説明

金属−セラミックス複合板材

【課題】製造及び放熱部材への取り付けが容易であり、放熱性に優れ、かつ高剛性の金属−セラミックス複合板材を提供する。
【解決手段】セラミックス粒子と結合材のシリカとからなる多孔体の気孔に、金属を浸透させてなり、放熱部材にネジ止めされる金属−セラミックス複合板材であって、前記金属−セラミックス複合板材は、4箇所以上のネジ止め用穴と、少なくとも前記ネジ止め用穴の周囲の放熱部材側の面に設けられた段付の凹部を有し、前記段付の凹部によって形成された鍔状部のネジ締結時の変形が15μm以下であることを特徴とする金属ーセラミックス複合板材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク材として用いられる金属−セラミックス複合板材に関する。例えば、パワーモジュールやLEDなどの発熱する製品と、放熱部材とを接続する板材として使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車や電車のパワーモジュール用IGBTのヒートシンクとして金属とセラミックスの複合板材が注目されている。従来の金属系ヒートシンクと比較すると軽量で熱膨張率がセラミックス基板とマッチングしているという特徴をもつからである。
【0003】
例えば、特許文献1では、炭化ケイ素多孔体にアルミニウムを主とする金属を含浸させてなる複合体であり、25℃における熱伝導率が160W/(m・K)以上であり、しかも25〜250℃の熱膨張率が7.5×10−6/K以下の特徴を有する複合体が開示されている。また、特許文献2には、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μm以下の反りを有する複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−171672号公報
【特許文献2】特開2000−281468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の複合体は、クラックを有することから、十分な剛性が得られない。特に車や電車のパワーモジュール用ヒートシンク材では、振動や応力が部材にかかることから、高剛性の材料が求められる。また、特許文献2の複合体では、反り量の制御が難しいという課題があった。反り量にばらつきがあると、ネジの締結トルクの調整が困難になり、さらに一つ一つ別個に調整する必要があるので工程が煩雑になる。しかも、複合体が大きく変形していることから複合体やネジが疲労し、使用時の振動や応力によって緩みやすくなるという問題もあった。
【0006】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、製造及び放熱部材への取り付けが容易であり、放熱性に優れ、かつ高剛性の金属−セラミックス複合板材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セラミックス粒子と結合材のシリカとからなる多孔体の気孔に、金属を浸透させてなり、放熱部材にネジ止めされる金属−セラミックス複合板材に関する。
【0008】
この金属−セラミックス複合板材は、4箇所以上のネジ止め用穴と、少なくとも前記ネジ止め用穴の周囲の放熱部材側の面に設けられた段付の凹部を有し、前記段付の凹部によって形成された鍔状部のネジ締結時の変形が15μm以下であることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、段付の凹部を設け、鍔状部の変形を所定範囲に抑えることにより、金属ーセラミックス複合板材と放熱部材との密着性を高めつつ、ネジ止めして取り付ける際の、調整を容易にし、また使用時の振動や応力にる緩みの発生も抑えることができる。また、反り量を制御して反りを形成するよりも、段付の凹部を形成する方が製造も容易である。なお、鍔状部の変形は少ない方が好ましいが、ほとんど変形しない場合には、ネジ止めの際の締め代がなくなり、取付が難しくなる。したがって、鍔状部の変形は、5μm以上とすることが好ましい。
【0010】
また、前記段付の凹部の深さは30μm以上であることが好ましい。段付の凹部をこのような深さとするのは、鍔状部の変形を阻害しないように形成するためである。
【0011】
さらに、本発明の金属−セラミックス複合板材は、ヤング率が180GPa以上であることが好ましい。所定のヤング率を有することにより、ネジ締結時に適度な締め代を持たせつつ、金属−セラミックス複合板材と放熱部材とを密着させることができ、さらに複合板材やネジも疲労し難いので、使用時の振動や応力による破損もおき難くなる。
【0012】
さらにまた、金属−セラミックス複合板材の表面において、粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積が35%以上であることが好ましい。このような構造を備えることにより金属−セラミックス複合板材のヤング率を向上させることができ、鍔状部の変形を抑えることができる。
