出装置は、内燃機関に備わり、相互に並列に配置された、夫々排気駆動型の第1過給器及び第2過給器と、前記第2過給器に対応する前記内燃機関の吸気通路に設置され、該吸気通路を開放及び閉鎖可能な吸気切り替え弁と、前記第2過給器に対応する前記内燃機関の排気通路に設置され、該排気通路を開放及び閉鎖可能な排気切り替え弁とを備え、前記内燃機関の運転条件に応じて前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁の開弁状態を変更することにより、前記第1過給器のみを稼動させるシングルターボモードと前記第1及び第2過給器の双方を稼動させるツインターボモードとの間で過給モードを切り替え可能に構成されてなる過給システムの異常検出装置であって、前記第1過給器の回転速度たる第1回転速度及び前記第2過給器の回転速度たる第2回転速度を特定する特定手段と、前記内燃機関の運転条件並びに前記特定された第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に基づいて、前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かを判別する判別手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る過給システムは、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関に備わり得ると共に、夫々排気駆動型の第1及び第2過給器を備える。ここで、「排気駆動型」とは、排気エネルギを駆動源として外界から吸入される空気たる吸入空気の圧力を大気圧以上に高めた状態で供給する(即ち、過給する)ことを意味し、第1及び第2過給器は、好適な一形態として、夫々、排気通路に設置されたタービンにより排気エネルギ(例えば、排気熱)の少なくとも一部を回収して(端的に言えば、排気圧によりタービンを回転駆動することを意味する)、吸気通路に設置されたコンプレッサを回転駆動することにより吸入空気の過給を行う、所謂ターボチャージャ等として構成され得る。
【0012】
本発明に係る過給システムにおいて、第1及び第2過給器は、相互に並列に配置されており、所謂パラレルツインターボの構成を採る。従って、排気通路は、その一部に、相互いに独立して機能し得る、第1過給器に対応する通路部分(以下、適宜「第1排気通路」と称する)と、第2過給器に対応する通路部分(以下、適宜「第2排気通路」と称する)とを含んで構成される。また吸気通路も同様であり、その一部に、相互いに独立した、第1過給器に対応する通路部分(以下、適宜「第1吸気通路」と称する)と、第2過給器に対応する通路部分(以下、適宜「第2吸気通路」と称する)とを含んで構成される。この際、第1及び第2吸気通路並びに第1及び第2排気通路の各々の物理構成は、各種の態様を採ることが可能であり、例えば、各通路には、その一部区間をバイパスする、或いは各通路相互間を限定的に連通させる各種バイパス通路が更に設置されていてもよい。
【0013】
第2排気通路には、第2排気通路を開放及び閉鎖可能な、例えば電磁弁(ソレノイド弁)やバタフライ弁等の排気切り替え弁が備わる。この排気切り替え弁の物理的、機械的又は電気的な各種構成は、特に限定されるものではなく、排気切り替え弁を挟む第2排気通路の上下流の連通を遮断する遮断状態と、当該上下流を連通させる連通状態とを実現可能である限りにおいて自由であってよい。また、排気切り替え弁に係る弁体と第2排気通路に設置され得る第2過給器のタービンとの位置関係は特に限定されず、いずれが上流に設置されていてもよい。尚、本発明に係る「排気切り替え弁」とは、必ずしも弁体そのもののみを指し示す概念ではなく、当該弁体を然るべき駆動態様を伴って駆動可能な、アクチュエータ等の駆動手段や、当該アクチュエータに対し然るべき駆動エネルギを付与するエネルギ源等を適宜に含み得る概念である。
【0014】
一方、第2吸気通路には、第2吸気通路を開放及び閉鎖可能な、例えば電磁弁(ソレノイド弁)やバタフライ弁等の吸気切り替え弁が備わる。この吸気切り替え弁の物理的、機械的又は電気的な各種構成は、特に限定されるものではなく、吸気切り替え弁を挟む第2吸気通路の上下流の連通を遮断する遮断状態と、当該上下流を連通させる連通状態とを実現可能である限りにおいて自由であってよい。また、吸気切り替え弁に係る弁体と第2吸気通路に設置され得る第2過給器のコンプレッサとの位置関係は特に限定されず、いずれが上流に設置されていてもよい。尚、本発明に係る「吸気切り替え弁」とは、排気切り替え弁と同様、必ずしも弁体そのもののみを指し示す概念ではなく、当該弁体を然るべき駆動態様を伴って駆動可能な、アクチュエータ等の駆動手段や、当該アクチュエータに対し然るべき駆動エネルギを付与するエネルギ源等を適宜に含み得る概念である。
【0015】
これら吸気切り替え弁及び排気切り替え弁は、例えば機関回転速度、負荷率、目標トルク、吸入空気量、目標過給圧或いは燃料噴射量等、内燃機関の各種運転条件に応じてその開弁状態が適宜制御される構成となっており、過給システムの過給モードは、このような開弁状態の制御を通じて、第1過給器のみが稼動状態となるシングルターボモードと、第1及び第2過給器の双方が稼動状態となるツインターボモードとの間で適宜選択的に切り替えられる構成となっている。尚、ツインターボモードには、必ずしも各弁の単一の開弁状態が対応している必要はなく、相異なる開弁状態の組み合わせにより、ツインターボモードに属し得る複数の過給態様が実現されてもよい。
【0016】
ここで、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の開弁状態を適宜選択的に切り替えて得られる複数の過給モードに応じて望ましい過給効果を得るためには、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁が、予め期待される開弁特性の範囲で駆動され、実践上得られる過給効果が予め期待される過給効果から大きく乖離しない正常状態にある必要がある。即ち、開弁すべき状況においては、動作時間や動作範囲が多少の変化幅を有するにせよ実践上問題無い範囲で開弁し、閉弁すべき状況においては、同様に適正に閉弁する必要がある。
【0017】
一方、各弁がこの種の正常状態にない異常状態にある場合、期待される過給効果が得られないといった、車両の動力性能への影響もさることながら、場合によっては、過給システムの物理的な耐久性が少なからず悪影響を受けることになる。このため、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁が異常状態にあるか否かに関しては、実践上過不足無い範囲で常時正確に把握される必要がある。そこで、本発明に係る過給システムの異常検出装置は、以下の如くにして吸気切り替え弁或いは排気切り替え弁の異常状態を検出し得る構成となっている。
