説明

金属板ラミネート用ポリエステル系フィルム、フィルムラミネート金属板および金属容器

【課題】 耐熱性に優れ、製缶工程等における熱履歴を受けても金属板の表面を安定して被覆することができ、かつバリヤー性や耐食性にも優れ、食料品用の金属容器を形成する材料として好適に使用されるポリエステル系フィルム、製缶加工性に優れたフィルムラミネート金属板、ならびに耐食性や内容物となる食料品の保護性に優れた金属容器を提供すること。
【解決手段】 ティンフリースチールからなる金属板の片面にラミネートされてフィルムラミネート金属板を形成した場合、該フィルム表面における80℃での動摩擦係数が0.45以下であり、該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、および該フィルムラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの寸法変化率が2.0%以下であることを特徴とするポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼飲料、ビール、缶詰等の食料品用の金属容器の腐食防止等の目的で使用されるポリエステル系フィルム、該フィルムを金属板にラミネートしたフィルムラミネート金属板、および該フィルムラミネート金属板を成形してなる金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶の内面および外面の腐食防止には一般的には塗料が塗布され、その塗料としては熱硬化性樹脂が使用されている。
【0003】
熱硬化性樹脂塗料を塗装する方法では、その多くは溶剤型塗料が用いられる。その塗膜の形成には150〜250℃で数分という高温・長時間の加熱が必要であり、かつ焼き付け時に多量の有機溶剤が飛散するため、工程の簡素化や公害防止等の改良が要望されている。
【0004】
また、前述のような条件で形成される塗膜中には、結果的に少量の有機溶剤が残存することも避けられず、例えば、上記塗膜を形成させた金属缶に食料品を充填した場合、有機溶剤が食料品に移行し、食料品の味や臭いに悪影響を及ぼすことがある。さらに、塗料中に含まれる添加剤や架橋反応の不完全さに起因する低分子量物質が食料品に移行し、前述の残存有機溶剤の場合と同様の悪影響を及ぼすことがある。
【0005】
また、他の方法として、熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法がある。例えば、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルムやポリエステル系フィルムを、加熱したティンフリースチールにラミネートし、該フィルムラミネート金属板を金属缶に利用するというものである。
【0006】
熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法により、上記課題のうち、工程の簡素化や公害防止等の課題は解決できる。
【0007】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムのうち、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系フィルムを用いた場合は、耐熱性に劣るため製缶工程での熱履歴や、製缶後におけるレトルト処理等の熱履歴を受けた場合、フィルムラミネート金属板からフィルムが剥離することがある。
【0008】
一方、熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリエステル系フィルムを用いる方法は、上記ポリオレフィン系フィルムが有する問題点が改良されるので、最も好ましい方法である。
【0009】
缶の内面側において、ポリエステル系フィルムは、耐熱性に優れ、かつ低分子量物質の生成も少ないため、ポリオレフィン系フィルムに比べて該低分子量物質の移行による食料品の味や臭いの劣化が生じにくい。所謂、耐フレーバー性に優れている。
【0010】
しかし、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル系フィルムを当該用途に用いる場合においても、ラミネート加工後の製缶加工時に、缶の仕上がりを良好とすること、または缶の接合部分にはフィルムの非被覆部があるため、帯状のフィルムを用いて補修すること等を目的とした熱処理を施す場合、ポリエステル系フィルムの耐熱性が不十分なため、結果としてフィルムラミネート金属板のフィルム部分のみに寸法変化が生じるため、余ったフィルムがだぶついたり、金属板の表面を完全に被覆できない場合があるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、製缶工程等における熱履歴を受けても金属板の表面を安定して被覆することができ、かつバリヤー性や耐食性にも優れ、食料品用の金属容器を形成する材料として好適に使用されるポリエステル系フィルム、製缶加工性に優れたフィルムラミネート金属板、ならびに耐食性や内容物となる食料品の保護性に優れた金属容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ティンフリースチールからなる金属板の片面にラミネートされてフィルムラミネート金属板を形成した場合、該フィルム表面における80℃での動摩擦係数が0.45以下であり、該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、および該フィルムラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの寸法変化率が2.0%以下であるポリエステル系フィルムにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、ティンフリースチールからなる金属板の片面にラミネートされてフィルムラミネート金属板を形成した場合、該フィルム表面における80℃での動摩擦係数が0.45以下であり、該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、および該フィルムラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの寸法変化率が2.0%以下であることを特徴とするポリエステル系フィルムを提供する。
【0014】
好適な実施態様においては、上記フィルムは、融点が240〜260℃であるポリエステルからなるA層と、融点が200〜235℃であるポリエステルからなるB層とから構成されるA/Bの二層構成であり、かつフィルムラミネート金属板がB層を金属板側にしてラミネートされて形成される。
【0015】
また、好適な実施態様において、上記フィルムは、二軸延伸フィルムである。
【0016】
さらに、好適な実施態様において、上記フィルムは、架橋高分子粒子および/または無機微粒子を含有する。
【0017】
また、本発明は、上記ポリエステル系フィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートしてなるフィルムラミネート金属板を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、上記フィルムラミネート金属板を成形してなる金属容器を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリエステル系フィルムは、耐熱性に優れ、製缶工程等の熱処理後においても金属板の表面を安定して被覆することができることに加えて、バリヤー性、耐食性、耐フレーバー性等も優れているので、金属板の表面露出等が無く、缶の仕上がりが良好であり、かつ耐食性や内容物となる食料品の保護性に優れた金属容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のポリエステル系フィルムは、ティンフリースチールからなる金属板の片面にラミネートされてフィルムラミネート金属板を形成した場合、該フィルム表面における80℃での動摩擦係数が0.45以下であり、該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、および該フィルムラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの寸法変化率が2.0%以下であることを特徴とする。
【0021】
上記ポリエステル系フィルムに用いられるポリエステルは、主としてポリカルボン酸と多価アルコールが重縮合されてなるものである。
【0022】
上記ポリカルボン酸成分としてはジカルボン酸が挙げられ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
また、多価アルコール成分としてはグリコールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ドデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスフェノール誘導体のエチレンオキサイド付加体等の芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0024】
上記ポリエステルとしては、テレフタル酸およびイソフタル酸から選ばれるジカルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびブタンジオールから選ばれるグリコールとが重縮合されてなることが好ましい。また、該ポリエステルの融点は、好ましくは200〜260℃、より好ましくは210〜260℃、さらに好ましくは215〜255℃である。融点が200℃未満であると製缶工程等での熱履歴によって流動性が増加し、寸法変化が大きくなる可能性があるからであり、一方、260℃を超えるものは製造費用が高くなり、経済的に不利となるからである。
【0025】
