説明

酸化物超伝導体薄膜の製造方法

【課題】MgO基板を効率よく均一に加熱し、MgO基板の上に酸化物超伝導体薄膜を均一に形成することができる酸化物超伝導体薄膜製造方法を提供する。
【解決手段】MgO基板101の裏面に、膜厚300nm程度のカーボン層102を形成した後、分子線エピタキシー装置に搬入し、カーボン層を輻射加熱することでMgO基板を均一に加熱し、MgO基板の主表面にNd1Ba2Cu3O7-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜104を形成する。次に、カーボン層を除去してMgO基板の裏面を露出させる。このMgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されている酸化物超伝導体薄膜を輻射加熱することでMgO基板を加熱し、MgO基板の裏面に、Sm1Ba2Cu3O7-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜を、膜厚600nm程度に形成する。こうして、MgO基板の両面に酸化物超伝導体薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリウムと銅とを含む酸化物からなる酸化物超伝導体薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物超伝導体が、電子デバイスの材料として様々な分野で研究開発されている。例えば、NdBa2Cu37やLaBa2Cu37などの酸化物超伝導体は、マイクロ波フィルタをはじめとするマイクロ波デバイスに適用可能である。このような酸化物超伝導体をデバイスに適用する場合、酸化物超伝導体の薄膜(酸化物超伝導体薄膜)を、所定の基板の上に形成する必要がある。酸化物超伝導体薄膜を形成する基板として、低誘電率,低誘電損失である酸化マグネシウム(MgO)基板が用いられている。
【0003】
MgO基板の上に上述した酸化物超伝導体薄膜を形成する場合、MgO基板を650〜850℃程度の高温に加熱しているが、この加熱の基板内の均一性が、形成される酸化物超伝導体薄膜の特性の基板内の均一性に大きく影響する。MgO基板を加熱する場合、一般には、MgO基板をAgペーストなどにより基板ホルダーに接着固定し、基板ホルダーからの熱が、MgO基板の全域に均一に伝導するようにしている。しかしながら、このような方法では、基板ホルダーにMgO基板を貼り付けるときに、微小な間隙が形成されやすい。また、貼り付ける際に基板全域に均一な力を加えることは容易ではなく、Agペーストの接着層を、全域に亘って均一な厚さな状態で貼り付けることは容易ではない。
【0004】
これらのように、微小な間隙が介在し、また、接着層の厚さが不均一であると、基板ホルダーからの熱がMgO基板に均一に伝導せず、MgO基板を均一に加熱することができない。
一方、輻射加熱機構により基板を加熱し、基板の両面にYBa2Cu37の薄膜を形成する技術が提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】H.Kinder, et al., "Double Sided YBCO Films on 4" Substrates by Thermal Reactive Evaporation", IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY, Vol.5, No.2, pp.1575-1580, 1995.
【非特許文献2】J.Heremans, et al., "Thermal and electronic properties of rare-earth Ba2Cu3Ox superconductors", PHYSICAL REVIEW B, Vol.37, No.4, pp.1604-1610, 1988.
