説明

酸化物蛍光体および発光装置

【課題】窒化物系半導体発光素子による青紫色励起の安定性を向上させた酸化物蛍光体、およびこれを用いることによりパワー変換効率の安定性に優れた発光装置を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含む酸化物蛍光体、ならびに、当該酸化物蛍光体と、前記酸化物蛍光体を励起させて赤橙色発光を得るための光源であって、390〜420nmの波長ピークを有する青紫外光を発する励起光源とを備える発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体およびこれを用いた発光装置に関する。さらに詳細には、安定な励起特性を有する酸化物蛍光体およびこれを用いたパワー変換効率の高い発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体励起光源により蛍光体を励起して可視多色発光や白色発光を得る試みがなされている。発光材料として希土類元素を付活した酸化物蛍光体は、内部量子効率と色純度に優れる利点を有するが、これらの多くは励起帯が波長380nmより短い紫外領域にある。
【0003】
一方、小型・長寿命な固体励起光源として近年さかんに利用されている窒化物系半導体発光素子は、380〜450nmの青紫色発光の効率が高く、ほぼ405nmに外部量子効率の最大値を有している。このため、希土類元素を付活した酸化物蛍光体と窒化物系半導体発光素子とを組み合わせて発光装置を作製しても、励起帯と励起波長のずれが大きく、パワー変換効率が著しく低い。
【0004】
ここで、「励起光源の外部量子効率」とは、(放射された光子数)/(注入されたキャリア数)を、「蛍光体の内部量子効率」とは、(放射された光子数)/(吸収されたフォトン数)を、「発光装置のパワー変換効率」とは、(放射された光出力)/(励起光源駆動電力)と定義される。
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、青紫色励起光の励起特性を向上させた蛍光体として、サマリウム(Sm)を付活元素に用いることが有効であることを見出し、これを用いたパワー変換効率に優れた発光装置を特開2006−257224号公報(特許文献1)にて提案した。
【特許文献1】特開2006−257224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
III価Smイオンの4f準位間における光吸収遷移は、およそ403nmに励起帯ピークを有するため、青紫色励起光を高い効率で吸収し、610nmを主とした複数のピークからなる赤橙色蛍光を呈する。しかし、上述の励起帯は数nmと非常に狭く、母体結晶場の影響や励起光波長のゆらぎによって、蛍光体の励起光吸収量は大きく変動してしまう。すなわち、窒化物系半導体発光素子で励起して用いるSm付活蛍光体は、励起特性の安定性に問題を有していた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、窒化物系半導体発光素子による青紫色励起の安定性を向上させた酸化物蛍光体、およびこれを用いることによりパワー変換効率の安定性に優れた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸化物蛍光体は、下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の酸化物蛍光体は、Smと共に、Eu、Tb、Dy、Hoから選択される1以上の元素が共付活されていることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含む酸化物蛍光体と、前記酸化物蛍光体を励起させて赤橙色発光を得るための光源であって、390〜420nmの波長ピークを有する青紫外光を発する励起光源とを備える発光装置についても提供する。
【0011】
本発明の発光装置における励起光源は、窒化物系半導体発光素子であることが好ましく、窒化物系半導体レーザ素子であることがより好ましい。
【0012】
本発明の発光装置は、前記励起光源で励起される青色蛍光体をさらに備えることが好ましい。また本発明の発光装置は、励起光源で励起される緑色蛍光体をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Smを付活したガーネット構造の酸化物蛍光体を特定のIII価金属イオンの組み合わせで構成することにより、400nm近傍の励起帯幅を広くすることができ、青紫色励起の安定性を向上させた赤橙色酸化物蛍光体が提供される。また、このような本発明の酸化物蛍光体を用いることで、パワー変換効率の安定性に優れた発光装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の酸化物蛍光体は、下記一般式(I)で表される酸化物結晶を含むことを特徴とする。
