説明

金属ローラおよびその製造方法

【課題】
加工機械に設置する金属ローラ表面の改質を行い、フィルム等基材の離型性(ローラ離れ)と指向性の向上を図り、皺のない高品質のフィルム等基材を得るための金属ローラを提供する。
【解決手段】
金属ローラ母材2表面がめっき処理されており、表面粗さがJIS−B0601:2001規定による算術平均粗さRaで、0.05〜25μmのめっき層3を有する金属ローラ1であって、該金属ローラ1の円周方向に測った少なくとも2種の表面粗さRaで、0.6〜15μmの差異を有する帯状層A・Bが、ローラ軸4の軸方向に交互に並んで配置形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ローラおよびその製造方法に関し、詳しくは金属ローラ表面の耐摩耗性を維持しながら金属ローラ表面と摺接する摺接材の指向性、離型性(ローラ離れ)を向上させた金属ローラ、特に本発明の金属ローラは巻き筒に巻回された写真用フィルム、レトルトパウチ用フィルム、合成樹脂製のフィルム等のフィルム基材、あるいは巻き筒に巻回された布テープ、紙テープ、ゴムテープ等のテープ基材(以下、「フィルム基材」と「テープ基材」の両者を、一括して「フィルム等基材」と略称する)の印刷や、接着剤の塗布等の加工機械に設置する送り出しローラや、ガイドローラ等のフィルム加工に適した金属ローラおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、巻き筒に巻回されたフィルム等基材に印刷を施したり、あるいは接着剤を塗布したりする等のための加工機械に設置する金属ローラは、図5に示すように該金属ローラ11を構成する金属母材12の外周面にめっき13を施し、前記フィルム等基材が摺接する外周面を凹凸面のない鏡面状態に仕上げたものを使用していた。
【0003】
しかしながら、前記従来の金属ローラの外周面は、凹凸面のない鏡面状態に仕上げてあるため、前記金属ローラをフィルム等基材の加工機械の送り出しローラ、あるいはガイドローラとして使用した場合、該金属ローラと前記フィルム等基材との接触面積が大きくなり、その結果摩擦抵抗が大きくなって、前記フィルム等基材の送り出し、あるいは送り方向転換の際、該フィルム等基材にずれが生じ、皺となるという課題があった。
【0004】
また、前記フィルム等基材は、ローラ表面と高緊張下で密着することにより、ローラ離れ(剥離性)が悪くなる特性を持っており、更に印刷塗料や接着剤が塗布されることにより、ローラとの密着性が更に増加し、ローラ離れ(剥離性)が更に悪くなり、該フィルム等基材のずれを助長して皺の原因となってしまうという課題があった。なお、皺の要因として、この他、フィルム等基材の厚さむら、湾曲、部分的な永久歪み等が挙げられている。
【0005】
そして、前記課題を解決するために、図6に示すように、金属ローラ21を構成する金属母材22の表面に凹凸の梨地面23を形成すると共に、該梨地面23上にめっきコーティングで表面被覆24を施すことにより、フィルム等基材とローラ間の摩擦係数を小さくし、滑り性を向上させ、該フィルム等基材の皺をなくす方法が、下記の特許文献1に開示されている。
【0006】
しかしながら、下記特許文献1に開示された発明では、前記皺防止の改善はなされたものの、近年では、更に高品質のフィルム等基材が要求されるようになり、この要求を満たすため、より高性能の金属ローラが求められていたが、まだ十分満足するまでに至っておらず、更なる技術開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2005−81388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたもので、フィルム等基材の印刷、あるいは接着剤を塗布する加工機械に設置する金属ローラの表面改質を行い、該フィルム等基材の離型性(ローラ離れ)と指向性の向上を計り、皺のない高品質のフィルム等基材を得るための金属ローラおよびその製造方法を提供しようとするものである。なお、ここでの指向性とはフィルム等が走行中に斜行や横滑りしないで、目的とする一方向に進む現象を云う。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明においては、次のように構成された金属ローラを提供する。
【0010】
