説明

配線板接続体の製造方法、および配線板

【課題】 一方の配線板と他方の配線板とを、導電性接着剤を介在させて、従来よりも低温かつ短時間で熱圧着できる、配線板接合体の製造方法等を提供する。
【解決手段】 樹脂製のマイクロカプセル(MC)32に収納された硬化剤33と、硬化剤と化学反応して第1の配線板10と第2の配線板20とを接着して硬化する樹脂層31と、を備えるACF30を準備する工程と、第1の配線板と第2の配線板との間に破壊液を浸透されたACFを挟んで、熱圧着する工程と、熱圧着工程の前に、ACFに、MCの樹脂を破壊する破壊液を浸透させる工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の配線板を接続した配線板接続体の製造方法、および配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器においては、2つの配線板上の導体配線または電極を電気的に接続する構造が用いられる。たとえば電子機器類の可動部への配線等の用途にフレキシブル配線板が多用され、また小型化および高機能化に伴って、フレキシブル配線板とリジッド配線板との接合、複数のフレキシブル配線板の接合などの、多様な配線板接続体が多く用いられている。
これら配線板の接合には、比較的、低温かつ短時間で、導電接着ができるため導電性接着剤が用いられる傾向にある。たとえば導電フィラー等を含む熱硬化性樹脂を主成分とする主剤層と、熱可塑性樹脂と主成分の潜在性硬化剤とが混合された硬化剤層とが、隔離層を介して積層された、一液型の異方導電性接着膜(ACF:Anisotropic Conductive Film)が提案されている(特許文献1)。この異方導電性接着膜によれば、保管時には隔離層によって熱硬化性樹脂と硬化剤とは隔離されており、接合の際の加熱加圧処理において、隔離層を溶融させて熱硬化性樹脂と硬化剤とを接触させて硬化させる。このため、保管条件を厳しく管理することなく、硬化反応速度が大きい硬化剤や熱硬化性樹脂を用いることができ、加熱温度を比較的低く設定した場合であっても、短時間で接続ができる。
一方、隔離層を間に介在させるACFは、製造工程が複雑になり、取り扱いも配慮がいることから、樹脂製のマイクロカプセルに硬化剤等を封入して、熱硬化性樹脂層中に分散させておき、圧力をかけることでマイクロカプセルを破壊して、硬化剤と熱硬化性樹脂とを反応させて硬化させるACFが提案された(特許文献2)。このACFも一液型である。この方式でも、マイクロカプセルが圧壊されない限り反応は進行しないので、反応速度が大きい硬化剤と熱硬化性樹脂とを用いることができる。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−173362号公報
【特許文献2】特開平4−96981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のACFは、低温域で短時間の熱圧着工程で接続を行うと、つぎのような問題が生じる。すなわち、特許文献1の発明では、熱圧着の際、隔離層が加熱されて溶融するのには時間がかかり、また、隔離層が溶融した部分の硬化剤と熱硬化性樹脂とが局所的に反応するため、隔離層の公称融点付近ではそれほど大きな速度で硬化反応は進行しない。このため熱圧着の温度を高くする必要があり、一方のプリント配線板の耐熱性が低い場合、不都合を生じる。
また、特許文献2の方法では、樹脂製のマイクロカプセルの圧力による破壊は、容易には進まず、このため、化学反応は円滑に進行しない。マイクロカプセルの融点以上に加熱すれば硬化剤は熱可塑性樹脂と接触が容易になるが、熱圧着温度を低くすることが難しい。
具体的な現象としては、両方のプリント配線板の耐熱条件を満たす低い温度域に加熱して所定時間加圧して熱圧着しても、除荷後、硬化反応が不十分なために、2つの配線板の距離Gが大きくなる「浮き」または「戻り」が発生する。硬化反応が十分に行き渡らない場合に生じる不具合現象である。このような浮きが生じると配線または電極間の導電接続の不良が発生する。
