説明

金属製素材の製造方法

【課題】 汚れた金属製素材を、少工程、無廃液で洗浄をして、清浄な前記金属製素材を製造する金属性素材の製造方法を提供する。
【解決手段】 洗剤を用いた従来の洗浄システムでは、アルミ素管90を洗浄する工程は、少なくとも10工程必要であったが、この洗浄システム1では、汚れを大まかに落とす第2工程、洗剤とほぼ同じ洗浄能力を有するマイナスイオン水を用いることにより汚れを落とす第3工程(第4工程)、純水を用いてアルミ素管90の表面についた水分の純度を上げるリンス処理を行う第7工程(第8工程)、そして第9及び第10の乾燥工程の計5つの工程で、洗剤を用いた場合と同じ洗浄効果を得ることができる。しかも、洗浄に用いているものが水なので、簡単なフィルタリングを行うだけで、無配液で洗浄することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れた金属製素材を洗浄し、清浄な前記金属製素材を製造する金属性素材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリンタやコピー機などの感光体として用いられる感光体ドラムとして、円筒状に形成されたアルミ素管の表面に感光体を積層したものが用いられている。
この感光体ドラムを製造する工程には、アルミ素管を製造する工程、その製造されたアルミ素管に感光体を積層する工程とがある。このうちアルミ素管を製造する工程には、アルミ素管を成形する工程と、アルミ素管を洗浄する工程とがある。
【0003】
アルミ素管を成形する工程では、切削等により切削用の油、細かい金属片、その他の汚れがアルミ素管に付着したり、あるいは、洗浄する工程を実行するまでの間、アルミ素管を一時保管する場合などにアルミ素管の表面の参加を保護するため、保護用の油がアルミ素管の表面に塗布されることがある。そのため、アルミ素管の洗浄工程では、その汚れを落とすために、次のような洗浄システムを用いて、アルミ素管の洗浄が行われていた。
【0004】
ここで、図3は、アルミ素管の製造方法100のうち、アルミ素管を洗浄する工程を実行する洗浄システム100の模式図である。
この洗浄システム100では、図3に示すように、各洗浄槽110〜128の上方に設置された天井クレーンを用いて、パレットに収納されたアルミ素管を運搬するとともに、そのクレーンにより各洗浄槽110〜128に順番にパレットを運び入れて、アルミ素管を洗浄する作業が実行される。
【0005】
第1の工程では、一般水110bが洗浄槽110内に溜められ、この洗浄槽110に溜められた一般水110bにアルミ素管が浸けられる。また、この洗浄槽110内の一般水は超音波発振機110aから発せられる超音波によって振動している。この第1の工程では、振動する水によって、アルミ素管の大まかな汚れを落とす処理が実行される(前洗浄)。
【0006】
第2の工程では、中性洗剤が混入された一般水112bが洗浄槽112に溜められ、アルミ素管はこの中性洗剤が混入された水112bに浸けられる。また、この洗浄槽112に溜められた水112bは超音波発振機112aから発せられる超音波によって振動している。この第2の工程では、振動する水及び洗剤の働きによって、アルミ素管の大まかな汚れをさらに落とす処理が実行される(洗浄1)。
【0007】
第3の工程では、純水114bが洗浄槽114に溜められ、この洗浄槽114に溜められた純水114bにアルミ素管が浸け置きされる。この第3の工程では、第2の工程で用いられた中性洗剤を薄めて落とす処理(1次純水リンス1)が実行される。
【0008】
第4の工程では、リン酸ナトリウムが水に対し2〜3重量%で混入されたリン酸ナトリウム水116bが洗浄槽116に溜められ、この洗浄槽116に溜められたリン酸ナトリウム水116bにアルミ素管が浸けられる。また、この洗浄槽116に溜められたリン酸ナトリウム水116bは、超音波発振機112aから発せられる超音波によって振動している。この第4の工程では、洗剤を用いた第2の工程で落としきれないアルミ素管の細かい汚れを、リン酸ナトリウムとの化学反応によって取り除く処理(表面処理)が実行される。
【0009】
第5の工程では、純水118bが洗浄槽118に溜められ、この洗浄槽118に溜められた純水118bにアルミ素管が浸けられる。この洗浄槽118に溜められた純水118bは、バブリング装置118aにより、気泡が立っている。この第5の工程では、アルミ素管についたリン酸ナトリウム水116bを薄めて落とす処理(1次純水リンス2)が実行される。
【0010】
