説明

金属/エラストマー複合材及びその製造方法

【課題】設計の自由度が高く、種々の用途への展開が可能な金属/エラストマー複合材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属/エラストマー複合材10は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体11がエラストマーのマトリクス12に埋設されている。スポンジ状金属多孔質体11の連続孔にマトリクス12を構成するエラストマーが含浸している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属/エラストマー複合材としては、例えば、弾性による復元性のあるゴムと鉛などの高減衰の金属とを組み合わせて力学的エネルギーを吸収する免震ゴム等が挙げられる。
【0003】
また、特許文献1には、多数の線材を絡ませてなる微細多孔性シートである金網の微細孔内にゴム材が含浸して接着した基層部とゴム材の層内に磁性粉末がリッチな状態で含有固定された表層部とが一体化したシート状体からなる磁性ゴムシートが開示されている。
【0004】
特許文献2には、所定の厚みを有する海綿網目状の金属多孔体を埋設した弾性材で外壁が形成された中空の生物捕獲装置が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ステンレスやニッケル等の耐食性金属繊維の材質中にゴムを含浸させて、その両面または片面にリップ形状のゴムシールを成形したガスケットが開示されている。
【0006】
特許文献4には、金網がゴムでサンドイッチ状に挿入されたゴム製パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−179850号公報
【特許文献2】特開2004−229614号公報
【特許文献3】特開2002−156044号公報
【特許文献4】実開昭62−102611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、設計の自由度が高く、種々の用途への展開が可能な金属/エラストマー複合材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材であって、上記スポンジ状金属多孔質体の連続孔に上記マトリクスを構成するエラストマーが含浸している。
【0010】
本発明は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体を、流動性のエラストマー原料に、連続孔にエラストマー原料が流入するように接触させて埋設した後、エラストマー原料を非流動化させる、スポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設され、且つスポンジ状金属多孔質体の連続孔にマトリクスを構成するエラストマーが含浸した金属/エラストマー複合材であり、設計の自由度が高く、そのため種々の用途への展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る金属/エラストマー複合材を示す拡大平面図である。
【図2】交互積層構造体の試験評価方法を示す説明図である。
【図3】ブレース型ダンパーの断面図である。
【図4】(a)及び(b)は交互積層構造体の剪断変位と剪断力との関係を示すグラフである。
【図5】スポンジ状金属多孔質体の気孔率と等価減衰率との関係を示すグラフである。
【図6】金属/エラストマー複合材のガスケットの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(金属/エラストマー複合材)
図1は本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10を示す。
【0015】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、連続孔11aを有するスポンジ状金属多孔質体11がエラストマーのマトリクス12に埋設され、そして、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにマトリクス12を構成するエラストマーが含浸している。
【0016】
このような構成の本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、設計の自由度が高く、そのため種々の用途への展開が可能である。具体的には、本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、高エネルギー吸収素材のスポンジ状金属多孔質体11と低弾性率又は高弾性率素材のエラストマーのマトリクス12の両特性を複合的に得ることができ、また、スポンジ状金属多孔質体11の気孔率の選定することにより剛性(弾性係数)及び減衰性能を自在に設定することができ、さらに、三次元的に等方性を有することから、例えば、緩衝材、衝撃吸収材、減衰材、制振材、免震材などの力学的エネルギー吸収材として用いることができ、また、密着性及び形状保持性を必要とするシール材やガスケット材等として用いることもできる。
