説明

配線ユニットの製造方法

【課題】工程を簡素化し部品点数を低減する配線ユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】配線ユニットの製造方法は、一次成形工程とターミナル挿着工程とを含む。一次成形工程では、一次成形体11を樹脂で成形する。一次成形体11には、互いに略直交する下層溝部21および上層溝部22が形成される。電気的導通のための配線部材であるターミナル41は下層溝部21に挿着され、ターミナル42は上層溝部22に挿着される。下層溝部21と上層溝部22とが交差する部位では、ターミナル41とターミナル42とが溝部21、22の深さ方向に互いに間隙を有するように積層する。これにより、従来技術のように各ターミナルを一次成形体にインサート成形することなく、一つの一次成形体に複数層のターミナルを挿着することができるため、工程を簡素化することができ、一次成形体の部品点数を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線ユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動アクチュエータやセンサ装置等が制御装置と一体化したモジュールが知られている。このようなモジュールでは、装置の小型化や信頼性向上のため、ケーブルによる電気的接続に代えて、モジュールに簡単に組み付けられ、電気的接続が確実にできる配線ユニットの使用が好まれる。配線ユニットは、例えば、金属製のターミナルまたはバスバーが絶縁性の樹脂成形体に内蔵される。
【0003】
配線ユニットの製造方法として、特許文献1には、ターミナル(バスバー)をインサートした複数種類の一次成形部を成形した後、複数種類の一次成形部を互いに位置決めして組み付けた状態で金型内にセットして二次成形する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4254370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法では、一次成形部の金型開閉方向にターミナルを積層する場合、ターミナル同士を接触させないために、ターミナル一層につき一つの一次成形部を成形する必要がある。したがって、一次成形部のための金型数が増え、一次成形部の部品点数が増加する。また、インサート工程を伴う一次成形の成形工程が多くなり、さらに、複数種類の一次成形部を組み合わせる工程が多くなる。その結果、金型の保管コストや一次成形部の部品管理コストも含め、合計の製造コストが高くなる。
【0006】
また、設計上、積層するターミナル同士の間隔を一次成形部の限界最小肉厚以下とすることができないため、積層方向の寸法に制約が生じ、配線のスペース効率が悪くなる。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、工程を簡素化し部品点数を低減する配線ユニットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、電気的導通可能なターミナルを成形体に挿着した配線ユニットの製造方法であって、一次成形工程とターミナル挿着工程とを含む。
一次成形工程では、溝部を有する一次成形体を樹脂で成形する。
ターミナル挿着工程では、一次成形体の溝部の深さ方向に互いに間隙を有するように複数のターミナルを積層して溝部に挿着する。
【0009】
これにより、従来技術のように各ターミナルを一次成形体にインサート成形することなく、一つの一次成形体に複数層のターミナルを挿着することができる。
したがって、一次成形工程については、従来技術に対して一次成形体用の金型数を低減し、一次成形体の部品点数を減らすことができる。また、インサート工程をなくすことで成形工程を簡素化し、時間を短縮することができる。ターミナル挿着工程については、一次成形体を組み合わせる工数を減らすことができる。
その結果、製造コストを低減することができる。
【0010】
また、各ターミナルを一次成形体にインサート成形する従来技術では、積層するターミナル同士の間隔を一次成形体の限界最小肉厚以下とすることができないのに対し、本発明では、積層するターミナル同士の間隔を絶縁が確保できる限り小さくすることができ、配線のスペース効率を向上することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、一次成形体または複数のターミナルは、溝部の幅を該溝部に挿着されるターミナルの幅に対して小さくするしまり嵌め部を設けており、ターミナル挿着工程において、ターミナルをしまり嵌めにより溝部に挿着する。
