説明

銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに銅表面の皮膜

【課題】処理工程を増加させることなく、銅の表面をエッチング等の粗化処理することなく平滑な状態に処理することができ、かつ銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性を維持することができる銅表面の皮膜を提供する。
【解決手段】スズ化合物と、錯化剤と、銅化合物とを含有し、表面処理剤全体に対するスズ化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であり、スズ化合物の濃度に対する銅化合物の濃度の比が0.2以上、2.0以下の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに、銅表面の皮膜、銅張り材料、多層配線基板および配線基板に関するものである。さらに詳しくは、銅の表面をエッチング等の粗化処理することなく平滑(フラット)な状態に処理することができる銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに、上記表面処理方法により表面処理されてなる銅表面の皮膜、銅張り材料、多層配線基板および配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な多層配線基板(ビルドアップ配線基板)は、表面部に銅からなる導電層を有する内層基板が樹脂等の絶縁材を挟んで他の内層基板と積層プレスされることにより製造されている。上記導電層間は、孔壁が銅メッキされたスルーホールと呼ばれる貫通孔により、電気的に接続されている。
【0003】
ここで、上記多層配線基板の配線として上記内層基板の表面部に用いられている銅には、樹脂等の絶縁材との密着性が要求されている。それゆえ、上記内層基板の表面部に用いられている銅の表面と、樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるために、銅の表面処理が行われるのが一般的である。
【0004】
銅の表面処理方法としては、例えば、銅の表面を塩化銅、硫酸・過酸化水素等でエッチングして銅の表面を粗化させ、銅の表面に凹凸形状の酸化皮膜を付ける方法等が挙げられる。この方法によれば、凹凸形状の酸化皮膜が樹脂等の絶縁材にくい込み、アンカー効果を生じて、銅と樹脂等の絶縁材との密着性が向上する。銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるための他の方法として、粗化させた銅の表面を、スズ、シランカップリング剤等で処理する方法も開発されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
ここで、特許文献11には、粗化させた銅の表面をスズで処理し、合金化スズを形成する方法、および該合金化スズを形成後にスズ皮膜を剥離し、銅スズ合金化皮膜を形成する方法が示されているが、それらの方法を用いても、銅と樹脂等の絶縁材との密着が不十分である。
【0006】
近年の電子機器・電子部品の小型化、薄型化等に対応するために、多層配線基板を薄くすることが要求されている。さらに、近年の電子機器・電子部品の高周波化、高密度化等に対応するために、多層配線基板の配線の微細化(ファイン化)が要求されている。
【0007】
また、上記多層配線基板の表面部に用いられている銅の表面が粗い場合には、該多層配線基板に表面電流が流れ、電気的損失や信号の遅延が生じるという問題がある。
【0008】
そこで、上記のエッチング等の粗化処理を用いる方法に代わる方法として、内層基板の表面部に用いられている銅の表面に、スズメッキ等によりスズ皮膜を形成する方法が示されている(例えば、特許文献4参照)。さらに、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるために、内層基板の表面部に用いられている銅の表面にスズメッキした後、硝酸、シランカップリング剤等で処理する方法が示されている(例えば、特許文献5〜9参照)。さらに、pHを調整して銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるために、スズ化合物と同時に酸および反応促進剤を添加する方法が示されている(例えば、特許文献5,10参照)。さらに、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるために、銅の表面に銅塩を添加することで、樹脂等の絶縁材との密着性の高い金属層を形成する方法が示されている(例えば、特許文献10参照)。さらに、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるために、スズによる処理後、シランによる処理を行い、水洗せず乾燥して、スズ皮膜の上にシラン皮膜をコーティングする方法が示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−289838号公報(平成10年10月27日公開)
【特許文献2】特開2000−340948号公報(平成12年12月8日公開)
【特許文献3】特開平10−256736号公報(平成10年9月25日公開)
【特許文献4】特開平4−233793号公報(平成4年8月21日公開)
【特許文献5】特開2005−23301号公報(平成17年1月27日公開)
【特許文献6】特開平1−109796号公報(平成1年4月26日公開)
【特許文献7】特開平7−170064号公報(平成7年7月4日公開)
【特許文献8】特許第3135516号公報(特開平10−46359号公報、平成10年2月17日公開)
【特許文献9】特開2003−201585号公報(平成15年7月18日公開)
【特許文献10】特開2008−109111号公報(平成20年5月8日公開)
【特許文献11】特開2000−340948号公報(平成12年12月8日公開)
【非特許文献1】Patrick Brooks, et al Atotech Deutschland 著 「プリント配線板/パッケージ基板の最新技術動向 めっき・表面処理プロセス技術編 次世代のICサブストレートに向けた革新的なノンエッチング・アドヒージョンプロモーター」 「電子材料」(工業調査会) 2007年 p.88−91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜3に示される銅の表面処理方法では、いずれも性能、特に銅と樹脂等の絶縁材との密着性が不十分であるため、ほとんど実用化されていない。さらに、これらの方法では、粗化処理が銅を溶解するため銅幅が目減りし、これらの方法により表面処理された銅張り材料のファイン化が困難となり、かつ電気損失が大きくなる。さらに、これらの方法では、粗化処理後の経時変化に伴い酸化膜が成長するため不動態化が不十分となり、いずれも性能が劣化する。そのため、後処理としての防錆処理が一般的に行われている。
【0010】
また、上記特許文献4に示される銅の表面処理方法では、銅の表面をエッチング等の粗化処理する方法と比較して、銅と樹脂等の絶縁材との密着性が十分ではないという問題点を有している。
【0011】
また、上記特許文献5〜9に示される銅の表面処理方法では、銅の表面にスズメッキした後、硝酸、シランカップリング剤等で処理するので、処理工程が増加する。さらに、これらの方法でも、銅の表面をエッチング等の粗化処理する方法と比較して、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持できないという問題点がある。
【0012】
また、上記特許文献5,10に示される銅の表面処理方法では、銅の表面にスズ化合物と同時に酸および反応促進剤を添加しているが、スズ化合物と酸(pH)と反応促進剤とのバランスを考慮しておらず、銅の表面をエッチング等の粗化処理する方法と比較して、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持できないという問題点がある。
【0013】
また、上記特許文献10に示される銅の表面処理方法では、十分な密着性を維持できないという問題点があるのに加え、銅表面への金属層の均一付着が難しく、さらに銅以外の部分にもコーティングされるため、実装時にメッキ性、電気導電性などの阻害が懸念されるという問題点がある。
【0014】
また、上記特許文献11に示される銅の表面処理方法では、銅の表面をエッチングにて粗化した後にスズ化合物を添加しているが、従来のスズ皮膜形成では粗化表面が埋まるなどして形状効果が期待できないとの理由により、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持できないという問題点がある。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、処理工程を増加させることなく、銅の表面をエッチング等の粗化処理することなく平滑な状態に処理することができ、かつ銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性を維持することができる銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに銅表面の皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、銅の表面処理に用いられる表面処理剤および表面処理方法、並びに銅表面の皮膜において、上記表面処理剤にスズ化合物と錯化剤(キレート剤)と銅化合物とを含め、それらの濃度のバランスを制御することで、銅表面に存在する結晶の物性を変え、銅の表面にアスファルト状の表面を有するCu−Sn合金皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)を形成し、その結果、表面積が飛躍的に向上し、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持することができるということを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
また、本発明者は、銅の表面処理剤中にスズイオンおよび銅イオンを含有させ、かつ表面処理剤中のスズと銅との比率を制御することで、スズの皮膜量が多すぎるという状態にはならず、かつ銅表面に銅が溜まるという状態にもならないので、表面処理後の銅を高周波対応およびファイン化対応させやすくなり、かつ製造工程における銅の廃棄量が増加することがなく環境に優しい技術となるということを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
また、本発明者は、銅表面にスズを接触させすぎると、銅表面の皮膜がスズリッチ、即ち凹凸の少ない形状となり、銅と樹脂等の絶縁材との密着性が低下するということを独自に見出し、銅表面に銅を接触させすぎると、銅表面でのスズの析出が抑えられ銅表面の皮膜が銅リッチとなり、(1)銅が銅表面に溜まり、製造工程における銅の廃棄量が増加し、製造コストを上昇させ、かつ(2)Cu−Sn合金を形成するスズが少なくなり、反応の安定性を低下させるということを独自に見出した。
【0019】
即ち、本発明の銅の表面処理剤は、上記課題を解決するために、スズ化合物と、錯化剤と、銅化合物とを含有し、表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であり、上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が0.2以上、2.0以下の範囲内であることを特徴としている。