【0018】
即ち、本発明に係る過給システムの異常検出装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成され得る特定手段により、第1過給器の回転速度である第1回転速度及び第2過給器の回転速度である第2回転速度が特定され、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成され得る判別手段が、内燃機関の運転条件、並びにこの特定された第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に基づいて、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かを判別する。
【0019】
過給モードを規定する吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の開弁状態は、先に述べたように、夫々内燃機関の運転条件に応じて制御される。一方で、各弁の開弁状態は、各過給器の回転速度と比較的高い相関を有している。従って、このように、内燃機関の運転条件を考慮した上で各過給器の回転速度を参照値として用いることによって、各弁が異常状態にあるか否かを判別することが可能となる。
【0020】
ここで特に、各過給器の回転速度は、この種の異常検出への適用の有無とは関係なく、各過給器の動作制御に予め必要とされる制御量であるから、本発明によれば、各弁が異常状態にあるか否かを判別するにあたって、新規な構成要素の追加は可及的に排除される。その上、各過給器の回転速度は、各弁が異常状態にあるか否かを色濃く且つ迅速に表し得るため、例えば、過給圧等、各弁が異常状態にあるか否かのみならず、過給システムの他の要素の状態が反映され得る判断基準値と較べて、少なくとも排気切り替え弁及び吸気切り替え弁が異常状態にあるか否かの判別に関して言えば有利である。
【0021】
このように、本発明に係る過給システムの異常検出装置によれば、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の異常状態を、迅速且つ正確に検出することが可能となっている。このため、各弁が異常状態のまま維持或いは放置されることにより、各過給器に生じ得る各種の不具合が回避され、適切な退避走行或いは退避制御の選択が可能となり、過給システムの信頼性が好適に担保される。
【0022】
尚、本発明に係る「特定」とは、検出、推定、算出、導出、同定及び取得等を包括する概念であり、そのプロセスは、各種態様を有してよい趣旨である。また、特定手段によりこれら各種の態様を伴って特定される第1及び第2回転速度とは、各過給器に係る、コンプレッサの回転速度、タービンの回転速度、これらを相互に接続する回転軸の回転速度、或いはそれらと略一体に回転する各種部材の回転速度を包括する概念である。
【0023】
本発明に係る過給システムの異常検出装置の一の態様では、前記判別手段は、前記特定された第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に対応して設定される指標値と所定の基準値との比較に基づいて、前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁のうち少なくとも一方が前記異常状態にあるか否かを判別する。
【0024】
この態様によれば、特定された第1回転速度そのもの、又はその平均値若しくは収束値、特定された第2回転速度そのもの、又はその平均値若しくは収束値、或いはそれらの差分値等、第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に対応して設定される各種の指標値と基準値との比較に基づいて、異常状態の有無に係る判別が実行されるため、比較的簡便に各弁の異常状態を検出することが可能となる。
【0025】
指標値と基準値との比較に基づいて、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かが判別される本発明に係る過給システムの異常検出装置の一の態様では、前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記シングルターボモードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第2回転速度が第1基準値以上である場合に、前記排気切り替え弁が開固着状態にあるものと判別する。
【0026】
シングルターボモードにおいては、第1過給器のみが稼動状態とされるはずであり、第2回転速度が、例えば排気以外の駆動要素により偶発的に駆動されている場合を排除し得る範囲で定められた(即ち、端的には、ゼロ或いはその近傍値よりは大きい)、固定値又は可変値としての第1基準値以上であるか否かに基づいて、排気切り替え弁が、本発明に係る異常状態の一としての開固着状態に有るか否かを好適に判別可能となる。ここで、「開固着状態」とは、目標となる或いは要求される状態よりも開弁側で、例えばデポジットや異物等の噛み込み等を含む各種の要因により固着した状態、或いはその円滑な動作が阻害された状態等を含む概念である。
【0027】
シングルターボモードにおいては、第1過給器側からの吸入空気の逆流を防止すべく吸気切り替え弁は全閉状態に維持されるから、排気切り替え弁が開固着状態にある場合、シングルターボモードにおいて、第2吸気通路における、コンプレッサ下流側の領域は常時高圧に維持される。その傾向は、フェールセーフ用のダイアフラムや圧力調整弁が設置されるにしても変わることがない。従って、排気切り替え弁の開固着が未検出のまま放置されると、いずれ第2吸気通路の熔損を生じる可能性がある。本態様によれば、この種の熔損を未然に防ぐことが可能となり、実践上極めて有益である。
【0028】
尚、本発明における「以上」とは、基準値の設定如何により容易に「より大きい」と置換し得る概念であり、基準値がいずれの領域に属するかは発明の本質に影響を与えない。
【0029】
指標値と基準値との比較に基づいて、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かが判別される本発明に係る過給システムの異常検出装置の他の態様では、前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記ツインターボモードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第1回転速度から前記特定された第2回転速度を減じてなる差分値が第2基準値以上である場合に、前記排気切り替え弁が閉固着状態にあるものと判別する。
