説明

金属酸化膜の蒸着方法及びプラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】金属酸化物を蒸発材料とする金属酸化膜の蒸着方法に関するものであり、特にプラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)の保護膜の形成に関するもので、保護膜としての<111>配向したMgO膜の成膜速度を早くして、生産性の向上とパネル特性の向上を図る。
【解決手段】金属酸化物を蒸発材料とする蒸着方法において、前記蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用し、該電子銃からの電子ビームを絞り、該電子ビームの直径をもとに蒸発材料への電子ビームの照射面積に合わせて、電子ビームの揺動波形を制御することを特徴とする金属酸化膜の蒸着方法であり、走査電極、維持電極、誘電体層及び保護膜から成る前面基板とアドレス電極、バリアリブ及び蛍光体からなる背面基板から構成されているプラズマディスプレイの保護膜であるMgO膜の成膜速度が速くなり、かつ良好なパネル特性が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を蒸発材料とする金属酸化膜の蒸着方法に関するものであり、特にプラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)の保護膜の形成に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のPDPの主流であるAC面放電型PDPは、走査電極、維持電極、誘電体層及び保護膜から成る前面基板とアドレス電極、バリアリブ及び蛍光体からなる背面基板から構成されている(図5参照)。
【0003】
図5に示すようにAC面放電型PDP81は、放電ガスが満たされた狭いギャップを介して2枚のガラス基板がフリットシールされている。背面ガラス基板90には、アドレス電極89が列方向に配置され、その上に誘電体層87が形成されている。この誘電体層87はアドレス電極89の保護や白色反転層として輝度改善の役割を持つ。バリアリブ88は高さが100〜150μm程度あり、バリアリブ88により形成される溝内壁には赤青緑の蛍光体(91R、91B、91G)が順次塗布されている。
【0004】
表示側となる前面基板にはITOなどの透明電極とバス電極からなる面放電電極が設けられる。画放電電極は50〜100μm程度の放電ギャップを挟んで対となって配列されている。これらの放電電極は厚さ20〜30μm程度の誘電体層で覆われる。その上部には酸化マグネシウム(MgO)からなる保護膜が形成されている。
【0005】
各色の表示単位となる1セルは、蛍光体が周囲に塗布された放電空間に対して、誘電体層85、87で覆われた面放電電極(走査電極83と維持電極84)とアドレス電極89からなる3つの電極で構成されている。走査電極83には負電位の走査パルスが順次印加され、それに同期してアドレス電極に正電位のデータパルスを表示データに応じて印加することにより、選択的に書込み放電を発生させる。引き続いて維持電極と走査電極間に交流維持放電パルスを印加し、書き込まれたセルを維持放電させることにより発光表示させる。
【0006】
前述のように、保護膜には主にMgOが使用されている。さらにMgOは保護膜としての機能に加え二次電子放出係数が大きいことが求められている。
【0007】
この二次電子放出に着目した場合、<111>配向性のMgO膜を得る方法がある(特許文献1参照)。酸素雰囲気中で行う真空蒸着法または蒸着面にイオンビームを照射するイオンアシスト蒸着法を用いる方法である。
【0008】
しかし、より高精度のMgO膜を得るためには、イオンビームよりも制御性の良い電子ビームを用いた蒸着法が望ましい。ここで、電子ビームを用いた蒸着法で<111>配向性のMgO膜を得るためには、230℃以上の基板温度で堆積させるか、または、1.5Å/秒以上、3Å/秒以下という堆積速度で形成する必要があった(特許文献2参照)。
【0009】
この方法は、電子ビームを使用して、まず230℃以上、350℃以下の基板温度または、1.5Å/秒以上、3Å/秒以下という堆積速度で<111>配向性の酸化マグネシウム膜を下地として形成する。ついで、低基板温度、高堆積速度での電子ビーム蒸着で<111>配向性の保護膜が得られるというものである。
【0010】