【0020】
上記の発明によれば、本発明の銅の表面処理剤は、錯化剤を含有しているので、上記錯化剤が銅と錯体を形成して銅の表面の電位が低くなるため還元されやすくなり、上記スズ化合物中のスズが析出しやすくなる。さらに、上記表面処理剤の溶液は、上記錯化剤が溶解した銅のキレートをすることにより、スズ皮膜の均一性を向上させる可能性がある。また、本発明の銅の表面処理剤は、銅化合物を含有しているので、銅イオンを生じ、該銅イオンと上記スズ化合物との反応が進行する。一方、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であるので、スズの皮膜量が多くなりすぎるという状態にはならない。
【0021】
それゆえ、本発明の銅の表面処理剤は、スズ化合物と錯化剤と銅化合物とを含有し、それらの濃度のバランスを調整することで、銅とスズとの合金を含有する皮膜(結晶)を形成することができる。その結果、本発明の銅の表面処理剤は、銅表面の組成を変えることができる。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、銅化合物を含有しているので、pH調整剤を含有していなくても、即ち銅表面からの銅の溶解量が少なくても、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成することができる。
【0022】
さらにpH調整剤を含有させずに銅とスズとの合金を含有する皮膜の形成を可能としたことにより、反応速度の制御が可能となり、すなわち薄膜処理が可能となる。実装ビア接合部において銅やニッケル、金メッキが施される必要があるが、当該箇所におけるメッキ性を確保するため、本発明の処理剤により形成された皮膜はメッキ前処理で化学除去されることが望ましい。薄膜であれば化学除去されやすく適正にメッキされることとなるため、その結果、接合信頼性が優れるという利点がある。
【0023】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらに、アミノ基、エポキシ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、イミノ基およびシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する水溶性高分子または水分散性高分子を含有することが好ましい。
【0024】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、上記官能基を有する水溶性高分子または水分散性高分子が、銅表面に析出したスズと架橋構造を形成し、該スズと密着する。さらに、上記官能基が、樹脂等の絶縁材と水素結合または共有結合を行い、該絶縁材と密着する。その結果、本発明の銅の表面処理剤は、銅と樹脂等の絶縁材との密着性をより一層向上させることができる。
【0025】
また、本発明の銅の表面処理剤は、上記水溶性高分子として、少なくともポリアクリル酸もしくはシランカップリング剤縮合体を含有することが好ましい。
【0026】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、上記水溶性高分子として、ポリアクリル酸またはその誘導体を含有することで、銅と樹脂等の絶縁材との密着性をより一層向上させることができる。また、本発明の銅の表面処理剤は、上記水溶性高分子として、シランカップリング剤縮合体を含有することで、銅の表面にシラン化合物を析出(付着)させ、樹脂等の絶縁材との密着官能基を有するシラン化合物の作用により、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を付与することができる。
【0027】
また、本発明の銅の表面処理剤は、銅表面の皮膜を形成し、上記銅表面の皮膜は、銅とスズとの合金を含有し、該銅表面の皮膜におけるスズの重量が1mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内であり、かつ該銅表面の皮膜の最表面における組成比のうちのスズに対する銅のモル比が0.2以上、2.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
これにより、該合金が銅の表面に生じる空隙および微細孔を埋めて、アスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)となる。それは、銅化合物を添加し、スズの析出時に銅を共析出させることで、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成するためであると考えられる。Cu−Snの2元平衡状態図より、Cu−Sn合金にはCuSnとCuSnとの単一層が存在する。通常のスズ処理では、Snの単一層を中心とした皮膜が形成し、スズ皮膜は層状に成長するため、表面形状は大きく変化しない。しかし、本発明におけるCu−Sn合金の主成分であるCuSnは六方晶系の結晶であるから、結晶性が高く、成長過程において隣り合う結晶がぶつかれば、縦方向に成長しようとし、アスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)ができると考えられる。また、アスファルト状の表面を有する皮膜の凹凸の大きさは、現行のエッチングによる凹凸の大きさの約10分の1であるため、高周波での表皮効果による電気損失の影響を受けにくいと考えられる。また、現行技術であるエッチングによる凹凸制御に対し、本発明による凹凸制御は、結晶皮膜による10分の1以下の凹凸マイクロ粗化皮膜の形成であるので、表面積も飛躍的に向上するばかりか、配線の目減りをほとんどなくすため、銅線のファイン化に大きく貢献できる技術であると考えられる。なお、本発明の銅表面の皮膜は、上記皮膜におけるスズの重量を1mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内とし、かつ上記皮膜の最表面におけるスズに対する銅のモル比を0.2以上、2.0以下の範囲内とすることにより、銅とスズとを効率的に合金化させることができる。さらに、本発明の銅表面の皮膜は、銅とスズとの合金を含有し、該皮膜中におけるスズ皮膜が樹脂等の絶縁材との密着性に優れているので、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させることができる。また、本発明における銅表面の皮膜は、高周波対応およびファイン化対応が可能であり、環境にも優しい技術である。
【0029】
ここで、上記特許文献10には、「樹脂と、銅又は銅合金層とを接着するための、銅又は銅合金からなる対樹脂接着層であって、前記対樹脂接着層は、多数の銅又は銅合金の粒子が集まり且つ粒子間に空隙が存在し、表面においては複数の微細孔が存在したサンゴ状構造の金属層で形成されている」という技術が示されている。これに対して、本発明の銅表面の皮膜は、空隙は存在するが微細孔が実質的に存在しないアスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)である。本発明における銅表面の皮膜の形状と上記特許文献10に示されている対樹脂接着層の形状とが異なるのは、皮膜(対樹脂接着層)表面の組成が異なっているからであると考えられる。その結果、本発明における銅表面の皮膜と上記特許文献10に示されている対樹脂接着層とは、樹脂等の絶縁材との密着性等の効果も異なると考えられる。要するに、本発明における銅表面の皮膜と上記特許文献10に示されている対樹脂接着層とは、技術的思想が相違していると考えられる。
【0030】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらに、pH調整剤を含有していてもよい。
【0031】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、該銅の表面処理剤の溶液中におけるpHを調整することで上記錯化剤の働きを助長し、銅の溶解を促進させることができる。具体的には、上記銅の表面処理剤の溶液中におけるpHの値が小さいほど上記錯化剤の働きが活性化され、銅の溶解量が増加する。
【0032】
それゆえ、本発明の銅の表面処理剤は、スズ化合物と錯化剤と銅化合物とpH調整剤とを含有し、それらの濃度のバランスを調整することで、スズおよび銅を含有する皮膜(結晶)を効果的に形成することができる。その結果、本発明の銅の表面処理剤は、銅表面の組成を変えることができる。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、スズ化合物の濃度が低いほど、銅表面へのスズの析出が銅の溶解に追いつかず、溶解された銅によりスズおよび銅を含有する皮膜を形成しやすい。
【0033】
また、本発明の銅の表面処理剤は、上記pH調整剤として、任意の化合物を用いることができる。
【0034】
また、本発明の銅の表面処理剤は、上記錯化剤として、少なくともチオ尿素またはその誘導体を含有することが好ましい。
【0035】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、チオ尿素またはその誘導体を含有しているので、チオ尿素またはその誘導体が主に錯化剤として働き、銅との錯体を形成して銅表面の電位を下げて還元性を向上させる。さらに、チオ尿素またはその誘導体は副次的に還元剤としても働き、銅の表面に、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成する反応を促進させることができる。
【0036】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらにフッ素化合物を含有することが好ましい。
【0037】
これにより、本発明の銅の表面処理剤を溶液で用いた場合に、フッ素化合物から遊離したフッ素がスズイオンを安定化する。その安定化のメカニズムは明らかではないが、可能性としては、スズイオンと遊離フッ素とが錯体を形成することにより、濁りの少ない安定な溶液になると考えられる。さらに、本発明の銅の表面処理剤を含む溶液は濁りの少ない安定な溶液となるので、銅の表面に、銅とスズとの合金を含有する皮膜を均一に形成することができ、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させることができる。
【0038】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらに還元剤を含有することが好ましい。
【0039】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、銅の表面に、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成する反応を促進させることができる。
【0040】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらに防錆剤を含有することが好ましい。
【0041】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させるとともに、表面処理後に銅を長期間保存しても、銅の性能を変化させ難くすることができる。
【0042】
また、本発明の銅の表面処理剤は、上記防錆剤がテトラゾール、トリアゾール、イミダゾールおよびチオールからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
