説明

金属膜形成用組成物

【課題】経時的な増粘を防止し、保存安定性が高い金属膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】金属化合物と、樹脂成分とを含有する金属膜形成用組成物において、樹脂成分としてカルボキシル基を含有していない水溶性ポリマー、又は50mg/g以下の酸価を有する水溶性ポリマーの少なくともどちらか一種の水溶性ポリマーを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜形成用組成物に関する。より詳しくは、電子デバイスの製造分野で用いることができる、金属膜形成用組成物材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスにおいては、例えば配線等を形成する場合に、基板等に金属膜(金属酸化膜)が形成される。この金属膜の形成方法として、金属化合物含有樹脂組成物を塗布した後、この組成物を焼成することにより形成する方法がある(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平8−176177号公報
【特許文献2】特開2004−96106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記金属化合物含有樹脂組成物は、経時的に増粘してしまい、保存安定性が低下する場合がある。特に、スリットノズルにより塗布を行うノンスピンコータを用いた場合には、粘度の変化は塗布性に大きな影響を与え、塗布が困難となってしまう。
【0004】
以上の課題に鑑み、本発明では経時的な増粘を防止し、保存安定性が高い金属膜形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属膜形成用組成物に含まれる樹脂成分における、カルボキシル基の数を減少させることが、増粘を防止する上で好ましいことを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は具体的には以下の発明である。
【0006】
本発明は、金属化合物と、樹脂成分とを含む金属膜形成用組成物であって、前記樹脂成分は、カルボキシル基を有していない水溶性ポリマーからなる金属膜形成用組成物を提供するものである。
また、本発明は、金属化合物と、樹脂成分とを含む金属膜形成用組成物であって、前記樹脂成分は、50KOHmg/g以下の酸価を有する水溶性ポリマーからなる金属膜形成用組成物を提供するものである。
なお、本発明における「金属膜」とは、金属膜及び金属酸化膜も含まれる概念である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂成分として、カルボキシル基を有していない水溶性ポリマー、又は酸価が50mg/g以下の水溶性ポリマーを用いることによって、金属化合物の存在下でも金属膜形成用組成物の経時的な増粘を防止することができる。これによって、金属膜形成用組成物の保存安定性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る金属膜形成用組成物は、金属化合物と、樹脂成分とを含む。
[金属化合物]
金属化合物としては、金属膜を形成することが可能な化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、ビスマス、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、クロム、スズ、鉛、ケイ素、白金、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、チタン、モリブデン、タングステン、インジウム、パラジウム、ジルコニウム等の金属を含む化合物が挙げられる。これらの金属化合物としては、例えば上記金属の錯体;ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチル酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、シクロヘキサン酸、シクロヘキサプロピオン酸、シクロヘキサン酢酸、ノナン酸、リンゴ酸、グルタミン酸、ロイシン酸、ヒドロキシピバリン酸、ピバリン酸、グルタル酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ピメリン酸、コルク酸、エチルブチル酸、安息香酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸、ヒドロキシ安息香酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リシノール酸等の有機酸塩;、硝酸、硫酸、塩酸、炭酸、リン酸等無機酸塩;メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等アルコキシド;酸化物;窒化物;塩化物、臭化物、弗化物、ヨウ化物等のハロゲン化物;水酸化物;炭化物;が挙げられる。中でも、水溶性の化合物を用いることが好ましい。
上記金属化合物として、具体的には、Bi(NO、Ti(OC(C14N)、ZrO(NO)等が挙げられる。