【非特許文献3】J.M.Tarascon, et al., "Oxygen and rare-earth doping of the 90-K superconducting perovskite YBa2Cu3O7-x",PHYSICAL REVIEW B, Vol.36, No.1, pp.226-234, 1987.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、MgOは光学的に透明であり、MgO基板は、赤外線を透過するため、上述した輻射加熱では、MgO基板を効率よく加熱することができないという問題があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、MgO基板を効率よく均一に加熱し、MgO基板の上に酸化物超伝導体薄膜を均一に形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る酸化物超伝導体薄膜の製造方法は、MgO基板の裏面にカーボン層が形成された状態とする第1工程と、カーボン層を輻射熱により加熱することでMgO基板が加熱された状態とし、MgO基板の主表面に少なくともバリウムと銅とを含む酸化物からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする第2工程とを少なくとも備えるようにしたものである。
【0008】
上記酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、第2工程の後、カーボン層を除去する第3工程と、MgO基板の主表面に形成された酸化物超伝導体薄膜を輻射熱により加熱することでMgO基板が加熱された状態とし、MgO基板の裏面に少なくともバリウムと銅とを含む酸化物からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする第4工程とを備えるようにしてもよい。
【0009】
上記酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、カーボン層は、複数のカーボンの微粒子から構成されたものであればよい。例えば、カーボン層は、複数のカーボン微粒子が有機溶媒中に分散した塗布液をMgO基板の裏面に塗布して乾燥することで形成すればよい。なお、カーボン層は、膜厚が300nm以上に形成された状態とするとよい。また、酸化物超伝導体薄膜は、バリウムと銅とに加え、Nd,La,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Yの少なくとも1つを含む酸化物である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、MgO基板の裏面にカーボン層が形成された状態とし、このカーボン層を輻射熱により加熱することでMgO基板が加熱された状態とするようにしたので、MgO基板を効率よく均一に加熱し、MgO基板の上に酸化物超伝導体薄膜を均一に形成することができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における酸化物超伝導体薄膜の製造方法を説明するための工程図である。まず、図1(a)に示すように、酸化マグネシウム(MgO)基板101を用意する。MgO基板101は、主表面が(100)面とされたものであり、また、一辺が20mm程度の矩形の基板である。次に、図1(b)に示すように、MgO基板101の一方の面(裏面)に、膜厚300nm程度のカーボン層102が形成された状態とする。
【0012】
例えば、平均粒径が数十nmの複数のカーボン微粒子が有機溶媒中に分散した塗布液を用意し、この塗布液をMgO基板101に塗布して塗布膜を形成し、形成した塗布膜より有機溶媒を揮発除去すればよい。これらのことにより、MgO基板101の裏面に、複数のカーボンの微粒子から構成されたカーボン層102が形成された状態が容易に得られる。なお、カーボン層102は、複数のカーボンの微粒子から構成された層である必要はなく、カーボンから構成された層であればよい。また、カーボン層102は、例えば、蒸着などにより形成してもよい。ただし、前述した塗布により形成したカーボン層102は、有機溶剤などを用いることで容易に除去可能である。
【0013】
次に、図1(c)に示すように、MgO基板101が酸素雰囲気103の中に配置された状態とし、加えて、MgO基板101に1000℃・12時間の加熱処理が行われた状態とする。このことにより、MgO基板101の他方の面(主表面)に形成されている劣化層が除去された状態とする。よく知られているように、MgOには潮解性があるために基板の表面が劣化して劣化層が形成されているため、上述した高温処理により劣化層を除去しておく。
【0014】
ついで、MgO基板101を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板101に形成されているカーボン層102を輻射熱により加熱することで、MgO基板101が700℃程度に加熱された状態とする。カーボン層102は、黒色であるために輻射熱により効率よく加熱され、加熱されたカーボン層102により、MgO基板101が効率よく均一に加熱されるようになる。このように、MgO基板101が加熱された状態とし、例えば、ネオジウム(Nd),バリウム(Ba),及び銅(Cu)を蒸発源とする分子線エピタキシー法により、図1(d)に示すように、MgO基板101の主表面にNd1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜104が膜厚300nm程度に形成された状態とする。
【0015】
