説明

酸性ガスの除去のための環式アミン含有吸収剤

流体流から酸性ガスを除去するための吸収剤は、A)第三級アミン基及び/又は立体障害した第二級アミン基のみを有する、少なくとも1の環式アミン化合物、及びB)少なくとも1の立体障害していない第二級アミン基を有する、少なくとも1の環式アミン化合物の溶液を含む。この吸収剤は、例えば、A)1−ヒドロキシエチルピペリジン及び/又はトリエチレンジアミン及びB)ピペラジンの水溶液を含む。この吸収剤は、特に、煙道ガスからの二酸化炭素の分離のために適しており、かつ、次の基準を満たす:(i)低いCO2分圧での十分な収容能;(ii)低いCO2分圧での十分に迅速な吸収率;(iii)酸素に対する安定性:(iv)溶媒損失の減少のための低い蒸気圧:及び(v)吸収剤の再生のための低いエネルギー要求。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、流体流から酸性ガスを除去するため、特に、煙道ガスから二酸化炭素を除去するための方法に関する。
【0002】
煙道ガスからの二酸化炭素の除去は種々の理由から所望されており、殊にしかし、いわゆる温室効果の主原因とみなされる二酸化炭素の放出を減らすために所望されている。
【0003】
工業的規模において、流体流から、酸性ガス、例えば二酸化炭素を除去するために、頻繁に、有機塩基、例えばアルカノールアミンの水溶液が吸収剤として使用される。その場合、酸性ガスの溶解に際して、この塩基及び酸性ガス成分からイオン生成物が形成される。吸収剤は、加熱、より低圧への放圧、又はストリッピングによって再生されることができ、その際、このイオン生成物は酸性ガスへと逆反応し、かつ/又は酸性ガスは蒸気によってストリッピング除去される。再生プロセスの後、吸収剤は、再使用することができる。
【0004】
煙道ガスは、極めて僅かな二酸化炭素分圧を有し、それというのも、この煙道ガスは、通常は大気圧付近の圧力で生じ、典型的には、二酸化炭素3〜20体積%を含有するからである。流体、例えば天然ガス又は合成ガスと異なり、煙道ガスはさらに酸素を含有する。酸素は少ない痕跡量において吸収剤中にも溶解し、かつここで高められた温度でアミンの分解を生じることがある。煙道ガスからの二酸化炭素の分離のための吸収剤は、以下の基準を満たすべきである:(i)低いCO2分圧での十分な収容能(Kapazitaet);(ii)低いCO2分圧での十分に迅速な吸収率;(iii)酸素に対する安定性:(iv)溶媒損失の減少のための低い蒸気圧:及び(v)吸収剤の再生のための低いエネルギー要求。
【0005】
Fluor Econamineとの称呼には、モノエタノールアミン(MEA)を基礎とする、煙道ガスからの二酸化炭素の分離のための技術が知られている(例えば、Second National Conference on Cabron Sequestration, National Energy Technology Department of Energy, Alexandria VA, USA, May 5-8, 2003、以下表題で: FIuor's Econamine FG PlusSM Technology; An Enhanced Amine-Based CO2 Capture Processを参照のこと)。
【0006】
MDEA及びピペラジンから構成される混合物はこの文献において、煙道ガスからのCO2分離のための同様に適した溶媒であると記載されている(Closman, F.; Nguyen, T.; Rochelle, G.T: MDEA/Piperazine as a solvent for CO2 capture, GHGT-9, Washington DC, USA 2008, Nov 16-20)。
【0007】
モノエタノールアミンを基礎とする技術は確かにアミンと二酸化炭素との間での高い反応性により優れている。しかしこの高い反応性は不利なことに、高い吸収エンタルピー、したがって再生のための高いエネルギー要求を伴う。他のアルカノールアミン、例えばジエタノールアミン又はメチルジエタノールアミンは再生のためのより低いエネルギー要求を示すが、二酸化炭素とアミンとの間でのそのより遅い反応キネティックのためにこの分離目的のために限定的にだけ適する。
【0008】
EP−A558019には、煙道ガスからの二酸化炭素の除去のための立体障害したアミンの水溶液が記載されている。