【0015】
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
上記一般式(I)中、AはY(イットリウム)、La(ランタン)、Gd(ガドリニウム)から選択される1以上の元素であり、BはSc(スカンジウム)、Sb(アンチモン)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Fe(鉄)、Co(コバルト)から選択される1以上の元素であり、Alはアルミニウム、Gaはガリウム、Oは酸素、Smはサマリウムを表す。また、上記一般式(I)中、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。このような本発明の酸化物蛍光体は、Smを付活したガーネット構造の酸化物蛍光体を特定のIII価金属イオンとの組み合わせで構成した酸化物結晶を母体とするものであり、このような構成により400nm近傍の励起帯幅を広くすることができ、青紫色励起の安定性が向上された赤橙色を呈する蛍光体である。
【0016】
ここで、本発明の酸化物蛍光体における酸化物結晶は、その前提として、下記一般式(II)で表されるガーネット構造の複合酸化物の結晶である。
【0017】
3B'2B''312 (II)
上記一般式(II)中、Aは8配位の3価金属イオンであり、B'およびB''はそれぞれ4配位および6配位の3価金属イオンである。また上記一般式(II)中、Oは酸素を表す。3種類の3価金属イオンから構成されるガーネット構造では、イオン半径の大きさの順にAサイト>B'サイト>B''サイトを占有するが、2種類の3価金属イオンのみで構成される場合は、イオン半径の小さな3価金属イオンがB'サイトおよびB''サイトを共に占有する。4種類以上の3価金属イオンで構成される場合は、上述した傾向を保ちながら多様なサイト占有を行うと考えられるが、本発明の目的である蛍光体の励起特性を安定させるには、取り得る3価金属イオンの種類と組成に好適な範囲がある。なお、以下、B'サイトおよびB''サイトを併せて「Bサイト」と略称する場合がある。
【0018】
本発明の酸化物蛍光体は、一般式(I),(II)中のAサイトに、Y、La、Gdから選択される1以上の元素である、イオン半径の大きな希土類の3価金属イオンを用いてなる。AサイトにY、La、Gd以外の3価希土類イオンを用いた場合には、それ自体が光の吸収遷移に関与するため、発光中心となる希土類イオンの働きを妨げてしまう。
【0019】
また本発明の酸化物蛍光体は、一般式(I),(II)中のBサイトに、Aサイトに用いられる元素よりもイオン半径の小さな13族元素の3価金属イオンであるAlおよびGaを用いている。BサイトにAl、Gaのいずれか一方のみを用いた場合、または、In(インジウム)以上の原子番号の13族元素(In、Tl(タリウム))を用いた場合には、内部量子効率が低く、かつ、第3のBサイト占有金属イオン(後述)の効果が現れない。
【0020】
本発明の酸化物蛍光体は、一般式(I),(II)中のBサイトに、第1のBサイト占有金属イオンとして上述したAl、第2のBサイト占有金属イオンとして上述したGaを用い、さらに第3の占有金属イオンとしてSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素を用いてなる。これら第3の占有金属イオンとして用いられる元素は、上述したAサイトに用いられる希土類イオンよりイオン半径が小さく、かつ、Bサイトに用いられる13族元素(Al、Ga)よりもイオン半径が大きく、さらに、電荷補償のためのIII価イオンとなる元素である。
【0021】
ここで、図1は、本発明の酸化物蛍光体の具体的な一例である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512(後述する実施例1:図1中、実線)の発光スペクトルを、第3の占有金属イオンを用いない場合の酸化物蛍光体である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512(後述する比較例1:図1中、破線)と比較して示すグラフであり、縦軸は規格化発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。