鉄道車両の駆動装置
【課題】リチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現を可能とする。
【解決手段】蓄電素子としてキャパシタ7を用い、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路の他に、充放電装置11によりキャパシタ7を放電する方向に流れる電流経路を設けることで、キャパシタ7には回生電流(キャパシタを充電する方向に流れる電流)と充放電装置11によるチョッパ電流(キャパシタを放電する方向に流れる電流)の差分の電流を通流させる。
【解決手段】蓄電素子としてキャパシタ7を用い、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路の他に、充放電装置11によりキャパシタ7を放電する方向に流れる電流経路を設けることで、キャパシタ7には回生電流(キャパシタを充電する方向に流れる電流)と充放電装置11によるチョッパ電流(キャパシタを放電する方向に流れる電流)の差分の電流を通流させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子を搭載した車両の駆動装置に関し、特に回生ブレーキが動作する速度域を拡大する機能を実現できる鉄道車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の分野では、ブレーキ時に主電動機を発電機として動作させて、ブレーキ力を得ると同時に車両の運動エネルギを電気エネルギに変換して架線へ戻す回生ブレーキ制御が広く用いられている。回生ブレーキ制御により架線に戻された電力は、他の車両が力行する電力として利用できるため、消費電力を低減することができる。
【0003】
しかしながら、回生ブレーキ制御には、主電動機やインバータ装置の性能により高速度域(定トルク終端速度以上)では回生性能が制限され、十分なブレーキ力が得られないという課題がある。
【0004】
この課題を解決する技術が、例えば特許文献1に記載されている。前記特許文献1に記載の鉄道車両の駆動装置は、電動機と電動機を駆動するインバータ装置と充放電可能な蓄電素子と蓄電素子に対する電圧変換器(チョッパ装置)を備え、蓄電素子をインバータ装置と直列に接続し、電圧変換器により発生した電圧を直流電源電圧(架線電圧)に加算し、インバータ装置に印加している。これにより電動機に印加される電圧が増加し、電動機出力を増大できるので、電動機の電流を増加することなく高速域での回生ブレーキ力を増大することができる(以下、高速域電気ブレーキ機能と呼ぶ)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術の場合、蓄電素子には端子間電圧と通流電流の積に相当する電力が充電される。この場合は、蓄電素子には回生電流(架線電流)Isが通流するため、蓄電素子には、端子間電圧Vbと回生電流Isの積Vb×Isに相当する大きな電力が充電される。そのため、蓄電素子としてリチウムイオン電池等の比較的容量の大きい蓄電素子が必要となり、システムのコストアップにつながるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、リチウムイオン電池等の大容量蓄電素子を用いることなく、高速域電気ブレーキ機能の実現に不可欠なインバータ装置の直流入力電圧を昇圧する手段を提供し、システムの低コスト化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
直流電圧源から直流電力を得る集電装置と、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置と、インバータ装置により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機と、インバータ装置の直流電力側に接続される充放電可能なキャパシタと、キャパシタの電力を充放電する充放電装置と、を備え、交流電動機から回生電力を発生させる際に、インバータ装置とキャパシタを直列に接続して回生電流によりキャパシタを充電することにより、キャパシタの端子間電圧と架線電圧の和を前記インバータ装置の直流入力電圧とすると共に、充放電装置を動作させてキャパシタに充電された電荷を放電する電流経路を設ける。つまり、キャパシタの放電を行う充放電装置(例、チョッパ装置)を設け、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路(回生電流)の他に、充放電装置によりキャパシタを放電する方向に流れる電流経路(チョッパ電流)をつくる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施態様によれば、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路(回生電流)の他に、充放電装置によりキャパシタを放電する方向に流れる電流経路(チョッパ電流)を設けることで、従来技術のようにリチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現を可能とすることでシステムの低コスト化が図れる。
【0010】
また、充放電装置によりキャパシタの放電電流量を調整することで、キャパシタの端子間電圧がコントロールでき、インバータ装置の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の鉄道車両の駆動装置における基本構成を示す図。
【図2】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態の基本構成を示す図。
【図3】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作しない場合)を示す図。
【図4】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子8オンの時)を示す図。
【図5】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(スイッチング素子8オンの時)におけるスイッチング素子8を通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図6】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子8オフの時)を示す図。
【図7】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(スイッチング素子8オフの時)におけるダイオード素子9を通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図8】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態におけるキャパシタ充電電流と放電電流の時間波形を示す図。
【図9】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態におけるキャパシタ通流電流の時間波形を示す図。