請求項1に記載の発明においては、金属ローラ母材表面がめっき処理されており、表面粗さが、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さRaで、0.05〜25μmのめっき層を有する金属ローラであって、該金属ローラの円周方向に測った表面粗さRaで、0.6〜15μmの差異を有する、少なくとも2種の帯状層が、ローラ軸の軸方向に交互に並んで配置形成されていることを特徴とする金属ローラが提供される。
【0011】
更に、好ましくは本発明の金属ローラは、前記請求項1に記載された構成の外に、請求項2〜請求項6に記載された構成の金属ローラを提供することが推奨される。
【0012】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載された金属ローラ表面の帯状層間に、0.5〜12μmの高低の段差を設けたことを特徴とする金属ローラが提供される。
【0013】
請求項3に記載の発明においては、請求項1または2に記載された前記金属ローラの表面粗さの大きい帯状層の割合が、ローラ総表面積の5〜80%であることを特徴とする金属ローラが提供される。
【0014】
請求項4に記載の発明においては、請求項1〜3のいずれかに記載されためっき層が、硬質炭化クロムめっき層であり、皮膜硬度がHv950〜1300であることを特徴とする金属ローラが提供される。
【0015】
請求項5に記載の発明においては、請求項4に記載された硬質炭化クロムめっき層のクロム化合物が、炭化クロム合金(Cr23)を1〜8重量%含有していることを特徴とする金属ローラが提供される。
【0016】
請求項6に記載の発明においては、請求項1〜5のいずれかに記載された金属ローラが、フィルム基材、あるいはテープ基材の印刷や接着剤の塗布処理等の加工機械に設置する送り出しローラ、またはガイドローラであることを特徴とする金属ローラが提供される。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明においては、次のように構成された金属ローラの製造方法が提供される。
【0018】
請求項7に記載の発明においては、金属ローラ母材表面に、表面粗さが、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さが、Ra0.05〜25μmの範囲で、且つ該金属ローラ母材表面の円周方向に測った表面粗さで、Ra0.6〜15μmの差異を有する、少なくとも2種の帯状層が、ローラ軸の軸方向に交互に並んで配置形成されるように表面加工処理を施し、然る後、めっき処理を施して、めっき層を形成することを特徴とする金属ローラの製造方法が提供される。
【0019】
更に、好ましくは本発明の金属ローラの製造方法は、前記請求項7に記載された構成の外に、請求項8〜請求項10に記載された構成の金属ローラの製造方法を提供することが推奨される。
【0020】
請求項8に記載の発明においては、請求項7に記載された金属ローラ表面の帯状層間に、0.5〜12μmの高低の段差を設けることを特徴とする金属ローラの製造方法が提供される。
【0021】
請求項9に記載の発明においては、請求項7または8に記載されためっき層がクロム化合物でめっき処理を施された硬質炭化クロムめっき層であり、皮膜硬度が、Hv950〜1300であることを特徴とする金属ローラの製造方法が提供される。
【0022】
請求項10に記載の発明においては、請求項9に記載されたクロム化合物が、炭化クロム合金(Cr23)を1〜8重量%含有していることを特徴とする金属ローラの製造方法が提供される。
【0023】
本発明は、前記各構成を採用することにより、前記課題を解決することができる金属ローラおよびその製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、フィルム等基材の印刷、あるいは接着剤の塗布加工において、該フィルム等基材の離型性(ローラ離れ)と指向性の向上を図り、皺のない高品質のフィルム等基材を得るための金属ローラおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者等は、本発明の目的とするフィルム等基材の皺発生の防止策として、単に金属ローラ表面に凹凸の梨地面を形成するだけではなく、凹凸の梨地面の形成方法を工夫することで、更に優れた皺防止の方法を見出した。以下、本発明を実施するための最良の形態につき、図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