【0013】
また、金属−セラミックス複合板材のにおける前記セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は30%以下であることが好ましい。シリカ被覆率をこのような範囲とすることにより、金属−セラミックス複合板材のヤング率を高めることができる。
【0014】
前記金属−セラミックス複合板材において前記セラミックス粗大粒子を被覆するシリカのうち、セラミックス粗大粒子間の接合に用いられていないシリカ分は、10%以下であることが好ましい。このように非接合部のシリカを低減することで、高いヤング率を持つ高熱伝導の金属−セラミックス複合板材とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
製造及び放熱部材への取り付けが容易であり、放熱性に優れ、かつ高剛性の金属−セラミックス複合板材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の金属−セラミックス複合板材の模式概略図である。
【図2】本発明の金属−セラミックス複合板材の取り付け構造を示す模式断面図である。
【図3】鍔状部を拡大した模式断面図である。
【図4】段付の凹部の形態について示した模式図である。
【図5】本発明の金属−セラミックス複合板材の微細組織を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の金属−セラミックス複合板材について、より詳細に説明する。
【0018】
図1に本発明の一例として4箇所のネジ止め用穴を有する金属−セラミックス複合板材の模式概略図を示す。図1(A)は、金属−セラミックス複合板材を半導体チップが搭載されたセラミックス基板を搭載する側の面から見た図である。矩形板状の金属−セラミックス複合板材11の四隅にネジ止め用穴12が形成されている。図1(B)は、金属−セラミックス複合板材11の大きな平面に対して略垂直な断面を示したものである。表面11aは半導体チップが搭載されたセラミックス基板を搭載する面であり、裏面11bは、放熱部材側の面である。裏面11bと放熱部材とが接触し、セラミックス基板等の熱が金属−セラミックス複合板材を介して放熱部材に伝わることにより放熱することができる。
【0019】
本発明の金属−セラミックス複合板材は、4箇所以上のネジ止め用穴を有する。図1では、ネジ止め用穴が4箇所の例を示したが、それ以上でも良い。例えば、図1において隣り合う2つの穴の間に1箇所、またはそれ以上の穴を設けても良い。
【0020】
放熱部材側の面のネジ止め用穴12の周囲には、段付の凹部13が設けられ、これによって鍔状部11cが形成される。段付の凹部の深さは30μm以上であることが好ましい。段付の凹部をこのような深さとするのは、鍔状部の変形を阻害しないように形成するためである。段付の凹部の深さは、100μm以下とすることが好ましい。100μmよりも大きくなると鍔状部の変形が大きくなり、また使用時の振動や応力の影響を受け易くなるため好ましくない。
【0021】
図3は、鍔状部を拡大した断面図である。ネジ締結時の鍔状部の形状を点線で示した。なお、簡略化のためネジは省略している。図3に示したように、鍔状部31cのネジ締結時の変形tを15μm以下とすることにより、金属−セラミックス複合板材と放熱部材との密着性を高めつつ、ネジ止めして取り付ける際の、調整を容易にし、また使用時の振動や応力にる緩みの発生も抑えることができる。本発明において、鍔状部の変形を15μm以下としたのは、この範囲であれば、ネジ止め時の調整が容易だからである。また、鍔状部の所定量の変形によって放熱部材との密着を高めることができるので、特許文献2に記載されたような反りを形成する必要はなく、さらに取付前後の裏面の変形による密着性の低下は起こらないので、裏面の平面度を高めることによって、より密着性を高めることが容易になる。なお、鍔状部の変形tは少ない方が好ましいが、ほとんど変形しない場合には、ネジ止めの際の締め代がなくなり、取付が難しくなる。したがって、鍔状部の変形は、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0022】
段付の凹部は、少なくともネジ止め用穴の周囲に形成される。図4に、段付の凹部の形態について例を示す。図4(A)は、長方形の長手方向の2辺の縁部に凹部を形成した例である。また、図4(B)は、4隅のネジ止め用穴の周囲にのみ段付の凹部を形成した例であり、図4(C)は、短手方向の2辺の辺部に凹部を形成した例であり、図4(D)は、縁部を枠状に囲む凹部を形成した例である。これらは、段付の凹部の例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