【0012】
この場合、例えば、ターミナルの幅を一定とし溝部の幅を局部的に小さくすることで、しまり嵌め部を一次成形体側に設けてもよい。あるいは、溝部の幅を一定としターミナルの幅を局部的に大きくすることで、しまり嵌め部をターミナル側に設けてもよい。また、しまり嵌め部を局部的に設けるのでなく、ターミナルの挿着箇所の全長にわたって溝部の幅をターミナルの幅に対して小さくしてもよい。
【0013】
しまり嵌め部にて溝部にターミナルを挿着する方法は、圧入でもよく、あるいは、冷却して熱収縮したターミナルを溝部に挿着した後常温に戻す「冷やし嵌め」でもよい。
また、ターミナルの挿着を容易にするため、一次成形体は、弾性を有する樹脂材料で成形されることが好ましい。しまり嵌めの適正寸法は、ターミナルおよび溝部の幅寸法ならびに公差、一次成形体の許容圧縮応力等から設定することが好ましい。
【0014】
これにより、ターミナル挿着工程でターミナルが一次成形体に固定される。したがって、後工程の運搬時、保管時、作業時等にターミナルの位置ずれを防止することができる。例えば、後工程で一次成形体を金型にセットして二次成形される場合に、二次成形の成形圧でターミナルが変形することや、ターミナル同士が接触することを防止することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によると、一次成形体は、複数のターミナルの積層方向から見て互いに交差する方向に複数の溝部を有する。
これにより、積層方向と直交する二次元空間にターミナルを自由に配置することができ、配線の設計自由度が増す。
さらに、後述する「同一の溝部の底面側と開口側とに幅の異なるターミナルを積層する」場合に比べ、ターミナルの幅を一律にすることができ、設計や部品管理が単純となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によると、一次成形体の溝部は、第1挿着部および第2挿着部を有している。第1挿着部は、底面側に形成される。第2挿着部は、第1挿着部よりも開口側に形成され、第1挿着部よりも溝幅が広い。
第1挿着部には、第1挿着部の溝幅に対応する幅の第1ターミナルが挿着される。
第2挿着部には、第2挿着部の溝幅に対応する幅の第2ターミナルが挿着される。
【0017】
一般に、樹脂成形体の溝部には抜き勾配が設定されるため、底面側の幅が相対的に狭くなり、開口側の幅が相対的に広くなる。そこで、底面側の第1挿着部に、第1挿着部の溝幅に対応する相対的に幅の狭い第1ターミナルを挿着し、開口側の第2挿着部に、第2挿着部の溝幅に対応する相対的に幅の広い第2ターミナルを挿着する。
【0018】
ここで、溝部の内壁を形成する連続する傾斜面に第1挿着部と第2挿着部とが設けられてもよく、あるいは、溝部の内壁に設けられる段差面によって第1挿着部と第2挿着部とが区画されるようにしてもよい。
また、第1挿着部と第2挿着部とを含む3層以上の挿着部が形成されてもよい。
【0019】
これにより、同一の溝部の底面側と開口側とに幅の異なる2層以上のターミナルを積層することができる。ここで、開口側の第2ターミナルは幅が第2挿着部に規制され、底面側へ動くことが防止される。したがって、底面側の第1ターミナルが固定されている限り、第2ターミナルと第1ターミナルとが接触して通電時に短絡することを防止することができる。
【0020】
また、第2ターミナルと第1ターミナルとの厚さを同等とすれば、幅の広い第2ターミナルは断面積が広くなり、幅の狭い第1ターミナルは断面積が狭くなる。そこで、第2ターミナルを最大電流値または平均電流値が比較的大きい通電に用い、第1ターミナルを最大電流値または平均電流値が比較的小さい通電に用いることで配線スペースを有効に使用することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によると、一次成形体は、ポリアミド(PA)材料で成形される。PAは、弾性を有し、絶縁性に優れるため、配線ユニットの一次成形体として適当である。また、耐熱性および耐ガソリン性に優れるため、自動車の自動変速機等、高温で、かつガソリンに触れる環境での使用に適している。
【0022】
請求項6に記載の配線ユニットの製造方法は、ターミナル挿着工程の後、二次成形工程をさらに含む。二次成形工程では、複数のターミナルが挿着された一次成形体を金型内にセットし、金型キャビティに溶融樹脂を充填して二次成形体を成形する。
