説明

金属構造物の形成方法及び金属構造物形成用組成物並びに電子部品

【課題】還元反応が十分に進行しない、形成される金属構造物の表面に欠陥を有する等の不良現象が抑制され、光沢に優れた金属構造物を形成する方法及びその形成方法に用いられる金属構造物形成用組成物並びに電子部品を提供する。
【解決手段】本発明は、基材に、蟻酸の金属錯体(A)及び蟻酸アンモニウム(B)を含有する金属構造物形成用組成物を塗布し、塗布物を形成する工程と、得られた塗布物に対して、加熱及び/又は光照射し、金属からなる構造物を基材の表面に形成する工程とを、順次、備える金属構造物の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造物の形成方法及び金属構造物形成用組成物並びに電子部品に関する。より詳しくは、フレキシブルプリント配線板等の回路基板基材に用いる金属配線や金属パターン等の金属構造物の形成方法及びこの金属構造物の形成方法に用いられる金属構造物形成用組成物並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレキシブルプリント配線板、TAB用フィルムキャリア、多層配線板等の回路基材を形成する際、レジスト材料を用いた方法が行われてきた。つまり、基材に蒸着法やメッキ法、キャスト法により金属膜を形成し、その上にレジストパターンを形成後、該レジストパターンをマスクとしてエッチング等により金属膜の一部を除去し、そして残存するレジストパターンを除去することにより回路基材を形成してきた。
しかしながらレジスト材料を用いた方法では工程が多岐にわたるため、多くの時間を要し、更に、エッチングを行ったり、レジストパターンを除去したりする際に金属膜が酸化するため、歩留まり悪化の原因となってきた。
そこで、金属膜を直接、基板基材に形成する方法等が考案された。例えば、特許文献1では硫酸銅を用いた金属膜の形成方法が提案されている。また、特許文献2では硫酸銅(II)一水和物とヒドラジン一水和物等の還元剤とを用いた金属膜の形成方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−73159号公報
【特許文献2】特開2008−205430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
還元反応を伴う、基材表面への膜、突起物等の金属構造部の形成に際しては、還元反応が十分に進行しない、形成された金属構造部の表面に欠陥を有する等の不良現象が懸念され、それを抑制する方法が検討されているが、未だ十分ではない。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、還元反応が十分に進行しない、形成される金属構造物の表面に欠陥を有する等の不良現象が抑制され、光沢に優れた金属構造物を形成する方法及びその形成方法に用いられる金属構造物形成用組成物並びに電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以下に示す通り、特定の成分(A)及び(B)を含む金属構造物形成用組成物を用いて、成分(A)に含まれる金属成分に由来する単体金属からなる構造物が形成可能であることを見出した。
1.工程(1):基材に、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する金属構造物形成用組成物を塗布し、塗布物を形成する工程と、
工程(2):上記塗布物に対して、加熱及び/又は光照射し、金属からなる構造物を、上記基材の表面に形成させる工程と、
を、順次、備えることを特徴とする金属構造物の形成方法。
成分(A):蟻酸の金属錯体。
成分(B):蟻酸アンモニウム。
2.上記金属構造物形成用組成物が、更に、下記の成分(C)を含有する上記1に記載の金属構造物の形成方法。
成分(C):大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物。
3.上記成分(C)が、アルコール及び/又はカルボン酸である上記1又は2に記載の金属構造物の形成方法。
4.上記アルコールに含まれるヒドロキシル基の数が2〜20である上記3に記載の金属構造物の形成方法。
5.上記工程(2)における加熱温度が50℃〜300℃である上記1乃至4のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
6.上記基材は、上記工程(1)の前に、該基材の表面がアルカリ性の溶液で処理されたものである上記1乃至5のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
7.上記基材が、ポリイミド樹脂を含有する基材である上記1乃至6のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
8.上記金属構造物形成用組成物において、上記成分(B)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して、100質量部を超えて300質量部以下である上記1乃至7のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
9.上記工程(2)の後に、更に、下記の工程(3)を備える上記1乃至8のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
工程(3):上記金属構造物の表面を洗浄する工程。
10.(A)蟻酸の金属錯体と、(B)蟻酸アンモニウムと、を含有することを特徴とする金属構造物形成用組成物。
11.上記金属構造物形成用組成物が、更に、大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物(C)を含有する上記10に記載の金属構造物形成用組成物。
12.上記有機化合物(C)が、アルコール及び/又はカルボン酸である上記11に記載の金属構造物形成用組成物。
13.上記アルコールに含まれるヒドロキシル基の数が2〜20である上記12に記載の金属構造物形成用組成物。
14.上記成分(B)の含有量が、上記成分(A)100質量部に対して、100質量部を超えて300質量部以下である上記11乃至13のいずれか1項に記載の金属構造物形成用組成物。
