説明

金属帯板の形状測定ロール

【課題】調整が容易で部品の交換だけで長期間使用することができ、金属帯板の幅方向の端部まで精度良く形状を測定することができる金属帯板の形状測定ロールを提供する。
【解決手段】金属帯板が走行するラインに両端が回転自在に支持され前記金属帯板を巻き付けるように設置する金属帯板の形状測定ロール1において、表面に少なくとも1本以上の軸方向溝を形成した内側ロール10と、内側ロール10に嵌合する中空円筒20と、内側ロール10の軸方向溝40内に設置され金属帯板の巻付け圧力を測定する複数のセンサセット30とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯板が走行するライン内に設置される金属帯板の形状測定ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属帯板の形状測定ロールとして、例えば下記特許文献1に示されるように、回転自在に構成した1本の無垢ロールの表面近傍に軸方向に平行な穴を形成し、この穴の中に金属帯板の巻き付け荷重を測定するセンサを設置することにより構成されるものが知られている。
【0003】
また、金属帯板の形状測定ロールとして、下記特許文献2に示されるように、ロールの表面のくぼみ内にこのくぼみの壁から離して設置されるセンサを、厚さ2〜5mmの薄いケーシング、例えばローラシェルで覆う構成のものが知られている.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−515456号公報
【特許文献2】特開2000−88564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される従来の金属帯板の形状測定ロールにおいては、以下の問題点が存在する。
(1) ロールは無垢ロールであり、金属帯板を巻き付け運転するとロールの表面が摩耗したり傷が付き、これが金属帯板の表面の疵に繋がるため、定期的にロールの表面を研磨しなげればならない。このため、ロールに軸方向と平行に形成した穴面とロールの表面との距離は研磨ごとに小さくなる。穴に設置されたセンサは、穴のつぶれ量で荷重を測定しているため、穴面と表面との距離によって感度が大きく変わり、研磨ごとにセンサの感度調整が必要となる。
【0006】
また、最初に穴面と表面との距離を大きくしすぎるとセンサでの測定が出来なくなってしまうため、最初から穴面と表面との距離を小さくしておかなければならず、必然的に研磨代は小さくなってしまう。したがって、高価なロールをわずか数ミリメートル研磨しただけで廃却しなければならない。
【0007】
(2) ロールの軸方向に平行に形成したロールを貫通しない穴の先端付近にセンサを設置した場合、センサ位置の穴のつぶれ量は穴がない部分に拘束されて小さくなってしまうため、センサが感知する荷重が小さくなり形状測定精度が悪化する。
【0008】
(3) ロールの軸方向に平行に形成したロールを貫通する穴の途中にセンサを設置した場合、金属帯板の縁付近の穴のつぶれ量は、金属帯板の縁より外側の部分に拘束されて小さくなってしまうため、最も重要な金属帯板の幅方向の端部付近の形状測定精度が悪化する。
【0009】
(4) ロールの軸方向と平行に穴を機械加工するには、ドリルによる円形穴が通常であるため、ロールの表面から穴までの距離(最小厚み)を小さくしても、径方向に厚みが急増する形であるため、測定感度を高めることが難しい。
【0010】
(5) ロールの軸方向と平行に形成した穴に設置する多数のセンサの調整は軸端からしか行えず、また、センサの設置状態を直接確認できないため、センサの調整が難しく多くの労力と熟練が必要となる。
【0011】
また、上記特許文献2に開示される従来の金属帯板の形状測定ロールにおいては、以下の問題点が存在する。
(1) 金属帯板を巻きつけながらロールを回転させると、耐摩耗性材料を使ったケーシングであってもケーシングの表面に傷が付いてしまうため、ケーシングに付いた傷により金属帯板の縁などは傷が付きやすい。このため、ケーシングの表面を研磨しなければならないが、ケーシングの厚みは好ましくは2〜5mmであるため、ケーシングをわずか数mm研磨しただけでケーシングを交換しなければならない。
【0012】
(2) 上記特許文献2に開示される従来の金属帯板の形状測定ロールは、内側ロールのくぼみにセンサを設置したあとにケーシングで覆うため、ケーシングを嵌合したあとはセンサの調整ができなくなる。このため、複数個のセンサのうち一つでも不調になると、ケーシングを取り外さない限り調整は不可能であり、多大な時間を要するだけでなく、不経済でもある。
【0013】
以上のことから、本発明は、調整が容易で部品の交換だけで長期間使用することができ、金属帯板の幅方向の端部まで精度良く形状を測定することができる金属帯板の形状測定ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決する第1の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、
