説明

金属部材の接合方法

【課題】少ない接合エネルギーで高い接合強度を確保する。
【解決手段】第1金属部材(1)の第1、第2内径部4,5に、第2金属部材(10)の第1、第2外径部11,12をそれぞれ当接させるとともに、上記第1金属部材(1)と第2金属部材(10)とを一対の電極21,22を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両部材(1,10)の間に、上記第1内径部4と第1外径部11とが接合された第1接合部P1と、上記第2内径部5と第2外径部12とが接合された第2接合部P2とを形成し、かつこれら両接合部P1,P2の間に、間隙部15を形成する。接合前の時点では、上記第1外径部11と第1内径部4との接触部C1、および上記第2外径部12と第2内径部5との接触部C2のうち、通電時により高温になる方の接触部のオーバラップ代(S1)を、もう一方の接触部のオーバラップ代(S2)よりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、いわゆるリングマッシュ接合法の一種として、下記特許文献1に示される接合方法が知られている。具体的に、下記特許文献1の方法では、中空状の第1金属部材と、第1金属部材の内径よりもわずかに大きい外径を有する第2金属部材とを軸方向に重ね合わせ、同方向に加圧力をかけた状態で溶接電流を流すことにより、上記第1金属部材の内周面と第2金属部材の外周面とを接合するようにしている。
【0003】
なお、この場合において、上記第1金属部材と第2金属部材との接合の形態は、溶融接合ではなく拡散接合である。すなわち、上記両金属部材に加圧力をかけて通電することにより、接触部分の金属を軟化させて塑性流動を発生させ、金属の新生面どうしを冶金的に接合するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−17048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示すようなリングマッシュ接合法によれば、例えばアーク溶接等のような一般的な溶融接合と比較して、溶融による炭化物の偏析や、熱影響による凝固割れ等が発生せず、溶接に要する時間も非常に短時間で済むといった利点がある。
【0006】
ただし、上記特許文献1に開示された方法において、より接合強度を高めることを目的に、上記第1金属部材と第2金属部材との接合面積を増やしたような場合には、これに応じて加圧力および電流値を増大させる必要が生じ、設備の大型化を招いてしまうという問題がある。このため、接合に要するエネルギーをできるだけ低く抑えながら、接合強度をより向上させることが求められていた。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、少ない接合エネルギーで高い接合強度を得ることが可能な金属部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法であって、上記第1金属部材の内周壁部に、所定の内径を有する第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とを形成し、上記第2金属部材の外周壁部に、上記第1内径部および第2内径部よりも所定のオーバラップ代分だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部を形成し、上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、通電時により高温になる方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定し、上記第1金属部材の第1、第2内径部に、上記第2金属部材の第1、第2外径部をそれぞれ接触させた状態で、上記第1金属部材と第2金属部材とを一対の電極を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両金属部材の間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とを形成し、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部を、所定の軸方向長さにわたって形成することを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明の接合方法によれば、第1金属部材の内周壁部と第2金属部材の外周壁部とを段違いに形成し、両者の間に互いに離間した2つの接合部を形成することで、これら各接合部の軸方向長さ(接合長)をむやみに大きくしなくても、特に曲げに強い優れた接合構造を構築することができ、接合エネルギーの増大を回避しつつ接合強度を効果的に向上させることができる。
【0010】
特に、本発明では、第1金属部材と第2金属部材とを接合する際に、第1外径部と第1内径部との接触部、および第2外径部と第2内径部との接触部のうち、通電時により高温になる方の接触部のオーバラップ代を相対的に大きく設定するようにしたため、接触部の昇温幅に応じた適正なオーバラップ代に基づく良質な接合部を形成することができ、第1金属部材と第2金属部材との接合強度をより効果的に向上させることができる。
【0011】
具体的に、通電時により高温になる方の接触部のオーバラップ代を大きくするには、上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、上記電極との距離が短い方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定するとよい(請求項2)。
【0012】
この態様によれば、電極との距離が短く、通電時により高温になり易い接触部のオーバラップ代を、もう一方のオーバラップ代よりも大きく設定することにより、接合部の良質化を適正に図ることができる。
