説明

金属膜形成用の複合材料液及びそれを用いた金属化合物膜、金属/金属化合物膜、並びに複合材料

【課題】金属微粒子の耐酸化、耐融着、分散に必須であった表面処理剤をほとんど用いずに、焼結後のクラックや、溶液中で融着のない、低抵抗の金属膜形成用の複合材料液と、それに用いた金属化合物膜、複合材料、その金属化合物膜を還元した金属膜又は金属化合物膜を提供する。
【解決手段】平均分散粒子径が500nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含む金属膜形成用の複合材料液である。前記の金属微粒子として、有機溶剤中に金属化合物を分散させる工程と、その後に、有機溶剤中の金属化合物にレーザー光を照射する工程とを含む一連の工程で生成されたものを必須成分として含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜を形成し得る金属化合物膜を形成するのに最適な金属膜形成用の複合材料液と、それを用いた金属化合物膜、複合材料、及び金属化合物膜を還元した金属/金属化合物膜に関する。
【背景技術】
【0002】
低エネルギー、低コスト、高スループット、オンデマンド生産などの優位点から印刷法による配線パターンの形成が有望視されている。この目的には、金属元素を含むインク・ペーストを用い印刷法によりパターン形成した後、印刷された配線パターンに金属伝導性を付与することにより実現される。
従来この目的には、フレーク状の銀あるいは銅を熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のバインダに有機溶剤、硬化剤、触媒などと共に混合した導電性ペーストが用いられてきた。この導電性ペーストの使用方法は、対象物にディスペンサやスクリーン印刷により塗布し、常温で乾燥するか、あるいは150℃程度に加熱してバインダ樹脂を硬化し、導電性被膜とすることで行われている。しかし、このような従来の導電性ペーストからなる導電性被膜形成用材料はバインダ樹脂を含むため、粒子の接触が阻害され低抵抗な膜を得ることが難しかった。また、従来の銀ペーストでは、銀粒子が粒径1〜100μmのフレーク状であるため、原理的にフレーク状銀粒子の粒径以下の線幅の配線を印刷することは不可能であった。このため、粒径が500nm以下の粒子を用いたインクが求められており、これらの点から、従来の導電性ペーストは微細な配線パターン形成には不適であった。
これらの銀や銅ペーストの欠点を克服するものとして金属ナノ粒子を用いた配線パターン形成方法が検討されており、金あるいは銀ナノ粒子を用いる方法は確立されている(例えば、特許文献2、3参照。)。具体的には、100nm以下の金あるいは銀ナノ粒子を含む分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが5〜50μm、体積固有抵抗率が1×10−8Ω・m以下の配線形成が可能となっている。
【0003】
しかしながら、金や銀といった金属ナノ粒子を用いる際には、単独ではナノサイズ融点降下を生ずるため、印刷用インクとして使用するには、その金属ナノ粒子を有機保護膜で被い、融着を防いでいるのが現状である(例えば、特許文献1参照。)。このため、低抵抗を得るためには有機保護膜を取り除く必要が生じることや、有機保護層が脱離した跡がボイドとなって残るなどの不具合が発生する恐れがあった。さらに、微細配線形成用の金属ナノ粒子分散液としては,エレクトロマイグレーションが少なく、金や銀と比較して材料自体の単価も安価な銅の利用が期待されている。
【0004】
金属ナノ粒子は一般に表面エネルギーが高く、先に述べたように分散には表面処理が必要である。特に銅の場合は貴金属と比較して酸化されやすい性質を持つことから、酸化を防止するためにより嵩高く金属表面と強固に相互作用する表面処理剤が用いられる。
表1に、粒子表面を低分子処理剤により1分子層処理を行った場合の理論的な処理剤量を示した。粒径が100nmの粒子では処理剤の占める割合は8体積%もの量になる。さらに粒径の小さな粒子になれば表面処理剤の割合は多くなり、特に銅の酸化防止性を持たせた表面処理などではこの計算で用いたものより大きな分子が用いられることも考えられ、表面処理剤の占める割合はさらに大きなものとなる。この多量に含まれる表面処理剤を除くには多大なエネルギーが必要となり200℃以下での焼結は難しいのが現状である。
しかも、十分に取り除くことのできない表面処理剤や体積収縮によるクラックが原因となり、銅粒子の低温での低抵抗化に関してはまだ十分な解決法が見出されていない。
【0005】
【表1】


ここで銅粒子は単一粒子径、真球とし、銅の密度8.96g/cm、表面処理剤の分子量 240g/mol、表面処理剤の最小被覆面積330m/g、表面処理剤の密度1g/cmとして計算した。
【0006】
【特許文献1】特開2005−81501号公報
【特許文献2】特開2004−273205号公報