【0030】
ツインターボモードにおいては、排気切り替え弁は、好適には全開或いはそれに類する大開度とされ、第1過給器及び第2過給器の双方が稼動状態とされるから、第1及び第2排気通路の通路容量が略等しければ、また各排気通路の流路抵抗が等しければ、更には第1及び第2過給器双方の体格が等しければ、排気に特段の指向性が無い限り第1及び第2回転速度は略等しくなる。また、上記通路容量が、また上記流路抵抗が、或いは上記体格が夫々相違する場合等であっても、排気切り替え弁が正常状態にある場合、予めその回転速度の偏差は、予め想定され得る範囲に収束するはずである。
【0031】
一方、排気切り替え弁が、目標となる或いは要求される状態よりも閉弁側で、例えばデポジットや異物等の噛み込み等を含む各種の要因により固着した状態、或いはその円滑な動作が阻害された状態等を含む概念としての閉固着状態にある場合、第2過給器には十分な排気が供給されないから、排気切り替え弁が正常状態に較べて第2回転速度は低下する傾向となる。従って、第1回転速度から第2回転速度を減じてなる差分値が、例えば誤差の影響を排除し得るように設定された第2基準値以上であるか否かに基づいて、排気切り替え弁が、本発明に係る異常状態の一としての閉固着状態に有るか否かを好適に判別することが可能となる。
【0032】
尚、ツインターボモードが主として高回転又は高負荷領域において選択され得る点に鑑みれば、第2過給器が期待される過給効果を発揮しないことに起因して、第1過給器は、例えば、コンプレッサ流量と前後圧力比との関係が崩れ、コンプレッササージ領域での稼動を余儀なくされる可能性がある。また、第1過給器がコンプレッササージ領域に入ると、第1過給器の回転は不安定となるため、第2過給器の回転が上昇し、第2過給器の回転速度は過度に上昇して、第2過給器は逆に過回転状態に陥る可能性がある。本態様によれば、このような第1過給器のコンプレッササージ或いは第2過給器のオーバシュートを未然に防ぐことが可能となるため、実践上極めて有益である。
【0033】
指標値と基準値との比較に基づいて、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かが判別される本発明に係る過給システムの異常検出装置の他の態様では、前記過給システムは、前記過給モードとして、前記第1過給器を稼動状態とし且つ前記第2過給器を助走状態とする助走モードを採ることが可能であり、前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記助走モードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第2回転速度から前記特定された第1回転速度を減じてなる差分値が第3基準値以上である場合に、前記吸気切り替え弁が閉固着状態にあるものと判別する。
【0034】
この態様によれば、シングルターボモードとツインターボモードとの間で過給モードをより円滑に切り替えることを目的として、過給モードとして更に、第2過給器を助走状態とする助走モードが選択肢として用意されている。ここで、「助走状態」とは、例えば、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の双方を閉弁する等して得られるシングルターボモードから、吸気切り替え弁及び排気切り替え弁の双方を開弁する等して得られるツインターボモードへの移行を行うに際して、少なくとも実践上ドライバに知覚され得る程度のトルク段差を生じさせないように、第2過給器のタービンが加速している状態等を指す。
【0035】
ここで、助走モードは、シングルターボモードからツインターボモードへ、或いはツインターボモードからシングルターボモードへ過給モードを移行させるに際して通過する過渡的な過給モードであり、例えば、排気切り替え弁を小開度の開弁状態に維持し、或いは第2排気通路において排気切り替え弁をバイパスするように設けられた第2排気通路よりも小径のバイパス通路を例えば排気バイパス弁等により開放し、少量の排気により第2過給器のタービンを駆動させること等により実現される。
【0036】
ここで特に、シングルターボモードからツインターボモードへの切り替えがなされる場合、助走モードの制御態様によっては、コンプレッサにより幾らかなりとは言え過給された吸入空気を吸気通路へ送出してコンプレッサ下流の圧力を逃がすため、吸気バイパス弁を適当なタイミングで開弁させる必要が生じ得る(尚、この段階で、第2回転速度の上昇が見られない場合、先の態様と同様に、排気切り替え弁が閉固着状態にあるとの判別も可能である)。
【0037】
ところが、この際、吸気切り替え弁が閉固着状態にあると、第2吸気通路のコンプレッサ下流側が閉塞した状態となるため、第2過給器は、効率的な過給圧の上昇に寄与しない。このため、助走モードの制御態様によっては、第2過給器の回転速度を上昇させる必要が生じ得る。その結果、第2回転速度は第1回転速度を超えて過剰に上昇することになる。
【0038】
この態様によれば、このような第2回転速度の振る舞いに着目し、予め実験的に、経験的、理論的に又はシミュレーション等に基づいて、正常状態においては採り得ない差分値としての第3基準値を設定しておくことによって、助走モードにおける吸気切り替え弁が閉固着状態にあるか否かを正確に判別することが可能である。尚、助走モードを実現するための過給システム或いは吸排気通路の構成は、特に限定されず、第3基準値もまた、これら構成に応じて適宜設定されてよい。
【0039】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】排気切り替え弁と吸気切り替え弁の制御に供される過給マップの模式図である。
【図3】図1のエンジンシステムにおいてECUにより実行される異常検出制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0042】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0043】
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
【0044】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットである。ECU100は、本発明に係る「過給システムの異常検出装置」の一例であり、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述する異常検出制御を実行可能に構成されている。
【0045】
尚、ECU100は、本発明に係る「特定手段」及び「判別手段」の一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0046】