本発明は、一方の配線板と他方の配線板とを、導電性接着剤を介在させて、従来よりも低温かつ短時間で熱圧着することができる、配線板接合体の製造方法、および配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の配線板接合体の製造方法では、第1の配線板と、第2の配線板とが、導電性接着剤を挟んで接続された配線板接続体、を製造する。この製造方法は、樹脂製のマイクロカプセルに収納された硬化剤と、硬化剤と化学反応して第1の配線板と第2の配線板とを接着して硬化する樹脂層と、を備える導電性接着剤を準備する工程と、第1の配線板と第2の配線板との間に導電性接着剤を挟んで、熱圧着する工程とを備える。そして、熱圧着工程の前に、導電性接着剤に、樹脂製のマイクロカプセルを破壊する破壊液を浸透させる工程とを備えることを特徴とする。
【0006】
通常、マイクロカプセルは所定温度以上で融けるような樹脂で形成されている。破壊液がない通常の場合、マイクロカプセルは、熱圧着工程において所定温度以上で融解を開始して、融解が十分進んで樹脂層と接触して硬化反応を開始する。このため、マイクロカプセルを形成する樹脂の融点を大きく超える温度と、長い保持時間とを要する。
上記本発明方法によれば、熱圧着を行う前に、マイクロカプセルは破壊液による溶解反応等によって破壊が進行する。このため、従来よりも低い温度においてより短い保持時間で、硬化反応が十分進行する。この結果、熱圧着工程を、より低い温度およびより短い時間で行いながら、熱圧着のあと除荷後に、浮きを実用上問題のないレベルまで小さくすることができる。硬化反応は、熱圧着工程の加温・加圧時間だけでなく、その後の放冷時間においても硬化速度は低くなるが、確実に進行する。上記の浮きは、除荷後、所定時間経過時点で実用上問題のないレベル以下にできればよく、そのためには熱圧着工程において硬化反応を十分進行させることは重要であるが、100パーセント硬化反応を終了させておく必要はない。たとえば60パーセント程度進行していればよい。
なお、導電性接着剤には、一液型および二液型の導電接着剤が含まれるが、本発明においては一液型のものをさし、液状、ペースト状、フィルム状(ACF)などの形態となっている。浸透の操作は、フィルム状の場合、破壊液を、そのフィルムに塗布したり、またはフィルムを破壊液に浸漬することにより行う。また、液状またはペースト状の場合、その液状またはペースト状の導電性接着剤に、破壊液を、添加、混合などすることで行う。
【0007】
破壊液を浸透させる処理開始後、30秒以上経過してから前記熱圧着工程を行うことができる。上記の方法によれば、破壊液によるマイクロカプセルの溶解等の化学反応を、十分進行させることができる。このため、硬化剤と樹脂層との接触に至るまでの、加熱による融解に要する時間を減らし、加熱開始から上記接触がより短時間で生じる。このため、硬化反応の進行を促進させることができる。破壊液の浸透処理の開始後30秒以上経過した後に熱圧着工程を行わないとマイクロカプセルの溶解等が不十分であり、より低温、より短時間で熱圧着を行うと、実用上、接続不良を生じるほどの浮きが生じる。より好ましくは、浸透処理の開始後60秒以上経過させる。一方、浸透処理開始後熱圧着開始まで3600秒を超えて経過すると、樹脂層の硬化反応が熱圧着前に進行しすぎて接着力が低下するので、上記の時間は3600秒以下とするのがよい。
この場合、たとえば、導電性接着剤へ破壊液を浸透させるメーカと、熱圧着を行うメーカとが同じであり、同じ製造現場で製造することを想定している。
【0008】
導電性接着剤に破壊液を浸透させた後、熱圧着工程までの期間が、1日以上経過する場合において、該期間経過後において所定の条件で該熱圧着ができるように、マイクロカプセルの破壊の程度を調節するために、破壊液の種類、成分濃度および浸透時間を調整することができる。たとえば、導電性接着剤へ破壊液を浸透させるメーカと、熱圧着を行うメーカとが相違する場合、破壊液を浸透された導電性接着剤を出荷して熱圧着を行うまでに、数日〜数ヶ月、経過する場合がある。このため、破壊を過剰に、かつ破壊反応速度を大きくすると、熱圧着前に硬化剤が接着樹脂と接触して硬化反応が過度に進行して、熱圧着しても接着不良を生じる。上記の経過期間を考慮して、破壊液の種類、成分濃度および浸透時間を調整するのがよい。その場合、マイクロカプセルを所定の薄肉レベルまで溶解等して、それ以上は破壊反応が進まない破壊飽和の状態で、熱圧着工程を迎えるようにしてもよい。
【0009】
