説明

長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置および製造方法

【課題】 長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造するに際し、その製造を長時間連続して行うことができ、連続運転性に優れた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド(以下、ストランド)の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】 (1) 熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られたストランドを切断機により切断してペレット化するストランドの製造装置であって、前記撚り機と切断機との間に、ストランドを前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保つ手段を設けたことを特徴とするストランドの製造装置、(2) この装置を用いるストランドの製造方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置および製造方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造技術に関する従来技術としては、例えば、特開平1-263005号公報、特開平6-254853号公報、特開平6-254855号公報、特開平6-254850号公報に記載されたものがある。
【0003】
上記の特開平1-263005号公報には、含浸ローラが回転自在に配置されていることとしたものが記載されている。特開平6-254853号公報には、ローラを積極的に回転させることとしたものが記載されている。特開平6-254855号公報には、ローラに振動を与えることにより強化用繊維束への樹脂の含浸を促進する方法が記載されている。特開平6-254850号公報には、ローラを加熱することにより強化用繊維束への樹脂の含浸を促進する方法が記載されている。尚、上記含浸ローラやローラはいずれも樹脂含浸用のローラのことであり、樹脂含浸ローラともいわれるものである(以下、これらのローラをローラまたは樹脂含浸ローラという)。
【0004】
上記公報記載の技術の中、ローラを振動させたり、加熱する方法では、確かに強化用繊維束(以下、強化繊維束ともいう)への樹脂の含浸という点では効果がある。しかし、長期間安定して連続運転するという点で考えると、強化繊維束の引き取り抵抗を充分に小さくできないことから、不充分である。また、局部的にでも高温になることから樹脂の熱劣化にとっても悪影響がある。
【0005】
長期間安定して高速で製造するという観点からは、強化繊維束の引き取り抵抗を下げることが有効であり、ローラを積極的に回転させることによって強化繊維束の引き取り抵抗を下げようとするものが開示されている(特開平6-254853号公報)。
【0006】
しかしながら、ローラを積極的に回転させる方法は、強化繊維束の引き取り速度との関係で回転速度を微妙に調整する必要があり、製造の立ち上げやトラブル時の調整に時間がかかる。更に、この調整が上手くいかないと強化繊維束のタルミが生じたり、余分な張力が生じてしまい、特に耐熱性の低い合成有機繊維や非連続の繊維を紡績した天然植物紡績糸などの場合には、安定した連続運転が難しいといった問題点がある。
【0007】
上記公報記載の技術においてローラとしてはいずれもローラが軸と一体になった構造のものが採用されている。このようにローラが軸と一体になった構造の場合、樹脂浴容器(樹脂含浸用容器)の端にあたる軸受けの所に繊維の毛羽(屑)が溜まりやすく、これが強化繊維束の走行に合わせてローラが回転する際の抵抗になる傾向がある。このため、長時間の運転が難しくなる。更に、樹脂含浸用容器が複数個配置された装置になると、各容器ごとに強化繊維束の引き取り抵抗が異なるといったことが生じ、強化繊維束の引き取り速度を必ずしも同じに保てなくなり、頻繁に装置の調整をし直す必要が生じる。
【0008】
一方、強化用繊維束へ樹脂を含浸させる際、強化用繊維束に撚りを付与し、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造する技術があり、この技術に関する従来技術としては、例えば、特開平5-169445号公報に記載されたものがある。このような撚りを付与する目的は、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの材料特性(柔軟性、耐座屈性等)を向上しようとするものである。
【0009】
上記公報には、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドに撚りを付与すること等について記載されているが、得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドのペレット化の際の問題点や具体的な装置については何ら触れられていない。
【0010】
撚りを付与した長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド(以下、ストランドともいう)を引き抜きながらオンラインで切断してペレット化しようとした場合、ストランドに回転が付与される(付与された撚りを戻す方向に回転する)ために、ペレタイザー(切断機)の前でストランドが踊る現象が見られ、ペレット長が不揃いになるばかりでなく、ストランドがガイドから外れてペレット化ができなくなるといった状況が起りやすい。
【0011】
撚りを付与したストランドを一旦ボビンに巻き取ってから、このボビンを繰り出し機にセットしてストランドを引き出し、ペレタイザーで切断してペレット化するという方法をとれば、上記のような問題を避けることができる。しかし、この方法の場合はバッチ処理となり、ボビンの交換時には製造を中断することになり、連続運転性という観点で問題がある。
【特許文献1】特開平1-263005号公報
【特許文献2】特開平6-254853号公報
【特許文献3】特開平6-254855号公報
【特許文献4】特開平6-254850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造するに際し、その製造を長時間連続して行うことができ、連続運転性に優れた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置および製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置および製造方法は、請求項1〜3記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置、請求項4記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法としており、それは次のような構成としたものである。
【0014】
即ち、請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断してペレット化する長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置であって、前記撚り機と切断機との間に、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保つ手段を設けたことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置である(第1発明)。
【0015】
請求項2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、前記撚りを保つ手段が、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなる請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置である(第2発明)。