しかしながら、下地を形成するプロセスと、保護膜を形成するプロセスとを必要とするため2度の工程を必要とし、両プロセスの条件も違うため、近時の大幅な生産性向上要求にこたえられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−234519号公報(第3頁、図3)
【特許文献2】特開平8−287833号公報(第3頁、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
PDPの価格低下、需要増によりマザーガラスのサイズは益々大型になりPDPの保護膜であるMgOを成膜する生産装置のスループットは益々短時間になっている。
これに伴い、金属酸化物であるMgOの蒸発速度を早くする必要がある。また、不純物のコンタミネーションを少なくし、パネル特性を向上させるためにもMgOの蒸発速度を早くすることは有効である。
【0013】
電子銃を使った蒸着の場合、成膜速度を早くするためには、照射する電子ビームのパワーを大きくする必要がある。しかし、金属酸化物であるMgOの単結晶またはペレットに大きなパワーを投入するとスプラッシュ(MgO単結晶またはペレットが細かく砕け飛ぶ現象)が発生し、製品歩留まりを低下させる原因となる(図6)。スプラッシュを抑えて、成膜速度を上げるために基板の搬送方向に対して、蒸発源を複数設ける方法もあるが、MgOの成膜速度は大幅に増加しないため、不純物のコンタミネーションを低減する効果は少ない。
【0014】
加えて、電子銃及び電源が多数必要なためコストアップになる。また、基板が蒸発源上を通過する時間が長くなり基板温度が上昇し、蒸発源上を通過している部分との温度差が大きくなり、基板の熱割れの確率が高くなると同時にプロセス温度のコントロールも難しくなる(図9)。
【0015】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、スプラッシュを抑えて成膜速度の向上を図ることができる金属酸化膜の蒸着方法及びプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一形態に係る金属酸化膜の蒸着方法は、金属酸化物でなる蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用することを含む。電子銃からの電子ビームは絞られ、その直径をもとに、前記蒸発材料への前記電子ビームの照射面積に合わせて、前記電子ビームの揺動波形が制御される。
【0017】
本発明の他の形態に係るプラズマディスプレイパネルの製造方法は、金属酸化物でなる保護膜を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であり、金属酸化物でなる蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用することを含む。電子銃からの電子ビームは絞られ、その直径をもとに、前記蒸発材料への前記電子ビームの照射面積に合わせて、前記電子ビームの揺動波形が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態で使用される電子銃の構造を示す模式図である。
【図2】(A)は従来の揺動波形によるMgO表面への電子ビーム照射時間の合計の面内分布を示す図であり、(B)は従来の揺動条件でMgO表面へ電子ビームが連続して照射される時間の面内分布を示す図である。
【図3】(A)は本発明の実施の形態で用いた計算モデルであり、(B)は本発明の一実施の形態の電子ビーム揺動波形を示す図である。
【図4】(A)は本発明の一実施形態の電子ビーム揺動波形によるMgO表面への電子ビーム照射時間の合計の面内分布を示す図であり、(B)は本発明の一実施の形態の電子ビーム揺動条件でMgO表面へ電子ビームが連続して照射される時間の面内分布を示す図である。
【図5】典型的なPDPの構造を示す模式図である。
【図6】成膜速度とスプラッシュ発生回数との関係を示す図である。
【図7】搬送方向に蒸発点を複数設置した一例を示す図である。
【図8】搬送方向に蒸発点を複数設置した他の例を示す図である。
【図9】蒸発源上を通過する基板の温度上昇のグラフである。
【図10】CCDカメラの設置例を示す図である。
【図11】CCDカメラでモニタした蒸発源の写真である。
【図12】異なる電子ビーム電流によるビーム形状の変化を示す写真である。
【図13】ハースと電子ビームの照射方法の一例を示す図である。