例えば、MgO基板101が搬入された処理室内を1×10-7Pa程度にまで排気する。ついで、処理室内に酸素ラジカルを導入し、MgO基板101の主表面に酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された(吹き付けられた)状態とする。酸素ラジカルは、所定の酸素ラジカル生成装置を用いて供給すればよく、2sccmで供給すればよい。酸素ラジカルの代わりに、オゾンガスなどの他の酸化ガスを供給するようにしてもよい。このとき、基板近傍の圧力は、6×10-3Pa程度の圧力に制御された状態とする。なお、sccmは、流量の単位あり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。
【0016】
以上のように酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された後、前述したように、輻射熱によるカーボン層102の加熱でMgO基板101が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。ついで、処理室内に配置されている各るつぼ内に収容されているNd,Ba,及びCuの各蒸着源を、電子ビーム照射により所定温度にまで加熱して蒸発させ、これらよりなる金属原料がMgO基板101の主表面に供給された状態とする。これらの結果、MgO基板101の主表面では、供給されている金属原料が酸素ラジカルにより酸化されるなどのことにより、Nd1Ba2Cu37-dからなる酸化物超伝導体薄膜104が形成された状態が得られる。この後、MgO基板101の温度が200℃程度にまで低下されるまで、基板の雰囲気に前述した反応ガスが供給されている状態とする。
【0017】
以上のようにすることで、均一に加熱された状態のMgO基板101の主表面に、酸化物超伝導体薄膜104が形成された状態が得られる。次に、例えば、有機溶剤による洗浄や、活性状態の酸素を用いたアッシングなどにより、裏面に形成されているカーボン層102を除去し、図1(e)に示すように、MgO基板101の裏面が露出した状態とする。ついで、前述同様に、MgO基板101が酸素雰囲気103の中に配置された状態とし、加えて、MgO基板101を加熱処理することで、裏面側の劣化層が除去された状態とする(図1(f))。
【0018】
次に、MgO基板101を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板101に形成されている酸化物超伝導体薄膜104を輻射熱により加熱することで、MgO基板101が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。この輻射熱により酸化物超伝導体薄膜104は効率よく加熱され、加熱された酸化物超伝導体薄膜104により、MgO基板101が効率よく均一に加熱されるようになる。このように、MgO基板101が加熱された状態とし、Nd,Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、図1(g)に示すように、MgO基板101の裏面にNd1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜105が膜厚300nm程度に形成された状態とする。酸化物超伝導体薄膜105の形成は、前述した酸化物超伝導体薄膜104の形成と同様である。これらのことにより、MgO基板101の両面に、酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。
【0019】
次に、上述したことにより形成された酸化物超伝導体薄膜104及び酸化物超伝導体薄膜105の、77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について説明する。まず、酸化物超伝導体薄膜104は、図2(a)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が4.5〜5.0MA/cm2となり、高い均一性が得られている。また、酸化物超伝導体薄膜105は、図2(b)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が4.0〜5.0MA/cm2となり、こちらも、高い均一性が得られている。これらのように、図1を用いて説明した製造方法によれば、MgO基板101の両面に、酸化物超伝導体薄膜を均一に形成できる。
【0020】
次に、カーボン層102の膜厚について説明する。MgO基板を効率よく均一に加熱するためには、以降に説明するように、カーボン層の膜厚を制御した方がよい。以下に、カーボン層の好適な膜厚について説明する。なお、以下では、La1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜を形成する場合を例にして説明する。まず、前述同様に、1辺が20mm程度の矩形の酸化マグネシウム(MgO)基板を用意する。MgO基板は、主表面が(100)面とされたものである。次に、MgO基板の裏面に、やはり前述同様に、膜厚100nm程度のカーボン層が形成された状態とする。次に、MgO基板の主表面に形成されている劣化層が除去された状態とする。
【0021】
ついで、MgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されているカーボン層を輻射熱により加熱することで、MgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。このように、MgO基板が加熱された状態とし、ランタン(La),Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、MgO基板の主表面にLa1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が膜厚200nm程度に形成された状態とする。
【0022】