金属帯板が走行するラインに両端が回転自在に支持され前記金属帯板を巻き付けるように設置する金属帯板の形状測定ロールにおいて、
表面に少なくとも1本以上の軸方向溝を形成した内側ロールと、
前記内側ロールに嵌合する中空円筒と、
前記内側ロールの前記軸方向溝内に設置され前記金属帯板の巻付け圧力を測定する複数のセンサと
を備える
ことを特徴とする。
【0015】
上記の課題を解決する第2の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、第1の発明に係る金属帯板の形状測定ロールにおいて、
前記内側ロールの表面には周方向溝又は周方向から傾斜した方向の連続した螺旋溝を形成する
ことを特徴とする。
【0016】
上記の課題を解決する第3の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、第2の発明に係る金属帯板の形状測定ロールにおいて、
前記センサは、前記周方向溝又は前記螺旋溝と軸方向溝との交差位置に設置される
ことを特徴とする。
【0017】
上記の課題を解決する第4の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、第2の発明に係る金属帯板の形状測定ロールにおいて、
前記センサは、前記周方向溝又は前記螺旋溝によって形成されるランドと前記軸方向溝との交差位置に設置される
ことを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決する第5の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、第1の発明から第4の発明のいずれかひとつに係る金属帯板の形状測定ロールにおいて、
前記センサをそれぞれ固定する保持板と、
該保持板と隣接するスペーサと
を備え、
前記保持板の両端面は、該両端面の延長線が径方向の内部側で交点を持つ方向に傾斜させ、
前記保持板に接する前記スペーサの両端面は、該両端面の延長線が径方向の外部側で交点を持つよう傾斜させ、
前記内側ロールの軸方向から径方向に向かって取った前記保持板及び前記スペーサの両端面の傾斜角度は、前記内側ロールの端部側より内部側に設置される前記保持板及び前記スペーサの方が小さいか又は同じとする
ことを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決する第6の発明に係る金属帯板の形状測定ロールは、第1の発明から第4の発明のいずれかひとつに係る金属帯板の形状測定ロールにおいて、
前記センサをそれぞれ固定する保持板と、
該保持板と隣接するスペーサと
前記軸方向溝内に設置され前記保持板及び前記スペーサを収容する保持箱と
を備え、
前記保持板の両端面は、該両端面の延長線が径方向の内部側で交点を持つ方向に傾斜させ、
前記保持板に接する前記スペーサの両端面は、該両端面の延長線が径方向の外部側で交点を持つよう傾斜させ、
前記内側ロールの軸方向から径方向に向かって取った前記保持板及び前記スペーサの両端面の傾斜角度は、前記内側ロールの端部側より内部側に設置される前記保持版及び前記スペーサの方が小さいか又は同じとする
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、調整が容易で部品の交換だけで長期間使用することができ、金属帯板の幅方向の端部まで精度良く形状を測定することができる金属帯板の形状測定ロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した軸方向における透視断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した径方向における断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した軸方向における透視断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した軸方向における透視断面図である。
【図5】本発明の第4の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した軸方向における透視断面図である。
【図6】本発明の第5の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールのセンサの固定構造を示した軸方向における部分断面図である。
【図7】本発明の第5の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールのセンサの固定構造を示した径方向における部分断面図である。
【図8】本発明の第6の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールのセンサの固定構造を示した軸方向における部分断面図である。