第6の工程では、塩酸が1重量%含まれた純水120bが洗浄槽120に溜められ、この洗浄槽120に溜められた純水120bにアルミ素管が浸けられる。この第6の工程では、リン酸ナトリウムを塩酸によって中和し、リン酸ナトリウムを希釈化させる処理(中和)が実行される。
【0011】
第7の工程では、純水122bが洗浄槽122内に溜められ、この洗浄槽122に溜められた純水122bにアルミ素管が浸けられる。また、この洗浄槽110内の純水122bは超音波発振機122aから発せられる超音波によって振動している。この第7の工程では、アルミ素管に付着した不純物が混じった水分の純度を、純水を用いて高めることによって、アルミ素管の表面に付着した水分に含まれる不純物を落とす処理が(純水リンス1)実行される。
【0012】
第8の工程では、純水124bが洗浄槽124内に溜められ、この洗浄槽124に溜められた純水124bにアルミ素管が浸けられる。また、この洗浄槽110内の純水124bは超音波発振機124aから発せられる超音波によって振動している。この第8の工程を実行すると、アルミ素管に付着した不純物が混じった水分の純度を、第7工程に引き続いて純水を用いて高めることによってさらに高め、アルミ素管の表面に付着した水分に含まれる不純物を落とす処理が(純水リンス2)実行される。
【0013】
第9の工程では、90〜95℃の純水が洗浄槽126に溜められ、この洗浄槽126に溜められた温純水にアルミ素管が浸けられ、すぐに引き上げられる。この第9の工程では、アルミ素管の表面に付着している純水を蒸発させることによって、アルミ素管の表面から水分を飛ばす処理が行われる(温純水引き上げ)。
【0014】
第10の工程では、洗浄槽128に運び入れられると、熱風がアルミ素管に吹き付けられる。この第10の工程では、アルミ素管の表面に付着した水分を熱風を吹き付けて乾燥させることによって飛ばす処理が行われる(熱風乾燥)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上述したアルミ素管の製造方法100では、第2の工程で洗剤を使用し、また、第4の工程でリン酸ナトリウムを使用しているため、第3の工程で洗剤を落とす処理をしたり、第5の工程でリン酸ナトリウムを落とすバブリング処理を行ったり、第6の工程でもリン酸ナトリウムを落とす処理を行うなど、大変多くの工程を必要とするという問題があった。
【0016】
また、従来のアルミ素管の製造方法では、洗剤やリン酸ナトリウムなど、化学薬品を用いているので、これらの廃液処理が大変であるという問題があった。
そこで本発明では、上記問題を解決し、汚れた金属製素材を、少工程、無廃液で洗浄可能な金属性素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための金属製素材の製造方法は、汚れた金属製素材を洗浄して、清浄な前記金属製素材を製造する金属性素材の製造方法において、溶存酸素量を1ppm以下にした純水を電気分解し、さらに4kg/cm2以上の圧力で加圧することによって得られたマイナスイオン水が溜められたイオン洗浄槽内で、前記マイナスイオン水に前記金属製素材を浸けて、前記金属製素材を洗浄するイオン水洗浄工程を有することを特徴とするものである。
【0018】
この金属製素材の製造方法では、洗剤を用いた洗浄に変えて、本願出願人が発見した洗浄能力の非常に高いマイナスイオン水(後述する)を用いた洗浄を行っているので、金属製素材から洗剤を落とす処理が不要となる。また、マイナスイオン水を用いた洗浄を行うと、洗剤では落としきれない汚れも洗浄できるので、従来行っていたリン酸ナトリウム水を用いた洗浄も不要となる。さらに、このリン酸ナトリウム水を用いた洗浄を行うことによって金属製素材に付着したリン酸ナトリウム水を落とす処理も不要となる。従ってこの金属製素材の製造方法を用いれば、金属製素材を少ない工程で洗浄することができる。また、この金属製素材の製造方法では、洗剤やリン酸ナトリウムなど、化学薬品を用いて洗浄を行っておらず、廃液が出たとしても簡単な処理を行うだけで、害のない状態まで廃液を処理することができるので、無廃液で金属製素材の洗浄を行うことができる。
【0019】
請求項2に記載したように、イオン洗浄槽が超音波を発振する超音波発振手段を備えている場合、イオン洗浄工程では、この超音波発振手段から発振された超音波によってマイナスイオン水を振動させ、この振動しているマイナスイオン水に金属製素材を浸けて、金属製素材を洗浄してもよい。このようにすれば、マイナスイオン水の洗浄力に加えて超音波の振動によっても金属製素材が洗浄されるので、金属製素材をよりきれいに洗浄することができる。
【0020】