熱圧着工程では、導電性接着剤の温度を100℃以下に保持するのがよい。これによって、たとえば第1の配線板および/または第2の配線板が、耐熱性の低い樹脂等で形成されていた場合、これら配線板に熱的損傷を与えることなく、接続配線体を形成することができる。
【0010】
熱圧着工程では、導電性接着剤を加圧する時間を30秒以下とすることができる。これによって、配線板接続体の製造能率を向上しながら、耐熱性の低い樹脂等で形成されている、第1の配線板および/または第2の配線板に与える熱損傷を抑制することができる。
【0011】
マイクロカプセルの樹脂を、ウレタン系樹脂として、破壊液を、アルコール系溶媒またはケトン系溶媒を含む溶液とすることができる。これによれば、マイクロカプセルを大きな溶解速度で溶解することができ、熱圧着工程の加熱温度および加圧時間を確実に、低温化かつ短時間化することができる。
【0012】
熱圧着工程の前において、破壊液の浸透工程の際または該破壊液の浸透工程の後、導電性接着剤を加熱してもよい。これによって、マイクロカプセルの破壊(溶解等)を促進することができ、熱圧着工程において加熱温度および加圧時間をより短縮しながら、熱圧着除荷後の浮き等を抑制することができる。この熱圧着前における加熱を補助加熱と呼ぶ。補助加熱は、熱圧着工程における導電性接着剤の加熱温度よりも低くするのが普通であるが、熱圧着工程の時間より短時間であれば、該熱圧着工程での温度より高くてもよい。
補助加熱は、破壊液の浸透から熱圧着まで時間をおかない場合に、上記の機会に行うことができる。また、破壊液の浸透から熱圧着まで1日以上の期間がある場合でも、多くの態様があるが、上記の機会の範囲内で行うことができる。
【0013】
ヒータを内蔵した押し具である、加熱と加圧とを共に行う熱圧着ツールによる熱圧着での第1の配線板と第2の配線板との間の距離Gについて、導電性接着剤の温度が100℃以下になるようにして加圧時間10秒間以下で熱圧着した直後の除荷前の値を基準にして、除荷または熱圧着ツールを離して5分後の値が、3μm以下の増大となるように、破壊液の種類、成分濃度および浸透条件を設定することができる。これによって、既存の熱圧着ツールを用いて、接続不良のない高品質の接続配線体を、能率良く製造することができる。硬化反応は、上述のように熱圧着ツールを離したあとも進行する。上記の許容される範囲内の浮きを生じても、熱圧着ツールを離した後、温度低下しながら緩やかに硬化反応が進行して接着強度等が実用上問題ないレベルに到達すればよい。熱圧着後に硬化反応を促進して浮きを増大させないために、その熱圧着後に100℃以下の加熱処理を追加してもよい。
【0014】
本発明の配線板接続体は、第1の配線板と、第2の配線板とが、導電性接着剤を挟んで接続されている。この配線板接続体では、導電性接着剤は、樹脂製のマイクロカプセルに収納された硬化剤と、その硬化剤と化学反応して第1の配線板と第2の配線板とを接着して硬化する樹脂とを含む、一液タイプであり、マイクロカプセルを形成する樹脂を破壊する破壊液が浸透された導電性接着剤によって、接続がされていることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によって、他の配線板との熱圧着の際に、破壊液を浸透させてマイクロカプセルを破壊して硬化剤と樹脂とを接触させる。このため、従来のように、温度の要因のみによってマイクロカプセルを融解して硬化剤と樹脂とを接触させるわけではない(温度の要因も付加させるが)。この結果、上述のように加熱温度を低くして、保持時間を短縮して、熱圧着しながら、所定のレベル以下の浮きとすることができる。これによって、耐熱性の低い配線板を用いても、確実な導電接続を実現することができる。上記の導電性接着剤が仮付けされた配線板は、耐熱性が低くても高くてもよく、またフレキシブルプリント配線板でもリジッド配線板でもよい。
配線板接続体が形成されたあとの製品の状態で、破壊液を浸透させて熱圧着したかどうかの特定は、つぎのようにして行うことができる。すなわち、導電性接着剤成分をクロロホルムなどの抽出液を用いて抽出し、質量分析、赤外分光分析、核磁気共鳴分析(NMR)などで検査することにより、破壊液成分を特定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一方の配線板と他方の配線板とを、導電性接着剤を介在させて、従来よりも低温かつ短時間で熱圧着できる、配線板接続体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における配線板接続体を示す図である。