【図9】本発明の第6の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールのセンサの固定構造を示した径方向における部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る金属帯板の形状測定ロールの実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは形状測定ロールにおける軸方向を意味し、径方向とは形状測定ロールにおける径方向を意味するものとする。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の第1の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1の構成を示した透視断面図である。なお、図1においては形状測定ロール1の片側の部分の構成のみを示しているが、両側とも構成は同じである。また、図1中に一点鎖線で示す形状測定ロール1の中心線より上側には軸方向における形状測定ロール1の断面図を示し、下側には形状内側ロール1の中空円筒20を透視した透視図を示している。
【0024】
図1に示すように、形状測定ロール1は、表面に軸方向に貫通する軸方向溝40を形成した内側ロール10と、この内側ロール10に嵌合する中空円筒20とを備えている。内側ロール10は、両端を回転自在になるように軸受を内蔵した軸受箱70を介して支持架台80で支持している。内側ロール10の表面に形成した軸方向溝40には金属帯板の巻き付け荷重を測定するためのセンサセット30をスペーサ34を介して複数個設置しており、内側ロール10及び中空円筒20の端部には軸方向溝40の軸方向の開口を塞ぐフランジ90が設置されている。
【0025】
図2は、本発明の第1の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールの構成を示した径方向における断面図である。
図2に示すように、センサセット30は溝40内に設置され、形状測定ロール1の周方向に配置される。本実施例では、センサセット30は、形状測定ロール1の周方向に90°ピッチで配置されており、形状測定ロール1の1回転中に4回ほどセンサで測定することになるが、この回数は1回以上であれば何回でも良く、回数は問わない。
【実施例2】
【0026】
図3は、本発明の第2の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1の構成を示した軸方向における透視断面図である。なお、図3においては形状測定ロール1の片側の部分の構成のみを示しているが、両側とも構成は同じである。また、図3中に一点鎖線で示す形状測定ロール1の中心線より上側には軸方向における形状測定ロール1の断面図を示し、下側には形状内側ロール1の中空円筒20を透視した透視図を示している。
【0027】
図3に示すように、形状測定ロール1の内側ロール11の表面には、軸方向溝40とともに、周方向から傾斜した方向の連続した溝50が形成されている。内側ロール11と中空円筒20は、内側ロール11の表面の軸方向溝40と、内側ロール11の表面の周方向から傾斜した方向の連続した溝50以外の部分であるランド60で嵌合している。金属帯板の巻きつけ荷重を測定するためのセンサセット30は、軸方向溝40と、周方向から傾斜した方向の連続した螺旋溝50との交差位置に設置されている。なお、そのほかの構成については第1の実施例と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【実施例3】
【0028】
図4は、本発明の第3の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1の構成を示した軸方向における透視断面図である。なお、図4においては形状測定ロール1の片側の部分の構成のみを示しているが、両側とも構成は同じである。また、図4中に一点鎖線で示す形状測定ロール1の中心線より上側には軸方向における形状測定ロール1の断面図を示し、下側には形状内側ロール1の中空円筒20を透視した透視図を示している。
【0029】
図4に示すように、形状測定ロール1の内側ロール12の表面には、軸方向溝40とともに、周方向溝51を設けている。金属帯板の巻き付け荷重を測定するためのセンサセット30は、軸方向溝40と周方向溝51との交差位置に設置されている。内側ロール12と中空円筒20は、内側ロール12の表面の軸方向溝40と周方向溝51以外の部分であるランド61で嵌合している。なお、そのほかの構成については第1の実施例と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【実施例4】
【0030】
図5は、本発明の第4の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1の構成を示した軸方向における透視断面図である。なお、図5においては形状測定ロール1の片側の部分の構成のみを示しているが、両側とも構成は同じである。また、図5中に一点鎖線で示す形状測定ロール1の中心線より上側には軸方向における形状測定ロール1の断面図を示し、下側には形状内側ロール1の中空円筒20を透視した透視図を示している。
【0031】