本発明の金属ローラ1は、図1に示すように、金属ローラ母材2の表面に、表面粗さが、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さRaで、0.05〜25μmのめっき層3を有する金属ローラであって、該金属ローラ1の円周方向に測った少なくとも2種の表面粗さRaで、0.6〜15μmの差異を有する帯状層A・Bが、前記めっき層3によって被覆されて、ローラ軸4の軸方向に交互に並んで配置形成されている。なお、前記Raの範囲において、下限を0.05μmとしているが、これは本発明者らがRaを測定し得られた最小値を示すものである。
【0027】
なお、本発明において、金属ローラとは、母材である鉄、アルミニウム、チタン等の金属の表面が、めっき処理されたもののすべてをいう。また、前記金属ローラは、フィルム等基材の印刷、あるいは接着剤の塗布加工等の機械に使用する送り出しローラや、ガイドローラ、ガイドピン等のフィルム等基材の搬送に伴う金属ローラのすべてを含むが、該金属ローラの設置場所は、前記フィルム等基材の印刷や接着剤の塗布加工機械に限定されるものではない。
【0028】
本発明の金属ローラの表面粗さは、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さRaで、0.05〜25μmのめっき層を有することが前提となる。このときの粗さ測定には、触針走査式粗さ測定器が使用される。
【0029】
ここで、図2に示す本発明金属ローラ1において、前記0.6〜15μmの差異を有する帯状層A・Bを配置形成するために、前記金属ローラ母材2の表面に形成される梨地形状の凹凸5は、該金属ローラ母材2の表面にショットブラスト処理を施すことにより形成されるが、図5に示すような、ローラ表面が殆ど凹凸のない鏡面状態(算術平均粗さRaが0.3μm以下)も、前記本発明における表面粗さの範囲に含まれる。すなわち、前記梨地形状の帯状層と鏡面状態の帯状層の組み合わせによっても、本発明の目的とする充分な皺防止効果が得られる。
【0030】
更に、本発明の金属ローラは、図1および図2に示すような、金属ローラ1の円周方向に延びた表面粗さRaで、0.6〜15μmの差異を有する、少なくとも2種の帯状層A・Bが、ローラ軸4の軸方向に交互に並んで配置形成されていることが必須要件である。
【0031】
前記のように、表面粗さの異なる帯状層が交互に並んで配置形成されることにより、金属ローラ間において、フィルム等基材が緊張状態で、ある角度を持って方向転換しながら搬送された場合等、ローラ上で前記フィルム等基材の横滑りを制御しながら搬送される。
【0032】
すなわち、摩擦係数の小さい面(表面粗さの大きい帯状層)の滑り性と離型性からくるローラ上での横滑りを、摩擦係数の大きな面(表面粗さの小さい帯状層)でコントロールしながら、バランス良く搬送されることで、フィルム等基材の歪みが減少し、皺防止に寄与するものと考えられる。
【0033】
なお、表面粗さの差が算術平均粗さRa0.6μm未満でも、皺防止の効果はあるものの、前記金属ローラのショットブラスト処理において、安定した加工面を得ることができない。従って、表面粗さの差が算術平均粗さRa0.6μm未満では、安定した品質の金属ローラが得られないため好ましくない。
【0034】
一方、表面粗さの差が15μmを超えると、金属ローラの表面摩擦係数が小さくなり、フィルム等基材とのローラ離れ(離型性)は改良されるものの、ローラ上での滑りが大きくなり、皺の原因となるため好ましくない。
【0035】
次に、表面粗さの異なる帯状層の配置パターンについて説明する。
【0036】
基本的には、図1および図2に示すように、金属ローラ1の表面に表面粗さの異なる帯状層A・Bが、隣り合わせに交互に並んで配置形成される。目的に応じて、表面粗さの差異を有する帯状層を複数配置してもよいが、AとBが一列ずつ並列でも構わない。
【0037】
なお、金属ローラの両端には、表面粗さが同一になるように帯状層を配置することが好ましい。このように表面粗さの異なる帯状層を規則的に配置することで、フィルム等基材の指向性が一定となり、安定したフィルム等基材の搬送が可能となる。そして、前記表面粗さの異なる帯状層の巾は、金属ローラの形態、大きさによって決定される。
【0038】
また、本発明の金属ローラ1は、図3に示すように、各帯状層A・B間の表面に、0.5〜12μmの高低の段差h(帯状層の凹凸の段差)を設けることで、前記フィルム等基材の離型性(ローラ離れ)と指向性が向上し、更にフィルムの皺防止に優れた高性能の金属ローラを得ることができる。前記高低の段差h は、好ましくは、1〜8μmの範囲内である。高低の段差hが0.5μmを下回ると、高低の段差hの効果が小さい。一方、高低の段差hが、12μmを超えると、前記金属ローラ表面上での滑りが大きくなったり、フィルム等基材表面の損傷の原因になるため好ましくない。