【特許文献3】特開2003−203522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金や銀といった貴金属ナノ粒子を用いる際には、材料自体が高価であるため、かかる超ファイン印刷用分散液の作製単価も高くなり、汎用品として幅広く普及する上での、大きな経済的障害となっている。
【0008】
本発明は、金属微粒子の耐酸化、耐融着、分散に必須であった表面処理剤をほとんど用いずに、焼結後のクラックや、溶液中で融着のない、低抵抗の金属膜形成用の複合材料液と、それに用いた金属化合物膜、複合材料、その金属化合物膜を還元した金属/金属化合物膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上述の如き欠点を詳細に検討した結果、金属ナノ粒子の耐酸化、耐融着、分散に必須であった表面処理剤が焼結温度の高温化、クラックによる断線や高抵抗化の原因のひとつであり、表面処理剤を使用しない方法を用いる必要があるとの結論に達した。この方法を鋭意検討した結果、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を使用することで、金属微粒子を分散剤なしで分散できることを見出した。
【0010】
さらにこの分散液を用いれば、インクジェット法に代表される印刷法による配線描画が可能であり、成膜後のパターニング加工なしに、所望の配線が形成できることを見出した。また、種々の還元方法と組合わせることにより、低温で、クラックがなく低抵抗を示す金属膜・配線を得ることができることを見出した。
【0011】
前記課題を解決するための手段は以下に通りである。
(1)平均粒子径が500nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含むことを特徴とする金属膜形成用の複合材料液。
【0012】
(2)平均粒子径が200nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含むことを特徴とする金属膜形成用の複合材料液。
【0013】
(3)前記金属微粒子が、有機溶剤中に金属化合物を分散させる工程と、その後に有機溶剤中の前記金属化合物にレーザー光を照射する工程とを少なくとも含む一連の工程により生成されてなることを特徴とする(1)または(2)に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0014】
(4)25℃における粘度が50mPa・s以下であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0015】
(5)25℃における粘度が50mPa・s以下であり、かつ前記金属微粒子が複合材料液中60質量%以下であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0016】
(6)25℃における粘度が50mPa・s以下であり、かつ前記金属微粒子が複合材料液中30質量%以下であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0017】
(7)25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤を必須成分として含むことを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0018】
(8)25℃における表面張力が18〜50mN/mであることを特徴とする(1)から(7)のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【0019】
(9)(1)から(8)のいずれかに記載の複合材料液を所望の位置に塗布し、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜である。
【0020】
(10)(1)から(8)のいずれかに記載の複合材料液を有版印刷により所望の位置に塗布・パターニングし、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜。
【0021】
(11)(1)から(8)のいずれかに記載の複合材料液を無版印刷により所望の位置に塗布・パターニングし、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜。
【0022】
(12)(11)に記載の無版印刷がインクジェット印刷法であることを特徴とする金属化合物膜。
【0023】
(13)(9)から(12)のいずれかに記載の金属化合物膜が基板上に形成されてなることを特徴とする複合材料。
【0024】
(14)(9)から(12)のいずれかに記載の金属化合物膜を還元処理し、体積抵抗率を1×10−3Ω・cm以下としてなることを特徴とする金属/金属化合物膜。
【0025】