また、上記ポリエステルの極限粘度は、力学特性の点から、好ましくは0.5〜1.5であり、より好ましくは0.55〜1.2である。
【0026】
本発明のポリエステル系フィルムは、後記測定方法により測定される寸法変化率、要約すれば、ティンフリースチールからなる金属板の片面にラミネートされてフィルムラミネート金属板を形成した場合、該フィルムラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの寸法変化率が2.0%以下であり、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下である。該寸法変化率を2.0%以下にすることで、ポリエステル系フィルムは、製缶工程等において熱処理されても金属板の表面を安定して被覆することができるようになる。
【0027】
上記フィルムの寸法変化率を2.0%以下にする方法としては、特に限定はされないが、例えば、上記ポリエステルの成分としてブタンジオールを共重合させて、結晶化速度を高めることによって結晶化度の高いフィルムとし、寸法安定性を良くする方法、該ポリエステル系フィルムが後述の二層構成の二軸延伸フィルムである場合、後述のような温度条件で熱固定をし、寸法安定性を良くする方法、該ポリエステル系フィルムが後述の延伸フィルムである場合、延伸後に緩和工程を設けることによって寸法安定性を良くする方法等が挙げられる。
【0028】
また、上記フィルムは、後記寸法変化率の測定方法に従ってフィルムラミネート金属板を形成したときの80℃での表面の動摩擦係数が0.45以下、好ましくは0.43以下、より好ましくは0.40以下である。該動摩擦係数が0.45以下であることで、製缶工程等においてフィルムの疵付きや、フィルム削れ等による製缶工程汚染等を防止することができる。
【0029】
上記フィルム表面の動摩擦係数を0.45以下にする方法としては、例えば、後記架橋高分子粒子および/または無機微粒子をフィルムに含有させる方法、ポリエステル樹脂の微細な球晶を形成させる方法等の方法が挙げられる。
【0030】
また、上記フィルムは、後記寸法変化率の測定方法に従ってフィルムラミネート金属板を形成したときエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下、好ましくは0.50重量%以下である。該エチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であることで、食料品の保護効果が得られ、また美観を損なうことを防ぐことができる。
【0031】
上記フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量を0.70重量%以下にする方法としては、例えば、減圧加熱処理法、固相重合法等の該環状三量体含有量の少ないポリエステルを製造する方法、ポリエステル製造後やフィルム製膜後に水や有機溶剤により該環状三量体を抽出する方法およびこれらの方法を組合せた方法等を挙げることができる。
【0032】
上記フィルムは、未延伸フィルムであっても延伸フィルム(一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルム)であってもよいが、好ましくは二軸延伸フィルムである。ポリエステル系フィルムを二軸延伸することでポリエステル系フィルムの具備する耐フレーバー性をさらに優れたものにすることができる。二軸延伸する方法としては、特に限定されず、公知の二軸延伸法(同時または逐次等)を使用することができる。この場合、縦方向の延伸倍率としては、好ましくは2〜5倍、より好ましくは2.5〜4倍であり、延伸温度としては、好ましくは80〜120℃、より好ましくは90〜110℃である。横方向の延伸倍率としては、好ましくは2〜5倍、より好ましくは2.5〜4倍であり、延伸温度としては、好ましくは80〜120℃、より好ましくは90〜110℃である。
【0033】
また、上記フィルムの厚みは、4〜65μmの範囲が好ましく、5〜30μmの範囲がより好ましい。厚みが4μm未満であるとバリヤー性に劣り、耐食性が悪くなるからであり、一方65μmを越えると経済的に不利であるからである。
【0034】
上記フィルムは、単層であっても多層であってもよいが、好ましくは融点が240〜260℃であるポリエステルからなる層(A層とする)と、融点が200〜235℃、好ましくは210〜235℃であるポリエステルからなる層(B層とする)より構成されるA/Bの二層構成である。これは、A層には製缶工程での耐熱性が必要であり、B層にはA層と同様の耐熱性に加え、熱圧着によるラミネート密着性が必要であるからである。また、該ポリエステル系フィルムを金属板にラミネートしたフィルムラミネート金属板から金属容器を形成する場合、A層は内容物である食料品に接する層または容器の表面になる層であり、B層は金属板側にラミネートされる層である。
【0035】
