金属酸化物膜の製造方法、および積層体
【課題】本発明は、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【解決手段】本発明は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法、およびその金属酸化物膜を備えた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物膜は様々な優れた物性を示すことが知られており、その特性を活かして、透明導電膜、光学薄膜、燃料電池用電解質等、幅広い分野において使用されている。このような金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、印刷法等が知られている。
【0003】
一方、このような金属酸化物膜を得る別の方法として、スプレー熱分解法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。スプレー熱分解法は、金属酸化物膜を構成する金属源を含有した溶液を、高温の基材に噴霧することにより金属酸化物膜を得る方法であり、通常500℃程度に加熱した基材を使用することから、瞬時に溶媒が蒸発し、金属源が熱分解反応を起こすため、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができるという利点を有する。
【0004】
このようなスプレー熱分解法の研究としては、例えば、特許文献1においては、TiO2前駆体を含む溶液に過酸化水素又はアルミニウムアセチルアセトナートを添加して原料溶液を調製し、500℃程度に高温保持された基材に上記原料溶液を間歇噴霧することによりTiO2前駆体をTiO2に熱分解し、基材上に多孔質のTiO2薄膜を得る方法が開示されている。また、例えば、特許文献2は、特許文献1と同様に熱分解スプレー法により多孔質のTiO2薄膜を得る方法であるが、原料溶液に可溶性チタン化合物を加えた溶液を添加することにより、TiO2薄膜と基材との密着性向上を図るものであった。
【0005】
また、多孔質金属酸化物膜は、例えばガスや液体の改質膜、光学薄膜、放熱・断熱部材等に利用できるが、特に放熱部材等の分野においては、金属酸化物膜の基材側表面の多孔度は小さいこと、すなわち緻密であるが好ましく、基材側表面とは反対側の表面の多孔度が大きいことが好ましい。このように、積層方向等において、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜が望まれている。
【0006】
例えば特許文献3においては、基板上に、金属又は金属化合物からなる第1成分と、上記第1成分とは異なる金属化合物からなる第2成分とが互いに混合分散してなり、第1成分と第2成分との組成比が膜厚方向に変化する混合薄膜を成膜し、次いで上記混合薄膜中の第1成分を選択的に除去することを特徴とする多孔質金属化合物薄膜の成膜方法が開示されている。しかしながら、この方法は、第1成分と第2成分との組成比が異なる混合薄膜を成膜し、その混合薄膜から第1成分を除去する方法であるため、工程が複雑化するという問題点や材料のロスが多いという問題点があった。
【0007】
なお、特許文献4においては、金属酸化物微粒子と溶媒とを必須成分とする金属酸化物分散液をシート状電極上に噴霧して塗布し、乾燥して金属酸化物の多孔質膜を形成することを特徴とする色素増感型太陽電池用光活性電極の製造方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−145615公報
【特許文献2】特開2003−176130公報
【特許文献3】特開2005−39013公報
【特許文献4】特開2002−324591公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、これまでの研究により、金属塩または有機金属化合物等の金属源を溶媒に溶解させた溶液を、加熱した基材に対して噴霧すること等により、基材上に緻密な金属酸化物膜を形成することができることを見出している。一方、本発明者は、本発明を完成させる過程において、金属元素の異なる2種類以上の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に対して噴霧することにより、多孔質の金属酸化物膜を形成することができることを見出した。この現象は、金属元素の異なる2種類以上の金属源が、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長するためであると考えられる。
【0011】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、金属元素の異なる2種類以上の金属源の割合を経時的に変化させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、金属源の割合を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を加熱した基材に接触させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便に得ることができる。
【0014】
上記発明においては、上記金属源が、金属塩または有機金属化合物であることが好ましい。多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便な方法により得ることができるからである。
【0015】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源と、を有することが好ましい。酸化銅および酸化亜鉛から構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0016】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化ニッケルおよびYSZから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0017】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を有することが好ましい。酸化コバルトおよび酸化鉄から構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0018】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を有することが好ましい。酸化チタンおよび酸化ランタンから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0019】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化セリウムおよび酸化カルシウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0020】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化インジウムおよび酸化バナジウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0021】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化タンタルおよび酸化ガドリニウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0022】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を有することが好ましい。酸化クロムおよび酸化モリブデンから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0023】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化タングステンおよび酸化アルミニウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0024】
また、本発明においては、基材と、上記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、上記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、上記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とする積層体を提供する。
【0025】
本発明によれば、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を有することから、種々の用途に応用可能な積層体とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便な方法により得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法、および積層体について詳細に説明する。
【0028】
A.金属酸化物膜の製造方法
まず、本発明の金属酸化物膜の製造方法について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とするものである。
【0029】
本発明によれば、金属源の割合を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を加熱した基材に接触させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便に得ることができる。なお、上述したように、金属元素の異なる2種類以上の金属源を含有する金属酸化物膜を加熱した基材に塗布すると、金属元素の異なる金属酸化物が互いに反発するように結晶成長するため、多孔質の金属酸化物膜が得られる。本発明においては、その2種類以上の金属源の割合を段階的または連続的に変化させることによって、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができるのである。また、本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に接触させるという簡便な方法で、多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0030】
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法について図面を用いて説明する。図1は、本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。図1に示す金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)とを調製し、次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、溶液Aおよび溶液(A+B)を順次噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。上記方法を用いることにより、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。なお、得られた金属酸化物膜は、積層方向に多孔度が段階的に変化した金属酸化物膜ということができる。
【0031】
また、図2は、本発明の金属酸化物膜の形成方法の他の例を示す説明図である。図2に示す金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、最初は溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。上記方法を用いることにより、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0032】
また、本発明において、「金属酸化物膜形成温度」とは、金属源に含まれる金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。本発明において、このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本発明における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200I−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0033】
特に、本発明においては、上述した図1のように、金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる場合は、基材の加熱温度を、それぞれの金属酸化物膜形成用溶液に対応する金属酸化物膜形成用温度以上となるように適宜変化させても良いが、通常、その複数の金属酸化物膜形成用溶液の中で、最も高い金属酸化物膜形成温度以上に基材の加熱温度を設定し、その温度で一定のまま金属酸化物膜を形成する。一方、上述した図2のように、金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる場合は、通常、その金属酸化物膜形成用溶液の中で、最も高い金属酸化物膜形成温度以上に基材の加熱温度を設定し、その温度で一定のまま金属酸化物膜を形成する。
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、各構成毎に詳細に説明する。
【0034】
1.金属酸化物膜形成用溶液
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、金属源モル分率を変化させつつ、加熱した基材に接触させることにより、多孔度の変化した金属酸化物膜を得る。なお、「金属源モル分率」とは、金属酸化物膜形成用溶液に含まれる全ての金属源に対する、特定の金属源のモル基準の割合を意味するものである。
【0035】
本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、その金属源の金属源モル分率を変化させた金属酸化物膜形成用溶液を用いることにより、多孔度が変化した金属酸化物膜を得る。本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液に最も多く含まれる金属源の金属源モル分率が70%以下である金属酸化物膜形成用溶液を少なくとも一度は用いることが好ましい。特定の金属元素がその他の金属元素に対して過剰に存在することを防止でき、特定の金属酸化物結晶中に、その他の金属酸化物結晶がのみ込まれることを防止できるからである。その結果、異なる種類の金属元素同士が、互いに反発するように結晶成長し、平均孔径が小さく、高い表面積を有する多孔質の金属酸化物膜を得ることができる。なお、上記金属源モル分率は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、40%〜60%の範囲内であることがさらに好ましい。
また、上記金属源モル分率を変化させる方法については、後述する「3.金属源モル分率を変化させる方法」で詳細に説明する。
【0036】
以下、まず金属酸化物膜形成用溶液に含まれる金属源について説明し、次いで、酸化剤、還元剤、溶媒および添加剤について説明する。
【0037】
(1)金属源
本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源が用いられる。本発明に用いられる金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。また、上記金属源の組合せとしては、金属元素の異なる金属源の組合せであれば特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。金属元素が異なる金属源を用いれば、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長し、多孔質の金属酸化物膜を形成することができるからである。
以下、まず本発明に用いられる金属源について説明し、次いで金属源の組合せについて説明する。
【0038】
上記金属源を構成する金属元素としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ta、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、およびW等を挙げることができる。
【0039】
また、上述したように、上記金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。
上記金属塩としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0040】
一方、上記有機金属化合物としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、クロム(III)アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート、五塩化ニオブ、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウム(II)アセチルアセトナート、塩化アンチモン(III)、テルル酸ナトリウム、塩化バリウム二水和物、塩化タングステン(VI)等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、金属酸化物膜形成用溶液における金属源の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲内にあれば、比較的短時間で金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0042】
次に、本発明に用いられる金属源の組合せについて説明する。上述したように、本発明においては、金属元素の異なる金属源を2種類以上用いる。上記金属源の組合せとしては、金属元素の異なる金属源の組合せであれば特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。金属元素が異なる金属源を用いれば、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長し、多孔質の金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0043】
中でも、本発明においては、金属源の金属元素が結晶性金属酸化物になった際の格子定数の差が0.1以上である、2種類以上の金属源を用いることが好ましい。格子定数に差があれば、2種類以上の金属酸化物がそれぞれの結晶構造を維持し、お互いに反発しあった結果、平均孔径が小さく、高い表面積を有する多孔質金属酸化物を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0044】
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用いるものであるが、中でも、本発明においては、金属元素の異なる2種類または3種類の金属源を用いることが好ましい。
【0045】
本発明においては、用いられる2種類以上の金属源の組み合わせにより、多孔度が変化した金属酸化物膜を得る。多孔度を変化させる金属源の組み合わせとしては、上述したように、任意の組み合わせを採用することができる。以下その組合せを例示する。
【0046】
(i)銅含有金属源および亜鉛含有金属源の組み合わせ
本発明においては、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源とを組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化銅と酸化亜鉛とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0047】
上記銅含有金属源としては、銅元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、銅元素を含有する金属塩であっても良く、銅元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、銅元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、銅元素を含有する有機金属源化合物としては、例えば銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)等を挙げることができ、特に、銅(II)アセチルアセトナートが好ましい。
【0048】