図5に示すように、形状測定ロール1の内側ロール13の表面には、軸方向溝40とともに、周方向から傾斜した方向の連続した溝52が形成されている。金属帯板の巻き付け荷重を測定するためのセンサセット30は、軸方向溝40と周方向から傾斜した方向の連続する溝52により構成されるランド62との交差位置に設置されている。なお、そのほかの構成については第1の実施例と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【実施例5】
【0032】
図6は、本発明の第5の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1のセンサ32の固定構造を示した軸方向における部分断面図である。なお、図6においては、センサ32の軸方向溝40への固定構造を示している。また、図7は、本発明の第5の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1のセンサ32の固定構造を示した径方向における部分断面図である。
【0033】
図6に示すように、センサ32は、センサキャップ31と保持板33とにより形状測定ロール1の径方向に挟まれている。また、形状測定ロール1の軸方向にはスペーサ340を挟みながら複数個のセンサ32が設置されている。
【0034】
センサ32を固定する保持板33の両端面は、その両端面の延長線が径方向における内部側で交点を持つ方向に傾斜している。保持板33に接するスペーサ340の両端面は、その両端面の延長線が径方向における外部側で交点を持つよう傾斜している。軸方向から径方向に向かって取った保持板33及びスペーサ340の両端面の傾斜角度は、軸方向の端部側より内部側に設置される保持板33及びスペーサ340の方が小さいか又は同じとする。
【0035】
すなわち、軸方向の端部側から順に傾斜角度をθ1,θ2,θ3,θ4,θ5,θ6とすると、θ1≧θ2≧θ3≧θ4≧θ5≧θ6となるようにしている。複数個のセンサ32は、フランジ900に取り付けたねじ910を回して軸方向における内部側に端部側のスペーサ341を押すと、楔効果により径方向における外部側に押し上げられ、中空円筒20の内面にセンサ32の上部に設置されたキャップ31が押し付けられて固定される。
【実施例6】
【0036】
図8は、本発明の第6の実施例に係る金属帯板の形状測定ロール1のセンサ32の固定構造を示した径方向における部分断面図である。なお、図8においては、センサ32の軸方向溝40への固定構造を示している。
図8に示すように、センサ32は、形状測定ロール1の径方向においてセンサキャップ31と保持板33とにより挟まれている。また、形状測定ロール1の軸方向においては、スペーサ340を挟みながら1個又は複数個のセンサ32が保持箱350に格納されている。
【0037】
軸方向溝40の内部には、4個以内の保持箱350,351を設置する。軸方向における内部側の保持箱350の軸方向における端部側のスペーサ342は、軸方向における端部側の保持箱351により内部側に押される構造になっている。
【0038】
さらに、端部側の保持箱351は、端部側のフランジ901に設けた保持箱押し用ねじ911を回すことによって押され、保持箱351が内部側の保持箱350の軸端スペーサ342を押すことにより内部側の保持箱350に設置されたセンサ32が固定される。内部側の保持箱350は、軸方向溝40の内部に設置した位置決め用ブロック360で軸方向の移動を拘束されている。
【0039】
次に、端部側の保持箱351に設置したセンサ32は、保持箱351の端部側の端面に設置したスペーサ押し用ねじ920を回して端部側スペーサ343を押し込むことによって固定される構造となっている。このとき、センサ32を固定する保持板33の両端面は、その両端面の延長線が径方向における内部側で交点を持つ方向に傾斜している。保持板に接するスペーサ34の両端面は、その両端面の延長線が径方向における外部側で交点を持つよう傾斜している。
【0040】
軸方向から径方向に向かって取った保持板33及びスペーサ34の両端面の傾斜角度は、端部側より内部側の保持板33及びスペーサ34の方が小さい又は同じとする。すなわち、図8に示す保持箱351に示す傾斜角はθ1≧θ2≧θ3≧θ4の関係となるようにする。
【0041】
図9は、本発明の第6の実施例に係る金属帯板の形状測定ロールのセンサの固定構造を示した径方向における部分断面図である。
図9に示すように、保持箱350の片側の側面には図示していないセンサ32の信号ケーブルの抜き出し穴370を形成し、軸方向溝40と保持箱350との間の隙間から端部側にケーブルを引き出す構造となっている。
【0042】
〔発明の作用〕
次に、本発明に係る形状測定ロール1の作用について説明する。
形状測定ロール1に張力を付与した金属帯板を巻きつけると、形状測定ロール1の表面にはその部分の張力に比例する巻き付け圧力が働く。その関係は下記式(1)により表すことができる。
【数1】

ここで、pは巻付け圧力、σはその位置の金属帯板の単位厚、単位幅あたりの張力、hは金属帯板の板厚、Rは形状測定ロール1の半径を意味する。
【0043】