【0043】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理後に銅を長期間保存しても、銅の性能をより一層変化させ難くすることができる。
【0044】
また、本発明の銅の表面処理剤は、さらに金属化合物を含有することが好ましい。
【0045】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、金属イオンの緩衝作用により、銅の表面に銅とスズとの合金を含有する皮膜を均一・安定に形成することができると考えられる。
【0046】
また、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理剤全体に対する上記銅化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm以下の範囲内であることが好ましい。
【0047】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成しやすくなる。
【0048】
また、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理剤全体に対する上記錯化剤の濃度が40,000ppm以上、200,000ppm以下の範囲内であることが好ましい。
【0049】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、上記スズ化合物中のスズを析出させやすくなる。
【0050】
また、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理剤全体に対する上記水溶性高分子または上記水分散性高分子の濃度が100,000ppm以下であることが好ましい。
【0051】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、スズ皮膜量を一定値以上に制御することができる。
【0052】
また、本発明の銅の表面処理剤は、表面処理剤全体に対する上記フッ素化合物の濃度が10,000ppm以下であることが好ましい。
【0053】
これにより、本発明の銅の表面処理剤は、均一なスズ皮膜を形成することができる。
【0054】
また、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に上記銅の表面処理剤を接触させることが好ましい。
【0055】
これにより、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面にスズメッキした後に硝酸、シランカップリング剤等で処理する表面処理方法と比較して、処理工程を一工程減らすことができる。また、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面をエッチング等の粗化処理しなくとも十分な密着性を担保できるため、銅の表面を平滑な状態に処理することができる。その結果、本発明の銅の表面処理方法は、多層配線基板の小型化、薄型化、高周波化、高密度化等に対応するのに適している。
【0056】
従来公知のシランカップリング剤を利用した密着性の向上は、スズ処理後、シランカップリング剤を塗布して水洗せずに乾燥させ、シロキサン結合によるシラン皮膜を形成するメカニズムである。しかし、配線板等のような構造物は、塗布液が均一に皮膜化することが難しく、また、銅以外のレジスト部にもシラン皮膜がコーティングされるため、実装時に電気導電性、金などのメッキ性に悪影響を及ぼすおそれがある。本発明は、銅のみに反応皮膜を析出させ、その後に水洗するため、上記のような悪影響がない。
【0057】
また、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に酸洗処理、粗化処理(凹凸処理)、防錆処理、酸化処理、表面調整処理および脱脂処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の前処理をした後に、上記表面処理剤を接触させることが好ましい。
【0058】
これにより、本発明の銅の表面処理方法は、酸洗処理、脱脂処理により銅表面の汚れ、酸化物等を除去することができ、粗化処理、防錆処理、酸化処理、表面調整処理により銅表面での化成性向上、銅の性能向上等を図ることができる。
【0059】
また、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に、防錆剤、後処理剤またはpH調整剤を接触させることが好ましい。
【0060】
本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に防錆剤を接触させることにより、表面処理後に銅を長期間保存しても、銅の性能をより一層変化させ難くすることができる。本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に後処理剤、pH調整剤等を接触させることにより、銅と樹脂等の絶縁材との密着性をより一層向上させることができる。
【0061】
本発明の銅表面の皮膜は、上記銅の表面処理方法により形成され、スズおよび銅を含有することが好ましい。
【0062】
これにより、本発明の銅表面の皮膜は、銅とスズとの合金を含有する。その結果、上述したように、本発明の銅表面の皮膜は、アスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)となり、銅と樹脂等の絶縁材との密着性を向上させることができる。
【0063】
本発明の銅表面の皮膜は、銅表面1μm当たりに、銅とスズとを含有する結晶を1個以上含んでおり、上記結晶の平均結晶径が50nm以上、1000nm以下の範囲内であることが好ましい。なお、平均結晶径は、X線小核散乱法による測定で求めた結晶径から算出することができる。
【0064】
これにより、本発明の銅表面の皮膜は、銅とスズとを含有する合金を結晶化させ、さらに平均結晶径が50nm以上、1000nm以下の範囲内である結晶を1個以上含むことで、より確実にアスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)となる。その結果、本発明の銅表面の皮膜は、銅と樹脂等の絶縁材との密着性をより確実に向上させることができる。
【0065】
また、本発明の銅張り材料は、上記銅表面の皮膜を含んでいることが好ましい。さらに、本発明の多層配線基板は、上記銅張り材料を備えていることが好ましい。さらに、本発明の配線基板は、最外層に上記銅張り材料を備えていることが好ましい。
【0066】
これにより、本発明の銅張り材料、多層配線基板および配線基板は、従来の銅の表面処理方法により表面処理された銅張り材料、多層配線基板および配線基板と比較して、銅と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0067】
本発明の銅の表面処理剤は、以上のように、スズ化合物と、錯化剤と、銅化合物とを含有し、表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であり、上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が0.2以上、2.0以下の範囲内であるものである。
【0068】
それゆえ、本発明の銅表面の皮膜は、処理工程を増加させることなく、銅の表面をエッチング等の粗化処理することなく平滑な状態に処理することができ、かつ銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性を維持することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書等において、便宜上、「重量ppm」を単に「ppm」,「重量%」を単に「%」と記載する。
【0070】
(I)本発明における銅の表面処理剤で表面処理される物質等
本発明における銅の表面処理剤で表面処理される物質は、銅を50%以上含有するものであれば特に限定されない。つまり、銅を50%以上含有していれば、銅以外の物質が含まれていても本発明に含まれる。例えば、銅単体、銅を含む銅合金材、クロメート等の表面処理された銅、メッキされた銅などが挙げられる。
【0071】
本発明における銅として、具体的には電子基板、リードフレーム等の電子部品、装飾品、建材等に使用される箔(電解銅箔、圧延銅箔)、めっき膜(無電解銅めっき膜、電解銅めっき膜)、線、棒、管、板など、種々の用途の銅を挙げることができる。上記銅は、黄銅、青銅、白銅、ヒ素銅、ケイ素銅、チタン銅、クロム銅等、その目的に応じて他の元素を含有したものであってもよい。また、近年の高周波の電気信号が流れる銅配線の場合には、銅の表面は平均粗さが0.1μm以下の平滑面であることが好ましい。
【0072】
本発明において、銅と密着する樹脂等の絶縁材は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル等の熱硬化性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は官能基によって変性されていてもよく、ガラス繊維、アラミド繊維、その他の繊維等で強化されていてもよい。
【0073】
(II)本発明における銅の表面処理剤に用いられる材料等
本発明の銅の表面処理剤は、スズ化合物と、錯化剤と、銅化合物とを含有するものである。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、アミノ基、エポキシ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、イミノ基およびシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する水溶性高分子または水分散性高分子を含有することが好ましい。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、pH調整剤を含有していてもよい。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、フッ素化合物を含有することが好ましい。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、還元剤を含有することが好ましい。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、防錆剤を含有することが好ましい。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、金属化合物を含有することが好ましい。また、本発明の銅の表面処理剤は、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。
【0074】
また、本発明の銅の表面処理剤は、該表面処理剤の特性を阻害しない限り、上記物質以外の物質(以下、「他の物質」という)を含んでいてもよい。他の物質を含める方法としては、特に限定されるものではない。
【0075】
<スズ化合物>
本発明の銅の表面処理剤は、スズ化合物を含有するものである。スズ化合物としては、後述する溶媒に対して可溶性のものであれば特に限定されないが、その溶解性から酸との塩類が好ましい。例えば、硫酸第一スズ、硫酸第二スズ、ホウフッ化第一スズ、フッ化第一スズ、フッ化第二スズ、硝酸第一スズ、硝酸第二スズ、塩化第一スズ、塩化第二スズ、ギ酸第一スズ、ギ酸第二スズ、酢酸第一スズ、酢酸第二スズ等の第一スズ塩や第二スズ塩などが挙げられる。その中でも、スズを含有する皮膜の形成速度が速いという理由から第一スズ塩が好ましく、後述する溶媒との溶液中での安定性が高く、均一なスズを含有する皮膜を形成することができるという理由から、第一スズ塩が好ましい。さらに、銅のエッチングに悪影響を及ぼさないという理由から硫酸第一スズが特に好ましい。