(15)(14)に記載の金属/金属化合物膜が基板上に形成されてなることを特徴とする複合材料。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インクジェット印刷法やオフセット印刷法などの印刷法により金属化合物膜を形成可能な複合材料液を得ることができる。また、本複合材料液を用いることで、印刷法により金属化合物膜を一体化した複合材料を形成可能になり、さらにその金属化合物膜を還元した金属/金属化合物膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の金属膜形成用の複合材料液について説明する。
【0028】
<金属膜形成用の複合材料液>
本発明の金属膜形成用の複合材料液(以下、単に「複合材料液」と呼ぶ場合がある。)は、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含み、該金属微粒子の平均粒子径が、第1の態様では500nm以下であり、第2の態様では200nm以下である。第1の態様と第2の態様とでは、金属微粒子の平均粒子径が異なるのみでそれ以外は同じである。以下に、まず、当該金属微粒子について説明するが、特に示さない限り、以下の説明は第1の態様及び第2の態様のいずれにも妥当する。
なお、上記金属微粒子の平均粒子径は、ベックマンコールター社製サブミクロン粒子アナライザーN5型(商品名)を用いて25℃で測定し得られる強度分布から求められる。
【0029】
[コア/シェル構造を有する金属微粒子]
本発明の金属膜形成用の複合材料液は、インクジェット印刷法やオフセット印刷法などの印刷法による金属化合物膜の形成に用いられるものであり、第1の態様では、平均粒子径500nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含む粒子を含有する。最大粒径が500nmを超える粒子があってもよいが、最大粒径は2μm以下であると、インクジェット印刷での目詰まりの発生等がなく好ましい。コア/シェル構造を有する金属微粒子の平均粒子径が500nm以下であると、分散安定性に優れて好ましい。
また、第2の態様では、当該金属微粒子の平均粒子径が200nm以下であり、前述のようなインクジェット印刷での目詰まりの発生等がしにくくなるとともに、後に述べる還元処理により導体化(低抵抗率化)も容易となるため、より好ましい。
【0030】
中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子は、還元作用を示さない有機溶剤中に分散させた原料金属化合物にレーザー光を攪拌下で照射して製造されたものを用いることができる。得られる金属微粒子の特性は、原料金属化合物の種類、原料金属化合物の粒子径及び形状、原料金属化合物の量、有機溶剤の種類、レーザー光の波長、レーザー光の出力、レーザー光の照射時間、温度、金属化合物の攪拌状態、有機溶剤中に導入する気体バブリングガスの種類、バブリングガスの量、添加物などの諸条件を適宜選択することによって制御される。
【0031】
金属微粒子の原料である金属化合物としては、金属酸化物、金属硫化物、金属塩等が挙げられる。これらを単独で用いても、複数種用いてもよい。金属化合物の量は特に制限されない。原料である金属化合物を分散させる有機溶剤には還元性を示さない有機溶剤であるアセトン等のケトン系溶剤を用いることが好ましい。レーザーの波長に制限はないが、金属微粒子の生成効率が高くなる波長を用いるのが好ましく、その波長は原料の金属化合物の種類により異なる。金属微粒子の生成効率を考慮すると、レーザーの出力は高い方が好ましく、3600J以下(200mJ/pulse以下、パルス幅10ns、10Hz、ビーム径10mm、30分間)のレーザー光を照射しても金属微粒子を得ることができない。8000J以上(440mJ/pulse以上、パルス幅10ns、10Hz、ビーム径10mm、30分間)のレーザー光を照射する場合、レーザーの照射時間に制限はないが、照射時間が長いほど金属微粒子の生成量は多くなる。金属化合物を分散させた有機溶剤の温度は特に制限されない。この分散液はレーザー光照射中攪拌されていることが好ましい。攪拌方法はマグネチックスターラーや攪拌羽根等の一般的な方法が用いられる。また、必要であれば気泡を発生させて攪拌してもよい。さらに、分散液を循環させることにより、原料である金属化合物が繰り返しレーザー光の照射を受けることもできる。そして、金属微粒子の平均粒子径や粒子形状等を制御するための添加物を用いてもよい。その種類、量は特に制限されず、金属微粒子の種類、目的とする金属微粒子の平均粒子径や形状等に合致させるように適宜選択される。
【0032】
A 原料
原料は金属化合物であって、具体的には、酸化銅・亜酸化銅・酸化銀・酸化ニッケル・酸化コバルト・酸化ネオジウム・硫化銀・硫化銅・硫化コバルト・硫化タンタル・オクチル酸銅・オクチル酸銀・塩化銅・塩化銀、塩化ロジウム、酸化ルテニウム、塩化パラジウム、その他の金属化合物を用いることができる。