【図2】図1の配線板接続体の製造に用いるACFを示す図である。
【図3】図2のACFに破壊液を浸透させたときの状態を示し、(a)はMCが溶解して部分的に貫通している状態、(b)は(a)における拡大したMC、(c)はMCが溶解して薄肉化した状態(貫通していない)、を示す図である。
【図4】熱圧着しようとする状態を示す図である。
【図5】熱圧着して配線板接続体を製造した直後の状態を示す図である。
【図6】実施の形態1の変形例において補助加熱をしている状態を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2における導電性接着剤を示し、(a)はペースト状の導電性接着剤と破壊液とを混合する直前、(b)は混合した後、を示す図である。
【図8】図7に示した導電性接着剤を塗布して、熱圧着しようとする状態を示す図である。
【図9】実施の形態2の変形例において補助加熱をしている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の配線板接続体の製造方法では、導電性接着剤に多くの種類(形態)があり、その導電性接着剤の形態によって、プロセスが少しずつ変わる。この点を概説するために、表1に、いくつかの導電性接着剤の形態と、その形態に対応した製造プロセスの例をあげる。断っておくが、表1は、本発明の製造方法の形態をすべて網羅しているわけではなく、あくまで例示である。
【0019】
【表1】

【0020】
導電性接着剤の形態は、例1および例2に示すフィルム状のACFと、例3および例4における液状またはペースト状とが代表例であるが、その他の形態であってもよい。破壊液の浸透は、ACFの場合は、ACFへの塗布またACFの破壊液への浸漬によってなされる場合が多いが、これらの方法に限定されない。導電性接着剤が液状またはペースト状の場合は、破壊液の浸透は、液状またはペースト状の導電性接着剤に破壊液を直に混合または混入するか、または液状またはペースト状の導電性接着剤を配線板に塗布または印刷した後、形成された導電性接着剤層に破壊液を塗布または散布することで遂行できる。
破壊液の浸透によって、マイクロカプセル(以下、「MC」と略記する)はその破壊液と反応して、溶解、分解等を生じる。この反応によって、熱圧着前に、MCの肉厚が薄くなるだけでもよいし、肉厚が薄くなりながら貫通部を生じて中の硬化剤が、接着樹脂と接触して化学反応を開始していてもよい。金属粒子等の導電フィラーは、MC中に、接着樹脂中に、またはMCと接着樹脂の両方に、含まれることができる。
表1に示す補助加熱は、破壊液と樹脂製のMCとの化学反応(溶解、分解等)を促進するために行う加熱であり、通常、熱圧着の際の導電性接着剤の加熱温度よりも低い温度に(高くてもよい)、当該導電性接着剤を加熱する。この補助加熱は、例1〜例4のすべてについて、なくてもよい。補助加熱は、ACFの場合は、該ACFを配線基板の一方に仮付けする際に行うのが普通であるが、仮付けしない場合に補助加熱してもよい。液状またはペースト状の導電性接着剤の場合、例4では、は配線板に塗布または印刷の最中またはその後に補助加熱を実施している。また例3のように、破壊液を液状またはペースト状の導電性接着剤に混入する際または混入した後、塗布または印刷する前、または塗布中または印刷中に、補助加熱してもよい。補助加熱は、ランプアニール等の熱輻射、熱風吹きつけ、高温雰囲気の囲い込みなどによって行うことができる。次いで、個々の具体例について説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における配線板接続体50を示す図である。この配線板接続体50は、第1のプリント配線板10と第2のプリント配線板20とが導電性接着剤30によって接続されている。導電性接着剤30には、図示しない導電フィラーが含まれており、第1のプリント配線板10の電極11と、第2のプリント配線板20の電極21との間の隙間gに集積して、電極11,21を導電接続している。第1のプリント配線板10と第2のプリント配線板20との間の距離または間隔Gは、導電性接着剤30の主成分である、硬化した状態で接着する樹脂により一定に保たれる。図1に示す配線板接続体50の構造は、導電性接着剤30が、接続前にACFであっても、またペースト状の導電性接着剤であっても、最終的にできる構造である。