【図14】ハースと電子ビームの照射方法の他の例を示す図である。
【図15】ハースと電子ビームの照射方法の他の例を示す図である。
【図16】電子ビームのジャンピング周期とレートの関係を示すグラフである。
【図17】電子ビームの照射方式と成膜速度のグラフである。
【図18】スプラッシュの発生しない電子ビームの電流密度のグラフである。
【図19】基板加熱温度と<111>配向強度との関係を示すグラフである。
【図20】基板加熱温度と屈折率との関係を示すグラフである。
【図21】蒸発源と基板に対する蒸発粒子の入射角の関係図である。
【図22】基板に対する蒸発粒子の入射角と屈折率の関係図を示すグラフである。
【図23】基板に対する蒸発粒子の入射角と<111>配向強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施の形態に係る金属酸化膜の蒸着方法は、金属酸化物でなる蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用することを含む。電子銃からの電子ビームは絞られ、その直径をもとに、前記蒸発材料への前記電子ビームの照射面積に合わせて、前記電子ビームの揺動波形が制御される。
【0020】
金属酸化膜を蒸着する際の課題であるスプラッシュ発生の主な原因は、次のように考えられる。
(1)短時間に連続的に高い密度の電子ビームが照射され、MgOの温度が高くなりすぎスプラッシュが発生する。
(2)電子ビームが、断続的に照射されることによる温度変化によりスプラッシュが発生しやすくなる。
【0021】
そこで、本発明の一実施の形態に係る金属酸化膜の蒸着方法は、電子ビームを蒸発材料のサイズ及び形状に対して適切に絞り、揺動波形を電子ビームの直径、蒸発材料及び材料形状に合わせて最適化する。これにより、スプラッシュを抑えて、成膜速度の向上を図ることが可能となる。
【0022】
スプラッシュを抑えるための電子ビームの照射条件は、次のようにして決定することができる。
(1)MgOの形状により照射する電子ビームの密度を最適化する。
(2)MgOに連続して電子ビームを照射する時間を照射部に対して均一になるように電子ビームの揺動波形を決定する。
(3)このとき、各照射ポイントに対する総照射時間が均一となるように電子ビームの揺動波形を決定する。
【0023】
以上をまとめると、解決策は例えば下記のようになる。
(1)電子ビームの直径をもとにMgO面に照射する電子ビームの滞在時間または照射エネルギーが均一になるように揺動パターンを決定する。
(2)少なくとも電子ビームを照射している全てのMgO面において、電子ビームの滞在時間の最長時間と最短時間の差、または照射エネルギーの最大値と最小値の差を30%以内とする。
【0024】
本発明の一実施の形態によれば、スプラッシュなしでのダイナミックレートは、25000Å・m/min以上を達成できた。これは、従来5000Å・m/minであったものの5倍以上の成膜速度である。
【0025】
これにより、例えば金属酸化膜の成膜装置において、従来は電子銃を6台使用していたものが、2台で充分になり大幅なコストダウンを実現した。
【0026】
また、将来の大型基板(3500mm幅)対応の金属酸化膜の成膜装置に対しても充分適用できる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0028】
図1は本発明の一実施の形態において用いられる電子銃の概略構成図である。本実施の形態ではピアス式電子銃を例に挙げて説明するが、電子銃の形式はこれに限られない。
【0029】
電子銃3は、電子ビーム蒸着装置の蒸着室2に設置されている。電子銃3は、フィラメント36と、カソード37と、ウェネルト38と、アノード39とを備えている。フィラメント36は通電により例えば2500K程度にまで加熱される。フィラメント36とカソード37との間には例えば600〜1500Vの電圧が印加されており、フィラメント36から発生した熱電子はカソード37の表面を電子衝撃する。カソード37はフィラメント36からの電子衝撃により例えば2500K程度にまで加熱され、表面から熱電子を発生させる。カソード37とアノード39との間には例えば20kV程度の電圧が印加されており、カソード37の表面から発生した熱電子はアノード39の方向に加速されて電子ビームFが形成され、蒸発材料の蒸発ポイントPなどに照射される。また、ウェネルト38は、カソード37の表面から発生した熱電子をウェネルト38とアノード39との間に形成された電位勾配によって、アノード39の方向に集束させる働きを担っている。