請求項3に記載したように、イオン洗浄層が前記マイナスイオン水の水素イオン濃度を維持する維持手段を備えている場合、イオン洗浄工程では、この維持手段によって水素イオン濃度が維持されたマイナスイオン水に金属製素材が浸けられることによって、金属製素材が洗浄される。このようにすれば、汚れた金属製素材を繰り返し洗浄してもマイナスイオン水の洗浄能力が落ちないので、汚れた金属製素材を繰り返し洗浄しても、いつでも金属製素材をきれいに洗浄することができる。
【0021】
ところで、イオン水洗浄工程を除く工程としては、以下のような工程を備えていることが好ましい。
まず、請求項4に記載したように、第1洗浄槽内に溜められた水を、この第1洗浄槽に備えられた第2超音波発振手段から発せられる超音波を用いて振動させ、この振動している第1洗浄槽内の水に金属製素材を浸けて、金属性素材を洗浄する荒洗浄工程と、第2洗浄槽内に溜められた水を、この第2洗浄槽に備えられた第3超音波発振手段から発せられる超音波を用いて振動させ、この振動している第2洗浄槽内の前記水に金属製素材を浸けて、金属性素材を洗浄するリンス工程と、金属製素材に付着した水分を乾燥させる乾燥工程とを実行することが好ましく、イオン水洗浄工程は、荒洗浄工程とリンス工程との間で実行することが好ましい。このうち、従来も、荒洗浄工程に相等する第1工程110、リンス工程に相等する第7工程122、乾燥工程に相等する第9及び第10工程126を実行しているが、本発明では、これらの工程に加えてイオン水洗浄工程を実行する5つの工程だけで、同じ洗浄効果を得られる。従って、本発明の金属製素材の製造方法を用いれば、従来の方法に比べはるかに少ない工程数で、金属製素材を洗浄することができる。
【0022】
また、請求項5に記載したように、イオン水洗浄工程の直後に、新たにイオン水洗浄工程を実行し、リンス工程の直後に、新たにリンス工程を実行してもよい。また、請求項6に記載したように、金属製素材に水を吹き付けて、金属製素材を洗浄する前洗浄工程を、荒洗浄工程の前に実行してもよい。さらに、請求項7に記載したように、第3洗浄槽内に溜められた純水中に気泡を放出するバブリンク手段を第3洗浄槽が備え、このバブリング手段によって気泡が放出されている第3洗浄槽内の純水に金属製素材を浸けて、金属性素材を洗浄するバブリング洗浄工程と、純水が溜められた第4洗浄槽内で、純水に金属製素材を浸け置きして、金属製素材を洗浄する浸漬洗浄工程とを、イオン水洗浄工程と、リンス工程との間で実行するよいことはもちろんである。以上のような工程を加えると、金属製素材をより綺麗に洗浄することができる。
【0023】
尚、洗浄工程としては、請求項8に示したように、暖められた純水が貯留された第5洗浄槽内に金属製素材を浸けて引き上げ、金属製素材から純水を蒸発させる第1乾燥工程と、
金属製素材に熱風を吹きかける第2乾燥工程とからなるものでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態について以下説明する。
ここで、図1は、アルミ素管90の製造方法を実行する洗浄システム1の各工程を示す模式図である。
【0025】
本実施形態の洗浄システム1は10の工程からなる。また、この洗浄システム1では、複数のアルミ素管90を立てた状態で保持するパレット98、及び、このパレット98を運搬するクレーン99が用いられる。そして、この洗浄システム1では、これらパレット98及びクレーン99を用い、各工程を実行する洗浄槽にアルミ素管90を運び入れ、各工程が終了したら、前の工程を実行する洗浄槽からアルミ素管90を運び出し、次の工程を実行する洗浄槽にアルミ素管90を運び入れる作業を繰り返し行うことによって実行される。
【0026】
第1工程では、シャワー装置10aが設置された洗浄槽10を用いて実施される。この第1工程では、アルミ素管90が洗浄槽10内に運び入れられると、シャワー装置10aが作動し、水道水がアルミ素管90に向かって、約40秒間吹き付けられる。そして、この第1工程では、アルミ素管90の表面に付着した、保護膜用の油や、切削用の油、あるいは、切削屑などの汚染物をおおまかに落とす荒落としがなされる。この第1工程は、本発明の前洗浄工程に相当する。
【0027】
第2工程では、超音波発振器12a(本発明の第2超音波発振手段に相当)が設置され、水道水12bが溜められた洗浄槽12(本発明の第1洗浄槽に相当)を用いて実施される。この第2工程では、アルミ素管90が洗浄槽12内に運び入れられると超音波発振器12aが作動し、この超音波発振器12aから発振される超音波を受けて振動している水道水12bに約40秒間浸け置きされる。そして、この第2工程でも、第1工程に引き続き、アルミ素管90の表面に付着した、保護膜用の油や、切削用の油、あるいは、切削屑などの汚染物をおおまかに落とす荒落としがなされる。尚、第2工程で用いられる水道水12bは、超音波による振動によって40〜60℃に熱せられる。また、超音波発振器12aから発振される周波数は、18000Hzを以上の音波である。この第2工程は、本発明の荒洗浄工程に相当する。