【図10】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態の基本構成を示す図。
【図11】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作しない場合)を示す図。
【図12】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子12bオンの時)を示す図。
【図13】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(スイッチング素子12bオンの時)におけるスイッチング素子12bを通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図14】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子12bオフの時)を示す図。
【図15】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(スイッチング素子12bオフの時)におけるダイオード素子13aを通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の鉄道車両の駆動装置における基本構成を示す図である。
【0014】
電車線などの直流電圧源から直流電力を得る集電装置1と、フィルタリアクトル(FL)2、およびフィルタコンデンサ(FC)3で構成するLC回路(フィルタ回路)と、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置4と、インバータ装置4により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機5a,5bと、インバータ装置4の直流電力側に充放電が可能な蓄電素子としてキャパシタ7と、キャパシタ7の電力を充放電する機能を有する充放電装置11を備えた鉄道車両の駆動装置である。なお、キャパシタ7はインバータ装置4の低電位側端子に直列に接続される。
【0015】
図1では、インバータ装置4が駆動する主電動機が2台の場合を示しているが、本発明としてはインバータ装置4が駆動する主電動機の台数は限定しない。
【0016】
図2は本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態の基本構成を示す図である。
【0017】
充放電装置11はスイッチング素子8およびダイオード素子9および平滑リアクトル(MSL)10で構成される。スイッチング素子8とダイオード素子9を直列に接続した回路は、直流電力側にインバータ装置4と並列に接続される。つまり、スイッチング素子8とダイオード素子9を直列に接続した回路は、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される。また、平滑リアクトル(MSL)10は、スイッチング素子8とダイオード素子9の接続点と、キャパシタ7の正極端子とを結ぶ電力線の途中に配置する。なお、キャパシタ7の正極端子は接地点6に接続し、負極端子はインバータ装置4の低電位側端子に接続する。
【0018】
本発明の実施形態においては、回生時は図3のように回生電流Isが流れ、キャパシタ7は回生電流Isにより充電され、キャパシタ7の両端に電圧Vcが発生する。このとき、インバータ装置4の低電位側端子の電圧は、接地点6を基準として、キャパシタ7の端子間電圧Vcだけ引き下げられる。一方、インバータ装置4の高電位側端子の電位は、接地点6を基準電位と考えると、架線電圧Vsに等しい。すなわち、インバータ装置4の入出力端子間(正極〜負極)の電位差は、キャパシタ7の端子間電圧Vcと、架線電圧Vsの和、Vc+Vsとなる。このようにして、インバータ装置4の入出力端子間(正極から負極)の電位差をキャパシタ7の端子間電圧Vcだけ増大させることにより、インバータ装置4の最大通流電流を変えることなく、最大回生電力を(Vc+Vs)/Vsだけ拡大できる。また、このときキャパシタ7には、端子間電圧Vcとキャパシタ通流電流Icの積、Vc×Icに相当する電力が充電される。
【0019】
その後、図4及び図6に示すように、スイッチング素子8を周期的にチョッピング(オン/オフ)することで、キャパシタ7に放電電流(チョッパ電流)を流す。
【0020】
具体的には、図4に示すように、前述のスイッチング素子8を所定時間Tonだけオンすると、キャパシタ7の正極側と負極側は平滑リアクトル(MSL)10を通じて短絡されるが、このとき、平滑リアクトル(MSL)10は、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、所定時間Tonの期間に通流した電流と、キャパシタ7の端子間電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。このとき、スイッチング素子8を通流する電流I8は平滑リアクトル(MSL)10にエネルギを蓄えるのに伴い次第に増加していく。
【0021】
このときのスイッチング素子8を通流する電流I8および回生電流Isのタイムチャートを図5に示す。
【0022】
スイッチング素子8を通流する電流I8と回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間A(スイッチング素子8がオン状態であり、スイッチング素子8を通流する電流I8が回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子8を通流する電流I8の方が小さいためキャパシタ7は充電される。一方、期間B(スイッチング素子8がオン状態であり、スイッチング素子8を通流する電流I8が回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子8を通流する電流I8の方が大きくなるためキャパシタ7は放電される。
【0023】
その後、図6に示すように、スイッチング素子8を所定時間Toffだけオフすると、平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられた電力エネルギはダイオード素子9を介して集電装置1とインバータ装置4の間の直流電力部に放出される。このとき、ダイオード素子9を通流する電流I9は平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられたエネルギの放出に伴い次第に減少していく。
【0024】
このときのダイオード素子9を通流する電流I9および回生電流Isのタイムチャートを図7に示す。
【0025】
ダイオード素子9を通流する電流I9と回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間C(スイッチング素子8がオフ状態であり、ダイオード素子9を通流する電流I9が回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子9を通流する電流I9の方が大きいためキャパシタ7は放電される。一方、期間D(スイッチング素子8がオフ状態であり、ダイオード素子9を通流する電流I9が回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子9を通流する電流I9の方が小さくなるためキャパシタ7は充電される。