15.上記1乃至9のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法によって得られた金属構造物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属構造物の形成方法によれば、ピンホール、黒点、破断部等の不良現象が抑制され、光沢に優れた、金属構造物を効率よく基材表面に形成することができる。尚、本発明に係る「金属構造物」は、膜(平坦化膜、曲面化膜)、突起物、粒子等を意味し、基材における滑らかな表面(平坦面、曲面)、基材における凸部の上側表面、基材における凹部の内表面等に形成される部位を意味する。
上記金属構造物形成用組成物が、更に、成分(C)を含有する場合であって、工程(1)により得られた塗膜等の塗布物を、工程(2)において加熱する場合には、加熱雰囲気が限定されることなく、例えば、空気雰囲気、即ち、酸素ガスを含む雰囲気の下で加熱を行っても、酸化が抑制された金属膜等の構造物を形成することができる。
上記成分(C)がアルコール及び/又はカルボン酸である場合には、組成物の取扱いを容易なものとすることができる。
上記成分(C)が、アルコールであり、且つ、このアルコールに含まれるヒドロキシル基の数が2〜20である場合には、この成分(C)に対する成分(A)及び(B)の溶解性又は分散性が優れ、工程(1)において、組成が均一な塗布物の安定形成を行うことができる。
本発明の金属構造物形成用組成物によれば、基材にその塗膜等を形成し、その後、加熱等をするといった簡便な方法により、効率よく、基材に密着した金属構造物を形成することができ、電子部品等の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の電子部品の断面構造の一部を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の金属構造物の形成方法は、下記工程(1)及び(2)を、順次、備えることを特徴とする。
工程(1)は、基材に、成分(A)、即ち、蟻酸の金属錯体と、成分(B)、即ち、蟻酸アンモニウムとを含有する金属構造物形成用組成物を塗布し、塗布物を形成する工程である。
工程(2)は、塗布物に対して、加熱及び/又は光照射し、金属からなる構造物を、上記基材の表面に形成させる工程である。
上記金属構造物形成用組成物は、更に、成分(C)として、大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物を含有することができる。
【0009】
また、本発明の金属構造物形成用組成物は、成分(A)と、成分(B)とを含有することを特徴とする。この組成物は、更に、成分(C)を含有することができる。
本発明の金属構造物形成用組成物は、本発明の金属構造物の形成方法に係る工程(1)で用いられる金属構造物形成用組成物と同じであり、(A)、(B)及び(C)で表される成分及びその含有割合は、共通する。
【0010】
上記金属構造物形成用組成物は、本発明の金属構造物の形成方法に係る工程(1)において、塗膜等の塗布物を形成し得ることから、通常、液状(溶液又は分散液)であり、特に好ましくは溶液である。従って、この組成物は、成分(A)及び(B)と、媒体とを含有する。この媒体は、特に限定されないが、通常、水である。しかしながら、本発明に係る金属構造物形成用組成物においては、上記のように、成分(C)を含んでもよい。この場合、上記媒体は、水と、成分(C)との組み合わせとなる。成分(C)の詳細は、後述する。
【0011】
上記金属構造物形成用組成物としては、以下に例示される。
[1]成分(A)及び(B)が媒体(成分(C)を除く。)に溶解又は分散している溶液又は分散液
[2]成分(A)、(B)及び(C)を含有する溶液又は分散液
[3]成分(A)、(B)及び(C)と、他の媒体を含有する溶液又は分散液
これらの態様においては、上記工程(1)で用いる金属構造物形成用組成物は、少なくとも成分(A)及び(B)が溶解している溶液であることが好ましい。また、上記工程(1)で用いる金属構造物形成用組成物が、例えば、25℃で成分(A)及び/又は(B)が分散している分散液であって、工程(2)で加熱する場合に、加熱の際の金属構造物形成前に成分(A)及び(B)が溶解する組成物であってもよい。
【0012】
上記金属構造物形成用組成物に含有される成分(A)は、蟻酸の金属錯体である。この成分(A)は、得られる金属構造物を構成する金属源である。
上記成分(A)は、銅、錫、パラジウム、コバルト、マンガン等から選ばれた少なくとも1つの金属元素(以下、「金属元素(a)」という。)を中心原子とし、配位子として、少なくとも[HCOO]を有する。他の配位子としては、[NH]、[NH]、[HNCOO]、[RCOO](但し、Rは、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基である。)等が挙げられる。これらのうち、還元性を有する[NH]が好ましい。
また、中心原子に配位する配位子の配位数は、中心原子を構成する金属元素(a)の種類により異なり、例えば、金属元素(a)が銅及びニッケルである場合には、配位数は、通常、4又は6である。本発明に係る金属構造物形成用組成物に含まれる成分(A)が銅錯体である場合においては、配位数は6であると思われる。
本発明において、上記成分(A)としては、蟻酸アンモニウムの金属錯体(銅錯体、ニッケル錯体等)が好ましい。
【0013】
また、上記金属構造物形成用組成物に含有される成分(B)は、蟻酸アンモニウムである。
【0014】
上記金属構造物形成用組成物は、好ましくは、上記成分(A)と、成分(B)と、媒体とを混合する方法、又は、上記成分(A)を形成可能な物質と、成分(B)と、媒体とを混合する方法により調製される。これらの詳細は、後述される。
後者の場合、成分(A)を形成可能な物質の種類によっては、成分(B)との混合時に、両者が反応する場合がある。その場合、反応生成物は、通常、成分(A)に相当することから、過剰量の成分(B)が用いられて、反応に使用されない、(残部の)成分(B)が、金属構造物形成用組成物に含まれることになる。
【0015】