【0028】
第3工程では、超音波発振器14a(本発明の第1超音波発振手段に相当)が設置され、後述するマイナスイオン水14bが溜められた洗浄槽14(本発明のイオン洗浄槽に相当)を用いて実施される。また、この洗浄槽14には、洗浄槽14からあふれたマイナスイオン水14bを回収して濾過し、電離層を通して水素イオン濃度を回復させ、洗浄槽14の下方から供給するか、あるいは、洗浄槽14からあふれたマイナスイオン水14bについては濾過して排気して、洗浄槽14へは新しいマイナスイオン水を供給してマイナスイオン水の水素イオン濃度を維持する維持装置14c(本発明の維持手段に相当)を備えている。この第3工程では、アルミ素管90が洗浄槽14内に運び入れられると超音波発振器14aが作動し、この超音波発振器14aから発振される超音波を受けて振動しているマイナスイオン水14bに約40秒間浸け置きされる。そして、この第3工程では、第1及び第2工程を経ることによっても落としきれない油分及び細かいゴミ類その他の汚染物を落とす洗浄である本洗浄が行われる。尚、超音波発振器12aから発振される周波数は、18000Hzを以上の音波である。また、この第3工程は、本発明のイオン水洗浄工程に相当する。
【0029】
第4工程では、超音波発振器16a(本発明の第1超音波発振手段に相当)が設置され、後述するマイナスイオン水16bが溜められた洗浄槽16(本発明のイオン洗浄槽に相当)を用いて実施される。また、この洗浄槽16には、洗浄槽16からあふれたマイナスイオン水16bを回収して濾過し、電離層を通して水素イオン濃度を回復させ、洗浄槽16の下方から供給するか、あるいは、洗浄槽16からあふれたマイナスイオン水16bについては濾過して排気して、洗浄槽16へは新しいマイナスイオン水を供給してマイナスイオン水の水素イオン濃度を維持する維持装置16c(本発明の維持手段に相当)を備えている。この第4工程では、アルミ素管90が洗浄槽16内に運び入れられると超音波発振器16aが作動し、この超音波発振器16aから発振される超音波を受けて振動しているマイナスイオン水16bに約40秒間浸け置きされる。そして、この第4工程では、第1工程及び第2工程を経ることによっても落としきれない油分及び細かいゴミ類その他の汚染物を落とす洗浄である本洗浄が、第3工程に引き続いて行われる。尚、超音波発振器12aから発振される周波数は、18000Hzを以上の音波である。また、この第4工程は、本発明のイオン水洗浄工程に相当する。
【0030】
第5工程では、バブリング装置18a(本発明のバブリング手段に相当)が内部に設置され、純水18bが溜められた洗浄槽18を用いて実施される。この第5工程では、アルミ素管90が洗浄槽18内に運び入れられるとバブリング装置18aが作動し、このバブリング装置18aにより気泡が放出された純水18bに約40秒間浸け置きされる。この第5工程では、アルミ素管90の表面に付着したマイナスイオン水を中和する処理がなされる。この第5工程は、本発明のバブリング工程に相当する。
【0031】
第6工程では、純水20b等が溜められた洗浄槽20を用いて実施される。この第6工程では、アルミ素管90が洗浄槽20内に運び入れられ、約40秒間浸け置きされる。この第6工程では、第7工程以下で用いられる純水の純度を下げないようにするために、アルミ素管90を付け置きする処理がなされる。この第6工程は、本発明の浸置洗浄工程に相当する。
【0032】
第7工程では、超音波発振器22a(本発明の第3超音波発振手段に相当)が設置され、純水22bが溜められた洗浄槽22(本発明の第2洗浄槽に相当)を用いて実施される。この第7工程では、アルミ素管90が洗浄槽22内に運び入れられると超音波発振器22aが作動し、この超音波発振器22aから発振される超音波を受けている純水22bに約40秒間浸け置きされる。そして、この第7工程では、アルミ素管90によって持ち込まれ、第3工程〜第4工程で用いられたマイナスイオン水や、第5〜第6工程で用いられた汚れた純水を、薄める処理がなされる。尚、第7工程で用いられる純水22bは、超音波による振動によって40〜60℃に熱せられる。また、超音波発振器22aから発振される周波数は、18000Hzを以上の音波である。この第7工程は、本発明のリンス工程に相当する。
【0033】