エンジン200は、軽油を燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ディーゼルエンジンである。エンジン200の概略について説明すると、エンジン200は、シリンダブロック201に4本の気筒202が並列配置された構成を有しており、各気筒内において燃料を含む混合気が圧縮自着火した際に生じる熱エネルギが、不図示のピストンの往復運動を生じさせ、更にコネクティングロッドを介してピストンに連結されるクランクシャフト(いずれも不図示)の回転運動に変換される構成となっている。
【0047】
以下に、エンジン200の要部構成を、その動作の一部と共に説明する。尚、本実施形態に係るエンジン200は、気筒202が図1において紙面と垂直な方向に4本並列してなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒202の構成は相互に等しいため、ここでは一の気筒202についてのみ説明することとする。
【0048】
気筒202内における混合気の燃焼に際し、外部から吸入された空気たる吸入空気は、各気筒について共通に設置された吸気マニホールド203に導かれた後、不図示のEGR装置を介して供給される排気の一部たるEGRガスと適宜混合されてなる吸気として、各気筒について独立に設けられた吸気ポート(不図示)に導かれ、吸気ポートと気筒内部とを連通可能に構成された不図示の吸気バルブの開弁時に気筒202内に吸入される。気筒202内には、筒内直噴型のインジェクタ204から燃料たる軽油が噴射される構成となっており、噴射された燃料が各気筒内部で、気筒内に吸入されたガスと混合され、上述した混合気となる。
【0049】
エンジン200において、燃料は、不図示の燃料タンクに貯留されている。この燃料タンクに貯留される燃料は、不図示のフィードポンプの作用により燃料タンクから汲み出され、不図示の低圧配管を介して高圧ポンプ(不図示)に圧送される構成となっている。高圧ポンプは、コモンレール205に対し、燃料を供給することが可能に構成されている。尚、高圧ポンプは、公知の各種態様を採り得、ここでは、その詳細については省略することとする。
【0050】
コモンレール205は、ECU100と電気的に接続され、上流側(即ち、高圧ポンプ側)から供給される高圧燃料をECU100により設定される目標レール圧まで蓄積することが可能に構成された、高圧貯留手段である。尚、コモンレール205には、レール圧を検出することが可能なレール圧センサ及びレール圧が上限値を超えないように蓄積される燃料量を制限するプレッシャリミッタ等が配設されるが、ここではその図示を省略することとする。前述したインジェクタ204は、気筒202毎に搭載されており、夫々が高圧デリバリ206を介してコモンレール205に接続されている。
【0051】
尚、燃料は、個々の気筒202において、インジェクタ204を介し、目標噴射量に相当する燃料が、燃焼室内の急激な温度上昇を防止するための少量のパイロット噴射と、目標噴射量とパイロット噴射量との差分に相当するメイン噴射とに分割して噴射される構成となっている。
【0052】
上述した混合気は、圧縮工程において自着火して燃焼し、燃焼済みガスとして、或いは一部未燃の混合気として、吸気バルブの開閉に連動して開閉する排気バルブ(不図示)の開弁時に排気ポート(不図示)を介して排気マニホールド207に導かれる構成となっている。この排気マニホールド207は、排気通路208に連通しており、気筒から排出されたガス又は混合気(以下、適宜「排気」と略称する)は、この排気通路208に導かれる構成となっている。
【0053】
排気通路208は、排気分岐部211において、第1排気通路209と、第2排気通路210とに分かれている。第1排気通路209と第2排気通路210とは、排気合流部212において合流し、各排気通路を経由した排気は、この排気合流部212において集約された後、下流側に設置された不図示のDPF(Diesel Particulate Filter)等の浄化装置に供給される構成となっている。
【0054】
外界と図示せぬクリーナを介して連通する吸気通路213は、吸気分岐部216において、第1吸気通路214と、第2吸気通路215とに分かれている。第1吸気通路214と第2吸気通路215とは、吸気合流部217において合流し、各吸気通路を経由した吸入空気は、インタークーラ236を経由して前述の吸気マニホールド203に導かれる構成となっている。
【0055】
第1排気通路214には、第1タービンハウジング218に収容される形で第1タービン219が設置されている。第1タービン219は、第1排気通路209に導かれた排気の圧力により第1回転軸220を中心として回転可能に構成された、排気エネルギ回収手段である。
【0056】
ここで、第1タービン219に連結された第1回転軸220は、第1コンプレッサハウジング221に収容される形でこの第1吸気通路214に設置された第1コンプレッサ222と共有されており、第1タービン219が排気圧により回転すると、第1コンプレッサ222も当該第1回転軸220を中心として回転する構成となっている。第1コンプレッサ222は、第1吸気通路214に導かれた吸入空気を、その回転に伴う圧力により吸気マニホールド203に圧送可能に構成されており、係る吸入空気の圧送により、過給が実現される。
【0057】
尚、第1タービン219には、第1タービン219の上流側に設けられたノズルベーンの開度に応じて第1タービン219の駆動に供される排気に係る排気圧を調整可能なVN(Variable Nozzle:可変ノズル)223が設けられている。第1タービン219、第1回転軸220、第1コンプレッサ222及びVN223は、本発明に係る「第1過給器」の一例たるプライマリターボ(符合省略)を構成する。尚、これ以降、これら過給器の総体を表現する用語として適宜この「プライマリターボ」なる言葉を使用することとする。
【0058】
第1コンプレッサハウジング221には、第1コンプレッサ222の回転速度たるプライマリターボ回転速度Nt1を検出可能な回転速度センサ224が設置されている。回転速度センサ224は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたプライマリターボ回転速度Nt1は、ECU100により一定又は不定のタイミングで参照される構成となっている。プライマリターボ回転速度Nt1は、本発明に係る「第1回転速度」の一例である。
【0059】