上記亜鉛含有金属源としては、亜鉛元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、亜鉛元素を含有する金属塩であっても良く、亜鉛元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、亜鉛元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、亜鉛元素を含有する有機金属源化合物としては、例えば亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛等を挙げることができ、特に、亜鉛アセチルアセトナートが好ましい。
【0049】
(ii)ニッケル含有金属源、ジルコニウム含有金属およびイットリウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0050】
上記ニッケル含有金属源としては、ニッケル元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ニッケル元素を含有する金属塩であっても良く、ニッケル元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ニッケル元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ニッケル元素を含有する金属塩としては、例えば、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、酢酸ニッケル、リン酸ニッケル、および臭素酸ニッケル等を挙げることができ、特に硝酸ニッケルが好ましい。
【0051】
上記ジルコニウム含有金属源としては、ジルコニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ジルコニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物としては、例えば、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、およびジルコニウムモノステアレート等を挙げることができ、特にジルコニウムアセチルアセトネートが好ましい。
【0052】
上記イットリウム含有金属源としては、イットリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、イットリウム元素を含有する金属塩であっても良く、イットリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、イットリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、イットリウム元素を含有する金属塩としては、例えば、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、過塩素酸イットリウム、酢酸イットリウム、リン酸イットリウム、および臭素酸イットリウム等を挙げることができ、特に硝酸イットリウムが好ましい。
【0053】
上述したように、本発明においては金属酸化物膜の成分と一つとして、YSZが含まれていることが好ましい。用いられるジルコニウム含有金属源およびイットリウム含有金属源の割合は、所望のYSZを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム含有金属源を100とした場合に、モル換算で、イットリウム含有金属源が、3〜30の範囲内、中での5〜20の範囲内であることが好ましい。
【0054】
(iii)コバルト含有金属源および鉄含有金属源の組み合わせ
本発明においては、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化コバルトと酸化鉄とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0055】
上記コバルト含有金属源としては、コバルト元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、コバルト元素を含有する金属塩であっても良く、コバルト元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、コバルト元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、コバルト元素を含有する有機金属化合物としては、例えばコバルトアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0056】
上記鉄含有金属源としては、鉄元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、鉄元素を含有する金属塩であっても良く、鉄元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、鉄元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、鉄元素を含有する金属塩としては、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)等を挙げることができ、中でも硝酸鉄(III)が好ましい。
【0057】
(iv)チタン含有金属源およびランタン含有金属源の組み合わせ
本発明においては、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化チタンと酸化ランタンとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0058】
上記チタン含有金属源としては、チタン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、チタン元素を含有する金属塩であっても良く、チタン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、チタン元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、チタン元素を含有する有機金属化合物としては、例えばチタンアセチルアセトナート、チタンラクテート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物等を挙げることができ、中でもチタンアセチルアセトナートが好ましい。
【0059】
上記ランタン含有金属源としては、ランタン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ランタン元素を含有する金属塩であっても良く、ランタン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ランタン元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ランタン元素を含有する金属塩としては、例えば塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン等を挙げることができ、中でも塩化ランタンが好ましい。
【0060】
(v)セリウム含有金属源およびカルシウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化セリウムと酸化カルシウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0061】
上記セリウム含有金属源としては、セリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、セリウム元素を含有する金属塩であっても良く、セリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、セリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、セリウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム等を挙げることができ、中でも硝酸二アンモニウムセリウムが好ましい。
【0062】
上記カルシウム含有金属源としては、カルシウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、カルシウム元素を含有する金属塩であっても良く、カルシウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、カルシウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、カルシウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0063】
(vi)インジウム含有金属源およびバナジウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化インジウムと酸化バナジウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0064】
上記インジウム含有金属源としては、インジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、インジウム元素を含有する金属塩であっても良く、インジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、インジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、インジウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウム等を挙げることができ、中でも塩化インジウムが好ましい。
【0065】
上記バナジウム含有金属源としては、バナジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、バナジウム元素を含有する金属塩であっても良く、バナジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、バナジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、バナジウム元素を含有する金属塩としては、例えばオキソ硫酸バナジウム等を挙げることができる。
【0066】
(vii)タンタル含有金属源およびガドリニウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化タンタルと酸化ガドリニウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0067】
上記タンタル含有金属源としては、タンタル元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、タンタル元素を含有する金属塩であっても良く、タンタル元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、タンタル元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、タンタル元素を含有する有機金属化合物としては、例えばタンタル(V)エトキシド、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、等を挙げることができ、中でもタンタル(V)エトキシドが好ましい。
【0068】
上記ガドリニウム含有金属源としては、ガドリニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ガドリニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ガドリニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ガドリニウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ガドリニウム元素を含有する金属塩としては、例えば硝酸ガドリニウム等を挙げることができる。
【0069】
(viii)クロム含有金属源およびモリブデン含有金属源の組み合わせ
本発明においては、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化クロムと酸化モリブデンとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0070】
上記クロム含有金属源としては、クロム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、クロム元素を含有する金属塩であっても良く、クロム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、クロム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、クロム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化クロム、クロム酸アンモニウム等を挙げることができ、中でも塩化クロムが好ましい。
【0071】
上記モリブデン含有金属源としては、モリブデン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、モリブデン元素を含有する金属塩であっても良く、モリブデン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、モリブデン元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、モリブデン元素を含有する有機金属化合物としては、例えばりん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン等を挙げることができ、中でもりん酸モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0072】
(ix)タングステン含有金属源およびアルミニウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化タングステンと酸化アルミニウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0073】
上記タングステン含有金属源としては、タングステン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、タングステン元素を含有する金属塩であっても良く、タングステン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、タングステン元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、タングステン元素を含有する金属塩としては、例えば六塩化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム等を挙げることができ、中でも六塩化タングステンが好ましい。
【0074】
上記アルミニウム含有金属源としては、アルミニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、アルミニウム元素を含有する金属塩であっても良く、アルミニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、アルミニウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、アルミニウム元素を含有する金属塩としては、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等を挙げることができ、中でも硝酸アルミニウムが好ましい。
【0075】
(2)酸化剤
次に、本発明に用いられる酸化剤について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、酸化剤を含有していても良い。上記酸化剤を用いることにより、金属イオン等の価数を変化させることができ、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0076】
金属酸化物膜形成用溶液における酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.1mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0077】
このような酸化剤としては、後述する溶媒に溶解し、金属イオン等の酸化を促進することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、中でも過酸化水素、亜硝酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0078】
(3)還元剤
次に、本発明に用いられる還元剤について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、還元剤を含有していても良い。上記還元剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇させることができ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0079】
金属酸化物膜形成用溶液における還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.1mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0080】
このような還元剤としては、後述する溶媒に溶解し、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウムを挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0081】
また、本発明においては、還元剤と上述した酸化剤とを組み合わせて使用しても良い。このような還元剤および酸化剤の組合せとしては、基材加熱温度を低下させることができる組合せであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素または亜硝酸ナトリウムと任意の還元剤との組合せ、任意の酸化剤とボラン系錯体との組合せ等が挙げられ、中でも、過酸化水素とボラン系錯体との組合せが好ましい。
【0082】
(4)溶媒
次に、本発明に用いられる溶媒について説明する。本発明に用いられる溶媒は、上述した金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール;トルエン;アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類;アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類;およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0083】
(5)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、セラミックス微粒子、補助イオン源、および界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0084】
上記セラミックス微粒子を用いることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成され、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができる。なお、上記セラミックス微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜選択されることが好ましい。
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えばITO、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等を挙げることができる。
【0085】
また、上記補助イオン源は、還元剤の熱分解等により生じる電子と反応し水酸化物イオンを発生するものである。上記補助イオン源を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とし、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。なお、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えば、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。
【0086】