A層に使用されるポリエステルとしては、上記ジカルボン酸およびグリコールから得られるものが挙げられるが、好ましくは、テレフタル酸−エチレングリコールの成分系であり、より好ましくは、テレフタル酸−エチレングリコール成分系とテレフタル酸−ブタンジオール成分系の併用系である。さらに好ましくはその重量比(テレフタル酸−エチレングリコール成分系/テレフタル酸−ブタンジオール成分系)が98/2〜50/50、特に好ましくは95/5〜70/30であるものが挙げられる。
【0036】
上記A層に使用されるポリエステルの融点は、240〜260℃であり、好ましくは245〜255℃である。融点が240℃未満であると製缶工程等での耐熱性が不十分になるので好ましくない。また、融点が260℃を越えると製造費用が多くなり、経済的に不利であるからである。
【0037】
上記A層は、後記寸法変化率の測定方法に従ってフィルムラミネート金属板を形成したとき表面層となるので、上記フィルム表面の80℃での動摩擦係数におけるフィルム表面はA層表面である。該A層表面の80℃での動摩擦係数を0.45以下にする方法としては、上述した方法が挙げられる。
【0038】
また、上記A層は、食料品の保護効果や、缶の美観を損なわないために、エチレンテレフタレート環状三量体の含有量が少ないことが好ましいので、当該A層に使用されるポリエステルとしては、エチレンテレフタレート環状三量体含有量が少ないものを使用することが好ましい。当該ポリエステル中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量は、好ましくは0.70重量%以下、より好ましくは0.50重量%以下である。当該環状三量体含有量が少ないポリエステルは、例えば、減圧加熱処理法、固相重合法等の該環状三量体含有量の少ないポリエステルを製造する方法、ポリエステル製造後に水や有機溶剤により該環状三量体を抽出する方法およびこれらを組合せた方法等により製造することができる。
【0039】
上記B層に使用されるポリエステルの融点は、200〜235℃、好ましくは210〜235℃であり、より好ましくは215〜230℃である。該融点が200℃未満であると製缶工程等での熱履歴によってB層の流動性が増加し、A層の寸法変化が大きくなることがあるので好ましくない。一方、融点が235℃を越えるとA層の融点に近づいてくるため、A層の残留収縮応力の低減または除去が不十分となり、やはりA層の寸法変化が大きくなることがあるので好ましくない。このようなポリエステルとしては、A層と同様に上記ジカルボン酸およびグリコールから得られるものが挙げられるが、好ましくは、酸成分がテレフタル酸およびイソフタル酸〔好ましくはそのモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)が95/5〜80/20、特に好ましくは95/5〜85/15である〕であり、グリコール成分がエチレングリコールである共重合ポリエステルが挙げられる。
【0040】
上記A層の厚さは、製缶加工性、製缶加工時の熱履歴による寸法安定性、フィルムの取扱い性、バリヤー性、耐食性、経済性等の点より、3〜50μmの範囲が好ましく、4〜40μmの範囲がより好ましい。一方、上記B層の厚さは、密着性、製缶加工時の熱履歴に対する耐熱性等の点より、1〜15μmの範囲が好ましく、1〜10μmの範囲がより好ましい。
【0041】
上記A/Bの二層構成であるポリエステル系フィルムの製造方法としては、上記の要件を満足するフィルムが製造できれば特に限定されないが、例えば、多層押出し法、押出しラミネート法等が挙げられる。
【0042】
A/Bの二層構成であるポリエステル系フィルムが二軸延伸フィルムである場合、A層の二軸延伸による残留収縮応力は、熱固定法等によって低減または除去されていることが好ましい。そうすることで製缶工程等での熱履歴による寸法変化を低減させることができるからである。また、B層は、A層が熱固定等されることにより、残留収縮応力を低減または除去される際に、その熱履歴等によって非晶または無配向化されることが好ましい。これにより予熱させた金属板に該フィルムをラミネートさせる際、金属板をB層の融点まで予熱させなくても十分なラミネート密着力を得ることができるからであり、ラミネート工程の低温化および高速化が実現できるからである。当該A層の二軸延伸による残留収縮応力の低減または除去、ならびにB層の非晶または無配向化は、好ましくは当該フィルムを、当該A層を構成するポリエステルの融点より15℃低い温度からB層を構成するポリエステルの融点より5℃低い温度までの範囲、より好ましくはA層を構成するポリエステルの融点より20℃低い温度からB層を構成するポリエステルの融点より2℃低い温度までの範囲の温度条件で熱固定することで達成することができる。
【0043】