【0013】
一方、上記第1金属部材および第2金属部材が電気抵抗値の異なる異種金属からなる場合には、上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、通電時に流れる電流が大きい方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定するとよい(請求項3)。
【0014】
この態様によれば、電気抵抗値の相違に起因して、通電時に流れる電流値が大きく高温化し易い接触部のオーバラップ代を、もう一方のオーバラップ代よりも大きく設定することにより、接合部の良質化を適正に図ることができる。
【0015】
本発明の接合方法は様々な金属部材どうしの接合に適用可能であるが、具体例として、上記第1金属部材が、マニュアルトランスミッションに用いられるクラッチコーンであり、上記第2金属部材が、上記クラッチコーンに接合されるギアである場合に、本発明の接合方法を好適に適用することができる(請求項4)。
【0016】
また、上記第1金属部材が、ディファレンシャル機構に用いられるギアであり、上記第2金属部材が、上記ギアに接合されるデフケースである場合にも、本発明の接合方法を好適に適用することができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の金属部材の接合方法によれば、少ない接合エネルギーで高い接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態において接合対象とされるクラッチコーンおよびヘリカルギアの接合前の状態を示す断面図である。
【図2】上記クラッチコーンとヘリカルギアとを接合する際に使用される接合装置の概略構成を示す図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】接合が完了した状態を示す図3相当図である。
【図5】上記クラッチコーンに曲げモーメントが加わる状況を説明するための図である。
【図6】上記第1実施形態の変形例を説明するための図であり、(a)は接合前の状態、(b)は接合後の状態をそれぞれ示している。
【図7】本発明の第2実施形態において接合対象とされるリングギアおよびデフケースの接合前の状態を示す断面図である。
【図8】上記リングギアとデフケースとを接合する際に使用される接合装置の概略構成を示す図である。
【図9】図8のB部拡大図である。
【図10】接合が完了した状態を示す図9相当図である。
【図11】上記第2実施形態の変形例を説明するための図である。
【図12】図11に示される部品の接合後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示すように、当実施形態では、車両用の部品であるクラッチコーン1とヘリカルギア10とを、本発明の接合方法に基づき接合する。
【0020】
上記ヘリカルギア10は、マニュアルトランスミッション用のギア部品であり、本発明にかかる第2金属部材に相当する。ヘリカルギア10の材質はスチールであり、その具体例としては、SCR420H等の浸炭焼入れ鋼を挙げることができる。
【0021】
上記ヘリカルギア10は、軸方向に貫通する開口部が中心部に形成された筒状体からなり、その外周壁部の形状は、大小複数の外径を有するように多段状とされている。具体的に、上記ヘリカルギア10の外周壁部には、外径Y1を有する第1外径部11と、外径Y1よりも大きい外径Y2を有する第2外径部12とが形成されている。また、第2外径部12よりもさらに径の大きい最外周部には、螺状歯からなるギア部13が形成されている。
【0022】
上記クラッチコーン1は、マニュアルトランスミッションの回転同期のために用いられる部品であり、本発明にかかる第1金属部材に相当する。クラッチコーン1の材質はスチールであり、その具体例としては、SCR420H等の浸炭焼入れ鋼を挙げることができる。
【0023】
上記クラッチコーン1は、軸方向に貫通する開口部2が中心部に形成された筒状体からなり、その外周面には、図外のシンクロナイザーリングに圧接されるテーパコーン面3が形成されている。また、上記開口部2を囲むクラッチコーン1の内周壁部には、内径X1を有する第1内径部4と、内径X1よりも大きい内径X2を有する第2内径部5とが形成されている。
【0024】
上記クラッチコーン1の内径X1,X2と、上記ヘリカルギア10の外径Y1,Y2との関係としては、第1外径部11の外径Y1が第1内径部4の内径X1よりもわずかに大きく、かつ第2外径部12の外径Y2が第2内径部5の内径X2よりもわずかに大きい。なお、後述する図3に示すように、上記各外形部11,12と各内径部4,5との半径差であるオーバラップ代については、第1外径部11と第1内径部4とのオーバラップ代をS1、第2外径部12と第2内径部5とのオーバラップ代をS2としたときに、S1>S2となるように設定されている。また、この場合の直径差はそれぞれ2S1,2S2であるので、(第1外径部11の外径Y1)=(第1内径部4の内径X1)+2S1、(第2外径部12の外径Y2)=(第2内径部5の内径X2)+2S2 となる。
【0025】
図2は、上記クラッチコーン1とヘリカルギア10とを接合する際に使用される接合装置20の概略構成を示す図である。本図に示すように、接合装置20は、上部電極21および下部電極22と、各電極21,22を軸方向(図2では上下方向)に加圧する図外の加圧機構と、各電極21,22に接合用の高電流を供給する電源装置23とを備える。
【0026】