本発明において、上記金属構造物形成用組成物は、上記成分(A)を形成可能な物質として、金属元素(a)の酸化物(以下、「金属酸化物(A1)」という。)、金属元素(a)の蟻酸塩(以下、「蟻酸塩(A2)」という、)等を用い、上記成分(B)、媒体等とともに含む原料成分を用いて得られた組成物であることが好ましい。
この調製方法において、原料成分は、成分(A)を含むものであってよく、この場合の原料成分は、成分(A)と、金属酸化物(A1)及び/又は蟻酸塩(A2)と、媒体とを含有する。そして、金属酸化物(A1)を構成する金属元素、及び、蟻酸塩(A2)を構成する金属元素は、いずれも、成分(A)を構成する金属元素(a)と同一とする。
【0016】
上記原料成分が、成分(A)を含有しない場合であって、金属酸化物(A1)及び/又は蟻酸塩(A2)を含む場合、金属酸化物(A1)及び/又は蟻酸塩(A2)は、得られる金属構造物を構成する金属源である。
【0017】
金属酸化物(A1)としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、酸化錫(I)、酸化錫(II)、酸化パラジウム(II)、酸化マンガン(IV)等が挙げられる。
また、蟻酸塩(A2)としては、蟻酸銅、蟻酸ニッケル、蟻酸コバルト、蟻酸錫、蟻酸パラジウム、蟻酸マンガン等が挙げられる。
【0018】
上記のように、金属構造物形成用組成物は、成分(A)及び(B)を含む組成物、並びに、成分(A)、(B)及び(C)を含む組成物とすることができる。いずれの場合も、組成物に含有される成分(B)の含有量は、上記(A)成分100質量部に対して、好ましくは100質量部を超えて300質量部以下、より好ましくは110〜250質量部、更に好ましくは150〜200質量部である。上記成分(B)の含有量が、上記範囲にあると、金属構造物の形成に好適な組成物とすることができる。即ち、工程(2)により得られる金属構造物は、酸化されることなく、光沢性に優れる。
【0019】
上記金属構造物形成用組成物が、上記態様[1]である場合、即ち、成分(A)及び(B)を含み、媒体(成分(C)を除く。)に溶解している溶液である場合、この媒体は、通常、水である。このとき、組成物に含有される水の含有量は、上記成分(A)100質量部に対して、好ましくは20〜20,000質量部、より好ましくは50〜1,000質量部、更に好ましくは100〜400質量部である。水の含有量が、上記範囲にあると、本発明の金属構造物の形成方法に係る工程(1)において、基材への組成物の塗布ムラを抑制することができ、その結果、所望の膜厚を有する金属膜、所望の形状を有する突起物等の金属構造物を形成することができる。
尚、上記媒体が水を含む場合、水と、水に溶解する有機化合物(以下、「水溶性有機化合物」という。)とを組み合わせてもよい。この場合、水溶性有機化合物の含有量は、水100質量部に対して、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは1〜50質量部、更に好ましくは5〜30質量部である。上記媒体が水及び水溶性有機化合物からなり、その含有量が上記範囲にあると、基材の選択性が高く、また、組成物の塗布ムラを抑制することができ、その結果、所望の膜厚を有する金属膜、所望の形状を有する突起物等の金属構造物を形成することができる。
上記水溶性有機化合物としては、メタノール、エタノール、ブタノール等の1価アルコール;多価アルコール;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル等が挙げられる。上記水溶性有機化合物は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記態様[1]の金属構造物形成用組成物の好ましい調製方法は、(1−1)成分(A)、及び、成分(A)を形成可能な物質、から選ばれた少なくとも1種と、成分(B)とを、水に溶解する方法、(1−2)成分(B)を水に溶解させて蟻酸アンモニウム水溶液を得た後、この水溶液に、成分(A)、及び/又は、成分(A)を形成可能な物質、を溶解させる方法である。
上記のように、成分(A)を形成可能な物質として、金属酸化物(A1)又は蟻酸塩(A2)を用いることができるが、この場合、成分(B)は、金属酸化物(A1)又は蟻酸塩(A2)と反応することがあるため、それにより成分(A)を形成せしめる化学量論的な金属酸化物(A1)の使用量に対して、過剰量を使用して、一部を残存させる。
金属構造物の構成金属が銅である場合、成分(A)を形成可能な物質としては、酸化銅(I)を用いることが好ましい。
【0021】
上記のように、金属構造物形成用組成物は、更に、大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物(C)を含有することができる。そして、上記態様[2]及び[3]で表される組成物とすることができる。この有機化合物(C)の沸点は、好ましくは160℃以上、より好ましくは200℃以上であり、上限は、通常、400℃である。
尚、この成分(C)は、大気圧及び温度25℃において液体である。
【0022】
上記成分(C)は、水溶性であってよいし、水不溶性であってもよい。
上記成分(C)としては、アルコール、カルボン酸、エステル、ケトン、アミン、アミド、複素環化合物、スルホキシド、スルホン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
アルコールは、1価アルコール及び多価アルコール(2価アルコール、3価アルコール等)のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。また、飽和アルコール及び不飽和アルコールのいずれでもよい。尚、このアルコールには、炭化水素を構成する水素原子が、ヒドロキシル基に置換されたアルコールだけでなく、アルコールエーテル等も含まれる。
【0024】
アルコールに含まれるヒドロキシル基の数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限は、通常、30であり、好ましくは20である。従って、上記アルコールは、多価アルコール及び多価アルコールエーテルであることが好ましい。
【0025】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