【0076】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記スズ化合物の濃度は、10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であり、好ましくは100ppm以上、5,000ppm以下の範囲内であり、より好ましくは500ppm以上、3,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10ppm未満であると、銅および樹脂等の絶縁材との密着性が低下するおそれがあり、好ましくない。一方、上記表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10,000ppm以上であると、銅表面の皮膜がスズリッチ、即ち凹凸の少ない形状となり、銅と樹脂等の絶縁材との密着性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0077】
<銅化合物>
本発明の銅の表面処理剤は、銅化合物を含有するものである。銅化合物としては、後述する溶媒に対して可溶性のものであれば特に限定されないが、その溶解性から酸との塩類が好ましい。例えば、硫酸銅(II)、塩化銅、水酸化銅等が挙げられる。その中でも、溶解性および他の反応を阻害しにくいという理由から、硫酸銅(II)が特に好ましい。
【0078】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記銅化合物の濃度は、好ましくは10ppm以上、10,000ppm以下の範囲内であり、より好ましくは500ppm以上、7,000ppm以下の範囲内であり、特に好ましくは1,000ppm以上、5,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記銅化合物の濃度が10ppm未満であると、銅および樹脂等の絶縁材との密着性が低下するおそれがあり、好ましくない。一方、上記表面処理剤全体に対する上記銅化合物の濃度が10,000ppmを超えると、銅表面でのスズの析出が抑えられ銅表面の皮膜が銅リッチとなるか、または、スズ皮膜が析出せず十分な密着性を発揮できないおそれがあり、好ましくない。
【0079】
<錯化剤>
本発明の銅の表面処理剤は、錯化剤を含有するものである。ここで、本明細書でいう錯化剤とは、銅に配位してキレートを形成し、銅表面の電位を下げ還元しやすいような状態にし、スズ表面に樹脂等の絶縁材密着層を形成しやすくするものを意味する。錯化剤としては、例えば、チオ尿素、エチレンチオウレア、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素等のチオ尿素誘導体、チオ硫酸、シアン類などが挙げられる。その中でも、上記表面処理剤を溶液で用いた場合に、より一層濁りの少ない安定な溶液とすることができ、かつ銅との錯体を形成しやすく、銅の表面の電位を低くするためより一層スズおよび銅を含有する皮膜を形成しやすくするという理由から少なくともチオ尿素を含有することが好ましい。なお、錯化剤には、副次的に後述する還元剤としても働くものもある。その中で、チオ尿素は、副次的に後述する還元剤としても働くものである。
【0080】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記錯化剤の濃度は、好ましくは40,000ppm以上、200,000ppm以下の範囲内であり、より好ましくは50,000ppm以上、100,000ppm以下の範囲内であり、特に好ましくは60,000ppm以上、80,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記錯化剤の濃度が40,000ppm未満であると、銅および樹脂等の絶縁材との密着性が低下するおそれがあり、好ましくない。一方、上記表面処理剤全体に対する上記錯化剤の濃度が200,000ppmを超えると、排水負荷が増えるばかりか、銅の表面にスズおよび銅を含有する皮膜を形成する反応を阻害するおそれがあり、好ましくない。
【0081】
<水溶性高分子または水分散性高分子>
本発明の銅の表面処理剤は、アミノ基、エポキシ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、イミノ基およびシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する水溶性高分子または水分散性高分子を含有していることが好ましい。上記水溶性高分子または水分散性高分子の分子量は、2,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましい。水溶性高分子または水分散性高分子としては、例えば、アミノシラン縮合体、メルカプトシラン縮合体、ポリアクリル酸、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂等が挙げられる。その中でも、皮膜結晶物性を阻害し難く、水溶液安定性に優れているという理由から少なくともポリアクリル酸またはその誘導体を含有することが好ましい。また、銅とエポキシ樹脂等の絶縁材との密着性を極めて向上させるという理由から少なくともメルカプトシラン縮合体を含有することが好ましい。
【0082】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記水溶性高分子または水分散性高分子の濃度は、好ましくは100,000ppm以下、より好ましくは20ppm以上10,000ppm以下、特に好ましくは50ppm以上2,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記水溶性高分子または水分散性高分子の濃度が100,000ppmを超えると、銅表面での結晶形成を阻害するおそれがあり、好ましくない。
【0083】
<pH調整剤>
本発明の銅の表面処理剤は、pH調整剤を含有していてもよい。pH調整剤としては、後述する溶媒に対して可溶性のものであれば任意の化合物を用いることができる。
【0084】
<フッ素化合物>
本発明の銅の表面処理剤は、フッ素化合物を含有していることが好ましい。フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素、ホウフッ化水素酸、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、ケイフッ化水素等が挙げられる。その中でも、上記表面処理剤を溶液で用い、pHが1以上、5以下の範囲内である場合に、スズイオンが安定的に存在し、より一層濁りの少ない安定な溶液とすることができるという理由からフッ化水素、酸性フッ化ナトリウムが好ましい。
【0085】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記フッ素化合物の濃度は、好ましくは10,000ppm以下、より好ましくは10ppm以上、5,000ppm以下の範囲内であり、特に好ましくは500ppm以上、3,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記フッ素化合物の濃度が10,000ppmを超えると、銅の表面にスズを含有する皮膜を形成する反応を阻害するおそれがあり、好ましくない。上記表面処理剤全体に対する上記フッ素化合物の濃度が5,000ppm以下であると、銅の表面に形成されるスズを含有する皮膜が厚くなること、多孔質(ポーラス)になること等で不均一になるおそれがないため、より好ましい。
【0086】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記フッ素化合物に由来する遊離フッ素の濃度は、好ましくは0.1ppm以上100ppm以下、より好ましくは1ppm以上50ppm以下、特に好ましくは2ppm以上20ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記フッ素化合物中の遊離フッ素の濃度が0.1ppm未満であると、スズイオンが安定的に存在し難くなるおそれがあり、好ましくない。一方、100ppmを超えると、銅の表面にスズを含有する皮膜を形成する反応を阻害するおそれがあり、好ましくない。遊離のフッ素の濃度は、フッ素イオン量として通常のイオンメーターにより測定することができる。
【0087】
ここで、遊離フッ素(フッ素イオン)について以下に説明する。本発明における銅の表面処理剤の溶液には、遊離フッ素が存在していることが好ましい。上記遊離フッ素を存在させるには、上記表面処理剤にフッ素化合物を含めておく。上記遊離フッ素は、上記表面処理剤の溶液中におけるスズ化合物の安定性を向上させる作用を有している。さらに、上記遊離フッ素は、上記表面処理剤の溶液による表面処理の対象である銅に対しての上記スズ化合物の反応を促進する作用も有している。
【0088】
<還元剤>
本発明の銅の表面処理剤は、還元剤を含有していることが好ましい。還元剤としては、例えば、チオ尿素、ジエチルチオ尿素、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミノボラン、次亜リン酸ナトリウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒド等が挙げられる。その中でも、スズ化合物に電子を付加して、スズ単体、酸化スズ等からなるスズを含有する皮膜を形成しやすいという理由から少なくともチオ尿素を含有することが好ましい。
【0089】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記還元剤の濃度は、好ましくは100ppm以上500,000ppm以下、より好ましくは1,000ppm以上300,000ppm以下、特に好ましくは10,000ppm以上150,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記還元剤の濃度が100ppm未満であると、スズおよび銅を含有する皮膜を形成しないおそれがあり、好ましくない。一方、500,000ppmを超えると、スズが溶解し難くなるとの理由から銅の表面にスズおよび銅を含有する皮膜を形成し難くなるおそれがあり、好ましくない。
【0090】
<防錆剤>
本発明の銅の表面処理剤は、防錆剤を含有していることが好ましい。防錆剤としては、例えば、アミノテトラゾール、メチルメルカプトテトラゾール、ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、アミノメルカプトトリアゾール、イミダゾール、メチルイミダゾール、トリアジンチオール、トリメルカプトトリアジン若しくはこれらの塩、またはこれらの類似化合物;メルカプトシラン;チオグリコール酸;チオグリセロール;グアニルチオ尿素;チオ尿素類;等が挙げられる。その中でも、銅表面での防錆機能と化成性との両立という理由から、テトラゾール、トリアゾール、イミダゾール、チオール類の防錆剤が好ましい。
【0091】
<金属化合物>