このような接合装置20を用いての接合は、クラッチコーン1の開口部2にヘリカルギア10の一部を挿入して仮固定した状態で、上記上部電極21および下部電極22により上記両部材1,10を軸方向に加圧しつつ通電することで行う。なお、図2では、上部電極21および下部電極22を上下方向に対向配置して、その間にクラッチコーン1およびヘリカルギア10を挟み込んで接合する場合を例示するが、例えば、上記両電極21,22を水平方向に対向配置した状態で接合することも当然に可能である。
【0027】
上記クラッチコーン1およびヘリカルギア10の接合の手順についてより詳しく説明する。クラッチコーン1およびヘリカルギア10を接合するには、まず、ヘリカルギア10を、その第2外径部12が第1外径部11よりも下になる姿勢で下部電極22上に設置する。そして、この状態のヘリカルギア10に対し、クラッチコーン1を上方から接近させる。このときのクラッチコーン1の姿勢は、その第2内径部5が第1内径部4よりも下になる姿勢とする。これにより、ヘリカルギア10は、その第1外径部11から先に、クラッチコーン1の開口部2に挿入される。
【0028】
図3は、図2のA部を拡大して示す図である。先にも述べたが、上記ヘリカルギア10の第1外径部11の外径Y1は、クラッチコーン1の第1内径部4の内径X1よりもオーバラップ代S1の分だけ大きく(Y1=X1+2S1)、ヘリカルギア10の第2外径部12の外径Y2は、クラッチコーン1の第2内径部5の内径X2よりもオーバラップ代S2の分だけ大きい(Y2=X2+2S2)。このため、ヘリカルギア10がクラッチコーン1に挿入されると、第1外径部11の最外周部が第1内径部4の下端に当接するとともに、第2外径部12の最外周部が第2内径部5の下端に当接する。このとき、上記第1外径部11や第2内径部5等の軸方向長さの設定により、第1外径部11と第1内径部4、および第2外径部12と第2内径部5とが、同時に当接するようになっている。
【0029】
上記のようにしてクラッチコーン1がヘリカルギア10上に仮固定されると、次いで、上部電極21および下部電極22によりクラッチコーン1およびヘリカルギア10を上下から挟み込んで加圧するとともに、上記両電極21,22に接合用の電圧を印加する。具体的には、上記下部電極22上に仮固定されたクラッチコーン1およびヘリカルギア10に対し、上部電極21を上から接近させ、その下端部をヘリカルギア10の上端面に当接させるとともに、その状態で上記両電極21,22に対し所定の加圧力を接近方向(軸方向)に加える。また、これに合わせて電源装置23を作動させることにより、上記両電極21,22に接合用の電圧を印加する。
【0030】
上記のような電圧の印加に応じて、上記両電極21,22の間には、クラッチコーン1およびヘリカルギア10を介して瞬時に大きな電流が流れる。このとき、クラッチコーン1とヘリカルギア10とは、第1内径部4と第1外径部11との接触部C1、および、第2内径部5と第2外径部12との接触部C2の2箇所で接触しているため、上記電流は、この2箇所の接触部C1,C2を通じて流れることになる。
【0031】
すると、通電による抵抗発熱が発生し、上記両接触部C1,C2では、金属の軟化および塑性流動が起きる。このとき、上記電極21,22による加圧は継続されているため、上記金属の軟化に伴い、クラッチコーン1がヘリカルギア10に対し徐々に下方に押し込まれていく。これにより、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接触面積(つまり第1内径部4と第1外径部11、第2内径部5と第2外径部12との各接触面積)が増大し、金属が軟化する領域も増大していく。なお、以下では、第1内径部4と第1外径部11との接触部C1のことを上側接触部C1、第2内径部5と第2外径部12との接触部C2のことを下側接触部C2ということがある。
【0032】
ここで、上記のような通電と加圧により昇温・軟化する上記両接触部C1,C2においては、第1内径部4と第1外径部11との接触部である上側接触部C1の温度の方が、第2内径部5と第2外径部12との接触部である下側接触部C2の温度よりも高くなる傾向にある。これは、上側接触部C1から上部電極21までの距離の方が、下側接触部C2から下部電極22(図2)までの距離よりも短いからである。
【0033】
すなわち、上記上側接触部C1および下側接触部C2では、それぞれ、金属どうしの接触抵抗による発熱が起きるが、このうち上側接触部C1については、上部電極21との距離が短いために、上記のような抵抗発熱に加えて、当該電極21とクラッチコーン1の上面との接触抵抗による発熱の影響を受け易く、より高温化する傾向にある。図3では、上記上部電極21との接触抵抗により特に高温になるクラッチコーン1の上端部を符号Qで示している(以下、高温部分Qという)。上記上側接触部C1は、位置的にこの高温部分Qに近いため、当該部分Qからの熱的影響を受けて下部接触部C2よりも高温化する。
【0034】
このような上側接触部C1と下側接触部C2との温度差を考慮して、当実施形態では、上述したように、上側接触部C1のオーバラップ代S1を下側接触部C2のオーバラップ代S2よりも大きく設定している(S1>S2)。すなわち、第1外径部11と第1内径部4との接触部である上側接触部C1の方が、上記高温部分Qに近く、第2外径部12と第2内径部5との接触部である下側接触部C2よりも高温になるため、金属が軟化する範囲についても、上側接触部C1での軟化範囲の方が下側接触部C2での軟化範囲よりも広くなる。そこで、金属の軟化範囲に見合った適正なオーバラップ代を確保すべく、当実施形態では、第1外径部11と第1内径部4との半径差であるオーバラップ代S1を大きく、第2外径部12と第2内径部5との半径差であるオーバラップ代S2を小さくしている。例えば、S1=0.3mm、S2=0.15mmとする。
【0035】