【0009】
WO2007/144372は、二酸化炭素の分圧がガス流中で200mbar未満であるガス流から、例えば、煙道ガスから二酸化炭素を除去する方法であって、第三級脂肪族アルコールアミン及び活性炭、特に3−メチルアミノプロピルアミンの水溶液と接触させる方法を開示する。
【0010】
WO2005/087349は、二酸化炭素の分圧がガス流中で200mbar未満であるガス流から二酸化炭素を除去するための方法であって、このガス流を、(A)分子中に少なくとも2つの第3アミノ基を有するアミン化合物及び(B)第一級アミン及び第二級アミンから選択されている活性剤の水溶液を含む液状吸収剤と接触させる方法を記載する。
【0011】
本発明の根底をなす課題は、流体流からの酸性ガスの除去のための、特に煙道ガスからの二酸化炭素の除去のための吸収剤であって、先行技術から知られている吸収剤に比較して上述の要求をより良好に満たす吸収剤を挙げることである。
【0012】
本発明は、
A)第三級アミン基及び/又は立体障害した第二級アミン基のみを有する、少なくとも1つの環式アミン化合物、及び
B)少なくとも1つの立体障害していない第二級アミン基を有する、少なくとも1つの環式アミン化合物の水溶液を含む、流体流から酸性ガスを除去するための吸収剤を提供する。
【0013】
この環式アミン化合物A)は、好ましくは250g/mol以下のモル質量を有する。この環式アミン化合物B)は、好ましくは200g/mol以下のモル質量を有する。
【0014】
本発明により使用される環式アミン化合物は、環原子として少なくとも1つの窒素原子を有する飽和複素環を含む。第三級アミン基とは、本願によれば、この窒素原子が3つの隣接炭素原子と結合しているアミン基が理解される。立体障害した第二級アミン基とは、本願によれば、この窒素原子が2つの隣接炭素原子と結合し、かつ、少なくとも1つの窒素原子に対して隣接する炭素原子(α−炭素)は1以下の水素原子を有するアミン基が理解される。言い換えると、少なくとも1つのα−炭素は、少なくとも1個の、環外の、水素とは異なる置換基を有する。立体障害した第二級アミン基は、全てのα−炭素がCH2−基として存在するものである。
【0015】
B)に対するA)の質量比は好ましくは0.5〜4、特に1〜3である。
【0016】
一般的に、A)+B)の全濃度は10〜60質量%、好ましくは20〜45質量%である。
【0017】
このアミン化合物は、その水溶液の形で使用される。この溶液は、付加的に物理的溶媒を含有でき、これは例えばシクロテトラメチレンスルホン(スルホラン)及びその誘導体、脂肪族酸アミド(アセチルモルホリン、N−ホルミルモルホリン)、N−アルキル化ピロリドン及び相応するピペリドン、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、プロピレンカーボネート、メタノール、ポリエチレングリコールのジアルキルエーテル及びその混合物から選択されている。所定の実施態様において、この吸収剤は物理的溶媒を含まず、すなわち、この吸収剤は実質的にアミン化合物A)及びB)及び水からなる。
【0018】
好ましい実施態様においては、環式アミン化合物A)が、一般式I
【化1】

[式中、mは1、2又は3である、RはH、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルであり、又は、mが2である場合には2つの残基Rは一緒になってC2〜C3−アルキレン架橋を形成できる、R′は、H、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルである、R″は、H又はC1〜C4−アルキルである、Zは結合又はC1〜C6−アルキレンである、但し、全ての繰り返し単位においては少なくとも1つの残基R、R′又はR″はHとは異なる]
の5〜7員環を有する。
【0019】
環式アミン化合物A)のための特定の例は次のものである:
【化2】

【化3】

【0020】
好ましい実施態様において、環式アミン化合物B)は、一般式II
【化4】

[式中、ZはC2〜C4−アルキレンであり、これは場合によりO又は基NR′″により中断されている、その際、R′″はH、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルであり、かつ、これは場合によりC1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルにより1回又は複数回置換されている]