多価アルコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
カルボン酸は、モノカルボン酸及びポリカルボン酸(ジカルボン酸、トリカルボン酸等)のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。また、飽和カルボン酸及び不飽和カルボン酸のいずれでもよい。尚、このカルボン酸には、炭化水素部における水素原子が、ヒドロキシル基に置換されたヒドロキシカルボン酸も含まれる。
【0028】
モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸;安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、イソプロピル安息香酸、フェニル酢酸、フェニルプロパン酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリカルボン酸としては、ジフェニルマロン酸、コハク酸、フェニルコハク酸、ジフェニルコハク酸、グルタル酸、3、3−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、クエン酸、メタントリカルボン酸、トリカルバリル酸、プロペントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、エタンテトラカルボン酸、プロパンテトラカルボン酸、ペンタンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ドデカンテトラカルボン酸、ペンタンペンタカルボン酸、テトラデカンヘキサカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N,N’,N’−四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸、1,3−ジアミノプロパン−2−オール−N,N,N’,N’−四酢酸、1,2−ジアミノプロパン−N,N,N’,N’−四酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、1,6−ヘキサンジアミン四酢酸、N−(2−カルボキシエチル)イミノ二酢酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジ酢酸、1,5−デカリンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸、4,4’−ビシクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、5−(コハク酸)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、5,6,9,10−テトラカルボキシトリシクロ[6.2.2.02,7]ドデカ−2,11−ジエン及びその低級アルキル置換体、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸、6−メチル−4−シクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸、チオビス(ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸)、ビシクロ[4.2.0]オクタン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、1,1’−ビシクロプロパン−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸、1,2−ビス(2,3−ジメチル−2,3−ジカルボキシシクロブチル)エタン、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン−9−エン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
エステルは、エステル結合を少なくとも1つ有する化合物であり、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル等の乳酸エステル;ジカルボン酸のモノエステル又はジエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ケトンとしては、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
アミンとしては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
アミドとしては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
複素環化合物としては、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
スルホンとしては、スルホラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
その他、尿素、アセトニトリル等を用いることができる。
【0038】
上記成分(C)は、金属構造物形成用組成物を用いた、塗膜等の塗布物の形成性の観点から、好ましくはアルコール及びカルボン酸であり、より好ましくはアルコールである。また、上記成分(A)が蟻酸アンモニウムの金属錯体である場合には、その溶解性に優れることから、炭素原子数3〜5の多価アルコール及び炭素原子数3〜5のカルボン酸が好ましく、グリセリン及びイソステアリン酸が特に好ましい。
【0039】
また、金属構造物形成用組成物が、成分(A)、(B)及び(C)を含む組成物である場合、即ち、上記態様[2]及び[3]で表される組成物である場合、成分(C)の含有量は、上記成分(A)及び(B)の合計100質量部に対して、好ましくは1〜10,000質量部、より好ましくは100〜5,000質量部、更に好ましくは500〜3,000質量部である。上記成分(C)の含有量が、上記範囲にあると、本発明の金属構造物の形成方法に係る工程(1)において、基材への組成物の塗布ムラを抑制することができる。また、工程(1)により得られた塗膜等の塗布物を、工程(2)において加熱する場合には、加熱雰囲気が限定されることなく、例えば、空気雰囲気、即ち、酸素ガスを含む雰囲気の下で加熱を行っても、酸化が抑制され、所望の膜厚を有する金属膜、所望の形状を有する突起物等の金属構造物を形成することができる。