【0016】
請求項3記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、前記撚りを保つ手段が、前記撚り機と切断機との間の切断機に近い位置に設けられている請求項1又は2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置である(第3発明)。
【0017】
請求項4記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置を用いて長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造する方法であって、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを、前記撚り機と切断機との間に設けられた撚りを保つ手段により、前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保ち、この後、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法である(第4発明)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置によれば、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造するに際し、連続運転性に優れ、長時間の運転が可能となり、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができるようになる。本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法によれば、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は例えば次のような形態で実施する。
強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させるための熱可塑性樹脂浴容器を準備する。この熱可塑性樹脂浴容器の下流側に樹脂含浸繊維束に撚りを付与するロール方式の撚り機を設け、その下流側に樹脂含浸繊維束(長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド)を切断してペレット化する切断機を設ける。更に、この撚り機と切断機との間に、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを上記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、上記撚り機により付与された撚りを保つ手段を設ける。そうすると、本発明の第1発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置が得られる。なお、上記撚り機はロール方式であるので、樹脂含浸繊維束を引き取る手段としても機能する。
【0020】
このとき、上記撚りを保つ手段として、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなるものを用いると、本発明の第2発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置が得られる。また、上記撚りを保つ手段を前記撚り機と切断機との間の切断機に近い位置に設けるようにすると、本発明の第3発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置が得られる。
【0021】
上記製造装置を用いて、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造をする。即ち、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを、上記撚りを保つ手段により、前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保ち、この後、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断する。そうすると、本発明の第4発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法が実施されることになる。
【0022】
このような形態で本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置が得られ、そして本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法が実施される。
【0023】
このような形態で本発明が実施される。以下、本発明(第1発明〜第4発明)について主にその作用効果を説明する。
【0024】
本発明の第1発明(請求項1)に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、前述の如く、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断してペレット化する長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置であって、前記撚り機と切断機との間に、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保つ手段を設けたことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置である。
【0025】
従って、前記撚り機により撚りが付与された長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド(以下、ストランドともいう)は、前記撚りを保つ手段(以下、撚り保持手段ともいう)により、前記撚りの方向と同じ方向に撚られ、前記撚りを保つことができる。つまり、前記撚り機により付与された撚りの戻りがないか又は撚りの戻り量が少ないようにし得る。このため、ストランドの回転(撚り戻し)による踊り現象が全くなくなり、ひいてはペレット長が不揃いになることを抑えることができると共に、ストランドがガイドから外れることがなくなり、ストランドの切断(ペレット化)工程を円滑に行うことができる。
【0026】
故に、樹脂含浸繊維束(長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド)に撚りを付与してから切断してペレット化するという長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を行うに際し、連続運転性に優れ、長時間の運転が可能となり、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができるようになる。
【0027】
なお、ストランドのガイドとしてチューブ状のガイドを設置するという方法も考えられる。しかし、特に剛性が低い合成有機繊維のストランドや繊維含有量の低いストランドの場合、途中で座屈しやすい傾向があり、ガイド内で詰まりが生じるなど、連続生産という点で問題が充分には解決できない。
【0028】