図4は、上記上部電極21および下部電極22を用いた通電と加圧が継続された結果、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接合が完了した状態を示している。すなわち、接合の完了時には、クラッチコーン1の下面に設けられた突起6がヘリカルギア10に当接するまでクラッチコーン1が下方に押し込まれ、図4に示すように、クラッチコーン1の第1、第2内径部4,5とヘリカルギア10の第1、第2外径部11,12とがそれぞれ所定の軸方向長さにわたって面接触するようになった状態で、上記電極21,22間の通電が停止される。これにより、上記各接触面の金属が再凝固し、同図に示すような2つの接合部P1,P2が形成される。
【0036】
すなわち、上記第1内径部4と第1外径部11、および第2内径部5と第2外径部12との各接触面において、金属の軟化および塑性流動が起きることにより、酸化皮膜や異物等が除去され、この状態で通電が停止されることにより、軟化した部分が再凝固し、金属の新生面どうしが冶金的に結合する(拡散接合)。これにより、第1内径部4と第1外径部11との間に第1接合部P1が形成されるとともに、第2内径部5と第2外径部12との間に第2接合部P2が形成される。
【0037】
以上のような工程を経ることにより、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接合が完了する。この場合に形成される第1接合部P1および第2接合部P2の間には、所定の軸方向長さにわたって金属どうしが接触しない間隙部15が存在する。すなわち、上記第1接合部P1と第2接合部P2とが軸方向に互いに離間するように、クラッチコーン1の第1、第2内径部4,5、およびヘリカルギア10の第1、第2外径部11,12の寸法関係(軸方向長さの大小関係)が設定されており、このような寸法関係の設定により、接合後の状態において、上記両接合部P1,P2の間に間隙部15が形成されるようになっている。
【0038】
以上説明したように、本発明の第1実施形態では、クラッチコーン1とヘリカルギア10とを接合するに際して、まず、クラッチコーン1の内周壁部に、内径X1の第1内径部4と、これより大きい内径X2の第2内径部5とを形成するとともに、ヘリカルギア10の外周壁部に、上記内径X1,X2よりもオーバラップ代S1,S2の分だけ外径が大きい(外径Y1,Y2の)第1外径部11および第2外径部12を形成するようにした。そして、上記クラッチコーン1の第1、第2内径部4,5に、上記ヘリカルギア10の第1、第2外径部11,12をそれぞれ当接させるとともに、上記クラッチコーン1とヘリカルギア10とを一対の電極21,22を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両部材1,10の間に、上記第1内径部4と第1外径部11とが接合された第1接合部P1と、上記第2内径部5と第2外径部12とが接合された第2接合部P2とを形成し、かつこれら両接合部P1,P2の間に、金属どうしが接触しない間隙部15を、所定の軸方向長さにわたって形成するようにした。このような構成によれば、少ない接合エネルギーで高い接合強度が得られるという利点がある。
【0039】
すなわち、上記第1実施形態では、クラッチコーン1の内周壁部とヘリカルギア10の外周壁部とを段違いに形成することで、2つの接合部P1,P2を離間して形成し、その間を間隙部15としたため、上記各接合部P1,P2の軸方向長さ(接合長)をむやみに大きくしなくても、特に曲げに強い優れた接合構造を構築することができ、接合エネルギーの増大を回避しつつ接合強度を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0040】
例えば、単に接合強度を高めるだけの目的であれば、上記第1実施形態のように接合部を2つ(P1,P2)に分けなくても、接合長の長い1つの接合部を形成することで接合強度を高められる。しかしながら、このようにした場合には、接合時に必要な電流値や加圧力が増大し、設備の大型化やコストアップを招いてしまう。
【0041】
これに対し、上記第1実施形態のように、軸方向に離間した2つの接合部P1,P2を形成した場合には、例えば各接合部P1,P2を軸方向に連続させたような場合と比較して、接合部の断面係数が増大するため、特に図5に示すような曲げモーメントMがクラッチコーン1に作用したときに、接合部P1,P2に作用する力が軽減され、曲げ剛性がより向上する。なお、マニュアルトランスミッションの回転同期のために用いられる上記クラッチコーン1は、そのテーパコーン面3に圧接される図外のシンクロナイザーリング等から様々な方向の力を受けるため、上記のような曲げ剛性の向上により、マニュアルトランスミッションの信頼性をより高めることができる。
【0042】
さらに、上記第1実施形態では、図3に示したように、クラッチコーン1とヘリカルギア10とを接合する際に、上部電極21との距離が短く、通電時により高温になり易い上側接触部C1(第1外径部11と第1内径部4との接触部)のオーバラップ代S1を、下側接触部C2(第2外径部12と第2内径部5との接触部)のオーバラップ代S2よりも大きく設定するようにした。このように、接触部の昇温幅に応じた適正なオーバラップ代を設定することにより、第1、第2外径部11,12と第1、第2内径部4,5との各接合部P1,P2の品質を良好に確保することができ、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接合強度を十分に高めることができる。
【0043】
例えば、上記第1外径部11と第1内径部4との接触部C1では、通電時の昇温幅が大きく、より広い範囲の金属が軟化するため、当該接触部C1のオーバラップ代S1が小さ過ぎると、溶融金属が飛散するスパッタ等の現象が生じ、金属どうしの拡散接合が不完全になるおそれがある。一方、第2外径部12と第2外径部5との接触部C2では、相対的に温度が低く、金属が軟化する範囲が狭いため、当該接触部C2のオーバラップ代S2が大き過ぎると、単なる圧入と同じような状態になり、やはり金属どうしの拡散接合が不完全になるおそれがある。