特に、Ti(OC(C14N)、Ti(C(OH)、ZrO(NO、ZrO(OCOCH又はこれらの水和物を用いることが好ましく、これらの化合物を用いた場合には、酸化チタン膜、酸化ジルコニウム膜を形成することができる。
これら酸化チタン膜、酸化ジルコニウム膜は、従来のスパッタ法やゾルゲル法により形成されることが一般的である。しかしながら、本発明の金属膜形成用組成物によれば、塗布し、焼成するのみで容易に膜を形成することができるうえ、保存安定性が良好であり、スパッタ法やゾルゲル法より好ましい。
【0009】
[樹脂成分]
樹脂成分としては、カルボキシル基を有していない水溶性ポリマー、及び/又は酸価が50KOHmg/g以下の水溶性ポリマーであればよく、特に限定されるものではない。この水溶性ポリマーは、室温で水に溶解し得るポリマーであればよく、特に制限されるものでないが、アクリル系重合体、ビニル系重合体、セルロース系誘導体、アルキレングリコール系重合体、尿素系重合体、メラミン系重合体、エポキシ系重合体、アミド系重合体等が好ましく用いられる。
【0010】
また、本発明における水溶性ポリマーの酸価は、50KOHmg/g以下であり、好ましくは30KOHmg/g、より好ましくは10KOHmg/g以下である。
上記樹脂成分を用いることにより、金属膜形成用組成物の増粘を防止することができ、経時安定性を良好にすることができる。この理由は定かではないが、水溶性ポリマーと金属化合物との相互作用が抑制されることによる効果であると考えられる。
さらに、金属膜形成用組成物における増粘を抑制することができるため、金属化合物の添加量を増加させることができる。これにより、より厚い膜厚の金属膜を形成することが可能な金属膜形成用組成物を得ることができる。
【0011】
アクリル系重合体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルホリン等の単量体を構成成分とする重合体又は共重合体が挙げられる。
【0012】
ビニル系重合体としては、例えば、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾリジノン、酢酸ビニル等の単量体を構成成分とする重合体又は共重合体が挙げられる。
【0013】
セルロース系誘導体としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロール、セルロースアセテートヘキサヒドロフタレート、エチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。
【0014】
アルキレングリコール系重合体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等の付加重合体又は付加共重合体等が挙げられる。
【0015】
尿素系重合体としては、例えば、メチロール化尿素、ジメチロール化尿素、エチレン尿素等を構成成分とするものが挙げられる。
【0016】
メラミン系重合体としては、例えば、メトキシメチル化メラミン、メトキシメチル化イソブトキシメチル化メラミン、メトキシエチル化メラミン等を構成成分とするものが挙げられる。
さらに、エポキシ系重合体、アミド系重合体等の中で水溶性の重合体も用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記水溶性ポリマーの質量平均分子量は、1000〜1000000であることが好ましい。
【0017】
上記水溶性ポリマーの中でも、セルロース系誘導体を用いることが好ましく、ヒドロキシアルキルセルロースを用いることが特に好ましい。セルロース系誘導体は、熱分解性が良好であり、塗布後の金属膜形成用組成物を焼成する際の温度を低くすることができる。
さらに、ノンスピンコータ(例えばスリットノズルコータ)で金属膜形成用組成物を塗布する場合、水溶性ポリマー(特に上記セルロース系誘導体)は、2質量%水溶液の20℃における粘度が、1.5mP・sから6.0mP・sであることが好ましく、2.0mP・sから2.9mP・sであることがより好ましい。粘度が1.5mP・s以上のセルロース系誘導体を用いることによって、金属膜形成用組成物の塗布性、成膜性を向上させることができる。また粘度が6.0mP・s以下のセルロース系誘導体を用いることによって、金属膜形成用組成物の経時的な増粘をより一層防止することができる。
特にノンスピンコータを塗布装置として用いる場合には、増粘が大きいと均一な膜厚を有する膜を形成することができなくなってしまう。
【0018】
[有機溶剤]
本発明に係る金属膜形成用組成物は、有機溶剤を含むことが好ましい。この有機溶剤としては、上記水溶性ポリマー及び金属化合物を溶解することが可能であればよく、特に限定されるものではないが、沸点が100℃以上の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0019】