【0026】
ここで、スイッチング素子8をオン/オフしたときの、キャパシタ7の充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)を図8に示す。また、キャパシタ7の通流電流Icを図9に示す。キャパシタ7には充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分の電流が通流し、充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分を時間積算した値が充電電荷量としてキャパシタ7に充電される。したがって、キャパシタ7は回生電力をすべて充電する必要がなく、充放電装置11による放電電流分だけキャパシタ7に充電される充電電荷量が低減するため、キャパシタ7の小容量化が図れる。また、スイッチング素子8のチョッピング(オン/オフ)により、キャパシタ7の放電電流の大きさを調整し、キャパシタ7の端子間電圧(充電電荷量)をコントロールすることによりキャパシタ7の端子間電圧Vcを所望の値に制御することも可能となる。つまり、キャパシタ7の放電電流を大きくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を長くするようにチョッピングを調節し、キャパシタ7の放電電流を小さくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を短くするようにチョッピングを調節する。
【0027】
本発明の実施態様により、リチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現が可能となり、システムの低コスト化が図れる。また、充放電装置11によりキャパシタ7の放電電流を調整することでキャパシタ7の端子間電圧をコントロールでき、インバータ装置4の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。なお、キャパシタ7の放電電流の制御は、インバータ装置4の直流入力電圧を所望の値に追従させるように制御しても良く、キャパシタ7の端子間電圧を所望の値に追従させるように制御しても良い。
【0028】
本実施例では、充放電装置の具体的な構成として、スイッチング素子8とダイオード素子9を利用する例を示したが、ダイオード素子9は、直流電圧源の接地点から直流電圧源の正極側の方向へのみ電流を導通できる電流方向制御手段であれば置換え可能であり、また、スイッチング素子8は直流電圧源から直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる電流遮断手段であれば、置換え可能である。
【実施例2】
【0029】
図10は本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態の基本構成を示す図である。
【0030】
集電装置1から給電した直流電力は、フィルタリアクトル(FL)2、およびフィルタコンデンサ(FC)3で構成するLC回路(フィルタ回路)で高周波数域の変動を除去した後、インバータ装置4に入力される。インバータ装置4は、入力された直流電力を可変電圧可変周波数(VVVF)の3相交流電力に変換して、主電動機5a,5bを駆動する。ここではインバータ装置4が駆動する交流電動機が2台の場合を示しているが、本発明としてはインバータ装置4が駆動する主電動機の台数は限定しない。接地点6はこの回路の基準電位を決めている。
【0031】
スイッチング素子12a,12bは、半導体素子による電流遮断手段である。スイッチング素子12aとスイッチング素子12bのそれぞれの入出力端子には、導通方向が反対向きに、ダイオード素子13aとダイオード素子13bが並列に接続される。逆並列接続されたスイッチング素子12aとダイオード素子13aと、逆並列接続されたスイッチング素子12bとダイオード素子13aと、互いには直列に接続され、当該直列接続体はインバータ装置に対して並列接続される。つまり、スイッチング素子12aとダイオード素子13aとスイッチング素子12bとダイオード素子13aは、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される。
【0032】
平滑リアクトル(MSL)10は、スイッチング素子12aと12bの接続点と、キャパシタ7の正極端子を結ぶ電力線の途中に配置する。なお、キャパシタ7の正極端子は接地点6に接続し、負極端子はインバータ装置4の低電位側端子に接続する。
【0033】
本発明の実施形態においては、回生時は図11のように回生電流が流れ、キャパシタ7は回生電流により充電され、キャパシタ7の両端に電圧Vcが発生する。このとき、インバータ装置4の低電位側端子の電圧は、接地点6を基準として、キャパシタ7の端子間電圧Vcだけ引き下げられる。一方、インバータ装置4の高電位側端子の電位は、接地点6を基準電位と考えると、架線電圧Vsに等しい。すなわち、インバータ装置4の入出力端子間(正極〜負極)の電位差は、キャパシタ7の端子間電圧Vcと、架線電圧Vsの和、Vc+Vsとなる。このようにして、インバータ装置4の入出力端子間(正極から負極)の電位差をキャパシタ7の端子間電圧Vcだけ増大させることにより、インバータ装置4の最大通流電流を変えることなく、最大回生電力を(Vc+Vs)/Vsだけ拡大できる。また、このときキャパシタ7には、端子間電圧Vcとキャパシタ通流電流Ic(=架線電流Is)の積、Vc×Icに相当する電力が充電される。
【0034】
その後、本発明の実施形態においては、図12及び図14に示すように、スイッチング素子12bを周期的にチョッピング(オン/オフ)することで、キャパシタ7に放電電流(チョッパ電流)を流す。
【0035】
具体的には、図12に示すように、スイッチング素子12aはオフ状態とし、前述のスイッチング素子12bを所定時間Tonだけオンすると、キャパシタ7の正極側と負極側は平滑リアクトル(MSL)10を通じて短絡されるが、このとき、平滑リアクトル(MSL)10は、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、Tonの期間に通流した電流と、キャパシタ7の端子間電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。このとき、スイッチング素子12bを通流する電流I12bは平滑リアクトル(MSL)10にエネルギを蓄えるのに伴い次第に増加していく。
【0036】
このときのスイッチング素子12bを通流する電流I12bおよび回生電流Isのタイムチャートを図13に示す。
【0037】