【0039】
なお、前記帯状層A・Bを構成する凹凸部それぞれの表面粗さの大、小によって、フィルム等基材の離型性(ローラ離れ)と指向性大きく異なってくるが、いずれの場合でも、表面粗さが大きい帯状層の占める割合は、ローラ総表面積の5〜80%であることが好ましい。
【0040】
従って、滑り性および離型性と指向性のバランスの良い条件、すなわち、帯状層の表面粗さ、表面粗さの差異、帯状層の巾、帯状層の数、帯状層の段差の条件は、前記したように、フィルム等基材の材質、厚さ、巾、また厚みむら等の特性を調査した上で決定することが重要である。
【0041】
本発明金属ローラ表面の粗さが異なる帯状層を得るための表面加工処理としては、後述するショットブラスト処理の他に、研磨と石等を使用する機械研削、バイトなどの刃物を使用する機械研削、および放電研磨等による電解研磨、薬剤を使用して母材を浸食させる化学研磨(ケミカルエッジング)、湿潤めっき、およびマイクロポーラスめっき等があり、いずれも本発明に採用することができる。
【0042】
前記表面加工処理の中でも、一般的に使用されているショットブラスト処理について以下に述べる。
【0043】
一般的に、ショットブラスト処理とは、圧縮した空気(0.2〜0.5MPa)を利用し、ショットブラスト処理材料(アルミナグリッド、エメリ(砂)、SUSボール、ガラスビーズ等)を金属母材の表面に吹き付けて(衝突させて)、金属母材表面を粗面化する。金属母材の表面には、無数のランダムな配列から成るダル(山・谷形状)が形成される。
【0044】
そして、前記金属母材の表面は、鋭くエッジが立ったダルが形成されているため、このままの状態でクロムめっき処理を施すと、下地を反映し微細突起数の多いクロムめっき層を皮膜形成してしまう。また、ショットブラスト処理材としての粒子の大きさは厳密には一定ではなく、規定の範囲にある粒子の集合体から構成されている。従って、ショットブラスト処理で得られた表面粗さも一定ではなく、ショットブラスト材の粒度バラツキが反映される。そのため、前記したような問題を回避するため、ショットブラスト処理した後に、更に金属母材の表面を研磨加工することが重要である。
【0045】
前記方法により、例えば、図1に示すような金属ローラ表面の帯状層を得るためには、あらかじめ表面粗さの小さい帯状層Bのショットブラスト処理を施し、次に表面粗さの大きい帯状層Aにショットブラスト処理を施すことで、安定した品質の金属ローラ表面を得ることができる。
【0046】
また、図3に示す金属ローラ1表面の帯状層A・B間に高低の段差hを設ける場合は、あらかじめ金属ローラ母材2の段階で所定の高低の段差を設けておき、その上に前記したショットブラスト処理を施すことで、目的とする表面形態を形成することができる。
【0047】
本発明金属ローラを製造する場合、母材表面のめっき層の形成手段としては、電解メッキ処理、無電解メッキ処理、蒸着処理またはイオンビーム処理等があり、いずれも本発明に採用することができる。これらめっき加工処理の中でも、硬質クロムめっき処理が一般的に広く使用されているが、高性能の金属ローラを得るには耐摩耗性が良好な硬質炭化クロムめっき処理が好ましい。
【0048】
以下に、硬質炭化クロムめっき処理の詳細について述べる。
【0049】
本発明において、硬質炭化クロムめっき処理をする場合、硬質炭化クロムめっき層の表面に皮膜形成したクロムめっき層の皮膜形成硬度(常温Hv)は、950〜1300の範囲内にあるものが望ましい。特に限定する必要はないが、好ましくは、1000〜1300の範囲であることが推奨される。950未満では、目的とする耐摩耗性の高い金属ローラは得られ難い。
【0050】
一般には、硬質炭化クロムめっき層の皮膜硬度は、炭化クロム合金(Cr23)の生成量によって決定される。
【0051】
クロムめっき加工処理で、金属ローラのクロムめっき層の皮膜硬度を、950〜1300の範囲にするには、クロムめっき層の、特に、表面、もしくは表面に近い部分、または、クロムめっき層全体に、炭化クロム合金(Cr23)の生成量を多くすることが重要である。一般的なクロムめっきは、大きな内部応力と水素(H)を多量に吸蔵したクロム(Cr)単体が生成するのに対し、クロムめっきは、前記した化合物から成る高純度の炭素(C)を含む高分子化合物等の混合触媒を用いることで、分子間結合度の高い炭化クロム合金を、特にめっき表層部に多く皮膜形成し、また、めっき層内部にまで高濃度生成ができるので、高硬度のクロム層を得ることが可能となる。
【0052】
