説明

酸化物薄膜及び酸化物薄膜デバイス

【課題】n型不純物がドーピングされるとともに、平坦な膜を形成することができる酸化物薄膜及び酸化物薄膜デバイスを提供する。
【解決手段】
酸化物薄膜2は、図1(b)に示されるように、n型(電子伝導型)不純物をドーピングしたドープ酸化物層2aと、n型不純物をドーピングしないアンドープ酸化物層2bとが交互に繰り返し積層されている。n型不純物を高濃度にドーピングした酸化物層は、その表面の荒れが大きくなるので、ドープ酸化物層2aによる表面荒れが非常に大きくなる前に、表面平坦を確保できるアンドープ酸化物層2bで覆うことにより平坦な酸化物薄膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型不純物がドーピングされた酸化物薄膜及び酸化物薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
単体元素が気体であるような元素を含む化合物として、例えば、窒化物や酸化物等がある。窒化物は、青色LEDの産業的な成功により、大きな市場と多様な研究テーマを生み出した。一方、酸化物はYBCOに代表される超伝導酸化物、ITOに代表される透明導電物質、(LaSr)MnOに代表される巨大磁気抵抗物質など、従来の半導体や金属、有機物質では不可能なほどの多様な物性を持っており、ホットな研究分野の一つである。
【0003】
ところで、いくつか機能の違う薄膜を積層したりエッチングしたりすることにより、特異な機能を発現するデバイスができるのが通例であるが、酸化物の薄膜形成法が、スパッタかPLD(パルスレーザーデポジション)等に限られており、半導体素子のような積層構造を作製しにくい。スパッタは通常結晶薄膜を得るのが難しく、PLDは結晶薄膜はできるが、基本的に点蒸発であるので、均一な薄膜を大きな面積で得ることが難しく、研究用途はともかく、量産には向いていない。
【0004】
半導体素子のような構造が作れる手法として、プラズマを使った分子線エピタキシー法(Plasma assisted molecular beam epitaxy:PAMBE)が提案されている。PAMBEは、GaAs系デバイスの量産に使われてきたMBEを、酸化物や窒化物と言った、気体元素をその組成に持つ化合物半導体、たとえばGaNやZnOなどの結晶薄膜を作製するために改良した方式である。MBE法はGaAsデバイスの量産で使われている手法であり、半導体素子用結晶成長装置としては実績がある。
【0005】
PAMBEは、酸素や窒素と言った気体元素を、プラズマを使って分子構造を一旦バラバラにすることにより反応性を上げ、酸化物や窒化物の結晶薄膜をMBE法ベースで作れるようにした手法である。これによって高品質のGaN、ZnO薄膜がMBEで作られるようになった。
【0006】
ところで、一般に、半導体では、母体となる物質に制御された量の不純物を意図的に添加するというドーピングが行われており、このドーピングにより半導体の様々な機能が引き出され、p型とn型の導電型を望むように制御することで巨大な機能を獲得するので、ドーピング制御に関する技術は重要である。
【0007】
酸化物の一種であるZnOを例にとると、ZnOはその多機能性、発光ポテンシャルの大きさなどが注目されていながら、なかなか半導体デバイス材料として成長しなかった。その最大の難点は、アクセプタードーピングが困難で、p型ZnOを得ることができなかったためである。しかし、近年、非特許文献1や2に見られるように、技術の進歩により、p型ZnOを得ることができるようになり、発光も確認されるようになり、非常に研究が盛んである。
【非特許文献1】A.Tsukazaki et al., Japanese Journal of Applied Physics vol.44 (2005) L643
【非特許文献2】A.Tsukazaki et al Nature Material vol.4 (2005) 42
【非特許文献3】C.Harada et al.,Mterials Science in Semiconductor Processing vol.6(2003)539
【非特許文献4】K.Nakahara et al.,Applied Physics Letters vol.79(2001)4139