本発明のポリエステル系フィルムは、好ましくは架橋高分子粒子および/または無機微粒子を含有する。架橋高分子粒子および/または無機微粒子を含有することにより製缶加工性を良好にすることができ、耐疵付き性(耐スクラッチ性)を付与することができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記架橋高分子粒子としては、ポリエステルの溶融成形時の温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に制限はない。また、そのような架橋高分子粒子を形成する材料としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等のアクリル系単量体、スチレンやアルキル置換スチレン等のスチレン系単量体等と、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の架橋性単量体との共重合体;メラミン系樹脂;ベンゾグアナミン系樹脂;フェノール系樹脂;シリコーン系樹脂等が挙げられる。該架橋高分子粒子は、これらの材料より従来公知の乳化重合法や懸濁重合法等により製造することができる。また、該架橋高分子粒子の粒子径や粒径分布を調整するために、粉砕や分級等を行ってもよい。
【0045】
上記無機微粒子としては、ポリエステルに不溶性で、かつ不活性なものであれば特に制限はない。具体例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等の金属酸化物;カオリン、ゼオライト、セリサイト、セピオライト等の複合酸化物;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩等を挙げることができる。これらの無機微粒子は天然品であっても合成品であってもよい。また、粒子の形状も特に制限はない。
【0046】
上記架橋高分子粒子および/または無機微粒子の粒径は、好ましくは0.5〜5.0μm、より好ましくは0.8〜4.0μmである。粒径が0.5μm未満であると高温でのフィルムと金属との滑り性の向上効果が小さくなり、フィルムに疵がつきやすくなるからであり、一方、5.0μmを越えると上記の効果が飽和したり、粒子の脱落が起こりやすくなったり、フィルムの製膜時にフィルムの破断を引き起こしやすくなる等の傾向があるからである。
【0047】
上記架橋高分子粒子および/または無機微粒子のポリエステル系フィルム中の含有量は、好ましくはポリエステル系フィルムの全量に対して0.3〜5.0重量%、より好ましくは0.5〜3.0重量%である。0.3重量%未満であると高温でのフィルムと金属との滑り性の向上効果が小さくなり、フィルムに疵がつき易くなるからであり、5.0重量%を越えると上記の効果が飽和したり、フィルムの製膜性が低下する等の傾向があるからである。
【0048】
上記架橋高分子粒子および/または無機微粒子のポリエステル系フィルムへの配合は、ポリエステル系樹脂の製造工程で行ってもよいし、ポリエステル系樹脂に上記成分を加えて溶融混練してもよい。また、上記成分を高濃度に含むポリエステル系樹脂を製造し、これをマスターバッチとして、上記成分を含まないか、または少量含むポリエステル系樹脂と共に溶融混練することもできる。
【0049】
また、本発明のポリエステル系フィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤等を含有することができる。
【0050】
本発明のフィルムラミネート金属板は、上記ポリエステル系フィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートして得られるものであって、製缶加工性に優れたものである。
【0051】
上記フィルムラミネート金属板に用いられる金属板としては、特に限定されないが、例えば、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等が挙げられる。また、その厚さは、特に限定されないが、材料の費用や製缶加工速度等に代表される経済性、一方では材料強度の確保の点から、好ましくは100〜500μm、より好ましくは150〜400μmである。
【0052】
また、ポリエステル系フィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートする方法としては、従来公知の方法が適用でき、特に限定されないが、好ましくはサーマルラミネート法が挙げられ、特に好ましくは金属板を通電加熱させてサーマルラミネートする方法が挙げられる。また、ポリエステル系フィルムは、金属板の両面にラミネートされていてもよい。ポリエステル系フィルムを金属板の両面にラミネートする場合、同時にラミネートしても逐次でラミネートしてもよい。
【0053】
また、上記A/Bの二層構成であるポリエステル系フィルムを金属板の少なくとも片面にラミネートする場合、前述のようにB層を金属板側にラミネートさせる層として用いるが、この場合、B層のバリヤー性や耐食性を優れたものとし、またラミネート密着性を更に向上させるために、熱硬化性樹脂を主成分とした従来公知の接着剤を予めB層に塗布しておき、ラミネートを実施してもよい。
【0054】