【0022】
本実施の形態では、導電性接着剤30にACFを用いる。図2は、そのACF30を示す断面図である。ACF30はフィルム状であり、未反応の樹脂31とMC32とを含み、MC32中に硬化剤等を収納している。その他に、ACF30は、金属粒子や金属めっき層に被覆された樹脂粒子等の導電フィラー等を含んでいる。MC32中の硬化剤33が接着樹脂31と接触して化学反応を生じないように、所定の厚みを有し堅固に形成されている。通常、MC32は、ウレタン樹脂等により形成されており、80℃以上に加熱されて融解する。80℃以上の高温、たとえば180℃に加熱され所定時間保持されることで、MC32が溶融した後、硬化剤が周囲の接着樹脂31と接触して硬化反応を生じる。したがって熱圧着工程での加熱温度は高く設定しているが、MC32が融解して硬化剤33が樹脂と接触するのに所定時間経過することが必要で、その後、硬化反応が開始される。
【0023】
しかし、従来の熱圧着における加熱温度180℃等は、第1のプリント配線板10および第2のプリント配線板20ともに、耐熱性が十分あることを前提としている。厳しい価格競争が行われる電子機器分野、たとえば携帯電話等の分野では、プリント配線板10,20について耐熱性がある程度以上あればよく、高度な耐熱性を備えないプリント配線板を用いる場合がある。このような場合、配線板接続体の熱圧着温度を従来よりも低くする必要がある。本発明の各実施の形態では、熱圧着の加熱温度を低く、かつ短時間の加圧としながら、確実な導電接続を可能とするために、熱圧着の前に予め、MC32に化学的に損傷を与えておく。
【0024】
図3は、図2に示すACF30に破壊液を浸透させた状態を示す図である。図2(a)では、破壊液がMCと反応してMCが溶解している状態を示す。また図2(b)は、部分拡大図である。図2(a)および図2(b)では、MCが溶解して貫通部ができ、硬化剤が一部周囲の樹脂と接触して、硬化反応を部分的に生じている。このように、破壊液を浸透させて時間が経過して、熱圧着前に硬化反応が部分的に進行していてもよい。
図2(c)は、破壊液によってMCが薄肉化するものの貫通部は形成されず、硬化剤はMC中に収納されている。このように熱圧着前に、MCの薄肉化のみが進行するだけでもよい。薄肉化だけでも、熱圧着の際の加熱によって、より低温度および短時間で、硬化剤と樹脂とが硬化反応を生じるのに寄与するからである。とくにACF30を出荷して、数日、数週間、または数ヶ月、経過後に、別の製造現場で熱圧着を行う場合、破壊液の濃度を所定レベル以下にして、上記の所定期間経過時点で、好適な溶解反応等が進行するようにすることができる。その場合、所定の薄肉レベルまで溶解等して、破壊反応が進まない破壊飽和の状態で、熱圧着工程を迎えてもよい。
【0025】
ACF30の主成分である接着樹脂は、たとえばエポキシ系樹脂などを用いることができる。エポキシ系樹脂は、とくに制限はないが、たとえばビスフェノールA型、F型、S型、AD型、またはビスフェノールA型とビスフェノールF型との共重合型のエポキシ樹脂や、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を使用することができる。また、高分子エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を用いることもできる。
エポキシ樹脂の分子量は、接着剤に要求される性能を考慮して、適宜選択することができる。高分子量のエポキシ樹脂、たとえば上述のフェノキシ樹脂などを使用すると、フィルム形成性が高く、また熱圧着温度における樹脂の溶解粘度を高くでき、導電粒子の配向を乱すことなく接続することができる。一方、低分子量のエポキシ樹脂を用いると、架橋密度が高まって耐熱性が向上する利点を得ることができる。また加熱時に、上述の硬化剤と速やかに反応して接着性能を向上させることができる。したがって分子量が15000以上の高分子量エポキシ樹脂と、分子量が2000以下の低分子量エポキシ樹脂とを組み合わせることで、性能のバランスをとることができる。高分子量エポキシ樹脂と低分子量エポキシ樹脂との配合比は、適宜、選択することができる。分子量は、THF展開のゲルパーミッションクロマトグラフィ(GPC)から求められるポリスチレン換算の重量平均分子量をさす