図1,2に示した第1の実施例のように、軸方向溝40を持つ内側ロール10に中空円筒20を嵌合して構成した形状測定ロール1に、張力を付与した金属帯板を巻きつけると、軸方向溝40の上の部分の中空円筒20は軸方向溝40の両側のランドに支えられる状態となる。これは、あたかも軸方向溝40の幅と同じ長さの短尺の両端が弾性支持された曲がり梁(板)の状態であり、中空円筒20はその点の圧力に比例して変形する。
【0044】
軸方向溝40の中にセンサセット30を中空円筒20に押し付けるように設置すると、センサセット30は変位に比例する荷重を受けることとなる。したがって、金属帯板の板幅の位置ごとにセンサセット30で荷重を測定すれば、金属帯板の張力分布、すなわち金属帯板の形状を求めることができる。
【0045】
また、軸方向溝40は、中空円筒20と嵌合する前の内側ロール10の表面に加工する。このため、軸方向溝40の幅を自由に設定することができるので、センサセット30の感度を大きく低下させることなく中空円筒20の厚みを厚くすることもできる。この結果、形状測定ロール1の研磨代を厚く取ることができるため、形状測定ロール1の寿命を長くすることができる。さらに、中空円筒20を内側ロール10に嵌合する構造であるため、形状測定ロール1が研磨により廃却径となった場合には、中空円筒20を交換するだけでよいため経済的である。
【0046】
それでも、中空円筒20の変位は肉厚をさらに厚くすると厚さの4乗のオーダで小さくなるため測定精度が悪化する。図3,4に示した第2,3の実施例では、軸方向溝40の他に、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51も設け、センサセット30は軸方向溝40と周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51との交差位置に設置している。
【0047】
この位置では、中空円筒20は軸方向溝40の両端、すなわち周方向においても支持されないため、金属帯板の巻付け圧力による変位が増幅され測定精度をさらに高めることができる。この効果により、中空円筒20の肉厚をさらに厚くすることができるため、中空円筒20の寿命をさらに長くすることが可能となる。
【0048】
このとき、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51は深くするべきでない。なぜなら、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51は、センサセット30を設置する位置で中空円筒20が内側ロール11,12と周方向においても接触させないためだけのものであるからである。
【0049】
一方、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51を深くすると、形状測定ロール1は周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51がある部分の曲げ剛性が極端に小さくなるため、軸方向において周期的に曲げ剛性が大きく変わることになり、センサセット30に流れ込む荷重に影響を及ぼすため、測定精度を悪化させる。したがって、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51の深さは1mm以下とすることが望ましい。
【0050】
また、センサセット30は、図4に示した第3の実施例のように、センサセット30は周方向から傾斜した螺旋溝52又は周方向溝51(図5参照)で形成されるランド62と軸方向溝40との交差部に設置してもよい。周方向から傾斜した螺旋溝52又は周方向溝51を形成すると、周方向から傾斜した螺旋溝52又は周方向溝51の上部分の中空円筒20の表面に働く金属帯板からの巻付け力は、両側のランド62に流れこむ。
【0051】
すなわち、ランド62が受け持つ荷重はランド62に働く巻付け力にランド62の両側の周方向から傾斜した螺旋溝52又は周方向溝51の上部分の巻付け力の一部を加えたものになり、中空円筒20の変形に増幅された荷重によるランド62の圧縮変形が加わるので、これも感度が高まることになる。
【0052】
特に、高い張力で圧延する設備においては、形状測定ロール1を何度も研磨し、中空円筒20の肉厚が薄くなると、周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51と軸方向溝40との交点にセンサセット30を設置する構造では、大きな荷重がセンサセット30に働くため予め大きな耐荷重のセンサセット30を用意しなければならない。
【0053】
耐荷重が大きいセンサセット30ほどサイズも大きくなるので、内側ロール11,12に設ける軸方向溝40や周方向から傾斜した螺旋溝50又は周方向溝51や保持部材も大きくなり、コンパクト化の障害になる。すなわち、設備の使用条件によって、第2,3の実施例と、第4の実施例とを使い分けることにより、様々な状況に応じた最適な測定を行うことができる。
【0054】
しかし、いずれの実施例においても、中空円筒20の肉厚を厚くすることには限界がある。金属帯板の板幅方向における各位置に作用する金属帯板からの巻き付け荷重が最も近いランド62へ流れるときに、中空円筒20の肉厚が厚いと中空円筒20の剛性によって更に形状測定ロール1の端部側に分散し、センサセット30近くの巻付け圧力とセンサセット30の荷重の対応が悪くなり、測定精度が悪化する。