また図2は、本発明の酸化物蛍光体の具体的な一例である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512(後述する実施例1:図2中、実線)の励起スペクトルを、第3の占有金属イオンを用いない場合の酸化物蛍光体である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512(後述する比較例1:図2中、破線)と比較して示すグラフであり、縦軸は規格化発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図1に示す発光スペクトルでは、(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512と(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512との間に差は見られないが、図2に示す励起スペクトルでは、第3のBサイト占有金属イオンとしてScを用いた(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512の方が(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512よりも広くなっており、400nm近傍の吸収率が改善されていることが分かる。このことから、第3のBサイト占有金属イオンを用いた本発明の酸化物蛍光体は、青紫色光による励起特性の安定性が向上されたものであることが分かる。なお、図1に示す発光スペクトルおよび図2に示す励起スペクトルは、いずれも蛍光分光光度計を用いて測定された結果であり、発光スペクトル測定時の励起波長はいずれも405nmで、励起スペクトル測定時のモニター波長は405nm励起での発光スペクトルのピーク波長とした。
【0022】
上記一般式(I)中、Bサイトを占有するAlの比率を示すxは、0.2≦x≦0.7であり、第3のBサイト占有金属イオンの比率を示すzは、0.05≦z≦0.2である。すなわち、本発明の酸化物蛍光体における酸化物結晶のBサイトを占有するIII価金属イオンの組成は、Alが20〜70mol%の範囲内であり、第3の金属イオンが5〜20mol%の範囲内である。Bサイトを占有するIII価金属イオンの組成が上記範囲を外れた場合には、上述した第3のBサイト占有金属イオンが励起帯を広げる効果が低下したり、また内部量子効率が低下してしまう。なお、上記一般式(I)中、Bサイトを占有するGaの比率を示すyは、x+y+z=1となるように選ばれる。
【0023】
本発明の酸化物蛍光体における酸化物結晶は、上述した一般式(II)で表されるガーネット構造の複合酸化物におけるAサイトの金属イオンがSmで置換され、付活されたものである。Smが付活されていない場合には、酸化物蛍光体の発光が得られない。本発明における酸化物結晶のSmの付活濃度は、特に制限されるものではないが、置換対象であるAサイトの金属イオンに対して0.05〜1mol%の範囲内であることが好ましく、0.1〜0.4mol%の範囲内であることがさらに好ましい。Smの付活濃度が、Aサイトの金属イオンに対して0.05mol%未満である場合には、Smイオンが少なすぎてSm付活の効果が十分に発揮されない(発光強度が不十分となる)虞があり、また、Aサイトの金属イオンに対して1mol%を超える場合には、Smイオンが多すぎて濃度消光を生じ、発光効率が低下してしまう虞がある。
【0024】
本発明の酸化物蛍光体は、酸化物結晶に、Sm以外の希土類イオンを共に付活(共付活)させてもよく、エネルギー移動が生じやすく、また増感効果が認められることから、このような希土類イオンとしてEu(ユーロピウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)から選択される1以上の元素を用いることが好ましい。中でも、Smと同様に赤橙色を呈し、かつ、SmからEuへのエネルギー移動が生じて発光効率が向上されることから、Smと共付活させる希土類イオンとしてEuを用いることが特に好ましい。なお、Eu、Tb、Dy、Ho以外の希土類イオンをSmと共付活させても、希土類イオンが発光に寄与しない(たとえば希土類元素としてPm(プロメチウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)を共付活させた場合)か、可視蛍光体として利用できない赤外領域の発光を呈する(たとえば希土類元素としてPr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Er(エルビウム)を共付活させた場合)ため、好ましくない。
【0025】