次に、炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)化合物を、皮膜形成させるためのクロムめっきの詳細について説明する。
【0053】
金属ローラ母材表面を、無水クロム酸液中の電気めっきによって、クロムめっき層を皮膜形成する金属ローラの製造方法において、該電気めっき処理時に用いる整流器のリップル含有率を5%以下に制御し、且つ電流密度が20〜220A/dmで処理することが重要である。
【0054】
本発明で用いる電気めっき法でのクロムめっきの皮膜形成方法は、特殊浴(サージェント浴改)を用いることで可能となる。浴成分としては、無水クロム酸と高純度の炭素(C)を含む高分子化合物から成る粉末を混合させ、浴温度60℃前後で処理する。炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)化合物を皮膜形成させるには、通常クロムめっきの約2〜2.5倍の電流密度(40〜220A/dm)が必要である。
【0055】
めっき処理で重要なことは、処理する基材の表面積に合わせ、最適電流密度の条件を選定し、また整流器でのリップル発生率を如何に抑えるかである。
【0056】
一般的に電気めっきは直流で行われる。そのためには、交流から直流に変換する必要があり、その機能を整流器で行う。この整流器は、スイッチングタイプとインバータタイプとに大きく分類され、前者は、半導体によって、交流の電気を交互にスイッチすることによって、陰陽極をそれぞれ拾い出し(ピックアップ)、直流に変換するタイプである。
【0057】
このとき、一般的に、前記処理である交流の電気を交互にスイッチすることによって、ノイズが生じるため、良い波形が得られないことから、一般的には電気めっき法での整流器としてはあまり用いられていない。
【0058】
後者は、交流の電気をインバータによって交流から直流に変化する。そのことからノイズの発生が少ない上、更に周波数を増幅することで、省電力で大きな直流電流を発生させることが可能である。従って、電気めっき法の整流器は、インバータタイプを選定することが好ましい。
【0059】
また、この時に用いられる高純度の炭素(C)を含む高分子化合物とは、デンプン、セルロース、タンパク質、天然ゴム、ポリエチレン、ナイロン、合成ゴム、フェノール樹脂、尿素樹脂から構成される炭素化合物を含む高分子化合物のいずれかであり、これを無水クロム酸(pH2〜4)に混合した液で電気めっき処理すると、炭化クロム合金(Cr23)の生成量が多く、高硬度のクロム(Cr)化合物を皮膜形成させることが可能となる。
【0060】
前記高硬度のクロム(Cr)化合物である炭化クロム合金(Cr23)の含有量は、1〜8重量%であること好ましい。1重量%を下回ると、クロムメッキ層の硬度が低くなり、金属ローラ表面の摩耗性が劣る方向にあり、一方、8重量%を越えるとクロムメッキ層の硬度が硬くなり、衝撃等に対して脆くなるので好ましくない。
【0061】
次に、本発明におけるめっき層の皮膜形成厚みは、10〜200μmが好ましい。更に好ましくは、30〜100μmである。
【0062】
なお、10μm未満の皮膜厚みのめっき処理は、現時点では膜厚さが均一に制御不可等の問題もあり、実用化は難しい。また、打撲等機械的に損傷を受たり、耐摩耗性等の耐久性も不十分なことがある一方、200μmを越える厚みは、既に効果が飽和しており、めっき処理のコストが高くなるため好ましくない。
【0063】
また、本発明金属ローラの材質は金属であれば特に限定されないが、好ましくはクロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼等の鋼材、また水分の多いところに配置される金属ローラには、ステンレススチールが好んで使用される。
【0064】
次に、本発明金属ローラの製造方法を説明するが、金属ローラの製造方法はこれに限られるものではない。そして、本発明の金属ローラは、次の(1)〜(8)の製造工程によって製造することが推奨される。
【0065】
すなわち、本発明金属ローラは、(1)研磨工程、(2)金属ローラの母材表面清浄工程、(3)アルカリ洗浄工程、(4)ショットブラスト処理で粗面化する粗さ調整工程、(5)研磨工程、(6)水洗工程、(7)クロムめっき処理工程、(8)表面洗浄工程の各工程を経て製造される。そして、各工程の詳細を以下に記載する。
【0066】
(1)第1工程は、金属母材の表面に研磨加工(鏡面研磨)を施す研磨工程である。研磨加工に使用する研磨材は、人造ダイヤモンド(工業用ダイヤモンド)、アルミナ、青棒(Cr)、トリポリ等が好ましく、これにより鏡面状態(算術平均粗さRa0.3μm以下)にまで研磨する。