を有する。
【0021】
環式アミン化合物B)のための特定の例は次のものである:
【化5】

【0022】
本発明により特に好ましい吸収剤は、
A)1−ヒドロキシエチル−ピペリジン及び/又はトリエチレンジアミン、及び
B)ピペラジン
の水溶液を含む。
【0023】
この吸収剤は、添加剤、例えば腐食防止剤、酵素その他を含むことができる。一般的には、この種の添加剤の量は、この吸収剤の約0.01〜3質量%の範囲内にある。
【0024】
本発明は、酸性ガス、特に二酸化炭素の、流体流からの除去のための方法にも関し、その際、流体流を上で定義された吸収剤と接触させる。
【0025】
本発明による方法又は吸収剤は、全ての種類の流体、特にガス流の処理のために適している。酸性ガスとは、特にCO2、H2S、COS及びメルカプタンである。それ以外に、SO3、SO2、CS2及びHCNも除去されることができる。
【0026】
酸性のガスを含有する流体は、一方ではガス、例えば天然ガス、合成用ガス、コークス炉ガス、分解ガス、石炭ガス化ガス、循環ガス、埋立地ガス及び燃焼ガスであり、かつ他方では吸収剤と本質的に非混和性の液体、例えばLPG(Liquefied Petroleum Gas)又はNGL(Natural Gas Liquids)である。
【0027】
本発明による方法又は吸収剤は、酸素含有流体流の処理にとりわけ適している。
【0028】
好ましい実施態様において、流体流は、
a)有機物質の酸化、
b)有機物質を含有する廃棄物の堆肥化又は貯蔵、又は
c)有機物質の細菌による分解
に由来する。
【0029】
若干の実施態様において、流体流中の二酸化炭素の分圧は、500mbar未満、例えば30〜150mbarである。
【0030】
酸化は、火炎発生下で、すなわち従来通りの燃焼として、又は火炎発生なしの酸化として、例えば接触酸化又は部分酸化の形で実施してよい。燃焼に供される有機物質は、通常、化石燃料、例えば石炭、天然ガス、石油、ガソリン、ディーゼル油、ラフィネート又は灯油、バイオディーゼル又は有機物質の含分を有する廃棄物である。接触(部分)酸化の出発物質は、例えば、ギ酸又はホルムアルデヒドに変換されうるメタノール又はメタンである。
【0031】
酸化、堆肥化又は貯蔵に供される廃棄物は、典型的には家庭ゴミ、プラスチック屑又はパッケージゴミである。
【0032】
有機物質の燃焼は、たいていの場合、通常の燃焼プラント中で空気により行なわれる。有機物質を含有する廃棄物の堆肥化及び貯蔵は、一般的にゴミ集積場で行なわれる。有利には、このようなプラントの排ガスもしくは排気は、本発明による方法に従って処理されうる。
【0033】
バクテリアによる分解のための有機物質として、通常、厩肥、藁、水肥(Jauche)、汚泥(Klaerschlamm)、発酵残留物等が使用される。バクテリアによる分解は、例えば通常のバイオガスプラント中で行なわれる。有利には、このようなプラントの排気は、本発明による方法に従って処理されうる。
【0034】
該方法は、燃料電池の、又は有機物質の(部分)酸化に用いられる化学合成プラントの排ガスを処理するためにも適している。
【0035】
上述の起源a)、b)又はc)の流体流は、ほぼ周囲空気の圧力に相当する圧力、すなわち例えば標準圧力か、又は標準圧力と1barまでの偏差を示す圧力のいずれかを例えば有してよい。
【0036】
本発明による方法を実施するのに適した装置は、少なくとも1つの洗浄塔、例えば不規則充填塔、規則充填塔及び棚段塔、及び/又はその他の吸収装置、例えば膜接触装置、ラジアルストリームスクラバー、ジェットスクラバー、ベンチュリスクラバー及びロータリースプレースクラバーを包含する。その際、吸収剤によるガス流の処理は、有利には洗浄塔内で向流において行なわれる。その際、ガス流は、一般的に塔の下部領域に供給され、吸収剤は、塔の上部領域に供給される。
【0037】
吸収剤の温度は、吸収工程で一般に約30〜70℃であり、塔を使用する場合には、例えば塔の頭頂部で30〜60℃であり、塔の塔底部で40〜70℃である。酸性のガス成分の乏しい、即ちこのガス成分の含量が減少された生成ガス(付加ガス(Beigas))及び酸性成分が負荷された吸収剤を得ることができる。