【0023】
これにより、一次成形体に挿着されたターミナルの露出部分を保護し、絶縁することができる。また、二次成形樹脂部にターミナルを埋設することにより、温度変化、振動、衝撃等によってターミナルが一次成形体から脱落したり位置ずれしたりすることを防止することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明によると、二次成形工程において、一次成形体の溝部の開口側の樹脂圧が溝部の底面側の樹脂圧よりも高くなるように溶融樹脂が充填される。このことは、例えば、二次成形金型のゲートから溝部の開口側へ樹脂が流動する部分の肉厚が、ゲートから溝部の底面側へ樹脂が流動する部分の肉厚よりも充分に厚くなるように設定することにより実現することができる。
なお、二次成形工程における金型キャビティ内の各部の樹脂圧は、樹脂が流動する部分の肉厚以外にも、ゲートからの距離、樹脂の流動性および溶融温度、ゲートの形状および寸法、金型温度、成形機による成形速度および成形圧力等の成形条件等によって変化する。そこで、具体的には、これらのパラメータを入力して流動解析することにより、溝部の開口側の樹脂圧と底面側の樹脂圧のどちらが高くなるかを推定することができる。あるいは、金型技術者や成形技術者の経験に基づいて判断することができる。
【0025】
これにより、溝部に挿着されたターミナルが二次成形工程の樹脂圧により底面側へ押し付けられるため、開口側へ浮き上がることがない。したがって、積層したターミナル同士が接触し、通電時に短絡することを防止することができる。
【0026】
請求項8に記載の発明によると、二次成形工程で充填される樹脂材料はポリフェニレンサルファイド(PPS)である。PPSは、耐熱性および耐ガソリン性に優れるため、自動車の自動変速機等、高温で、かつ、ガソリンに触れる環境での使用に適している。
【0027】
また、一次成形体がPAで成形された場合、PPSの一般的な成形温度は300〜320℃でありPAの溶融温度よりも高いため、二次成形可能である。さらに、PAとPPSとは熱膨張係数が近いため、配線ユニットが温度変化の大きい環境で使用される場合でも、熱膨張収縮によりターミナルや配線接合部にかかる応力を低減することができる。
【0028】
ところで、本発明の配線ユニットの製造方法により製造された製造物は、以下のように判別することができる。
まず、ターミナル挿着工程後の製造物については、「複数のターミナルが一次成形体の溝部の深さ方向に互いに間隙を有して積層して挿着されている」という技術的特徴を有していれば、本発明の配線ユニットの製造方法により製造された製造物に該当する。これについては、一見して把握容易である。
【0029】
次に、二次成形工程後の製造物については、二次成形樹脂部と一次成形体の樹脂材料の色が類似しており、二次成形樹脂部が一次成形体を埋設している場合には、外観を観察しただけでは判別できない場合が考えられる。そのような場合でも、製造物を適当な断面でカットし、必要によっては樹脂材料を分析して、一次成形体と二次成形樹脂部との境界を明らかにすることで、本発明の配線ユニットの製造方法により製造された製造物であるか否かを判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態によって製造される配線ユニットの(a)平面斜視図、(b)底面斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態によって製造される配線ユニットに係る電気的接続の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態による一次成形体およびターミナルの模式図であり、(a)平面図、(b)正面図である。
【図4】(a):図3(a)のP1部拡大図である。(b):図3(b)のQ1部拡大図である。
【図5】本発明の第1実施形態による二次成形工程を示す模式図である。
【図6】本発明の第2実施形態による一次成形体およびターミナルの模式図であり、(a)平面図、(b)正面図である。
【図7】(a):図6(a)のP2部拡大図である。(b):図6(b)のQ2部拡大図である。
【図8】本発明の第3実施形態による一次成形体およびターミナルの模式図であり、(a)平面図およびR−R部分断面図、(b)正面図である。
【図9】(a):図8(b)のQ3部拡大図である。(b):本発明の第3実施形態の変形例による図9(a)に相当する拡大図である。
【図10】本発明のその他の実施形態による一次成形体およびターミナルの模式図であり、(a)平面図およびS−S部分断面図、(b):正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態による配線ユニットの製造方法を用いて製造される配線ユニットは、車両の自動変速機に用いられ、複数の摩擦要素を選択的に係合または開放するための制御信号または検出信号などの電気的接続を行うものである。
【0032】
図1に示すように、配線ユニット80は、基部81、油圧コネクタ部82、外部コネクタ部83等を含む。基部81の底面側には、自動変速機を制御する制御ユニットとしてのTCU(トランスミッションコントロールユニット)85が搭載される。配線ユニット80は、基部81に形成される取付孔84を利用して、図示しないバルブボディに取り付けられる。
【0033】
また、配線ユニット80は、センサハウジング90と結合されている。スライダ91は、レンジの選択に応じてセンサハウジング90に対して往復移動可能に設けられている。レンジセンサ92は、スライダ91の移動位置により自動変速機のレンジを検出する。また、回転数センサ93は、自動変速機の回転数を検出する。
【0034】
図2に、配線ユニット80に係る電気的接続の構成を模式的に示す。TCU85は、基部81に直接搭載される。油圧コネクタ部82には、自動変速機の油圧を検出する油圧センサ86、及び、自動変速機の油圧を制御する電磁油圧制御手段としてのリニアソレノイド弁87からの配線が接続される。外部コネクタ部83には、ECU(電子制御装置)等88から、車速、エンジン回転数等の各種運転情報が通信される。ECU等88は、例えばCAN(コントローラエリアネットワーク)を含む。外部コネクタ部83には、また、電源89から電力が供給される。配線ユニット80は、さらに、センサハウジング90を経由してレンジセンサ92、回転数センサ93に接続される。
【0035】
以上のように、配線ユニット80は、多数の配線をコンパクトなスペースに集約するものであり、配線スペース効率の向上とともに、断線や短絡を確実に防止するための高い信頼性が要求される。
以下、本発明の実施形態による配線ユニットの製造方法を図面に基づいて説明する。
【0036】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による配線ユニットの製造方法は、一次成形工程、ターミナル挿着工程、二次成形工程を含む。
一次成形工程では、溝部を有する一次成形体を樹脂で成形する。この樹脂材料として、PA(ポリアミド)が使用される。PAは、弾性を有し、絶縁性、耐熱性および耐ガソリン性に優れる。
【0037】
続くターミナル挿着工程では、一次成形体の溝部にターミナルが挿着される。ここで、溝部およびターミナルの形状、配置等の特徴について、図3、図4を参照して説明する。なお、図3、図4は本発明の特徴を単純化して模式的に示した図であって、実際の配線ユニット80は、数多くのターミナルが三次元的に折り曲げられて配線されている。
【0038】
一次成形体11には、図3(a)の縦方向に下層溝部21が形成され、図3(a)の横方向に上層溝部22が形成されている。下層溝部21は上層溝部22より深く、下層溝部21と上層溝部22とは互いに略直交している。図4(b)に示すように、下層溝部21には抜き勾配θが設定されており、開口21b側から底面21a側に向かい溝幅が狭くなっている。上層溝部22についても同様である。
【0039】
ターミナル41は、下層溝部21の底面21aに近接して挿着され、ターミナル42は、上層溝部22の底面22aに近接して挿着される。そのため、下層溝部21と上層溝部22とが交差する部位では、ターミナル41とターミナル42とが積層する。このとき、図4(b)に示すように、ターミナル41とターミナル42とは、溝部21、22の深さ方向に互いに間隙δを有するように積層する。
【0040】
図4(a)に示すように、一次成形体11は、下層溝部21の長手方向に複数の対向する縮幅部21cを設けている。縮幅部21cは、断面が略円弧状であり、下層溝部21の内壁から突出している。また、ターミナル41には縮幅部21cの位置に対応して、縮幅部21cに嵌合可能な嵌合凹部41cが形成されている。
【0041】