【0026】
硬化剤33には、たとえばイミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン系、第3級アミン、アルキル尿素系等のアミン系、ジシアンジアミド系、無水物系、フェノール系、および、これらの変性物が例示され、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。これらの硬化剤に加えて硬化促進剤を配合してもよい。
【0027】
MC32を形成する樹脂には、たとえばウレタン系樹脂を用いることができる。そのMC32を破壊する破壊液には、アルコール系溶媒、またはケトン系溶媒を含む溶液 などを用いることができる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。また、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0028】
導電フィラーには、金、ニッケル等の金属粒子、金属めっき層に被覆された樹脂粒子など、既存のものを使用することができる。第1または第2のプリント配線板の基材は、フレキシブルタイプの場合には、ポリエステルフィルム等を用いることができる。柔軟性と耐熱性とを兼ね備える基材としては、ポリアミド系の樹脂フィルムや、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド系の樹脂フィルムやポリエチレンナフタレートを用いることができる。また、柔軟性を重視しない場合には、ガラスエポキシ樹脂等を用いることができる。さらに、一方のプリント配線板をセラミックス等の硬質材で形成することもできる。
【0029】
図4は、第1のプリント配線板10と、第2のプリント配線板20との間に挟むようにして、破壊液を浸透させたACF30を配置して、熱圧着しようとする状態を示す図である。本発明では、一方のプリント配線板(たとえば第2のプリント配線板20)の耐熱性が低く、熱圧着の温度を低く、かつ加圧時間を短くすることを目標にしている。
【0030】
ACF30の厚みは30μm〜40μmであり、これは塗布または印刷されたペースト状の導電性接着剤の場合でも同じ厚みレベルである。第1のプリント配線板10をフレキシブルプリント配線板とすると基材の厚みはとくに限定されない。たとえば、12μm、18μm、25μmの3種類を用いることがある。電極11の露出部の厚みについても、同様に、とくに限定されない。たとえば銅箔を用いる場合を例示すれば、18μmまたは35μmが挙げられる。しかし銀ペースト等のペーストを用いる場合は、たとえば10μm程度の厚みとなる。図4等では、電極11,21の厚みを誇張して大きく描いているが、実際は、基材面において2つの電極11の間の距離は、100μm〜1000μmであり、間隔が大きくあいている。図1を参照して、第1のプリント配線板の電極11と、第2のプリント配線板の電極21との間の隙間gは、約1μm程度とする。また、両プリント配線板10,20の間の間隔Gは、10μm〜70μm程度である。
【0031】
図4から分かるように、本実施の形態は、表1における例1に対応しており、かつ補助加熱は行っていない。しかし、補助加熱を行ってもよい。熱圧着ツール53は、プレスヘッドに取り付けられており、加熱用のヒータを内蔵している。熱圧着ツール53をプリント配線板10,20の一方の表面に押しつけることで、熱圧着が行われる。熱圧着ツール53と、第1のプリント配線板10との間には、熱圧着ツール53と第1のプリント配線板10との粘着が生じないように、離型シート54が挿入される。熱圧着条件は、次のようにするのがよい。
加熱温度:ACF30において100℃以下
加圧時間:熱圧着ツール53の接触時間30秒以下
【0032】
図5は、熱圧着を行った後、熱圧着ツール53を離した後の状態を示す図である。熱圧着ツール53を離す直前における、第1のプリント配線板10と第2のプリント配線板20との間隔Goを基準とする。熱圧着ツール53を離型シート54から離した後、5分間程度経過した時点で、上記の間隔Gが、基準値Goから3μmを超えて増大しないようにする。すなわちG−Go≦3μm、を満たすように、熱圧着条件および破壊液の濃度や浸透条件を設定する。
【0033】