【0055】
すなわち、下記式(2)により表される中空円筒20と内側ロール11,12,13の曲げ剛性比rは1以下とすることが望ましい。このため、中空円筒20の肉厚を極端に厚くすることはできず、内側ロール11,12,13の径の10%以下とすることが望ましい。
【数2】

ここで、Dは中空円筒20の外径、dは内側ロール11,12,13の外径であり中空ロール20の内径とほぼ同じである。
【0056】
最も多用される形状測定ロール1の直径は300mm前後であるが、本発明を用いれば、内側ロール11,12,13の径を250mmにし、中空円筒20の厚みを20mm程度まで厚くすることが可能となる。
【0057】
図6に示した第5の実施例では、軸方向溝40内へのセンサ30の固定方法を示している。キャップ31と保持板33で挟んだセンサ32とスペーサ340を交互に並べて軸方向溝40内に設置している。
【0058】
センサ32を固定する保持板33の両端面は、その両端面の延長線が径方向における内部側で交点を持つ方向に傾斜している。保持板33に隣接するスペーサ340の両端面は、その両端面の延長線が径方向における外部側で交点を持つよう傾斜している。軸方向から径方向に向かって取った保持版33及びスペーサ340の両端面の傾斜角度は、端部側のより内部側に設置される保持版33及びスペーサ340の方が小さいか又は同じとする。
【0059】
この理由は、端部側のスペーサ341を押し込むとこれに接するセンサ32の保持板33は径方向に押し上げられ、センサ32のキャップ31は中空円筒20の内面に押し付けられる。しかし、保持板33は、軸方向における内部側のスペーサ340を押して更に内部側の保持板33を径方向に押し上げる役目もある。
【0060】
このとき、スペーサ340は、軸方向溝40の底側に押し付けられるため、センサキャップ31と中空円筒20との摩擦力、及び、スペーサ340と軸方向溝40の底との摩擦力によって軸方向における内部側の保持板33を押す力は減少する。センサキャップ31の中空円筒20への押し付け力Qは、楔角をθ、摩擦係数をμ、スペーサ押し力をFとすると、下記式(3)により表すことができる。
【数3】

【0061】
これは,楔角θを小さくするほど、小さな押し力Fで大きな押し付け力Qを得ることができることを意味する。この原理に従えば、軸方向における端部側から内部側に向かって楔角θを適正に小さくしておけば、摩擦力があっても端部側のスペーサ341を押し込むだけで、内部側のセンサ32にまで中空円筒20への押し付け力Qを与えて固定することができるのである。
【0062】
図8に示した本発明の第6の実施例は、図6に示した第5の実施例とは別の構成により軸方向溝40内へのセンサ32の固定方法を示している。1つの軸方向溝40内に多数のセンサ32を設置しようとすると、スペーサ340と保持板33との楔角θを形状測定ロール1の軸方向における内部側に向かうほど小さくし、端部側からスペーサ341を押し込んでも押し込み力はセンサ32やスペーサ340の摩擦力によって減衰してしまうので軸方向における内部側の保持板340には押し力が伝わらなくなる場合がある。
【0063】
このため、センサ32の保持板33とスペーサ340を1セットにし、1セット以上を保持箱350,351に入れ、保持箱350,351を1個以上4個以下として軸方向溝40内に並べれば、単にセンサ32の保持板33とスペーサ340を軸方向溝40内に設置する場合よりも多くのセンサ32を中空円筒20に押し付けて固定することができる。
【0064】
なぜなら、軸方向における内部側の保持箱350のセンサ32は端部側の保持箱351を介して押されるので、端部側の保持箱351に入れたセンサ32とは無関係に固定することができるからである。すなわち、保持箱350,351を4個とし、軸方向における端部側から保持箱350,351やスペーサ343を押してセンサ32を固定する方法を用いると、単にセンサ32の保持板33とスペーサ340を軸方向溝40内に設置する方法の最大2倍の数のセンサ32を軸方向溝40内で固定することが可能となる。
【0065】
したがって、本発明に係る金属帯板の形状測定ロールによれば、以下の効果を得ることができる。
(1) 表面に軸方向溝40が形成された内側ロール10に中空円筒20を嵌合する構造により、金属帯板の巻付け力の測定感度が高まるため、中空円筒20の肉厚を厚くすることができる。この効果により、形状測定ロール1の研磨代が大きくなるため、形状測定ロール1の寿命を長くすることができる。
【0066】
(2) 金属帯板の巻き付け力を測定するセンサセット30を設置する内側ロール10に中空円筒20を装着しているため、中空円筒20を研磨して廃却する状態になっても、中空円筒20のみを交換すればよいため、経済的であり、常に安定した状態を保つことができる。
【0067】
(3) 金属帯板の巻き付け荷重を測定するセンサセット30は、軸方向溝40は内側ロール10の表面にあるので、内側ロール10に中空円筒20を装着する前にセンサセット30の装着状況を確認できるため、目で確認しながら事前に細かい調整まで行った後センサセット30を取り外し、中空円筒20を嵌合したのち再度センサセット30を挿入しても調整を容易に行うことができる。このため、設置状態に伴う測定精度の低下が少ない。