【0033】
本発明において、原料の大きさは重要である。同じエネルギー密度のレーザー光を照射する場合でも、原料の金属化合物粉体の粒径が小さいほど粒径の小さな金属微粒子が効率よく得られる。また、形状は真球状、破砕状、板状、鱗片状、棒状など種々の形状の原料を用いることができる。
【0034】
B. レーザー光
レーザー光の波長は金属化合物の吸収係数がなるべく大きくなるような波長とすることが好ましいが、ナノサイズの金属微粒子の結晶成長を抑制するためには、熱線としての効果が低い短波長のレーザー光を使用することが好ましい。
【0035】
例えば、レーザー光は、Nd:YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、色素レーザーなどを用いることができる。また、高エネルギーのレーザーを同じ条件で多くの金属化合物に照射するためにはパルス照射が好ましい。
【0036】
C.有機溶剤(粒子生成時の分散媒)
粒子生成の際の有機溶剤は金属化合物を分散させるための分散媒であるが、還元作用を示さない有機溶剤を用いると、中心部が金属で表皮部が金属酸化物のコア/シェル構造を有する金属微粒子を得ることができるため、分散媒中で凝集させることが少ないので好ましい。また、応用面では、金属微粒子に特別な保護層を設ける必要がないので、電子回路装置等に利用する際に容易に分離できるために好ましい。
【0037】
粒子生成の際において金属化合物の分散媒に用いる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤を使用することがナノサイズの金属微粒子を得る際には好ましいが、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの極性溶剤やトルエン、テトラデカンなどの炭化水素系溶剤を用いることもできる。また、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0038】
[溶剤]
本発明に係る複合材料液は、上記金属微粒子を分散媒に分散させた状態で使用される。分散媒として用いられる溶剤としては、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤であることが好ましい。25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤を使用することで、溶剤の揮発によるインク粘度の上昇を十分に抑えることができる。例えば、同蒸気圧1.34×10Pa以上の溶剤を単独で使用すると、液滴が乾燥しやすくインクジェットヘッドのノズルから液滴を吐出することが困難になり、更にインクジェットヘッドの目詰まりが生じやすくなる。これに対し、使用する溶剤の25℃における蒸気圧を1.34×10Pa未満にすることで上記現象を回避することができる。
なお、本発明の接着剤用インクは、25℃の蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤とともに、25℃の蒸気圧が1.34×10Pa以上の溶剤を含んでもよい。その配合割合は、溶剤全量を基準として、60質量%以下とすることが好ましく、50質量%とすることがより好ましく、40質量%以下とすることが更に好ましい。
【0039】
各々の溶剤は、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満であり、且つ、前述の金属微粒子を分散可能なものであればどのようなものでもよい。25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤として、具体的にはγ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、アニソール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラデカン等が挙げられる。また、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa以上の溶剤として、具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0040】
複合材料液中における溶剤の含有割合については、特に限定されず、25℃におけるインクの粘度が上記範囲内となるように適宜調整することが好ましい。また、金属微粒子を生成した際の溶剤と異なる溶剤に変更する場合は、溶媒置換により複合材料液を得ることができる。
【0041】
複合材料液中における金属微粒子の含有量は特に限定されないが、インクジェット印刷法などで印刷する際は、金属微粒子の含有量が高い方が少ない回数で膜厚を得やすく好ましい。ただし、60質量%より高いと複合材料液粘度の上昇を招きやすいため、60質量%以下、より好ましくは30質量%以下であることが好ましい。