縮幅部21cにおける下層溝部21の幅Wg1は、嵌合凹部41cにおけるターミナル41の幅Wt1に対してわずかに小さく、例えば0.02〜0.12mm小さく設定されている。すなわち、ターミナル41は下層溝部21に対して「しまり嵌め」となるため、圧入、冷やし嵌め等によって下層溝部21に挿着される。
【0042】
したがって、ターミナル41が挿着される前の縮幅部21c0は、ターミナル41が挿着されることによって圧縮変形する。そして、圧縮された縮幅部21cの弾性によってターミナル41を押圧し、一次成形体11に固定する。なお、図3(a)に示すように、一次成形体11は、上層溝部22にも同様に縮幅部22cを有している。
本実施形態では、一次成形体11の縮幅部21c、22cが特許請求の範囲に記載の「しまり嵌め部」に相当する。
【0043】
次に、二次成形工程について図5を参照して説明する。図5は、二次成形金型が縦型射出成形機にセットされた型閉じ時の状態を示す断面図である。図5の上下方向は、天地方向を示す。
二次成形金型は、固定型61、可動型66等から構成され、固定型61と可動型66とに囲まれるキャビティ63が形成される。ターミナル41、42が挿着された一次成形体11は、図示しない箇所でキャビティ63の底面に支持されてキャビティ63内に保持される。ここで、ターミナル41は紙面方向に沿って配設され、ターミナル42は紙面の前後方向に配設される。ターミナル41、42は、しまり嵌めによって溝部21、22に挿着されているため、溝部21、22の開口側を下向きにしても、落下したり位置ずれしたりするおそれはない。
【0044】
キャビティ63の一方の側には、PL面に沿ってサイドゲート62gが形成されており、図示しない射出成形機ノズルから射出された樹脂材料は、ランナ62、サイドゲート62gを経由してキャビティ63へ流入する。
二次成形の樹脂材料としては、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)が使用される。PPSの一般的な成形温度は300〜320℃であり、一次成形体11の材料であるPAの溶融温度よりも高いため、二次成形可能である。
【0045】
キャビティ63へ流入した樹脂材料は、キャビティ63から一次成形体11およびターミナル41、42を除いた空間に充填され、二次成形樹脂部50を形成する。このとき、ターミナル42の層とキャビティ63底面との間の流動域A2の肉厚t2は、ターミナル41の層とターミナル42の層との間の流動域A1の肉厚t1よりも充分に厚くなるように設定される。
【0046】
これにより、流動域A2では流動域A1よりも樹脂流動性が向上し樹脂圧が高くなる。すると、ターミナル42に対し、溝部22の開口側の樹脂圧が底面側の樹脂圧よりも高くなり、ターミナル42は、溝部22の底面側に押し付けられることになる。また、特にゲートからの距離が遠い位置では、樹脂流動性の差が到達時間の差に影響し、ターミナル42に対し、溝部22の開口側が先に充填し底面側が後から充填することになる。よって、さらに確実にターミナル42が溝部22の底面側に押し付けられた状態で、二次成形樹脂部50が成形される。
二次成形樹脂部50が冷却固化した後、型開作動によって可動型66が上昇し、二次成形された配線ユニット80が、図示しない突き出しピンで突き出される。
【0047】
なお、二次成形工程におけるキャビティ63内の各部の樹脂圧は、樹脂が流動する部分の肉厚以外にも、ゲートからの距離、樹脂の流動性および溶融温度、ゲートの形状および寸法、金型温度、成形機による成形速度および成形圧力等の成形条件等によって変化する。そこで、具体的には、これらのパラメータを入力して流動解析することにより、溝部の開口側の樹脂圧と底面側の樹脂圧のどちらが高くなるかを推定することができる。あるいは、金型技術者や成形技術者の経験に基づいて判断することができる。
【0048】
(効果)
次に、第1実施形態の配線ユニットの製造方法の効果を説明する。
(1)従来技術のように各ターミナルを一次成形体にインサート成形することなく、一つの一次成形体11に複数層のターミナル41、42を挿着することができる。
したがって、一次成形工程については、従来技術に対して一次成形体用の金型数を低減し、一次成形体の部品点数を減らすことができる。また、インサート工程をなくすことで成形工程を簡素化し、時間を短縮することができる。ターミナル挿着工程については、一次成形体を組み合わせる工数を減らすことができる。
その結果、製造コストを低減することができる。
【0049】