第8工程では、超音波発振器24a(本発明の第3超音波発振手段に相当)が設置され、純水24bが溜められた洗浄槽24(本発明の第2洗浄槽に相当)を用いて実施される。この第8工程では、アルミ素管90が洗浄槽24内に運び入れられると超音波発振器24aが作動し、この超音波発振器24aから発振される超音波を受けている純水24bに約40秒間浸け置きされる。そして、この第8工程では、アルミ素管90によって持ち込まれ、第3工程〜第4工程で用いられたマイナスイオン水や、第5〜第6工程で用いられた汚れた純水を薄める処理が、第7工程に引き続いて行われる。尚、第8工程で用いられる純水24bは、超音波による振動によって40〜60℃に熱せられる。また、超音波発振器24aから発振される周波数は、18000Hzを以上の音波である。この第7工程は、本発明のリンス工程に相当する。
【0034】
第9工程では、90〜95℃の純水26bが溜められた洗浄槽26を用いて実施される。この第9工程では、純水26bに約40秒間浸け置きされた後、引き上げられる。この第9工程では、アルミ素管90の表面に付着した水分を蒸発によって飛ばすために、温度の高い純水26bに浸けられて引き上げられる。この第9工程は、本発明の第1乾燥工程に相当する。
【0035】
第10工程では、80〜90℃の熱風を吹きかける熱風装置28aが取り付けられた洗浄槽28を用いて実施される。この第10工程では、アルミ素管90が運び込まれると熱風装置28aが作動し、洗浄槽28内でアルミ素管90に熱風が吹きかけられ、アルミ素管90の表面に付着した水分がさらに飛ばされる。この第10工程は、本発明の第2乾燥工程に相当する。
【0036】
以上説明した洗浄システム1を用いると以下のような効果がある。
上述した洗浄システム1では、従来の製造方法で行っていた洗剤を用いた洗浄に変えて、マイナスイオン水を用いた洗浄を行っているので、アルミ素管90から洗剤を落とす処理が不要となる(従来の第3の工程)。また、マイナスイオン水を用いた洗浄を行うと、洗剤では落としきれない汚れも洗浄できるので、従来行っていたリン酸ナトリウム水を用いた洗浄も不要となる(従来の第4の工程)。さらに、このリン酸ナトリウム水を用いた洗浄を行うことによってアルミ素管90に付着したリン酸ナトリウム水を落とす処理も不要となる(従来の第5、第6の工程)。また、さらに、本実施形態では、スペースが余った関係上、第1工程でシャワー装置10aを用いてアルミ素管90の洗浄を行っているが、従来の方法と同じ洗浄レベルを期待するのであれば、第1工程も不要となる。従って、本実施形態の洗浄システム1を用いれば、アルミ素管90を少ない工程で洗浄することができる。また、この洗浄システム1を用いれば、洗剤やリン酸ナトリウムなど、化学薬品を用いて洗浄を行っておらず、廃液が出たとしても、アルミ素管90の表面についた油分やごみ等であるので、簡単な処理を行うだけで、害のない状態まで廃液を処理することで、無廃液でアルミ素管90の洗浄を行うことができる。
【0037】
また、上述した洗浄システム1を用いれば、第3及び第4工程において、超音波発振機14a,16aを用いてマイナスイオン水を振動させ、この振動しているマイナスイオン水にアルミ素管90を浸けて、アルミ素管90を洗浄している。そのため、この洗浄システム1を用いれば、マイナスイオン水の洗浄力に加えて超音波の振動によってもアルミ素管90が洗浄されるので、アルミ素管90をよりきれいに洗浄することができる。
【0038】
また、上述した洗浄システム1を用いれば、第3及び第4工程において、維持装置16cを用いて水素イオン濃度が維持されたマイナスイオン水にアルミ素管90が浸けられ洗浄される。このようにすれば、汚れたアルミ素管90を流れ作業等によって繰り返し洗浄してもマイナスイオン水の洗浄能力が落ちないので、汚れたアルミ素管90を繰り返し洗浄しても、いつでもアルミ素管90をきれいに洗浄することができる。
【0039】
さらに、上述した洗浄システム1では、従来と同じ洗浄効果を得るためには、第2、第3、第7、第9、第10工程を実行すればよいが、これらの工程に加えて、第1、第4、第5、第6、第8工程を実施しているので、従来の製造方法に比べて、アルミ素管90をよりきれいに洗浄することができる。
【0040】
次に、本実施形態で使用されているマイナスイオン水について説明する。
ここで、図2は、本実施形態のマイナスイオン水の製造工程を説明するための模式図である。
【0041】
図2に示すように、本実施形態のマイナスイオン水の製造方法では、3つの工程を経て、純水からマイナスイオン水を製造する。
第1の工程である脱酸素工程50では、イオン交換膜を用いて、純水中の溶存酸素の濃度を1ppm以下に落とす脱酸素処理を行う。
【0042】