また、上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液と上記基材表面との界面に作用するものである。上記界面活性剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。特に、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧により接触させる場合、上記界面活性剤の効果により、金属酸化物膜形成用溶液の液滴と基材表面とを充分に接触させることができるため、好適に使用される。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
上記界面活性剤の種類としては、例えば、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0087】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上記金属酸化物膜を保持するものである。
上記基材の材料としては、充分な耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばガラス、SUS、金属板、セラミック基材、耐熱性プラスチック等を挙げることができ、中でもガラス、SUS、金属板、セラミック基材を使用することが好ましい。汎用性に優れているからである。
また、上記基材は、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるものであっても良い。中でも、平滑な表面を有するものが好ましい。
【0088】
3.金属源モル分率を変化させる方法
次に、金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に接触させる方法について説明する。本発明において、上記金属源モル分率を変化させる方法としては、多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した図1のように、金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法、および上述した図2のように、金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法等を挙げることができる。
【0089】
上記の金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、多孔度が段階的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、金属源Aおよび金属源Bを用いて幾つか例示する。なお、金属源Aおよび金属源Bは互いに異なる金属元素を有するものとする。
【0090】
例えば、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧し、次に金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0091】
また、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧し、次に金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0092】
また、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧し、次に金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧し、次に再び金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0093】
一方、上記の金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、上記と同様に幾つか例示する。
【0094】
例えば、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0095】
また、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aと溶液Bの混合溶液を噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に減少させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向けて、多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0096】
また、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧し、次に、溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に減少させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって一旦多孔度が連続的に大きくなり、再び多孔度が連続的に小さくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0097】
4.基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。上記接触方法としては、上述した基材と上述した金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる方法であれば特に限定されるものではないが、金属酸化物膜形成用溶液と基材を接触させた際に、基材の温度を低下させない方法であることが好ましい。基材の温度が低下すると成膜反応が起こらず所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。このような基材の温度を低下させない方法としては、例えば、金属酸化物膜形成用溶液を液滴として基材に接触させる方法等が挙げられ、中でも上記液滴の径が小さいことが好ましい。上記液滴の径が小さければ、金属酸化物膜形成用溶液の溶媒が瞬時に蒸発し、基材温度の低下をより抑制することができ、さらに液滴の径が小さいことで、均一な膜厚の金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0098】
このような径が小さい金属酸化物膜形成用溶液の液滴を基材に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法等が挙げられる。
【0099】
上記金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.1〜1000μmの範囲内、中でも0.5〜300μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0100】
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、上記噴射ガスの噴射量としては、例えば、0.1〜50l/minの範囲内、中でも1〜20l/minの範囲内であることが好ましい。また、上記スプレー装置は固定されていているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液のみを噴射させるもの等であっても良い。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(スプレーガンNo.8012、アズワン社製)、超音波ネプライザー(NE−U17、オムロン社製)等を用いることができる。
【0101】
また、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法においては、液滴の径は、通常0.1〜300μmの範囲内、中でも1〜100μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0102】
本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液と加熱した基材とを接触させるのであるが、その際、基材は上述した「金属酸化物膜形成温度」以上の温度まで加熱される。このような「金属酸化物膜形成温度」は、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって異なるものであるが、一般的には150〜600℃の範囲内であり、中でも250〜400℃の範囲内であることが好ましい。
【0103】
また、このような基材の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等の加熱方法を挙げることができ、中でも基材温度を上記温度に保持しながら上記金属酸化物膜形成用溶液に接触できる方法が好ましく、具体的にはホットプレート等を使用することが好ましい。
【0104】
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について、図面を用いて具体的に説明する。上述した金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法としては、例えば、ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法、固定された基材上に噴霧する方法、パイプのような流路に噴霧する方法等が挙げられる。
【0105】
上記ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法としては、例えば、図3に示すように、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、ローラー3〜6を用いて、基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱しながら連続的に移動させ、スプレー装置2を用いて最初は溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向と直交する方向(基材の移動方向)に多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0106】
また、上記固定された基材上に噴霧する方法は、例えば、図1または図2に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、スプレー装置2を用いて金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向に多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0107】
また、上述した金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては、例えば、図4に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aをミスト状にした空間を通過させ、次に、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)をミスト状にした空間を通過させることにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向において多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0108】
5.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。
【0109】
B.積層体
次に、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、基材と、上記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、上記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、上記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とするものである。
【0110】
本発明によれば、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を有することから、種々の用途に応用可能な積層体とすることができる。
【0111】
次に、本発明の積層体について図面を用いて説明する。図5は、本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。図5に示す積層体は、基材1と、基材1上に形成された金属酸化物膜6とを有し、金属酸化物膜6の多孔度が、基材表面側で最も低く、基材表面側とは反対の表面側に向かうにつれ、積層方向に連続的に高くなるものである。
以下、本発明の積層体について、各構成ごとに説明を行う。
【0112】
1.金属酸化物膜
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜は、後述する基材上に形成され、異なる2種類以上の金属元素を有し、かつ、その多孔度が、連続的に変化しているものである。なお、通常、上記金属酸化物膜は、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法」に記載した方法により得られるものである。
【0113】
本発明において、金属酸化物膜の多孔度が連続的に変化する方向としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層方向、および積層方向に直交する方向等が挙げられ、中でも、積層方向が好ましい。すなわち、本発明においては、上記金属酸化物膜の多孔度が、積層方向に連続的に変化するものであることが好ましい。汎用性に優れた積層体を得ることができるからである。このような金属酸化物膜としては、具体的には、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法 3.金属源モル分率を変化させる方法」に記載したもの等を挙げることができる。
【0114】
また、本発明において、上記金属酸化物膜の多孔度が連続的に変化していることは、金属酸化物膜の断面(積層方向)を、透過電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して判断する。または、光電子分光分析装置(ESCA)により金属酸化物膜中に存在する金属元素の割合等を調べることにより、確認することができる。
【0115】
上記金属酸化物膜の膜厚としては、本発明の積層体の用途等により異なるものであり、特に限定されるものではないが、例えば10nm〜50μmの範囲内、中でも100nm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0116】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上記金属酸化物膜を保持するものである。基材の種類としては、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法 2.基材」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。また、基材の厚みや大きさについても特に限定されるものではなく、本発明の用途等に合わせて適宜選択することが好ましい。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0119】
[参考例1]
本参考例においては、酸化銅と酸化亜鉛とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/l、亜鉛アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15重量%、トルエン85重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を500ml調製した。
【0120】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0121】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径15nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は400nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は10nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図6に示す。図6は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化銅および酸化亜鉛により構成されていることが明らかになった。
【0122】
[実施例1−1]
本実施例においては、多孔度が積層方向に段階的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15%、トルエン85%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを500ml調製した。次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/l、亜鉛アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15重量%、トルエン85重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを500ml調製した。
【0123】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをこの順に、超音波ネプライザ(オムロン社製)にて全てスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0124】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から順に、銅アセチルアセトナートに由来する緻密な酸化銅膜、ならびに、銅アセチルアセトナートおよび亜鉛アセチルアセトナートに由来する多孔質金属酸化物膜が形成されていることが確認された(図7参照)。
【0125】
[実施例1−2]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、実施例1−1と同様のガラス板を用意した。
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、実施例1−1で用いた金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて150mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、実施例1−1で用いた金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0126】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図8参照)。
【0127】
[参考例2]
本参考例においては、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、30%ガドリニウムをドープさせた酸化セリウム基材を用意した。
次に、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸イットリウム(関東化学社製)が濃度0.008mol/l、硝酸ニッケル(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、トルエン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を300ml調整した。
【0128】
次に、上記基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて300mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0129】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径100nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は200nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図9に示す。図9(a)は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図であり、図9(b)は得られた多孔質金属酸化物膜の断面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化ニッケルおよびYSZにより構成されていることが明らかになった。