有機溶剤としては、例えばジオキサン(bp=101℃)、2,2−ジメチル−1−プロパノール(bp=114℃)、トリオキサン(bp=115℃)、プロパギルアルコール(bp=115℃)、1−ブタノール(bp=118℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(bp=120℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(bp=121℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(bp=125℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp=132℃)、N,N−ジメチルエタノールアミン(bp=135℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp=136℃)、N−エチルモルホリン(bp=138℃)、2−イソプロポキシエタノール(bp=139℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(bp=145℃)、乳酸メチル(bp=145℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(bp=145℃)、乳酸エチル(bp=156℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(bp=160℃)、3−メトキシ−1−ブタノール(bp=160℃)、N,N−ジエチルエタノールアミン(bp=162℃)、2−(メトキシメトキシ)エタノール(bp=168℃)、ジアセトンアルコール(bp=168℃)、2−ブトキシエタノール(bp=170℃)、フルフリルアルコール(bp=170℃)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(bp=174℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(bp=178℃)、ε−カプロラクタム(bp=180℃)、2−イソペンチルオキシエタノール(bp=181℃)、2,3−ブタンジオール(bp=181℃)、エチレングリコールモノアセテート(bp=182℃)、グリセリンモノアセテート(bp=182℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(bp=188℃)、プロピレングリコール(bp=188℃)、ジメチルスルホキシド(bp=189℃)、ジメチルスルホキシド(bp=189℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(bp=190℃)、1,2−ブタンジオール(bp=190.5℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp=194℃)、テトラエチレングリコール(bp=194℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp=197℃)、エチレングリコール(bp=198℃)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(bp=198℃)、2,4−ペンタンジオール(bp=198℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp=202℃)、N−メチルピロリドン(bp=202℃)、イソプレングリコール(bp=203℃)、1,3−ブタンジオール(bp=208℃)、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(bp=211℃)、1,3−プロパンジオール(bp=214℃)、1,4−ブタンジオール(bp=229℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp=230℃)、ジプロピレングリコール(bp=232℃)、2−ブテン−1,4−ジオール(bp=235℃)、1,5−ペンタンジオール(bp=242℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(bp=243℃)等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、ここに列挙した化合物に限定されるものではない。
【0020】
このうち、ストリエーションの発生を防止するために、沸点が110℃から200℃の有機溶剤を用いることが好ましい。なお、沸点が200℃以上の有機溶剤は、乾燥性が劣り、金属パターンを形成するまでに時間がかかるため単独で用いるよりも、沸点が低い有機溶剤と組み合わせて用いることが好ましい。
特に、金属化合物として硝酸ビスマスを用いる場合、溶剤は、硝酸ビスマスの溶解性が高いグリコール系溶剤を含むことが好ましい。特に好ましいグリコール系溶剤としては、エチレングリコールが挙げられる。このグリコール系溶剤は、金属膜形成用組成物の全組成物に対して、1質量%から5質量%であることが好ましい。
【0021】
[界面活性剤]
本発明に係る金属膜形成用組成物は、界面活性剤を更に含有してもよい。界面活性剤を含有することにより、相分離することなく、各成分を均一に溶解させることが可能となる。
【0022】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0023】