前記した特開平5-169445号公報には、撚り機(撚りローラ11a, 11b)と樹脂含浸繊維束(繊維強化樹脂ストランド)を切断してペレット化する切断機(カッター13)との間にローラ12が設けられている。しかし、このローラ12は、前記公報に記載されているように、引抜きローラであり、撚りローラ11a, 11bによって撚りが付与された繊維強化樹脂ストランドを前記撚りローラ11a, 11bによる撚りの方向と同じ方向に撚ることを意図したものではない。また、前記公報の図1等に示されるように、この引抜きローラ12は長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組よりなるものの、互いのローラ軸の角度をずらせて配置したものではないので、繊維強化樹脂ストランドを撚る機能を基本的に有しておらず、そのため、この引抜きローラ12では、撚りローラ11a, 11bによって撚りが付与された繊維強化樹脂ストランドを前記撚りローラ11a, 11bによる撚りの方向と同じ方向に撚ることはできない。従って、この引抜きローラ12では、前記撚りローラ11a, 11bによる撚りを保つことはできず、本発明の第1発明に係る装置の場合のように撚りを保つことはできない。即ち、この引抜きローラ12では、前記撚りローラ11a, 11bによる撚りを保つことにより連続運転性を向上させることはできない。このように、特開平5-169445号公報記載の装置と本発明の第1発明に係る装置とは、構成が相違すると共に作用効果も顕著に相違しているといえる。
【0029】
前記撚り機の種類は限定されず、例えば樹脂含浸繊維束(長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド)を挟んで対向させて配置したローラ組であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなるものを使用することができる。前記撚り保持手段の数は限定されず、1又は2以上とすることができる。
【0030】
本発明の第2発明(請求項2)に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、前記第1発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置における撚り保持手段(撚りを保つ手段)が、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなることに特定したものである。このローラ組よりなる撚り保持手段によれば、前記撚り機により撚りが付与されたストランドを該撚りの方向と同じ方向に撚り、該撚りを保つことを確実に行うことができる。
【0031】
本発明の第3発明(請求項3)に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置は、前記第1発明または第2発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置における撚り保持手段(撚りを保つ手段)が、前記撚り機と切断機との間の切断機に近い位置(以下、切断機寄りの位置ともいう)に設けられていることに特定したものである。この場合、より確実に、前記撚り機により付与された撚りの戻りがないか又は撚りの戻り量が少ない状態でストランドを切断機へ導入することができ、ひいては、ペレット長が不揃いになることを抑えることができると共に、ストランドがガイドから外れることがなくなり、ストランドの切断(ペレット化)工程を円滑に行うことができる。
【0032】
なお、前記撚り保持手段の数が2以上の場合、この中の1の撚り保持手段のみを切断機寄りの位置に設けてもよいし、複数の撚り保持手段を切断機寄りの位置に設けてもよく、あるいは、全ての撚り保持手段を切断機寄りの位置に設けてもよい。
【0033】
本発明の第4発明(請求項4に係る発明)は長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法に係わり、それは前記第1発明、第2発明または第3発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置を用いて長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造する方法であって、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを、前記撚り機と切断機との間に設けられた撚りを保つ手段により、前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保ち、この後、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法である。この長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法によれば、前記第1発明や第2発明あるいは第3発明についての説明事項からわかる如く、樹脂含浸繊維束(長繊維強化熱可塑性樹脂ストランド)に撚りを付与してから切断してペレット化するという長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を行うに際し、これを長時間連続して行うことができる。
【0034】
本発明において、強化用繊維としては、連続した繊維束として供給できるものであればよく、その種類としては特には限定されず、連続したガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維、金属繊維、合成有機繊維の他、非連続の繊維を紡績して糸にした天然植物繊維も用いることができる。強化用繊維は、組み合わせる熱可塑性樹脂との密着性を考慮して、適切な表面処理やサイジング処理をするとよい。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、その種類は特に限定されるものではなく、必要とされる物性値や強化用繊維の耐熱性等を考慮して適宜選択される。例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE )、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)やポリプロピレン樹脂の単独、共重合体やブレンド物であるポリオレフィン系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS 樹脂等)、あるいは、ポリ乳酸系などの生分解性樹脂などを挙げることができる。
【0036】
熱可塑性樹脂には、必要な物性に応じて、タルク、炭酸カルシウム、マイカ等の無機フィラーや分散剤、滑剤(骨剤)、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、カーボンブラック、結晶化促進剤(増核剤)、顔料、染料などの添加剤を添加することができる。
【0037】
強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させるための熱可塑性樹脂浴容器と、軸と管から構成されたローラであって該管が該軸の周りに回転自在に支持されているローラとを準備する。次に、このローラを前記熱可塑性樹脂浴容器内に下記のように配置する。即ち、このローラの軸方向が強化用繊維束の走行軌道に交差すると共に、このローラの管の外周面に強化用繊維束が接触して走行するように配置する。そして、この熱可塑性樹脂浴容器の下流側に樹脂含浸繊維束を引き取る手段を設ける。なお、上記ローラの数は1あるいは2以上とする。(このようにして得られる長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置を、以下、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Aともいう。)
【0038】
このとき、上記ローラの管に貫通孔を設けておくことができる。(この貫通孔を設けた装置を、以下、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Bともいう。)
【0039】
上記製造装置AまたはBを用いて、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造をする。即ち、強化用繊維束を前記熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に導入し、前記ローラの管の外周面に接触させて走行させながら、強化用繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させ、熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取る。そうすると、上記製造装置AまたはBによる長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法が実施されることになる。