【0130】
[実施例2]
本実施例においては、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる金属酸化物膜であって、さらに多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、30%ガドリニウムをドープさせた酸化セリウム基材を用意した。
次に、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸イットリウム(関東化学社製)が濃度0.008mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、トルエン50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを1L調製した。一方、硝酸ニッケル(関東化学社製)が0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール80重量%、水20重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを1L調製した。
【0131】
次に、上記基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて150mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0132】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図10参照)。
【0133】
[参考例3]
本参考例においては、酸化コバルトと酸化鉄とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、コバルトアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸鉄(III)九水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0134】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0135】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径60nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は200nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は30nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図11に示す。図11は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化コバルトおよび酸化鉄により構成されていることが明らかになった。
【0136】
[実施例3]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、コバルトアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50%、トルエン50%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを100ml調製した。次に、硝酸鉄(III)九水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを100ml調製した。
【0137】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図12参照)。
【0138】
[参考例4]
本参考例においては、酸化チタンと酸化ランタンとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、塩化ランタン七水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、イソプロピルアルコール50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0139】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0140】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径30nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は300nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は20nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図13に示す。図13は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化チタンおよび酸化ランタンにより構成されていることが明らかになった。
【0141】
[実施例4]
本実施例においては、多孔度が積層方向に段階的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、イソプロピルアルコール50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを200ml調製した。次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.05mol/l、塩化ランタン七水和物(関東化学社製)が濃度0.05mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを100ml調製した。
【0142】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをこの順に、超音波ネプライザ(オムロン社製)にて全てスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0143】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から順に、チタンアセチルアセトナートに由来する緻密な酸化チタン膜、ならびに、チタンアセチルアセトナートおよび塩化ランタンに由来する多孔質金属酸化物膜が形成されていることが確認された(図14参照)。
【0144】
[参考例5]
本参考例においては、酸化セリウムと酸化カルシウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、塩化カルシウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を300ml調製した。
【0145】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて300mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0146】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、膜厚は350nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は100nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図15に示す。図15は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化セリウムおよび酸化カルシウムにより構成されていることが明らかになった。
【0147】
[実施例5]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、酸化ニッケルとサマリウムドーピングセリアのサーメットとから構成される多孔質な基板(φ13mm、厚さ0.8mm)を用意した。
次に、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを500ml調製した。次に、塩化カルシウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを500ml調製した。
【0148】
次に、上記基材(多孔質基板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき2mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0149】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、多孔質な基材からまずは緻密膜が形成され、その後は連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図16参照)。
【0150】
[参考例6]
本参考例においては、酸化インジウムと酸化バナジウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、塩化インジウム(関東化学社製)が濃度0.05mol/l、オキソ硫酸バナジウム(関東化学社製)が濃度0.12mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0151】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0152】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径150nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は350nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図17に示す。図17は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化インジウムおよび酸化バナジウムにより構成されていることが明らかになった。
【0153】
[参考例7]
本参考例においては、酸化タンタルと酸化ガドリニウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、タンタル(V)エトキシド(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸ガドリニウム(関東化学社製)が濃度0.15mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセチルアセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0154】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0155】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は約600nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図18に示す。図18は得られた多孔質金属酸化物膜の断面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I-XL)による測定により、酸化タンタルおよび酸化ガドリニウムにより構成されていることが明らかになった。
【0156】
[参考例8]
本参考例においては、酸化クロムと酸化モリブデンとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、塩化クロム(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、りん酸モリブデン酸アンモニウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0157】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0158】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は100nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は15nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図19に示す。図19は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I-XL)による測定により、酸化クロムおよび酸化モリブデンにより構成されていることが明らかになった。
【0159】
[参考例9]
本参考例においては、酸化タングステンと酸化アルミニウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、六塩化タングステン(関東化学社製)が濃度0.2mol/l、硝酸アルミニウム(関東化学社製)が濃度0.2mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセチルアセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を500ml調製した。
【0160】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0161】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は400nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図20に示す。図20は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)と光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化タングステンおよび酸化アルミニウムにより構成されていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。
【図6】参考例1で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図7】実施例1−1で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図8】実施例1−2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図9】参考例2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図10】実施例2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図11】参考例3で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図12】実施例3で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図13】参考例4で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図14】実施例4で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図15】参考例5で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図16】実施例5で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図17】参考例6で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図18】参考例7で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図19】参考例8で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図20】参考例9で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【符号の説明】
【0163】
1 … 基材
2 … スプレー装置
3、4、5 … ローラー
6 … 金属酸化物膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法、およびその金属酸化物膜を備えた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物膜は様々な優れた物性を示すことが知られており、その特性を活かして、透明導電膜、光学薄膜、燃料電池用電解質等、幅広い分野において使用されている。このような金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、印刷法等が知られている。
【0003】
一方、このような金属酸化物膜を得る別の方法として、スプレー熱分解法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。スプレー熱分解法は、金属酸化物膜を構成する金属源を含有した溶液を、高温の基材に噴霧することにより金属酸化物膜を得る方法であり、通常500℃程度に加熱した基材を使用することから、瞬時に溶媒が蒸発し、金属源が熱分解反応を起こすため、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができるという利点を有する。
【0004】
このようなスプレー熱分解法の研究としては、例えば、特許文献1においては、TiO2前駆体を含む溶液に過酸化水素又はアルミニウムアセチルアセトナートを添加して原料溶液を調製し、500℃程度に高温保持された基材に上記原料溶液を間歇噴霧することによりTiO2前駆体をTiO2に熱分解し、基材上に多孔質のTiO2薄膜を得る方法が開示されている。また、例えば、特許文献2は、特許文献1と同様に熱分解スプレー法により多孔質のTiO2薄膜を得る方法であるが、原料溶液に可溶性チタン化合物を加えた溶液を添加することにより、TiO2薄膜と基材との密着性向上を図るものであった。
【0005】
また、多孔質金属酸化物膜は、例えばガスや液体の改質膜、光学薄膜、放熱・断熱部材等に利用できるが、特に放熱部材等の分野においては、金属酸化物膜の基材側表面の多孔度は小さいこと、すなわち緻密であるが好ましく、基材側表面とは反対側の表面の多孔度が大きいことが好ましい。このように、積層方向等において、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜が望まれている。
【0006】
例えば特許文献3においては、基板上に、金属又は金属化合物からなる第1成分と、上記第1成分とは異なる金属化合物からなる第2成分とが互いに混合分散してなり、第1成分と第2成分との組成比が膜厚方向に変化する混合薄膜を成膜し、次いで上記混合薄膜中の第1成分を選択的に除去することを特徴とする多孔質金属化合物薄膜の成膜方法が開示されている。しかしながら、この方法は、第1成分と第2成分との組成比が異なる混合薄膜を成膜し、その混合薄膜から第1成分を除去する方法であるため、工程が複雑化するという問題点や材料のロスが多いという問題点があった。
【0007】
なお、特許文献4においては、金属酸化物微粒子と溶媒とを必須成分とする金属酸化物分散液をシート状電極上に噴霧して塗布し、乾燥して金属酸化物の多孔質膜を形成することを特徴とする色素増感型太陽電池用光活性電極の製造方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−145615公報
【特許文献2】特開2003−176130公報
【特許文献3】特開2005−39013公報
【特許文献4】特開2002−324591公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を、簡便な方法により得ることができる金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、これまでの研究により、金属塩または有機金属化合物等の金属源を溶媒に溶解させた溶液を、加熱した基材に対して噴霧すること等により、基材上に緻密な金属酸化物膜を形成することができることを見出している。一方、本発明者は、本発明を完成させる過程において、金属元素の異なる2種類以上の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に対して噴霧することにより、多孔質の金属酸化物膜を形成することができることを見出した。この現象は、金属元素の異なる2種類以上の金属源が、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長するためであると考えられる。
