金型装置及びこれを用いた成形体の製造方法
【課題】高品質の成形体を得ることができる金型装置を提供する。
【解決手段】上金型41のキャビティ型45と下金型61のキャビティ型65には、それぞれ厚さ方向の中央部に冷却用配管50及び70が配設されると共に、冷却用配管50及び70の対象表面48及び68側及び反対象表面側の双方にそれぞれ金型加熱用ヒータ51及び71が配設され、これら冷却用配管50及び70、金型加熱用ヒータ51及び71は、それぞれキャビティ型45及び65に対して対象表面48及び68と平行な面内方向にも、対象表面48及び68と垂直な方向にも対称に配置されている。キャビティ型45及び65の温度を上昇させても下降させても、キャビティ型45及び65の反りが防止される。
【解決手段】上金型41のキャビティ型45と下金型61のキャビティ型65には、それぞれ厚さ方向の中央部に冷却用配管50及び70が配設されると共に、冷却用配管50及び70の対象表面48及び68側及び反対象表面側の双方にそれぞれ金型加熱用ヒータ51及び71が配設され、これら冷却用配管50及び70、金型加熱用ヒータ51及び71は、それぞれキャビティ型45及び65に対して対象表面48及び68と平行な面内方向にも、対象表面48及び68と垂直な方向にも対称に配置されている。キャビティ型45及び65の温度を上昇させても下降させても、キャビティ型45及び65の反りが防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型装置及びこれを用いた成形体の製造方法に係り、特にプレス成形などにより成形体を製造するための金型であって対向する一対の金型を互いに加圧することで成形体を得る装置及び方法に関している。
【背景技術】
【0002】
現在、数十nm〜数百μmの超微細な凹凸形状を表面に有するとともに、三次元、薄肉、かつ大面積の形状を有する樹脂成形体が、マイクロレンズ・アレイのような電子ディスプレイ用光学部品、マルチモード光導波路のような光情報通信用部品として求められている。
特許文献1に開示された樹脂成形技術は、樹脂を残留応力の緩和時間の短い溶融状態で微細凹凸に直接塗布することにより最終形状に近い形に附形を行い、その後の加圧附形時(この時点での樹脂温度は金型温度にまで下がっている)は、微細な凹凸部の隅部を樹脂が充填できる最小限の加圧に留めて過度の充填を防ぐことで、光情報通信用部品等に求められる、低残留応力、低複屈折、高光透過性、優れた機械的強度を有する樹脂製超微細構造体成形を得られる工法である。
【0003】
しかし、概ねの成形体形状が附形される樹脂塗布時や加圧附形時に、金型が熱変形してしまっていては、成形品に変形や残留応力が発生し、問題となる。また、この工法では成形プロセスの中で金型温度を樹脂の溶融温度から取り出し可能な温度(流動停止温度、ガラス転移温度、結晶化温度等)以下まで冷却するため、附形時に残留応力が緩和した場合でも冷却時に成形体内部に冷却の時間差が生じた場合は熱応力が発生し、また、一時的な金型の熱変形によりその温度での緩和の限度を超える外的な力が作用した場合には残留応力が生じ、成形プロセスの完了時の成形体にこれらに起因する残留応力や歪みが残存することになる。
【0004】
図5に特許文献2に開示されたこの種の従来の金型装置の構成を示す。金型装置は、上金型11と下金型21とを備えており、上金型11は、型取付板12に固定された主型13と、主型13に断熱板14を介して取り付けられたキャビティ型15を有している。同様に、下金型21は、型取付板22に固定された主型23と、主型23に断熱板24を介して取り付けられたキャビティ型25を有している。
【0005】
双方のキャビティ型15及び25の対向面が成形体を得る対象表面を構成し、これらのキャビティ型15及び25には、それぞれ対象表面側に金型加熱用ヒータ16及び26が、反対象表面側に冷却用配管17及び27が配設されている。一方、双方の主型13及び23には、それぞれ冷却用配管18及び28が配設されている。
また、上金型11の対象表面には鏡面仕上げが施工され、下金型21の対象表面には微細凹凸を有するスタンパ30が配置されている。スタンパ30は、キャビティ型25に形成された吸着用溝31を介して吸着固定され、スタンパ30の周囲には機械的固定のためのスタンパ押さえ32が配置されている。
【0006】
図6に示されるように、双方のキャビティ型15及び25は、それぞれ対応する型取付板12及び22から主型13及び23、断熱板14及び24を貫通する複数本の支持ボルト19及び29によって固定されている。これらの支持ボルト19及び29により、上金型11及び下金型21は、それぞれ一体構造の形態をなしている。
下金型21のキャビティ型25には、吸着用溝31に連通する真空吸着回路33が配設されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−76178号公報
【特許文献2】特開2007−30432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の金型装置において、金型加熱用ヒータ16及び26に通電して、キャビティ型15及び25の温度を上昇させた場合、図7に示されるように、支持ボルト19及び29の存在により断熱板14及び24の近傍においてはキャビティ型15及び25の熱膨張が拘束される一方、金型加熱用ヒータ16及び26が位置する対象表面側ではキャビティ型15及び25の熱膨張による伸びが発生する。その結果、上下のキャビティ型15及び25が互いに凸形状に変形を起こす。すなわち、キャビティ型15及び25の対象表面同士は反り合って、凸形状同士が相対することになる。この状態で上金型11と下金型21とを合わせると、図8に示すように、対象表面の中央部分Aのみが接触し、不均一な圧力分布が起こり、外周部の加圧附形が不完全なものになる。
【0009】
また、キャビティ型15及び25は、耐食性などを考慮して一般にステンレス系材料で製作されているが、ステンレス系材料は比較的熱伝導性が低く、金型加熱用ヒータ16及び26で発生した熱は、キャビティ型15及び25の全体に迅速且つ均一に伝わりにくく、不均一な温度分布を形成する。その結果、ますます前述のキャビティ型15及び25の変形現象は増長されることになる。
【0010】
