説明

金属性の焦げ付き防止コーティングを有する調理具とその製造方法

本発明は、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金、及び/又は炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)からなる金属性の焦げ付き防止コーティング材でコーティングされた調理具を開示する。また、金属性の焦げ付き防止コーティング材で調理具をコーティングする方法を提供する。本発明の金属性の焦げ付き防止コーティングは、高い耐衝撃性、耐熱性、及び耐磨耗性を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
1.発明の技術分野
本発明は、金属性の焦げ付き防止コーティングを有する台所用品、特に調理具に関する。
【0002】
2.先行技術の説明
現在、入手可能な焦げ付き防止機能付きの調理具の多くには、フルオロポリマー樹脂、又は同様の非金属性材料からなる焦げ付き防止用の外部コーティングが施されている。このような材料は、通常、約6ヶ月間使用すると劣化し始める。このため、このような焦げ付き防止機能付き調理具の製品寿命は常に短く、これは次のような理由に起因する。
1.フルオロポリマー樹脂などの非金属性材料のコーティングは、調理具の基材との結合強度が弱い。コーティングされた調理具が小さな外力を受けても、非金属性のコーティングは損傷を受ける場合が多い。よって、このようなコーティングを有する従来型の焦付き防止調理具は通常、その製品寿命を延ばすために、外力の衝撃から調理具を保護する特別な付属品を備えている。
【0003】
2.通常、フルオロポリマー樹脂などの非金属性材料のコーティングは、約260℃までの耐熱性しか有しない。しかしながら、一般に、特に中国人は、260℃以上の高温での調理を必要とする。従って、非金属性のコーティングは、殆どの場合満足のゆくものでない。更に、300℃を超える高温で調理を行うと、フルオロポリマー樹脂は分解され、人体に有害なフッ素含有ガスを放出する可能性がある。
3.フルオロポリマー樹脂などの非金属性材料のコーティングは、耐磨耗性に乏しく、短期間の使用で顕著な損傷を受けることが多い。有殻類などの硬い貝を調理する場合、損傷は更に甚大である。中華料理店の多くにおいて、中華鍋を用いた調理に非常な高温が必要であるが、具材の入らない中華鍋の側面部は「無駄に加熱」され、従って常に高温に維持されている。しかしながら、フルオロポリマーを用いた現在の焦げ付き防止調理具は耐熱性に乏しいだけでない。更に、中華鍋は、中華料理店において最も頻繁に使用される調理具の一つであり、従って良好な耐衝撃性及び耐磨耗性を有する中華鍋に対する需要が大きい。しかしながら、フルオロポリマーを用いた現在の焦げ付き防止調理具では、これらの二つの性能が貧弱であり、このため製品寿命も短い。結果として、多くの点で調理に不便な焦げ付き防止機能のない鉄製の中華鍋が、多くの料理店で未だに使用されている。
【0004】
よって、金属性の焦げ付き防止コーティングを有する、耐衝撃性、耐熱性、及び耐摩耗性に優れた調理具が強く望まれている。
【0005】
発明の概要
本発明は、耐衝撃性、耐熱性、及び耐磨耗性に優れた、金属性の焦げ付き防止コーティングを有する調理器具を提供し、従来技術の欠陥を克服する。
本発明の一態様によれば、調理具の食品と接する面に金属性の焦げ付き防止コーティングを施した調理具が提供され、このコーティングの材料は、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金、及び炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金からなる群から選択成される。
【0006】
好適には、調理時に熱源と直接接する調理具の加熱面も、金属性の焦げ付き防止コーティング材でコーティングする。
好適には、調理具の食品と接する面に施される金属性の焦げ付き防止コーティングは、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金でコーティングした下層部と、炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金でコーティングした表層部からなる。
【0007】
本発明の別の態様によれば、金属性の焦げ付き防止コーティングで調理具をコーティングする方法が提供され、本方法は、
調理具のコーティングする面に対し、粗面処理及び洗浄を行うこと、及び、
ホットスプレー法により、処理表面に金属性コーティング材を適用することにより、金属性の焦げ付き防止コーティングを形成すること
を含む。
本発明の好適な実施形態によれば、本方法は、このようにして形成した金属性の焦げ付き防止コーティングに対し、更に研磨処理、及び/又は研削処理を施すことを含む。
【0008】
本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングは、従来の焦げ付き防止コーティングに比べて多くの利点を有している。従来の焦げ付き防止コーティングが、非金属性のコーティングか、或いは非金属性材料と金属性材料との複合コーティング材であるのに対し、本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングは、全部が金属又は合金から形成される。非金属性の材料は許容温度範囲が比較的狭いので、これらから形成される従来の非金属性コーティングの耐熱性も限定的なものとなる。対照的に、本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングはこのような欠陥を持たない。更に、金属性のコーティングが、非金属性のコーティングより高い耐衝撃性及び耐磨耗性を有することは、当業者には自明である。よって、金属性のコーティングを有する調理具には、特別な付属品(例えばヘラ)は不要である。加えて、ホットスプレー処理によって形成された金属コーティングは、調理具の基材と特に良く結合する。更に、本発明による調理具とその上のコーティングとは、共に金属性材料から形成されるため近似した熱膨張係数を有し、よって本発明による調理具の焦げ付き防止金属コーティングは、調理具がまだ熱い間に冷水で水洗いしても簡単には劣化しない。コーティング処理の面からも、本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングは、ホットスプレー処理による強い結合力により、調理具の形状及び基材に関係なく、調理具に均等に適用することができる。
【実施例】
【0009】
発明の詳細な説明
以下に、本発明の種々の態様及び利点を示す実施形態により、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の一態様では、金属性の焦げ付き防止コーティング有する調理具が提供される。金属性の焦げ付き防止コーティングは、調理具の使用面(食品に接する表面)及び/又は加熱面(底面)に適用することができる。
【0010】
本発明による調理具の金属性の焦げ付き防止コーティングは、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金や、炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金等の金属性材料から100%形成される。金属性の焦げ付き防止コーティングは、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金のみから形成されてもよい。或いは、金属性の焦げ付き防止コーティングは、炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金のみから形成されてもよい。
更に、上述の二つの金属合金はそれぞれ多くの優れた特性を有している。例えば、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)のコーティングは、良好な接着性と高い柔軟性を有しており、炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金のコーティングは、強い結合力(8,000psi超)、高い表面硬度(HRC50超)、及び高い耐磨耗性と耐熱性(約800℃)を有している。
【0011】
本発明の好適な実施形態において、金属性の焦げ付き防止コーティングは、ニッケルアルミ合金(NiAl)を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン(NiAlMo)合金からなる底部コーティングと、炭化クロム(Cr)を主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム(NiCr-Cr)合金からなる上部コーティングとを有している。このような複合コーティング処理は、各合金の長所を有しているので、単一の合金からなるコーティングより良好な特性を持つ。同様に、このような複合コーティングを調理具の加熱面に施すこともできる。
本発明の特殊な実施形態によれば、使用する合金は、これらに限定するものではないが、ワイア、粉末、及びロッドを含む従来の形状とすることができる。
【0012】
本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングは、以下の工程により調理具の表面に形成することができる。
1.コーティングする調理具の表面に対し、粗面処理及び洗浄を行う。
コーティングする表面の処理は、吹き付け処理等の従来の方法により行うことができる。具体的には、吹きつけ処理は、表面に対し、適切な粒子サイズを有する酸化アルミニウム砂、コランダム砂、及び石英砂などの高速粒子を加圧下で吹き付けることにより、面を粗くして(表面粗さ:Ra1‐6)、表面とコーティング材との強い結合を可能にする。
【0013】
2.次に、この加工面を、ホットスプレー法により金属性材料でコーティングする。この工程では、金属性材料(ワイヤ、粉末、又はロッド)を高速粒子に変換し、加工面に適用して金属性の焦げ付き防止コーティングを形成する。
ここで行うホットスプレー処理は、高速又は超音速のプラズマスプレー、高速又は超音速のフレームスプレー(HVAF、HVOF)、高速又は超音速のアークスプレー、及びデトネーションスプレーに適した従来型のスプレー装置を用いて行うことができる。
【0014】
本発明の好適な実施形態によれば、ホットスプレー処理の間、金属粒子は、少なくとも150m/秒、即ち150m/秒以上の速さで加工面に適用される。
本発明の別の好適な実施形態によれば、このようにして形成した金属性の焦げ付き防止コーティングに対し、更に研磨処理及び/又は研削処理を施す。この研磨処理及び研削処理に使用される装置は、空気又はモータ駆動可能な、ステンレス鋼ブラシ、研磨紙回転ブラシ、研磨紙、研磨用円盤、研磨用回転機からなる群から選択できる。
【0015】
本発明の別の好適な実施形態によれば、研磨処理及び/又は研削処理を行った後、金属性の焦げ付き防止コーティングの厚さは、0.01mm〜0.25mmである。
次表に、本発明による金属性の焦げ付き防止コーティングの主な長所を、従来のフルオロポリマーコーティングと対比させて示す。