本発明の金属容器は、前述のフィルムラミネート金属板を用いて成形することによって得られる。金属容器の形状は特に限定されないが、例えば、缶状、瓶状、樽状等とすることができる。また、金属容器の成形方法も特に限定されないが、例えば、絞り成形法、しごき成形法、絞りしごき成形法等の公知の方法を使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の内容および効果を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
なお、実施例および比較例におけるフィルムの各特性の測定方法を以下に記載する。
【0057】
(1)フィルムラミネート金属板の熱処理におけるポリエステル系フィルムの寸法変化率
脱脂処理した厚さ190μmの金属板(ティンフリースチール、Lタイプブライト仕上げ、表面粗さ0.3〜0.5μm、新日本製鐵社製)を200℃に予熱しておき、該金属板と、厚さ12μmとしたポリエステル系フィルム試料の片面とを合わせ、圧力を500N/cmとしたゴムロールとゴムロールとの間を、速度10m/分の条件で通過、次いで急水冷させてフィルムラミネート金属板〔厚さ202μm(ポリエステル系フィルム/金属板=12μm/190μm)〕を得た。得られたフィルムラミネート金属板を、1辺がフィルム縦延伸方向またはフィルム製膜方向に対して平行となるよう、フィルム試料部と金属板部の面積を合同にして60mm×60mmの正方形に裁断した。次いで、このフィルムラミネート金属板試料を風速1〜10m/秒、温度210℃に調整した熱風オーブン中にオーブンの真ん中になるように天井からつるし、2分間熱処理を行った後、該フィルムラミネート金属板試料をオーブンより取り出し、直ちに25℃以下の水に1秒間以上浸漬して急水冷させた。次いで、試料のフィルム部分において、フィルム横延伸方向またはフィルム面内で製膜方向に直交する方向の長さを読み取り、熱処理後の寸法(I:単位mm)とした。得られたIから以下の式により寸法変化率を算出した。
【0058】
【数1】

【0059】
(2)融点
試料を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷した。その10mgを試料とし、10℃/分の速度で昇温していった際に現れる結晶融解に基づく吸熱ピーク温度を示差走査型熱量計で測定した。
【0060】
(3)極限粘度
フェノール/テトラクロロエタンの混合溶媒(重量比で6/4)に、試料を濃度0.4g/dlとなるように溶解し、ウベローデ型粘度管を用いて温度30℃で測定した。
【0061】
(4)動摩擦係数
上記(1)のようにして得たフィルムラミネート金属板を、長辺がフィルム縦延伸方向またはフィルム製膜方向に対して平行となるよう、フィルム試料部と金属板部の面積を合同にして150mm×100mmの長方形に裁断し、試料とした。次いで、50mm×70mmの接触面積を有する重量1.5kgの滑走子に該試料をフィルム側を表面にしてフィルム縦延伸方向またはフィルム製膜方向が滑走方向と平行となるようセットし、80℃のティンフリースチール板上を速度250mm/分で滑走させたときの動摩擦係数を測定した。
【0062】
(5)エチレンテレフタレート環状三量体の定量
試料をヘキサフルオロイソプロピルアルコール/クロロホルム=2/3(V/V)に溶解し、メタノールでポリエステルを沈澱させ、沈澱物を濾別した。次いで、濾液を蒸発乾固し、該蒸発乾固物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた。該溶液を液体クロマトグラフィー法で展開し、ポリエステル中のエチレンテレフタレート環状三量体量を定量した。
【0063】
(6)オリゴマー析出の判定
上記(1)のようにして得たフィルムラミネート金属板を、1辺がフィルム縦延伸方向またはフィルム製膜方向に対して平行となるよう、フィルム試料部と金属板部の面積を合同にして100mm×100mmの正方形に裁断し、試料とした。この試料を500ccの蒸留水とともに、120℃で30分間レトルト処理をした。該処理後のフィルムラミネート金属板を風乾し、そのフィルム表面の状態をルーペで観察し、以下に示す基準に基づきオリゴマー析出の有無を判定した。
有:フィルム表面にオリゴマーの結晶が観察される。
無:フィルム表面にオリゴマーの結晶が観察されない。
【0064】
実施例
(ポリエステル系フィルムの製造)
A層用のポリエステルとして、平均粒径1.5μmの凝集タイプのシリカ0.3重量%および平均粒径3.0μmのトリメチロールプロパントリメタクリレートで架橋した球状のポリメチルメタクリレート粒子1.0重量%を含み、抽出法でエチレンテレフタレート環状三量体量を低下させた、エチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.33重量%、極限粘度が0.70、融点が250℃のポリエチレンテレフタレート95重量部と、極限粘度が1.10、融点が224℃のポリブチレンテレフタレート5重量部との混合物(融点250℃、極限粘度0.70)を用いた。一方、B層用ポリエステルとして、平均粒径1μmの球状シリカ0.1重量%を含むテレフタル酸/イソフタル酸(モル比90/10)とエチレングリコールとの共重合ポリエステル(融点215℃、極限粘度0.65)を用いた。これらのA層用およびB層用のポリエステルをそれぞれ別々の押出し機で溶融させ、この溶融体をダイ内で合流させた後、冷却ドラム上に押出し、無定形シートとした。その後、上記無定形シートを90℃で縦方向に3.5倍、横方向に3.5倍延伸し、220℃で熱固定して、A層厚さ9μmおよびB層厚さ3μm(総厚さ12μm)のポリエステル系フィルムを得た。このポリエステル系フィルムのB層はジクロロメタンによって容易に侵され、実質的に無配向化されているものであった。