【0038】
有利な一実施態様において酸性ガスの除去を、向流で運転する洗浄塔中で、洗浄塔の内部に存在する活性炭の存在下で実施し、この洗浄塔では内部に不連続的液相が形成される。使用すべき洗浄塔は加えて、通常存在する内部構造物、例えば不規則充填体又は規則充填体を含有する。この活性炭は好ましくは90質量%を超える炭素含量及び300〜2000m2/gのBET表面積を示す。その濃度は一般的には洗浄塔の体積m3あたり1〜2000g活性炭である。活性炭は様々な手法で供給されることができる。好ましい一実施態様において、これは液状吸収剤中に懸濁される。この場合にその粒径は好ましくは0.1〜1000μm、特に好ましくは0.1〜50μmの範囲内にある。液状吸収剤に対してこの懸濁された活性炭の濃度は好ましくは1m3あたり0.01〜20kg、特に好ましくは1m3あたり1〜10kgである。他の好ましい一実施態様において、これは洗浄塔の内部で場所的に固定された形で設置される。この場合に活性炭は例えば固く設置された液体−及びガス透過性ポケット(活性炭ペレットの形にあるようなもの)中に又は活性炭でコーティングされた規則充填体又は不規則充填体中に固定して洗浄塔中にある。洗浄塔の体積に対してこの固定された活性炭の濃度は好ましくは1m3あたり1g〜2kg、特に好ましくは1m3あたり100g〜1kgである。活性炭の存在によりこの液状吸収剤の吸収率は高められ、これは更により効率的な方法の実施を生じる。水性アルカリ性吸収剤中での酸性ガスの吸収における活性炭の使用についての更なる詳細は番号EP−Az.09154427.0を有するEP優先権書面に記載されている。
【0039】
酸性のガス成分が負荷された吸収剤から、二酸化炭素が再生工程において放出されることができ、その際、再生された吸収剤が得られる。再生工程において、吸収剤の負荷は減少され、かつこの得られた再生された吸収剤は、好ましくは引き続き吸収工程に返送される。
【0040】
一般的に、負荷された吸収剤は、
a)例えば70〜130℃への加熱、
b)放圧、
c)不活性流体を用いてのストリッピング
又はこれらの措置の2つ又は全ての組み合わせによって再生される。
【0041】
通常は、負荷された吸収剤は再生のために加熱され、かつ放出された二酸化炭素は、例えば脱着塔内で分離除去される。再生された吸収剤が再び吸収装置中に導入される前に、それは適した吸収温度へと冷却される。高温で再生された吸収剤中に含まれるエネルギーを利用するために、吸収装置からの負荷された吸収剤を、高温で再生された吸収剤との熱交換によって予熱することが有利である。熱交換によって、負荷された吸収剤はより高い温度にもたらされ、そうして再生工程においてより僅かな使用エネルギーが必要となる。熱交換によって、負荷された吸収剤の部分的な再生もすでに、二酸化炭素の放出下に行うことができる。得られた気液混合相の流は、相分離容器中に導通され、該相分離容器から二酸化炭素が取り出される;液相は、吸収剤の完全な再生のために脱着塔内に導通される。
【0042】
本発明による吸収剤−処理前に、煙道ガスを冷却しかつ湿潤(急冷)させるために、煙道ガスは好ましくは水性液体、殊に水での洗浄に供せられる。洗浄に際して、ダスト又はガス状の不純物、例えば二酸化硫黄も除去することができる。
【0043】
本発明は、添付した図面及び以下の実施例によってより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明による方法の実施に適した設備を示す。
【図2】図2は、異なる吸収剤の相対的な吸収率の測定のために用いられる、二重撹拌セルの図示を示す。
【0045】
図1では、以下の符号が以下の意味を有する:
1=煙道ガス
2=二酸化炭素が少なくなった煙道ガス
3=分離された二酸化炭素
A=吸収塔
B=水洗浄
C=吸収
D=冷却器
E=冷却器
F=ポンプ
G=ポンプ
H=脱着塔
I=熱交換器
J=蒸発器(リボイラー)
K=凝縮器。
【0046】
図1によれば煙道ガス1は吸収塔Aの下方部中に導通され、向流において吸収剤と接触される。この二酸化炭素が少なくなった煙道ガスを吸収塔の上方部中で水で洗浄し、頂部を介して流2としてこの塔から導く。この二酸化炭素で負荷した吸収剤を吸収塔Aの底部で取り出し、かつポンプG及び熱交換器Iを介して脱着塔Hに導通させる。脱着塔の下側部分でこの負荷された吸収剤を蒸発器Jを介して加熱する。この温度上昇によりこの吸収された二酸化炭素の一部が再度気相中に移行する。これを脱着塔Hの頭頂部で搬出し、凝縮器K中で冷却する。この凝縮した吸収剤をこの頭頂部を介して再度返送する。この気体状二酸化炭素を流3として取り出す。この再生した吸収剤をポンプF及び冷却器Eを介して再度吸収塔Aに返送する。