スイッチング素子12bを通流する電流I12bと回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間A(スイッチング素子12bがオン状態であり、スイッチング素子12bを通流する電流I12bが回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子12bを通流する電流I12bの方が小さいためキャパシタ7は充電される。一方、期間B(スイッチング素子8bがオン状態であり、スイッチング素子12bを通流する電流I12bが回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子12bを通流する電流I12bの方が大きくなるためキャパシタ7は放電される。
【0038】
その後、図14に示すように、スイッチング素子12aはオフ状態を維持し、スイッチング素子12bを所定時間Toffだけオフすると、平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられた電力エネルギはダイオード素子13aを介して集電装置1とインバータ装置4の間の直流電力部に放出される。このとき、ダイオード素子13aを通流する電流I13aは平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられたエネルギの放出に伴い次第に減少していく。
【0039】
このときのダイオード素子13aを通流する電流I13aおよび回生電流Isのタイムチャートを図15に示す。
【0040】
ダイオード素子13aを通流する電流I13aと回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間C(スイッチング素子12bがオフ状態であり、ダイオード素子13aを通流する電流I13aが回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子13aを通流する電流I13aの方が大きいためキャパシタ7は放電される。一方、期間D(スイッチング素子12bがオフ状態であり、ダイオード素子13aを通流する電流I13aが回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子13aを通流する電流I13aの方が小さくなるためキャパシタ7は充電される。
【0041】
キャパシタ7には充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分の電流が通流し、充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分を時間積算した値が充電電荷量として充電される。したがって、充放電装置11による放電電流分だけキャパシタ7に充電される充電電荷量が低減するためキャパシタ7の小容量化が図れる。また、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)により、キャパシタ7の放電電流の大きさを調整し、キャパシタ7の端子間電圧(充電電荷量)をコントロールすることによりキャパシタ7の端子間電圧Vcを所望の値に制御することが可能となる。つまり、キャパシタ7の放電電流を大きくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を長くするようにチョッピングを調節し、キャパシタ7の放電電流を小さくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を短くするようにチョッピングを調節する。
【0042】
本発明の実施態様により、リチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現が可能となり、システムの低コスト化が図れる。また、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)によりキャパシタ7の放電電流を調整することでキャパシタ7の端子間電圧をコントロールでき、インバータ装置4の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。なお、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)制御は、インバータ装置4の直流入力電圧を所望の値に追従させるように制御しても良く、キャパシタ7の端子間電圧を所望の値に追従させるように制御しても良い。
【0043】
本実施例では、充放電装置の具体的な構成として、スイッチング素子12a,12b,ダイオード素子13a,13b利用する例を示したが、直流電圧源から直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる半導体素子で構成される電流遮断手段と、電流遮断手段と逆方向にのみ電流を導通できる電流方向制御手段と、を並列接続した構成であれば置換え可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 集電装置
2 フィルタリアクトル
3 フィルタコンデンサ
4 インバータ装置
5a,5b 交流電動機
6 接地点
7 キャパシタ
8,12a,12b スイッチング素子
9,13a,13b ダイオード素子
10 平滑リアクトル
11 充放電装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子を搭載した車両の駆動装置に関し、特に回生ブレーキが動作する速度域を拡大する機能を実現できる鉄道車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の分野では、ブレーキ時に主電動機を発電機として動作させて、ブレーキ力を得ると同時に車両の運動エネルギを電気エネルギに変換して架線へ戻す回生ブレーキ制御が広く用いられている。回生ブレーキ制御により架線に戻された電力は、他の車両が力行する電力として利用できるため、消費電力を低減することができる。
【0003】
しかしながら、回生ブレーキ制御には、主電動機やインバータ装置の性能により高速度域(定トルク終端速度以上)では回生性能が制限され、十分なブレーキ力が得られないという課題がある。
【0004】
この課題を解決する技術が、例えば特許文献1に記載されている。前記特許文献1に記載の鉄道車両の駆動装置は、電動機と電動機を駆動するインバータ装置と充放電可能な蓄電素子と蓄電素子に対する電圧変換器(チョッパ装置)を備え、蓄電素子をインバータ装置と直列に接続し、電圧変換器により発生した電圧を直流電源電圧(架線電圧)に加算し、インバータ装置に印加している。これにより電動機に印加される電圧が増加し、電動機出力を増大できるので、電動機の電流を増加することなく高速域での回生ブレーキ力を増大することができる(以下、高速域電気ブレーキ機能と呼ぶ)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術の場合、蓄電素子には端子間電圧と通流電流の積に相当する電力が充電される。この場合は、蓄電素子には回生電流(架線電流)Isが通流するため、蓄電素子には、端子間電圧Vbと回生電流Isの積Vb×Isに相当する大きな電力が充電される。そのため、蓄電素子としてリチウムイオン電池等の比較的容量の大きい蓄電素子が必要となり、システムのコストアップにつながるという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、リチウムイオン電池等の大容量蓄電素子を用いることなく、高速域電気ブレーキ機能の実現に不可欠なインバータ装置の直流入力電圧を昇圧する手段を提供し、システムの低コスト化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