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、電子伝導型、すなわちn型のドーパントについては、Ga等が用いられている。酸化物では気体元素以外のドーピング材料では、いくらでも元素数の多い酸化物が可能なことからもわかるように複合酸化物を作りやすく、また、PAMBEではプラズマにより反応活性を高めている等の理由により、非特許文献3や4に示されるGaドープのZnOのように、ある程度ドープを濃くすると、複合酸化物を作ってしまうことが多く、ドーピングの制御が難しかった。
【0009】
さらに、半導体デバイスでは、ドーピングが異なる薄膜や組成の異なる薄膜などを堆積することによって特有の機能を持たせることが多い。その際、その薄膜の平坦性が良く問題になる。薄膜の平坦性が良くないとキャリアが薄膜中を移動するときの抵抗になったり、積層構造の上に行けば行くほど表面荒れがひどくなったり、その表面荒れのためにエッチング深さの均一性が取れなかったり、表面荒れによる異方的な結晶面の成長が起こったり、といった実に様々な問題が起きる。いずれも半導体デバイスとしての所望の機能を発揮するに当たって障害になるものばかりである。そのため、通常、薄膜表面は必要な面積にわたってできるだけ平坦にすることが必要となる。
【0010】
しかし、例えばGaドープのZnOでは、上述したように、ドーピングの制御が難しいばかりでなく、不純物GaがドープピングされたZnO系薄膜の平坦性が保てないという問題があった。図8は、一例としてGaを一様にドーピングしたMgZnO膜のAFM像を示す。図8(a)はGaセル温度600度、図8(b)はGaセル温度550℃で成長させたGaドープMgZnO膜の表面像であり、図8(a)では抵抗2kΩ、図8(b)では抵抗5kΩとなった。このように、GaドープのMgZnO膜の表面には凹凸が目立ち、平坦な膜が形成されず、Gaセル温度が高い(Gaドープ量が多い)図8(a)の方が、表面の荒れが大きい。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、n型不純物がドーピングされるとともに、平坦な膜を形成することができる酸化物薄膜及び酸化物薄膜デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、基板上に形成された酸化物薄膜であって、前記酸化物薄膜にn型不純物がドーピングされており、該n型不純物濃度が変調されていることを特徴とする酸化物薄膜である。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、前記n型不純物濃度の変調は、n型不純物濃度の高低の繰り返しによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化物薄膜である。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、前記n型不純物濃度の高低の繰り返しは、ドープとアンドープの繰り返しであることを特徴とする請求項2記載の酸化物薄膜である。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、前記n型不純物濃度の変調は、同一化合組成比の酸化物薄膜内で行われていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、前記n型不純物濃度の変調の高濃度側が、1×1021cm−3以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、前記酸化物薄膜の比抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0018】
また、請求項7記載の発明は、前記酸化物薄膜がZnO系酸化物であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0019】
また、請求項8記載の発明は、前記n型不純物がIIIB族元素であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0020】
また、請求項9記載の発明は、前記酸化物薄膜の表面平坦性が二乗平均粗さ10nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の酸化物薄膜である。
【0021】
また、請求項10記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の酸化物薄膜を有する酸化物薄膜積層体で構成された酸化物薄膜デバイスである。