さらに、金型加熱用ヒータ16及び26への通電を停止し、キャビティ型15及び25内の冷却用配管17及び27へ通水すると、図9に示されるように、支持ボルト19及び29が存在する断熱板14及び24側でキャビティ型15及び25の熱膨張が拘束されると共に冷却用配管17及び27の付近では熱収縮による縮みが発生する。このとき、金型加熱用ヒータ16及び26が存在する対象表面側では、まだ加熱時の熱による伸びが残っており、キャビティ型15及び25が熱伝導の悪いステンレス系材料であることも合い重なって、反対象表面側と対象表面側上との間で、熱変形(伸びと縮み)に差が生じることになる。その結果、キャビティ型15及び25が凸形状に変形を起こす。すなわち、キャビティ型15及び25の対象表面同士は反り合って、凸形状同士が相対する。これにより、図10に示すように、対象表面の中央部分Bのみが接触し、不均一な圧力分布が起こることになる。
【0011】
また、冷却用配管17及び27への通水で、キャビティ型15及び25に急速冷却がかかることから、反対象表面側と対象表面側上との間で起こる熱変形(伸びと縮み)に、加熱時よりも大きな差が生ずる。その結果、相対する凸形状同士は、より大きく変形してしまう。成形体は微細凹凸部によって金型に拘束されている為、金型が更に反るような形状の変化をすると、成形体の内部にマクロ的には延伸、局部的には微細凹凸部の底等に圧縮変形やずり変形による応力を発生する。また、キャビティ型と成形体との間の接触熱抵抗は成形体表面各部の圧力に影響されるので、キャビティ型が更に反ることで、圧力分布の不均一がより顕著になると、成形体面内において、ガラス転移温度に到達する時間に差を生じる。そうすると、先に冷却された部分の熱収縮により、未だガラス転移温度に冷却されていない部分が延伸されてしまう。また、キャビティ型自体の熱伝導が不充分な場合も、冷却管の配置に応じた温度分布が生じ、同様の問題が生じる。既に温度低下により、樹脂の緩和時間が長くなっているため、この時点で発生した歪は、以後のプロセスで除去することは難しい。
【0012】
また、結晶性樹脂については、結晶化温度を通過する際の冷却速度が成形体各部でばらつくと、結晶化度が異なることになり、その結果、収縮率に差を生じ、成形体のソリ、ウネリ変形を生ずる。
さらに、成形体と金型表面との付着力は、双方の温度に支配されており、これらの面内に温度のばらつきがあると、付着力の不均一性により成形体の離型が円滑にできなくなる。
【0013】
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、高品質の成形体を得ることができる金型装置を提供することを目的とする。
また、この発明は、このような金型装置を用いて成形体を製造する方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る金型装置は、それぞれ成形体を得るための対象表面を有する一対の金型を対向して配置すると共に互いに加圧することにより成形体を製造し、少なくとも一方の金型は、対象表面側から、対象表面を形成する対象表面構成部材と、対象表面構成部材を保持すると共に加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型と、キャビティ型を保持する主型とを備えた金型装置において、加熱手段及び冷却手段がそれぞれキャビティ型に対して対象表面と平行な面内方向にも対象表面と垂直な方向にも対称に配置されたものである。
【0015】
好ましくは、キャビティ型を対象表面と平行な面内のほぼ中央部の1箇所で主型に締結保持する支持棒と、キャビティ型の周縁部を主型に対して押さえつける押さえ治具とを備えている。
さらに、支持棒の熱変形を拘束することなく支持棒の主型からの脱落を防止するための固定具を備えることが好ましい。
このとき、支持棒は対象表面と垂直な方向に延びて一端部がキャビティ型にネジ止めされると共に他端部に形成されたテーパ部を有し、固定具は対象表面と平行な方向に延びると共に先端部に形成されたテーパ部を有し、支持棒のテーパ部と固定具のテーパ部が互いに勘合するように構成することができる。
【0016】
また、押さえ治具は、キャビティ型の熱変形を拘束することなくキャビティ型を押さえるためにキャビティ型の周縁部に当接する弾性体を有することが好ましい。
キャビティ型の構成材料は、従来使用されているステンレス系の鋼材(熱伝導度:約20W/m・K)よりも熱伝導性の良いものを使用する。望まれる素材の熱伝導率の範囲は少なくとも70W/m・K以上、望ましくは100W/m・K以上ある材料から剛性や比熱等の他の特性を加味して選択する、例えばベリリウム銅合金がこの候補となる。
さらに、キャビティ型と主型の間に挟持された断熱板を備えることが好ましい。
なお、対象表面構成部材としては、微細凹凸が形成された対象表面を有するスタンパ、または、平坦な対象表面を有する平面板を用いることができる。
【0017】
この発明に係る成形体の製造方法は、以上のような金型装置を用い、加熱手段によりキャビティ型の温度を上昇させる工程と、一対の金型を互いに加圧することにより成形体を得る工程と、冷却手段によりキャビティ型の温度を下降させる工程と、得られた成形体を金型装置から取り出す工程とを備えた方法である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、加熱手段及び冷却手段がそれぞれキャビティ型に対して対象表面と平行な面内方向にも対象表面と垂直な方向にも対称に配置されているので、加熱時においても冷却時においてもキャビティ型の反りの発生が防止され、高品質の成形体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の形態に係る金型装置の構成を示す。金型装置は、上金型41と下金型61とを備えている。上金型41は、型取付板42に固定された主型43と、主型43に断熱板44を介して取り付けられたキャビティ型45と、キャビティ型45に押さえ部材46により着脱自在に保持された平面板47とを有している。平面板47は、断面台形状を有しており、短辺側に成形体を得るための平坦な対象表面48が形成されている。この平面板47は、キャビティ型45に形成された吸着用溝49を介して吸着固定され、対象表面48には鏡面仕上げが施工されている。
【0020】
同様に、下金型61は、型取付板62に固定された主型63と、主型63に断熱板64を介して取り付けられたキャビティ型65と、キャビティ型65に押さえ部材66により保持されたスタンパ67とを有し、スタンパ67に成形体を得るための対象表面68が形成されている。このスタンパ67は、キャビティ型65に形成された吸着用溝69を介して吸着固定され、対象表面68には、成形体に微細形状を転写するための微細凹凸が形成されている。