【0065】
(フィルムラミネート金属板の製造)
脱脂処理した厚さ190μmの金属板(ティンフリースチール、Lタイプブライト仕上げ、表面粗さ0.3〜0.5μm、新日本製鐵社製)を200℃に予熱しておき、該金属板と上記ポリエステル系フィルムのB層側の面とを合わせ、圧力を500N/cmとしたゴムロールとゴムロールとの間を速度10m/分の条件で通過、次いで急水冷させてフィルムラミネート金属板〔厚さ202μm(ポリエステル系フィルム(A層/B層)/金属板=12μm(9μm/3μm)/190μm)〕を得た。得られたフィルムラミネート金属板について上記(1)に従ってポリエステル系フィルムの熱処理による寸法変化率を測定したところ、0.8%であった。また、フィルム表面(A層表面)の80℃での動摩擦係数、およびフィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量をそれぞれ上記(4)および(5)に従って測定したところ、それぞれ0.38および0.40重量%であった。さらに、上記(6)に従ってオリゴマーの析出の有無を観察したところ、フィルム表面にオリゴマーの析出は観察されなかった。
【0066】
(金属容器の製造)
前述のフィルムラミネート金属板を用い、3ピース缶として製缶したところ、製缶工程において高速度で製缶でき、該工程での熱処理後においてもフィルムのだぶつきや金属板の表面露出等の問題は生じなかった。また、こうして得られた缶に食料品を充填して125℃、30分間のレトルト処理を実施し、40℃、6ヶ月間の貯蔵テストを実施したところ、耐食性の良好な、食料品の保護性に優れたものであった。
【0067】
比較例
上記実施例におけるA層用のポリエステルとして、ポリブチレンテレフタレートを用いずに、上記エチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.33重量%のポリエチレンテレフタレートを100重量部使用し、かつ製膜条件における熱固定温度を160℃とした以外は上記実施例と同様にして、ポリエステル系フィルムおよびフィルムラミネート金属板を製造した。
【0068】
当該フィルムラミネート金属板の熱処理におけるポリエステル系フィルムの寸法変化率、動摩擦係数およびエチレンテレフタレート環状三量体含有量は、それぞれ3.0%、0.39および0.39重量%であった。
【0069】
また、当該ポリエステル系フィルムを用いてフィルムラミネート金属板を製造した際、フィルムに皺が入り易く、収率は低いものであった。さらにこのフィルムラミネート金属板の皺のない良好な部分を用いて金属容器を製造したところ、製缶工程中の熱処理後に該フィルムの収縮による接合部補修の仕上がり不良が発生し、商品価値の低いものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が240〜260℃であるポリエステルからなるA層と、融点が200〜235℃であるポリエステルからなるB層とから構成されるA/Bの二層構成である二軸延伸ポリエステル系フィルムであり、該フィルムが前記B層の融点未満の温度に加熱された金属板の少なくとも片面に前記B層を金属板側にしてラミネートされたラミネート金属板を210℃の雰囲気中で2分間の熱処理をしたときの該フィルムの寸法変化率が2.0%以下である金属板ラミネート用ポリエステル系フィルムの製造方法であって、
フィルムの二軸延伸工程後に、前記A層を構成するポリエステルの融点より20℃低い温度からB層を構成するポリエステルの融点より5℃低い温度までの範囲の温度条件でフィルムの熱処理を行うことを特徴とする、金属板ラミネート用ポリエステル系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−62367(P2006−62367A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257076(P2005−257076)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【分割の表示】特願2000−326053(P2000−326053)の分割
【原出願日】平成12年10月25日(2000.10.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】