【0030】
電子ビームFを構成する熱電子が蒸着室内部の水分、残留ガス、蒸発粒子などと衝突するとイオンが発生する。このイオンは、カソード37に向かって逆流する。そこで、カソード37の後方には、カソード37を通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタ42が配置されている。イオンコレクタ42は、カソード37を通過したイオン及びイオンコレクタ42へのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集する。
【0031】
電子銃3は、フローレジスタ43を備えている。フローレジスタ43は、電子銃のビーム発生部分と蒸着室の雰囲気との分離や圧力を調整する機能を有する。フローレジスタ43の周囲には、電子ビームFを集束する集束コイル40と、電子ビームFを揺動させる揺動コイル41が配置されている。また、電子銃3は、フローレジスタ43を通過した電子ビームFをリングハース4側へ偏向させる偏向装置20を備えている。リングハース4は蒸発材料11を収容する溝部4aを有し、また、回転自在に構成されている。蒸発材料11は、本実施の形態では、MgOが用いられる。
【0032】
電子ビームFの揺動波形は、ファンクションジェネレータ48によって制御される。ファンクションジェネレータ48の出力はアンプ47を介して揺動コイル41に接続されている。ファンクションジェネレータ48は、予めシミュレーションにより求めた揺動波形に基づいて揺動コイル41を駆動制御することで、蒸発材料のビーム照射面に電子ビームFを均一に照射する。なお、ここでは電子ビームFの集束(絞り)後のビーム径(直径)をφ30mmとした。
【0033】
図2に、従来の揺動波形によるMgO表面への電子ビーム照射時間を示す。
図2Aは、後述する揺動条件で0.02秒間電子ビームを照射した際の、MgO表面における照射時間の合計を100mmごとに相対的に面内分布として確認したものである。また、図2Bは従来の揺動条件で電子ビームが連続して照射される時間を確認した結果である。この時の電子ビームの揺動条件としては、電子ビームの直径をφ30mm、X−Sweepは単純な三角波で、周波数500Hz、Sweep幅は±60mmとした。Y−Sweepも単純な三角波で、周波数222Hz、Sweep幅は±90mmとした。
【0034】
照射された蒸発材料の面の端が掘れるという現象が知られている。これは、連続して電子ビームが照射されている間に温度が上がり、蒸発していると考えられる。図2の結果は、この現象と符合するものである。
【0035】
本実施の形態では、電子ビームの直径をもとに、蒸発材料への電子ビームの照射面積に合わせて、電子ビームの揺動波形を制御する。揺動波形は、電子ビームの直径をもとに蒸発材料の形状に合わせて制御することができる。具体的には、蒸発材料の面に照射する電子ビームの滞在時間が均一になるように電子ビームの揺動パターンを決定することができる。この場合、蒸発材料に照射される電子ビームの滞在時間の均一度は、全ての蒸発材料の面において、最長時間と最短時間の差が30%以内であることとすることができる。
【0036】
また、電子ビームの揺動波形は、電子ビームの直径をもとに、蒸発材料の面に照射する電子ビームの照射エネルギーが均一になるように電子ビームの揺動パターンを決定することができる。この場合、蒸発材料の面に照射される電子ビームの照射エネルギーの均一度は、全ての蒸発材料の面において、最大値と最小値の差が30%以内であることとすることができる。
【0037】
図3Aは、本発明の実施形態の計算モデルである。
図3Aのように、電子ビームの揺動を模式化して考えた。電子ビームが当たっている部分を実線の円形で示す。蒸発材料の照射領域を実線の四角形で示す。図3Aのように、照射領域の端で電子ビームの当たっている部分は折り返すので、端では電子ビームの当たり続ける時間が長くなってしまい、そこだけ瞬間的に温度が上昇する。
【0038】
図3Bは、本発明の実施形態の揺動波形及び照射時間を示す図である。
この時の電子ビームの揺動条件としては、電子ビーム直径をφ30mm、X−Sweepは周波数984Hz、幅±60mmでSweepし、端の10mmは1.8倍早く動かす。一方、Y−Sweepは周披数444Hz、幅±90mmでSweepし、端の10mmは1.8倍早く動かした。すなわち、本実施の形態の電子ビームの揺動条件は、電子ビームの折り返し領域のスキャン速度を電子ビームの一方向への直線的スキャン速度よりも速く設定している。