上記の方法によれば、熱圧着を行う前に、MCは破壊液による溶解反応等によって破壊が進行している。このため、熱圧着では、100℃以下において30秒程度以下の短い時間で、硬化反応を十分進行させ、配線板接続体を製造することができる。熱圧着のあと除荷後に、浮きを実用上問題がないレベル、たとえば3μm以下にまで小さくすることができる。
【0034】
(実施の形態1の変形例)
図6は、実施の形態1の変形例の配線板接続体の製造方法において、熱圧着前に破壊液を浸透させたACF30に補助加熱をしながら第1のプリント配線板10にそのACF30を仮付けした状態を示し、本発明の一態様例である。補助加熱は、ランプアニール装置45からの熱輻射による。仮付けは仮付け押し具47によって行うが、熱輻射の照射と同時並行的に行う必要はなく、補助加熱をした後の余熱がある状態で場所を変えて行ってもよい。また、仮付けの圧力負荷をかけずに、第1のプリント配線板10を下にして、その上にACF30/第2のプリント配線板20、を積層した上で熱圧着してもよい。
【0035】
破壊液の浸透の直後に行う補助加熱によって破壊液によるMCの破壊反応は促進される。また、破壊液の浸透から1日以上経過した後であっても、破壊液でMCの破壊がすでに進行しており、補助加熱はその破壊の駄目押しをすることができる。このため、熱圧着では、非常に低温かつ短時間で、硬化反応を十分進行させ、配線板接続体を製造することができ、熱圧着のあと除荷後に、浮きを実用上問題ないレベルに抑制することができる。
【0036】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2における接続配線体の製造に用いる、ペースト状の導電性接着剤30を示す図であり、(a)は、ペースト状の導電性接着剤30に破壊液39を混合(浸透)する直前の状態、(b)は破壊液の浸透によってMCが溶解等している状態、を示す図である。
図8は、溶解等が進行するMCを含み、導電性接着剤30を第2のプリント配線板20に塗布して、第1のプリント配線板10と熱圧着しようとする状態を示す図である。本実施の形態は、表1における例3に対応しているが、補助加熱は用いていない。
【0037】
図8において、硬化剤33は、既にMCから出て周りの接着樹脂31と接触して一部硬化反応が始まっているか、または薄肉化されたMCに収納されている。ペースト状の導電性接着剤30は、破壊液とは混合によって浸透できるので、導電性接着剤30の全体にわたって均質な調整が容易である。このため、MCの破壊の度合いのばらつきを小さくすることができる。その結果、熱圧着の際に、どの程度の溶解等の程度にしておくか微妙な調整を行うことができる。たとえば、破壊液の混合から熱圧着まで、数日〜数ヶ月、経過する場合、その熱圧着の際に、適切なMCの状態にするように、容易に調整することができる。その場合、熱圧着の際には既に、破壊反応は進行を停止して破壊反応が飽和しているような浸透の条件をとることもできる。また、熱圧着の直前に硬化剤と接着樹脂とが接触して硬化反応が一部で進行しているようにすることもできる。
図8に示す状態で熱圧着することで、低い加熱温度かつ短い加圧時間により、硬化剤33は接着樹脂31と硬化反応して、確実な導電接続を実現することができる。
【0038】
(実施の形態2の変形例)
図9は、実施の形態2の変形例の配線板接続体の製造方法において、熱圧着前に破壊液を混合した導電性接着剤30に補助加熱をする状態を示し、本発明の一態様例である。補助加熱は、図6と同様、ランプアニール装置45からの熱輻射による。補助加熱によって、ペースト状の導電性接着剤30は第1のプリント配線板10に仮付けされるので、熱圧着の際に、積層順序は、どのようにしてもよい。
【0039】
破壊液の浸透の直後に行う補助加熱によって破壊液によるMCの破壊反応は促進される。また、破壊液の浸透から1日以上経過した後であっても、破壊液でMCの破壊がすでに進行している。とくにペースト状または液状の導電性接着剤30は、破壊液を全体にわたって均質に調整することができる。このため、上記の経過期間を計算に入れて、破壊液の濃度や量を変えて、熱圧着の直前の破壊の程度を精度良く調整することができる。このあとに行う、補助加熱は、その破壊の駄目押しをすることができる。このため、熱圧着では、非常に低温かつ短時間で、硬化反応を十分進行させ、配線板接続体を製造することができ、熱圧着のあと除荷後に、浮きを実用上問題ないレベルに抑制することができる。