【0047】
図2では、使用した符号が以下の意味を有する:
A=二酸化炭素−貯蔵容器
B=二重撹拌セル
C=サーモスタット
D=計量供給弁
E=圧力測定装置。
【0048】
二重撹拌セルBにおいては、試験すべき吸収剤の下方液相が存在し、これは相界面を介してこの上にある気相と接触している。液相及び気相はそれぞれ撹拌機によって混和可能である。二重撹拌セルBは、計量供給弁Dを介して二酸化炭素−貯蔵容器と連結している。二重撹拌セルB中の圧力は、圧力測定装置Eを用いて測定されることができる。この測定の際に、二酸化炭素−体積流が記録され、これは、予め設定された圧力を二重撹拌セルB中で守るために調節する。
【0049】
実施例において、次の略称が使用される:
MEA=モノエタノールアミン
MDEA=メチルジエタノールアミン
TEDA=トリエチレンジアミン
1−HEPi=1−ヒドロキシエチルピペリジン
PIP=ピペラジン
MPE=1−メチル−2−ピロリジンエタノール
AC=活性炭。
【0050】
実施例1:本発明による及び本発明によらない吸収剤での相対的な循環収容能及び再生のための相対的な蒸気量要求
二酸化炭素−循環収容能及び再生要求の測定のために、様々な、二酸化炭素で負荷した吸収剤を用いた実験室試験を実施した。比較の基礎として、30質量%の、水中のモノエタノールアミンの溶液並びにピペラジンで活性化させたメチルジエタノールアミン溶媒を利用する。
【0051】
相対的な循環収容能の算出及び吸収剤の再生のための相対的な蒸気量要求の見積もりのために、二酸化炭素の平衡負荷を吸収剤中で40℃(吸収器底部のために)及び120℃(脱着器底部のために)で二酸化炭素−分圧に依存して測定した。この測定を全ての表1中に挙げる系について実施した。この平衡負荷の測定のために約100cm3の体積を有するガラス圧力容器を使用した。この中に定義された量の吸収剤を装入し、この容器を排気し、一定の温度で二酸化炭素を段階的に、定義されたガス体積を介して計量供給した。この液相中に溶解された量の二酸化炭素を、ガス室校正(Gasraumkorrektur)を考慮して上にある気相を通じて算出した。
【0052】
吸収剤の循環収容能を見積もるために、次のような想定をした:
1.吸収器に1barの全圧で、130hPaの二酸化炭素分圧(雰囲気圧力で煙道ガス中での約13Vol.−%二酸化炭素に相当)を有する二酸化炭素含有煙道ガスを装入した。
2.吸収器底部は、40℃の温度が支配している。
3.再生の場合、脱着器底部中では120℃の温度が支配している。
4.吸収器底部では平衡状態が達成される。したがって二酸化炭素−平衡分圧は130hPaの供給ガス分圧と同じである。
5.吸着の場合に100hPaの二酸化炭素−分圧が吸着器底部中に支配している。
6.吸着の場合に平衡状態が達成される。
【0053】
吸収剤の収容能を、40℃の平衡曲線と13kPaの一定の供給ガス−二酸化炭素−分圧の線(平衡における吸収器底部での負荷された溶液)との交点での負荷(Nm3二酸化炭素/t吸収剤で)から、及び、120℃の平衡曲線と100hPaの一定の分圧の線(平衡における脱着器底部での再生された溶液)との交点での負荷から算出した。両者の負荷の差異は、それぞれの溶媒の循環収容能である。大きな収容能とは、より少ない溶媒を循環させなければならず、したがって機器、例えばポンプ、熱交換器、しかも導管もより小型に寸法決定することができることを意味する。更にこの循環量は再生に必要なエネルギーにも影響を及ぼす。
【0054】
吸収剤の適用特性のための更なる1つの尺度は、脱着器のマッケーブ−シーレ線図中の作業直線の上昇である。脱着器の底部中での挙動についてこの作業直線は通常平衡線に極めて近く、したがって平衡曲線の上昇は作業直線の上昇に近似的に同一視されうる。一定の液体負荷の場合には、吸収剤の再生のために平衡曲線の大きな上昇と共により少ないストリッピング蒸気量が必要とされる。ストリッピング蒸気の発生のためのエネルギー要求は、本質的に、二酸化炭素−吸収プロセスの全エネルギー要求に貢献する。