【0044】
これに対し、上記第1実施形態では、第1外径部11と第1内径部4との接触部C1のオーバラップ代S1を大きく、第2外径部12と第2外径部5との接触部C2のオーバラップ代S2を小さくしたため、各接触部C1,C2の昇温幅とオーバラップ代S1,S2とのバランスがよく、上記のような事態を適正に回避でき、上記第1、第2外径部11,12と第1、第2内径部4,5とを、それぞれ良好な拡散接合により接合することができる。これにより、十分な強度をもった良質な接合部P1,P2(図4)を形成でき、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接合強度をより効果的に向上させることができる。
【0045】
なお、上記第1実施形態では、軸方向に離間した2箇所の接合部P1,P2を介してクラッチコーン1とヘリカルギア10とを接合したが、接合部は2箇所でなくてもよく、3箇所もしくはそれ以上の接合部を介してクラッチコーン1とヘリカルギア10とを接合してもよい。図6(a)(b)は、接合部を3箇所(P1’,P2’,P3’)に設定した場合を例示したものであり、同図(a)は接合前の状態を、同図(b)は接合後の状態をそれぞれ示している。
【0046】
この場合、クラッチコーン1とヘリカルギア10との各接触部のオーバラップ代S1’,S2’,S3’については、図6(a)に示すように、上部電極21に近いほど大きくし、S1’>S2’>S3’とする。このように、電極に近く高温になり易い接触部ほどそのオーバラップ代を大きくすることで、上記第1実施形態と同様に、接合部P1’,P2’,P3’の良質化を適正に図ることができる。
【0047】
また、上記第1実施形態では、図3に示したように、第1外径部11と第1内径部4との接触部C1が上部電極21にかなり近く、通電時に高温になり易いという事情から、この第1外径部11と第1内径部4との接触部C1のオーバラップ代S1を、第2外径部12と第2内径部5との接触部C2のオーバラップ代S2よりも大きくしたが、上部電極21および下部電極22と各接触部C1,C2との位置関係が異なることにより、第2外径部12と第2内径部5との接触部C2の方が、第1外径部11と第1内径部4との接触部C1よりも高温になる場合には、上記とは逆に、接触部C2のオーバラップ代S2を接触部C1のオーバラップ代S1よりも大きくするとよい。
【0048】
また、上記実施形態では、スチール製のクラッチコーン1と、同じくスチール製のヘリカルギア10とを接合する場合を例に挙げて説明したが、本発明の接合方法は、その他の金属製部品にも当然に適用可能であり、その材質もスチールに限られない。本発明の接合方法は、金属の軟化・塑性流動により接合するものであるため、例えばアーク溶接やレーザ溶接といった溶融接合による場合よりも、材質の制約が少なく、様々な材質への適用が期待できる。
【0049】
次に、接合対象の材質が異なる場合の例を本発明の第2実施形態として説明する。
<実施形態2>
本発明の第2実施形態では、図7に示すように、車両用の部品であるリングギア50とデフケース60とを、本発明の接合方法に基づき接合する。
【0050】
上記デフケース60は、ディファレンシャル機構のピニオンギアやサイドギアを収納するケースであり、本発明にかかる第2金属部材に相当する。デフケース10の材質は鋳鉄であり、その具体例としては、FCD450やFCD550等の球状黒鉛鋳鉄を挙げることができる。
【0051】
上記デフケース60は、軸方向の中間部が両端部よりも膨らんだ中空多段状の部材からなる。このデフケース60の軸方向一端寄りの外周壁部には、外径Y11を有する第1外径部61と、外径Y11よりも大きい外径Y12を有する第2外径部62とが形成されている。
【0052】
上記リングギア50は、トランスミッションから伝達される駆動力を受けるギア部品であり、本発明にかかる第1金属部材に相当する。リングギア50の材質はスチールであり、その具体例としては、SCR420H等の浸炭焼入れ鋼を挙げることができる。
【0053】
上記リングギア50は、軸方向(厚み方向)に貫通する開口部52が中心部に形成されたリング状の部材からなり、その最外周部には、トランスミッションの出力ギアと噛合されるギア部53が形成されている。また、上記開口部52を囲むリングギア1の内周壁部には、内径X11を有する第1内径部54と、内径X11よりも大きい内径X12を有する第2内径部55とが形成されている。
【0054】
上記リングギア50の内径X11,X12と、上記デフケース60の外径Y11,Y12との関係としては、第1外径部61の外径Y11が第1内径部54の内径X11よりもわずかに大きく、かつ第2外径部12の外径Y2が第2内径部5の内径X2よりもわずかに大きい。なお、後述する図9に示すように、上記各外形部61,62と各内径部54,55との半径差であるオーバラップ代については、第1外径部61と第1内径部54とのオーバラップ代をS11、第2外径部62と第2内径部55とのオーバラップ代をS12としたときに、S12>S11となるように設定されている。また、この場合の直径差はそれぞれ2S11,2S12であるので、(第1外径部61の外径Y11)=(第1内径部54の内径X11)+2S11、(第2外径部62の外径Y12)=(第2内径部55の内径X12)+2S12 となる。
【0055】
図8は、上記リングギア50とデフケース60とを接合する際に使用される接合装置70の概略構成を示す図である。本図に示すように、当実施形態における接合装置70は、先の第1実施形態で使用した接合装置20と基本的に同様の構成を有しており、上部電極71および下部電極72と、各電極71,72を軸方向(図8では上下方向)に加圧する図外の加圧機構と、各電極71,72に接合用の高電流を供給する電源装置73とを備えている。