【0039】
図4は、本発明による揺動波形を適用し、0.02秒間電子ビームを照射した際の、MgO表面における照射時間の合計を100mmごとに相対的に面内分布として計算したものである。0秒での電子ビームの中心を原点とした。また、図4Bは、本発明による揺動波形を適用した際の、電子ビームが連続して照射される時間を示す。
【0040】
図4Aに示すように、本発明の実施の形態の揺動波形を適用することで、電子ビームがMgO表面に照射される時間の合計は、ほぼ均一になった。また、図4Bに示すように、電子ビームが連続して照射される時間のばらつきも大幅に改善された。
【0041】
図10は、本実施の形態における電子ビーム蒸着装置の要部の概略側断面図である。リングハース4と対向する蒸着室2の天井部には、のぞき窓101が設置されている。こののぞき窓101には、蒸発材料の表面温度をモニタリングするためのCCDカメラ102が設置されている。CCDカメラ102の出力画像は画像処理部103に入力され、画像処理部103はCCDカメラで取得したリングハース4上の蒸発材料(MgO)の画像に基づいて当該蒸発材料の表面温度を算出する。蒸着室2の内部には、のぞき窓101を開閉するシャッタ104が設置されている。
【0042】
また、図10を参照して、蒸着室102には、基板(キャリア)10を搬送するための搬送空間106が設けられている。基板10は搬送空間106で搬送され、蒸着室2を通過する過程で成膜される。なお、参照符号105は、基板10に対する蒸着材料の入射角を所定角度範囲に制限するための制御板である。
【0043】
実際に、本実施の形態に係る揺動条件によって電子ビームを照射した時のMgOの表面温度をCCDカメラ102によってモニタした。このときの画像写真を図11に示す。ハース回転数の違いにより、MgOの表面温度がシミュレーションと僅かに違うためCCDカメラのモニタ結果を、予めプログラムした揺動波形のパターンのメニューや、揺動波形に直接フィードバックして反映させた。この場合、CCDカメラのモニタ結果を電子銃のパワーにフィードバックしてもよい。
【0044】
さらに、MgO表面への電子ビーム入射角を40°以上とした。この時のそれぞれの電子ビーム電流におけるビーム形状を図12に示す。この図は、電子銃の出力と照射面積の関係を示しており、出力の大きいほど照射面積が広いことがわかる。
【0045】
電子銃3及びリングハース4の設置個数や設置例は特に限定されず、種々の方式を採用することが可能である。例えば図7は、蒸着室2に、4つのリングハース4と4つの電子銃3を設置した例を示している。個々のリングハース4は2つの蒸発ポイントP1,P2を有しており、1つの電子銃3でこれら2つの蒸発ポイントに電子ビームを照射する。図8は、6つのリングハース4と6つの電子銃3を設置した例を示している。この場合、電子銃3を基板の搬送方向の両側方に配置することができる。
【0046】
また、図13〜図15は、基板の搬送方向に直交して電子銃3及びリングハース4をそれぞれ単列で配列させた例を示している。図13は、各電子銃3が単一の蒸発ポイントに電子ビームを照射する例を示し、図14及び図15は、各電子銃3が2箇所の蒸発ポイントに電子ビームを照射する例を示している。なお、図13〜図15において参照符号26a,26bは、電子ビームを偏向させるための永久磁石である。
【0047】
図16は、図14と図15の例における電子ビームのジャンピング周期と成膜レート(ダイナミックレート)との関係を示している。電子ビームのジャンピング周期は、図16に示すように50〜200msecが望ましい。
【0048】
図17は、電子ビームの照射方式と成膜レートとの関係を示す図である。本実施の形態に係る電子ビームの揺動パターンを使用した結果、MgOに対するスプラッシュ無しでの蒸発速度は、電子銃の出力10kV(20kW×0.5A)で従来方式の約3倍(550Å/sec)、20kW(20kV×1.0A)でも従来方式の約3倍(1000Å/sec)が達成できた。このときスプラッシュ無しでの電子ビームの電流密度を図18に示す。本実施の形態で使用した成膜装置では、スタティックレート280Å/secでダイナミックレート8000Å・m/minが得られた。
【0049】