【0017】
スポンジ状金属多孔質体11を形成する金属材料は、目的に応じて、高強力、高剛性、高靱性、高延性、高熱伝導性、或いは、高電気伝導性を有する材質が使い分けられる。具体的には、かかる金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、コバルト、銅、銀、ニッケル、スズ等の単一金属の他、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス、銅合金、SCM415などの低合金鋼、スズ合金等の合金が挙げられる。
【0018】
スポンジ状金属多孔質体11を構成する構造は、目的に応じて、組み付け圧力に耐久する圧縮強度、平面強度確保の容易な圧縮クリープ性、エネルギー変形による減衰性、打ち抜き加工やプレス加工やパイプ加工等が容易であるといった加工性、防音性(例えば燃えにくい防音材)、放熱性、低弾性、構造の軽量化等が考慮されて選択される。なお、エネルギー変形による減衰性は、具体的には、単位質量当たりの剛性が高く、且つ孔が容易に潰れるといった応力や衝撃のエネルギーの吸収材、緩和材、制震材、或いは、制振材として好ましい特性である。
【0019】
スポンジ状金属多孔質体11は、気孔率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、一方、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。スポンジ状金属多孔質体11の気孔率は、見かけの体積v、質量w、及び真比重rを測定し、[{(v−(w/r)}/v]×100(%)にて算出される。
【0020】
スポンジ状金属多孔質体11は、平均孔径が例えば0.0001〜10mmであり、目的に応じて、例えば、平均孔径が0.45〜0.50mmのもの、0.50〜0.55mmのもの、0.55〜0.70mmのもの、0.70〜0.90mmのもの、0.90〜1.3mmのもの、1.3〜1.9mmのもの、1.9〜3.2mmのもの、或いはそれ以上のものが使い分けられる。平均孔径が大きくなると、エラストマーの含浸性が良好となる。スポンジ状金属多孔質体11の平均孔径は、顕微鏡拡大写真より孔径を複数測定し、その数平均によって算出される。
【0021】
スポンジ状金属多孔質体11は、長さ2.54cm当たりのセル数が例えば6〜60個であり、目的に応じて、例えば、長さ2.54cm当たりのセル数が6〜10個のもの、11〜16個のもの、17〜23個のもの、27〜33個のもの、37〜43個のもの、47〜53個のもの、48〜52個のもの、或いは、56〜60個のものが使い分けられる。スポンジ状金属多孔質体11のセル数は、顕微鏡拡大写真より長さ2.54cm当たりのセル数を複数測定し、その数平均によって算出される。
【0022】
スポンジ状金属多孔質体11は、比表面積が例えば250〜5800m/mであり、目的に応じて、例えば、比表面積が例えば250〜500m/mのもの、500〜850m/mのもの、850〜1250m/mのもの、1250〜1850m/mのもの、1850〜2800m/mのもの、2800〜3750m/mのもの、或いは、3750〜5800m/mのものが使い分けられる。比表面積が大きくなると、マトリクス12との接触面積が大きくなるため、それらの間の高い結合力を得ることができる。スポンジ状金属多孔質体11の比表面積は、孔を球形状と仮定して、平均孔径とセル数とにより算出される。
【0023】
スポンジ状金属多孔質体11の製造方法としては、例えば、発泡樹脂にメッキを施した後に金属を残して樹脂を焼失、溶出、或いは分解等させて除去する方法、溶融金属中に加圧下で水素等のガスを溶解させた後に温度及び圧力を制御しつつ溶融金属を冷却凝固させる方法、金属繊維単体或いは金属繊維及び結着剤をランダム集合体として焼結する方法、中空金属球体の集合体を焼結する方法、MIM技術を応用して金属粉体とバインダーとで構成されるMIM原料に気孔形成材を添加し、成形、脱脂、及び焼結する方法、金属粉体を焼結する方法、発泡剤を添加して発泡させた溶融金属を冷却固化させる方法等が挙げられる。これらのうち発泡樹脂にメッキを施した後に金属を残して樹脂を焼失等させて除去する方法、及び金属繊維単体或いは金属繊維及び結着剤をランダム集合体として焼結する方法が好適な方法である。
【0024】
マトリクス12を構成するエラストマーは、目的に応じて、低弾性率、高弾性率(変形復元性)、粘弾性、或いは、高破断伸度を有する材質が使い分けられる。具体的には、かかるエラストマーとしては、典型的にはゴム及び樹脂が挙げられる。マトリクス12は、単一種又は複数種のゴムで構成されていてもよく、単一種又は複数種の樹脂で構成されていてもよく、さらに、単一種又は複数種のゴムと単一種又は複数種の樹脂とがブレンドされて構成されていてもよい。
【0025】