例えば、MgO基板が搬入された処理室内を1×10-7Pa程度にまで排気する。ついで、処理室内に酸素ラジカルを導入し、MgO基板の主表面に酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された(吹き付けられた)状態とする。酸素ラジカルは、所定の酸素ラジカル生成装置を用いて供給すればよく、2sccmで供給すればよい。酸素ラジカルの代わりに、オゾンガスなどの他の酸化ガスを供給するようにしてもよい。このとき、基板近傍の圧力は、6×10-3Pa程度の圧力に制御された状態とする。
【0023】
以上のように酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された後、前述したように、輻射熱によるカーボン層の加熱でMgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。ついで、処理室内に配置されている各るつぼ内に収容されているLa,Ba,及びCuの各蒸着源を、電子ビーム照射により所定温度にまで加熱して蒸発させ、これらよりなる金属原料がMgO基板の主表面に供給された状態とする。これらの結果、MgO基板の主表面では、供給されている金属原料が酸素ラジカルにより酸化されるなどのことにより、La1Ba2Cu37-dからなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。この後、MgO基板の温度が200℃程度にまで低下されるまで、基板の雰囲気に前述した反応ガスが供給されている状態とする。
【0024】
以上のようにすることで、均一に加熱された状態のMgO基板の主表面に、La1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。上述したように、カーボン層の膜厚を200nmと薄くした場合、主表面に形成される酸化物超伝導体薄膜は、図3に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が0.13〜4.0MA/cm2となり、大きくばらつく。また、超伝導臨界電流値は、より小さい値となる。カーボン層の膜厚を100nmと更に薄くすると、上述した特性が更に劣化する。これらのことより、カーボン層は、膜厚300nm以上に形成されていた方がよい。
【0025】
ところで、前述したように、MgO基板101の両面に酸化物超伝導体薄膜を形成する場合、裏面に酸化物超伝導体薄膜105を形成するときは、すでに形成されている酸化物超伝導体薄膜104を輻射熱により加熱することで、MgO基板101を効率よく均一に加熱するようにしている。従って、上述したカーボン層102の膜厚と同様に、両面に酸化物超伝導体薄膜を形成する場合、先に形成されている酸化物超伝導体薄膜104の膜厚の制御も重要となる。以下に、両面に酸化物超伝導体薄膜を形成する場合の、先に形成する酸化物超伝導体薄膜の膜厚について説明する。なお、以下では、Sm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜を形成する場合を例にして説明する。
【0026】
まず、前述同様に、1辺が20mm程度の矩形の酸化マグネシウム(MgO)基板を用意する。MgO基板は、主表面が(100)面とされたものである。次に、MgO基板の裏面に、やはり前述同様に、膜厚500nm程度のカーボン層が形成された状態とする。次に、MgO基板の主表面に形成されている劣化層が除去された状態とする。
【0027】
ついで、MgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されているカーボン層を輻射熱により加熱することで、MgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。このように、MgO基板が加熱された状態とし、サマリウム(Sm),Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、MgO基板の主表面にSm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が膜厚200nm程度に形成された状態とする。
【0028】
例えば、MgO基板が搬入された処理室内を1×10-7Pa程度にまで排気する。ついで、処理室内に酸素ラジカルを導入し、MgO基板の主表面に酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された(吹き付けられた)状態とする。酸素ラジカルは、所定の酸素ラジカル生成装置を用いて供給すればよく、2sccmで供給すればよい。酸素ラジカルの代わりに、オゾンガスなどの他の酸化ガスを供給するようにしてもよい。このとき、基板近傍の圧力は、6×10-3Pa程度の圧力に制御された状態とする。
【0029】
以上のように酸素ラジカルを含む反応ガスが供給された後、前述したように、輻射熱によるカーボン層の加熱でMgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。ついで、処理室内に配置されている各るつぼ内に収容されているSm,Ba,及びCuの各蒸着源を、電子ビーム照射により所定温度にまで加熱して蒸発させ、これらよりなる金属原料がMgO基板の主表面に供給された状態とする。これらの結果、MgO基板の主表面では、供給されている金属原料が酸素ラジカルにより酸化されるなどのことにより、Sm1Ba2Cu37-dからなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。この後、MgO基板の温度が200℃程度にまで低下されるまで、基板の雰囲気に前述した反応ガスが供給されている状態とする。
【0030】
以上のようにすることで、均一に加熱された状態のMgO基板の主表面に、Sm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。次に、例えば、有機溶剤による洗浄や、活性状態の酸素を用いたアッシングなどにより、裏面に形成されているカーボン層を除去し、MgO基板の裏面が露出した状態とする。ついで、前述同様に、MgO基板が酸素雰囲気の中に配置された状態とし、加えて、MgO基板を加熱処理することで、裏面側の劣化層が除去された状態とする。
