説明

鉛蓄電池

【課題】鉛蓄電池の充電末期に電解液の電気分解により水素ガスと酸素ガスが発生するため静電気の帯電や放電火花により電池破損を生じることがあり、その電池内部に残留するガスの量の減少が求められている。
【解決手段】排気栓の排気孔を覆うために用いたシートを負極端子の接地用端子に接触させることにより破損をなくし、さらに格子体の合金組成の改良、ガス排気をフィルターの使用や蓋とシート間にて排気する構造を有することにより、電解液の減液量を抑制することにより滞留ガス量を減らし、引火による威力の低減をはかることにより、上記課題を解決できる鉛蓄電池を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は充電末期において水素ガス及び酸素ガスが発生する。ここで発火源があると、急激な燃焼が起こり、場合によっては電池が破損することもある。一方、静電気が原因と推定される電池破損も少なからず発生している。
【0003】
具体例としては、電池を乾いた布や羽毛で拭いた場合、合成繊維の衣服を着用し、人体に静電気が帯電していることを知らずに電池に触れようとした場合等に発生している。実験によれば電槽液口栓付近に15kVの静電気を印加した場合には電池破損が起こることが確認されている。従って、静電気による破損は、放電火花が液口栓周囲より電池内部に侵入することによって発生すると思われる。
【0004】
このような静電気による電池破損については、液口栓をラベル又はシートを用いて放電花火の侵入を防止する、又は、蓋に帯電防止材料を用い静電気を除去する技術が提案されている。しかし、液口栓をラベルで覆う場合、電池内部で発生する水素ガスを電池外部に排出できないため、電池内圧の上昇を引き起こす。また、電池に補水する場合などでラベルを剥がす際に高い静電気が発生し、放電火花による電池破損を引き起こす。一方、蓋に帯電防止材料を用いる技術は、蓋に設けられている正・負極端子間の電気リークを低く抑える必要性から帯電防止材料の抵抗率はあまり低くできず、静電気除去の効果も小さかった。
【0005】
それらの課題を解決するために、特許文献1では帯電防止材料を含む被覆体を蓋上面に設けるとともに、この被覆体で液口栓周囲部を覆う構成が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの構造によって、放電火花が液口栓周囲から電池内部に侵入することによる電池破損は改善されたが、充電末期に電池内部に滞留する水素ガス及び酸素ガスへの印加による電池破損は少なからず発生し続けている。特に、液面が低下したにもかかわらず補液をしないような場合には、電池内部に滞留した水素ガス及び酸素ガスも多く、電池破損の威力も大きくなる。
【特許文献1】特開平4−264355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような静電気の帯電及び放電火花による電池破損を改良するとともに、減液量を抑制することによって電池内部に滞留する水素ガス及び酸素ガスの量を減らし、水素ガスへの引火による威力の低減をはかることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、Pb−Ca系合金を格子体に用いた正極板と負極板を用いた鉛蓄電池において、電池外装に設けた液口に装着された液口栓を備え、シートが前記液口栓の上部を覆い、前記外装間との間で、前記液口栓の排気孔からの排気ガスを排気孔から離間した排気位置に誘導するガス排気経路を設けた鉛蓄電池であって、蓋にインサート成型された負極端子は接地用端子を備え、前記シートで前記接地用端子の少なくとも一部に接触させたことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、前記シートが前記外装に接着剤もしくは粘着剤からなる接合層を介して貼り合せてあり、前記ガス排出経路として前記シートの前記外装へ対向する面に、前記排気口周囲から前記排出位置にかけて接合層をもたない非接合層部を有することを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、前記シートの導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとすることを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、前記シートの蓋との張り合わせ面を前期シートの外側面よりも高い導電率の材料で構成し、かつ張り合わせ面の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとしたことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0012】
本発明の請求項5に係る発明は、前期外装内部から前記排気口までのガス排出系路上に多孔性フィルターを配置したことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0013】
本発明の請求項6に係る発明は、極板群を形成するためのストラップ合金の一部にアンチモンが含まれていない合金を使用することを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【発明の効果】
【0014】