【0068】
また、センサセット30が不調な場合は、何度でも軸方向溝40から取り出して交換や調整を簡単に行うことができる。これも、本発明に係る形状測定ロール1の内側ロール10に設けた軸方向溝40にセンサセット30を設置することによって得られる効果である。
【0069】
(4) センサセット30は軸方向溝40に挿入したあと、軸方向の端部側から保持箱350,351やスペーサ343を押すだけで固定できるため、調整作業はさらに簡単になる。
【0070】
(5) 金属帯板の巻付け荷重の測定感度が高くなるので形状を正確に把握でき、この測定値に基づく形状制御が容易になる。この結果、製品の形状精度が改善され、加工後の矯正工程の省力も可能になり、生産性の向上や省エネルギーに繋がる。これらの効果により、測定精度が大きく向上するとともに、形状測定装置の耐用も大幅に伸びるため、高品質な金属帯板を安定して容易に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、例えば、金属帯板が走行するライン内に設置される金属帯板の形状測定ロールに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
10,11,12,13,100,101 内側ロール
20 中空円筒
30 センサセット
31 センサのキャップ
32 センサ
33 保持板
34,340 スペーサ
40 軸方向溝
50,52 螺旋溝
51 周方向溝
60,62 螺旋溝により作られるランド
61 周方向溝により作られるランド
70 軸受箱
80 架台
90,900,901 フランジ
341,342,343 軸方向端部側のスペーサ
350,351 保持箱
360 保持箱の位置決め用ブロック
370 センサの信号ケーブル抜き出し穴
910,920 スペーサ押し用ねじ
911 保持箱押し用ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯板が走行するラインに両端が回転自在に支持され前記金属帯板を巻き付けるように設置する金属帯板の形状測定ロールにおいて、
表面に少なくとも1本以上の軸方向溝を形成した内側ロールと、
前記内側ロールに嵌合する中空円筒と、
前記内側ロールの前記軸方向溝内に設置され前記金属帯板の巻付け圧力を測定する複数のセンサと
を備える
ことを特徴とする金属帯板の形状測定ロール。
【請求項2】
前記内側ロールの表面には周方向溝又は周方向から傾斜した方向の連続した螺旋溝を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の金属帯板の形状測定ロール。
【請求項3】
前記センサは、前記周方向溝又は前記螺旋溝と軸方向溝との交差位置に設置される
ことを特徴とする請求項2に記載の金属帯板の形状測定ロール。
【請求項4】
前記センサは、前記周方向溝又は前記螺旋溝によって形成されるランドと前記軸方向溝との交差位置に設置される
ことを特徴とする請求項2に記載の金属帯板の形状測定ロール。
【請求項5】
前記センサをそれぞれ固定する保持板と、
該保持板と隣接するスペーサと
を備え、
前記保持板の両端面は、該両端面の延長線が径方向の内部側で交点を持つ方向に傾斜させ、
前記保持板に接する前記スペーサの両端面は、該両端面の延長線が径方向の外部側で交点を持つよう傾斜させ、
前記内側ロールの軸方向から径方向に向かって取った前記保持板及び前記スペーサの両端面の傾斜角度は、前記内側ロールの端部側より内部側に設置される前記保持板及び前記スペーサの方が小さいか又は同じとする
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属帯板の形状測定ロール。
【請求項6】
前記センサをそれぞれ固定する保持板と、
該保持板と隣接するスペーサと
前記軸方向溝内に設置され前記保持板及び前記スペーサを収容する保持箱と
を備え、
前記保持板の両端面は、該両端面の延長線が径方向の内部側で交点を持つ方向に傾斜させ、
前記保持板に接する前記スペーサの両端面は、該両端面の延長線が径方向の外部側で交点を持つよう傾斜させ、
前記内側ロールの軸方向から径方向に向かって取った前記保持板及び前記スペーサの両端面の傾斜角度は、前記内側ロールの端部側より内部側に設置される前記保持版及び前記スペーサの方が小さいか又は同じとする
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属帯板の形状測定ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−203869(P2010−203869A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48739(P2009−48739)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】