上述したEu、Tb、Dy、Hoから選ばれる1種以上の元素を、Smと共付活させるための希土類イオンとして用いる場合、その付活濃度は特に制限されるものではないが、たとえばEuをSmと共付活させる場合には、置換対象であるAサイトの金属イオンに対してEuの付活濃度が0.1〜5mol%の範囲内であることが好ましく、1〜3mol%の範囲内であることがさらに好ましい。Euの付活濃度がAサイトの金属イオンに対して0.1mol%未満である場合には、共付活による効率向上効果が低い傾向にあり、また、Euの付活濃度がAサイトの金属イオンに対して5mol%を超える場合には、共付活希土類イオンが多すぎて濃度消光を生じ、発光効率が低下してしまう傾向にあるためである。
【0026】
なお、本発明の酸化物蛍光体における酸化物結晶の結晶構造と組成は、X線回折装置を用いた結晶構造評価を行うことにより確認することができる。また、Smの付活濃度などの微量な元素の組成は、たとえば蛍光X線装置、二次イオン質量分析装置、ICP発光分析装置などを用い、濃度に応じて適切な組成分析を行うことで確認することができる。
【0027】
本発明の酸化物蛍光体は、その製造方法については特に制限されるものではないが、たとえば以下のような手順によって好適に製造することができる。まず、構成金属元素の単純酸化物粉末を、所定の組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢やボールミルで0.5〜5時間程度混合する。混合試料は粉末のままでも、プレス機を用いてペレットに成形してもよい。その後、電気炉を用いて800〜1600℃で1〜24時間焼結し、その後室温まで冷却する。なお、焼結度合いを調整するため、温度を段階的に上昇させていってもよい。このような手順によって、本発明の酸化物蛍光体を好適に製造することができる。
【0028】
また、本発明の酸化物蛍光体を製造するに際し、構成元素の金属塩を含む水溶液や有機金属化合物を、超臨界法やグリコサーマル法などの方法で液相反応させたり、構成金属元素を含むガスを気相反応させたりする方法も好適に採用される。このような方法は、上述した粉末混合による方法よりも粒径の小さな酸化物蛍光体を製造するのに適しており、散乱損失の少ない酸化物蛍光体を製造することができる。
【0029】
さらに本発明の酸化物蛍光体は、非平衡度の高い結晶成長手法によって薄膜状に成長させることで製造されてもよい。この場合、たとえば、上述したペレットをターゲットとしてレーザアブレーション法を用いて基板上に形成すれば、薄膜状の酸化物蛍光体を製造することができる。
【0030】
本発明はまた、上述した本発明の酸化物蛍光体を用いた発光装置についても提供する。すなわち、本発明の発光装置は、下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含む酸化物蛍光体と、前記酸化物蛍光体を励起させて赤橙色発光を得るための光源であって、390〜420nmの波長ピークを有する青紫外光を発する励起光源とを備えることを特徴とする。上述したように本発明の酸化物蛍光体は、励起帯幅が従来と比較して広いため、本発明の酸化物蛍光体を青紫外光を発する発光素子で励起し、赤橙色発光を呈するように発光装置を実現することで、パワー変換効率の安定性に優れた発光装置が提供される。
【0031】
ここで、図3は、本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。図3には、上述した本発明の酸化物蛍光体を含み、板状に形成された蛍光板2を、筐体3の上部に取り付けてなり、蛍光板2の直下に励起光源4を配置することで構成された例の発光装置1を示している。図3に示す構造の発光装置1は、あくまでも本発明の発光装置の好ましい一例に過ぎず、本発明の発光装置は、本発明の酸化物蛍光体と上述した励起光源を備えるものであればよく、図3に示す構造に限定されるものではない。
【0032】
本発明の発光装置1における励起光源4としては、本発明の酸化物蛍光体を励起させて赤橙色発光を得るための光源であって、390〜420nmの波長ピークを有する青紫外光を発するものを用いる。波長ピークが390nm未満または420nmを超える励起光源を用いた場合には、本発明の酸化物蛍光体の励起帯である400nm近傍を効果的に励起することができないため、発光効率が低くなるためである。このような励起光源4としては、キセノンランプなどの連続スペクトル光源とフィルターとを組み合わせて用いることもできるが、小型かつ長寿命でコストの低い半導体発光素子が適している。半導体発光素子には、窒化物系半導体発光素子、酸化物系半導体発光素子、硫化物系半導体発光素子などの半導体材料を用いることができるが、405nmに外部量子効率のピークを有する窒化物系半導体発光素子を励起光源4として用いることが特に好ましい。