【0022】
また、請求項11記載の発明は、前記酸化物薄膜積層体の上にアンドープ酸化物薄膜を備えていることを特徴とする請求項10記載の酸化物薄膜デバイスである。
【0023】
また、請求項12記載の発明は、前記アンドープ層が発光層になっていることを特徴とする請求項11記載の酸化物薄膜デバイスである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の酸化物薄膜は、n型不純物を積層方向に一様の濃度でドーピングするのではなく、n型不純物の濃度を積層方向に変調して、濃度に高低をつけているので、濃度の低い領域が濃度の高い領域の荒れをカバーして平坦化するので、全体として、平坦性の良い酸化物薄膜を形成することができる。特に、n型不純物のドープ層とアンドープ層とを交互に繰り返す場合に、アンドープ層がドープ層の凹凸を埋めてくれるので、平坦性の良い酸化物薄膜を得ることができる。アンドープ膜の平坦性に関しては、本発明者らにより特願2007−27182、特願2007−27702に開示した通りの方法で形成可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明の酸化物薄膜の構成を示す。図1(a)に示すように、酸化物薄膜2は成長用基板1上に、PAMBE法等により作製される。このとき、酸化物薄膜2は、図1(b)に示されるように、n型不純物(電子伝導型)をドーピングしないアンドープ酸化物層2bと、n型不純物をドーピングしたドープ酸化物層2aとが交互に繰り返し積層されている。なお、酸化物薄膜2は、同一の元素組成比を有する化合物の中で、n型不純物濃度だけが変調された領域が積層方向に複数形成されていても良いし、異なる元素組成比を有する化合物毎にn型不純物濃度を変化させるようにしても良い。また、ドープ酸化物層2aの後にアンドープ酸化物層2bを積層するようにして、積層順序を入れ替えても良い。
【0026】
また、n型不純物濃度の変調については、ドープ層とアンドープ層との組み合わせではなく、ドープ層の組み合わせとし、例えば、n型不純物が高濃度にドープされた領域と低濃度にドープされた領域とを組み合わせても良い。組み合わせについても、高濃度ドープ層と低濃度ドープ層とを交互に繰り返して形成しても良いし、高濃度ドープ層から低濃度ドープ層に順に段階的に濃度を下げていくように形成しても良い。
【0027】
以上のように、酸化物薄膜を構成すると、n型不純物のドープ領域もしくは高濃度領域に発生する凹凸(荒れ)が、アンドープ領域もしくは低濃度ドープ領域によって埋められて平坦化する。特に膜の凹凸を埋めるのには、アンドープ酸化物層2bのように、アンドープ領域を用いるのが最も望ましい。
【0028】
次に、上記の内容を確認するために、酸化物薄膜としてZnO系薄膜を例に取り、ZnO薄膜に、n型不純物としてGa(ガリウム)を高濃度にドープしていくとどうなるのかを、まず説明する。
【0029】
図2は、PAMBE装置にてGaドープZnO薄膜をA面サファイア基板上(成長用基板1に相当)に成長したものであり、図3は図2の各サンプル点におけるGaセル温度、ZnOフラックス、n型不純物のGa濃度、比抵抗ρを表す。なお、より詳しい成長条件については「K.Nakahara et al.,Japanese Journal of Applied Physics vol.43(2004)L180」に記載されている。
【0030】
図2の左側縦軸はZnO薄膜中のGa濃度(cm−3)を示し、白丸(○)で描いたグラフX1がこの目盛りに対応する。一方、図2の右側縦軸は比抵抗ρ(Ω・cm)を示し、白三角(△)で描いたグラフX2がこの目盛りに対応する。また、横軸はGaセル温度である。図2中に記載されているT1〜T4の各サンプル点における主要な数値が図3に示されている。
【0031】
図2、3に示すように、Gaセル温度を上昇させれば、ZnO薄膜に取り込まれるGaの量は増えていく。そしてZnO薄膜中のGa濃度が上昇すると、比抵抗は低下していく。しかし、Gaセル温度800℃までは、比抵抗は順次低下していくのであるが、850℃まで上昇すると、Ga濃度は増加しているものの、比抵抗は逆に上昇している。これは、Gaが電子をZnO結晶中に供給する元素として働いている間は、Ga量の上昇にともなってキャリア濃度が増加し膜の比抵抗が下がっており、Gaがドナー不純物として正常に働いていることを示している。
【0032】