【0055】
適切には上昇の相関的な値が定められ、それというのもこの値は、吸収剤1kg当たりに必要とされる蒸気量に直接に比例するからである。この相関的な値を吸収剤の収容能で除する場合には、吸収された二酸化炭素量につき必要とされる蒸気量についての相対的な証言を直接に可能にする比較値が得られる。
【0056】
表1には本発明による吸収剤のために相対的な循環収容能及び相対的な蒸気量要求の値が示されている(MEAを標準として)。30質量%のMEAと比較して、この相対的な循環収容能は、本発明による溶媒の使用の場合に3〜46%より大きい。この相対的な蒸気量要求は、本発明による溶媒にとっては、比較溶媒MEAにとってのものに比較して著しくより少なく、このことは、大工業的適用において巨大な節約可能性を提示する。MDEA及びピペラジンからの比較吸収剤は、この収容能及びエネルギー要求に関して、モノエタノールアミンに比較して同様に顕著な改善を示す。
【0057】
実施例2:本発明による及び本発明によらない吸収剤での相対的な吸収率
ガス流から吸収剤中への二酸化炭素の物質輸送速度の測定のために測定を二重撹拌セル(Doppelruehrzell)(図2)中で実施した。この物質輸送速度は反応性吸収の際に物理的な物質輸送からも、吸収剤と二酸化炭素との間での反応キネティックからも構成される。この両者の影響の大きさはこの二重撹拌セル中で概略的なパラメーターとして測定されることができる。比較の基礎として水中の31.2質量%のモノエタノールアミン(MEA)、並びに水中の、15質量%のピペラジンを有する25質量%のメチルジエタノールアミンを利用した。本発明による吸収剤は、15〜30質量%の環式第三級アミン及び15質量%のピペラジンを含有した。
【0058】
この二重撹拌セルは内径85mm及び体積509mlを有した。このセルを試験の間50℃にサーモスタット処理した。この気相及び液相の混合のためにこのセルは図示によれば2個の撹拌機を備えている。この試験開始前にこの二重撹拌セルを排気した。定義された体積の脱気された吸収剤を二重撹拌セル中に輸送し、50℃に恒温処理した。負荷されていない吸収剤の加熱の間に既に撹拌機のスイッチが入れられる。この撹拌機回転数は、平らな相界面が液相と気相の間で調整されるように選択された。この相界面での波形成は回避すべきであり、というのもこれにより定義された相界面が存在しなくなるためである。この所望の試験温度に達した後に、制御弁を介して二酸化炭素を反応器中に導入した。この体積流を、この二重撹拌セル中にこの試験の間に一定の圧力50hPa abs(二酸化炭素−分圧に相当)が支配するように制御した。増加する試験期間と共に二酸化炭素に関するこの体積流は減少し、というのは吸収剤が時間と共に飽和され、したがって吸収率が減少したからである。この二重撹拌セル中を貫流する二酸化炭素に関する体積流を全試験期間にわたり記録した。この試験終了は、二酸化炭素がもはや二重撹拌セル中に貫流しなくなると直ぐに達成された。この吸収剤は試験終了時にほぼ平衡状態にあった。
【0059】
試験の評価のために吸収率をmol CO2/(m3吸収剤・分)で吸収剤の負荷に依存して測定した。吸収率を、この記録した二酸化炭素に関する体積流から、そして吸収剤に関して充填された体積から算出した。この負荷を、二重撹拌セルに供給された二酸化炭素の集積量から、そして、吸収剤に関する充填された質量から測定した。
【0060】
表2においては、様々な吸収剤の平均の相対的吸収率が、25質量%MDEA/15質量%PIPの平均の吸収率を標準として、提示されている。この平均の吸収率を、次のように決定した:吸収剤の最大負荷から出発して(CO2分圧50hPa及び温度50℃でほとんど平衡状態)、吸収率を最大負荷の75、50及び20%の負荷で測定及び決定した。20%未満の負荷での吸収率は、この決定には考慮されず、というのも、この吸収剤は工業的プロセスにおいてCO2の残留負荷でもって吸収装置中に達するからである。
【0061】
MEDA/PIP吸収剤と比較して、本発明による吸収剤の吸収率はより大きく、一部では、CO2に対して極めて相対的(reaktiv)であるモノエタノールアミンに比較してより大きくさえある。
【0062】
15質量%PIP及び25質量%TEDA及び0.1質量%活性炭からなる吸収剤のためには、この吸収率の更なる向上が、15質量%PIP及び25質量%TEDAからなる吸収剤と比較して観察されることができた。活性炭の添加により、この吸収率は2倍よりも多く高められた。