本実施の形態によれば、膜厚8000Åを成膜する場合、ガラス基板の入熱量が低減した結果、成膜中(プロセス中)の基板温度上昇が低減し、膜品質制御が大幅に向上した。従来の成膜速度約100Å/secで成膜する場合の温度上昇は約80℃であったが、420Å/secで成膜した場合に、温度上昇は約30℃に低減した。
これを結晶配向性強度に換算すると、従来は2300cpsから1500cpsへ約800cpsの変動があったが、2300cpsから2000cpsへと300cps程度の変動まで制御性が向上した(図19)。つまり、制御性は2.7倍向上した。図19は、基板加熱温度と<111>配向強度との関係を示すグラフである。
【0050】
また、屈折率は従来1.670から1.654へ約0.016の変動であったものが、本実施の形態によれば、1.670から1.664への0.006程度の変動まで制御性が向上した(図20)。図20は、基板加熱温度と屈折率との関係を示すグラフである。
【0051】
また、本実施の形態によれば、入射角の変化が少なくなり、MgO膜が均質になった。
スブラシュ無しでダイナミックレート約8000Å・m/minを得ようとした場合、従来は、図21に示すように、ガラス基板の搬送方向に複数の蒸発点(電子ビーム照射点)が配置された。そのため、蒸着開始時、基板へのMgOは入射角30°と60°で蒸着される。また、蒸着終了時は入射角60°と30°で蒸着される。MgO膜の屈折率(密度)と入射角は図22のような関係にあり、入射角による膜密度(屈折率)が変動することが確認されている。
【0052】
膜密度は放出ガス特性及びエッチング特性に影響し、MgO膜の成膜プロセスでは、蒸発粒子の入射角は制御されていることが望ましい。また、入射角はこれらに加え結晶配向性にも影響する(図23)。図23は、入射角と<111>配向強度との関係を示すグラフである。従って、MgO成膜中の入射角はある範囲に制御されていることが望ましい。本発明により、ダイナミックレート約8000Å・m/min以上でも、ガラス基板の搬送方向の蒸発点は1点でよく、入射角の制御性(変化)は大幅に改善された。
【0053】
また、本実施の形態によれば、膜中の不純物が低減でき膜質が向上した。
成膜中のプロセス室にはプロセスガスの酸素に加え、水素、ヘリウム、水、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素及びアルゴン等が存在する。特に一酸化炭素、二酸化炭素はパネルの放電特性を悪くする。ハイレートで成膜することにより、膜中に取り込む不純物の量を減らすことが出来る。
【0054】
具体的にはプロセス条件8000Å・m/min(スタティックレート280Å/sec)は、従来(4000Å・m/min、スタティックレート140Å/sec)の2倍である。したがって、本実施の形態の金属酸化膜の蒸着方法を図5に示したプラズマディスプレイパネル用の前面基板の保護膜の成膜に適用することにより、MgO膜中に取り込む不純物、特に放電特性に影響を与える炭素の量が1/2以下になり、パネル特性を良くする効果がある。パネル特性の一つの書き込み速度で比較すると次のようになる。
【0055】
MgO膜中の不純物の炭素量が1/1.5になるとCL(カソードルミネッセンス)強度が約1.8倍になり、書き込み速度を改善出来る。膜中に取り込まれる炭素量が増加するとCL強度が低下する傾向が見られる。また、CL強度が高いMgO膜でレスポンス性が良いパネルが得られる傾向がある。
ガラス基板上への不純物の入射頻度は次のように求められる。
【0056】
Γ=2.65×1024×P/(M×T)1/2
Γ:入射頻度(個/(s・m))
P:圧力(Pa)
T:温度(K)
結果として成膜速度を早くしたため、相対的に不純物の量が減少した。
【0057】
また、電子銃、電子銃電源及びハース数量が低減できコストダウンが出来た。
スプラッシュ無しでのレートが約3倍になったため、電子銃、電子銃電源及びハース等の必要数が1/2〜1/3になった。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれらに限定されること無く、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、インライン式電子ビーム蒸着装置に限らず、ピアス式電子銃を用いた他の方式の電子ビーム蒸着装置にも適用可能である。
【0060】
また、本発明の実施の形態の電子ビーム蒸着装置では蒸発材料を入れる容器をリングハースとしたが、るつぼでも良い。