【0033】
上述したように本発明の酸化物蛍光体は励起帯が広いため、励起光の発光スペクトルが広くてもロスが少ない。したがって、本発明の発光装置1における励起光源4として発光ダイオード素子を用いても、従来より高いパワー変換効率を得ることができるが、励起スペクトルの裾部分でのロスをより減少できることから、励起光源4としては数nm以下の狭いスペクトル幅の励起光源4を用いることが好ましく、窒化物系半導体で構成された半導体レーザ素子(窒化物系半導体レーザ素子)を励起光源4として用いることが特に好ましい。
【0034】
本発明の発光装置は、上述した励起光源で励起される青色蛍光体をさらに備えていてもよい。赤橙色を呈する本発明の酸化物蛍光体と共に、補色関係にある青色蛍光体を励起して混色するようにすることで、従来よりもパワー変換効率の安定性に優れた擬似白色発光を呈する発光装置を実現することができる。本発明の発光装置に用いられ得る青色蛍光体としては、たとえば、(Ba,Sr,Mg)4Al1425:Eu、(Ba,Sr,Mg)Al475:Eu、GaN:Zn、AlN:Tb、La2Si8114:Ce、BaMgAl1017:Euなどを挙げることができるが、本発明の酸化物蛍光体と同様に、励起光源から発せられる青紫外色で効率よく励起される青色蛍光体を用いることが好ましく、このような観点からは、La1-aCeaAl(Si6-zAlz)N10-zz(式中、0.01<a<1、0<z<1)、(Sr,Ba)1-bEubSi222(式中、0.001<b<0.005)、La3-cCecSi8114(式中、0.05<c<1)などの酸窒化物系蛍光体が青色蛍光体として特に好適に用いられる。
【0035】
青色蛍光体をさらに備える場合、その混合比率は特に制限されるものではないが、重量比で3〜15%の範囲内であることが好ましく、5〜10%の範囲内であることがより好ましい。青色蛍光体が重量比で3%未満である場合には、充填量が少なすぎるため、青色成分の十分な発光強度が得られない傾向にあるためであり、また、青色蛍光体が重量比で15%を超える場合には、充填量が多すぎるため、励起効率が低下しパワー変換効率が低下する傾向にあるためである。なお、本発明の発光装置における青色蛍光体の重量比は、たとえば樹脂封止体および充填された蛍光体の全重量に対して青色蛍光体の占める重量を百分率で表すことで算出された値を指す。
【0036】
本発明の発光装置はまた、本発明の酸化物蛍光体および青色蛍光体に加え、上述した励起光源で励起される緑色蛍光体をさらに備えていてもよい。上述したように赤橙色を呈する本発明の酸化物蛍光体、補色関係にある青色蛍光体に加え、緑色蛍光体をも共に励起して混色するようにすることで、従来よりもパワー変換効率に優れた演色性の高い白色発光を呈する発光装置を実現することができる。III価Smイオンの発光スペクトルは、略550nmの緑色領域にもピークを有しているため、青色蛍光体との混合のみでも高い演色性を実現できるが、500〜570nmの範囲に波長を有する緑色蛍光体をさらに混合することにより、照明用途に適した演色性の高い発光装置となる。本発明の発光装置に用いられ得る緑色蛍光体としては、たとえば、(Ba,Sr,Mg)Al24:Eu、Ca3Sc2Si312:Ceなどを用いることができるが、青色蛍光体と同様の理由から、酸窒化物系蛍光体であるβ−SiAlONが好ましい。
【0037】
緑色蛍光体をさらに備える場合、その混合比率は特に制限されるものではないが、重量比で0.1〜2%の範囲内であることが好ましく、0.3〜1%の範囲内であることがより好ましい。緑色蛍光体が重量比で0.1%未満である場合には、充填量が少なすぎるため、緑色蛍光体を添加したことによる効果が十分でない傾向にあるためであり、また、緑色蛍光体が重量比で2%を超える場合には、充填量が多すぎるため、励起効率が低下しパワー変換効率が低下する傾向にあるためである。なお、本発明の発光装置における緑色蛍光体の重量比は、たとえば樹脂封止体および充填された蛍光体の全重量に対して緑色蛍光体が占める重量を百分率で表すことで算出された値を指す。
【0038】
本発明の発光装置はまた、本発明の赤橙色を呈する酸化物蛍光体と上述した緑色蛍光体のみを組み合わせて用いたものであってもよい。この場合は、混色によって黄色を呈する発光装置となるが、本発明の酸化物蛍光体が励起安定性に優れているため、パワー変換効率の高い黄色光源としてインジゲータやイルミネーションなどに用いることができる。
【0039】