【0021】
双方のキャビティ型45及び65には、それぞれ厚さ方向の中央部に冷却手段を構成する冷却用配管50及び70が配設されると共に、冷却用配管50及び70の対象表面側及び反対象表面側の双方にそれぞれ加熱手段を構成する金型加熱用ヒータ51及び71が配設されている。これら冷却用配管50及び70、金型加熱用ヒータ51及び71は、それぞれキャビティ型45及び65に対して対象表面48及び68と平行な面内方向にも、対象表面48及び68と垂直な方向すなわち厚さ方向にも対称に配置されている。
【0022】
一方、双方の主型43及び63には、それぞれ冷却用配管52及び72が配設されている。
さらに、型取付板42及び62には、それぞれキャビティ型45及び65の側方にまで延びる押さえ治具53及び73が取り付けられており、これら押さえ治具53及び73の先端部により耐熱ゴム等からなる弾性体54及び74を介してキャビティ型45及び65の周縁部が主型43及び63に対して押さえつけられている。
【0023】
図2に示されるように、キャビティ型45及び65の断熱板44及び64側の面内のほぼ中央部の1箇所に支持棒55及び75の一端部がネジ止めされている。この支持棒55及び75は、対象表面48及び68と垂直な方向に延びて主型43及び63を貫通し、他端部が型取付板42及び62に形成された溝に係合すると共にこの他端部に凹状のテーパ部56及び76が形成されている。
また、型取付板42及び62に形成された溝には側方から固定具57及び77が挿入され、固定具57及び77の先端部に形成された凸状のテーパ部58及び78が支持棒55及び75のテーパ部56及び76に勘合し、これにより、支持棒55及び75の熱変形を拘束することなく支持棒55及び75の主型43及び63からの脱落が防止されている。
このような構成により、キャビティ型45及び65は、ほぼ中央の1点で保持固定されると共に、押さえ治具53及び73と弾性体54及び74によって熱変形の拘束から解放されている。
【0024】
また、キャビティ型45及び65には、吸着用溝49及び69に連通する真空吸着回路59及び79が配設されている。
なお、キャビティ型45及び65は、熱伝導性に優れた良熱伝導材、例えばベリリウム銅から形成されている。
型取付板42及び62は、図示しないプレス装置の型取付盤に上金型41及び下金型61を取り付けるためのものであり、主型43及び63に配設された冷却用配管52及び72は、プレス装置の型取付盤への熱の伝導を軽減するためのものである。
【0025】
次に、この実施の形態に係る金型装置を用いて成形体を製造する方法について説明する。
まず、金型加熱用ヒータ51及び71に通電してキャビティ型45及び65の温度を上昇させ、スタンパ67上に例えば溶融樹脂を塗布し、上金型41と下金型61を互いに加圧することにより成形体を得る。その後、冷却用配管50及び70に通水してキャビティ型45及び65の温度を下降させ、得られた成形体を金型装置から取り出す。
【0026】
ここで、金型加熱用ヒータ51及び71に通電してキャビティ型45及び65の温度を上昇させたときには、図3に示されるように、中央1点の支持棒55及び75によるキャビティ型45及び65の固定方法に起因して、キャビティ型45及び65の熱膨張を拘束する力は発生しない。また、キャビティ型45及び65内に配置されている金型加熱用ヒータ51及び71及び冷却用配管50及び70が、それぞれキャビティ型45及び65の面内方向にも厚さ方向にも対称の相似型な配置形態を有することで、キャビティ型45及び65の反りが防止される。すなわち、相似型な配管形態をとることによって、キャビティ型45及び65の熱膨張による伸びが、キャビティ型45及び65内部で均一にバランスよく発生し、その結果として、キャビティ型45及び65における反りの発生が防止されることとなる。この状態で、上金型41と下金型61を互いに合わせると、対象表面48及び68の全体が均等に接触し、均一な圧力分布を得ることができる。
【0027】
また、キャビティ型45及び65が熱伝導性に優れた材料、例えばベリリウム銅から製作されていることで、金型加熱用ヒータ51及び71で発生した熱は、キャビティ型45及び65の全体に迅速且つ均一に伝わりやすく、均一な温度分布が達成される。その結果、ますますキャビティ型45及び65に反りが発生するおそれは小さくなる。
ここで、表1と図11に素材の異なる従来構造の金型(比較例1及び2)と本発明の金型(実施例)との加熱時に発生する反りをシミュレーションした解析条件と結果を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
素材の熱伝導度が良くなれば反りが低減されることは既に述べたが、同じ従来構造で比較した場合、150mmの解析範囲の反りの変位差は熱伝導度の悪い比較例1の5.5μmに対し、5倍以上の熱伝導率を持つ素材の比較例2でも2.5μmと半減する程度であった。これに対し、本発明の金型構造を用いた場合、変位差は0.5μmと同じ素材の比較例2と比べても1/5に激減することが分かる。このシミュレーション結果から、高熱伝導材を使用することに加えて、本発明の構造を用いることで、変位差を極めて小さく抑えることが実現可能になることが確認された。
【0030】
金型加熱用ヒータ51及び71への通電を停止し、キャビティ型45及び65内の冷却用配管50及び70へ通水すると、キャビティ型45及び65内に配置されている金型加熱用ヒータ51及び71及び冷却用配管50及び70がそれぞれキャビティ型45及び65の面内方向にも厚さ方向にも対称の相似型な配置形態を有することやキャビティ型45及び65が熱伝導性の優れた材料からなることも重なり合い、図4に示すように、キャビティ型45及び65内部において冷却用配管50及び70を挟んだ対象表面側と反対象表面側との間で、キャビティ型45及び65の収縮による縮みが均一にバランスよく発生し、その結果として、キャビティ型45及び65における反りが防止される。また、これにより、対象表面48及び68の全体が均一に接触し、均一な圧力分布を得ることができる。
【0031】