【0067】
前記鏡面研磨の処理は、後述する(4)ショットブラスト処理で粗面化する粗さ調整工程において、金属母材表面の全面を粗さにムラなく仕上げるために、先ず、めっきする金属母材表面を研磨し、均一な粗さ(鏡面)状態にしておくことが重要である。
【0068】
(2)第2工程は、金属ローラの母材表面清浄工程で、金属ローラの母材表面に、クロムめっきの皮膜形成を容易にするためのもので、先ず、エタノール、シンナー、トリクロル、エチレン等の有機溶剤洗浄により、金属ローラの母材表面を脱脂する。洗浄液としては、安全性や環境面からエタノールが好ましい。
【0069】
(3)第3工程は、アルカリ洗浄工程で、クロムめっき層と金属ローラの母材表面の密着力を更に向上させるためアルカリ洗浄(浸せき脱脂)する。金属ローラ表面の油分をけん化し、乳化させ、膨潤させて取り除くことにより密着力が高まる。
【0070】
(4)第4工程は、ショットブラスト処理で粗面化する粗さ調整工程で、表面粗さの異なる帯状層を、ローラ軸方向に交互に形成するためのショットブラスト処理を施こして行く。ショットブラスト処理の方法としては、マスク法を採用することが好ましい。すなわち、ショットブラスト処理を行わない帯状層に、ショットブラスト処理の影響を受けないように、あらかじめフロンマスク材でマスクをしておき、その状態でショットブラスト処理を施して行く。なお、手順としては、表面粗さの小さい帯状層からショットブラスト処理を施して行くことが望ましい。
【0071】
前記粗面化に使用するショットブラスト処理材料としては、アルミナグリッド、エメリ(砂)、SUSボール、ガラスビーズ等が好ましいが、このうちでも特にアルミナグリッド、エメリ(砂)が好ましい。ショットブラスト処理の方法としては、金属ローラを回転台の上で回転させながら加工することが推奨される。このとき、ショットブラスト処理材料を噴射するトーチ(ガン)は、金属ローラに直角に配置し、該トーチを金属ローラの軸方向に往復運動させながら、該金属ローラの表面に均一に処理材が当たるようにすることが推奨され、その際の吹き付け圧は、0.2〜0.5MPaで行うことが推奨される。
【0072】
(5)第5工程は研磨工程で 、前記第四工程で得られた金属ローラ表面の鋭くエッジ立ったダルを仕上げるため、研磨加工をするものであって、前記第1工程で行った研磨工程とは意味が異なる上、研磨材も当然ながら異なったものを用いる。この第5工程の研磨工程によって、異常な突起を下地の段階で修正(ピークカット)することで、飛躍的に微細突起の発生を抑制することができる。好ましい修正範囲は、ダルの高さの約0.7〜2割を研磨し、更に好ましくは0.9〜1.3割である。前記研磨材は、不織布、麻布、ペーパータオル等)の生地の目の細かい、ソフトな素材が好んで用いられる。
【0073】
(6)第6工程は、水洗工程で、前記第4および第5工程の際に、金属ローラ表面に付着したショットブラスト処理の残留物を、十分に除去する必要がある。この残留物がある状態でめっき処理を施すと、残留物を包み込んだ状態で皮膜形成されることになり、規定範囲内の粗さ形態に収まらない他、微細な異常突起となるので、残留物を除去するのである。そのため高圧水で洗浄することが好ましい。高圧水の圧力は0.5〜1.5MPaで行うと効果的である。その後、常温、または加熱エアーで乾燥させることが、更に好ましい。
【0074】
(7)第7工程は、クロムめっき処理工程で、炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)化合物を電気めっきで皮膜形成させる。前記電気めっきは、特殊浴(サージェント浴改)を用いる。浴成分としては、無水クロム酸と高純度の炭素(C)を含む高分子化合物から成る粉末を混合させ、浴温度60℃前後で処理し、皮膜形成時間は、クロムめっき層の厚みを10〜200μmにするためには、2〜8時間処理することにより、炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)が皮膜形成される。
【0075】
前記炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)を、金属ローラ表面に皮膜形成するには、通常クロムめっきの約2〜2.5倍の電流密度(40〜220A/dm)が必要である。
【0076】