【0042】
25℃における複合材料液の粘度は50mPa・s以下であることが好ましい。特に、インクジェット印刷法で複合材料液を印刷する場合、インクたる複合材料液の粘度を50mPa・s以下とすることで、インクジェット印刷時の不吐出ノズルの発生や、ノズルの目詰まりを十分に防止することができ、良好な印刷性を得ることができる。より安定した吐出性を得られることから、1〜30mPa・sの範囲がより好ましく、5〜15mPs・sの範囲がさらに好ましい。
【0043】
また、複合材料液の表面張力は18〜50mN/mであることが好ましい。この範囲であれば、インクジェット吐出性や印刷膜の形成が良好である。当該表面張力は、20〜48mN/mであることがより好ましい。
【0044】
また、インクジェットなどの印刷法で複合材料液を印刷中に又は印刷後に、加熱乾燥などの乾燥方法によって複合材料液印刷物中の溶剤を揮発させることが好ましい。
【0045】
また、必要に応じて従来より公知のカップリング剤、イオン補足剤、粘度調整剤、レベリング剤、揺変剤、表面張力調整剤、接着成分等を複合材料液中に適宜配合してもよい。
【0046】
また、最大粒径を2μm以下に抑えるために、開口径2μm以下のフィルターなどでろ過してもよい。これにより、印刷時の歩留まり向上が期待できる。
【0047】
<金属化合物膜>
本発明の金属化合物膜は、上述の本発明の複合材料液を所望の位置に塗布し、溶剤除去を行って得られる。あるいは、該複合材料液を有版印刷又は無版印刷により所望の位置に塗布・パターニングし、溶剤除去を行って得られる。そして、本発明の金属化合物膜は、理由は明らかではないが、機械的強度が高い膜を形成することができる。
【0048】
複合材料の塗布手段としては、特に制限はなく、公知の塗布手段を採用することができる。例えば、バーコーター、カンマコータ、ダイコータ、スリットコータ、グラビアコータなどを用いて行うことができる。
【0049】
複合材料液の印刷方法として、有版印刷としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷、等が挙げられ、無版印刷としては、ディスペンス、インクジェット印刷法などの方法が挙げられる。中でも、スクリーンなどの版が不要で、印刷対象基材に直接接することなく、精度よく複合材料液を印刷できる点でインクジェット印刷法が好ましい。
なお、近年、20μm程度の細線描画が可能なオフセット印刷が提案されており、インクジェット印刷用インクと同様に、粒子の微細化、低粘度化が求められ、本発明の複合材料液は本印刷方法にも好適なインクとして提供することができる。
【0050】
印刷後の金属化合物膜の厚みは特に制限はないが、0.1〜50μmが好ましい。0.1μmより薄いと破断しやすくなる傾向があり、50μmより厚いと経済的でなくなる上に、印刷回数の増加などを招くため好ましくない。
【0051】
<金属・金属化合物膜>
本発明の金属・金属化合物膜は、既述の金属化合物膜が形成された複合材料を還元処理し、体積抵抗率を1×10−3Ω・m以下としたものである。すなわち、金属微粒子をパターニングし乾燥の終わった金属化合物膜を還元処理することにより導体化(低抵抗率化)して導体として使用することができる。体積抵抗率は、使用する金属や、金属微粒子の還元の程度などにより変動し得るが、1×10−4Ω・m以下が好ましく、1×10−5Ω・m以下がより好ましい。
【0052】
還元方法としては、例えば、高温・減圧環境下での還元方法や、溶液還元などを適用することができる。
高温・減圧環境下での還元方法は、200℃以上の水素などを含む還元雰囲気下での加熱を例示することができる。
溶液還元は、還元性液体中に金属化合物膜を浸漬することで行うことができる。
その他、ホットワイヤー法CVD装置を使用した原子状水素による金属化合物の還元は、低温で還元が可能なため好ましい。
【0053】
<複合材料>
本発明の複合材料は、既述の本発明の金属化合物膜が基板上に形成された態様と、既述の本発明の金属/金属化合物膜が基板上に形成された態様とがある。いずれも、基板上に形成された金属化合物膜に還元処理を施すことにより導体膜を形成することができる。
一方、後者の態様は、基板上に形成された金属化合物膜を還元処理し、体積抵抗率を1×10−3Ω・cm以下の金属/金属化合物膜とした態様であり、導電性を呈するため、導電のための配線などに利用することができる。
【0054】
本発明の複合材料において使用される基板の材質として、具体的には、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、繊維強化樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ガラス、シリコンウェハなどのケイ素化合物、半導体を形成した基板、封止材などの粒子を含有した熱硬化性樹脂、また、表面に金、アルミ、銀、クロムなどの導電性金属パッド膜を有する基板、接着や粘着性の処理をした基板などが挙げられる。