【0040】
上記態様[2]及び[3]の金属構造物形成用組成物は、成分(A)及び(B)を、同時に成分(C)に溶解又は分散させる方法、又は、成分(A)及び(B)のいずれか一方を、成分(C)に溶解又は分散させた後、他方を更に溶解又は分散させる方法により調製することができる。成分(A)としては、蟻酸銅(II)又は蟻酸ニッケル(II)を用いることが好ましい。これらの調製方法により得られた組成物において、成分(B)が含まれている。
【0041】
本発明の金属構造物の形成方法において用いられる基材は、工程(2)において変質、変形等を招くものでなければ、その構成材料及び形状が限定されることなく、使用可能である。
上記基材の構成材料としては、樹脂若しくは樹脂組成物、金属、合金、セラミックス等が挙げられ、成分(A)に対して親和性を有するものが好ましい。また、その形状としては、フィルム、シート、板(平板、曲板等)、立方体、直方体、角錐、円錐、線状体(直線、曲線等)、環状体(円形、多角形等)、網状体、管、球等の定形体、凹凸、溝、貫通孔、角部等を有する不定形体が挙げられる。
【0042】
基材を構成する材料が樹脂若しくは樹脂組成物である場合の樹脂としては、有機化合物から得られる重合体であれば特に限定されないが、好ましくは、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ尿素、ポリアミド樹脂、環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノボラック樹脂、テフロン(商標)等である。
【0043】
ポリイミド樹脂は、その分子中でイミド五員環を介して単量体単位が連結されてなる樹脂であれば、特に限定されない。ポリイミド樹脂を含むフィルムとしては、例えば、東レ・デュポン社製品「カプトンフィルム100−H」、「カプトンフィルム200−H」等(以上、商品名)等の市販品が知られており、これらを用いることができる。
【0044】
ポリエステル系樹脂は、分子の主鎖中にエステル結合を有する樹脂であれば、特に限定されず、飽和ポリエステル樹脂であってよいし、不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。これらのうち、飽和ポリエステル樹脂が好ましい。また、単独重合ポリエステルであってよいし、共重合ポリエステルであってもよい。更に、結晶性樹脂であってよいし、非晶性樹脂であってもよい。
【0045】
上記ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチルテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート等の単独重合ポリエステル;アルキレンテレフタレート単位及び/又はアルキレンナフタレート単位を主として含有する共重合ポリエステル;液晶ポリエステル等が挙げられる。これらのうち、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
基材を構成する材料が金属、合金又はセラミックスである場合、これらは、特に限定されない。即ち、導電材料であっても、絶縁材料であってもよい。
単体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、マンガン、金、銀、鉄、コバルト、ルテニウム、シリコン、チタン、ジルコニウム、カーボン等が挙げられる。合金としては、上記元素を含むものを用いることができる。セラミックスとしては、上記金属元素を含む酸化物等が挙げられる。
【0047】
上記基材が、樹脂若しくは樹脂組成物からなる場合、金属構造物の形成性の観点から、基材の表面に−COOH、−OH、−NH等の極性の官能基を有することが好ましい。
例えば、樹脂がポリイミド樹脂を含む場合に、下記の前処理を行って基材の表面に−COOHを存在させると、金属構造物の形成性が一段と向上する。
【0048】
前処理の方法は、好ましくは、基材の表面にアルカリ性の溶液を接触させた後、酸性の溶液を接触させる方法である。以下、ポリイミド樹脂を含む基材の前処理について説明する。
【0049】
アルカリ性溶液は、水溶液及び有機溶液のいずれでもよいが、好ましくは水溶液(アルカリ性水溶液)である。
【0050】
水に溶けてアルカリ性水溶液を形成する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
上記アルカリ性水溶液における塩基性化合物の濃度は、通常、0.5〜20質量%、好ましくは2〜10質量%である。上記濃度が0.5〜20質量%であることにより、基材の劣化を抑制しつつ、表面処理の効果を得ることができる。アルカリ水溶液の具体例としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等が挙げられる。
【0052】
基材の表面にアルカリ性溶液を接触させる方法は、特に限定されず、スピンコート法、ディップ法、キャスト法、スプレー法等を用いることができる。このとき、アルカリ性溶液は、室温であってよいし、加熱されていてもよい。好ましい溶液温度は、0℃〜200℃である。
また、アルカリ性溶液を接触させる際の基材は、加熱されていてもよい。好ましい基材温度は、50℃〜300℃である。
【0053】
更に、アルカリ性溶液による処理時間は、好ましくは5〜120分である。
【0054】
アルカリ性溶液を用いて、ポリイミド樹脂を含む基材の表面処理を行うと、ポリイミド樹脂におけるイミド環を開環させて、カルボン酸塩部(−COO)を容易に形成することができる。
アルカリ性溶液による処理の後、基材を洗浄してもよい。基材を洗浄することにより、その後の酸性溶液を用いた処理による作用をより容易とすることができる。
【0055】
次に、酸性の溶液を用いて、更に、基材の表面処理を行う。
この酸性溶液は、カルボン酸塩部(−COO)に作用して、−COOHを形成することができるものであれば、特に限定されないが、好ましくは酸性水溶液である。
【0056】