マトリクス12を構成するエラストマーであるゴムは、原料ゴム(生ゴム)にゴム配合剤が配合された未架橋ゴム組成物が硫黄や有機過酸化物などの架橋剤によって架橋された架橋ゴム組成物(架橋型エラストマー)で構成される。
【0026】
原料ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−α−オレフィンエラストマーゴム(EPR、EPDM)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。ゴム配合剤としては、例えば、カーボンブラックなどの補強材、加硫促進助剤、加工助剤、老化防止剤、加硫促進剤、架橋剤(硫黄、有機過酸化物)等が挙げられる。
【0027】
樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン−ウレア樹脂、ウレア樹脂、ケイ素樹脂などの熱硬化性樹脂(架橋型エラストマー);ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66)、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂((メタ)アクリレート系樹脂を含む)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。なお、樹脂には、例えば、可塑剤、架橋剤等の樹脂配合剤が配合されていてもよい。
【0028】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、スポンジ状金属多孔質体11が表面に露出した構成であってもよく、また、スポンジ状金属多孔質体11がマトリクス12に埋設されて表面に露出していない構成であってもよい。シーリング用途で用いられる場合、接触する他部材との密着性及びシール性を高める観点からは、他部材接触面にスポンジ状金属多孔質体11が露出せずにマトリクス12のみが露出していることが望ましい。
【0029】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにマトリクス12を構成するエラストマーが含浸しているが、連続孔11aの全体にエラストマーが含浸した構成であってもよく、また、連続孔11aの一部にエラストマーが含浸した構成であってもよい。連続孔11aの全容積に対するエラストマーの含浸率は例えば50〜100%である。連続孔11aの全容積に対するエラストマーの含浸率は金属質量に対する質量増加分から算出される。
【0030】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが接着した構成であってもよく、また、スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが非接着である構成であってもよい。
【0031】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、エネルギー吸収用途で用いられる場合、エラストマーの等価減衰率が3%以下であることが好ましく、また、複合材自体の等価減衰率が10%以上であることが好ましい。等価減衰率は、通常のヒステリシスサイクル曲線に基づいてHeq=(1/π)(ΔW/W)から算出される。ここで、ΔWはロスエネルギーであり、Wは変形エネルギーである。
【0032】
(金属/エラストマー複合材の製造方法)
次に、本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10の製造方法について説明する。
【0033】
本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10は、連続孔11aを有するスポンジ状金属多孔質体11を、流動性のエラストマー原料に、連続孔11aにエラストマー原料が流入するように接触させて埋設した後、エラストマー原料を非流動化させることにより製造することができる。具体的には、例えば、エラストマーがゴム、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂のそれぞれの場合で以下の製造方法が挙げられる。
【0034】
<エラストマーがゴムの場合>
まず、原料ゴムとゴム配合剤とを混練した未架橋ゴム組成物からなるエラストマー原料を調整する。
【0035】
次いで、スポンジ状金属多孔質体11にそのエラストマー原料を積層した状態、或いは、スポンジ状金属多孔質体11をそのエラストマー原料で挟んだ状態、或いは、スポンジ状金属多孔質体11をそのエラストマー原料で覆った状態となるように、スポンジ状金属多孔質体11及びエラストマー原料を成形型のキャビティにセットする。
【0036】