(2)各ターミナルを一次成形体にインサート成形する従来技術では、積層するターミナル同士の間隔を一次成形体の限界最小肉厚以下とすることができないのに対し、本実施形態では、積層するターミナル41、42同士の間隔を絶縁が確保できる限り小さくすることができ、配線のスペース効率を向上することができる。
【0050】
(3)溝部21、22に「しまり嵌め部」としての縮幅部21c、22cが設けられるため、ターミナル挿着工程でターミナル41、42が一次成形体11に固定される。したがって、後工程の運搬時、保管時、作業時等にターミナル41、42の位置ずれを防止することができる。例えば、後工程で一次成形体を金型にセットして二次成形する場合に、ターミナル41が二次成形の成形圧で変形することや、ターミナル41とターミナル42とが接触して通電時に短絡することを防止することができる。
【0051】
(4)上層溝部22と下層溝部21とは、互いに略直交している。これにより、積層方向と直交する二次元空間にターミナル41、42を自由に配置することができ、配線の設計自由度が増す。さらに、後述する第3実施形態に比べ、ターミナル41、42の幅を一律にすることができ、設計や部品管理が単純となる。
【0052】
(5)一次成形体11は、弾性を有し、絶縁性および耐ガソリン性に優れるPA材料で成形されるため、配線ユニット80の一次成形体11に適し、また、例えば自動車の自動変速機等、高温で、かつガソリンに触れる環境でも使用することができる。
【0053】
(6)二次成形工程されることにより、一次成形体11に挿着されたターミナル41、42の露出部分を保護し、絶縁することができる。また、二次成形樹脂部50でターミナル41、42を埋設することで、温度変化や振動、衝撃等によってターミナル41、42が一次成形体11から脱落したり位置ずれしたりすることを防止することができる。
【0054】
(7)二次成形工程において、一次成形体11の溝部21の開口側の樹脂圧が溝部21の底面側の樹脂圧よりも高くなるように溶融樹脂が充填されることにより、溝部21に挿着されたターミナル41、42が二次成形工程の樹脂圧により底面側へ押し付けられるため、開口側へ浮き上がることがない。したがって、ターミナル41とターミナル42とが接触し、通電時に短絡することを防止することができる。
【0055】
(8)一次成形体11の材料であるPAと二次成形樹脂部50の材料であるPPSとは熱膨張係数が近いため、配線ユニット80が温度変化の大きい環境で使用される場合でも、熱膨張収縮によりターミナル41、42や配線接合部にかかる応力を低減することができる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態の配線ユニットの製造方法における溝部およびターミナルの形状、配置等の特徴について、図6、図7を参照して説明する。以下の実施形態の説明では、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
一次成形体12には、図6(a)の縦方向に下層溝部23が形成され、図6(a)の横方向に上層溝部24が形成されている。下層溝部23は上層溝部24より深く、下層溝部23と上層溝部24とは互いに略直交している。図7(b)に示すように、下層溝部23には抜き勾配θが設定されており、開口23b側から底面23a側に向かい溝幅が狭くなっている。上層溝部24についても同様である。
【0057】
ターミナル43は、下層溝部23の底面23aに近接して挿着され、ターミナル44は、上層溝部24の底面24aに近接して挿着される。そのため、下層溝部23と上層溝部24とが交差する部位では、ターミナル43とターミナル44とが積層する。このとき、図7(b)に示すように、ターミナル43とターミナル44とは、溝部23、24の深さ方向に互いに間隙δを有するように積層する。
【0058】
図7(a)に示すように、ターミナル43には長手方向に複数の拡幅部43eが設けられている。拡幅部43eの幅Wt2は、ターミナル43が挿着される部分の溝部23の幅Wg2に対してわずかに大きく、例えば0.02〜0.12mm大きく設定されている。すなわち、ターミナル43は下層溝部23に対して「しまり嵌め」となるため、圧入、冷やし嵌め等によって下層溝部23に挿着される。
【0059】
したがって、拡幅部43eが挿着される前の溝部23の内壁23d0は、拡幅部43eが挿着されることによって圧縮変形する。そして、圧縮された内壁23dの弾性によってターミナル43を押圧し、一次成形体12に固定する。なお、図6(a)に示すように、ターミナル44も同様に拡幅部44eを有している。