【0061】
また、本発明の実施の形態の電子ビーム蒸着装置では蒸発材料にMgOを用いたが、他の酸化物または金属酸化物などを使用することも可能である。例えば、SiO、Al、SrO、SiO、CaO、ZnO、ZnS、ITO、SnO、WO、Cr、C、Ca、Sr、Mgが使用できる。
【符号の説明】
【0062】
2・・・蒸着室、3・・・ピアス式電子銃、4・・・リングハース、4a・・・溝部、10・・・基板(前面基板)、11・・・MgO(蒸発材料)、20・・・偏向装置、26a・・・永久磁石、26b・・・永久磁石、36・・・フィラメント、37・・・カソード、38・・・ウェネルト、39・・・アノード、40・・・集束コイル、41・・・揺動コイル、42・・・イオンコレクタ、43・・・フローレジスタ、47・・・アンプ、48・・・ファンクションジェネレータ、81・・・プラズマディスプレイパネル(PDP)、82・・・前面基板、83・・・走査電極、84・・・維持電極、85・・・誘電体層、86・・・保護膜(MgO)、87・・・誘電体層、88・・・バリアリブ、89・・・アドレス電極、90・・・背面基板、91R、91G、91B・・・蛍光体、P,P1,P2・・・蒸発ポイント(電子ビーム照射点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物でなる蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用し、
前記電子銃からの電子ビームを絞り、
前記電子ビームの直径をもとに、前記蒸発材料への前記電子ビームの照射面積に合わせて、前記電子ビームの揺動波形を制御し、
前記揺動波形の制御は、前記電子ビームの直径をもとに、前記蒸発材料の面に照射する前記電子ビームの照射エネルギーが均一になるように前記電子ビームの揺動パターンを決定し、
前記蒸発材料の面に照射される前記電子ビームの照射エネルギーの均一度は、全ての前記蒸発材料の面において、最大値を100%として、最大値と最小値の差が30%以内である
金属酸化膜の蒸着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属酸化膜の蒸着方法であって、
前記揺動波形の制御は、
前記蒸発材料の表面温度をCCDカメラでモニタリングし、
そのモニタ結果によって前記電子ビームの揺動波形を制御する
金属酸化膜の蒸着方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属酸化膜の蒸着方法であって、
前記揺動波形の制御は、
前記蒸発材料の表面温度をCCDカメラでモニタリングし、
そのモニタ結果によって前記電子銃のパワーを制御する
金属酸化膜の蒸着方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属酸化膜の蒸着方法であって、
前記金属酸化物は、MgO、SiO、Al、SrO、SiO、CaO、ZnO、ZnS、ITO,SnO、WOのいずれかである
金属酸化膜の蒸着方法。
【請求項5】
金属酸化物でなる保護膜を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
金属酸化物でなる蒸発材料の加熱手段として電子銃を使用し、
前記電子銃からの電子を絞り、
前記電子ビームの直径をもとに、前記蒸発材料への前記電子ビームの照射面積に合わせて、前記電子ビームの揺動波形を制御し、
前記揺動波形の制御は、前記電子ビームの直径をもとに、前記蒸発材料の面に照射する前記電子ビームの照射エネルギーが均一になるように前記電子ビームの揺動パターンを決定し、
前記蒸発材料の面に照射される前記電子ビームの照射エネルギーの均一度は、全ての前記蒸発材料の面において、最大値を100%として、最大値と最小値の差が30%以内である
プラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−207310(P2012−207310A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157226(P2012−157226)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2008−125363(P2008−125363)の分割
【原出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】