第2の工程である電気分解工程52では、脱酸素処理を行った純水中に電極を配して純水を電気分解し、マイナスの電極が配された陰極室側の純水を取り出す電気分解処理を行う。
【0043】
第3の工程である安定化工程54では、電気分解工程により電気分解された前記純水のうち、陰極室側の純水を密閉された安定化槽内で4kg/cm2の圧力をかけた状態で2〜3日間寝かせる安定化処理を実行する。尚、安定化処理で純水にかける圧力は、好ましくは4kg/cm2以上、より好ましくは12kg/cm2以上とするとよい。
【0044】
以下、この3つの製造工程を経て得られたマイナスイオン水について実験した結果を、参考までに記載する。
<実験例1(本実施形態のマイナスイオン水の経時安定性)>
試験液1は、本実施形態のマイナスイオン水であり、試験液2は、レドックス株式会社製、商品名:レドックスウォータータイプIS‘生成機)というマイナスイオン水で、試験液3は、アマノ株式会社製、商品名:電解洗浄水精製装置Σ3000というマイナスイオン水である。そして、本実験では、これらの試験液を100mlの透明ガラス瓶に注いで満水の状態とした。そして、これらの試験液を室温にて開放放置し、そのpH変化、酸化還元電位(ORP)の変化、及び、外観変化を所定時間毎に測定した。また密閉した状態でも同様の測定を行った。
【0045】
【表1】

外観観察では、3者間に有意の差は認められなかったが、pH変化および酸化還元電位(ORP)変化は表1に示されている通り、本実施形態のマイナスイオン水のpHが開放して放置したものについては72時間放置しても10に保たれていた一方で、他社品のpHは10を下回っている。また、密閉したものについては、本実施形態のマイナスイオン水は72時間放置してもpHが12.2に維持されていた一方で、他社品のpHは10を下回った。
【0046】
このことから、本実施形態のマイナスイオン水は、イオン化によって物理的に電子が過剰な状態が長期間安定的に維持されることが実証された。微生物である菌類(グラム陰性菌、グラム陽性菌、黴等)は高アルカリ性域では繁殖できないことが知られている。そのため、本実施形態のマイナスイオン水は殺菌効果があることが予想される。そこで、次に本実施形態のマイナスイオン水の制菌作用について実験を行った。
<試験例2(本実施形態のマイナスイオン水の制菌作用)>
試験液1は、本実施形態のマイナスイオン水であり、試験液2は、レドックス株式会社製、商品名:レドックスウォータータイプIS‘生成機という減菌精製水である。試験方法としては、一般的に使用されている"平板培養法"を使用し、保存温度は25℃に設定し、培養に用いるシャーレの中に、試験液1及び2及び各種菌を注入し、所定時間毎に生菌数を計数した。下記表2はその試験結果を示している。用いた菌は、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA(メチシリン・レジスタント・スタヒロコッカス・アウレウスの略語で、メチシリン(抗生物質の名称)に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌を意味する)、腸炎ビブリオである。
【0047】
【表2】

試験液2では、24時間経過しても菌が生きており、MRSAに至っては、4倍に増加しているが、本実施形態のマイナスイオン水である試験液1が注入されたシャーレでは、何れの菌に対しても、6時間を経過した時点で生菌数が0となった。
【0048】
このことから、本実施形態のマイナスイオン水は、微生物やカビ等の発生が長期間安定的に抑制されるが実証された。
<試験例3(急性毒性試験)>
本実施形態のマイナスイオン水の急性毒性試験としてヒメダカに対する魚毒性試験を実施した。試験条件は以下の通りである。
試 験 魚 :ヒメダカ(平均体長3.0cm、平均体重0.24g)
順化条件 :試験前14日間、(自然放置により残留塩素を除去した水道水(pH7.9)、水温 :23±1℃ 照明 :14時間/日で飼育して順化させた。尚、順化期間中の試験魚の死亡率は5%以下であった)
群魚数 :10尾、水温 :23±1℃、照明 :14時間/日
試験容器 :丸形ガラス製洗浄槽
希 釈 水 :自然放置により残留塩素を除去した水道水(pH7.9)
試験水の調製 :本実施形態のマイナスイオン水を希釈水に添加して、1,000−100,000ppmの試験水を調製した。
測 定 :各試験水における試験魚の挙動を観察し、24、48、72及び96時間後の死亡数を記録した。
結 果 :いずれの試験水でも死亡例は0であった。従って、0%死亡率は100,000mg/l以上であり、体重当りでは、218,341g/l以上となるので、本実施形態のマイナスイオン水は実質的には毒性を呈さないことが立証された。