本実施形態では、ターミナル43、44の拡幅部43e、44eが特許請求の範囲に記載の「しまり嵌め部」に相当する。
これにより、第2実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態の配線ユニットの製造方法を、図8、図9(a)を参照して説明する。
一次成形体13には、図8(a)の縦方向に溝部25が形成されている。溝部25は、深さ方向の途中に段差面25dが設けられ、段差面25dの底面25a側に第1挿着部25eが形成される。また、段差面25dの開口25b側に第1挿着部25eよりも溝幅の広い第2挿着部25fが形成される。第1挿着部25eおよび第2挿着部25fには、それぞれ、第1実施形態と同様の縮幅部25cが長手方向に複数形成されている。
【0061】
第1挿着部25eには、第1挿着部25eの溝幅に対応する幅の第1ターミナル45が底面25aに近接して挿着されている。また、第2挿着部25fには、第2挿着部25fの溝幅に対応する幅の第2ターミナル46が段差面25dに近接して挿着されている。
すなわち、相対的に幅が広い第2ターミナル46が、相対的に幅が狭い第1ターミナル45の上部に重畳して積層する。このとき、図9(a)に示すように、第1ターミナル45と第2ターミナル46とは、溝部25の深さ方向に互いに間隙δを有するように積層する。
【0062】
第3実施形態では、第1実施形態の効果(1)〜(3)、(5)〜(8)を共有し、第1実施形態の効果(4)に代えて、以下の効果(4A)、(4B)を奏する。
(4A)同一の溝部25の底面25a側と開口25b側とに幅の異なる2層のターミナル45、46が積層される。ここで、開口25b側の第2ターミナル46は幅が第2挿着部25fに規制され、底面25a側へ動くことが防止される。したがって、底面25a側の第1ターミナル45が固定されている限り、第1ターミナル45と第2ターミナル46とが接触して通電時に短絡することを防止することができる。
【0063】
(4B)第2ターミナル46と第1ターミナル45との厚さを同等とすれば、幅の広い第2ターミナル46は断面積が広くなり、幅の狭い第1ターミナル45は断面積が狭くなる。そこで、第2ターミナル46を最大電流値または平均電流値が比較的大きい通電に用い、第1ターミナル45を最大電流値または平均電流値が比較的小さい通電に用いることで配線スペースを有効に使用することができる。
【0064】
(第3実施形態の変形例)
上記の第3実施形態では、段差面25dによって、第1挿着部25eと第2挿着部25fとが区画されて形成される。これに対し、図9(b)に示すように、第1挿着部25eと第2挿着部25fとは、連続する傾斜面に形成されてもよい。この場合でも、第2ターミナル46は、幅が第2挿着部25fに規制され、底面25a側へ動くことが防止される。また、第1ターミナル45および第2ターミナル46は、それぞれ第1挿着部25eおよび第2挿着部25fの縮幅部25cによって固定される。よって、第1ターミナル45と第2ターミナル46とが接触して通電時に短絡することを防止することができる。
【0065】
(その他の実施形態)
(ア)上記の実施形態では、配線ユニット80は二次成形工程によって完成品となる。その他の実施形態では、配線ユニットは、二次成形されず、ターミナル挿着工程の後、一次成形体に挿着されたターミナルの露出部分を絶縁性接着剤または絶縁性テープ等で保護するのみで完成品としてもよい。使用環境の温度変化、振動、衝撃等が比較的少ない場合、これにより、配線ユニットの製造コストをさらに低減することができる。
【0066】
(イ)上記の実施形態では、一次成形体11〜13の溝部21〜25は、いずれも一次成形型の固定型および可動型のみで成形されることを想定して、深さ方向を型開閉方向のみの同一方向としている。しかし、一次成形型にスライド構造を採用することにより、型開閉方向に対して傾斜する方向または直交する方向に溝部を形成することもできる。
【0067】
(ウ)第1実施形態では、溝部21の縮幅部21cと嵌合する嵌合凹部41cがターミナル41に形成される。しかし、嵌合凹部を形成せず、縮幅部の弾性によってターミナルの側面を押圧するのみでターミナルを固定してもよい。
(エ)第1、第2実施形態では、2層のターミナルが互いに略直交して挿着される。しかし、2層のターミナルは、どのような角度で交差してもよい。
【0068】