金属−セラミックス複合板材の凹部面積が多くなれば、複合板材と放熱部材との密着性はより向上することから、凹部面積は多いほうが望ましい。図4においては、D>A>C>Bの順に複合板材と放熱部材との密着性は向上する。
【0024】
また、段付の凹部が形成される位置は、図4の例に示したように金属−セラミックス複合板材の外周部であって、少なくともネジ頭部の径よりも大きな幅で形成されることが好ましい。図2は、金属−セラミックス複合板材21を放熱部材25に取り付けた状態を示す。ネジ24の頭部の径よりも凹部が大きく形成されていれば、ネジ締結時に鍔状部21cが変形できるので、密着性を高めることができる。
【0025】
本発明の金属−セラミックス複合板材の組織については、表面を観察したときの粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積が35%以上であることが好ましい。このような構造を備えることにより金属−セラミックス複合板材のヤング率を向上させることができ、鍔状部の変形を抑えることができる。また、金属−セラミックス複合板材の熱伝導率を高めるうえでも好ましい。
【0026】
図5は、本発明の金属−セラミックス複合板材の微細組織を示す模式図である。セラミックス粗大粒子56が結合材のシリカ57(57a)によって接合されている。図5中の58で示した部分は、金属及びセラミックス微小粒子で占められる。
【0027】
セラミックス粗大粒子56の面積は、例えば、次のような方法で求めることができる。表面を光学顕微鏡で200倍の倍率で1.0×1.5mmの範囲について観察し、表面に現れたセラミックス粒子のうち、長径が100μm以上のセラミックス粒子をセラミックス粗大粒子として、その面積を求める。面積の求め方は、光学顕微鏡写真を画像ファイルとしてパソコンに取り込む。セラミックス粒子はマトリックスである金属と比較して黒く観察されることから、市販の画像処理ファイルにてセラミックス粗大粒子の範囲を指定し、そこから面積を計算することができる。
【0028】
また、金属−セラミックス複合板材のにおける前記セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は30%以下であることが好ましい。シリカ被覆率をこのような範囲とすることにより、金属−セラミックス複合板材のヤング率を高めることができる。剛性を示すヤング率は金属−セラミックス界面の状態に大きく影響され、この界面に隙間や剛性の低いの物質が介在しているとマトリックス金属やセラミックスの配合から予想される値を大きく下回ることがある。特に、金属−セラミックス複合板材中のセラミックスの割合を多くする場合、セラミックス粒子間の結合材として用いられるシリカがセラミックス粒子と金属との間に介在し、上記のようにヤング率を低下させる。本発明では添加するシリカの量と熱処理の条件の検討を行い、金属−セラミックス界面に介在するシリカ成分を調整し、高いヤング率をもつ高熱伝導の金属−セラミックス複合板材を得た。
【0029】
結合材のシリカはセラミックスと比較するとヤング率が小さい。例えば、代表的なセラミックスである炭化ケイ素と比較した場合、炭化ケイ素のヤング率が400GPa、であるのに対し、シリカは80GPa以下である。そのため、このようにヤング率が低い物質が金属とセラミックスの界面に多く介在すると複合化したときにヤング率が低下する。したがって、ヤング率の低下を防ぐには、シリカの添加量を低減すれば良いと考えられるが、シリカの添加量を低減すると金属−セラミックス複合板材の前駆体である多孔体の強度も低下する。そして、強度が低下した多孔体に金属を浸透させると多孔体に亀裂が生じ、その部分が金属のライン(メタルベイン)となり、部分的に機械的特性の低下を招く。そのため、シリカによるセラミックス粒子間の強固な結合を確保しつつ、金属−セラミックス界面のシリカを低減する必要がある。本発明は、このような相反する問題を一挙に解消し、高いヤング率と高熱伝導性を両立させたものである。
【0030】
シリカ被覆率は、例えば次のような方法で求めることができる。まず、セラミックス粗大粒子について、走査型顕微鏡(SEM)で5000〜7000倍の倍率で断面を観察し、粒子の外周部をEDXで分析する。分析は酸素について行い、セラミックス粗大粒子を被覆しているシリカを特定する。シリカの被覆層が0.5μm以上の厚さである箇所を被覆部分とし、観察したセラミックス粗大粒子の全周に対して被覆部分の割合を求め、これをシリカ被覆率とすることができる。測定は例えば、20個のセラミックス粗大粒子について行い、これらの平均値とすることができる。
【0031】