<試験例4(洗浄力試験)>
試験水1は、本実施形態のマイナスイオン水、試験液2は、レドックス株式会社製、商品名:レドックスウォータータイプIS‘生成機)というマイナスイオン水で、試験液3は、アマノ株式会社製、商品名:電解洗浄水精製装置Σ3000というマイナスイオン水である。また、界面活性剤を主体とする市販の台所用洗剤を標準品として、これらの試験液の洗浄力をJIS K3362(合成洗剤試験方法)の7.2(台所用合成洗剤)の洗浄力評価法に準じて比較評価した。具体的には、標準汚れ(牛脂・大豆油・モノオレイン及びオイルレッドの混合物)を付着させたガラス片を装着した洗浄力試験器(回転数250±10rpm)を使用して3分間洗浄した後、1分間濯ぎを行い、次いで室温で1昼夜風乾した。ガラス片をクロロホルム溶液に浸し、クロロホルム溶液の赤色の程度(汚れ落ちの程度)を標準品により処理した場合と目視で比較することにより評価を行った。
【0049】
【表3】

表3に示すように、試験液2及び3は、クロロホルム溶液の色が標準液より濃く、洗浄力が劣ることが判明したが、本実施形態のマイナスイオン水である試験液1は標準液と殆ど差がない洗浄力を有することが判明した。
<試験例5(帯電防止効果)>
JIS L0217に規定する洗い方番号103に準じて、洗い−濯ぎ−脱水−自然乾燥を行った試料(ポリエステル100%)に、試料水(試験液1は本実施形態のマイナスイオン水、試験液2は、レドックス株式会社製、商品名:レドックスウォータータイプIS‘生成機)というマイナスイオン水で、試験液3は、アマノ株式会社製、商品名:電解洗浄水精製装置Σ3000というマイナスイオン水、試験液4は純水である。)を20ml/m2吹きつけて、1時間熱風(70℃)乾燥した。その後24時間調湿し(温度20±5℃、相対湿度40%以下)、ポリエチレン袋に封入し試料の調製を行った。試料を回転式摩擦装置に入れ、60±10℃のドラムで15分間運転した。絶縁性手袋でドラムより試料を取り出し、帯電電荷量測定装置のファラデーゲージに投入し、電位差計の数値V(v)を読み、帯電電荷量Q(C)を求めた。なお、試料に帯電している静電気は、1回ごとに自己放電式除電器を用いて除電した。
【0050】
【表4】

この表4に示されている通り、本実施形態のマイナスイオン水は、他の試験液に比べて、帯電防止効果において優れていることが判明した。
<試験例6(消臭効果)>
試料水(試験液1は本実施形態のマイナスイオン水、試験液2は、レドックス株式会社製、商品名:レドックスウォータータイプIS‘生成機)というマイナスイオン水で、試験液3は、アマノ株式会社製、商品名:電解洗浄水精製装置Σ3000というマイナスイオン水)1gを容器に秤取し、密栓して、メチルメルカプタン50μlをガスタイトシリンジを用いて密栓した容器に注入し、振盪しながら室温で放置した。経時的に容器内のガスをガスクロマトグラムへ注入した。同様の方法でブランクテストを行い、得られたガスクロマトグラム上のピーク高さを測定し、ブランクを本実施形態のマイナスイオン水として試料の各測定時刻における残存率を測定した。
【0051】
【表5】

この表5に示されている通り、本実施形態のマイナスイオン水は、他の試験液に比べて消臭効果において極めて優れていることが判明した。
<試験例7(安全性)>
この実験では、マイナスイオン水を直接肌に触れさせる実験を行った。
【0052】
その結果、マイナスイオン水は、人間の肌に触れる前のpHが12であったが、肌に触れた瞬間に、人体に触れても安全なレベルである5.6にpHが下がった。
尚、以上本発明の一実施形態ついて説明したが、本発明はこの実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】アルミ素管90の製造方法を実行する洗浄システム1の各工程を示す模式図である。
【図2】本実施形態のマイナスイオン水の製造工程を説明するための模式図である。
【図3】従来のアルミ素管の製造方法を実行する洗浄システムの各工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1…洗浄システム、10…洗浄槽、10a…シャワー装置、12…洗浄槽、12a…超音波発振器、12b…水道水、14…洗浄槽、14a…超音波発振器、14b…マイナスイオン水、14c…維持装置、16…洗浄槽、16a…超音波発振器、16b…マイナスイオン水、16c…維持装置、18…洗浄槽、18a…バブリング装置、18b…純水、20…洗浄槽、20b…純水、22…洗浄槽、22a…超音波発振器、22b…純水、24…洗浄槽、24a…超音波発振器、24b…純水、26…洗浄槽、26b…純水、28…洗浄槽、28a…熱風装置、50…脱酸素工程、52…電気分解工程、54…安定化工程、90…アルミ素管、98…パレット、99…クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚れた金属製素材を洗浄して、清浄な前記金属製素材を製造する金属性素材の製造方法において、