陽イオン性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン系界面活性剤、アミドベタイン系界面活性剤、スルホベタイン系界面活性剤、ヒドロキシスルホベタイン系界面活性剤、アミドスルホベタイン系界面活性剤、ホスホベタイン系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤、アミノプロピオン酸系界面活性剤、アミノ酸系界面活性剤等が挙げられる。より具体的には、アルキルベタイン、アミドプロピルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウリルイミノジプロピオン酸等が挙げられる。
【0024】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アシル化アミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、N−アシル−N−メチルタウリン塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、脂肪酸石ケン、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。なお、ここで用いられる塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等の金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム塩等の有機アンモニウム塩等が好ましい。
【0025】
両性界面活性剤としては、上述の陽イオン性界面活性剤と同様に、アラニン系界面活性剤、イミダゾニウムベタイン系界面活性剤、アミドプロピルベタイン系界面活性剤、アミノジプロピオン酸塩界面活性剤等が挙げられる。
【0026】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシアルキレン等が挙げられる。
【0027】
[金属膜形成用組成物の組成]
本発明に係る金属膜形成用組成物は、金属化合物と、樹脂成分とを主成分として含有し、好ましくは界面活性剤を含有する。また、必要に応じてレベリング剤、発色剤、染料、顔料等の着色剤、充填剤、密着性付与剤、可塑剤等を添加してもよい。なお、それぞれの成分については特に制限はなく、公知の成分を用いることができる。
【0028】
金属化合物の含有量は、金属化合物に含まれる金属の量に換算して、金属膜形成用組成物の全組成に対して、0.05質量%から5質量%であることが好ましく、0.1質量%から2質量%であることがより好ましい。金属の含有量を0.05質量%以上とすることによって、金属膜を十分形成することができるようになる。また、含有量を5質量%以下とすることにより、金属膜形成用組成物の保存安定性を向上させることができるとともに、塗布性を向上させることができる。
【0029】
また、樹脂成分である水溶性ポリマーの含有量は、金属膜形成用組成物の全組成に対して、1質量%から50質量%であることが好ましい。含有量を1質量%以上とすることによって、金属膜形成用組成物の塗布性を向上させることができる。また、含有量を20質量%以下とすることによって、膜の形成を容易にすることができる。
なお、この金属膜形成用組成部物を塗布する方法によって、好ましい樹脂成分の含有量が異なる。例えば、ノンスピン方式で塗布する場合には、樹脂成分の含有量は、金属膜形成用組成物の全組成に対して、1質量%から10質量%であることが好ましく、2質量%から6質量%であることがより好ましい。一方、スピン方式で塗布する場合には、樹脂成分の含有量は、金属膜形成用組成物の全組成に対して、10質量%から50質量%であることが好ましく、15質量%から25質量%であることがより好ましい。
【0030】
有機溶剤の含有量は、特に限定されるものではないが、金属膜形成用組成物の全組成に対して、70質量%から98質量%であることが好ましく、85質量%から95質量%であることがより好ましい。
また、上記金属膜形成用組成物は、粘度が1cPから20cPであることが好ましく、5cPから15cPであることがより好ましい。
また、界面活性剤の含有量は、金属膜形成用組成物の全固形成分に対して、100ppmから4500ppmであることが好ましく、500ppmから2000ppmであることがより好ましい。特に、界面活性剤の含有量を、4500ppm以下にすることにより、塗布した際の異物の発生を抑制することができる。
【0031】
[金属膜を形成する方法]
以下、本実施形態に係る金属膜形成用組成物を用いて、金属膜を形成する手順について説明する。金属膜は、ガラス板等の基板に塗布した金属膜形成用組成物を、焼成することにより得られる。焼成温度は、金属膜が形成される温度であれば、特に限定されることはなく、通常400℃から700℃程度である。また、基板としてシリコンウェハを用いた場合には、塗布した金属膜形成用組成物をアッシングすることにより金属膜を形成することもできる。
【0032】
金属膜形成用組成物の塗布方法としてはスピンコータ、ノンスピンコータ、ロールコータ、カーテンフローコータ、スプレイコータ、ディップコータ、バーコータ、テーブルコータ塗装などにより塗布することができ、いずれの方法でもよい。特に、ノンスピンコータを用いることが好ましい。
【0033】
このような方法により得られた金属膜は、電子デバイスの金属配線部分に用いることができる。また、この金属膜は、好ましくは電子放出素子ディスプレィの電子放出部を製造するために用いられる。
【実施例】
【0034】
[実施例1〜5]