【0031】
次に、MgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されている酸化物超伝導体薄膜を輻射熱により加熱することで、MgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。このように、MgO基板が加熱された状態とし、Sm,Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、MgO基板の裏面に、Sm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が、膜厚600nm程度に形成された状態とする。酸化物超伝導体薄膜の形成は、前述した酸化物超伝導体薄膜の形成と同様である。これらのことにより、MgO基板の両面に、酸化物超伝導体薄膜が形成された状態が得られる。
【0032】
次に、上述したことにより形成された主表面の酸化物超伝導体薄膜及び裏面の酸化物超伝導体薄膜の、77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について説明する。まず、主表面の酸化物超伝導体薄膜は、図4(a)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が4.0〜4.5MA/cm2となり、高い均一性が得られている。一方、裏面の酸化物超伝導体薄膜は、図4(b)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が0.05〜3.0MA/cm2となり、大きくばらつく。また、超伝導臨界電流値は、小さい値となる。
【0033】
これに対し、先に形成される表面の酸化物超伝導体薄膜を膜厚300nm程度に形成しておくと、裏面の酸化物超伝導体薄膜の超伝導臨界電流値は、表面の酸化物超伝導体薄膜と同様に高い均一性が得られる。これらのことにより、裏面側にも酸化物超伝導体薄膜を形成する場合、先に主面に形成されている酸化物超伝導体薄膜は、膜厚300nm以上とされていた方がよいことが分かる。また、上述では、Sm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜を例にとり説明したが、これに限るものではない。RE1Ba2Cu37(REはNd,La,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Yの1つ)であれば、吸熱分散効果がほぼ等しいので、いずれの酸化物超伝導体薄膜であっても同様である(非特許文献2参照)。
【0034】
次に、形成する酸化物超伝導体薄膜の膜厚と均一性との関係について説明する。以下では、Sm1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜を形成する場合を例にして説明する。まず、前述同様に、1辺が20mm程度の矩形の酸化マグネシウム(MgO)基板を用意する。MgO基板は、主表面が(100)面とされたものである。また、8枚のMgO基板を用意する。次に、各MgO基板の裏面に、やはり前述同様に、膜厚500nm程度のカーボン層が形成された状態とする。次に、各MgO基板の主表面に形成されている劣化層が除去された状態とする。
【0035】
ついで、MgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されているカーボン層を輻射熱により加熱することで、MgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。このように、MgO基板が加熱された状態とし、ユウロピウム(Eu),Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、各MgO基板の主表面にEu1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる膜厚700nmの酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする。
【0036】
次に、例えば、有機溶剤による洗浄や、活性状態の酸素を用いたアッシングなどにより、各MgO基板の裏面に形成されているカーボン層を除去し、各MgO基板の裏面が露出した状態とする。ついで、前述同様に、MgO基板が酸素雰囲気の中に配置された状態とし、加えて、MgO基板を加熱処理することで、各MgO基板の裏面側の劣化層が除去された状態とする。
【0037】
次に、MgO基板を、分子線エピタキシー装置の処理室内に搬入し、MgO基板に形成されている酸化物超伝導体薄膜を輻射熱により加熱することで、MgO基板が700℃程度に加熱された状態とする。なお、加熱の温度は、700℃に限らず、650〜850℃の範囲であればよい。このように、MgO基板が加熱された状態とし、Eu,Ba,及びCuを蒸発源とする分子線エピタキシー法により、MgO基板の裏面にEu1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3)からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする。酸化物超伝導体薄膜の形成は、前述した酸化物超伝導体薄膜の形成と同様である。
【0038】