(8)第8工程は、表面洗浄工程であって、前記第7工程で、炭化クロム合金(Cr23)を含むクロム(Cr)を皮膜形成された金属ローラ表面を、エタノール、シンナー、トリクロルエチレン等の有機溶剤洗浄により、金属ローラの母材表面を脱脂する。洗浄液としては、安全性や環境面からエタノールが好ましい。
【0077】
前記第1工程〜第8工程を経ることにより、本発明金属ローラが製造される。
【実施例】
【0078】
一般に、印刷や樹脂の塗布加工に使用されている加工機械は、図4示すような構造になっている。すなわち、フィルム等基材Fを巻回した巻き筒W1と、加工処理した該フィルム等基材Fを巻き揚げる巻き取り装置に設置された巻き筒W2間に、前記フィルム等基材Fを走行駆動されるための駆動ローラ(Y1・Y2)や、樹脂等を塗布する塗布装置、樹脂を乾燥させる乾燥装置等が配置され(図省略)、それぞれのセクション間に複数のガイドローラ(R1・R2・R3)が配置されている。
【0079】
実施例は、下記の方法で製作された金属ローラを、図4に示す加工機械のガイドローラ(R1・R2・R3) として適用した。また、下記に示すフィルムを前記加工機械に装着して、皺防止効果の確認を実施した。なお、本実施例においては、樹脂の塗布、乾燥工程を省略した。
【0080】
実施例1〜11、比較例1〜4
金属ローラとして、クロムモリブデン鋼から成る母材を使用し、前記加工機械のガイドローラを製作するに当たり、成膜組成、成膜方法、帯状層の表面粗さ(表面の算術平均粗さRa)、帯状層の巾、帯状層の表面粗さ差、帯状層間の段差を、それぞれ表1および表2に示す11種類(実施例1〜11、比較例1〜4)のガイドローラを製作した。
【0081】
なお、表2に示す比較例のうち、比較例1は、金属表面にショットブラスト処理を施さないで、実施例1と同じ方法で、金属表面をクロム化合物で製膜処理した鏡面状態のガイドローラである。
【0082】
また、比較例2は、あらかじめショットブラスト処理を施した後に、クロム化合物で成膜処理した実施例1の帯状層Aに相当する梨地状態のガイドローラである。比較例1,2はいずれも従来品に相当する。
【0083】
その他の夫々の条件は以下の通りとした。
<運転条件>
搬送速度:100m/分
ローラ間(ローラR1とR2)のずれ率(センタのずれ):3%(フィルム巾に対する割合)
ストレッチ率:0.5%(ローラR1とローラR2間)
<ガイドローラ>
ローラ径:80mm
ローラ長さ:770mm
クロムめっき層皮膜強度:常温Hv1250
クロムめっき膜厚:30μm
成膜組成:Cr/Cr23(含有量:7重量%)
ショットブラスト処理材:アルミナ
マスク材 :フロンマスク
<フィルム基材>
フィルム材質:ポリエチレンテレフタレート(市販品)
フィルム巾:1000mm
フィルム厚み:10μm
【0084】
前記のようにして得られた、フィルム等基材の指向性および皺の発生状況について観察し、その結果を表1および表2に示した。なお、表1および表2における「摩擦係数」および「皺特性」は、下記の条件による。
【0085】
<算術平均粗さRa>
JIS−B0601:2001規定に基づく。触針走査式粗さ測定器を使用し、触針をローラの軸方向に移動させながら、ローラの円周方向に5ヵ所を測定しその平均値を示した。
<摩擦係数>
金属表面の滑り性、剥離性(ローラ離れ)の指標である摩擦係数は、ピンオンディスク摩擦・摩耗試験機を用い、相手材としてWCボールを使用し、荷重30〜200g、摩擦速度30〜80cm/Secと変化させて、摩擦距離0から50mまで移動させながら摩擦係数のチャートを作図し、チャート上から30m走行後の摩擦係数値の安定した中心部を読み取る。
【0086】
<皺特性>
巻き筒に巻き上げられたフィルムの状態を目視で観察評価を行い、下記のようにランク分けした。
Aランク:皺発生が殆どみられず、巻き上げ状態が最良
Bランク:皺発生がみられず、巻き上げ状態は良
Cランク:皺発生がみられないが、巻き上げ状態がやや不良
Dランク:皺発生が僅かにみられ、巻き上げ状態は不良
Eランク:皺発生が顕著にみられ、巻き上げ状態は不良
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
前記表1および表2に示す結果から、実施例1〜11においては、金属ローラの条件によって、結果は異なるものの、いずれも従来品である比較例1およびで2に比べ、皺防止効果が認められた。特に、実施例7,10は、その効果が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属ローラは、金属ローラ表面の耐摩耗性を維持しながら金属ローラ表面と摺接する摺接材の離型性(ローラ離れ)と指向性において優れているため、特にフィルム等基材の印刷、あるいは接着剤の塗布加工における皺のない高品質フィルム等基材を得るための、ガイドローラや送り出しローラ、ガイドピン等の金属ローラとして有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明金属ローラにおいて、金属ローラの表面粗さの異なる帯状層の配置を表した概略説明図である。