本発明の銅の表面処理剤は、金属化合物を含有していることが好ましい。これにより、本発明の銅の表面処理剤は、金属イオンの緩衝作用により、銅の表面に銅とスズとの合金を含有する皮膜を均一・安定に形成することができると考えられる。金属化合物としては、金属塩等が挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、銀化合物、アルミニウム化合物、ジルコニル化合物、チタニウム化合物、カルシウム化合物、ナトリウム化合物、マグネシウム化合物、ストロンチウム化合物、マンガン化合物、バナジウム化合物、イットリウム化合物、ニオブ化合物、亜鉛化合物、インジウム化合物、銀化合物、鉄化合物、パラジウム化合物、コバルト化合物、銅化合物等が挙げられる。その中でも、スズと共析出しやすいと考えられ、より緻密なスズ膜を与えるという理由から銀化合物、パラジウム化合物、亜鉛化合物、コバルト化合物、銅化合物が好ましい。さらにその中でも、スズとの合金を形成することができるという理由から銅化合物が特に好ましい。
【0092】
上記表面処理剤全体(表面処理剤の溶液全体)に対する上記金属化合物の濃度は、好ましくは1ppm以上10,000ppm以下、より好ましくは10ppm以上2,000ppm以下、特に好ましくは100ppm以上1,000ppm以下の範囲内である。上記表面処理剤全体に対する上記金属化合物の濃度が1ppm未満であると、フッ素と錯体を形成し難くなるおそれがあり、好ましくない。一方、10,000ppmを超えると、銅の表面にスズおよび銅を含有する皮膜を形成する反応を阻害するおそれがあり、好ましくない。
【0093】
<他の物質>
本発明の銅の表面処理剤は、樹脂等の絶縁材との均一な密着層を形成するための界面活性剤、樹脂等の絶縁材との密着層の形成を促進するための重合開始剤等、必要に応じて、銅の表面にスズおよび銅を含有する皮膜を形成する反応を阻害しないような種々の添加剤を含有してもよい。
【0094】
<各物質の濃度のバランス>
本発明の銅の表面処理剤は、上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が0.2以上、2.0以下の範囲内であり、好ましくは0.4以上1.2以下の範囲内であり、より好ましくは0.7以上1.0以下の範囲内である。
【0095】
本発明の銅の表面処理剤は、上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が上記の範囲を満たしていることで、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成することができる。さらに、本発明の銅の表面処理剤は、上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が上記の範囲を満たしていることで、pH調整剤の含有量が少なくても、即ち銅表面からの銅の溶解量が少なくても、銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成することができる。
【0096】
(III)本発明における銅の表面処理剤の製造方法
本発明の銅の表面処理剤は、従来公知の混合方法・混合装置により混合される。本発明の銅の表面処理剤に含有される物質を混合する順番は、特に限定されない。また、上記物質は、一度に混合してもよく、分割して混合してもよい。
【0097】
(IV)本発明における銅の表面処理剤を含む溶液
本発明における銅の表面処理方法は、銅の表面に、上記表面処理剤を溶液として接触させることが好ましい。上記溶液は、溶質である上記表面処理剤と溶媒とから構成される。本発明に用いられる溶媒は、上記表面処理剤を溶解することができれば特に限定されない。例えば、水、有機溶媒などが挙げられる。その中でも、上記表面処理剤の組成物の溶解性や上記表面処理剤使用後の廃棄などの点で、水が好ましい。本発明における銅の表面処理剤は、従来の銅の表面処理剤と比較して、銅の表面をエッチング等の粗化処理しないという点で優れている。
【0098】
(V)本発明における銅の表面処理方法
本発明における銅の表面処理方法は、銅表面に銅とスズとの合金を含有する皮膜を形成し、上記皮膜におけるスズの重量を1mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内、好ましくは20mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内とし、上記皮膜の最表面におけるスズに対する銅のモル比を0.2以上、2.0以下の範囲内とする方法である。
【0099】
銅とスズとの合金は、銅を6%以上、スズを10%以上含有するものであれば特に限定されない。つまり、銅を6%以上、スズを10%以上含有していれば、銅およびスズ以外の物質が含まれていても本発明に含まれる。
【0100】
上記皮膜の最表面におけるスズに対する銅のモル比は、0.2以上2.0以下の範囲内であり、好ましくは0.2以上1.0未満、より好ましくは0.2以上0.9未満の範囲内である。密着性および浴内の銅濃度の制御の点で、スズに対する銅のモル比は2.0以下であることが好ましく、0.9未満であることが特に好ましい。
【0101】
本発明における銅の表面処理方法は、銅とスズとの合金が銅の表面に生じる空隙および微細孔を埋めて、アスファルト状の表面を有する皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜)を形成する。ここで、マイクロ粗化とは、0.2μm程度の皮膜粒子で粗化されているレベルの凹凸を有する状態をいう。
【0102】
また、本発明の銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させることが好ましい。
【0103】
銅の表面に上記表面処理剤を接触させる方法としては特に限定されない。例えば、上記表面処理剤を含む溶液に銅を浸漬させる方法、銅の表面に上記表面処理剤を含む溶液をスプレーによって噴射する方法、銅の表面に上記表面処理剤を含む溶液を塗布する方法等が挙げられる。その中でも、銅表面での上記表面処理剤を含む溶液の置換が早い方が好ましいとの理由から、上記表面処理剤を含む溶液に銅を浸漬させて強攪拌を行う方法、銅表面に上記表面処理剤を含む溶液をスプレーによって噴射する方法等が好ましい。なお、上記表面処理剤を含む溶液を攪拌する場合には、例えば50rpm以上、3000rpm以下の範囲内で攪拌することが好ましい。また、上記表面処理剤は、一度に接触させてもよく、分割して接触させてもよい。
【0104】
銅の表面に上記表面処理剤を接触させる際の温度は、上記表面処理剤の成分等によって決まり特に限定されるものではないが、反応性に優れているとの理由から、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは20℃以上50℃以下、特に好ましくは30℃以上40℃以下の範囲内である。
【0105】
銅の表面に上記表面処理剤を接触させる時間は、上記表面処理剤の成分等によって決まり特に限定されるものではないが、反応性に優れているとの理由から、好ましくは1秒以上600秒以下、より好ましくは5秒以上300秒以下、さらに好ましくは15秒以上180秒以下、さらにより好ましくは60秒以上180秒以下、特に好ましくは60秒以上120秒以下の範囲内である。
【0106】
本発明における銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させる前に、酸洗処理、粗化処理、防錆処理、酸化処理および脱脂処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の前処理を行ってもよい。また、本発明における銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に、さらに上記表面処理剤等により後処理してもよい。上記後処理後には、水洗してから乾燥させても、水洗せずに乾燥させてもよい。また、本発明における銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に、熱処理等を行ってもよい。また、本発明における銅の表面処理方法は、銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に、防錆剤、後処理剤またはpH調整剤を接触させてもよい。
【0107】
後処理剤としては、例えば、メルカプトシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシラン、それらの混合物等のシランカップリング剤、シランカップリング剤重縮合物、上記水溶性高分子などの官能基含有材料が好ましい。後処理方法としては、化成処理後、後処理剤をスプレー、浸漬、コーティング等により接触させ、その後水洗するまたは水洗せずに乾燥することにより、コーティング膜を形成してもよい。
【0108】
本発明における銅の表面処理方法での乾燥条件としては、特に限定されないが、水分を蒸散させることができる条件以上であり、40℃〜200℃、好ましくは80℃〜160℃、より好ましくは100℃〜130℃で、1秒〜2時間乾燥することが望ましい。40℃未満では水分が除去できていないおそれがあり、200℃を超えると皮膜が酸化して密着性が低下するおそれがある。
【0109】
(VI)本発明における銅表面の皮膜
本発明における銅表面の皮膜は、銅とスズとの合金を含有し、銅表面の皮膜におけるスズの重量が1mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内、好ましくは10mg/m以上、1,500mg/m以下の範囲内であり、上記皮膜の最表面におけるスズに対する銅のモル比が0.2以上、2.0以下の範囲内であるものである。
【0110】
ここで、皮膜の最表面とは、皮膜表面の極めて薄い層を意味し、具体的には皮膜表面から約10nmまでの深さの層を意味する。皮膜の最表面におけるスズや銅の組成は、ナロースキャンによって測定することができる。
【0111】
上記皮膜におけるスズの重量は、1mg/m以上2,000mg/m以下の範囲内であり、好ましくは10mg/m以上1,500mg/m以下、より好ましくは20mg/m以上1,000mg/m以下の範囲内である。本処理剤で処理して得られる多層配線基板の後工程における本処理剤で得られる皮膜の除去の点からは、皮膜量は500mg/m以下であることが好ましい。
【0112】
上記皮膜におけるスズの重量が1mg/m未満の場合には、銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性が低くなるため、好ましくない。一方、上記皮膜におけるスズの重量が2,000mg/mよりも大きい場合には、銅表面で凝集破壊が起こるため、銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性を維持することができなくなり、好ましくない。
【0113】
また、上記皮膜における炭素の重量は、好ましくは0.01mg/m以上20mg/m以下の範囲内であり、より好ましくは0.1mg/m以上10mg/m以下の範囲内である。上記皮膜における炭素の重量が20mg/mよりも大きい場合には、銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性が低くなるおそれがある。
【0114】
上記皮膜の最表面におけるスズに対する銅のモル比は、0.2以上2.0以下の範囲内であり、好ましくは0.4以上1.6以下、より好ましくは0.5以上1.2以下の範囲内である。
【0115】
また、本発明における銅表面の皮膜は、上記銅の表面処理方法により形成され、スズおよび銅を含有することが好ましい。
【0116】
また、本発明における銅表面の皮膜は、銅表面1μm当たりに、銅とスズとを含有する結晶を、好ましくは1個以上、より好ましくは10個以上含んでいる。上記結晶の平均結晶径は、50nm以上1,000nm以下、好ましくは100nm以上500nm以下の範囲内である。
【0117】