本発明の発光装置において、本発明の酸化物蛍光体(および場合によっては青色蛍光体、緑色蛍光体)は、封止剤と混練され、所定の形状(図3に示した例では、板状)に成形されて用いられる。封止剤としては、安価で加工性に富み、かつ透光性を有する樹脂材料を用いることが好ましく、このような樹脂材料としてたとえばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。水分、近紫外線に対する耐性に優れる観点からは、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂を封止剤として用いることが好ましい。また、近紫外光に耐性の高いガラス材料を封止剤に用いてもよい。また、図3には筐体3を有するように実現された場合の発光装置1を示したが、この筐体3を形成する材料は特に制限されるものではなく、当分野において従来より広く用いられている適宜の材料(たとえば、金属、プラスチック、セラミックスなど)で形成された筐体を用いることができる。
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
酸化イットリウム(Y23)6.8g、酸化アルミニウム(Al23)2.6g、酸化ガリウム(Ga23)3.8g、酸化スカンジウム(Sc23)0.7g、酸化サマリウム(Sm23)42mg(いずれも純度99.99%)を計量し、アルミナ製ボールミルで1時間混合した後、大気中1400℃で3時間焼成した。室温まで冷却後、公知の処理工程(粉砕、分級および洗浄)を経て、実施例1の酸化物蛍光体を得た。X線回折による結晶構造を評価したところ、実施例1の酸化物蛍光体における酸化物結晶はガーネット構造であることが分かった。また、ICPおよび蛍光X線分析による詳細な組成分析を行った結果、(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512という組成であることが分かった。
【0042】
<比較例1>
比較例1として、酸化イットリウム(Y2CO3)6.8g、酸化アルミニウム(Al23)3.0g、酸化ガリウム(Ga23)3.9g、酸化サマリウム(Sm23)42mg(いずれも純度99.99%)を計量して用いたこと以外は実施例1と同様にして酸化物蛍光体を作製した。比較例1の酸化物蛍光体についても、実施例1と同様にX線回折による結晶構造を評価したところ、酸化物結晶がガーネット構造であることが分かったが、ICPおよび蛍光X線分析による詳細な組成分析を行った結果、(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512という組成であることが分かった。
【0043】
<評価>
実施例1、比較例1で得られた酸化物蛍光体について、積分球による励起波長405nmでの吸収効率および内部量子効率の評価を行った結果、実施例1の酸化物蛍光体の吸収効率は80%で内部量子効率は75%であった。一方、比較例1の酸化物蛍光体の吸収効率は60%で内部量子効率は75%であった。このことから、第3のBサイト占有金属イオンとしてScをドープした実施例1の酸化物蛍光体は、Scを含まない比較例1の酸化物蛍光体と比較して、励起光の吸収率が改善されていることが分かった。
【0044】
また、実施例1、比較例1で得られた酸化物蛍光体について、蛍光分光光度計で測定された発光スペクトルが図1に、励起スペクトルが図2に示されている。発光スペクトル測定時の励起波長はいずれも405nmで、励起スペクトル測定時のモニター波長は405nm励起での発光スペクトルのピーク波長とした。図1に示される発光スペクトルについては実施例1の酸化物蛍光体と比較例1の酸化物蛍光体との間に差がみられないが、図2に示される励起スペクトルについてはScをドープした実施例1の酸化物蛍光体の方が広くなっていた。このように実施例1の酸化物蛍光体では、400nm近傍の吸収率が改善されており、結果、青紫外光による励起特性が向上されていることが確認された。
【0045】
<実施例2〜7>