【0011】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、金属元素の異なる2種類以上の金属源の割合を経時的に変化させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を形成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、金属源の割合を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を加熱した基材に接触させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便に得ることができる。
【0014】
上記発明においては、上記金属源が、金属塩または有機金属化合物であることが好ましい。多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便な方法により得ることができるからである。
【0015】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源と、を有することが好ましい。酸化銅および酸化亜鉛から構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0016】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化ニッケルおよびYSZから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0017】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を有することが好ましい。酸化コバルトおよび酸化鉄から構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0018】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を有することが好ましい。酸化チタンおよび酸化ランタンから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0019】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化セリウムおよび酸化カルシウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0020】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化インジウムおよび酸化バナジウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0021】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化タンタルおよび酸化ガドリニウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0022】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を有することが好ましい。酸化クロムおよび酸化モリブデンから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0023】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を有することが好ましい。酸化タングステンおよび酸化アルミニウムから構成される多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0024】
また、本発明においては、基材と、上記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、上記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、上記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とする積層体を提供する。
【0025】
本発明によれば、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を有することから、種々の用途に応用可能な積層体とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便な方法により得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法、および積層体について詳細に説明する。
【0028】
A.金属酸化物膜の製造方法
まず、本発明の金属酸化物膜の製造方法について説明する。本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、上記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、上記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とするものである。
【0029】
本発明によれば、金属源の割合を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を加熱した基材に接触させることにより、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を簡便に得ることができる。なお、上述したように、金属元素の異なる2種類以上の金属源を含有する金属酸化物膜を加熱した基材に塗布すると、金属元素の異なる金属酸化物が互いに反発するように結晶成長するため、多孔質の金属酸化物膜が得られる。本発明においては、その2種類以上の金属源の割合を段階的または連続的に変化させることによって、多孔度が段階的または連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができるのである。また、本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に接触させるという簡便な方法で、多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0030】
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法について図面を用いて説明する。図1は、本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。図1に示す金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)とを調製し、次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、溶液Aおよび溶液(A+B)を順次噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。上記方法を用いることにより、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。なお、得られた金属酸化物膜は、積層方向に多孔度が段階的に変化した金属酸化物膜ということができる。
【0031】
また、図2は、本発明の金属酸化物膜の形成方法の他の例を示す説明図である。図2に示す金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、次いで、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材1に対して、スプレー装置2を用い、最初は溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧することによって、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。上記方法を用いることにより、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0032】
また、本発明において、「金属酸化物膜形成温度」とは、金属源に含まれる金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。本発明において、このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本発明における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200I−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0033】
特に、本発明においては、上述した図1のように、金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる場合は、基材の加熱温度を、それぞれの金属酸化物膜形成用溶液に対応する金属酸化物膜形成用温度以上となるように適宜変化させても良いが、通常、その複数の金属酸化物膜形成用溶液の中で、最も高い金属酸化物膜形成温度以上に基材の加熱温度を設定し、その温度で一定のまま金属酸化物膜を形成する。一方、上述した図2のように、金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる場合は、通常、その金属酸化物膜形成用溶液の中で、最も高い金属酸化物膜形成温度以上に基材の加熱温度を設定し、その温度で一定のまま金属酸化物膜を形成する。
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、各構成毎に詳細に説明する。
【0034】
1.金属酸化物膜形成用溶液
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、上記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、金属源モル分率を変化させつつ、加熱した基材に接触させることにより、多孔度の変化した金属酸化物膜を得る。なお、「金属源モル分率」とは、金属酸化物膜形成用溶液に含まれる全ての金属源に対する、特定の金属源のモル基準の割合を意味するものである。
【0035】
本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、その金属源の金属源モル分率を変化させた金属酸化物膜形成用溶液を用いることにより、多孔度が変化した金属酸化物膜を得る。本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液に最も多く含まれる金属源の金属源モル分率が70%以下である金属酸化物膜形成用溶液を少なくとも一度は用いることが好ましい。特定の金属元素がその他の金属元素に対して過剰に存在することを防止でき、特定の金属酸化物結晶中に、その他の金属酸化物結晶がのみ込まれることを防止できるからである。その結果、異なる種類の金属元素同士が、互いに反発するように結晶成長し、平均孔径が小さく、高い表面積を有する多孔質の金属酸化物膜を得ることができる。なお、上記金属源モル分率は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、40%〜60%の範囲内であることがさらに好ましい。
また、上記金属源モル分率を変化させる方法については、後述する「3.金属源モル分率を変化させる方法」で詳細に説明する。
【0036】
以下、まず金属酸化物膜形成用溶液に含まれる金属源について説明し、次いで、酸化剤、還元剤、溶媒および添加剤について説明する。
【0037】
(1)金属源
本発明においては、金属元素の異なる2種類以上の金属源が用いられる。本発明に用いられる金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。また、上記金属源の組合せとしては、金属元素の異なる金属源の組合せであれば特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。金属元素が異なる金属源を用いれば、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長し、多孔質の金属酸化物膜を形成することができるからである。
以下、まず本発明に用いられる金属源について説明し、次いで金属源の組合せについて説明する。
【0038】
上記金属源を構成する金属元素としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ta、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、およびW等を挙げることができる。
【0039】
また、上述したように、上記金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。
上記金属塩としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。
【0040】
一方、上記有機金属化合物としては、金属酸化物膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、チタンアセチルアセトネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、鉄(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、ランタンアセチルアセトナート二水和物、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、セリウム(III)アセチルアセトナートn水和物、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛、カルシウムアセチルアセトナート二水和物、クロム(III)アセチルアセトナート、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート、五塩化ニオブ、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウム(II)アセチルアセトナート、塩化アンチモン(III)、テルル酸ナトリウム、塩化バリウム二水和物、塩化タングステン(VI)等を挙げることができる。
【0041】
本発明において、金属酸化物膜形成用溶液における金属源の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲内にあれば、比較的短時間で金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0042】
次に、本発明に用いられる金属源の組合せについて説明する。上述したように、本発明においては、金属元素の異なる金属源を2種類以上用いる。上記金属源の組合せとしては、金属元素の異なる金属源の組合せであれば特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。金属元素が異なる金属源を用いれば、金属酸化物膜を形成する際に、互いに反発するように結晶成長し、多孔質の金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0043】
中でも、本発明においては、金属源の金属元素が結晶性金属酸化物になった際の格子定数の差が0.1以上である、2種類以上の金属源を用いることが好ましい。格子定数に差があれば、2種類以上の金属酸化物がそれぞれの結晶構造を維持し、お互いに反発しあった結果、平均孔径が小さく、高い表面積を有する多孔質金属酸化物を含む金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0044】
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属元素の異なる2種類以上の金属源を用いるものであるが、中でも、本発明においては、金属元素の異なる2種類または3種類の金属源を用いることが好ましい。
【0045】
本発明においては、用いられる2種類以上の金属源の組み合わせにより、多孔度が変化した金属酸化物膜を得る。多孔度を変化させる金属源の組み合わせとしては、上述したように、任意の組み合わせを採用することができる。以下その組合せを例示する。
【0046】
(i)銅含有金属源および亜鉛含有金属源の組み合わせ
本発明においては、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源とを組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化銅と酸化亜鉛とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0047】
上記銅含有金属源としては、銅元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、銅元素を含有する金属塩であっても良く、銅元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、銅元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、銅元素を含有する有機金属源化合物としては、例えば銅(II)アセチルアセトナート、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)等を挙げることができ、特に、銅(II)アセチルアセトナートが好ましい。
【0048】
上記亜鉛含有金属源としては、亜鉛元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、亜鉛元素を含有する金属塩であっても良く、亜鉛元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、亜鉛元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、亜鉛元素を含有する有機金属源化合物としては、例えば亜鉛アセチルアセトナート、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛等を挙げることができ、特に、亜鉛アセチルアセトナートが好ましい。
【0049】
(ii)ニッケル含有金属源、ジルコニウム含有金属およびイットリウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0050】
上記ニッケル含有金属源としては、ニッケル元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ニッケル元素を含有する金属塩であっても良く、ニッケル元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ニッケル元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ニッケル元素を含有する金属塩としては、例えば、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、過塩素酸ニッケル、酢酸ニッケル、リン酸ニッケル、および臭素酸ニッケル等を挙げることができ、特に硝酸ニッケルが好ましい。
【0051】
上記ジルコニウム含有金属源としては、ジルコニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ジルコニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物としては、例えば、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、およびジルコニウムモノステアレート等を挙げることができ、特にジルコニウムアセチルアセトネートが好ましい。
【0052】
上記イットリウム含有金属源としては、イットリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、イットリウム元素を含有する金属塩であっても良く、イットリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、イットリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、イットリウム元素を含有する金属塩としては、例えば、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、過塩素酸イットリウム、酢酸イットリウム、リン酸イットリウム、および臭素酸イットリウム等を挙げることができ、特に硝酸イットリウムが好ましい。