第2排気通路210には、第2タービンハウジング225に収容される形で第2タービン226が設置されている。第2タービン226は、第2排気通路210に導かれた排気の圧力により第2回転軸227を中心として回転可能に構成された、排気エネルギ回収手段である。この第2回転軸227は、第2コンプレッサハウジング228に収容される形で第2吸気通路215に設置された第2コンプレッサ229と共有されており、第2タービン226が排気圧により回転すると、第2コンプレッサ229も当該第2回転軸227を中心として回転する構成となっている。第2コンプレッサ229は、第2吸気通路215に導かれた吸入空気を、その回転に伴う圧力により空気マニホールド203に圧送可能に構成されており、係る吸入空気の圧送により、過給が実現される。
【0060】
第2タービン226、第2回転軸227及び第2コンプレッサ229は、本発明に係る「第2過給器」の一例たるセカンダリターボ(符合省略)を構成する。尚、これ以降、これら過給器の総体を表現する用語として適宜この「セカンダリターボ」なる言葉を使用することとする。
【0061】
第2コンプレッサハウジング228には、第2コンプレッサ229の回転速度たるセカンダリターボ回転速度Nt2を検出可能な回転速度センサ230が設置されている。回転速度センサ230は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたセカンダリターボ回転速度Nt2は、ECU100により一定又は不定のタイミングで参照される構成となっている。
【0062】
尚、図1に示されるように、プライマリターボとセカンダリターボとは並列な位置関係にあり、本発明に係る「過給システム」の一例として、所謂パラレルツインターボを構成している。
【0063】
第2排気通路210には、第2タービン226よりも上流側(尚、このような構成は一例であり、下流側であってもよい)において排気切り替え弁231が設置されている。排気切り替え弁231は、第2排気通路210に開閉可能に設置された弁体と、該弁体を駆動するアクチュエータとを備えた電磁開閉弁であり、このアクチュエータが電気的に接続されたECU100により駆動制御されることによって、全開開度と全閉開度との間で規定される所望の開度で弁体の位置を制御可能に構成されている。尚、排気切り替え弁の実践的態様は、ここに例示されるものに限定されず、各種の態様を有してよい。
【0064】
一方、第2吸気通路215には、第2コンプレッサ229よりも下流側(尚、このような構成は一例であり、上流側であってもよい)において吸気切り替え弁232が設置されている。吸気切り替え弁232は、第2吸気通路215に開閉可能に設置された弁体と、該弁体を駆動するアクチュエータとを備えた電磁開閉弁であり、このアクチュエータが電気的に接続されたECU100により駆動制御されることによって、全開開度と全閉開度との間で規定される所望の開度で弁体の位置を制御可能に構成されている。尚、吸気切り替え弁の実践的態様は、ここに例示されるものに限定されず、各種の態様を有してよい。
【0065】
第2吸気通路215には、第2コンプレッサ229の上流側及び下流側を連通させる吸気バイパス通路233が形成されている。第2コンプレッサ229で加圧された空気が吸気切り替え弁232及びリード弁235により通路が閉じられた場合に、第2吸気通路215に導かれる構成となっている。
【0066】
吸気バイパス通路233には、吸気バイパス弁234が設置されている。吸気バイパス弁234は、連続的に可変に制御される弁体の開度に応じて吸気バイパス通路233における吸入空気の流量を変化させることが可能に構成された電磁開閉弁である。吸気バイパス弁234は、ECU100と電気的に接続されており、その開度は、然るべき駆動系を介してECU100により上位に制御される構成となっている。
【0067】
第2吸気通路215には、吸気切り替え弁232の上流側及び下流側を連通させるリード通路(符号省略)が形成されている。また、このリード通路には、リード弁235が設置されている。このリード弁235は、リード通路におけるリード弁上流側の圧力が所定値以上となった際に開弁するように構成された圧力調整弁である。このため、第1コンプレッサ222により過給された吸入空気の一部が、セカンダリターボ側へ流入することが防止されると共に、吸気切り替え弁232の閉弁時に第2コンプレッサ229下流側の圧力が過度に上昇する事態が防止される。
【0068】
また、吸気通路213には、過給された吸気を冷却することが可能なインタークーラ236が設置されており、吸気の充填効率の向上が図られる構成となっている。インタークーラ236は、その内部に熱交換壁を有しており、過給された吸気が通過する際に、係る熱交換壁を介した熱交換により吸気を冷却可能に構成されている。エンジン200は、このインタークーラ236による冷却によって吸気の密度を増大させることが可能となるため、第1コンプレッサ222及び第2コンプレッサ229を介した過給がより効率的になされ得る構成となっている。
【0069】
吸気通路213における、インタークーラ236の下流側には、吸気通路213に導かれる吸入空気の量を調節可能なスロットルバルブ237が配設されている。このスロットルバルブ237は、ECU100と電気的に接続され且つECU100により上位に制御されるスロットルバルブモータ238から供給される駆動力により回転可能に構成された回転弁であり、スロットルバルブ237を境にした吸気通路213の上流部分と下流部分とをほぼ遮断する全閉位置から、ほぼ全面的に連通させる全開位置まで、その回転位置が連続的に制御される構成となっている。このように、エンジン200では、スロットルバルブ237及びスロットルバルブモータ238により、一種の電子制御式スロットル装置が構成されている。
【0070】
また、エンジンシステム10において、ECU100には、図示する以外にも、エンジン200の、或いはエンジン200が搭載される車両の運転条件を規定する各種の指標値が、各指標値について設置された各種のセンサを介して電気的に入力される構成となっている。例えば、ECU100は、エンジン200の機関回転速度NEをNEセンサ(不図示)から、またアクセル開度ACCをアクセルポジションセンサ(不図示)から夫々取得可能に構成されている。
【0071】
<実施形態の動作>
エンジン200は、相互に並列に配置されたプライマリターボ及びセカンダリターボを備える。このため、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231の開弁状態に応じて、その時点エンジン200の運転条件に最も適した複数の過給モードを実現可能である。ここで、図2を参照し、エンジン200の過給モードについて説明する。ここに、図2は、エンジン200の運転条件と選択される過給モードとを対応付けてなる過給マップの模式図である。
【0072】
図2において、過給マップは、縦軸及び横軸に、夫々燃料の噴射量Q(一義的にエンジントルクTeである)及び機関回転速度NEを配してなる二次元マップとして構成される。尚、エンジン200において、噴射量Qは、機関回転速度NEとアクセル開度ACCとに基づいて、予め設定された噴射量マップから選択的に決定される。この決定された噴射量Qは、上述したインジェクタ204の駆動制御に供される。