【0063】
実施例1を考慮すると、本発明による吸収剤は、全ての3つの基準−サイクル収容能(zyklische Kapazitaet)、再生要求及び吸収率−を考察すると、MEAに対する、また、MDEA及びPIPからなる混合物に対する利点も明らかに示される。そして、MEA水溶液は確かに極めて高い吸収率を有すものの、同様に極めて高いエネルギー要求も再生の際に示すだろう。反対に、MDEA及びPIPから構成される水性混合物は不十分な低い吸収率だけ示し、このことは工業的な変換の際に遙かにより大きい吸収塔を必要とするものである。実施例1及び2は、相応する混合物の使用により、意外なことに、高い吸収率を示すのと同様に、再生のための必要とされるエネルギー要求も極めて低い、極めて調和のとれた吸収剤が得られることを裏付ける。
【0064】
実施例3:本発明による及び本発明によらない吸収剤の酸素安定性
水性アミン混合物の酸素安定性の検査のために、以下に記載の検査を実施した。油浴により加熱可能なオートクレーブ中で約150mlの吸収剤を装入した。40℃の温度で、この試料中に連続的に、33体積%CO2、14体積%酸素及び53体積%窒素からなるガス混合物(V=7.5Nl/h)が導通され、付加的にこの液体は10Nl/hの窒素で覆われた。全体的な液体中へのガスの分布のために、金属フリットを使用した。吸収損失の防止のために、このオートクレーブの上方には、温度4℃で運転される還流冷却器が存在する。還流冷却器の出口でのCO2濃度は、IRセンサーを用いて測定する。吸収剤が完全にCO2で負荷されるとすぐ、このIRセンサーで測定されるCO2濃度は突然増加する。ガスの供給を停止し、この試料を100℃に加熱する。試料のストリッピングのために、吸収剤中に窒素のみを導通する。この試料のストリッピングの間に、還流冷却器の出口での濃度を同様にIRセンサーを用いて監視する。CO2濃度がほぼ0であるとすぐ、このオートクレーブの内容物は40℃に冷却され、このサイクルを新たに開始する。このサイクルにより、この吸収過程及び脱着過程は調節し直される。各サイクル後に、この吸収剤の小さい試料を取り出し、ガスクロマトトグラフィを用いてその成分(アミン含分)について検査した。この試験は、数百時間の間実施され、これにより、この吸収剤の安定性に関する言及が可能になる。これにより、この安定性のための全体的パラメーターが突き止められ、というのも、酸素安定性、熱安定性も、またCO2に対するアミンの安定性も、測定されるからである。
【0065】
表3に説明される実施例のためにそれぞれ試験系列が実施され、この場合に少なくとも2つのオートクレーブが並行して稼働された。オートクレーブは30質量%のモノエタノールアミン溶液を用いて稼働され、この第2のものは試験すべき吸収剤を有する。尺度として、MEAに関する損失に比較したアミン化合物A)の相対的なアミン損失が示される。すなわち、100%ではこのアミン化合物A)は、MEAと同様に安定であるか、又は10%では10倍より安定である。
【0066】
ピペラジンの安定性は既にFreeman et al.により試験されている。この結果は、特にFreeman, S. A.; Dugas, R. van Wagener, D., Nguyen, T.; Rochelle G. T.: Carbon dioxide capture with concentrated, aqueous piperazine, GHGT9, 2008 Nov 16 -20, Washington DC, USAに記載されている。この検査においては、ピペラジンがモノエタノールアミンに比較して、酸素に対して4倍より安定であり、かつ、モノエタノールアミンに比較して熱分解を示さないことが見出された。
【0067】
表1:MEAに対して標準化した相対的な循環収容能及び蒸気量要求
【表1】

【0068】
表2:25質量%MDEA及び15質量%PIPに対して標準化された異なる吸収剤の相対的平均吸収率
【表2】

【0069】
表3:MEAに比較した第三級環式アミンの相対的安定性
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)第三級アミン基及び/又は立体障害した第二級アミン基のみを有する、少なくとも1の環式アミン化合物、及び