ここで、図12に実施例と比較例1における金型面内の温度プロファイルを示す。これは、図13に示すように、キャビティ型45(または15)の平面板47と接する面(概ね160mm角)において、中央部の100mm角の四隅と中心、各辺の中点の計9点の温度を、熱電対を設置して実測したものである。比較例1では、冷却中の各地点の温度変化がばらついてしまうが、本発明の実施例では、冷却中でも各測定点がほぼ一致したプロファイルを描いた。90℃通過時の両者を比較すると、温度差、時間差、冷却速度差のいずれについても本発明の実施で改善しており、均等な冷却が得られていることが分かる。
【0032】
なお、キャビティ型45及び65の側方に配置された押さえ治具53及び73によりキャビティ型45及び65の周縁部を主型43及び63に対して押さえつけることで、中央1点のみの支持による回転のおそれ等の不安定な支持を補助することができる。また、この押さえ治具53及び73とキャビティ型45及び65との接触部位には、キャビティ型45及び65を完全に拘束しないよう弾性体54及び74が配置されているため、キャビティ型45及び65の反りが発現することは回避される。
【0033】
また、上金型41の対象表面48を形成する平面板47がキャビティ型45に押さえ部材46により着脱自在に保持されているので、対象表面48が損傷した場合においても、平面板47のみを交換すれば済み、対象表面の損傷による成形作業の長期中断のおそれが解消される。
さらに、平面板47は断面台形状を有し、成形体を得る対象表面48が短辺側に形成されてテーパ形状を有しているので、離型の際に熱収縮によって成形体が平面板47に抱きつくために離型困難になることが回避され、良好な離型状況を確保することが可能となる。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、上金型41と下金型61のそれぞれが、対象表面48及び68側から、平面板47及びスタンパ67と、加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型45及び65と、断熱板44及び64と、主型43及び63とを備える構成を有していたが、これに限るものではなく、上金型41と下金型61の少なくとも一方がこのような構成を有する金型装置にこの発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施の形態に係る金型装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態に係る金型装置を示す他の断面図である。
【図3】実施の形態に係る金型装置の加熱時の様子を示す断面図である。
【図4】実施の形態に係る金型装置の冷却時の様子を示す断面図である。
【図5】従来の金型装置の構成を示す断面図である。
【図6】従来の金型装置を示す他の断面図である。
【図7】従来の金型装置の加熱時の様子を示す断面図である。
【図8】従来の金型装置の加熱時の対象表面の様子を示す図である。
【図9】従来の金型装置の冷却時の様子を示す断面図である。
【図10】従来の金型装置の冷却時の対象表面の様子を示す図である。
【図11】本発明の金型と従来構造の金型の加熱時に発生する反りをシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図12】実施例と比較例1における金型面内の温度プロファイルを示すグラフである。
【図13】図12の温度プロファイルの測定位置を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
41 上金型、42,62 型取付板、43,63 主型、44,64 断熱板、45,65 キャビティ型、46,66 押さえ部材、47 平面板、48,68 対象表面、49,69 吸着用溝、50,52,70,72 冷却用配管、51,71 金型加熱用ヒータ、53,73 押さえ治具、54,74 弾性体、55,75 支持棒、56,58,76,78 テーパ部、57,77 固定具、59.79 真空吸着回路。61 下金型、67 スタンパ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型装置及びこれを用いた成形体の製造方法に係り、特にプレス成形などにより成形体を製造するための金型であって対向する一対の金型を互いに加圧することで成形体を得る装置及び方法に関している。
【背景技術】
【0002】
現在、数十nm〜数百μmの超微細な凹凸形状を表面に有するとともに、三次元、薄肉、かつ大面積の形状を有する樹脂成形体が、マイクロレンズ・アレイのような電子ディスプレイ用光学部品、マルチモード光導波路のような光情報通信用部品として求められている。
特許文献1に開示された樹脂成形技術は、樹脂を残留応力の緩和時間の短い溶融状態で微細凹凸に直接塗布することにより最終形状に近い形に附形を行い、その後の加圧附形時(この時点での樹脂温度は金型温度にまで下がっている)は、微細な凹凸部の隅部を樹脂が充填できる最小限の加圧に留めて過度の充填を防ぐことで、光情報通信用部品等に求められる、低残留応力、低複屈折、高光透過性、優れた機械的強度を有する樹脂製超微細構造体成形を得られる工法である。
【0003】
しかし、概ねの成形体形状が附形される樹脂塗布時や加圧附形時に、金型が熱変形してしまっていては、成形品に変形や残留応力が発生し、問題となる。また、この工法では成形プロセスの中で金型温度を樹脂の溶融温度から取り出し可能な温度(流動停止温度、ガラス転移温度、結晶化温度等)以下まで冷却するため、附形時に残留応力が緩和した場合でも冷却時に成形体内部に冷却の時間差が生じた場合は熱応力が発生し、また、一時的な金型の熱変形によりその温度での緩和の限度を超える外的な力が作用した場合には残留応力が生じ、成形プロセスの完了時の成形体にこれらに起因する残留応力や歪みが残存することになる。
【0004】
図5に特許文献2に開示されたこの種の従来の金型装置の構成を示す。金型装置は、上金型11と下金型21とを備えており、上金型11は、型取付板12に固定された主型13と、主型13に断熱板14を介して取り付けられたキャビティ型15を有している。同様に、下金型21は、型取付板22に固定された主型23と、主型23に断熱板24を介して取り付けられたキャビティ型25を有している。
【0005】
双方のキャビティ型15及び25の対向面が成形体を得る対象表面を構成し、これらのキャビティ型15及び25には、それぞれ対象表面側に金型加熱用ヒータ16及び26が、反対象表面側に冷却用配管17及び27が配設されている。一方、双方の主型13及び23には、それぞれ冷却用配管18及び28が配設されている。