【図2】本発明金属ローラにおいて、金属ローラの表面粗さの異なる帯状層間の一部拡大縦断面図である。
【図3】本発明金属ローラにおいて、金属ローラの表面粗さの異なる帯状層間の段差を示す一部拡大縦断面図である。
【図4】本発明金属ローラを、フィルム等基材の樹脂塗布加工に使用する加工機械に取付けた概略説明図である。
【図5】従来の金属ローラ母材にめっき皮膜を施した一部拡大縦断面図である。
【図6】従来の金属ローラ母材の表面に梨地加工を施し、めっき皮膜を形成した一部拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0092】
1 金属ローラ
2 金属ローラ母材
3 めっき層
4 ローラ軸
5 凹凸
A 表面粗さの大きい(粗い)帯状層
B 表面粗さの小さい(細かい)帯状層
h 段差
F フィルム等基材
W1・W2 巻き筒
R1・R2・R3 ガイドローラ
Y1・Y2 駆動ローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ローラ母材表面がめっき処理されており、表面粗さが、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さRaで、0.05〜25μmのめっき層を有する金属ローラであって、該金属ローラの円周方向に測った表面粗さRaで、0.6〜15μmの差異を有する、少なくとも2種の帯状層が、ローラ軸の軸方向に交互に並んで配置形成されていることを特徴とする金属ローラ。
【請求項2】
前記金属ローラ表面の帯状層間に、0.5〜12μmの高低の段差を設けたことを特徴とする請求項1記載の金属ローラ。
【請求項3】
前記金属ローラは、表面粗さの大きい帯状層の割合が、ローラ総表面積の5〜80%であることを特徴とする請求項1または2記載の金属ローラ。
【請求項4】
前記めっき層が、硬質炭化クロムめっき層であり、皮膜硬度がHv950〜1300であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属ローラ。
【請求項5】
前記硬質炭化クロムめっき層のクロム化合物が、炭化クロム合金(Cr23)を1〜8重量%含有していることを特徴とする請求項4記載の金属ローラ。
【請求項6】
前記金属ローラが、フィルム基材、あるいはテープ基材の印刷や接着剤の塗布処理等の加工機械に設置する送り出しローラ、またはガイドローラであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属ローラ。
【請求項7】
金属ローラ母材表面に、表面粗さが、JIS−B0601:2001規定による算術平均粗さが、Ra0.05〜25μmの範囲で、且つ該金属ローラ母材表面の円周方向に測った表面粗さで、Ra0.6〜15μmの差異を有する、少なくとも2種の帯状層が、ローラ軸の軸方向に交互に並んで配置形成されるように表面加工処理を施し、然る後、めっき処理を施して、めっき層を形成することを特徴とする金属ローラの製造方法。
【請求項8】
前記金属ローラ表面の帯状層間に、0.5〜12μmの高低の段差を設けることを特徴とする請求項7に記載の金属ローラの製造方法。
【請求項9】
前記めっき層がクロム化合物でめっき処理を施された硬質炭化クロムめっき層であり、皮膜硬度が、Hv950〜1300であることを特徴とする請求項7または8に記載の金属ローラの製造方法。
【請求項10】
前記クロム化合物が、炭化クロム合金(Cr23)を1〜8重量%含有していることを特徴とする請求項9に記載の金属ローラの製造方法。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−281529(P2009−281529A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135328(P2008−135328)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(399018127)千代田第一工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】