【0053】
上述したように、本発明においては金属酸化物膜の成分と一つとして、YSZが含まれていることが好ましい。用いられるジルコニウム含有金属源およびイットリウム含有金属源の割合は、所望のYSZを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム含有金属源を100とした場合に、モル換算で、イットリウム含有金属源が、3〜30の範囲内、中での5〜20の範囲内であることが好ましい。
【0054】
(iii)コバルト含有金属源および鉄含有金属源の組み合わせ
本発明においては、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化コバルトと酸化鉄とからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0055】
上記コバルト含有金属源としては、コバルト元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、コバルト元素を含有する金属塩であっても良く、コバルト元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、コバルト元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、コバルト元素を含有する有機金属化合物としては、例えばコバルトアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0056】
上記鉄含有金属源としては、鉄元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、鉄元素を含有する金属塩であっても良く、鉄元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、鉄元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、鉄元素を含有する金属塩としては、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)等を挙げることができ、中でも硝酸鉄(III)が好ましい。
【0057】
(iv)チタン含有金属源およびランタン含有金属源の組み合わせ
本発明においては、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化チタンと酸化ランタンとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0058】
上記チタン含有金属源としては、チタン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、チタン元素を含有する金属塩であっても良く、チタン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、チタン元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、チタン元素を含有する有機金属化合物としては、例えばチタンアセチルアセトナート、チタンラクテート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物等を挙げることができ、中でもチタンアセチルアセトナートが好ましい。
【0059】
上記ランタン含有金属源としては、ランタン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ランタン元素を含有する金属塩であっても良く、ランタン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ランタン元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ランタン元素を含有する金属塩としては、例えば塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン等を挙げることができ、中でも塩化ランタンが好ましい。
【0060】
(v)セリウム含有金属源およびカルシウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化セリウムと酸化カルシウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0061】
上記セリウム含有金属源としては、セリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、セリウム元素を含有する金属塩であっても良く、セリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、セリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、セリウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム等を挙げることができ、中でも硝酸二アンモニウムセリウムが好ましい。
【0062】
上記カルシウム含有金属源としては、カルシウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、カルシウム元素を含有する金属塩であっても良く、カルシウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、カルシウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、カルシウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0063】
(vi)インジウム含有金属源およびバナジウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化インジウムと酸化バナジウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0064】
上記インジウム含有金属源としては、インジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、インジウム元素を含有する金属塩であっても良く、インジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、インジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、インジウム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウム等を挙げることができ、中でも塩化インジウムが好ましい。
【0065】
上記バナジウム含有金属源としては、バナジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、バナジウム元素を含有する金属塩であっても良く、バナジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、バナジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、バナジウム元素を含有する金属塩としては、例えばオキソ硫酸バナジウム等を挙げることができる。
【0066】
(vii)タンタル含有金属源およびガドリニウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化タンタルと酸化ガドリニウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0067】
上記タンタル含有金属源としては、タンタル元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、タンタル元素を含有する金属塩であっても良く、タンタル元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、タンタル元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、タンタル元素を含有する有機金属化合物としては、例えばタンタル(V)エトキシド、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、等を挙げることができ、中でもタンタル(V)エトキシドが好ましい。
【0068】
上記ガドリニウム含有金属源としては、ガドリニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、ガドリニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ガドリニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ガドリニウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、ガドリニウム元素を含有する金属塩としては、例えば硝酸ガドリニウム等を挙げることができる。
【0069】
(viii)クロム含有金属源およびモリブデン含有金属源の組み合わせ
本発明においては、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化クロムと酸化モリブデンとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0070】
上記クロム含有金属源としては、クロム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、クロム元素を含有する金属塩であっても良く、クロム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、クロム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、クロム元素を含有する金属塩としては、例えば塩化クロム、クロム酸アンモニウム等を挙げることができ、中でも塩化クロムが好ましい。
【0071】
上記モリブデン含有金属源としては、モリブデン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、モリブデン元素を含有する金属塩であっても良く、モリブデン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、モリブデン元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。さらに、モリブデン元素を含有する有機金属化合物としては、例えばりん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン等を挙げることができ、中でもりん酸モリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0072】
(ix)タングステン含有金属源およびアルミニウム含有金属源の組み合わせ
本発明においては、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を組み合わせることが好ましい。なお、この場合は、酸化タングステンと酸化アルミニウムとからなる多孔質成分を含む金属酸化物膜を得ることができる。
【0073】
上記タングステン含有金属源としては、タングステン元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、タングステン元素を含有する金属塩であっても良く、タングステン元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、タングステン元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、タングステン元素を含有する金属塩としては、例えば六塩化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム等を挙げることができ、中でも六塩化タングステンが好ましい。
【0074】
上記アルミニウム含有金属源としては、アルミニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、アルミニウム元素を含有する金属塩であっても良く、アルミニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、アルミニウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。さらに、アルミニウム元素を含有する金属塩としては、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等を挙げることができ、中でも硝酸アルミニウムが好ましい。
【0075】
(2)酸化剤
次に、本発明に用いられる酸化剤について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、酸化剤を含有していても良い。上記酸化剤を用いることにより、金属イオン等の価数を変化させることができ、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0076】
金属酸化物膜形成用溶液における酸化剤の濃度としては、酸化剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.1mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0077】
このような酸化剤としては、後述する溶媒に溶解し、金属イオン等の酸化を促進することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、酸化銀、二クロム酸、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、中でも過酸化水素、亜硝酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0078】
(3)還元剤
次に、本発明に用いられる還元剤について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、還元剤を含有していても良い。上記還元剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液のpHが上昇させることができ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とすることができ、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。
【0079】
金属酸化物膜形成用溶液における還元剤の濃度としては、還元剤の種類に応じて異なるものではあるが、通常0.001〜1mol/lの範囲内であり、中でも0.01〜0.1mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、基材加熱温度を低下させる効果を充分に発揮することができない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、得られる効果に大差が見られず、コスト上好ましくないからである。
【0080】
このような還元剤としては、後述する溶媒に溶解し、分解反応により電子を放出することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,Nジエチルアニリン錯体、ボラン−ジメチルアミン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体等のボラン系錯体、水酸化シアノホウ素ナトリウム、水酸化ホウ素ナトリウムを挙げることができ、中でもボラン系錯体を使用することが好ましい。
【0081】
また、本発明においては、還元剤と上述した酸化剤とを組み合わせて使用しても良い。このような還元剤および酸化剤の組合せとしては、基材加熱温度を低下させることができる組合せであれば特に限定されるものではないが、例えば、過酸化水素または亜硝酸ナトリウムと任意の還元剤との組合せ、任意の酸化剤とボラン系錯体との組合せ等が挙げられ、中でも、過酸化水素とボラン系錯体との組合せが好ましい。
【0082】
(4)溶媒
次に、本発明に用いられる溶媒について説明する。本発明に用いられる溶媒は、上述した金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール;トルエン;アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類;アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類;およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0083】
(5)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、セラミックス微粒子、補助イオン源、および界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0084】
上記セラミックス微粒子を用いることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成され、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができる。なお、上記セラミックス微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜選択されることが好ましい。
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えばITO、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等を挙げることができる。
【0085】
また、上記補助イオン源は、還元剤の熱分解等により生じる電子と反応し水酸化物イオンを発生するものである。上記補助イオン源を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液のpHを上昇させ、プールベ線図における金属酸化物領域あるいは金属水酸化物領域へ誘導し、金属酸化物膜の発生しやすい環境とし、より低い基材加熱温度で金属酸化物膜を得ることができる。なお、上記補助イオン源の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えば、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、次臭素酸イオン、硝酸イオン、および亜硝酸イオンからなる群から選択されるイオン種を挙げることができる。
【0086】
また、上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液と上記基材表面との界面に作用するものである。上記界面活性剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。特に、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧により接触させる場合、上記界面活性剤の効果により、金属酸化物膜形成用溶液の液滴と基材表面とを充分に接触させることができるため、好適に使用される。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源や還元剤に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
上記界面活性剤の種類としては、例えば、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0087】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上記金属酸化物膜を保持するものである。
上記基材の材料としては、充分な耐熱性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばガラス、SUS、金属板、セラミック基材、耐熱性プラスチック等を挙げることができ、中でもガラス、SUS、金属板、セラミック基材を使用することが好ましい。汎用性に優れているからである。
また、上記基材は、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるものであっても良い。中でも、平滑な表面を有するものが好ましい。
【0088】