そして、それをプレス成形等で外部から加熱及び加圧することにより、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにエラストマー原料が圧入により流入すると共に架橋反応が進行し、連続孔11aを有するスポンジ状金属多孔質体11がエラストマーのマトリクス12に埋設され、且つスポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにマトリクス12を構成するエラストマーが含浸した本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10を得ることができる。ここで、成型時の温度及び圧力並びに時間はゴムの種類によって適宜選定されるが、例えば、成型温度は135〜180℃であり、成型圧力は0.5〜10MPaであり、成型時間は10〜100分である。
【0037】
この場合、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aへのエラストマー原料の流入性の観点からは、エラストマー原料である未架橋ゴム組成物のムーニー粘度は100ML1+4(100℃)以下であることが好ましい。未架橋ゴム組成物のムーニー粘度はJIS K 6300に基づいて測定される。また、エラストマー原料を低粘度化させるという観点からは、エラストマー原料である未架橋ゴム組成物は、原料ゴムの少なくとも一部(全部であってもよい)が液状ゴムであってもよい。かかる液状ゴムとしては、例えば、分子量が数千のオリゴマーであるスチレンブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム(NBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0038】
スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが接着した構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予めバインダー及び加硫接着剤に浸漬して乾燥させる接着処理やシランカップリング剤溶液に浸漬して乾燥させる処理を施すことが好ましい。また、スポンジ状金属多孔質体11として亜鉛或いは真鍮でめっきしたものを用いると共に、エラストマー原料として有機酸コバルト塩等の練りこみ型接着剤を加えた未加硫ゴムを用いて加硫直接接着する方法、つまり、接着剤を使用しない直接接着法を採用してもよい。スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが非接着である構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予め離型剤等に浸漬する処理を施すことが好ましい。
【0039】
<エラストマーが熱硬化性樹脂の場合>
まず、液状で未硬化の熱硬化性樹脂からなるエラストマー原料を調整し、その一方、成形型のキャビティに予めスポンジ状金属多孔質体11をセットする。
【0040】
そして、成形型のキャビティにエラストマー原料を注型して加熱することにより、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにエラストマー原料が流入すると共に架橋反応が進行し、連続孔11aを有するスポンジ状金属多孔質体11がエラストマーのマトリクス12に埋設され、且つスポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにマトリクス12を構成するエラストマーが含浸した本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10を得ることができる。ここで、成型時の温度並びに時間は熱硬化性樹脂の種類によって適宜選定されるが、例えば、成型温度は50〜150℃であり、成型時間は30分〜24時間である。
【0041】
この場合、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aへのエラストマー原料の流入性の観点からは、成形型のキャビティに注型するエラストマー原料の粘度は5000Pa・s以下であることが好ましい。エラストマー原料の粘度はB型粘度計により測定される。また、同様の観点からは、成形型のキャビティは減圧することが好ましい。
【0042】
スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが接着した構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予め液状の接着剤に浸漬して乾燥させる接着処理やシランカップリング剤溶液に浸漬して乾燥させる処理を施すことが好ましい。スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが非接着である構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予め離型剤等に浸漬する処理を施すことが好ましい。
【0043】
<エラストマーが熱可塑性樹脂の場合>