また、上金型11の対象表面には鏡面仕上げが施工され、下金型21の対象表面には微細凹凸を有するスタンパ30が配置されている。スタンパ30は、キャビティ型25に形成された吸着用溝31を介して吸着固定され、スタンパ30の周囲には機械的固定のためのスタンパ押さえ32が配置されている。
【0006】
図6に示されるように、双方のキャビティ型15及び25は、それぞれ対応する型取付板12及び22から主型13及び23、断熱板14及び24を貫通する複数本の支持ボルト19及び29によって固定されている。これらの支持ボルト19及び29により、上金型11及び下金型21は、それぞれ一体構造の形態をなしている。
下金型21のキャビティ型25には、吸着用溝31に連通する真空吸着回路33が配設されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−76178号公報
【特許文献2】特開2007−30432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の金型装置において、金型加熱用ヒータ16及び26に通電して、キャビティ型15及び25の温度を上昇させた場合、図7に示されるように、支持ボルト19及び29の存在により断熱板14及び24の近傍においてはキャビティ型15及び25の熱膨張が拘束される一方、金型加熱用ヒータ16及び26が位置する対象表面側ではキャビティ型15及び25の熱膨張による伸びが発生する。その結果、上下のキャビティ型15及び25が互いに凸形状に変形を起こす。すなわち、キャビティ型15及び25の対象表面同士は反り合って、凸形状同士が相対することになる。この状態で上金型11と下金型21とを合わせると、図8に示すように、対象表面の中央部分Aのみが接触し、不均一な圧力分布が起こり、外周部の加圧附形が不完全なものになる。
【0009】
また、キャビティ型15及び25は、耐食性などを考慮して一般にステンレス系材料で製作されているが、ステンレス系材料は比較的熱伝導性が低く、金型加熱用ヒータ16及び26で発生した熱は、キャビティ型15及び25の全体に迅速且つ均一に伝わりにくく、不均一な温度分布を形成する。その結果、ますます前述のキャビティ型15及び25の変形現象は増長されることになる。
【0010】
さらに、金型加熱用ヒータ16及び26への通電を停止し、キャビティ型15及び25内の冷却用配管17及び27へ通水すると、図9に示されるように、支持ボルト19及び29が存在する断熱板14及び24側でキャビティ型15及び25の熱膨張が拘束されると共に冷却用配管17及び27の付近では熱収縮による縮みが発生する。このとき、金型加熱用ヒータ16及び26が存在する対象表面側では、まだ加熱時の熱による伸びが残っており、キャビティ型15及び25が熱伝導の悪いステンレス系材料であることも合い重なって、反対象表面側と対象表面側上との間で、熱変形(伸びと縮み)に差が生じることになる。その結果、キャビティ型15及び25が凸形状に変形を起こす。すなわち、キャビティ型15及び25の対象表面同士は反り合って、凸形状同士が相対する。これにより、図10に示すように、対象表面の中央部分Bのみが接触し、不均一な圧力分布が起こることになる。
【0011】
また、冷却用配管17及び27への通水で、キャビティ型15及び25に急速冷却がかかることから、反対象表面側と対象表面側上との間で起こる熱変形(伸びと縮み)に、加熱時よりも大きな差が生ずる。その結果、相対する凸形状同士は、より大きく変形してしまう。成形体は微細凹凸部によって金型に拘束されている為、金型が更に反るような形状の変化をすると、成形体の内部にマクロ的には延伸、局部的には微細凹凸部の底等に圧縮変形やずり変形による応力を発生する。また、キャビティ型と成形体との間の接触熱抵抗は成形体表面各部の圧力に影響されるので、キャビティ型が更に反ることで、圧力分布の不均一がより顕著になると、成形体面内において、ガラス転移温度に到達する時間に差を生じる。そうすると、先に冷却された部分の熱収縮により、未だガラス転移温度に冷却されていない部分が延伸されてしまう。また、キャビティ型自体の熱伝導が不充分な場合も、冷却管の配置に応じた温度分布が生じ、同様の問題が生じる。既に温度低下により、樹脂の緩和時間が長くなっているため、この時点で発生した歪は、以後のプロセスで除去することは難しい。
【0012】
また、結晶性樹脂については、結晶化温度を通過する際の冷却速度が成形体各部でばらつくと、結晶化度が異なることになり、その結果、収縮率に差を生じ、成形体のソリ、ウネリ変形を生ずる。
さらに、成形体と金型表面との付着力は、双方の温度に支配されており、これらの面内に温度のばらつきがあると、付着力の不均一性により成形体の離型が円滑にできなくなる。
【0013】
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、高品質の成形体を得ることができる金型装置を提供することを目的とする。
また、この発明は、このような金型装置を用いて成形体を製造する方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る金型装置は、それぞれ成形体を得るための対象表面を有する一対の金型を対向して配置すると共に互いに加圧することにより成形体を製造し、少なくとも一方の金型は、対象表面側から、対象表面を形成する対象表面構成部材と、対象表面構成部材を保持すると共に加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型と、キャビティ型を保持する主型とを備えた金型装置において、加熱手段及び冷却手段がそれぞれキャビティ型に対して対象表面と平行な面内方向にも対象表面と垂直な方向にも対称に配置されたものである。
【0015】
好ましくは、キャビティ型を対象表面と平行な面内のほぼ中央部の1箇所で主型に締結保持する支持棒と、キャビティ型の周縁部を主型に対して押さえつける押さえ治具とを備えている。
さらに、支持棒の熱変形を拘束することなく支持棒の主型からの脱落を防止するための固定具を備えることが好ましい。
このとき、支持棒は対象表面と垂直な方向に延びて一端部がキャビティ型にネジ止めされると共に他端部に形成されたテーパ部を有し、固定具は対象表面と平行な方向に延びると共に先端部に形成されたテーパ部を有し、支持棒のテーパ部と固定具のテーパ部が互いに勘合するように構成することができる。
【0016】