樹脂成分としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSL、日本曹達社製)を、金属化合物として硝酸ビスマス5水和物(和光純薬工業社製)を、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びエチレングリコール(EG)を、界面活性剤としてグラノール400(共栄社化学社製)を、表1に記載の割合で用い、金属膜形成用組成物を得た。
なお、実施例3における樹脂成分は、陽イオン交換樹脂にて精製した。
また、実施例4では、金属化合物としてTi(OC(C14N)(商品名:オルガチックスTC−400、松本製薬工業社製)を用い、実施例5では、金属化合物としてZrO(NO・nHO(商品名:ジルコゾールZN、第一稀元素化学工業社製)を用いた。
【0035】
[比較例1]
まず、還流冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管、及び攪拌翼を備えた3Lの4つ口フラスコに、1600gのイオン交換水と、イタコン酸160gを仕込んだ。次いで、これを200ml/min流量の窒素ガスを吹き込みながら昇温させた。液温が80℃に達した時点で、あらかじめ2gのアゾビスシアノ吉草酸(以下ACVAとする)と、溶解させた240gのアクリル酸を、約100g/hrで連続的に投入して重合させた。なお、重合中は、100ml/minの流量で、窒素ガスを吹き込み続けた。
【0036】
また、アクリル酸の投入が終了してから1時間後に、少量のアセトンに溶解させた1gのACVAを、追加触媒として投入して追触反応をさせ、投入から2時間後に冷却した。重合中及び追触反応中の温度は、90℃±2℃の範囲になるよう制御した。重合後のポリマー溶液を、スプレードライヤを用いた噴霧乾燥により粉末化させた。このときの収量は、384gであった。
【0037】
このポリマー384gを、還流冷却器、温度計、及び攪拌翼を備えた3Lの4つ口フラスコにて、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以後PGMEとする)1795gに溶解させた。
【0038】
トリエチルアミンを触媒量と、メチルハイドロキノンを、固形分に対して200ppm添加し、分液ロートに用意したグリシジルメタクリレート61.3gを2時間かけて滴下し、更に2時間反応させた。反応中の温度は90±2℃に制御した。これを室温に冷却後比較例1用の樹脂とした。
【0039】
実施例1における樹脂成分に代えて、上記比較例用の樹脂を用い、表1に記載の割合にて混合し、金属膜形成用組成物を得た。
【0040】
[金属膜形成]
上記各金属膜形成用組成物を、ノンスピンコータ(TR63、東京応化工業製)にて、1250×1100mmのガラス基板に1μmの厚さで塗布した後、500℃〜600℃で15分間焼成することにより金属膜を得た。
【0041】
[評価]
経時安定性を粘度の増加率を用いて評価した。粘度は、23℃にて保存し、製造後20、100、160時間後の時点で測定した。なお、粘度の増加率は、初期粘度に対する増加率である。
【表1】

【0042】
比較例1に係る金属膜形成用組成物は、14日で固形化してしまった。それに対し、実施例1〜3に係る金属膜形成用組成物は、半年後に測定しても粘度が10cP程度で安定しており、問題ないものであった。また、実施例4及び5の組成物は、3週間後の粘度が10cP程度で安定しており、問題のないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物と、樹脂成分とを含む金属膜形成用組成物であって、
前記樹脂成分は、カルボキシル基を有していない水溶性ポリマーからなる金属膜形成用組成物。
【請求項2】
金属化合物と、樹脂成分とを含む金属膜形成用組成物であって、
前記樹脂成分は、50KOHmg/g以下の酸価を有する水溶性ポリマーからなる金属膜形成用組成物。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーの含有量は、全固形成分に対して、1質量%から50質量%である請求項1又は2に記載の金属膜形成用組成物。
【請求項4】
前記水溶性ポリマーは、ヒドロキシアルキルセルロースを含有する請求項1から3いずれかに記載の金属膜形成用組成物。
【請求項5】
前記水溶性ポリマーは、2質量%水溶液の20℃における粘度が、1.5mP・sから6.0mP・sである請求項1から4いずれかに記載の金属膜形成用組成物。
【請求項6】
さらに、界面活性剤を含有する請求項1から5いずれかに記載の金属膜形成用組成物。
【請求項7】
前記金属化合物は、水溶性化合物である請求項1から6のいずれかに記載の金属膜形成用組成物。
【請求項8】
前記金属化合物は、ビスマス、チタン、ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の化合物を含む請求項1から7いずれかに記載の金属膜形成用組成物。

【公開番号】特開2007−335287(P2007−335287A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167347(P2006−167347)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】