ところが、Gaセル温度が800℃を超え、供給するGa量が1×1021cm−3を超えてくると異変が起こる。上述したように、ドナーを入れているはずなのに比抵抗が下がらなくなる。このようにGa濃度が上っているのに、比抵抗が逆に上昇したときのZnO薄膜についてX線回折装置(XRD)により、結晶を解析した。図4に解析結果を示すが、ZnO以外のXRDピークが見られることがわかった。ピーク分析からこの膜にはZnGaという複合酸化物があることがわかった。
【0033】
酸素はあらゆる元素と化合物を作り、かつ化合物の種類も実に多様で種類が多い。したがって、n型不純物Gaのドーピングを行っていても、Ga量が一定の値(1×1021cm−3)を超えてくると、GaがZnO結晶中に数パーセントのオーダーで含まれることになり、自動的にドーパントGaと母体であるZnOとが混晶化してしまうことを示している。
【0034】
半導体デバイスに必要な薄膜の平坦性に、以上のような酸化物の一般的性質がどういう影響を及ぼすのかを以下に述べる。酸化物薄膜としてZnO系酸化物を形成して実験した。ZnO系酸化物とは、ZnO又はZnOを含む化合物から構成されるものであり、具体例としては、ZnOの他、IIA族元素とZn、IIB族元素とZn、またはIIA族元素およびIIB族元素とZnのそれぞれの酸化物を含むものを意味する。
【0035】
図7、8に種々のGaドープMgZnO膜(ZnO系酸化物)のAFM像を示すが、これらの成長条件は以下の通りである。基板温度は770〜800℃、Mgセル温度は350℃、Znセル温度は275〜280℃、Gaセル温度は450℃〜600℃、成長時間は1時間、Mg組成は10%とした。
【0036】
図7はアンドープMgZnO膜の表面像を、図8は前述したように、Gaを積層方向に一様にドープしたMgZnO膜の表面像を示し、図8(a)はGaセル温度600度、図8(b)はGaセル温度550℃で成長させたものである。図8のように積層方向にGaを一様にドープしたMgZnO膜は、表面が荒れてしまっている。しかし、図7のアンドープMgZnO膜の表面に荒れはほとんど見られず。綺麗な状態である。ここで、2乗平均粗さ(Root Mean Square:RMS)は、0.2nmである。
【0037】
図1のGaフラックスデータを見るとわかるように、この場合のGaフラックスはMBEのバックグラウンド圧力1×10−9Torr以下であり、ドープ量も高々1×1019cm−3程度であると推測できる。この程度で激しく表面状態が影響を受けるのは次のような理由であると考えられる。
【0038】
MgZnOという薄膜の場合、蒸気圧が1×10−6Torrになる温度は、Gaが742℃、Znが177℃、Mgが246℃でありGaは桁違いに蒸気圧が低い。蒸気圧が低いということは基板温度が高くなっても再蒸発しにくい、つまり基板表面に長くとどまることができ、膜へ取り込まれる確率が高くなる。これは、気相成長の駆動力の元になるΔP=供給蒸気力−平行蒸気圧、が大きいことによる。
【0039】
この結果、Zn、Mgより取り込まれる率が上がり、Zn、Mgよりも供給に対する取り込み原子数の割合が桁違いに高く、小さい蒸気圧で混晶化が起こったと考えられる。もちろん、この原理自体はMgZnOに限るものではないから、ΔPの違いが非常に大きい酸化物を成長すれば似たような現象が起きる。
【0040】
また、n型のドーパントについても、IIIB族に属する元素、例えばB(ホウ素)、Al(アルミニュウム)、In(インジウム)、Tl(タリウム)等は、酸化物を構成する気体元素以外の元素よりも蒸気圧が極端に低いので、上述したように、膜へ取り込まれる率が高くなり、混晶化する確率が高くなって平坦な膜を形成するのが困難になる。したがって、Gaだけでなく、IIIB族に属する元素を、酸化物薄膜のドーパントとして使用するときには、本発明の構成のように高濃度ドープ層と低濃度ドープ層との積層構造とすることで、平坦な膜を得ることができる。
【0041】
図5、6に本発明の構成の一つである図1(b)の手法によるGaドープMgZnOを示す。GaドープMgZnO層(ドープ酸化物層2a)による表面荒れが非常に大きくなる前に表面平坦を確保できるアンドープMgZnO層(アンドープ酸化物層2b)で覆うという方法で成膜したものである。
【0042】