また、本発明における銅表面の皮膜は、厚さが、好ましくは0.02μm以上2μm以下、より好ましくは0.04μm以上1μm以下、特に好ましくは0.06μm以上0.2μm以下の範囲内である。
【0118】
(VII)本発明における銅張り材料
本発明の銅張り材料は、上記銅の表面処理方法により表面処理されてなるものであり、上記銅表面の皮膜を含んでいる。
【0119】
上記銅の表面処理方法により表面処理される前の銅張り材料としては、一般的な電子基板、リードフレーム等の電子部品、装飾品、建材等を挙げることができる。本発明の銅張り材料は、銅の表面全体が上記表面処理方法により表面処理されているものに限定されず、銅の表面の一部が上記表面処理方法により表面処理されているものも本発明に含まれる。
【0120】
(VIII)本発明における多層配線基板
本発明の多層配線基板(ビルドアップ配線基板)は、上記銅張り材料を備えているものである。本発明の多層配線基板は、従来公知の多層配線基板の製造方法により製造されるものである。具体的には、表面部が銅からなる導電層を有する内層基板が、樹脂等の絶縁材を挟んで他の内層基板と積層プレスされることにより製造される。多層配線基板(ビルドアップ配線基板)には、一括ラミネーション方式のビルドアップ基板と、シーケンシャルビルドアップ方式のビルドアップ基板とがある。
【0121】
本発明における多層配線基板には、最外層に上記銅張り材料を備えている外層基板および単層基板を含む。また、上記外層基板には、最外層面に上記銅張り材料を片面または両面に備えている片面または両面の外層基板を含む。
【実施例】
【0122】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
〔実施例1〕
<銅の表面処理工程>
厚さ35μmまたは18μmの電解銅箔(古河サーキットフォイル株式会社製、商品名:「F−WS箔」)を、水道水で希釈した硫酸および過酸化水素の水溶液(硫酸の濃度4%、過酸化水素の濃度1%)に30℃・60秒の条件で浸漬させた後、水道水で洗浄した。
【0124】
次に、上記処理を行った電解銅箔を、所定の表面処理剤(成分等については後述する)の溶液に40℃・60秒の条件で浸漬させた後、水道水で洗浄し、さらに80℃・5分の条件で乾燥させた。
【0125】
<所定の表面処理剤の成分等>
上記所定の表面処理剤には、スズ化合物としての硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:500ppm、試薬)と、錯化剤としてのチオ尿素(表面処理剤全体に対するチオ尿素の濃度:50,000ppm、試薬)と、銅化合物としての硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:100ppm、試薬)と、フッ素化合物としてのフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm、試薬)とを含めた(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。
【0126】
<多層配線基板製造工程>
得られた電解銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性を評価するため、上記電解銅箔の両面にビルドアップ配線板用絶縁材[A材(松下電工株式会社製、R−1661T)、B材(味の素株式会社製、パッケージ用絶縁材AGF−GX13)]を重ねて、130℃・10kg/m・30分間、130℃・50kg/m・20分間、180℃・50kg/m・2時間の条件の順序で加熱しながら積層プレスし、その後に、80℃・1.5時間の条件で冷却した。その後プレスを終了し、20℃・20分間の条件で冷却した。また、A材は35μm銅箔で測定し、B材は絶縁材の密着性が高いため、18μ銅箔で測定した。
【0127】
<銅の表面処理後の物性>
(1)銅の表面処理後における電解銅箔のエッチング量
銅の表面処理後における電解銅箔のエッチング量は、精密天秤により、エッチング前後の重量変化を測定して求めた。その結果、エッチング量が0.1g/m未満である状態を「○」とし、0.1g/m以上1g/m以下である状態を「△」とし、1g/mを超える状態を「×」とした。
【0128】
(2)銅の表面処理後における電解銅箔のSEM外観
銅の表面処理後における電解銅箔の外観は、SEM(Scanning Electron Microscope、日本電子株式会社製、商品名:「JSM5310」)により、倍率を1000倍および5000倍にして目視にて評価した。その結果、凹凸がない(平坦な)状態を「○」とし、凹凸がある状態を「×」とした。
【0129】
(3)銅の表面処理後における電解銅箔のスズの皮膜量
銅の表面処理後における電解銅箔のスズの皮膜量は、蛍光X線(株式会社島津製作所製、商品名:「XRF1700」)による測定により、スズ元素の量として測定した。
【0130】
(4)銅表面の皮膜の組成
銅表面の皮膜における最表面の組成は、Cu,Sn,C,O,Sのナロースキャン(Kratos Analytical Ltd.(クレイトス アナリティカル リミテッド)製、商品名:「AXIS NOVA」)により、atomic%を測定した。上記測定は、約10nmの表面組成分析ができるため、最表面組成とした。
【0131】
(5)銅の表面処理後における電解銅箔を備えた多層配線基板での銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性
多層配線基板の銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性、即ち多層配線基板における絶縁材からの銅箔の引き剥がし強さは、万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名:「テンシロン」)により、JIS C 6481に準拠してロードセル100kg/m、レンジ2%、クロスヘッドスピード50mm/min、チャートスピード20mm/minの条件で測定した。なお、絶縁材としてA材を用いた場合には銅箔として厚さ35μmのものを用い、絶縁材としてB材を用いた場合には銅箔として厚さ18μmのものを用いた。
【0132】
(6)はんだ耐熱性
はんだ耐熱性は、銅の表面処理後における電解銅箔を、121℃ 100RH 2.1atmで8時間吸湿した後、「280℃のはんだ浴に30秒間浸漬→冷却」のサイクルを5回繰り返し、膨れを目視にて評価した。その結果、膨れがない状態を「○」とし、膨れがわずかにある状態を「△」とし、膨れがある状態を「×」とした。
【0133】
(7)上記物性の評価結果
上記物性の評価結果を表1に示す。
【0134】
また、図1は、実施例1における銅表面のSEM外観を示したものである。ここで、図1は倍率5,000での銅表面のSEM外観である。図1に示すように、本発明の銅の表面処理剤により表面処理を行った銅は、アスファルト状の表面を有するCu−Sn合金皮膜(凹凸マイクロ粗化皮膜、マイルドな凹凸がある皮膜)の状態であった。
【0135】
これに対して、図2は、銅化合物を含有していない銅の表面処理剤(従来の銅の表面処理剤)により表面処理を行った後の銅表面のSEM外観を示したものである。ここで、図2は倍率5,000での銅表面のSEM外観である。図2に示すように、従来の表面処理剤により表面処理を行った銅は、凹凸がないフラットな皮膜の状態であった。
【0136】
〔実施例2〕
所定の表面処理剤に含まれる銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:400ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0137】
〔実施例3〕
所定の表面処理剤に含まれる銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:500ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は1.0であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0138】
〔実施例4〕
所定の表面処理剤に含まれる錯化剤をチオ尿素(表面処理剤全体に対するチオ尿素の濃度:100,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0139】
〔実施例5〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:400ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0140】
〔実施例6〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,600ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0141】
〔実施例7〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:2,000ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は1.0であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0142】
〔実施例8〕
所定の表面処理剤に含まれるフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)をメタンスルホン酸(表面処理剤全体に対するメタンスルホン酸の濃度:500ppm、試薬)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0143】
ここで、メタンスルホン酸は、キレート力のある強酸であるため、スズの酸化による沈殿が起こりにくいと考えられる。
【0144】
〔実施例9〕
所定の表面処理剤に含まれる銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:400ppm)に変更し、フッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)をメタンスルホン酸(表面処理剤全体に対するメタンスルホン酸の濃度:500ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0145】
〔実施例10〕
所定の表面処理剤に含まれる銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:500ppm)に変更し、フッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)をメタンスルホン酸(表面処理剤全体に対するメタンスルホン酸の濃度:500ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は1.0であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0146】
〔実施例11〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:50ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:40ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:50ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0147】