水に溶けて酸性水溶液を形成する酸性化合物としては、塩酸、硫酸、リン酸、シュウ酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0057】
上記酸性水溶液における酸性化合物の濃度は、通常、0.5〜30質量%、好ましくは5〜20質量%である。上記濃度が0.5〜20質量%であることにより、基材の劣化を抑制しつつ、表面処理の効果を得ることができる。酸性水溶液としては、塩酸水溶液、硫酸水溶液等が挙げられる。
【0058】
基材の表面に酸性溶液を接触させる方法は、特に限定されず、スピンコート法、ディップ法、キャスト法、スプレー法等を用いることができる。このとき、酸性溶液は、室温であってよいし、加熱されていてもよい。好ましい溶液温度は、0℃〜100℃である。
また、酸性溶液を接触させる際の基材は、加熱されていてもよい。好ましい基材温度は、50℃〜200℃である。
更に、酸性溶液による処理時間は、好ましくは5〜120分である。
【0059】
酸性溶液を用いて、基材の表面処理を行うと、アルカリ性溶液による処理により形成されたカルボン酸塩部(−COO)が、容易に変性されて−COOHとなる。
酸性溶液による処理の後、基材を洗浄してもよい。基材を洗浄することにより、金属構造物形成用組成物を塗布する工程(1)を円滑に進めることができる。
【0060】
尚、樹脂からなる基材に対して、前処理することなく、金属構造物形成用組成物を塗布する工程(1)を進めることも、勿論、可能である。
【0061】
本発明の形成方法に係る工程(1)は、金属構造物形成用組成物を基材に塗布し、塗膜等の塗布物を形成する工程である。
塗布方法は、特に限定されず、スピンコート法、ロールコート法、ディップ法、キャスト法、スプレー法、インクジェット法、スクリーン印刷法、アプリケーター法等が挙げられる。金属構造物形成用組成物は、基材の表面に均一に塗布されてよいし、基材表面の所望の位置に凸状に塗布されてもよい。
【0062】
組成物を基材に塗布した後、必要に応じて、塗布物を乾燥させてもよい。その場合、室温における自然乾燥法、又は、室温以上の温度であって、且つ、工程(2)における加熱温度より低い温度で乾燥する方法が適用される。
工程(1)により形成する塗膜等の塗布物の厚さは、組成物の粘度等により、選択されるが、通常、0.01〜10,000μmである。
【0063】
得られた塗膜等の塗布物は、水等の媒体の含有の有無を問わず、金属構造物形成用組成物における必須成分の構成を維持しつつ、成分(A)と、成分(B)とを含有している。塗布物は、特に好ましくは、蟻酸の金属錯体と、蟻酸アンモニウムとを含有している。そして、塗布物に含まれる成分(A)及び(B)の相互作用を維持しつつ、工程(2)により、成分(A)に含まれる金属成分が還元されて、金属構造物を形成することができる。特に、基材の構成材料が、金属、又は、−COOH、−OH、−NH等の極性の官能基を有する樹脂である場合には、成分(A)及び成分(B)が、基材の表面と相互作用し、工程(2)における、密着性に優れた金属構造物の形成を、容易にすることができる。例えば、基材がポリイミド樹脂を含み、上記の前処理法によって、その表面に−COOHを有するものとした場合には、蟻酸アンモニウムの金属錯体と、蟻酸アンモニウムとが塗布物に含まれる。
【0064】
次に、工程(2)により、塗布物に対して、加熱及び/又は光照射し、金属からなる構造物を、基材の表面に形成させる。
【0065】
塗布物付き基材の加熱を行う場合、その条件及び装置は、特に限定されないが、通常、工程(1)において用いた金属構造物形成用組成物の構成及び基材の構成材料により、選択される。
【0066】
加熱の際の温度は、好ましくは50℃〜300℃、より好ましくは100℃〜280℃、更に好ましくは120℃〜250℃である。上記範囲の温度であれば、ピンホール、黒点、破断部等の不良現象を抑制しつつ、基材に対する密着性に優れた金属構造物を、短時間で効率よく形成することができる。
【0067】
加熱装置としては、ホットプレート、循環式乾燥炉等が挙げられる。
【0068】
加熱時間は、通常、5〜5,000分間、好ましくは10〜120分間である。
【0069】
また、加熱の際の雰囲気は、形成された金属構造物の酸化を抑制する等の観点から、不活性ガス雰囲気等の、酸素ガスを含まない雰囲気であることが好ましい。生産性等の観点から、好ましい雰囲気は、窒素ガスを主とする雰囲気である。
一方、金属構造物形成用組成物が、上記成分(A)、(B)及び(C)を含有する場合には、加熱雰囲気が、例えば、空気雰囲気、即ち、酸素ガスを含む雰囲気であってもよく、この場合においても、加熱の際に、塗布物を構成する成分(C)又はそれに由来する成分が残存した状態、即ち、これらの成分が、形成されつつある金属構造物を被覆した状態で、更に成長して金属構造物が形成されるため、形成中及び形成直後の金属構造物は、酸化性雰囲気にない環境となり、最終的に光沢に優れた金属構造物が得られる。
【0070】
上記工程(2)において、塗布物に対して光照射する場合、その条件及び装置は、特に限定されないが、通常、工程(1)において用いた金属構造物形成用組成物の構成により選択される。
【0071】
光照射に用いられる光は、特に限定されないが、赤外線、紫外線、可視光線、遠紫外線、X線、電子線等の荷電粒子線等の放射線(ArFエキシマレーザー(波長193nm)或いはKrFエキシマレーザー(波長248nm)等を含む)等が挙げられる。また、光照射は、塗布物の全面に行ってもよく、一部領域のみに行ってもよい。
【0072】
光照射により金属構造物を形成する場合、光照射の前に塗膜を加熱してから行ってよいし、加熱しながら光照射を行ってもよい。
【0073】
また、光照射の後に、形成された金属構造物を含む残存膜を加熱してもよい。
【0074】
本発明においては、上記工程(2)の後、更に、金属構造物の表面を洗浄する工程(3)を備えることができる。
上記のように、上記工程(2)の後、形成された金属構造物の表面には、副生物、成分(C)又はそれに由来する成分が残存している場合があり、それを除去するために金属構造物の表面を洗浄することにより、優れた光沢を有する金属構造物を得ることができる。
【0075】
上記工程(3)における方法は、金属構造物を構成する金属を変質させるものでなければ、特に限定されず、通常、水又はアルコールを用いた洗浄方法が挙げられる。