【0016】
好適な実施形態とその説明により本発明を具体的に開示したが、当業者であれば、本発明の精神を逸脱することなく、本発明に修正及び変更を加えることが可能であり、そのような修正及び変更は本発明の範疇に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に接する表面が金属性の焦げ付き防止コーティング材でコーティングされた調理具であって、金属性の焦げ付き防止コーティングが、ニッケルアルミ合金を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン合金、及び炭化クロムを主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム合金からなる群より選択される材料からなる調理具。
【請求項2】
調理具の加熱面も、金属性の焦げ付き防止コーティングでコーティングされている、請求項1に記載の調理具。
【請求項3】
金属性の焦げ付き防止コーティングが、ニッケルアルミ合金を主成分とするニッケルアルミニウムモリブデン合金のコーティングからなる下層部と、炭化クロムを主成分とするニッケル−クロム−炭化クロム合金のコーティングからなる上層部とから構成される、請求項1又は2に記載の調理具。
【請求項4】
金属性の焦げ付き防止コーティングの厚さが0.01mm〜0.25mmである、請求項1又は請求項2に記載の調理具。
【請求項5】
金属性の焦げ付き防止コーティング材で調理具をコーティングする方法であって、
調理具のコーティングする表面に対し、粗面加工及び洗浄を施すこと、及び
加工表面に対し、ホットスプレー法により金属性のコーティング材料を適用し、金属性の焦げ付き防止コーティングを形成すること、
を含む方法。
【請求項6】
コーティングする表面の加工を吹きつけ処理により行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
吹きつけ処理は、コーティングする表面に対し、適切な粒子サイズを有する酸化アルミニウム砂、コランダム砂、石英砂からなる群より選択される高速粒子を、高圧下で衝突させることによって行い、これによって面を粗くする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ホットスプレー処理が、高速又は超音速のプラズマスプレー、高速又は超音速のフレームスプレー、高速又は超音速のアークスプレー、及びデトネーションスプレーからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ホットスプレー処理では、金属性のコーティング材料を金属粒子に変換し、少なくとも150m/秒の速度で処理表面に吹き付ける、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
このようにして形成した金属性の焦げ付き防止コーティングに対し、更に研削処理及び/又は研磨処理を施す、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2008−505720(P2008−505720A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520646(P2007−520646)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/CN2004/000805
【国際公開番号】WO2006/005232
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(507014379)
【出願人】(507014380)
【Fターム(参考)】