実施例2〜7では、第3のBサイト占有金属イオンとして、Scに代えて3価の金属イオンSb、Ti、V、Cr、FeまたはCoを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてそれぞれ酸化物蛍光体を作製した。得られた各酸化物蛍光体について、上述と同様にして、吸収効率(%)、内部量子効率(%)および発光効率(%)を測定した。なお、発光効率(%)は、吸収効率(%)と内部量子効率(%)とを掛け合わせた数値である。実施例2〜7についての結果を、実施例1、比較例1の結果とともに表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から、第3のBサイト占有金属イオンにScまたはSbを用いた場合(実施例1、2)には、比較例1と比べて内部量子効率を維持しつつ吸収効率が向上されていることが分かる。また、第3のBサイト占有金属イオンにTi、V、Cr、FeまたはCoを用いた場合(実施例3〜7)には、比較例1と比べ内部量子効率は低下する傾向がみられたものの、吸収効率は向上されており、発光効率は比較例1を上回っていた。これは、実施例3〜7の酸化物蛍光体では、励起帯幅を広げる効果によって、内部量子効率の低下を補い、発光効率が安定化したものであると考えられた。
【0048】
また、実施例2〜7の各酸化物蛍光体についても、上述と同様にして発光スペクトルおよび励起スペクトルを測定したが、いずれも実施例1と同様に発光スペクトルに関しては比較例1と変化はみられなかったが、励起スペクトルについては広くなっており、青紫外光による励起特性が向上したことが確認された(図示せず)。
【0049】
<比較例2〜7>
比較例2、3として、AサイトにEuまたはTmを用いたこと、比較例4、5としてBサイトにAl、Gaのいずれか一方のみを用いたこと、比較例6として第3のBサイト占有金属イオンにInを用いたこと、比較例7としてSmを付活しないこと以外はいずれも実施例1と同様にしてそれぞれ酸化物蛍光体を作製した。得られた各酸化物蛍光体について、上述と同様にして、吸収率(%)、内部量子効率(%)および発光効率(%)を測定した。比較例2〜7についての結果を表2に示す。また、実施例1と同様にX線回折による結晶構造を評価したところ、いずれも酸化物結晶はガーネット構造であった。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示したように、比較例2〜7の酸化物蛍光体は、いずれも実施例1〜7と比較して効率が著しく低いことが分かった。すなわち、第3のBサイト占有金属イオンに所定の元素を用いて蛍光体の励起特性を安定させるには、AサイトおよびBサイトの取り得る3価金属イオンの種類と組成に好適な組み合わせがあることが示唆される。
【0052】
<実施例8>
実施例1で得られた酸化物蛍光体を用いて図3に示した例の発光装置1を作製した。まず、実施例1で得られた酸化物蛍光体1.0gを秤量し、封止剤であるモールド樹脂(シリコーン樹脂、信越化学製)10gに混練して蛍光板2を作製し、筐体3の上部に取り付けた。蛍光板2の直下に、励起光源4としてピーク波長405nmのInGaN半導体発光ダイオード素子を設置して、図3に示した例の発光装置1を作製した。InGaN半導体発光ダイオード素子で蛍光板2を励起したところ、色度座標x=0.61、y=0.38の赤橙色光が得られた。このときのパワー変換効率(発光装置1を積分球内に設置してInGaN半導体発光ダイオード素子により励起光を照射し、蛍光板2から放射された発光を集光して全光束量を測定(Labsphere社製光量測定装置、SLMSを用いた)し、これをInGaN半導体発光ダイオード素子の消費電力で除することで算出)は、30lm/Wであった。
【0053】
<比較例8>
比較例1で得られた酸化物蛍光体を用いたこと以外は、実施例8と同様にして発光装置を作製した。実施例8と同様に蛍光板を励起し、算出されたパワー変換効率は20lm/Wに低下していた。
【0054】
<実施例9>
封止剤に混練する際に、酸窒化物系青色蛍光体La0.5Ce0.5Al(Si5Al)N9Oを0.5g添加して蛍光板2を作製したこと以外は、実施例8と同様にして発光装置を作製した。実施例8と同様に蛍光板を励起したところ、実施例1で得られた赤橙色を呈する酸化物蛍光体と、酸窒化物青色蛍光体が混色して、色度座標x=0.3、y=0.35の白色光が得られた。このときのパワー変換効率は60lm/W、平均演色性評価指数Raは85であった。
【0055】
<実施例10>
封止剤に混練する際に、酸窒化物系青色蛍光体La0.5Ce0.5Al(Si5Al)N9Oを0.4g、酸窒化物緑色蛍光体β−SiAlON:Euを0.3g添加して蛍光板2を作製したこと以外は、実施例8と同様にして発光装置を作製した。実施例8と同様に蛍光板を励起したところ、実施例1で得られた赤橙色を呈する酸化物蛍光体と、酸窒化物青色蛍光体および酸窒化物緑色蛍光体が混色して、色度座標x=0.3、y=0.35の白色光が得られた。このときのパワー変換効率は50lm/Wであった。平均演色性評価指数Raは90であり、酸窒化物緑色蛍光体の添加により演色性が向上されていた。
【0056】
<実施例11>