また、押さえ治具は、キャビティ型の熱変形を拘束することなくキャビティ型を押さえるためにキャビティ型の周縁部に当接する弾性体を有することが好ましい。
キャビティ型の構成材料は、従来使用されているステンレス系の鋼材(熱伝導度:約20W/m・K)よりも熱伝導性の良いものを使用する。望まれる素材の熱伝導率の範囲は少なくとも70W/m・K以上、望ましくは100W/m・K以上ある材料から剛性や比熱等の他の特性を加味して選択する、例えばベリリウム銅合金がこの候補となる。
さらに、キャビティ型と主型の間に挟持された断熱板を備えることが好ましい。
なお、対象表面構成部材としては、微細凹凸が形成された対象表面を有するスタンパ、または、平坦な対象表面を有する平面板を用いることができる。
【0017】
この発明に係る成形体の製造方法は、以上のような金型装置を用い、加熱手段によりキャビティ型の温度を上昇させる工程と、一対の金型を互いに加圧することにより成形体を得る工程と、冷却手段によりキャビティ型の温度を下降させる工程と、得られた成形体を金型装置から取り出す工程とを備えた方法である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、加熱手段及び冷却手段がそれぞれキャビティ型に対して対象表面と平行な面内方向にも対象表面と垂直な方向にも対称に配置されているので、加熱時においても冷却時においてもキャビティ型の反りの発生が防止され、高品質の成形体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に実施の形態に係る金型装置の構成を示す。金型装置は、上金型41と下金型61とを備えている。上金型41は、型取付板42に固定された主型43と、主型43に断熱板44を介して取り付けられたキャビティ型45と、キャビティ型45に押さえ部材46により着脱自在に保持された平面板47とを有している。平面板47は、断面台形状を有しており、短辺側に成形体を得るための平坦な対象表面48が形成されている。この平面板47は、キャビティ型45に形成された吸着用溝49を介して吸着固定され、対象表面48には鏡面仕上げが施工されている。
【0020】
同様に、下金型61は、型取付板62に固定された主型63と、主型63に断熱板64を介して取り付けられたキャビティ型65と、キャビティ型65に押さえ部材66により保持されたスタンパ67とを有し、スタンパ67に成形体を得るための対象表面68が形成されている。このスタンパ67は、キャビティ型65に形成された吸着用溝69を介して吸着固定され、対象表面68には、成形体に微細形状を転写するための微細凹凸が形成されている。
【0021】
双方のキャビティ型45及び65には、それぞれ厚さ方向の中央部に冷却手段を構成する冷却用配管50及び70が配設されると共に、冷却用配管50及び70の対象表面側及び反対象表面側の双方にそれぞれ加熱手段を構成する金型加熱用ヒータ51及び71が配設されている。これら冷却用配管50及び70、金型加熱用ヒータ51及び71は、それぞれキャビティ型45及び65に対して対象表面48及び68と平行な面内方向にも、対象表面48及び68と垂直な方向すなわち厚さ方向にも対称に配置されている。
【0022】
一方、双方の主型43及び63には、それぞれ冷却用配管52及び72が配設されている。
さらに、型取付板42及び62には、それぞれキャビティ型45及び65の側方にまで延びる押さえ治具53及び73が取り付けられており、これら押さえ治具53及び73の先端部により耐熱ゴム等からなる弾性体54及び74を介してキャビティ型45及び65の周縁部が主型43及び63に対して押さえつけられている。
【0023】
図2に示されるように、キャビティ型45及び65の断熱板44及び64側の面内のほぼ中央部の1箇所に支持棒55及び75の一端部がネジ止めされている。この支持棒55及び75は、対象表面48及び68と垂直な方向に延びて主型43及び63を貫通し、他端部が型取付板42及び62に形成された溝に係合すると共にこの他端部に凹状のテーパ部56及び76が形成されている。
また、型取付板42及び62に形成された溝には側方から固定具57及び77が挿入され、固定具57及び77の先端部に形成された凸状のテーパ部58及び78が支持棒55及び75のテーパ部56及び76に勘合し、これにより、支持棒55及び75の熱変形を拘束することなく支持棒55及び75の主型43及び63からの脱落が防止されている。
このような構成により、キャビティ型45及び65は、ほぼ中央の1点で保持固定されると共に、押さえ治具53及び73と弾性体54及び74によって熱変形の拘束から解放されている。
【0024】
また、キャビティ型45及び65には、吸着用溝49及び69に連通する真空吸着回路59及び79が配設されている。
なお、キャビティ型45及び65は、熱伝導性に優れた良熱伝導材、例えばベリリウム銅から形成されている。
型取付板42及び62は、図示しないプレス装置の型取付盤に上金型41及び下金型61を取り付けるためのものであり、主型43及び63に配設された冷却用配管52及び72は、プレス装置の型取付盤への熱の伝導を軽減するためのものである。
【0025】
次に、この実施の形態に係る金型装置を用いて成形体を製造する方法について説明する。
まず、金型加熱用ヒータ51及び71に通電してキャビティ型45及び65の温度を上昇させ、スタンパ67上に例えば溶融樹脂を塗布し、上金型41と下金型61を互いに加圧することにより成形体を得る。その後、冷却用配管50及び70に通水してキャビティ型45及び65の温度を下降させ、得られた成形体を金型装置から取り出す。
【0026】
ここで、金型加熱用ヒータ51及び71に通電してキャビティ型45及び65の温度を上昇させたときには、図3に示されるように、中央1点の支持棒55及び75によるキャビティ型45及び65の固定方法に起因して、キャビティ型45及び65の熱膨張を拘束する力は発生しない。また、キャビティ型45及び65内に配置されている金型加熱用ヒータ51及び71及び冷却用配管50及び70が、それぞれキャビティ型45及び65の面内方向にも厚さ方向にも対称の相似型な配置形態を有することで、キャビティ型45及び65の反りが防止される。すなわち、相似型な配管形態をとることによって、キャビティ型45及び65の熱膨張による伸びが、キャビティ型45及び65内部で均一にバランスよく発生し、その結果として、キャビティ型45及び65における反りの発生が防止されることとなる。この状態で、上金型41と下金型61を互いに合わせると、対象表面48及び68の全体が均等に接触し、均一な圧力分布を得ることができる。