【0056】
このような接合装置70を用いての接合は、リングギア50の開口部52にデフケース60の一部を挿入して仮固定した状態で、上記上部電極71および下部電極72により上記両部材50,60を軸方向に加圧しつつ通電することで行う。なお、図8では、上部電極71および下部電極72を上下方向に対向配置して、その間にリングギア50およびデフケース60を挟み込んで接合する場合を例示するが、例えば、上記両電極71,72を水平方向に対向配置した状態で接合することも当然に可能である。
【0057】
上記リングギア50およびデフケース60の接合の手順についてより詳しく説明する。リングギア50およびデフケース60を接合するには、まず、リングギア50を、その第1内径部54が第2内径部55よりも下になる姿勢で下部電極72上に設置する。そして、この状態のリングギア50に対し、デフケース60を上方から接近させる。このときのデフケース60の姿勢は、その第1外径部61が第2外径部62よりも下になる姿勢とする。これにより、デフケース60は、その第1外径部61から先に、リングギア50の開口部52に挿入される。
【0058】
図9は、図7のB部を拡大して示す図である。先にも述べたが、上記デフケース60の第1外径部61の外径Y11は、リングギア50の第1内径部54の内径X11よりもオーバラップ代S11の分だけ大きく(Y11=X11+2S11)、デフケース60の第2外径部62の外径Y12は、リングギア50の第2内径部55の内径X12よりもオーバラップ代S12の分だけ大きい(Y12=X12+2S12)。このため、デフケース60がリングギア50に挿入されると、第1外径部61の最外周部が第1内径部54の上端に当接するとともに、第2外径部62の最外周部が第2内径部55の上端に当接する。このとき、上記第1外径部61や第2内径部55等の軸方向長さの設定により、第1外径部61と第1内径部54、および第2外径部62と第2内径部55とが、同時に当接するようになっている。
【0059】
上記のようにしてデフケース60がリングギア50上に仮固定されると、次いで、上部電極71および下部電極72によりリングギア50およびデフケース60を上下から挟み込んで加圧するとともに、上記両電極71,72に接合用の電圧を印加する。具体的には、上記下部電極72上に仮固定されたリングギア50およびデフケース60に対し、上部電極71を上から接近させ、その下端部をデフケース60の内壁面に当接させるとともに、その状態で上記両電極71,72に対し所定の加圧力を接近方向(軸方向)に加える。また、これに合わせて電源装置73を作動させることにより、上記両電極71,72に接合用の電圧を印加する。
【0060】
上記のような電圧の印加に応じて、上記両電極71,72の間には、リングギア50およびデフケース60を介して瞬時に大きな電流が流れる。このとき、リングギア50とデフケース60とは、第1内径部54と第1外径部61との接触部C11、および、第2内径部55と第2外径部62との接触部C12の2箇所で接触しているため、上記電流は、この2箇所の接触部C11,C12を通じて流れることになる。
【0061】
すると、通電による抵抗発熱が発生し、上記両接触部C11,C12では、金属の軟化および塑性流動が起きる。このとき、上記電極71,72による加圧は継続されているため、上記金属の軟化に伴い、デフケース60がリングギア50に対し徐々に下方に押し込まれていく。これにより、リングギア50とデフケース60との接触面積(つまり第1内径部54と第1外径部61、第2内径部55と第2外径部62との各接触面積)が増大し、金属が軟化する領域も増大していく。なお、以下では、第1内径部54と第1外径部61との接触部C11のことを下側接触部C11、第2内径部55と第2外径部62との接触部C12のことを上側接触部C12ということがある。
【0062】
ここで、上記のような通電と加圧により昇温・軟化する上記両接触部C11,C12においては、第2内径部55と第2外径部62との接触部である上側接触部C12の温度の方が、第1内径部54と第1外径部61との接触部である下側接触部C11の温度よりも高くなる傾向にある。これは、上側接触部C12を通る電流I2の方が、下側接触部C11を通る電流I1よりも大きい値になるからである。
【0063】
すなわち、当実施形態における接合対象であるリングギア50とデフケース60とを比較すると、鋳鉄製のデフケース60の方が、スチール製のリングギア50よりも電気抵抗値が大きい。一方、上側接触部C12を通過する電流I2の経路と、下側接触部C11を通過する電流I1の経路とを比較すると、電流I1の経路の方が、高抵抗のデフケース60の内部をより長い距離にわたって通過するため、相対的に電流が流れにくい経路となっている。したがって、電流I2の値の方が電流I1の値よりも大きくなり、電流I2が流れる上側接触部C12の方が、電流I1が流れる下側接触部C11よりも高温化する。
【0064】
なお、先の第1実施形態でも説明したように、上側接触部C12と下側接触部C11との温度差の要因としては、上部電極71や下部電極72との距離も関係し得るが、当実施形態では、上部電極71と上側接触部C12との距離、下部電極72と下側接触部C11との距離に大きな差がないため、上記両接触部C11,C12の温度差は、主に電流値I1,I2の相違によるものと考えられる。
【0065】