【0076】
以上より、本発明の金属構造物の形成方法によって、膜厚0.001〜100μmの金属構造物を、効率よく形成することができる。
【0077】
本発明の金属構造物形成用組成物、及び、金属構造物の形成方法を利用して、基材表面の所望の位置に密着性に優れた金属膜を有する金属配線付き基材を製造することができる。
例えば、板状基材(以下、「基板」という。)の表面に、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、金属構造物形成用組成物からなる塗膜(パターン化塗膜)を形成し、その後、上記本発明の金属構造物の形成方法に係る工程(2)と同様の条件で塗膜付き基板を加熱する。この加熱により、パターン化塗膜がパターン化金属膜となり、この金属膜の表面の残存物を除去することにより、金属配線を有する基板を得ることができる。
【0078】
また、他の製造方法としては、基板の表面に、パターン化金属膜を要しないマスク部を形成した後、基板に金属構造物形成用組成物を塗布して、マスク部を有さない基板表面の露出部に塗膜を形成する。その後、塗膜付き基板を加熱する。この加熱により、パターン化塗膜がパターン化金属膜となり、この金属膜の表面の残存物を除去し、更に、マスク部を除去することにより、金属配線を有する基板を得ることができる。
この場合、マスク部は、例えば、感光性樹脂組成物により形成されたものとすることができる。
【0079】
本発明の電子部品は、上記本発明の金属構造物の形成方法によって得られた金属構造物を備える部品であり、図1に示される。即ち、図1の電子部品1は、基材1と、この基材1の表面に配された金属構造物部12とを備える。電子部品としては、金属配線付き基材のほか、例えば、金属電極等を有する基材等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。ここで、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準である。
【0081】
実施例1−1
蟻酸アンモニウム8部及び酸化銅(I)5部を、水100部に溶解させ、銅薄膜形成用組成物(S−1)を調製した。この銅薄膜形成用組成物(S−1)の構成は、蟻酸アンモニウムの銅錯体及び蟻酸アンモニウムである。
一方、東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム「カプトンフィルム200−H」(商品名)を基材とし、このフィルムを、60℃に加熱された2%の水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬した。その後、この基材を水洗し、40℃に加熱された2%の塩酸水溶液に30分間浸漬した。
次に、得られた表面処理基材を、銅薄膜形成用組成物(S−1)に、25℃で1分間浸漬し、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、窒素気流中、200℃で15分間加熱することにより、銅膜を得た。得られた銅膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0082】
比較例1−1
酢酸銅(II)20部と、ヒドラジン一水和物18部と、アンモニア19部及び水43部となるようにアンモニア水とを攪拌し、銅薄膜形成用組成物(S−3)を調製した。以下、この銅薄膜形成用組成物(S−3)を用いた以外は、実施例1−1と同様の操作を行った。しかしながら、得られた金属膜は光沢性が低かった。
【0083】
比較例1−2
酸化銅(I)20部と、ヒドラジン一水和物18部と、アンモニア19部及び水43部となるようにアンモニア水とを攪拌し、銅薄膜形成用組成物(S−4)を調製した。以下、この銅薄膜形成用組成物(S−4)を用いた以外は、実施例1−1と同様の操作を行った。しかしながら、金属膜は形成されなかった。
【0084】
実施例2−1
蟻酸銅(II)四水和物13部及び蟻酸アンモニウム18部を、グリセリン280部に溶解させ、銅薄膜形成用組成物(T−1)を調製した。
一方、東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム「カプトンフィルム200−H」(商品名)を基材とし、このフィルムを、60℃に加熱された2%の水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬した。その後、この基材を水洗し、40℃に加熱された2%の塩酸水溶液に30分間浸漬した。
次に、得られた表面処理基材を、銅薄膜形成用組成物(T−1)に、25℃で1分間浸漬し、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、銅膜を得た。得られた銅膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0085】
実施例2−2
上記銅薄膜形成用組成物(T−1)を、ニッケル板にスピンコーティングし、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、銅膜を得た。得られた銅膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0086】
実施例2−3
上記銅薄膜形成用組成物(T−1)を、アルミニウム板にスピンコーティングし、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、銅膜を得た。得られた銅膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0087】
実施例2−4
蟻酸ニッケル(II)二水和物19部及び蟻酸アンモニウム32部を、グリセリン454部に溶解させ、ニッケル薄膜形成用組成物(T−2)を調製した。
一方、東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム「カプトンフィルム200−H」(商品名)を基材とし、このフィルムを、60℃に加熱された2%の水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬した。その後、この基材を水洗し、40℃に加熱された2%の塩酸水溶液に30分間浸漬した。