まず、射出成形機や押出成形機等のシリンダ内で熱可塑性樹脂を混練しながら溶融させてそれをエラストマー原料とし、その一方、成形型のキャビティに予めスポンジ状金属多孔質体11をセットする。
【0044】
そして、成形型のキャビティにエラストマー原料を射出或いは押出等することにより、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにエラストマー原料が流入して冷却固化し、連続孔11aを有するスポンジ状金属多孔質体11がエラストマーのマトリクス12に埋設され、且つスポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aにマトリクス12を構成するエラストマーが含浸した本実施形態に係る金属/エラストマー複合材10を得ることができる。ここで、シリンダ内での熱可塑性樹脂の加熱溶融温度は、エラストマーの種類によって適宜選定されるが、例えば100〜200℃である。
【0045】
この場合、スポンジ状金属多孔質体11の連続孔11aへのエラストマー原料の流入性の観点からは、エラストマー原料の粘度は3000Pa・s以下であることが好ましい。エラストマー原料の粘度はキャピラリー型粘度計により測定される。また、同様の観点からは、成形型のキャビティは減圧することが好ましい。
【0046】
スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが接着した構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予め液状の接着剤に浸漬して乾燥させる接着処理やシランカップリング剤溶液に浸漬して乾燥させる処理を施すことが好ましい。スポンジ状金属多孔質体11とマトリクス12とが非接着である構成を得るには、スポンジ状金属多孔質体11に、予め離型剤等に浸漬する処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0047】
(金属/エラストマー複合材)
厚さ2mmの平板状のアルミニウム製スポンジ状金属多孔質体(富山住友電工社製 商品名:セルメット#5、気孔率78%、平均孔径0.7mm、長さ2.54cm当たりのセル数37〜43個、比表面積1850m/m)を準備した。
【0048】
また、天然ゴム(タイ産 商品名:STR20)を生ゴムとし、この生ゴム100質量部に対して、カーボンブラックN330(三菱化学社製 商品名:ダイヤブラックH)35質量部、軟化剤(神戸油化社製 商品名:シンタックHA30)5質量部、老化防止剤(大内振興化学工業社製 商品名:ノクラックAS)2質量部、ステアリン酸(日本油脂社製 商品名:ステアリン酸つばき)2質量部、酸化亜鉛(堺化学社製 商品名:酸化亜鉛1種)5質量部、加硫促進剤CBBS(大内新興化学工業社製 商品名:ノクセラーCZ)0.6質量部、及び硫黄(鶴見化学社製 商品名:Sulfax A)2.5質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を調整した。なお、この未架橋ゴム組成物の調整には密閉式混練機を用いた。
【0049】
シート成型用金型のキャビティに、スポンジ状金属多孔質体及びシート状の未架橋ゴム組成物の積層体をセットして型閉じし、それを150℃に予熱したプレス成形機にセットして30分間のプレス成形を行った。なお、未架橋ゴム組成物はスポンジ状金属多孔質体の気孔容量に相当する量を用いた。
【0050】
以上により、スポンジ状金属多孔質体がゴムのマトリクスに埋設された平板状の金属/エラストマー複合材Aを複数枚得た。得られた金属/エラストマー複合材Aは、いずれもスポンジ状金属多孔質体の連続孔にゴムが含浸したものであった。
【0051】
また、気孔率84%のスポンジ状金属多孔質体を用いた金属/エラストマー複合材B、気孔率95%のスポンジ状金属多孔質体を用いた金属/エラストマー複合材C、及び気孔率98%のスポンジ状金属多孔質体を用いた金属/エラストマー複合材Dも同様にして作製した。
【0052】
(試験評価方法)
<振動減衰性>
金属/エラストマー複合材A〜Dのそれぞれについて、鋼板と金属/エラストマー複合材とを接着剤で接着することにより、3枚の鋼板と2枚の金属/エラストマー複合材とからなる交互積層構造体を作製した。そして、引張圧縮試験機(島津製作所社製 製品名:オートグラフAG−50KNG)を用い、図2に示すように、交互積層構造体20の両側の鋼板21を一方のチャックC1で保持すると共に中央の鋼板21を他方のチャックC2で保持し、2枚の金属/エラストマー複合材10のそれぞれに対して、0.1Hzの周波数で10%の剪断歪みを与えて剪断変位と剪断力との関係(ヒステリシスループ)をデータ採取し、そのデータに基づいて等価減衰率を算出した。なお、比較のため、金属/エラストマー複合材の代わりに平板状の天然ゴム組成物を用いた交互積層構造体についても同様の試験を行った。
【0053】