〔実施例12〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:5,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:4,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0148】
〔実施例13〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:9,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:7,200ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:9,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0149】
〔実施例14〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,600ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、さらに水溶性高分子としてのポリアクリル酸(分子量20,000、表面処理剤全体に対するポリアクリル酸の濃度:100ppm、試薬)を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0150】
〔実施例15〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,600ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、さらに水溶性高分子としてのシランカップリング剤縮合物(メルカプトシラン縮合体、表面処理剤全体に対するシランカップリング剤の濃度:100ppm、試薬)を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0151】
〔実施例16〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,600ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、さらにpH調整剤としての硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:10,000ppm、試薬)を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0152】
〔実施例17〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,600ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、さらに水溶性高分子としてのポリアクリル酸(分子量20,000、表面処理剤全体に対するポリアクリル酸の濃度:100ppm)およびpH調整剤としての硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:10,000ppm)を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.8であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0153】
〔実施例18〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:9,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,800ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:9,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0154】
〔実施例19〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:4,000ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、さらにpH調整剤としてのメタンスルホン酸(表面処理剤全体に対するメタンスルホン酸の濃度:100,000ppm)を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は2.0であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0155】
〔比較例1〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物としての硫酸第一スズと、錯化剤としてのチオ尿素と、銅化合物としての硫酸銅(II)と、フッ素化合物としてのフッ化水素とを、塩化銅(表面処理剤全体に対する塩化銅の濃度:5%、試薬)と、酢酸(表面処理剤全体に対する酢酸の濃度:10%、試薬)と、アミノテトラゾール(表面処理剤全体に対するアミノテトラゾールの濃度:0.3%、試薬)とに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0156】
〔比較例2〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物としての硫酸第一スズと、錯化剤としてのチオ尿素と、銅化合物としての硫酸銅(II)と、フッ素化合物としてのフッ化水素とを、硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:10%、試薬)と、過酸化水素(表面処理剤全体に対する過酸化水素の濃度:3%、試薬)と、アミノテトラゾール(表面処理剤全体に対するアミノテトラゾールの濃度:0.3%)とに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0157】
〔比較例3〕
所定の表面処理剤に、銅化合物としての硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:100ppm)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0158】
〔比較例4〕
所定の表面処理剤に含まれる銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:1,050ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は2.1であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0159】
〔比較例5〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物としての硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:100ppm)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0160】
〔比較例6〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:2,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:4,200ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:2,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0161】
〔比較例7〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:18,000ppm)に変更し、錯化剤をチオ尿素(表面処理剤全体に対するチオ尿素の濃度:150,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:20,000ppm)に変更し、さらに硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:220,000ppm)、硫酸ニッケル(表面処理剤全体に対する硫酸ニッケルの濃度:50,000ppm)およびジエチレングリコール(表面処理剤全体に対するジエチレングリコールの濃度:300,000ppm)を添加し、フッ素化合物としてのフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0162】
〔比較例8〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:18,000ppm)に変更し、錯化剤をチオ尿素(表面処理剤全体に対するチオ尿素の濃度:150,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:20,000ppm)に変更し、さらに硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:220,000ppm)、硫酸ニッケル(表面処理剤全体に対する硫酸ニッケルの濃度:50,000ppm)およびジエチレングリコール(表面処理剤全体に対するジエチレングリコールの濃度:300,000ppm)を添加し、フッ素化合物としてのフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)を添加せず、後処理としてシランを添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0163】
〔比較例9〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:15,000ppm)に変更し、錯化剤をチオ尿素(表面処理剤全体に対するチオ尿素の濃度:210,000ppm)に変更し、さらに硫酸(表面処理剤全体に対する硫酸の濃度:150,000ppm)、硫酸ニッケル(表面処理剤全体に対する硫酸ニッケルの濃度:35,000ppm)およびジエチレングリコール(表面処理剤全体に対するジエチレングリコールの濃度:300,000ppm)を添加し、銅化合物としての硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:100ppm)およびフッ素化合物としてのフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:500ppm)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0164】
〔比較例10〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物としての硫酸第一スズと、錯化剤としてのチオ尿素と、銅化合物としての硫酸銅(II)と、フッ素化合物としてのフッ化水素とを、塩化銅(表面処理剤全体に対する塩化銅の濃度:5%、試薬)と、酢酸(表面処理剤全体に対する酢酸の濃度:10%、試薬)と、アミノテトラゾール(表面処理剤全体に対するアミノテトラゾールの濃度:0.3%、試薬)とに変更し、その後ホウフッ化スズ0.1mol/リットルおよびチオ尿素1mol/リットルを添加し、次にホウフッ酸でpHが1.2になるように調整した合金形成置換スズめっき液に、銅を表面処理した後の電解銅箔を45℃、30秒の条件で浸漬した後、水洗および乾燥したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0165】