B)少なくとも1の立体障害していない第二級アミン基を有する、少なくとも1の環式アミン化合物
の水溶液を含む、流体流から酸性ガスを除去するための吸収剤。
【請求項2】
A)のB)に対する質量比は0.5〜4である、請求項1記載の吸収剤。
【請求項3】
A)+B)の全濃度は10〜60質量%である、請求項1又は2記載の吸収剤。
【請求項4】
環式アミン化合物A)が、一般式I
【化1】

[式中、mは1、2又は3である、RはH、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルであり、又は、mが2である場合には2つの残基Rは一緒になってC2〜C3−アルキレン架橋を形成できる、R′は、H、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルである、R″は、H又はC1〜C4−アルキルである、Zは結合又はC1〜C6−アルキレンである、但し、全ての繰り返し単位においては少なくとも1つの残基R、R′又はR″はHとは異なる]
の5〜7員環を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の吸収剤。
【請求項5】
環式アミン化合物A)が、
トリエチレンジアミン、1−ヒドロキシエチルピペリジン、2−ヒドロキシエチルピペリジン、ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,4,6−トリメチル−[1,3,5]トリアジナン及び1−メチル−2−ピロリジンエタノール
から選択されている、請求項4記載の吸収剤。
【請求項6】
環式アミン化合物B)が、一般式II
【化2】

[式中、ZはC2〜C4−アルキレンであり、これは場合によりO又は基NR′″により中断されている、その際、R′″はH、C1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルであり、かつ、これは場合によりC1〜C4−アルキル又はC2〜C4−ヒドロキシアルキルにより1回又は複数回置換されている]
を有する、請求項1から5のいずれか1項記載の吸収剤。
【請求項7】
環式アミン化合物B)が、ピペラジン、ホモピペラジン、1−ヒドロキシエチル−ピペラジン、4−ヒドロキシエチル−ピペリジン、1−メチルピペラジン及び2−メチルピペラジンから選択されている、請求項6記載の吸収剤。
【請求項8】
A)1−ヒドロキシエチル−ピペリジン及び/又はトリエチレンジアミン、及び
B)ピペラジン
の水溶液を含む、請求項1から7のいずれか1項記載の吸収剤。
【請求項9】
流体流を、請求項1から8のいずれか1項記載の吸収剤と接触させる、流体流からの酸性ガスの除去法。
【請求項10】
流体流中の二酸化炭素の分圧が500mbar未満である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
流体流は、
a)有機物質の酸化、
b)有機物質を含有する廃棄物の堆肥化又は貯蔵、又は
c)有機物質の細菌による分解
に由来する、
請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
流体流を、向流で運転する洗浄塔中で、この洗浄塔の内部に存在する活性炭の存在下で、前記吸収剤と接触させ、その際、この洗浄塔の内部に不連続的な液状吸収剤相が形成される、請求項9から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
この負荷された吸収剤を、
a)加熱、
b)放圧、
c)不活性流体を用いてのストリッピング
又はこれらの措置の2つ又は全ての組み合わせによって再生する、請求項9から12のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−516762(P2012−516762A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546871(P2011−546871)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051204
【国際公開番号】WO2010/086449
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】