【0040】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、一方の配線板と他方の配線板とを、導電性接着剤を介在させて、従来よりも低温かつ短時間で浮き等を生じることなく熱圧着できる、配線板接合体を得ることができる。本発明は、多様なバリエーションがあり、製造および販売の態様に合わせて、最適の製造方法を選ぶことができる。
【符号の説明】
【0042】
10 第1のプリント配線板、11 電極、20 第2のプリント配線板、21 電極、30 導電性接着剤(フィルム状=ACF、ペースト状)、31 接着樹脂、32 マイクロカプセル(MC)、33 硬化剤、39 破壊液、45 ランプアニール装置、47 仮付け押し具、50 配線板接続体、53 熱圧着ツール、54 離型シート、g 電極間隙間、G 配線板間の間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の配線板と、第2の配線板とが、導電性接着剤を挟んで接続された配線板接続体、を製造する方法であって、
樹脂製のマイクロカプセルに収納された硬化剤と、前記硬化剤と化学反応して前記第1の配線板と第2の配線板とを接着して硬化する樹脂と、を備える導電性接着剤を準備する工程と、
前記第1の配線板と前記第2の配線板との間に前記導電性接着剤を挟んで、熱圧着する工程と、
前記熱圧着工程の前に、前記導電性接着剤に、前記樹脂製のマイクロカプセルを破壊する破壊液を浸透させる工程とを備えることを特徴とする、配線板接続体の製造方法。
【請求項2】
前記破壊液を浸透させる処理開始後、30秒以上経過してから前記熱圧着工程を行うことを特徴とする、請求項1に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着工程では、前記導電性接着剤の温度を100℃以下に保持することを特徴とする、請求項1または2に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項4】
前記熱圧着工程では、前記導電性接着剤を加圧する時間を30秒以下とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロカプセルの樹脂が、ウレタン系樹脂であり、前記破壊液が、アルコール系溶媒またはケトン系溶媒を含む溶液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項6】
前記熱圧着工程の前において、前記破壊液の浸透工程の際または該破壊液の浸透工程の後、前記導電性接着剤を加熱することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項7】
ヒータを内蔵した押し具である、加熱と加圧とを共に行う熱圧着ツールによる熱圧着での前記第1の配線板と第2の配線板との間の距離Gについて、前記導電性接着剤の温度が100℃以下になるようにして加圧時間10秒間以下で熱圧着した直後の除荷前の値を基準にして、除荷または前記熱圧着ツールを離して5分後の値が、3μm以下の増大となるように、前記破壊液の種類、成分濃度および浸透条件を設定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の配線板接続体の製造方法。
【請求項8】
第1の配線板と、第2の配線板とが、導電性接着剤を挟んで接続された配線板接続体であって、
前記導電性接着剤は、樹脂製のマイクロカプセルに収納された硬化剤と、前記硬化剤と化学反応して前記第1の配線板と第2の配線板とを接着して硬化する樹脂とを含む、一液タイプであり、
前記マイクロカプセルを形成する樹脂を破壊する破壊液が浸透された前記導電性接着剤によって、前記接続がされていることを特徴とする、配線板接続体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−109005(P2011−109005A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265112(P2009−265112)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】