これらのことにより、裏面側に、膜厚100nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚200nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚300nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚400nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚500nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚600nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚700nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板、膜厚800nmに酸化物超伝導体薄膜が形成されたMgO基板が、各々形成された状態とする。
【0039】
次に、上述したことにより形成された裏面の酸化物超伝導体薄膜の、77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について説明する。まず、膜厚200nm以上に形成した酸化物超伝導体薄膜は、図5(a)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が4.0〜4.5MA/cm2となり、高い均一性が得られている。一方、膜厚200nm以下に形成した酸化物超伝導体薄膜は、図5(b)に示すように、測定した範囲内において、超伝導臨界電流値が2.3〜3.0MA/cm2となり、大きくばらつく。また、超伝導臨界電流値は、小さい値となる。これは、酸化物超伝導体薄膜の膜厚が200nmより薄い場合に、超伝導臨界温度が低下することが原因であることが判明している。
【0040】
なお、上述では、RE1Ba2Cu37-d(0≦d≦0.3、REは、Nd,La,Sm,Eu)からなる酸化物超伝導体薄膜を形成する場合について説明したが、RE1-xBa2-yCu3-z7-d,RE1+xBa2-yCu3-z7-d,RE1+xBa2+yCu3-z7-d,RE1+xBa2+yCu3+z7-d,RE1+xBa2-yCu3+z7-d,RE1-xBa2+yCu3+z7-d,RE1-xBa2-yCu3+z7-d(0≦x≦0.2,0≦y≦0.2,0≦z≦0.2,0≦d≦0.3)であっても同様である。また、REが、ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),イットリウム(Y)であっても同様である(非特許文献3参照)。また、上述では、1辺20mmの矩形基板を例に説明したが、これに限るものではなく、1辺40mmの矩形基板,直径2インチの円形基板であっても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態における酸化物超伝導体薄膜の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について示す説明図である。
【図3】77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について示す説明図である。
【図4】77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について示す説明図である。
【図5】77Kにおける超伝導臨界電流値(Jc)の測定結果(基板内のバラツキ)について示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
101…酸化マグネシウム(MgO)基板、102…カーボン層、103…酸素雰囲気、104…酸化物超伝導体薄膜、105…酸化物超伝導体薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO基板の裏面にカーボン層が形成された状態とする第1工程と、
前記カーボン層を輻射熱により加熱することで前記MgO基板が加熱された状態とし、前記MgO基板の主表面に少なくともバリウムと銅とを含む酸化物からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする第2工程と
を備えることを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、
前記第2工程の後、前記カーボン層を除去する第3工程と、
前記MgO基板の主表面に形成された酸化物超伝導体薄膜を輻射熱により加熱することで前記MgO基板が加熱された状態とし、前記MgO基板の裏面に少なくともバリウムと銅とを含む酸化物からなる酸化物超伝導体薄膜が形成された状態とする第4工程と
を備えることを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、
前記カーボン層は、複数のカーボンの微粒子から構成されたものである
ことを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、
前記カーボン層は、複数のカーボン微粒子が有機溶媒中に分散した塗布液を前記MgO基板の裏面に塗布して乾燥することで形成する
ことを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、
前記カーボン層は、膜厚が300nm以上に形成された状態とする
ことを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物超伝導体薄膜の製造方法において、
前記酸化物超伝導体薄膜は、バリウムと銅とに加え、Nd,La,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Yの少なくとも1つを含む酸化物である
ことを特徴とする酸化物超伝導体薄膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−107075(P2007−107075A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301436(P2005−301436)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】