図5、6の膜はGaドープMgZnO層1nm/アンドープMgZnO層3nmを1周期として500周期で成膜してある。このGaドープ濃度の変調は、Gaセルのシャッターの開閉を繰り返すことにより形成した。Gaセル温度は550℃で作製した。また、図6(a)はAFM分解能20μm、図6(b)はAFM分解能5μm、図6(c)はAFM分解能2μm、図5はAFM分解能1μmの表面画像である。この時、膜のシート抵抗は1kΩであり、たとえば発光層(活性層)に対するクラッド層として用いるには十分な抵抗であった。図5、6からもわかるように、本発明の構造では、変調ドープされた最後の層の表面に凹凸はほとんど見られない。RMSはいずれのスケールで測定しても1nm〜0.2nmである。
【0043】
上記の例に限るものではなく、高濃度GaドープMgZnO層/低濃度GaドープMgZnO層の組み合わせでも良いが、ZnOの場合は蒸気圧差が大きいため、GaドープMgZnO層/アンドープMgZnO層が望ましい。Gaドープ層の厚みはおおよそ10nm程度までが望ましい。アンドープ層は平坦性を確保するためであるからいくら厚くてもよいが、厚くするほど抵抗値が上がるので、これは作製するデバイスに必要とされる仕様によって決定すれば良い。
【0044】
上記のようなZnO系薄膜の形成方法について述べる。成長用基板1をロードロック室に入れ、水分除去のために、1×10−5〜1×10−6Torr程度の真空環境で200℃、30分間加熱する。1×10−9Torr程度の真空を持つ搬送チャンバーを経由して、液体窒素で冷やされた壁面を持つ成長室に基板を導入し、MBE法を用いてZnO系薄膜を成長させる。
【0045】
Znは7Nの高純度ZnをPBN製の坩堝に入れたクヌーセンセルを用い、260〜280℃程度に加熱して昇華させることにより、Zn分子線として供給する。IIA族元素の一例としてMgがあるが、Mgも6Nの高純度Mgを用い、同様の構造のセルから300〜400℃に加熱して昇華させ、Mg分子線として供給する。
【0046】
酸素は6NのOガスを用い、電解研磨内面を持つSUS管を通じて円筒の一部に小さいオリフィスを開けた放電管を備えたRFラジカルセルに0.1sccm〜5sccm程度で供給、100〜500W程度のRF高周波を印加してプラズマを発生させ、反応活性を上げた酸素ラジカルの状態にして酸素源として供給する。プラズマは重要で、O生ガスを入れてもZnO系薄膜は形成されない。
【0047】
また、Gaは、高純度GaをPBN製の坩堝に入れたクヌーセンセルを用い、加熱して昇華させることにより、Ga分子線として供給する。基板は一般的な抵抗加熱であればSiCコートしたカーボンヒータを使う。Wなどでできた金属系ヒータは酸化してしまい使えない。他にもランプ加熱、レーザー加熱などで温める方法もあるが、酸化に強ければどの方法でもかまわない。
【0048】
750℃以上に加熱し、約30分、1×10−9Torr程度の真空中で加熱した後、酸素ラジカルセルとZnセルのシャッターを開けてZnO薄膜成長を開始する。また、MgZnO薄膜の場合は、Mgセルのシャッターも開けて薄膜成長を行う。Gaドープを行う場合は、Gaセルのシャッターを開け、ドープ量はGaセル温度により制御する。アンドープ薄膜を形成する場合は、Gaセルのシャッターを閉じる。
【0049】
次に、上述した本発明の酸化物薄膜を用いた酸化物薄膜デバイスをZnO系薄膜の例で説明する。図9は、酸化物薄膜デバイスの一例としてショットキーダイオードの構成を示す。ZnO基板11上にn型MgZnO層21が形成され、この上に有機物電極としてのPEDOT:PSS層12が積層されており、PEDOT:PSS層12の上にはワイヤーボンディング等のために用いられるAu膜13が形成されている。一方、ZnO基板11の裏面には、Ti膜14とAu膜15の多層金属膜で構成された電極が形成されている。
【0050】
ここで、n型MgZnO層21が本発明によるn型不純物を変調ドーピングした層となっており、例えば図1(b)の酸化物薄膜2の構造と同じように構成されている。なお、PEDOT:PSSとは、ポリチオフェン誘導体(PEDOT:ポリ(3,4)-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたものである。図9のデバイスのAu膜13を電子回路の+側にAu膜15を電子回路の−側に接続すると、このデバイスは、ショットキーダイオードのように整流作用を示す。
【0051】
図10は、酸化物薄膜デバイスの一例としてLED(発光ダイオード)の構成を示す。ZnO基板11上にn型MgZnO層21、アンドープZnO系MQW層23、p型MgZnO層24が順に形成されており、p型MgZnO層24上にはNi膜25とAu膜26の多層金属膜で構成された電極が形成されている。一方、ZnO基板11の裏面には、Ti膜27とAu膜28の多層金属膜で構成された電極が形成されている。