【0027】
また、キャビティ型45及び65が熱伝導性に優れた材料、例えばベリリウム銅から製作されていることで、金型加熱用ヒータ51及び71で発生した熱は、キャビティ型45及び65の全体に迅速且つ均一に伝わりやすく、均一な温度分布が達成される。その結果、ますますキャビティ型45及び65に反りが発生するおそれは小さくなる。
ここで、表1と図11に素材の異なる従来構造の金型(比較例1及び2)と本発明の金型(実施例)との加熱時に発生する反りをシミュレーションした解析条件と結果を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
素材の熱伝導度が良くなれば反りが低減されることは既に述べたが、同じ従来構造で比較した場合、150mmの解析範囲の反りの変位差は熱伝導度の悪い比較例1の5.5μmに対し、5倍以上の熱伝導率を持つ素材の比較例2でも2.5μmと半減する程度であった。これに対し、本発明の金型構造を用いた場合、変位差は0.5μmと同じ素材の比較例2と比べても1/5に激減することが分かる。このシミュレーション結果から、高熱伝導材を使用することに加えて、本発明の構造を用いることで、変位差を極めて小さく抑えることが実現可能になることが確認された。
【0030】
金型加熱用ヒータ51及び71への通電を停止し、キャビティ型45及び65内の冷却用配管50及び70へ通水すると、キャビティ型45及び65内に配置されている金型加熱用ヒータ51及び71及び冷却用配管50及び70がそれぞれキャビティ型45及び65の面内方向にも厚さ方向にも対称の相似型な配置形態を有することやキャビティ型45及び65が熱伝導性の優れた材料からなることも重なり合い、図4に示すように、キャビティ型45及び65内部において冷却用配管50及び70を挟んだ対象表面側と反対象表面側との間で、キャビティ型45及び65の収縮による縮みが均一にバランスよく発生し、その結果として、キャビティ型45及び65における反りが防止される。また、これにより、対象表面48及び68の全体が均一に接触し、均一な圧力分布を得ることができる。
【0031】
ここで、図12に実施例と比較例1における金型面内の温度プロファイルを示す。これは、図13に示すように、キャビティ型45(または15)の平面板47と接する面(概ね160mm角)において、中央部の100mm角の四隅と中心、各辺の中点の計9点の温度を、熱電対を設置して実測したものである。比較例1では、冷却中の各地点の温度変化がばらついてしまうが、本発明の実施例では、冷却中でも各測定点がほぼ一致したプロファイルを描いた。90℃通過時の両者を比較すると、温度差、時間差、冷却速度差のいずれについても本発明の実施で改善しており、均等な冷却が得られていることが分かる。
【0032】
なお、キャビティ型45及び65の側方に配置された押さえ治具53及び73によりキャビティ型45及び65の周縁部を主型43及び63に対して押さえつけることで、中央1点のみの支持による回転のおそれ等の不安定な支持を補助することができる。また、この押さえ治具53及び73とキャビティ型45及び65との接触部位には、キャビティ型45及び65を完全に拘束しないよう弾性体54及び74が配置されているため、キャビティ型45及び65の反りが発現することは回避される。
【0033】
また、上金型41の対象表面48を形成する平面板47がキャビティ型45に押さえ部材46により着脱自在に保持されているので、対象表面48が損傷した場合においても、平面板47のみを交換すれば済み、対象表面の損傷による成形作業の長期中断のおそれが解消される。
さらに、平面板47は断面台形状を有し、成形体を得る対象表面48が短辺側に形成されてテーパ形状を有しているので、離型の際に熱収縮によって成形体が平面板47に抱きつくために離型困難になることが回避され、良好な離型状況を確保することが可能となる。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、上金型41と下金型61のそれぞれが、対象表面48及び68側から、平面板47及びスタンパ67と、加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型45及び65と、断熱板44及び64と、主型43及び63とを備える構成を有していたが、これに限るものではなく、上金型41と下金型61の少なくとも一方がこのような構成を有する金型装置にこの発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施の形態に係る金型装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態に係る金型装置を示す他の断面図である。
【図3】実施の形態に係る金型装置の加熱時の様子を示す断面図である。
【図4】実施の形態に係る金型装置の冷却時の様子を示す断面図である。
【図5】従来の金型装置の構成を示す断面図である。
【図6】従来の金型装置を示す他の断面図である。
【図7】従来の金型装置の加熱時の様子を示す断面図である。
【図8】従来の金型装置の加熱時の対象表面の様子を示す図である。
【図9】従来の金型装置の冷却時の様子を示す断面図である。
【図10】従来の金型装置の冷却時の対象表面の様子を示す図である。
【図11】本発明の金型と従来構造の金型の加熱時に発生する反りをシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図12】実施例と比較例1における金型面内の温度プロファイルを示すグラフである。
【図13】図12の温度プロファイルの測定位置を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
41 上金型、42,62 型取付板、43,63 主型、44,64 断熱板、45,65 キャビティ型、46,66 押さえ部材、47 平面板、48,68 対象表面、49,69 吸着用溝、50,52,70,72 冷却用配管、51,71 金型加熱用ヒータ、53,73 押さえ治具、54,74 弾性体、55,75 支持棒、56,58,76,78 テーパ部、57,77 固定具、59.79 真空吸着回路。61 下金型、67 スタンパ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ成形体を得るための対象表面を有する一対の金型を対向して配置すると共に互いに加圧することにより成形体を製造し、