直流電圧源から直流電力を得る集電装置と、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置と、インバータ装置により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機と、インバータ装置の直流電力側に接続される充放電可能なキャパシタと、キャパシタの電力を充放電する充放電装置と、を備え、交流電動機から回生電力を発生させる際に、インバータ装置とキャパシタを直列に接続して回生電流によりキャパシタを充電することにより、キャパシタの端子間電圧と架線電圧の和を前記インバータ装置の直流入力電圧とすると共に、充放電装置を動作させてキャパシタに充電された電荷を放電する電流経路を設ける。つまり、キャパシタの放電を行う充放電装置(例、チョッパ装置)を設け、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路(回生電流)の他に、充放電装置によりキャパシタを放電する方向に流れる電流経路(チョッパ電流)をつくる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施態様によれば、高速域電気ブレーキ機能によりキャパシタを充電する方向に流れる電流経路(回生電流)の他に、充放電装置によりキャパシタを放電する方向に流れる電流経路(チョッパ電流)を設けることで、従来技術のようにリチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現を可能とすることでシステムの低コスト化が図れる。
【0010】
また、充放電装置によりキャパシタの放電電流量を調整することで、キャパシタの端子間電圧がコントロールでき、インバータ装置の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の鉄道車両の駆動装置における基本構成を示す図。
【図2】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態の基本構成を示す図。
【図3】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作しない場合)を示す図。
【図4】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子8オンの時)を示す図。
【図5】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(スイッチング素子8オンの時)におけるスイッチング素子8を通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図6】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子8オフの時)を示す図。
【図7】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態における基本動作(スイッチング素子8オフの時)におけるダイオード素子9を通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図8】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態におけるキャパシタ充電電流と放電電流の時間波形を示す図。
【図9】本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態におけるキャパシタ通流電流の時間波形を示す図。
【図10】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態の基本構成を示す図。
【図11】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作しない場合)を示す図。
【図12】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子12bオンの時)を示す図。
【図13】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(スイッチング素子12bオンの時)におけるスイッチング素子12bを通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【図14】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(充放電装置が動作する場合:スイッチング素子12bオフの時)を示す図。
【図15】本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態における基本動作(スイッチング素子12bオフの時)におけるダイオード素子13aを通流する電流および回生電流の時間波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の鉄道車両の駆動装置における基本構成を示す図である。
【0014】
電車線などの直流電圧源から直流電力を得る集電装置1と、フィルタリアクトル(FL)2、およびフィルタコンデンサ(FC)3で構成するLC回路(フィルタ回路)と、直流電力を交流電力に変換するインバータ装置4と、インバータ装置4により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機5a,5bと、インバータ装置4の直流電力側に充放電が可能な蓄電素子としてキャパシタ7と、キャパシタ7の電力を充放電する機能を有する充放電装置11を備えた鉄道車両の駆動装置である。なお、キャパシタ7はインバータ装置4の低電位側端子に直列に接続される。
【0015】
図1では、インバータ装置4が駆動する主電動機が2台の場合を示しているが、本発明としてはインバータ装置4が駆動する主電動機の台数は限定しない。
【0016】
図2は本発明の鉄道車両の駆動装置における第1の実施形態の基本構成を示す図である。
【0017】
充放電装置11はスイッチング素子8およびダイオード素子9および平滑リアクトル(MSL)10で構成される。スイッチング素子8とダイオード素子9を直列に接続した回路は、直流電力側にインバータ装置4と並列に接続される。つまり、スイッチング素子8とダイオード素子9を直列に接続した回路は、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される。また、平滑リアクトル(MSL)10は、スイッチング素子8とダイオード素子9の接続点と、キャパシタ7の正極端子とを結ぶ電力線の途中に配置する。なお、キャパシタ7の正極端子は接地点6に接続し、負極端子はインバータ装置4の低電位側端子に接続する。
【0018】