〔比較例11〕
所定の表面処理剤に含まれるスズ化合物を硫酸第一スズ(表面処理剤全体に対する硫酸第一スズの濃度:10,000ppm)に変更し、銅化合物を硫酸銅(II)(表面処理剤全体に対する硫酸銅(II)の濃度:2,000ppm)に変更し、フッ素化合物をフッ化水素(表面処理剤全体に対するフッ化水素の濃度:10,000ppm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った(上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比は0.2であった)。上記物性の評価結果を表1に示す。
【0166】
〔実施例のまとめ〕
表1に、銅の表面処理後における上記物性の評価結果をまとめた。
【0167】
【表1】

【0168】
実施例1〜3を比較すると、所定の表面処理剤に含まれる銅化合物としての硫酸銅(II)の濃度を高くすることにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が向上するか、または同等であるという結果になった。
【0169】
実施例4と実施例1とを比較すると、実施例4では実施例1と比べて錯化剤としてのチオ尿素の濃度を高くすることにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が向上するという結果になった。
【0170】
実施例5〜7と実施例1〜3とを比較すると、実施例5〜7では実施例1〜3と比べてスズ化合物としての硫酸第一スズの濃度を高くしても、銅箔と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持することができるという結果になった。
【0171】
実施例8〜10と実施例1〜3とを比較すると、実施例8〜10では実施例1〜3と比べてフッ素化合物の代わりにメタンスルホン酸を含有することにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が向上するという結果になった。
【0172】
実施例11〜13と実施例2とを比較すると、実施例11〜13では実施例2と比べてスズ化合物の濃度に対する銅化合物の濃度の比を変更することなく、スズ化合物および銅化合物の濃度を変更しても、銅箔と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持することができるという結果になった。
【0173】
実施例14,15と実施例6とを比較すると、実施例14,15では実施例6と比べて水溶性高分子としてのポリアクリル酸またはシランカップリング剤を添加することにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が向上するという結果になった。
【0174】
実施例16と実施例6とを比較すると、実施例16では実施例6と比べてpH調整剤としての硫酸を添加することにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が向上するという結果になった。
【0175】
実施例17と実施例6とを比較すると、実施例17では実施例6と比べて水溶性高分子としてのポリアクリル酸およびpH調整剤としての硫酸を併用することにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性がさらに向上するという結果になった。
【0176】
実施例18と実施例1とを比較すると、実施例18では実施例1と比べてスズ化合物の濃度に対する銅化合物の濃度の比を変更することなく、スズ化合物および銅化合物の濃度を変更しても、銅箔と樹脂等の絶縁材との十分な密着性を維持することができるという結果になった。
【0177】
実施例19と実施例7とを比較すると、実施例19では、処理剤における硫酸銅(II)の比率を高くすることより、皮膜中の銅の比率を高くすることができるという結果になった。
【0178】
比較例1,2と実施例1〜19とを比較すると、比較例1,2では実施例1〜19と比べてスズ化合物等を含んだ表面処理剤を用いておらず、エッチング等の粗化処理(凹凸処理)を行っているので、銅の表面処理後における電解銅箔のSEM外観に凹凸が見られるという結果になった。
【0179】
比較例3,5と実施例1〜7とを比較すると、比較例3,5では実施例1〜7と比べて銅化合物としての硫酸銅(II)を添加しないことにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が低下し、かつはんだ耐熱性に劣るという結果になった。
【0180】
比較例4,6と実施例1〜7とを比較すると、比較例4,6では実施例1〜7と比べてスズ化合物の濃度に対する銅化合物の濃度の比を2よりも大きくすることにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が低下し、かつはんだ耐熱性に劣るという結果になった。
【0181】
比較例7〜10と実施例1とを比較すると、比較例7〜10では実施例1と比べてスズ化合物としての硫酸第一スズの濃度を大幅に高くすることにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が低下し、かつはんだ耐熱性に劣るという結果になった。
【0182】
比較例11と実施例1,18とを比較すると、比較例11では実施例1,18と比べてスズ化合物の濃度に対する銅化合物の濃度の比を変更することなくスズ化合物および銅化合物の濃度を変更しても、スズ化合物の濃度が10,000ppm以上となることにより、銅箔と樹脂等の絶縁材との密着性が低下し、かつはんだ耐熱性に劣るという結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに銅表面の皮膜は、銅の表面をエッチング等の粗化処理することなく銅と樹脂等の絶縁材との間の密着性を維持することができるため、近年の電子機器・電子部品の高周波化、高密度化等に対応することができる。また、従来の粗化処理(凹凸処理)では、処理後に酸化膜が成長し、電子機器・電子部品としての機能を発揮しないため、多くの場合には後処理として防錆処理を施していた。本発明の銅の表面処理剤は、密着および防錆(不動態化)を同時に行うため、従来の粗化処理と比較して、電子機器・電子部品の生産工程を削減することができる。加えて、本発明の銅の表面処理剤および表面処理方法、並びに銅表面の皮膜は、スズ化合物を従来よりも低濃度で使用するため、排水負荷を大幅に低減した環境対応技術である。具体的には、本発明の銅の表面処理剤および表面処理方法は、微細(ファイン)配線を有するプリント配線基板、半導体実装品、液晶デバイス、エレクトロルミネッセンス等の各種電子機器・電子部品に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】本発明における銅の表面処理剤により表面処理された銅表面のSEM外観を示す図である。
【図2】従来の銅の表面処理剤により表面処理された銅表面のSEM外観を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ化合物と、錯化剤と、銅化合物とを含有し、
表面処理剤全体に対する上記スズ化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm未満の範囲内であり、
上記スズ化合物の濃度に対する上記銅化合物の濃度の比が0.2以上、2.0以下の範囲内であることを特徴とする銅の表面処理剤。
【請求項2】
さらに、アミノ基、エポキシ基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、イミノ基およびシラノール基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する水溶性高分子または水分散性高分子を含有することを特徴とする請求項1に記載の銅の表面処理剤。
【請求項3】
上記水溶性高分子として、少なくともポリアクリル酸もしくはシランカップリング剤縮合体を含有することを特徴とする請求項2に記載の銅の表面処理剤。
【請求項4】
銅表面の皮膜を形成し、
上記銅表面の皮膜は、銅とスズとの合金を含有し、該銅表面の皮膜におけるスズの重量が1mg/m以上、2,000mg/m以下の範囲内であり、かつ該銅表面の皮膜の最表面における組成比のうちのスズに対する銅のモル比が0.2以上、2.0以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項5】
上記錯化剤として、少なくともチオ尿素またはその誘導体を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項6】
さらに、フッ素化合物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項7】
表面処理剤全体に対する上記銅化合物の濃度が10ppm以上、10,000ppm以下の範囲内であり、
表面処理剤全体に対する上記錯化剤の濃度が40,000ppm以上、200,000ppm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項8】
表面処理剤全体に対する上記水溶性高分子または上記水分散性高分子の濃度が100,000ppm以下であることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項9】
表面処理剤全体に対する上記フッ素化合物の濃度が10,000ppm以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤。
【請求項10】
銅の表面に請求項1〜9のいずれか1項に記載の銅の表面処理剤を接触させることを特徴とする銅の表面処理方法。
【請求項11】
銅の表面に酸洗処理、粗化処理、防錆処理、酸化処理および脱脂処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の前処理をした後に、上記表面処理剤を接触させることを特徴とする請求項10に記載の銅の表面処理方法。
【請求項12】
銅の表面に上記表面処理剤を接触させた後に、防錆剤、後処理剤またはpH調整剤を接触させることを特徴とする請求項10または11に記載の銅の表面処理方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の銅の表面処理方法により形成され、
スズおよび銅を含有することを特徴とする銅表面の皮膜。
【請求項14】
銅表面1μm当たりに、銅とスズとを含有する結晶を1個以上含んでおり、
上記結晶の平均結晶径が50nm以上、1000nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項13に記載の銅表面の皮膜。
【請求項15】
請求項13または14に記載の銅表面の皮膜を含んでいることを特徴とする銅張り材料。
【請求項16】
請求項15に記載の銅張り材料を備えていることを特徴とする多層配線基板。
【請求項17】
最外層に請求項15に記載の銅張り材料を備えていることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150613(P2010−150613A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331352(P2008−331352)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】