少なくとも一方の金型は、前記対象表面側から、前記対象表面を形成する対象表面構成部材と、前記対象表面構成部材を保持すると共に加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型と、前記キャビティ型を保持する主型とを備えた金型装置において、
前記加熱手段及び前記冷却手段がそれぞれ前記キャビティ型に対して前記対象表面と平行な面内方向にも前記対象表面と垂直な方向にも対称に配置されたことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記キャビティ型を前記対象表面と平行な面内のほぼ中央部の1箇所で前記主型に締結保持する支持棒と、
前記キャビティ型の周縁部を前記主型に対して押さえつける押さえ治具と
を備えた請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
前記支持棒の熱変形を拘束することなく前記支持棒の前記主型からの脱落を防止するための固定具を備えた請求項2に記載の金型装置。
【請求項4】
前記支持棒は前記対象表面と垂直な方向に延びて一端部が前記キャビティ型にネジ止めされると共に他端部に形成されたテーパ部を有し、
前記固定具は前記対象表面と平行な方向に延びると共に先端部に形成されたテーパ部を有し、
前記支持棒のテーパ部と前記固定具のテーパ部が互いに勘合する請求項3に記載の金型装置。
【請求項5】
前記押さえ治具は、前記キャビティ型の熱変形を拘束することなく前記キャビティ型を押さえるために前記キャビティ型の周縁部に当接する弾性体を有する請求項2〜4のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項6】
前記キャビティ型は、良熱伝導材からなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項7】
前記キャビティ型は、ベリリウム銅からなる請求項6に記載の金型装置。
【請求項8】
前記キャビティ型と前記主型の間に挟持された断熱板を備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項9】
前記対象表面構成部材は、微細凹凸が形成された対象表面を有するスタンパ、または、平坦な対象表面を有する平面板からなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の金型装置を用いる成形体の製造方法であって、
前記加熱手段により前記キャビティ型の温度を上昇させる工程と、
一対の前記金型を互いに加圧することにより成形体を得る工程と、
前記冷却手段により前記キャビティ型の温度を下降させる工程と、
得られた成形体を前記金型装置から取り出す工程と
を備えたことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項1】
それぞれ成形体を得るための対象表面を有する一対の金型を対向して配置すると共に互いに加圧することにより成形体を製造し、
少なくとも一方の金型は、前記対象表面側から、前記対象表面を形成する対象表面構成部材と、前記対象表面構成部材を保持すると共に加熱手段と冷却手段の双方を具備するキャビティ型と、前記キャビティ型を保持する主型とを備えた金型装置において、
前記加熱手段及び前記冷却手段がそれぞれ前記キャビティ型に対して前記対象表面と平行な面内方向にも前記対象表面と垂直な方向にも対称に配置されたことを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記キャビティ型を前記対象表面と平行な面内のほぼ中央部の1箇所で前記主型に締結保持する支持棒と、
前記キャビティ型の周縁部を前記主型に対して押さえつける押さえ治具と
を備えた請求項1に記載の金型装置。
【請求項3】
前記支持棒の熱変形を拘束することなく前記支持棒の前記主型からの脱落を防止するための固定具を備えた請求項2に記載の金型装置。
【請求項4】
前記支持棒は前記対象表面と垂直な方向に延びて一端部が前記キャビティ型にネジ止めされると共に他端部に形成されたテーパ部を有し、
前記固定具は前記対象表面と平行な方向に延びると共に先端部に形成されたテーパ部を有し、
前記支持棒のテーパ部と前記固定具のテーパ部が互いに勘合する請求項3に記載の金型装置。
【請求項5】
前記押さえ治具は、前記キャビティ型の熱変形を拘束することなく前記キャビティ型を押さえるために前記キャビティ型の周縁部に当接する弾性体を有する請求項2〜4のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項6】
前記キャビティ型は、良熱伝導材からなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項7】
前記キャビティ型は、ベリリウム銅からなる請求項6に記載の金型装置。
【請求項8】
前記キャビティ型と前記主型の間に挟持された断熱板を備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項9】
前記対象表面構成部材は、微細凹凸が形成された対象表面を有するスタンパ、または、平坦な対象表面を有する平面板からなる請求項1〜8のいずれか一項に記載の金型装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の金型装置を用いる成形体の製造方法であって、
前記加熱手段により前記キャビティ型の温度を上昇させる工程と、
一対の前記金型を互いに加圧することにより成形体を得る工程と、
前記冷却手段により前記キャビティ型の温度を下降させる工程と、
得られた成形体を前記金型装置から取り出す工程と
を備えたことを特徴とする成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−89327(P2010−89327A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260243(P2008−260243)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】
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