金属−セラミックス複合板材において前記セラミックス粗大粒子を被覆するシリカのうち、セラミックス粗大粒子間の接合に用いられていないシリカ分は、10%以下であることが好ましい。粒子間の接合に寄与しない非接合部のシリカは、多孔体の高強度化に何ら貢献しないばかりか、金属−セラミックス複合板材のヤング率を低下させる。また、金属−セラミックス複合板材の熱伝導に対しても好ましくない。上記のように非接合部のシリカを10%以下とすることで、高いヤング率を持つ高熱伝導の金属−セラミックス複合板材とすることができる。なお、接合部とは、図5において2以上のセラミックス粗大粒子に密接したシリカ57aの部分をいい、それ以外のシリカは非接合部のシリカ57bである。なお、非接合部のシリカ57bには、セラミックス粗大粒子56とセラミックス微小粒子との接合に用いられるものがある。セラミックス微小粒子とシリカとの結合は、多孔体の強度を高めることができるものの、金属−セラミックス複合板材の高ヤング率化には寄与しないため、これを所定量に抑えることが好ましい。
【0032】
本発明の金属−セラミックス複合板材のヤング率は、180GPa以上とすることが好ましい。上記のヤング率を持たせることによって、鍔状部の変形を抑えることができ、ネジ止め時の調整も容易にすることができる。さらに十分なヤング率があれば、取付前後の裏面の変形による密着性の低下は起こり難いので、裏面の平面度を高めることによって、より密着性を高めることが容易になる。より好ましい金属−セラミックス複合板材のヤング率は、260GPa以上である。
【0033】
セラミックス粒子としては、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等の高熱伝導性のものが好ましい。例えば、炭化ケイ素としては、純度が99%以上の工業用の研磨材として用いられているものを適用することができる。
【0034】
シリカは、有機成分を含むシリカバインダーを加熱して、有機成分を除去することにより形成される。
【0035】
金属としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましい。具体的には、例えば純度99.0%以上の純アルミニウムやAC8Aなどの一般的に用いられている合金を用いることができる。
【0036】
次に、本発明の金属−セラミックス複合板材の製造方法について説明する。
【0037】
はじめに、セラミックス粒子とシリカバインダーとを混合する。上記のように、セラミックス粒子には、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等が用いられる。セラミックス粒子の粒径は、例えば、平均粒径100〜200μmのセラミックス粒子と、平均粒径10〜50μmの2粒度のセラミックス粒子を配合することができる。2粒度配合することで、セラミックス粒子の充填率が高められるので好ましい。2粒度配合は、例えば平均粒径100〜200μmのセラミックス粒子を60〜75質量%、平均粒径10〜50μmのセラミックス粒子を25〜40質量%とすることができる。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定によるメディアン径D50を意味する。
【0038】
シリカバインダーとしては、金属シリコンにメタノールおよび塩化水素などを混合して反応、精溜したシリコーンレジンを主成分とするものを用いることができる。このシリコーンとはシロキサン結合(Si―O)にメチル基CHのような有機基がついたものである。状態として固形のものや溶剤で希釈した液体状のものが存在し、耐熱、電気絶縁用のコーティング材やバインダーとして主に用いられている。固形状のものは100〜200℃で溶融し、25℃付近で再度固化するので好適である。特に100℃の揮発分が5質量%以下で、200℃での粘度が2mPa・s以下のものを用いることが好ましい。さらに800℃以上まで昇温することによりシリカ成分が結晶化し、バインダーとしての特性をより強く発現する。
【0039】
シリカバインダーの添加量は、セラミックス粒子に対するシリカ量が1質量%以下となるよう添加することが好ましい。これ以上の添加量では後述の熱処理を行っても炭化ケイ素とアルミニウムの間にシリカ成分が多く介在し、複合材料のヤング率低下を起こす。より好ましいシリカ換算の添加量は、0.2〜1.0質量%である。
【0040】
セラミックス粒子とシリカバインダーとの混合は、ポットミル等の乾式や湿式での混合を採用することができる。
【0041】
次いでセラミックス粒子とシリカバインダーの混合物を成形型に投入し、プレス成形する。一軸プレス成形や、CIP成形等種々のプレス成形を用いることができる。プレス圧力は、1〜10MPaで調整することができる。
【0042】
続いてプレス成形により得られた成形体を加熱する。加熱は100〜200℃の溶融工程と、800℃以上の結晶化工程に区分される。
【0043】
溶融工程では、シリカバインダーが溶融して毛細管現象によりセラミックス粒子同士が接触している箇所に集中する。100〜200℃の加熱は、12時間以上保持することが好ましく、24時間以上がより好ましい。保持時間が足りないと溶融したシリカバインダーの移動が不十分でセラミックス粒子が接触している箇所に十分集中しないため成形体の強度低下が生じたり、複合化した際にヤング率が低下したりするため好ましくない。