【0055】
本発明の複合材料は、既述の本発明の複合材料液を用い、これらの基板上に既述の金属/金属化合物膜を形成して作製される。金属膜と金属化合物膜の形成方法については既に説明したので省略する。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
なお、実施例の複合材料液の粘度は、株式会社エー・アンド・ディー製小型振動式粘度計SV−10(商品名)を用いて25℃で測定した。表面張力はWilhelmy法(白金プレート法)による表面張力測定装置、協和界面科学株式会社製の全自動表面張力計CBVP−Z(商品名)を用いて25℃で測定した。平均分散粒子径及び最大分散粒径はベックマンコールター社製サブミクロン粒子アナライザーN5型(商品名)を用いて25℃で測定し得られた強度分布から求めた。また、インクジェット印刷は株式会社マイクロジェット製MJP−1500V(商品名)を使用して行った。
【0057】
(実施例1)
まず、レーザー法により、複合材料液の原料として銅微粒子アセトン分散液を以下のようにして調製した。すなわち、
金属化合物としてケミライト工業株式会社製酸化銅(比表面積8m/g)を用い、還元作用を示さない有機溶剤には和光純薬工業株式会社製アセトン特級試薬を用いた。具体的には、100mlのアセトンに対して1gの酸化銅を、マグネチックスターラーを備えた内容量500mlのガラス製ビーカーに秤量した。レーザー照射装置として、Spectra−Physics社製Quanta−Ray PRO−230 Nd:YAGレーザーを使用し、波長1064nm、パルス幅10ns、パルス周波数10Hz、1パルス当たりの照射エネルギー1100mJのレーザー光を30分間照射した。レーザー光照射後、株式会社トミー精工製高速冷却遠心分離器Suprema23を使用して、ガラス製ビーカー内の内容物を毎分4000回転で5分間遠心分離することにより、沈降物と銅微粒子分散液とを分離しこの銅微粒子アセトン分散液を複合材料液の原料として使用した。
銅微粒子アセトン分散液(銅ナノ粒子の平均粒子径65nm、濃度0.8質量%)を、γ−ブチロラクトンの共存下で加熱することでアセトンを除去し、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子として銅ナノ粒子18質量%をγ−ブチロラクトンに分散した複合材料液を得た(平均粒子径65nm、粘度:8mP・s、表面張力:30mN/m)。なお、γ−ブチロラクトンの25℃における蒸気圧は、2.3×10Paである。
【0058】
(実施例2)
実施例1において、ケミライト工業株式会社製酸化銅に代え、和光純薬工業(株)製亜酸化銅試薬を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合材料液を得た(平均粒子径68nm、粘度:15mP・s、表面張力:38mN/m)。
【0059】
(実施例3)
実施例1において、ケミライト工業株式会社製酸化銅に代え、和光純薬工業(株)製酸化銀特級試薬を用いたこと以外は実施例1と同様にして複合材料液を得た(平均粒子径65nm、粘度:10mP・s、表面張力:34mN/m)。
【0060】
(実施例4、5)
実施例1で得た複合材料液を、図1に示すように、ポリイミド基板10上の2つの電極(銅箔を幅5mm、長さ20mmにパターニング、電極間距離10mm)12、14に架かるように、インクジェット装置で幅3mm、長さ14mmの矩形状のパターンを印刷し、インクジェット印刷膜(金属化合物膜)16を形成した。このとき、溶剤除去のために、ポリイミド基板が55℃になるように、基板を載置するステージを加熱した。この結果、厚さ8μm(実施例4)及び厚さ3μm(実施例5)の黒色金属化合物膜塗布基板を得た。この金属化合物膜は、圧力0.1MPaのエアブローをかけても基板から剥離せず、ポリイミド基板と良い密着性を示した。
【0061】
次いで、実施例4及び5の試験片を、ホットワイヤー法原子状水素処理装置にセットし、水素50ml/分、タングステンワイヤー温度1500℃、圧力4Pa、ステージ温度40℃の条件で20分間処理を行い、タングステンワイヤーへの通電と水素を止めて10分間冷却した後、常圧に戻して処理された粒子塗布基板を取り出した。処理前は黒色であった粒子塗布物は、処理後赤銅色となった。
電極間の抵抗をテスター(CD800a、三和電気計器株式会社製)にて測定し、体積抵抗率を求めたところ実施例4の試験片では4×10−5Ω・cm、実施例5の試験片では5×10−6Ω・cmであった。
【0062】
(実施例6、7)
実施例2、3で得た複合材料液を用い、実施例4、5と同様にして、図1に示すポリイミド基板10上にインクジェット印刷膜(金属化合物膜)16を形成し、加熱により溶剤を除去し厚さ3μmの黒色金属化合物膜塗布基板を得た(それぞれ、実施例6、7)。次いで、実施例6及び7の試験片を、ホットワイヤー法原子状水素処理装置にセットし、実施例4、5と同様にして還元処理を行った。