【0073】
図示過給マップ上で、エンジン200の運転領域は、図示運転領域線(図示破線参照)の内側の領域で決定される。運転領域線は、エンジン200におけるスモークの発生限界、エンジン200の自立回転限界及びレブリミット等を勘案して定められる境界線である。
【0074】
また、図示過給マップ上には、シングル境界線とツイン境界線とが設定されており、このシングル境界線及びツイン境界線と、先述の運転領域線とによって、過給マップは三種類の領域に区分される。即ち、シングル境界線よりも低回転且つ小噴射量(軽負荷)側に相当するシングルターボモード選択領域と、シングル境界線とツイン境界線とによって挟まれた助走モード選択領域と、ツイン境界線よりも高回転且つ大噴射量(高負荷)側に相当するツインターボモード選択領域である。
【0075】
シングルターボモード選択領域では、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231は夫々全閉状態に制御される。その結果、排気は第1タービン219のみに供給され、セカンダリターボは非稼動状態とされることになって、プライマリターボのみが稼動状態とされるシングルターボモードが実現される。このため、比較的小さい排気エネルギを有効に利用して、過給圧の応答性が担保される。また、プライマリターボには、VN223が備わっており、ノズル開度を適宜絞り側に制御することにより、第1タービン219は、より効率的に駆動される。
【0076】
一方、排気エネルギが十分に供給され得るツインターボモード選択領域では、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231は夫々全開状態に制御される。その結果、排気は第1タービン219及び第2タービン226に略等しく供給され、各タービンが駆動されることによって、プライマリターボ及びセカンダリターボの双方が稼動状態とされるツインターボモードが実現される。ツインターボモードでは、潤沢な排気エネルギを効率的に利用して、高い過給圧を得ることが可能となる。
【0077】
他方、シングルターボモードからツインターボモードへ二値的に過給モードを切り替えると、吸排気切り替え弁の切り替え速度と較べて、第2タービン226及び第2コンプレッサ229等の慣性の影響によりセカンダリターボの過給の立ち上がりが遅れるため、一時的に過給圧が低下して、トルク段差が生じることがある。そのため、シングルターボモード選択領域とツインターボモード選択領域との間には、緩衝領域としての助走モード選択領域が設定される。助走モード選択領域では、排気切り替え弁231が所定の小開度に維持され、過給モードとして、第2タービン226の加速が促されることによって第2タービン226が助走状態とされる助走モードが実現される。
【0078】
このように第2タービン226が助走状態になると、第2コンプレッサ229もそれに応じて回転するから、セカンダリターボによる過給が可能となる。但し、セカンダリターボ稼動初期においては、吸気切り替え弁232下流側の圧力の方が高いため、吸気切り替え弁232は、第2タービン226の助走による第2コンプレッサ229下流側の圧力上昇を待って開弁される。
【0079】
尚、ここに例示する助走モードに係る実践的態様は一例に過ぎず、例えば、第2排気通路210に排気切り替え弁231をバイパスする排気バイパス通路が設けられ、この排気バイパス通路を開放及び閉塞させる排気バイパス弁が設けられる場合、助走モードにおいて、排気切り替え弁231を全閉としたまま排気バイパス弁を開弁し、第2タービン226を助走状態としてもよい。また、吸気切り替え弁232は、助走モードにおいて常時閉弁状態とされてもよい。
【0080】
エンジンシステム10において、ECU100は、その時点の機関回転速度NE及び噴射量Qにより規定される運転条件が、シングル過給領域、助走過給領域及びツイン過給領域のうちいずれの領域に該当するかを、係る過給マップに基づいて判別し、該当する領域に応じて排気切り替え弁231、吸気切り替え弁232及び吸気バイパス弁234を駆動制御することにより、該当する領域に応じた過給を実現する構成となっている。尚、図示する過給マップは説明を分かり易くするための模式図であり、過給マップは、実際には、図2に示された関係が数値化された状態で、且つECU100により参照可能な状態でROMに格納されている。
【0081】
尚、図2に概念を例示してなる過給マップは、過給モードを決定するものであり、エンジン200の過給圧の目標値(目標過給圧)は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等に基づいて、定常状態において、ドライバビリティに影響する動力性能を始め、エミッションとは異なる各種の要求性能を実践上問題が生じる程低下させることのない範囲で、NOx及びPMの発生を可及的に高効率に抑制し得るように適合されている。
【0082】
一方、エンジン200の運転条件に応じた上記過給モードを実現するにあたっては、上述の通り吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231が正常状態にあることが前提となる。これらが、例えば各種要因によって開弁側又は閉弁側で固着した、或いは明らかにその円滑な動作が阻害されている状況等では、望ましい過給圧を得られないばかりか、プライマリターボ、セカンダリターボ或いはエンジン200の各部に、物理的な各種の負荷を与えることとなって、これらの寿命や耐久性を減じかねない。そこで、エンジンシステム10では、過給マップに基づいた基本的な過給モードの切り替え制御とは別に、ECU100により実行される異常検出制御によって、排気切り替え弁231及び吸気切り替え弁232の異常状態が迅速且つ正確に検出される。ここで、図3を参照し、異常検出制御の詳細について説明する。ここに、図3は、異常検出制御のフローチャートである。
【0083】
図3において、ECU100は、エンジン200の運転条件として、先に述べた機関回転速度NE及び噴射量Qを取得し(ステップS101)、先ず取得された運転条件がシングルターボモード選択領域に該当するか否かを判別する(ステップS102)。
【0084】
取得された運転条件がシングルターボモード選択領域に該当する場合(ステップS102:YES)、ECU100は、セカンダリターボ回転速度Nt2が基準値Aよりも高いか否かを判別する(ステップS103)。
【0085】