次に、得られた表面処理基材を、ニッケル薄膜形成用組成物(T−2)に、25℃で1分間浸漬し、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、ニッケル膜を得た。得られたニッケル膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0088】
実施例2−5
上記ニッケル薄膜形成用組成物(T−2)を、アルミニウム板にスピンコーティングし、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、ニッケル膜を得た。得られたニッケル膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【0089】
実施例2−6
蟻酸銅(II)四水和物13部及び蟻酸アンモニウム18部を、イソステアリン酸280部に溶解させ、銅薄膜形成用組成物(T−3)を調製した。
一方、東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム「カプトンフィルム200−H」(商品名)を基材とし、このフィルムを、60℃に加熱された2%の水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬した。その後、この基材を水洗し、40℃に加熱された2%の塩酸水溶液に30分間浸漬した。
次に、得られた表面処理基材を、銅薄膜形成用組成物(T−3)に、25℃で1分間浸漬し、塗膜を形成させた。その後、得られた塗膜付き基材を、大気中、160℃で15分間加熱した。そして、水洗処理することにより、銅膜を得た。得られた銅膜について、オリンパス社製の光学顕微鏡にて観察したところ、光沢性に優れ、黒点等の欠陥がなく、均一膜であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属構造物の形成方法は、金属膜に基づく金属配線を有する電子部品、機械部品等の製造に有用である。例えば、半導体デバイス用の配線、ディスプレイ機器用の配線、フレキシブルプリントの配線等を形成する際に好適である。
【符号の説明】
【0091】
1:電子部品
11:基板
12:金属構造物部(金属膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):基材に、下記の成分(A)及び成分(B)を含有する金属構造物形成用組成物を塗布し、塗布物を形成する工程と、
工程(2):前記塗布物に対して、加熱及び/又は光照射し、金属からなる構造物を、前記基材の表面に形成させる工程と、
を、順次、備えることを特徴とする金属構造物の形成方法。
成分(A):蟻酸の金属錯体。
成分(B):蟻酸アンモニウム。
【請求項2】
前記金属構造物形成用組成物が、更に、下記の成分(C)を含有する請求項1に記載の金属構造物の形成方法。
成分(C):大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物。
【請求項3】
前記成分(C)が、アルコール及び/又はカルボン酸である請求項1又は2に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項4】
前記アルコールに含まれるヒドロキシル基の数が2〜20である請求項3に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項5】
前記工程(2)における加熱温度が50℃〜300℃である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項6】
前記基材は、前記工程(1)の前に、該基材の表面がアルカリ性の溶液で処理されたものである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項7】
前記基材が、ポリイミド樹脂を含有する基材である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項8】
前記金属構造物形成用組成物において、前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、100質量部を超えて300質量部以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
【請求項9】
前記工程(2)の後に、更に、下記の工程(3)を備える請求項1乃至8のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法。
工程(3):前記金属構造物の表面を洗浄する工程。
【請求項10】
(A)蟻酸の金属錯体と、(B)蟻酸アンモニウムと、を含有することを特徴とする金属構造物形成用組成物。
【請求項11】
前記金属構造物形成用組成物が、更に、大気圧における沸点が150℃以上である有機化合物(C)を含有する請求項10に記載の金属構造物形成用組成物。
【請求項12】
前記有機化合物(C)が、アルコール及び/又はカルボン酸である請求項11に記載の金属構造物形成用組成物。
【請求項13】
前記アルコールに含まれるヒドロキシル基の数が2〜20である請求項12に記載の金属構造物形成用組成物。
【請求項14】
前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、100質量部を超えて300質量部以下である請求項11乃至13のいずれか1項に記載の金属構造物形成用組成物。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の金属構造物の形成方法によって得られた金属構造物を有することを特徴とする電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26698(P2011−26698A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92628(P2010−92628)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】