本発明の実施形態においては、回生時は図3のように回生電流Isが流れ、キャパシタ7は回生電流Isにより充電され、キャパシタ7の両端に電圧Vcが発生する。このとき、インバータ装置4の低電位側端子の電圧は、接地点6を基準として、キャパシタ7の端子間電圧Vcだけ引き下げられる。一方、インバータ装置4の高電位側端子の電位は、接地点6を基準電位と考えると、架線電圧Vsに等しい。すなわち、インバータ装置4の入出力端子間(正極〜負極)の電位差は、キャパシタ7の端子間電圧Vcと、架線電圧Vsの和、Vc+Vsとなる。このようにして、インバータ装置4の入出力端子間(正極から負極)の電位差をキャパシタ7の端子間電圧Vcだけ増大させることにより、インバータ装置4の最大通流電流を変えることなく、最大回生電力を(Vc+Vs)/Vsだけ拡大できる。また、このときキャパシタ7には、端子間電圧Vcとキャパシタ通流電流Icの積、Vc×Icに相当する電力が充電される。
【0019】
その後、図4及び図6に示すように、スイッチング素子8を周期的にチョッピング(オン/オフ)することで、キャパシタ7に放電電流(チョッパ電流)を流す。
【0020】
具体的には、図4に示すように、前述のスイッチング素子8を所定時間Tonだけオンすると、キャパシタ7の正極側と負極側は平滑リアクトル(MSL)10を通じて短絡されるが、このとき、平滑リアクトル(MSL)10は、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、所定時間Tonの期間に通流した電流と、キャパシタ7の端子間電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。このとき、スイッチング素子8を通流する電流I8は平滑リアクトル(MSL)10にエネルギを蓄えるのに伴い次第に増加していく。
【0021】
このときのスイッチング素子8を通流する電流I8および回生電流Isのタイムチャートを図5に示す。
【0022】
スイッチング素子8を通流する電流I8と回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間A(スイッチング素子8がオン状態であり、スイッチング素子8を通流する電流I8が回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子8を通流する電流I8の方が小さいためキャパシタ7は充電される。一方、期間B(スイッチング素子8がオン状態であり、スイッチング素子8を通流する電流I8が回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子8を通流する電流I8の方が大きくなるためキャパシタ7は放電される。
【0023】
その後、図6に示すように、スイッチング素子8を所定時間Toffだけオフすると、平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられた電力エネルギはダイオード素子9を介して集電装置1とインバータ装置4の間の直流電力部に放出される。このとき、ダイオード素子9を通流する電流I9は平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられたエネルギの放出に伴い次第に減少していく。
【0024】
このときのダイオード素子9を通流する電流I9および回生電流Isのタイムチャートを図7に示す。
【0025】
ダイオード素子9を通流する電流I9と回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間C(スイッチング素子8がオフ状態であり、ダイオード素子9を通流する電流I9が回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子9を通流する電流I9の方が大きいためキャパシタ7は放電される。一方、期間D(スイッチング素子8がオフ状態であり、ダイオード素子9を通流する電流I9が回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子9を通流する電流I9の方が小さくなるためキャパシタ7は充電される。
【0026】
ここで、スイッチング素子8をオン/オフしたときの、キャパシタ7の充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)を図8に示す。また、キャパシタ7の通流電流Icを図9に示す。キャパシタ7には充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分の電流が通流し、充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分を時間積算した値が充電電荷量としてキャパシタ7に充電される。したがって、キャパシタ7は回生電力をすべて充電する必要がなく、充放電装置11による放電電流分だけキャパシタ7に充電される充電電荷量が低減するため、キャパシタ7の小容量化が図れる。また、スイッチング素子8のチョッピング(オン/オフ)により、キャパシタ7の放電電流の大きさを調整し、キャパシタ7の端子間電圧(充電電荷量)をコントロールすることによりキャパシタ7の端子間電圧Vcを所望の値に制御することも可能となる。つまり、キャパシタ7の放電電流を大きくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を長くするようにチョッピングを調節し、キャパシタ7の放電電流を小さくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を短くするようにチョッピングを調節する。
【0027】
本発明の実施態様により、リチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現が可能となり、システムの低コスト化が図れる。また、充放電装置11によりキャパシタ7の放電電流を調整することでキャパシタ7の端子間電圧をコントロールでき、インバータ装置4の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。なお、キャパシタ7の放電電流の制御は、インバータ装置4の直流入力電圧を所望の値に追従させるように制御しても良く、キャパシタ7の端子間電圧を所望の値に追従させるように制御しても良い。
【0028】
本実施例では、充放電装置の具体的な構成として、スイッチング素子8とダイオード素子9を利用する例を示したが、ダイオード素子9は、直流電圧源の接地点から直流電圧源の正極側の方向へのみ電流を導通できる電流方向制御手段であれば置換え可能であり、また、スイッチング素子8は直流電圧源から直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる電流遮断手段であれば、置換え可能である。
【実施例2】
【0029】
図10は本発明の鉄道車両の駆動装置における第2の実施形態の基本構成を示す図である。
【0030】