また、金属/エラストマー複合材Bを用い、図3に示すように、外側部材31と内側部材32との間に金属/エラストマー複合材10を介設したブレース型ダンパー30を作製した。そして、引張圧縮試験機(島津製作所社製 製品名:オートグラフDSS−25T)を用い、外側部材31を一方のチャックで保持すると共に内側部材32を他方のチャックで保持し、金属/エラストマー複合材10に対して、0.1Hzの周波数で10%の剪断歪みを与えて剪断変位と剪断力との関係(ヒステリシスループ)をデータ採取した。なお、比較のため、金属/エラストマー複合材の代わりに等価減衰率が15%である高減衰の天然ゴム組成物を用いたブレース型ダンパーについても同様の試験を行った。
【0054】
<ガスケット適用性>
金属/エラストマー複合材Aから打ち抜き加工によりガスケットを作製し、その適用性を検討した。
【0055】
(試験評価結果)
<振動減衰性>
交互積層構造体を用いた試験評価について、図4(a)は金属/エラストマー複合材Aを用いた交互積層構造体及び(b)は天然ゴム組成物を用いた交互積層構造体の剪断変位と剪断力との関係を示す。
【0056】
これによれば、金属/エラストマー複合材Aを用いた交互積層構造体は、天然ゴム組成物を用いた交互積層構造体に比べて著しく大きなヒステリシスループを有し、従って、非常に高い減衰性能を有することが分かる。
【0057】
また、等価減衰率は、気孔率が78%である金属/エラストマー複合材Aが52%、気孔率が84%である金属/エラストマー複合材Bが32%、気孔率が95%である金属/エラストマー複合材Cが22%、及び気孔率が98%である金属/エラストマー複合材Dが18%であった。そして、図5はその金属/エラストマー複合材A〜Dの気孔率と等価減衰率との関係を示す。
【0058】
これによれば、スポンジ状金属多孔質体の気孔率により金属/エラストマー複合材の減衰性能を制御できることが分かる。
【0059】
ブレース型ダンパーを用いた試験評価について、等価減衰率が32%である金属/エラストマー複合材Bを用いたブレース型ダンパーは、等価減衰率が15%である高減衰の天然ゴム組成物を用いたブレース型ダンパーでは達成できない減衰性能、具体的には2倍以上の減衰性能を発現した。また、スポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材をダンパーに適用する場合、マトリクスのエラストマーとして永久歪みの少ないゴムを用いることができ、安定したヒステリシスカーブの繰り返しを得ることができる。
【0060】
<ガスケット適用性>
図6は金属/エラストマー複合材Aのガスケットの断面を示す。
【0061】
得られた金属/エラストマー複合材Aのガスケットは、エラストマーによるシール性と共に、スポンジ状金属多孔質体による形状保持性をも有し、しかも、製造及び組み付けが容易であり、その優れた適用性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0063】
10 金属/エラストマー複合材
11 スポンジ状金属多孔質体
11a 連続孔
12 マトリクス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材であって、
上記スポンジ状金属多孔質体の連続孔に上記マトリクスを構成するエラストマーが含浸している金属/エラストマー複合材。
【請求項2】
請求項1に記載された金属/エラストマー複合材において、
上記スポンジ状金属多孔質体は、その気孔率が50%以上である金属/エラストマー複合材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された金属/エラストマー複合材において、
上記マトリクスが架橋型エラストマーで構成されている金属/エラストマー複合材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された金属/エラストマー複合材において、
複合材自体の等価減衰率が10%以上であるエネルギー吸収用途で用いられる金属/エラストマー複合材。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載された金属/エラストマー複合材において、
他部材接触面に上記スポンジ状金属多孔質体が露出せずに上記マトリクスのみが露出しているシーリング用途で用いられる金属/エラストマー複合材。
【請求項6】
連続孔を有するスポンジ状金属多孔質体を、流動性のエラストマー原料に、連続孔にエラストマー原料が流入するように接触させて埋設した後、エラストマー原料を非流動化させる、スポンジ状金属多孔質体がエラストマーのマトリクスに埋設された金属/エラストマー複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214082(P2011−214082A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83633(P2010−83633)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】