上記のような上側接触部C12と下側接触部C11との温度差を考慮して、当実施形態では、上述したように、上側接触部C12のオーバラップ代S12を下側接触部C11のオーバラップ代S11よりも大きく設定している(S12>S11)。すなわち、第2外径部62と第2内径部55との接触部である上側接触部C12の方が、より高い電流I2が流れることで、第1外径部61と第1内径部54との接触部である下側接触部C11よりも高温になるため、金属が軟化する範囲についても、上側接触部C12での軟化範囲の方が下側接触部C11での軟化範囲よりも広くなる。そこで、金属の軟化範囲に見合った適正なオーバラップ代を確保すべく、当実施形態では、第2外径部62と第2内径部55との半径差であるオーバラップ代S12を大きく、第1外径部61と第1内径部54との半径差であるオーバラップ代S11を小さくしている。例えば、S12=0.5mm、S11=0.2mmとする。
【0066】
図10は、上記上部電極71および下部電極72を用いた通電と加圧が継続された結果、リングギア50とデフケース60との接合が完了した状態を示している。すなわち、接合の完了時には、デフケース60の第1外径部61の下端が下部電極72に当接するまでデフケース60が下方に押し込まれ、図10に示すように、リングギア50の第1、第2内径部54,55とデフケース60の第1、第2外径部61,62とがそれぞれ所定の軸方向長さにわたって面接触するようになった状態で、上記電極71,72間の通電が停止される。これにより、上記各接触面の金属が再凝固し、同図に示すような2つの接合部P11,P12が形成される。
【0067】
すなわち、上記第1内径部54と第1外径部61、および第2内径部55と第2外径部62との各接触面において、金属の軟化および塑性流動が起きることにより、酸化皮膜や異物等が除去され、この状態で通電が停止されることにより、軟化した部分が再凝固し、金属の新生面どうしが冶金的に結合する(拡散接合)。これにより、第1内径部54と第1外径部61との間に第1接合部P11が形成されるとともに、第2内径部55と第2外径部62との間に第2接合部P12が形成される。
【0068】
以上のような工程を経ることにより、リングギア50とデフケース60との接合が完了する。この場合に形成される第1接合部P11および第2接合部P12の間には、所定の軸方向長さにわたって金属どうしが接触しない間隙部65が存在する。すなわち、上記第1接合部P11と第2接合部P12とが軸方向に互いに離間するように、リングギア50の第1、第2内径部54,55、およびデフケース60の第1、第2外径部61,62の寸法関係(軸方向長さの大小関係)が設定されており、このような寸法関係の設定により、接合後の状態において、上記両接合部P11,P12の間に間隙部65が形成されるようになっている。
【0069】
以上説明したように、本発明の第2実施形態では、リングギア50とデフケース60とを接合するに際して、まず、リングギア50の内周壁部に、内径X11の第1内径部54と、これより大きい内径X12の第2内径部55とを形成するとともに、デフケース60の外周壁部に、上記内径X11,X12よりもオーバラップ代S11,S12の分だけ外径が大きい(外径Y11,Y12の)第1外径部61および第2外径部62を形成するようにした。そして、上記リングギア50の第1、第2内径部54,55に、上記デフケース60の第1、第2外径部61,62をそれぞれ当接させるとともに、上記リングギア50とデフケース60とを一対の電極71,72を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両部材50,60の間に、上記第1内径部54と第1外径部61とが接合された第1接合部P11と、上記第2内径部55と第2外径部62とが接合された第2接合部P12とを形成し、かつこれら両接合部P11,P12の間に、金属どうしが接触しない間隙部65を、所定の軸方向長さにわたって形成するようにした。このような構成によれば、先の第1実施形態で説明したのと同様の理由により、少ない接合エネルギーでより高い接合強度を得ることができる。
【0070】
また、上記第2実施形態では、図9に示したように、スチール製のリングギア50と鋳鉄製のデフケース60とを接合する際に、両者の電気抵抗値の相違による電流値I1,I2の大小に起因して、通電時により高温になり易い上側接触部C12(第2外径部62と第2内径部55との接触部)のオーバラップ代S12を、下側接触部C11(第1外径部12と第2内径部5との接触部)のオーバラップ代S2よりも大きく設定するようにした。このように、接触部の昇温幅に応じた適正なオーバラップ代に設定することにより、先の第1実施形態と同様に、第1、第2外径部61,62と第1、第2内径部54,55との各接合部P11,P12の品質を良好に確保することができ、クラッチコーン1とヘリカルギア10との接合強度を十分に高めることができる。
【0071】
なお、上記第2実施形態では、軸方向に離間した2箇所の接合部P11,P12を介してリングギア50とデフケース60とを接合したが、先に説明した図6(a)(b)と同様、接合部は2箇所でなくてもよく、3箇所もしくはそれ以上の接合部を介してリングギア50とデフケース60とを接合してもよい。
【0072】
また、上記第2実施形態では、デフケース60の中で最も外径の大きい軸方向中間部分ではなく、これよりも外径の小さい下端寄りの部分に、第1、第2外径部61,62を形成し、これをリングギア50の第1、第2内径部54,55と接合するようにしたが、デフケース60の最も外径の大きい部分とリングギア50とを接合することも当然に可能である。以下では、このような態様によるデフケース160とリングギア150との接合について、図11および図12に基づき説明する。
【0073】
図11に示すように、デフケース160の中で最も外径の大きい軸方向中間部分の外周壁部には、外径Y101を有する第1外径部161と、外径Y101よりも大きい外径Y102を有する第2外径部162とが形成されている。一方、これら第1、第2外径部161,162に対応して、リングギア150の内周壁部(開口部152の周壁)には、内径X101を有する第1内径部154と、内径X101よりも大きい内径X102を有する第2内径部155とが形成されている。第1外径部161の外径Y101は第1内径部154の内径X101よりもわずかに大きく、第2外径部162の外径Y102は第2内径部155の内径X102よりもわずかに大きい。