【0052】
ここで、n型MgZnO層21が本発明によるn型不純物を変調ドーピングした層となっており、例えば図1(b)の酸化物薄膜2の構造と同じように構成されている。また、アンドープZnO系MQW層23は、アンドープMgZnOとアンドープZnOとが交互に数周期積層された多重量子井戸構造を有する発光層(活性層)であり、図10のデバイスは、発光層がp型MgZnO層24とn型MgZnO層21とに挟まれたダブルへテロ構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のn型不純物濃度を変調ドープにより構成した酸化物薄膜の構造を示す図である。
【図2】Gaセル温度とGa濃度及び比抵抗との関係を示す図である。
【図3】図2の各サンプル点における主要な数値を示す図である。
【図4】XRDによる解析結果を示す図である。
【図5】n型不純物濃度を変調ドープにより形成したMgZnO薄膜の表面画像を示す図である。
【図6】n型不純物濃度を変調ドープにより形成したMgZnO薄膜の表面画像を示す図である。
【図7】アンドープZnO薄膜の表面画像を示す図である。
【図8】n型不純物を積層方向に一様にドーピングしたZnO薄膜の表面画像を示す図である。
【図9】本発明の酸化物薄膜を用いた酸化物薄膜デバイスの一例を示す図である。
【図10】本発明の酸化物薄膜を用いた酸化物薄膜デバイスの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 成長用基板
2 酸化物薄膜
2a ドープ酸化物層
2b アンドープ酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された酸化物薄膜であって、
前記酸化物薄膜にn型不純物がドーピングされており、該n型不純物濃度が変調されていることを特徴とする酸化物薄膜。
【請求項2】
前記n型不純物濃度の変調は、n型不純物濃度の高低の繰り返しによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の酸化物薄膜。
【請求項3】
前記n型不純物濃度の高低の繰り返しは、ドープとアンドープの繰り返しであることを特徴とする請求項2記載の酸化物薄膜。
【請求項4】
前記n型不純物濃度の変調は、同一化合組成比の酸化物薄膜内で行われていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項5】
前記n型不純物濃度の変調の高濃度側が、1×1021cm−3以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項6】
前記酸化物薄膜の比抵抗率が1Ωcm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項7】
前記酸化物薄膜がZnO系酸化物であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項8】
前記n型不純物がIIIB族元素であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項9】
前記酸化物薄膜の表面平坦性が二乗平均粗さ10nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の酸化物薄膜。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の酸化物薄膜を有する酸化物薄膜積層体で構成された酸化物薄膜デバイス。
【請求項11】
前記酸化物薄膜積層体の上にアンドープ酸化物薄膜を備えていることを特徴とする請求項10記載の酸化物薄膜デバイス。
【請求項12】
前記アンドープ層が発光層になっていることを特徴とする請求項11記載の酸化物薄膜デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−258388(P2008−258388A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98815(P2007−98815)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】