【0044】
溶融工程に続いて、800℃に加熱し、シリカを結晶化させる。これによりセラミックス粒子とシリカとからなる多孔体が得られる。上記のようにシリカバインダーはセラミックス粒子が接触している箇所に集中しているので、セラミックス粒子間は結晶化したシリカにより強固に接合される。この多孔体の曲げ強度は3MPa以上であることが好ましい。多孔体に十分な強度があれば、多孔体に金属を浸透させるときに亀裂が生じ難く、メタルベインに起因する機械的特性の低下を防ぐことができる。また、所定の強度を有していれば、多孔体の取扱いも簡便である。
【0045】
多孔体の加工は、ダイヤモンド加工治具を用いることができ、所定の板状が形成される。
【0046】
次に多孔体に金属を浸透させる。浸透促進剤を用いた非加圧浸透等種々の方法を用いることができる。特に、金属の溶湯に圧力を加えて浸透させる加圧浸透法を用いることが好ましい。アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いて加圧浸透を行う場合には、浸透圧力は10MPa〜100MPaとすることができる。
【0047】
浸透工程でのアルミニウムまたはアルミニウム合金の加熱温度は、融点以上であって、十分に浸透が進行する温度であれば良い。具体的には、650〜800℃の加熱温度を採用することができる。浸透の際に周囲の治具に熱を奪われるなどして浸透が十分に行われない場合があるため、周囲の治具にヒーターを内蔵したり、外部から加熱したりしながら浸透させても良い。800℃より高温ではアルミニウムの酸化が著しく、作業工程上問題が生じる場合があるため好ましくない。
【0048】
アルミニウムが浸透された金属−セラミックス複合板材は、ダイヤモンド加工治具で凹部も含めて所定形状に加工される。
【0049】
加工された金属−セラミックス複合板材は、半導体チップが搭載されたセラミックス基板をはんだ付けするために、全面にNiメッキが施されて良い。
【0050】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げる。
【0051】
[実施例1]
実施例1は、市販されている炭化ケイ素粒子の粗粒(平均粒径120μm)と微粒(平均粒径15μm)を70:30で混合したものに、シリカバインダー(シリコーンレジン、固形分95wt%以上)を炭化ケイ素粒子に100質量%に対してシリカ換算で1質量%添加してポットミルにより乾式混合した。この混合物を155mm×105mmの金型に入れて温度150℃、圧力3MPaでプレス成形した。その後、800℃で結晶化させて、多孔体を作製した。
【0052】
次に、多孔体を鉄製離型板に挟み、積み重ねた後、型枠に入れた。前記型枠を電気炉で、温度800℃で予備加熱し、予め加熱しておいたプレス型内に載置した。次に、この多孔体にSiを10質量%含むアルミニウム合金を20MPaの圧力で浸透させ、金属−セラミックス複合板材を作製した。室温まで冷却した後、型枠を取り除き、金属−セラミックス複合板材を離型した。
【0053】
得られた金属−セラミックス複合板材は、ダイヤモンド加工治具を用いて150×100×5mmに加工した後、図4(A)のようににφ7mmのネジ止め用穴を4ヶ所加工し、さらにネジ止め用穴の周囲に段付の凹部を形成した。凹部の深さは40μmとした。
【0054】
金属−セラミックス複合板材の評価は、複合板材と放熱部材との熱抵抗を求めることによって行った。この評価方法について説明する。V−I特性の温度依存性を調べた半導体チップを搭載したセラミックス基板を金属−セラミックス複合板材の中央にはんだで設置した。一方、放熱部材には、半導体チップ直下に至るまでの位置に熱電対を設置し、その上に半導体チップを設置した金属−セラミックス複合板材を放熱部材にネジ止めした。半導体に所定の電流を通電して半導体の温度をある程度上昇させ、半導体の温度をV−I特性の温度依存性に基づいて推定し、同時に放熱部材に接触している金属−セラミックス複合板材の温度を熱電対により実測し、半導体チップと接触面との温度差を測定した。半導体素子の発熱量を計算し、上記温度差との関係から金属−セラミックス複合板材と放熱部材との熱抵抗を求めた。但し、熱抵抗は、半導体チップのON/OFFを3000回繰り返した後に求めたものとする。はじめに、段付の凹部を形成していない比較例1の熱抵抗を測定し、実施例1〜4及び比較例2について比較例1との相対値で評価した。
【0055】
比較例1は、段付の凹部を形成していない以外は、実施例1と同一とした。
【0056】