3.金属源モル分率を変化させる方法
次に、金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成用溶液を、加熱した基材に接触させる方法について説明する。本発明において、上記金属源モル分率を変化させる方法としては、多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、上述した図1のように、金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法、および上述した図2のように、金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法等を挙げることができる。
【0089】
上記の金属源モル分率を段階的に変化させた複数の金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、多孔度が段階的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、金属源Aおよび金属源Bを用いて幾つか例示する。なお、金属源Aおよび金属源Bは互いに異なる金属元素を有するものとする。
【0090】
例えば、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧し、次に金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0091】
また、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧し、次に金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0092】
また、図1に示した装置を用いて、最初に、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧し、次に金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)を噴霧し、次に再び金属酸化物膜形成用溶液Aを噴霧した場合、基材表面側から、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、金属源Aおよび金属源Bに由来する多孔質の金属酸化物層と、金属源Aに由来する緻密な金属酸化物層と、を備えた金属酸化物膜を得ることができる。
【0093】
一方、上記の金属源モル分率が連続的に変化する金属酸化物膜形成用溶液を用いる方法により、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を得ることができる。ここで、この方法の具体例について、上記と同様に幾つか例示する。
【0094】
例えば、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0095】
また、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aと溶液Bの混合溶液を噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に減少させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向けて、多孔度が連続的に大きくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0096】
また、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、図2に示した装置を用いて、最初に、溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧し、次に、溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に減少させて噴霧した場合、基材表面側が緻密で、その反対側に向かって一旦多孔度が連続的に大きくなり、再び多孔度が連続的に小さくなる金属酸化物膜を得ることができる。
【0097】
4.基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。上記接触方法としては、上述した基材と上述した金属酸化物膜形成用溶液とを接触させる方法であれば特に限定されるものではないが、金属酸化物膜形成用溶液と基材を接触させた際に、基材の温度を低下させない方法であることが好ましい。基材の温度が低下すると成膜反応が起こらず所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。このような基材の温度を低下させない方法としては、例えば、金属酸化物膜形成用溶液を液滴として基材に接触させる方法等が挙げられ、中でも上記液滴の径が小さいことが好ましい。上記液滴の径が小さければ、金属酸化物膜形成用溶液の溶媒が瞬時に蒸発し、基材温度の低下をより抑制することができ、さらに液滴の径が小さいことで、均一な膜厚の金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0098】
このような径が小さい金属酸化物膜形成用溶液の液滴を基材に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法等が挙げられる。
【0099】
上記金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.1〜1000μmの範囲内、中でも0.5〜300μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0100】
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、上記噴射ガスの噴射量としては、例えば、0.1〜50l/minの範囲内、中でも1〜20l/minの範囲内であることが好ましい。また、上記スプレー装置は固定されていているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液のみを噴射させるもの等であっても良い。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(スプレーガンNo.8012、アズワン社製)、超音波ネプライザー(NE−U17、オムロン社製)等を用いることができる。
【0101】
また、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法においては、液滴の径は、通常0.1〜300μmの範囲内、中でも1〜100μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0102】
本発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液と加熱した基材とを接触させるのであるが、その際、基材は上述した「金属酸化物膜形成温度」以上の温度まで加熱される。このような「金属酸化物膜形成温度」は、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって異なるものであるが、一般的には150〜600℃の範囲内であり、中でも250〜400℃の範囲内であることが好ましい。
【0103】
また、このような基材の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等の加熱方法を挙げることができ、中でも基材温度を上記温度に保持しながら上記金属酸化物膜形成用溶液に接触できる方法が好ましく、具体的にはホットプレート等を使用することが好ましい。
【0104】
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について、図面を用いて具体的に説明する。上述した金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法としては、例えば、ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法、固定された基材上に噴霧する方法、パイプのような流路に噴霧する方法等が挙げられる。
【0105】
上記ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法としては、例えば、図3に示すように、金属元素の異なる金属源Aおよび金属源Bを用い、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aと、金属源Bのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Bとを調製し、ローラー3〜6を用いて、基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱しながら連続的に移動させ、スプレー装置2を用いて最初は溶液Aのみを噴霧し、次に溶液Aに対する溶液Bの流量を徐々に増加させて噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向と直交する方向(基材の移動方向)に多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0106】
また、上記固定された基材上に噴霧する方法は、例えば、図1または図2に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、スプレー装置2を用いて金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向に多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0107】
また、上述した金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては、例えば、図4に示すように、ホットプレート等を用いて基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、金属源Aのみを含有する金属酸化物膜形成用溶液Aをミスト状にした空間を通過させ、次に、金属源Aおよび金属源Bを含有する金属酸化物膜形成用溶液(A+B)をミスト状にした空間を通過させることにより、金属酸化物膜を形成する方法等が挙げられる。この方法により、金属酸化物膜の積層方向において多孔度が変化した金属酸化物膜を得ることができる。
【0108】
5.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。
【0109】
B.積層体
次に、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、基材と、上記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、上記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、上記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とするものである。
【0110】
本発明によれば、多孔度が連続的に変化した金属酸化物膜を有することから、種々の用途に応用可能な積層体とすることができる。
【0111】
次に、本発明の積層体について図面を用いて説明する。図5は、本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。図5に示す積層体は、基材1と、基材1上に形成された金属酸化物膜6とを有し、金属酸化物膜6の多孔度が、基材表面側で最も低く、基材表面側とは反対の表面側に向かうにつれ、積層方向に連続的に高くなるものである。
以下、本発明の積層体について、各構成ごとに説明を行う。
【0112】
1.金属酸化物膜
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜は、後述する基材上に形成され、異なる2種類以上の金属元素を有し、かつ、その多孔度が、連続的に変化しているものである。なお、通常、上記金属酸化物膜は、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法」に記載した方法により得られるものである。
【0113】
本発明において、金属酸化物膜の多孔度が連続的に変化する方向としては、特に限定されるものではないが、例えば、積層方向、および積層方向に直交する方向等が挙げられ、中でも、積層方向が好ましい。すなわち、本発明においては、上記金属酸化物膜の多孔度が、積層方向に連続的に変化するものであることが好ましい。汎用性に優れた積層体を得ることができるからである。このような金属酸化物膜としては、具体的には、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法 3.金属源モル分率を変化させる方法」に記載したもの等を挙げることができる。
【0114】
また、本発明において、上記金属酸化物膜の多孔度が連続的に変化していることは、金属酸化物膜の断面(積層方向)を、透過電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して判断する。または、光電子分光分析装置(ESCA)により金属酸化物膜中に存在する金属元素の割合等を調べることにより、確認することができる。
【0115】
上記金属酸化物膜の膜厚としては、本発明の積層体の用途等により異なるものであり、特に限定されるものではないが、例えば10nm〜50μmの範囲内、中でも100nm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0116】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、上記金属酸化物膜を保持するものである。基材の種類としては、上述した「A.金属酸化物膜の製造方法 2.基材」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。また、基材の厚みや大きさについても特に限定されるものではなく、本発明の用途等に合わせて適宜選択することが好ましい。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0119】
[参考例1]
本参考例においては、酸化銅と酸化亜鉛とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/l、亜鉛アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15重量%、トルエン85重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を500ml調製した。
【0120】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0121】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径15nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は400nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は10nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図6に示す。図6は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化銅および酸化亜鉛により構成されていることが明らかになった。
【0122】
[実施例1−1]
本実施例においては、多孔度が積層方向に段階的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15%、トルエン85%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを500ml調製した。次に、銅アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/l、亜鉛アセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.02mol/lとなるように溶媒(エタノール15重量%、トルエン85重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを500ml調製した。
【0123】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをこの順に、超音波ネプライザ(オムロン社製)にて全てスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0124】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から順に、銅アセチルアセトナートに由来する緻密な酸化銅膜、ならびに、銅アセチルアセトナートおよび亜鉛アセチルアセトナートに由来する多孔質金属酸化物膜が形成されていることが確認された(図7参照)。
【0125】
[実施例1−2]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、実施例1−1と同様のガラス板を用意した。
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、実施例1−1で用いた金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて150mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、実施例1−1で用いた金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0126】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図8参照)。
【0127】
[参考例2]
本参考例においては、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、30%ガドリニウムをドープさせた酸化セリウム基材を用意した。
次に、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸イットリウム(関東化学社製)が濃度0.008mol/l、硝酸ニッケル(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、トルエン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を300ml調整した。
【0128】
次に、上記基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて300mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0129】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径100nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は200nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図9に示す。図9(a)は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図であり、図9(b)は得られた多孔質金属酸化物膜の断面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化ニッケルおよびYSZにより構成されていることが明らかになった。
【0130】
[実施例2]
本実施例においては、酸化ニッケルとYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とからなる金属酸化物膜であって、さらに多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、30%ガドリニウムをドープさせた酸化セリウム基材を用意した。
次に、ジルコニウムアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸イットリウム(関東化学社製)が濃度0.008mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、トルエン50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを1L調製した。一方、硝酸ニッケル(関東化学社製)が0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール80重量%、水20重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを1L調製した。