(オ)第3実施形態では、図8に第1ターミナル45および第2ターミナル46が直線形状の場合を例示している。その他、図10に示すように、一次成形体14の溝部27および第1ターミナル47および第2ターミナル48がL字状に形成されてもよい。
(カ)第3実施形態に対し、ターミナルが3層以上に積層されてもよい。
(キ)上記の実施形態では、射出成形により二次成形工程が実行される。その他、二次成形工程は、圧縮成形等により実施されてもよい。また、樹脂材料は、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化樹脂が用いられてもよい。
【0069】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
11、12、13、14 ・・・一次成形体、
21、23 ・・・溝部、下層溝部、
22、24 ・・・溝部、上層溝部、
21a、23a、25a ・・・底面、
21b、23b、25b ・・・開口、
21c、22c、25c ・・・縮幅部(しまり嵌め部)、
23d ・・・内壁、
25、27 ・・・溝部、
25d ・・・段差面、
25e ・・・第1挿着部、
25f ・・・第2挿着部、
41、42、43、44 ・・・ターミナル、
43e、44e ・・・拡幅部(しまり嵌め部)、
45、47 ・・・第1ターミナル、
46、48 ・・・第2ターミナル
50 ・・・二次成形樹脂部、
80 ・・・配線ユニット、
85 ・・・TCU、
90 ・・・センサハウジング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的導通可能なターミナルを成形体に挿着した配線ユニットの製造方法であって、
溝部を有する一次成形体を樹脂で成形する一次成形工程と、
前記一次成形体の前記溝部の深さ方向に互いに間隙を有するように複数のターミナルを積層して前記溝部に挿着するターミナル挿着工程と、
を含むことを特徴とする配線ユニットの製造方法。
【請求項2】
前記一次成形体または前記複数のターミナルは、前記溝部の幅を該溝部に挿着される前記ターミナルの幅に対して小さくするしまり嵌め部を設けており、
前記ターミナル挿着工程において、前記ターミナルをしまり嵌めにより前記溝部に挿着することを特徴とする請求項1に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項3】
前記一次成形体は、前記複数のターミナルの積層方向から見て互いに交差する方向に複数の前記溝部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項4】
前記一次成形体の前記溝部は、底面側に形成される第1挿着部、及び、該第1挿着部よりも開口側に形成され該第1挿着部よりも溝幅が広い第2挿着部を有しており、
前記第1挿着部には、前記第1挿着部の溝幅に対応する幅の第1ターミナルが挿着され、
前記第2挿着部には、前記第2挿着部の溝幅に対応する幅の第2ターミナルが挿着されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項5】
前記一次成形体は、ポリアミド材料で成形されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項6】
前記ターミナル挿着工程の後、
前記複数のターミナルが挿着された前記一次成形体を金型内にセットし、金型キャビティに溶融樹脂を充填して二次成形体を成形する二次成形工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に配線ユニットの製造方法。
【請求項7】
前記二次成形工程において、
前記一次成形体の前記溝部の開口側の樹脂圧が前記溝部の底面側の樹脂圧よりも高くなるように、溶融樹脂が充填されることを特徴とする請求項6に記載の配線ユニットの製造方法。
【請求項8】
前記二次成形工程で充填される樹脂材料はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする請求項6または7に記載の配線ユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−60862(P2012−60862A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204428(P2010−204428)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】