溶存酸素量を1ppm以下にした純水を電気分解し、さらに4kg/cm2以上の圧力で加圧することによって得られたマイナスイオン水が溜められたイオン洗浄槽内で、前記マイナスイオン水に前記金属製素材を浸けて、前記金属製素材を洗浄するイオン水洗浄工程を有することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属製素材の製造方法において、
前記イオン洗浄槽は、前記イオン洗浄槽内に溜められた前記マイナスイオン水を、超音波を用いて振動させる第1超音波発振手段を備え、
前記イオン水洗浄工程では、前記第1超音波発振手段によって振動している前記イオン洗浄槽内の前記マイナスイオン水に前記金属製素材を浸けて、前記金属製素材を洗浄することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかに記載された金属製素材の製造方法において、
前記イオン洗浄層は、前記イオン洗浄槽内に溜められた前記マイナスイオン水の水素イオン濃度を維持する維持手段を備え、
前記イオン水洗浄工程では、前記維持手段によって水素イオン濃度が維持された前記マイナスイオン水に前記金属製素材を浸けて、前記金属製素材を洗浄することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属製素材の製造方法において、
第1洗浄槽内に溜められた水を、この第1洗浄槽に備えられた第2超音波発振手段から発せられる超音波を用いて振動させ、この振動している前記第1洗浄槽内の前記水に前記金属製素材を浸けて、前記金属性素材を洗浄する荒洗浄工程と、
前記イオン水洗浄工程と、
第2洗浄槽内に溜められた水を、この第2洗浄槽に備えられた第3超音波発振手段から発せられる超音波を用いて振動させ、この振動している前記第2洗浄槽内の前記水に前記金属製素材を浸けて、前記金属性素材を洗浄するリンス工程と、
前記金属製素材に付着した水分を乾燥させる乾燥工程とを実行することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属製素材の製造方法において、
前記イオン水洗浄工程の直後に、新たに前記イオン水洗浄工程を実行し、
前記リンス工程の直後に、新たに前記リンス工程を実行することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項6】
請求項4,5いずれかに記載された前記金属製素材の製造方法において、
前記金属製素材に水を吹き付けて、前記金属製素材を洗浄する前洗浄工程を、前記荒洗浄工程の前に実行することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかに記載された前記金属製素材の製造方法において、
第3洗浄槽内に溜められた純水中に気泡を放出するバブリンク手段を前記第3洗浄槽が備え、このバブリング手段によって気泡が放出されている前記第3洗浄槽内の前記純水に前記金属製素材を浸けて、前記金属性素材を洗浄するバブリング洗浄工程と、
純水が溜められた第4洗浄槽内で、前記純水に前記金属製素材を浸け置きして、前記金属製素材を洗浄する浸漬洗浄工程とを、
前記イオン水洗浄工程と、前記リンス工程との間で実行することを特徴とする金属製素材の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7いずれかに記載された前記金属製素材の製造方法において、
前記乾燥工程は、
暖められた純水が貯留された第5洗浄槽内に前記金属製素材を浸けて引き上げ、前記金属製素材から前記純水を蒸発させる第1乾燥工程と、
前記金属製素材に熱風を吹きかける第2乾燥工程と
を実行することを特徴とする金属製素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−50401(P2007−50401A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342465(P2005−342465)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(598086316)株式会社エー・アイ・システムプロダクト (11)
【Fターム(参考)】