前記した本発明の構成によれば、静電気の帯電及び放電火花による電池破損を改良することが可能となる。さらに、減液量を抑制することによって電池内部に滞留する水素ガス及び酸素ガスの量を減じ、水素ガスへの引火による燃焼威力を低減させて電池破損を防ぐことが比較的簡易に可能となるため、工業上、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1に示したように、本発明の第1の実施形態による鉛蓄電池(以下、電池)1は、Pb−Ca系合金からなる正極格子と負極格子を有している。これは、正極格子体や負極格子体の両方或いは正極格子体に1.0%を越えるようなアンチモンを含むPb−Sb合金を用いた場合、自己放電や充電中のガス発生によって減液が顕著になるためである。これらPb−Ca系合金の格子体に活物質が充填され、それぞれ正極板2及び負極板3が構成される。正極板2及び負極板3とセパレータ4とを組合せ、同極性極板の集電用耳部5,5’をストラップ用部品6,6’などと溶接して極板群とする。これらの極板群の必要数が蓄電池外装の一部となっている電槽7に収納され、同じく蓄電池外装の一部となる蓋8で電槽7と溶着されている。
【0017】
蓄電池外装としての蓋8には電池内部への電解液注液のための注液口9が設けられ、この注液口9には液口栓10が装着されている。液口栓10には電池内部のガスを電池外部に排出するための排気孔11が設けられている。
【0018】
図2に示したように、本発明の鉛蓄電池1は、この液口栓10の排気孔11を覆うシート12を備える。このシート12と蓋8との間にガス排気経路13が設けられている。ガス排気経路13は排気孔11から離間した位置に設けられたガス排出位置14にかけて設けられている。排気孔から排出されたガスはガス排気経路13と経由してガス排気位置14において、最終的に電池外に排出される。蓋8にインサート成型された負極端子15は設地用端子16を備え、前記シート12によって前記接地用端子16の少なくとも一部に接触させる。
【0019】
本発明では、シート12は静電気の帯電及び放電火花による電池の破損を防止するため、シート12の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとするのが好ましい。前記シート12の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとすることによって、万一、静電気の帯電及び放電火花が蓋8上に発生しても直ちに前記シート12に吸収され、その後、負極端子を経由して電池外へ除去されるため、静電気の帯電及び放電火花が電池内部に侵入し電池破損を起こすことを抑制できる。
【0020】
また、本発明では、前記シート12の蓋との張り合わせ面を前記シート12の外側面よりも高い導電率の材料で構成し、かつ、張り合わせ面の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとすることが好ましい。前記シート12をこのような構成とすることで、メンテナンスで鉛蓄電池1の蓋8から前記シート12を剥がす際の静電気帯電を抑制し、放電火花による電池破損を防ぐことができる。
【0021】
さらに、本発明の好ましい形態として、図3に示したように、電池内部から液口栓10に設けた排気孔11までに至るガス排出経路上に多孔性フィルター17を配置することである。多孔性フィルター17を配置することによって、電解液の蒸発による減液量を相乗効果的に抑制することができる。
【0022】
さらに、本発明の好ましい形態として、極板群を形成するためのストラップ6、6’合金の一部にアンチモンが含まれていない合金を使用することが好ましい。ストラップ6、6’合金の一部にアンチモンを含まないことによって、ガス発生による減液量を抑制することができる。アンチモンを含まないストラップ6,6’合金を用いるのは、正極又は負極ストラップのどちらか一方であり、ストラップを構成している一部又は全部である。正極と負極のいずれもアンチモンを含まないストラップ6,6’合金とすると、水素過電圧が上昇し、その結果、使用中に充電不足傾向になる場合がある。
【0023】
前記のような本発明の構成によれば、静電気の帯電及び放電火花による電池破損を改良することが可能となる。同時に、減液量を抑制することによって電池内部に滞留する水素ガス及び酸素ガスの量を減らし、水素ガスへの引火による燃焼威力を低減させ、電池破損を防ぐことが比較的簡易に可能となる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により、本発明の効果を説明する。
【0025】
(実験1)
比較例及び本発明例の鉛蓄電池(JIS D5301における80D26形始動用鉛蓄電池)を製作し、蓋の上から静電気発生装置で15kVの静電気を印加して、電池破損の有無を確認した。
【0026】
正極にはPb−0.07%Ca−1.0%Sn合金を用いたエキスパンド格子を用いた極板を使用した。
【0027】
負極にはPb−0.07%Ca−1.3%Sn合金を用いたエキスパンド格子を用いた極板を使用した。
【0028】
電池のセパレータにはポリエチレン樹脂・無機粉体・鉱物油を主原料とする微多孔膜を使用し、これを袋状として正極板を包み込む形で使用した。
【0029】
主な比較の対象はシート12の有無、シートの導電率、シート12と接地用端子16との接地の有無において電池破損の有無を調べた。
【0030】
比較対象として減液特性に優れているとされる。蓋裏面に還流方式の減液抑制機構を内蔵する電池についても試験を実施した。
【0031】
その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示した結果から、電池C1、D1,D2以外は電池破損に至った。つまり、A又はBで示されるように蓋8上に導電性のシート12が貼付されていない、又は、C2又はD2で示されるように蓋8の導電性のシート12が貼付されているが、シート12と負極の接地用端子16が接地されていない、又は、C3で示されるように導電性のシート12が貼付され、シート12と負極の接地用端子16が接地されているが、シートの導電率が100,000,000Ωcmより大きい場合の何れかの条件が該当する場合は電池破損に至った。一方、D3に示されるような条件では電池破損までには至らないが、<10,000では導電体となり、例えば金属体を正極端子と導電性のシート12に接触されると外部短絡を起こす可能性がある。従って、シートの導電率は10,000〜100,000,000Ωcmであることが望ましい。