集電装置1から給電した直流電力は、フィルタリアクトル(FL)2、およびフィルタコンデンサ(FC)3で構成するLC回路(フィルタ回路)で高周波数域の変動を除去した後、インバータ装置4に入力される。インバータ装置4は、入力された直流電力を可変電圧可変周波数(VVVF)の3相交流電力に変換して、主電動機5a,5bを駆動する。ここではインバータ装置4が駆動する交流電動機が2台の場合を示しているが、本発明としてはインバータ装置4が駆動する主電動機の台数は限定しない。接地点6はこの回路の基準電位を決めている。
【0031】
スイッチング素子12a,12bは、半導体素子による電流遮断手段である。スイッチング素子12aとスイッチング素子12bのそれぞれの入出力端子には、導通方向が反対向きに、ダイオード素子13aとダイオード素子13bが並列に接続される。逆並列接続されたスイッチング素子12aとダイオード素子13aと、逆並列接続されたスイッチング素子12bとダイオード素子13aと、互いには直列に接続され、当該直列接続体はインバータ装置に対して並列接続される。つまり、スイッチング素子12aとダイオード素子13aとスイッチング素子12bとダイオード素子13aは、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される。
【0032】
平滑リアクトル(MSL)10は、スイッチング素子12aと12bの接続点と、キャパシタ7の正極端子を結ぶ電力線の途中に配置する。なお、キャパシタ7の正極端子は接地点6に接続し、負極端子はインバータ装置4の低電位側端子に接続する。
【0033】
本発明の実施形態においては、回生時は図11のように回生電流が流れ、キャパシタ7は回生電流により充電され、キャパシタ7の両端に電圧Vcが発生する。このとき、インバータ装置4の低電位側端子の電圧は、接地点6を基準として、キャパシタ7の端子間電圧Vcだけ引き下げられる。一方、インバータ装置4の高電位側端子の電位は、接地点6を基準電位と考えると、架線電圧Vsに等しい。すなわち、インバータ装置4の入出力端子間(正極〜負極)の電位差は、キャパシタ7の端子間電圧Vcと、架線電圧Vsの和、Vc+Vsとなる。このようにして、インバータ装置4の入出力端子間(正極から負極)の電位差をキャパシタ7の端子間電圧Vcだけ増大させることにより、インバータ装置4の最大通流電流を変えることなく、最大回生電力を(Vc+Vs)/Vsだけ拡大できる。また、このときキャパシタ7には、端子間電圧Vcとキャパシタ通流電流Ic(=架線電流Is)の積、Vc×Icに相当する電力が充電される。
【0034】
その後、本発明の実施形態においては、図12及び図14に示すように、スイッチング素子12bを周期的にチョッピング(オン/オフ)することで、キャパシタ7に放電電流(チョッパ電流)を流す。
【0035】
具体的には、図12に示すように、スイッチング素子12aはオフ状態とし、前述のスイッチング素子12bを所定時間Tonだけオンすると、キャパシタ7の正極側と負極側は平滑リアクトル(MSL)10を通じて短絡されるが、このとき、平滑リアクトル(MSL)10は、その電流増加率を一定値内に抑えると同時に、Tonの期間に通流した電流と、キャパシタ7の端子間電圧の積を時間積分した電力エネルギを蓄える。このとき、スイッチング素子12bを通流する電流I12bは平滑リアクトル(MSL)10にエネルギを蓄えるのに伴い次第に増加していく。
【0036】
このときのスイッチング素子12bを通流する電流I12bおよび回生電流Isのタイムチャートを図13に示す。
【0037】
スイッチング素子12bを通流する電流I12bと回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間A(スイッチング素子12bがオン状態であり、スイッチング素子12bを通流する電流I12bが回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子12bを通流する電流I12bの方が小さいためキャパシタ7は充電される。一方、期間B(スイッチング素子8bがオン状態であり、スイッチング素子12bを通流する電流I12bが回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してスイッチング素子12bを通流する電流I12bの方が大きくなるためキャパシタ7は放電される。
【0038】
その後、図14に示すように、スイッチング素子12aはオフ状態を維持し、スイッチング素子12bを所定時間Toffだけオフすると、平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられた電力エネルギはダイオード素子13aを介して集電装置1とインバータ装置4の間の直流電力部に放出される。このとき、ダイオード素子13aを通流する電流I13aは平滑リアクトル(MSL)10に蓄えられたエネルギの放出に伴い次第に減少していく。
【0039】
このときのダイオード素子13aを通流する電流I13aおよび回生電流Isのタイムチャートを図15に示す。
【0040】
ダイオード素子13aを通流する電流I13aと回生電流Isとがバランスする前後の期間において、期間C(スイッチング素子12bがオフ状態であり、ダイオード素子13aを通流する電流I13aが回生電流Isより大きい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子13aを通流する電流I13aの方が大きいためキャパシタ7は放電される。一方、期間D(スイッチング素子12bがオフ状態であり、ダイオード素子13aを通流する電流I13aが回生電流Isより小さい期間)では回生電流Isに対してダイオード素子13aを通流する電流I13aの方が小さくなるためキャパシタ7は充電される。
【0041】
キャパシタ7には充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分の電流が通流し、充電電流(回生電流Is)と放電電流(チョッパ電流IMSL)の差分を時間積算した値が充電電荷量として充電される。したがって、充放電装置11による放電電流分だけキャパシタ7に充電される充電電荷量が低減するためキャパシタ7の小容量化が図れる。また、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)により、キャパシタ7の放電電流の大きさを調整し、キャパシタ7の端子間電圧(充電電荷量)をコントロールすることによりキャパシタ7の端子間電圧Vcを所望の値に制御することが可能となる。つまり、キャパシタ7の放電電流を大きくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を長くするようにチョッピングを調節し、キャパシタ7の放電電流を小さくする場合には、スイッチング素子8のオン期間を短くするようにチョッピングを調節する。
【0042】
本発明の実施態様により、リチウムイオン電池等の大容量の蓄電素子を用いることなく、小容量のキャパシタで高速域電気ブレーキ機能の実現が可能となり、システムの低コスト化が図れる。また、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)によりキャパシタ7の放電電流を調整することでキャパシタ7の端子間電圧をコントロールでき、インバータ装置4の直流入力電圧を可変制御することが可能となる。なお、スイッチング素子12bのチョッピング(オン/オフ)制御は、インバータ装置4の直流入力電圧を所望の値に追従させるように制御しても良く、キャパシタ7の端子間電圧を所望の値に追従させるように制御しても良い。