電極間の抵抗を、実施例4、5と同様にして測定し、体積抵抗率を求めたところ実施例6の試験片では4×10−5Ω・cm、実施例7の試験片では4×10−5Ω・cmであった。
【0063】
(比較例1)
金属化合物として、2〜3μmの和光純薬工業(株)製酸化銅試薬10gをγ−ブチロラクトン100ml中で超音波分散(30分)により分散液の調製をした。ところが、インクジェット吐出性が安定しないこと、さらに、一日放置後に上澄み部分が生じ、分散安定性が得られなかった。
【0064】
以上のように、本発明で得られる複合材料液を使用することで、金属化合物膜や金属膜を印刷法により形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、インクジェット印刷法やオフセット印刷法などの印刷法により、金属皮膜を形成可能な複合材料液及びそれを用いて金属皮膜を形成した複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】インクジェット印刷試験片概念図である。
【符号の説明】
【0067】
10 ポリイミド基板
12 14 電極
16 インクジェット印刷膜(金属化合物膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が500nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含むことを特徴とする金属膜形成用の複合材料液。
【請求項2】
平均粒子径が200nm以下で、中心部が金属で表皮部が金属酸化物であるコア/シェル構造を有する金属微粒子を含むことを特徴とする金属膜形成用の複合材料液。
【請求項3】
前記金属微粒子が、有機溶剤中に金属化合物を分散させる工程と、その後に有機溶剤中の前記金属化合物にレーザー光を照射する工程とを少なくとも含む一連の工程により生成されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項4】
25℃における粘度が50mPa・s以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項5】
25℃における粘度が50mPa・s以下であり、かつ前記金属微粒子が複合材料液中60質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項6】
25℃における粘度が50mPa・s以下であり、かつ前記金属微粒子が複合材料液中30質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項7】
25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の溶剤を必須成分として含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項8】
25℃における表面張力が18〜50mN/mであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属膜形成用の複合材料液。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の複合材料液を所望の位置に塗布し、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の複合材料液を有版印刷により所望の位置に塗布・パターニングし、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の複合材料液を無版印刷により所望の位置に塗布・パターニングし、溶剤除去を行って得られることを特徴とする金属化合物膜。
【請求項12】
請求項11に記載の無版印刷がインクジェット印刷法であることを特徴とする金属化合物膜。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載の金属化合物膜が基板上に形成されてなることを特徴とする複合材料。
【請求項14】
請求項9から12のいずれか1項に記載の金属化合物膜を還元処理し、体積抵抗率を1×10−3Ω・cm以下としてなることを特徴とする金属/金属化合物膜。
【請求項15】
請求項14に記載の金属/金属化合物膜が基板上に形成されてなることを特徴とする複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−123674(P2009−123674A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76233(P2008−76233)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】