【0131】
次に、上記基材をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて150mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0132】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図10参照)。
【0133】
[参考例3]
本参考例においては、酸化コバルトと酸化鉄とからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、コバルトアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸鉄(III)九水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0134】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0135】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径60nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は200nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は30nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図11に示す。図11は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化コバルトおよび酸化鉄により構成されていることが明らかになった。
【0136】
[実施例3]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、コバルトアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50%、トルエン50%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを100ml調製した。次に、硝酸鉄(III)九水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを100ml調製した。
【0137】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき1mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図12参照)。
【0138】
[参考例4]
本参考例においては、酸化チタンと酸化ランタンとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、塩化ランタン七水和物(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、イソプロピルアルコール50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0139】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0140】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径30nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は300nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は20nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図13に示す。図13は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化チタンおよび酸化ランタンにより構成されていることが明らかになった。
【0141】
[実施例4]
本実施例においては、多孔度が積層方向に段階的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、イソプロピルアルコール50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを200ml調製した。次に、チタンアセチルアセトナート(関東化学社製)が濃度0.05mol/l、塩化ランタン七水和物(関東化学社製)が濃度0.05mol/lとなるように溶媒(エタノール)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを100ml調製した。
【0142】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液AおよびBをこの順に、超音波ネプライザ(オムロン社製)にて全てスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0143】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、基材から順に、チタンアセチルアセトナートに由来する緻密な酸化チタン膜、ならびに、チタンアセチルアセトナートおよび塩化ランタンに由来する多孔質金属酸化物膜が形成されていることが確認された(図14参照)。
【0144】
[参考例5]
本参考例においては、酸化セリウムと酸化カルシウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、塩化カルシウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を300ml調製した。
【0145】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて300mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0146】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、膜厚は350nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は100nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図15に示す。図15は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化セリウムおよび酸化カルシウムにより構成されていることが明らかになった。
【0147】
[実施例5]
本実施例においては、多孔度が積層方向に連続的に変化した金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、酸化ニッケルとサマリウムドーピングセリアのサーメットとから構成される多孔質な基板(φ13mm、厚さ0.8mm)を用意した。
次に、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Aを500ml調製した。次に、塩化カルシウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液Bを500ml調製した。
【0148】
次に、上記基材(多孔質基板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、金属酸化物膜形成用溶液Aを超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーする際、金属酸化物膜形成用溶液Aが入った容器に対して30秒間につき2mlの割合で、金属酸化物膜形成用溶液Bを添加し、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0149】
上記方法により得られた金属酸化物膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、多孔質な基材からまずは緻密膜が形成され、その後は連続的に多孔度が変化している様子が確認された(図16参照)。
【0150】
[参考例6]
本参考例においては、酸化インジウムと酸化バナジウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、塩化インジウム(関東化学社製)が濃度0.05mol/l、オキソ硫酸バナジウム(関東化学社製)が濃度0.12mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0151】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0152】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径150nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は350nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図17に示す。図17は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化インジウムおよび酸化バナジウムにより構成されていることが明らかになった。
【0153】
[参考例7]
本参考例においては、酸化タンタルと酸化ガドリニウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、タンタル(V)エトキシド(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、硝酸ガドリニウム(関東化学社製)が濃度0.15mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセチルアセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0154】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0155】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は約600nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図18に示す。図18は得られた多孔質金属酸化物膜の断面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I-XL)による測定により、酸化タンタルおよび酸化ガドリニウムにより構成されていることが明らかになった。
【0156】
[参考例8]
本参考例においては、酸化クロムと酸化モリブデンとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、塩化クロム(関東化学社製)が濃度0.1mol/l、りん酸モリブデン酸アンモニウム(関東化学社製)が濃度0.1mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を100ml調製した。
【0157】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0158】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は100nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は15nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図19に示す。図19は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)および光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I-XL)による測定により、酸化クロムおよび酸化モリブデンにより構成されていることが明らかになった。
【0159】
[参考例9]
本参考例においては、酸化タングステンと酸化アルミニウムとからなる多孔質金属酸化物膜を作製した。
まず、基材として、ガラス板(75mm×25mm、厚さ0.7mm)を用意した。
次に、六塩化タングステン(関東化学社製)が濃度0.2mol/l、硝酸アルミニウム(関東化学社製)が濃度0.2mol/lとなるように溶媒(エタノール50重量%、アセチルアセトン50重量%)に溶解させ、多孔質金属酸化物膜形成用溶液を500ml調製した。
【0160】
次に、上記基材(ガラス板)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記多孔質金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて500mlスプレーし、基材上に多孔質金属酸化物膜を得た。
【0161】
上記方法により得られた多孔質金属酸化物膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、平均粒径20nmの微粒子から構成される多孔質金属酸化物膜で、膜厚は400nmであった。また、画像解析結果より、多孔質金属酸化物膜の平均孔径は60nmであった。得られた多孔質金属酸化物膜のSEM写真を図20に示す。図20は得られた多孔質金属酸化物膜の平面図である。さらに、X線回折装置(XRD)と光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB200I‐XL)による測定により、酸化タングステンおよび酸化アルミニウムにより構成されていることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の積層体の一例を示す概略断面図である。
【図6】参考例1で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図7】実施例1−1で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図8】実施例1−2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図9】参考例2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図10】実施例2で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図11】参考例3で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図12】実施例3で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図13】参考例4で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図14】実施例4で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図15】参考例5で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図16】実施例5で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図17】参考例6で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図18】参考例7で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図19】参考例8で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【図20】参考例9で得られた金属酸化物膜のSEM写真である。
【符号の説明】
【0163】
1 … 基材
2 … スプレー装置
3、4、5 … ローラー
6 … 金属酸化物膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、前記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、前記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、前記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属源が、金属塩または有機金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項11】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項12】
基材と、前記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、
前記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、前記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とする積層体。
【請求項1】
金属元素の異なる2種類以上の金属源を用い、前記2種類以上の金属源の金属源モル分率が異なる金属酸化物膜形成用溶液を、前記金属源モル分率を変化させつつ、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材に接触させることにより、前記基材上に、多孔度が変化した金属酸化物膜を形成することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属源が、金属塩または有機金属化合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、銅元素を含有する銅含有金属源と、亜鉛元素を含有する亜鉛含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、ニッケル元素を含有するニッケル含有金属源と、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、コバルト元素を含有するコバルト含有金属源と、鉄元素を含有する鉄含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、チタン元素を含有するチタン含有金属源と、ランタン元素を含有するランタン含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、セリウム元素を含有するセリウム含有金属源と、カルシウム元素を含有するカルシウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、バナジウム元素を含有するバナジウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、タンタル元素を含有するタンタル含有金属源と、ガドリニウム元素を含有するガドリニウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、クロム元素を含有するクロム含有金属源と、モリブデン元素を含有するモリブデン含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項11】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、タングステン元素を含有するタングステン含有金属源と、アルミニウム元素を含有するアルミニウム含有金属源と、を有することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項12】
基材と、前記基材上に形成された金属酸化物膜とを有する積層体であって、
前記金属酸化物膜が、金属元素の異なる2種類以上の金属酸化物を有し、かつ、前記金属酸化物膜の多孔度が、連続的に変化していることを特徴とする積層体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−105935(P2008−105935A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256450(P2007−256450)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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