【0074】
このような構成のリングギア150とデフケース160とを、上記第2実施形態と同様の方法で接合すると、図12に示すような接合構造が得られる。本図に示すように、リングギア150とデフケース160とは、第1内径部154と第1外径部161との間に形成される第1接合部P101と、第2内径部155と第2外径部162との間に形成される第2接合部P102とを介して接合され、両接合部P101,P102の間には間隙部165が形成される。
【0075】
以上のような図11および図12の例では、先の第2実施形態の場合(図7〜図10)と比べて、接合部P101,P102の径が大きいため、トータルの接合面積が大きく、より接合強度が向上することが期待される。ただし、接合面積があまりに大きいと、接合に要するエネルギーが過大になるとともに、接合部P101,P102の品質を確実な精度で維持することが難しくなると考えられる。したがって、デフケース160の外形が大きく、接合部P101,P102の径がかなり大きくなる場合には、やはり上記第2実施形態(図7〜図10)に示したように、デフケース60における比較的外径の小さい部分に第1、第2外径部61,62を形成し、これをリングギア50の第1、第2内径部54,55と接合することが望ましい。
【符号の説明】
【0076】
1 クラッチコーン(第1金属部材)
2 開口部
4 第1内径部
5 第2内径部
10 ヘリカルギア(第2金属部材)
11 第1外径部
12 第2外径部
15 間隙部
21 上部電極(電極)
22 下部電極(電極)
C1 (第1外径部と第1内径部との)接触部
C2 (第2外径部と第2内径部との)接触部
P1 第1接合部
P2 第2接合部
S1,S2 オーバラップ代

50 リングギア(第1金属部材)
52 開口部
54 第1内径部
55 第2内径部
60 デフケース(第2金属部材)
61 第1外径部
62 第2外径部
65 間隙部
71 上部電極(電極)
72 下部電極(電極)
C11 (第1外径部と第1内径部との)接触部
C12 (第2外径部と第2内径部との)接触部
P11 第1接合部
P12 第2接合部
S11,S12 オーバラップ代
I1,I2 電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法であって、
上記第1金属部材の内周壁部に、所定の内径を有する第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とを形成し、
上記第2金属部材の外周壁部に、上記第1内径部および第2内径部よりも所定のオーバラップ代分だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部を形成し、
上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、通電時により高温になる方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定し、
上記第1金属部材の第1、第2内径部に、上記第2金属部材の第1、第2外径部をそれぞれ接触させた状態で、上記第1金属部材と第2金属部材とを一対の電極を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両金属部材の間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とを形成し、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部を、所定の軸方向長さにわたって形成することを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属部材の接合方法において、
上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、上記電極との距離が短い方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定することを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項3】
請求項1記載の金属部材の接合方法において、
上記第1金属部材および第2金属部材が電気抵抗値の異なる異種金属からなり、
上記第1外径部と第1内径部との接触部、および上記第2外径部と第2内径部との接触部のうち、通電時に流れる電流が大きい方の接触部のオーバラップ代を、もう一方の接触部のオーバラップ代よりも大きく設定することを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属部材の接合方法において、
上記第1金属部材が、マニュアルトランスミッションに用いられるクラッチコーンであり、上記第2金属部材が、上記クラッチコーンに接合されるギアであることを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属部材の接合方法において、
上記第1金属部材が、ディファレンシャル機構に用いられるギアであり、上記第2金属部材が、上記ギアに接合されるデフケースであることを特徴とする金属部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−245512(P2011−245512A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121428(P2010−121428)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】