実施例1の金属−セラミックス複合板材を放熱部材へネジで締結した際の、鍔状部の変形は10μmであった。熱抵抗は比較例1に対して80%であった。なお、得られた金属−セラミックス複合板材の表面について光学顕微鏡及びSEMを用いて観察したところ、粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積は39%であり、セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は23%であり、非接合部のシリカによるシリカ被覆率は6%であった。また、ヤング率をJISR1602に準拠し共振法により求めたところ、260GPaであった。
【0057】
実施例2は、凹部の深さを7μmとした以外は、実施例1と同一とした。実施例2の熱抵抗は比較例1に対して90%であった。
【0058】
実施例3は、図4(D)のようにネジ止め用穴の周囲に段付の凹部を形成した以外、実施例1と同一とした。実施例3の鍔状部の変形は13μmであった。実施例3の熱抵抗は比較例1に対して75%であった。
【0059】
実施例4は、市販されている炭化ケイ素粒子の粗粒(平均粒径150μm)と微粒(平均粒径28μm)を70:30で混合した。配合以外は、実施例1と同一とした。実施例4の鍔状部の変形は8μmであった。実施例4の熱抵抗は比較例1に対して74%であった。なお、得られた金属−セラミックス複合板材の表面について光学顕微鏡及びSEMを用いて観察したところ、粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積は45%であり、セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は23%であり、非接合部のシリカによるシリカ被覆率は8%であった。また、ヤング率をJISR1602に準拠し共振法により求めたところ、280GPaであった。
【0060】
比較例2は、市販されている炭化ケイ素粒子の粗粒(平均粒径70μm)と微粒(平均粒径15μm)を5:5で混合した。配合以外は、実施例1と同一とした。比較例2の鍔状部の変形は20μmであった。比較例2の熱抵抗は比較例1に対して110%と逆に増加した。得られた金属−セラミックス複合板材の表面について光学顕微鏡及びSEMを用いて観察したところ、粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積は10%であり、セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は24%であり、非接合部のシリカによるシリカ被覆率は7%であった。また、ヤング率をJISR1602に準拠し共振法により求めたところ、175GPaであった。ヤング率が低下したため、複合板材の中央部が浮いて熱抵抗が大きくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0061】
11、21、31 金属−セラミックス複合板材
11a 表面
11b 裏面
11c、21c、31c 鍔状部
12、42 ネジ止め用穴
13 凹部
24 ネジ
25、35放熱部材
56 セラミックス粗大粒子
57 シリカ
57a 接合部
57b 非接合部
58 金属又はセラミックス微小粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子と結合材のシリカとからなる多孔体の気孔に、金属を浸透させてなり、放熱部材にネジ止めされる金属−セラミックス複合板材であって、
前記金属−セラミックス複合板材は、4箇所以上のネジ止め用穴と、少なくとも前記ネジ止め用穴の周囲の放熱部材側の面に設けられた段付の凹部を有し、
前記段付の凹部によって形成された鍔状部のネジ締結時の変形が15μm以下であることを特徴とする金属ーセラミックス複合板材。
【請求項2】
前記段付の凹部の深さは30μm以上である請求項1記載の金属−セラミックス複合板材。
【請求項3】
ヤング率が180GPa以上である請求項1または2記載の金属−セラミックス複合板材。
【請求項4】
前記金属−セラミックス複合板材の表面において、粒径100μm以上のセラミックス粗大粒子の占める面積が35%以上である請求項1〜3記載の金属−セラミックス複合板材。
【請求項5】
前記金属−セラミックス複合板材のにおける前記セラミックス粗大粒子のシリカ被覆率は30%以下である請求項4記載の金属−セラミックス複合板材。
【請求項6】
前記金属−セラミックス複合板材において前記セラミックス粗大粒子を被覆するシリカのうち、セラミックス粗大粒子間の接合に用いられていないシリカ分は、10%以下である請求項5記載の金属−セラミックス複合板材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−15321(P2012−15321A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150312(P2010−150312)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】