ここで、運転条件がシングルターボモード選択領域である場合、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231が共に閉弁しているはずであるから、本来、第2タービン226は、少なくとも積極的な回転状態にはないはずである。そこで、この基準値Aは、何らかの理由で偶発的に生じ得る第2コンプレッサ229の回転は許容するとして、明らかに第2タービン226が排気により駆動されている状態を規定し得る適合値として設定されており、本発明に係る「第1基準値」の一例をなしている。即ち、セカンダリターボ回転速度Nt2が基準値Aよりも高い場合には、排気切り替え弁231が、本発明に係る「異常状態」の一例である開固着状態(この場合、端的に言えば閉じ不足である)にあるとの判別が可能である。セカンダリターボの体格や第2排気通路の構成にもよるが、この基準値Aは、例えば5000rpm程度の値であってもよい。
【0086】
セカンダリターボ回転速度Nt2が基準値A以下である場合(ステップS103:NO)、ECU100は、排気切り替え弁231が開固着状態にない正常状態にあるものとして処理をステップS101に戻す。一方、セカンダリターボ回転速度Nt2が基準値Aよりも大きい場合(ステップS103:YES)、ECU100は、排気切り替え弁231が開固着状態にあるものとして、排気切り替え弁231が開固着状態にあるか否かを表す第1フラグFg1を、排気切り替え弁231が開固着状態にある旨を表す「1」に設定し(ステップS104)、処理をステップS105に移行する。尚、第1フラグFg1の初期値は、排気切り替え弁231が正常状態にある旨を表す「0」に設定されている。
【0087】
ステップS102において、取得された運転条件がシングルターボモード選択領域に該当しない場合(ステップS102:NO)、言い換えれば、助走モード選択領域又はツインターボモード選択領域に該当する場合、ECU100は、取得された運転条件が助走モード選択領域に該当するか否かを判別する(ステップS106)。
【0088】
取得された運転条件が助走モード選択領域に該当する場合(ステップS106:YES)、ECU100は、セカンダリターボ回転速度Nt2からプライマリターボ回転速度Nt1を減じてなる差分値ΔNt1(即ち、Nt2−Nt1である)を算出すると共に、算出された差分値ΔNt1が基準値Bよりも大きいか否かを判別する(ステップS107)。
【0089】
この基準値Bは、当該差分値ΔNt1が基準値Bより大きい場合に、吸気切り替え弁232が、本発明に係る「異常状態」の他の一例たる閉固着状態(この場合、端的に言えば開き不足である)にあるとの判別を可能とする、本発明に係る「第3基準値」の一例たる実験的な適合値である。本実施形態において、この基準値Bは、概ね10000rpm程度の値に設定されている。
【0090】
セカンダリターボ回転速度Nt2とプライマリターボ回転速度Nt1との差分値ΔNt1が基準値B以下である場合(ステップS107:NO)、ECU100は、通常通り、吸気切り替え弁232が閉固着状態にないものとして処理をステップS101に戻す。一方、セカンダリターボ回転速度Nt2とプライマリターボ回転速度Nt1との差分値ΔNt1が基準値Bよりも大きい場合(ステップS107:YES)、ECU100は、吸気切り替え弁232が閉固着状態にあるものとして、吸気切り替え弁232が閉固着状態にあるか否かを表す第2フラグFg2を、吸気切り替え弁232が閉固着状態にある旨を表す「1」に設定し(ステップS108)、処理をステップS105に移行する。尚、第2フラグFg2の初期値は、吸気切り替え弁232が正常状態にある旨を表す「0」に設定されている。
【0091】
取得された運転条件が助走モード選択領域に該当しない場合(ステップS106:NO)、言い換えれば、ツインターボモード選択領域に該当する場合、ECU100は、プライマリターボ回転速度Nt1からセカンダリターボ回転速度Nt2を減じてなる差分値ΔNt2(即ち、Nt1−Nt2である)を算出すると共に、算出された差分値ΔNt2が基準値Cよりも大きいか否かを判別する(ステップS109)。
【0092】
ここで、運転条件がツインターボモード選択領域である場合、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231が共に開弁しているはずであるから、本来、第2タービン226は、先の助走モードを経て十分な回転状態にあるはずである。従って、各ターボの体格差や吸排気通路の構成等に応じて変化し得る回転特性の差はさておき、セカンダリターボ回転速度Nt2がプライマリターボ回転速度Nt1に対し、明らかに低い状況においては、排気切り替え弁231が全開状態に到達する以前で固着している可能性がある。基準値Cは、排気切り替え弁231が閉固着状態(ここでは、端的に言えば開き不足である)にあるか否かを規定し得るように事前に適合により決定されており、本発明に係る「第2基準値」の一例をなしている。この基準値Cは、例えば5000rpm程度の値であってもよい。
【0093】
プライマリターボ回転速度Nt1とセカンダリターボ回転速度Nt2との差分値ΔNt2が基準値C以下である場合(ステップS109:NO)、ECU100は、排気切り替え弁231が閉固着状態にないものとして処理をステップS101に戻す。一方、プライマリターボ回転速度Nt1とセカンダリターボ回転速度Nt2との差分値ΔNt2が基準値Cよりも大きい場合(ステップS109:YES)、ECU100は、排気切り替え弁231が閉固着状態にあるものとして、排気切り替え弁231が閉固着状態にあるか否かを表す第3フラグFg3を、排気切り替え弁229が閉固着状態にある旨を表す「1」に設定し(ステップS110)、処理をステップS105に移行する。尚、第3フラグFg3の初期値は、排気切り替え弁231が正常状態にある旨を表す「0」に設定されている。
【0094】
ここで、ステップS104、ステップS108又はステップS110を経由して、処理がステップS105へ移行された場合、ECU100は、各フラグの状態に応じて、以下の如くにしてフェールセーフモードを実行する。即ち、ECU100は、(1)シングルターボモードにおいて排気切り替え弁231が開固着状態にある場合、吸気切り替え弁232を開弁させ、(2)助走モードにおいて吸気切り替え弁232が閉固着状態にある場合、排気切り替え弁231を閉弁させ、(3)ツインターボモードにおいて排気切り替え弁231が閉固着状態にある場合、吸気切り替え弁232を閉弁させ、吸気バイパス弁234を開弁させる。或いは、エンジン200にウェストゲイト弁や先に述べた排気バイパス弁等が設置される場合には、これらを開弁してもよいし、プライマリターボのサージを防止すべく燃料の噴射量Qを減少させ、過給圧を低下させてもよい。いずれにせよ、フェールセーフモードとは、エンジン200の動作状態をより安全側に導く各種の制御を包括するものであって、その実践的態様はここに例示したものに限定されない。
【0095】