【0043】
本実施例では、充放電装置の具体的な構成として、スイッチング素子12a,12b,ダイオード素子13a,13b利用する例を示したが、直流電圧源から直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる半導体素子で構成される電流遮断手段と、電流遮断手段と逆方向にのみ電流を導通できる電流方向制御手段と、を並列接続した構成であれば置換え可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 集電装置
2 フィルタリアクトル
3 フィルタコンデンサ
4 インバータ装置
5a,5b 交流電動機
6 接地点
7 キャパシタ
8,12a,12b スイッチング素子
9,13a,13b ダイオード素子
10 平滑リアクトル
11 充放電装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源から直流電力を得る集電装置と、
前記直流電力を交流電力に変換するインバータ装置と、
前記インバータ装置により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機と、
前記インバータ装置の直流電力側に接続される充放電可能なキャパシタと、
前記キャパシタの電力を充放電する充放電装置と、を備え、
前記交流電動機から回生電力を発生させる際に、前記インバータ装置と前記キャパシタを直列に接続して回生電流により前記キャパシタを充電することにより、キャパシタの端子間電圧と架線電圧の和を前記インバータ装置の直流入力電圧とすると共に、
前記充放電装置を動作させて前記キャパシタに充電された電荷を放電する電流経路を設けることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記充放電装置は、前記キャパシタの放電電流を制御することで、前記キャパシタの端子間電圧または前記インバータ装置の直流入力電圧を所望の電圧値に調節することを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記充放電装置は、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線に一方を接続する第1の電流制御手段と、
前記第1の電流制御手段の他方と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される第2の電流制御手段と、
前記第1の電流制御手段と前記第2の電流制御手段の接続位置と前記キャパシタの正極側の間に挿入されたリアクトルと、を備えることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記第1の電流制御手段は、前記直流電圧源の接地点から前記直流電圧源の正極側の方向へのみ電流を導通できる電流方向制御手段であり、前記第2の電流制御手段は前記直流電圧源から前記直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる電流遮断手段であることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項3に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記第1の電流制御手段と前記第2の電流制御手段は、前記直流電圧源から前記直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる半導体素子で構成される電流遮断手段と、前記電流遮断手段と逆方向にのみ電流を導通できる電流方向制御手段と、を並列接続した構成であることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項1】
直流電圧源から直流電力を得る集電装置と、
前記直流電力を交流電力に変換するインバータ装置と、
前記インバータ装置により駆動される少なくとも1台以上の交流電動機と、
前記インバータ装置の直流電力側に接続される充放電可能なキャパシタと、
前記キャパシタの電力を充放電する充放電装置と、を備え、
前記交流電動機から回生電力を発生させる際に、前記インバータ装置と前記キャパシタを直列に接続して回生電流により前記キャパシタを充電することにより、キャパシタの端子間電圧と架線電圧の和を前記インバータ装置の直流入力電圧とすると共に、
前記充放電装置を動作させて前記キャパシタに充電された電荷を放電する電流経路を設けることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記充放電装置は、前記キャパシタの放電電流を制御することで、前記キャパシタの端子間電圧または前記インバータ装置の直流入力電圧を所望の電圧値に調節することを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記充放電装置は、前記集電装置と前記インバータ装置の正極側とを結ぶ電力線に一方を接続する第1の電流制御手段と、
前記第1の電流制御手段の他方と、前記インバータ装置の負極側と前記キャパシタの負極側とを結ぶ電力線と、の間に挿入される第2の電流制御手段と、
前記第1の電流制御手段と前記第2の電流制御手段の接続位置と前記キャパシタの正極側の間に挿入されたリアクトルと、を備えることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記第1の電流制御手段は、前記直流電圧源の接地点から前記直流電圧源の正極側の方向へのみ電流を導通できる電流方向制御手段であり、前記第2の電流制御手段は前記直流電圧源から前記直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる電流遮断手段であることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【請求項5】
請求項3に記載の鉄道車両の駆動装置において、
前記第1の電流制御手段と前記第2の電流制御手段は、前記直流電圧源から前記直流電圧源の接地点の方向への電流を導通または遮断できる半導体素子で構成される電流遮断手段と、前記電流遮断手段と逆方向にのみ電流を導通できる電流方向制御手段と、を並列接続した構成であることを特徴とする鉄道車両の駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−175802(P2012−175802A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35300(P2011−35300)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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