【0034】
また、シートを2層構造とし、シートの蓋の張り合わせ面をシート外側面よりも高い導電率の材料で構成し、かつ、張り合わせ面の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとした場合においても、同様の静電気による電池の破損を防止できることを確認している。
【0035】
(実験2)
前記実験1と同一の鉛蓄電池を製作して減液特性を評価した。
【0036】
具体的な試験条件として、充電中の環境温度は60℃、充電電圧14V、1G(30Hz)の加速度で上下方向に2000時間加振させ、その前後の電池の減液特性を評価した。
【0037】
主な比較の対象はシート12の有無、ガス排気経路13の違いの主な2要因の組合せにおいて減液特性がどうなるのかを調べた。
【0038】
比較対象として減液特性に優れているとされる、蓋裏面に還流方式の減液抑制機構を内蔵する電池の減液特性も試験を実施した。
【0039】
上記の試験方法による減液量の測定結果を、従来例の電池b1における減液量を100とした指数で表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示した結果から、蓋還流構造を有するa電池の減液量は現行b電池の約40%であった。更に、シートを貼付したdタイプの電池の減液量は35%以下、eタイプの電池の減液量は20%以下であった。
【0042】
このように、シートを有した電池dタイプとeタイプは減液量が少なくなり、これは排気孔上のシートにより外部へのガスの散逸の際の硫酸ミストを減じることができるためと推測される。さらに、eタイプは、液口栓にフィルターを設けることで電解液の蒸発を防止できることと相まって、減液量を大幅に減少させることができる。これらの構成により電池内部に残留するガス量を減じ、水素ガスの引火による燃焼威力を低減させ、電池破損を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の構成によれば、静電気の帯電及び放電火花による電池破損を改良することが可能となる。さらに、減液量を抑制することによって電池内部に滞留する水素ガス及び酸素ガスの量を減らし、水素ガスへの引火による燃焼威力を低減させて電池破損を防ぐことが比較的簡易に可能となるため、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の鉛蓄電池を示す破載断面図
【図2】本発明の鉛蓄電池を示す上面図
【図3】本発明の要部を示す図
【符号の説明】
【0045】
1 鉛蓄電池
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
5、5’ 集電用耳部
6、6’ ストラップ
7 電槽
8 蓋
9 注液口
10 液口栓
11 排気孔
12 シート
13 ガス排気経路
14 ガス排出位置
15 インサート成型された負極端子
16 接地用端子
17 多孔性フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb−Ca系合金を格子体に用いた正極板と負極板を用いた鉛蓄電池において、電池外装に設けた液口に装着された液口栓を備え、シートが前記液口栓の上部を覆い、前記外装間との間で、前記液口栓の排気孔からの排気ガスを排気孔から離間した排気位置に誘導するガス排気経路を設けた鉛蓄電池であって、蓋にインサート成型された負極端子は接地用端子を備え、前記シートで前記接地用端子の少なくとも一部に接触させたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記シートが前記外装に接着剤もしくは粘着剤からなる接合層を介して貼り合せてあり、前記ガス排出経路として前記シートの前記外装へ対向する面に、前記排気孔周囲から前記排出位置にかけて接合層をもたない非接合層部を有することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記シートの導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとすることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記シートの蓋との貼り合わせ面を前記シートの外側面よりも高い導電率の材料で構成し、かつ張り合わせ面の導電率を10,000〜100,000,000Ωcmとしたことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記外装内部から前記排気口までのガス排出経路上に多孔性フィルターを配置したことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
極板群を形成するためのストラップ合金の一部にアンチモンが含まれていない合金を使用することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の鉛蓄電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−93946(P2009−93946A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264288(P2007−264288)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】