励起光源4として405nmに発振ピークを有するInGaN半導体レーザ素子を用いたこと以外は、実施例10と同様にして発光装置を作製した。実施例8と同様に蛍光板を励起したところ、パワー変換効率は70lm/Wに向上されていた。これは、実施例10で励起光源4として用いていた発光ダイオード素子はスペクトル幅が50nm程度と広いため、励起帯を広げた本発明の酸化物蛍光体を用いても、スペクトル裾部分のエネルギーがロスとなってしまっていたのに対し、実施例11で励起光源4として用いた窒化物系半導体レーザ素子はスペクトル幅が狭く、本発明の酸化物蛍光体を無駄なく励起でき、パワー変換効率が向上されていたものと考えられる。
【0057】
<実施例12>
封止剤に混練する際に、酸窒化物系緑色蛍光体β−SiAlONを0.2g添加して蛍光板2を作製したこと以外は、実施例8と同様にして発光装置を作製した。実施例8と同様に蛍光板2を励起したところ、実施例1で得られた赤橙色を呈する酸化物蛍光体と、酸窒化物系緑色蛍光体が混色して、色度座標x=0.45、y=0.4の黄色光が得られた。このときのパワー変換効率は60lm/W、平均演色性評価指数Raは85であった。
【0058】
<比較例9>
比較例1で得られた酸化物蛍光体を用いたこと以外は、実施例12と同様にして発光装置を作製した。実施例12と同様に蛍光板を励起し、算出されたパワー変換効率は20lm/Wに低下していた。
【0059】
今回開示された実施の形態、実施例および比較例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の酸化物蛍光体の具体的な一例である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512の発光スペクトルを、第3の占有金属イオンを用いない場合の酸化物蛍光体である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512と比較して示すグラフであり、縦軸は規格化発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図2】本発明の酸化物蛍光体の具体的な一例である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.3Sc0.1512の励起スペクトルを、第3の占有金属イオンを用いない場合の酸化物蛍光体である(Y0.996Sm0.0043(Al0.6Ga0.4512と比較して示すグラフであり、縦軸は規格化発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図3】本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 発光装置、2 蛍光板、3 筐体、4 励起光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含む、酸化物蛍光体。
【請求項2】
Smと共に、Eu、Tb、Dy、Hoから選択される1以上の元素が共付活されている、請求項1に記載の酸化物蛍光体。
【請求項3】
下記一般式(I)
3(AlxGayz512:Sm3+ (I)
(一般式(I)中、AはY、La、Gdから選択される1以上の元素であり、BはSc、Sb、Ti、V、Cr、Fe、Coから選択される1以上の元素であり、0.2≦x≦0.7、0.05≦z≦0.2、x+y+z=1である。)
で表される酸化物結晶を含む酸化物蛍光体と、
前記酸化物蛍光体を励起させて赤橙色発光を得るための光源であって、390〜420nmの波長ピークを有する青紫外光を発する励起光源とを備える、発光装置。
【請求項4】
前記励起光源が窒化物系半導体発光素子である、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記窒化物系半導体発光素子が窒化物系半導体レーザ素子である、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記励起光源で励起される青色蛍光体をさらに備える、請求項3〜5のいずれかに記載の発光装置。
【請求項7】
前記励起光源で励起される緑色蛍光体をさらに備える、請求項3〜6のいずれかに記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−1677(P2009−1677A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164029(P2007−164029)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】