以上説明した本実施形態に係る異常検出制御によれば、選択されるべき過給モードを規定するエンジン200の運転条件と、プライマリターボ回転速度Nt1及びセカンダリターボ回転速度Nt2とを照らし合わせることによって、予め適切に設定された基準値に基づいて、吸気切り替え弁232及び排気切り替え弁231の異常状態を正確に検出することができる。また、各回転速度は、各弁の異常を迅速に反映して変化するため、迅速に係る異常検出を行うことが可能となる。その結果、例えばシングルターボモードにおいて排気切り替え弁231が開弁することによる第2吸気通路215における第2コンプレッサ229下流側の熔損、助走モードにおいて吸気切り替え弁232が開弁しないことによる同様の熔損、或いはツインターボモードにおいて排気切り替え弁231が十分に開弁しないことによるプライマリターボのサージ又はセカンダリターボのオーバシュート等がいずれも未然に防止され、好適なフェールセーフが実現することが可能となるのである。また、このような実践上有益なる異常状態の検出は、予めプライマリターボ及びセカンダリターボの動作制御上必要な回転センサの検出信号を利用する形で遂行される。従って、本実施形態に係る異常検出制御を行うにあたってのコストの増加は可及的に抑制される。
【0096】
補足すると、本発明は、選択すべき過給モードを規定する運転条件を考慮することによって、各ターボの回転速度が、各弁の異常状態の検出に利用可能である点を見出したものであり、例えば単に各ターボの回転速度のみを参照値とする技術思想とは本質的に全く異なるものであって、検出し得る異常状態の種類においても、またその検出精度においても、明らかにそれらを凌駕するものである。
【0097】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う過給システムの異常検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る過給システムの異常検出装置は、複数の過給器を備えた過給システムの異常を検出する異常検出装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0099】
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、208…排気通路、209…第1排気通路、210…第2排気通路、213…吸気通路、214…第1吸気通路、215…第2吸気通路、218…第1タービンハウジング、219…第1タービン、220…第1回転軸、221…第1コンプレッサハウジング、222…第1コンプレッサ、224…回転速度センサ、225…第2タービンハウジング、226…第2タービン、227…第2回転軸、228…第2コンプレッサハウジング、229…第2コンプレッサ、230…回転速度センサ、231…排気切り替え弁、232…吸気切り替え弁、234…吸気バイパス弁、235…リード弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に備わり、相互に並列に配置された、夫々排気駆動型の第1過給器及び第2過給器と、前記第2過給器に対応する前記内燃機関の吸気通路に設置され、該吸気通路を開放及び閉鎖可能な吸気切り替え弁と、前記第2過給器に対応する前記内燃機関の排気通路に設置され、該排気通路を開放及び閉鎖可能な排気切り替え弁とを備え、前記内燃機関の運転条件に応じて前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁の開弁状態を変更することにより、前記第1過給器のみを稼動させるシングルターボモードと前記第1及び第2過給器の双方を稼動させるツインターボモードとの間で過給モードを切り替え可能に構成されてなる過給システムの異常検出装置であって、
前記第1過給器の回転速度たる第1回転速度及び前記第2過給器の回転速度たる第2回転速度を特定する特定手段と、
前記内燃機関の運転条件並びに前記特定された第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に基づいて、前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁のうち少なくとも一方が異常状態にあるか否かを判別する判別手段と
を具備することを特徴とする過給システムの異常検出装置。
【請求項2】
前記判別手段は、前記特定された第1及び第2回転速度のうち少なくとも一方に対応して設定される指標値と所定の基準値との比較に基づいて、前記吸気切り替え弁及び前記排気切り替え弁のうち少なくとも一方が前記異常状態にあるか否かを判別する
ことを特徴とする請求項1に記載の過給システムの異常検出装置。
【請求項3】
前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記シングルターボモードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第2回転速度が第1基準値以上である場合に、前記排気切り替え弁が開固着状態にあるものと判別する
ことを特徴とする請求項2に記載の過給システムの異常検出装置。
【請求項4】
前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記ツインターボモードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第1回転速度から前記特定された第2回転速度を減じてなる差分値が第2基準値以上である場合に、前記排気切り替え弁が閉固着状態にあるものと判別する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の過給システムの異常検出装置。
【請求項5】
前記過給システムは、前記過給モードとして、前記第1過給器を稼動状態とし且つ前記第2過給器を助走状態とする助走モードを採ることが可能であり、
前記判別手段は、前記内燃機関の運転条件が前記過給モードとして前記助走モードを選択すべき旨に該当する状況において、前記特定された第2回転速度から前記特定された第1回転速度を減じてなる差分値が第3基準値以上である場合に、前記吸気切り替え弁が閉固着状態にあるものと判別する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の過給システムの異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−209748(P2010−209748A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55264(P2009−55264)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】