【0040】
長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Aは、前述の如く、熱可塑性樹脂浴容器内に、強化用繊維束の走行軌道に交差して強化用繊維束と接触するローラが配置されており、該ローラが軸と管から構成され、該管が該軸の周りに回転自在に支持されている。
【0041】
従って、このローラはその軸の部分がたとえ回転し難くなったとしても、ローラの管の部分が独立して回転することができ、このため、強化繊維束の引き取り抵抗を何ら変化させることなく、運転することが可能になる。
【0042】
しかも、溶融した熱可塑性樹脂があたかも潤滑剤のようにローラの軸と管の間に存在し、流動できるので、ローラの管は円滑に回転することができる。このため、強化繊維束の引き取り抵抗を常に充分に小さくすることができる。
【0043】
故に、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造するに際し、連続運転性に優れ、長時間の運転が可能となり、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができるようになる。
【0044】
更には、樹脂含浸用容器が複数個配置された装置とした場合においても、各容器ごとの強化繊維束の引き取り抵抗を同じにし、強化繊維束の引き取り速度を同じに保つことができ、このため、装置の調整をし直す必要がほとんどない。従って、かかる構成の装置を採用しやすく、その採用により装置としての生産性が向上できる。
【0045】
なお、ローラの管と軸の間の潤滑性の確保のために潤滑剤を使用することが考えられる。しかし、樹脂浴の温度は樹脂の種類にもよるが通常200〜300℃程度であるので、耐熱性の潤滑剤しか使用できず、しかも潤滑剤を使用すると樹脂浴を汚染するため、潤滑剤は使用できない。長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Aでは、潤滑剤を使用しなくとも、溶融した熱可塑性樹脂によりローラの管と軸の間の潤滑性を確保することができ、換言すれば、溶融した熱可塑性樹脂を潤滑剤として利用しているということができる。
【0046】
前記ローラの数(樹脂含浸用容器1当たりの数)は限定されるものでなく、1又は2以上とすることができる。
【0047】
強化用繊維束の走行軌道に交差して該強化用繊維束と接触するローラが配置されていることとは、ローラの軸方向が強化用繊維束の走行軌道に交差するとともにローラ面が該強化用繊維束と接触するようにローラが配置されていることである。ローラの軸方向が強化用繊維束の走行軌道に交差することとは、ローラの軸中心線と強化用繊維束の走行軌道とが直接交わることを要するものではなく、投影図上でローラの軸中心線と強化用繊維束の走行軌道とが交わることである。
【0048】
ローラが軸と管から構成され、該管が該軸の周りに回転自在に支持されていることとは、大気中において該管が該軸の周りに回転自在であることを要するものではなく、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に配置されている状態で該管が該軸の周りに回転自在であればよく、このように支持されていることである。
【0049】
前記ローラの軸は軸受に回転自在に支持されて回転可能であることに限定されるものではなく、軸が固定されている(軸は回転しない)方式を採用することもできる。
【0050】
後者の軸が固定されている方式(軸固定方式)においても、ローラの管の部分が回転することができ、しかも、溶融した熱可塑性樹脂があたかも潤滑剤のようにローラの軸と管の間に存在し、流動できるので、ローラの管は円滑に回転することができる。このため、強化繊維束の引き取り抵抗を常に充分に小さくすることができる。従って、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造するに際し、連続運転性に優れ、長時間の運転が可能であり、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができる。
【0051】
前者の軸が回転可能である方式と後者の軸固定方式とを比較するに、前者の軸回転可能方式の方が連続運転性に優れており、この点からすると前者の軸回転可能方式を採用することが望ましい。
【0052】
長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Bは、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置Aにおけるローラの管に貫通孔が設けられていることに特定したものである。このようにローラの管に貫通孔が設けられていると、この貫通孔を介してローラの管と軸の間を溶融した熱可塑性樹脂が自由に流動できる。このため、ローラの管と軸の間の潤滑性を確保しやすく、しかも、ローラの管と軸の間に繊維の毛羽が滞留することがなく、より確実にローラの管を円滑に回転させることができる。ひいては、強化繊維束の引き取り抵抗を常に充分に小さくすることができることの確実性の水準が増す。なお、上記貫通孔の数は特には限定されず、1でもよいし、2以上でもよい。ただし、ローラの管と軸の間の潤滑性の面からすると、上記貫通孔の数は多くすることが望ましい。しかし、ローラの管の強度等の面から貫通孔の数を多くし過ぎないようにすることが望ましい。貫通孔の大きさに特に制限はないが、0.5 mm〜3mmが好ましく、更に好ましくは、0.8 mm〜1.5 mmである。
【0053】
長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置AまたはBを用いて長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造する方法としては、強化用繊維束を熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に導入し、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置AまたはBに係るローラの管の外周面に接触させて走行させながら、強化用繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させ、熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法がある。この長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法によれば、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置AやBについての説明事項からわかる如く、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を長時間連続して行うことができる。
【実施例】
【0054】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。尚、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
本発明の実施例1に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置の概要を図6に示す。
【0056】
この図6において、付番の4は強化用繊維のボビン、1はボビン4から引き出された強化用繊維、5は熱可塑性樹脂浴容器(樹脂含浸用クロスヘッド)を示すものである。8は該容器5の内部に配置された樹脂含浸用ローラを示すものである。2は溶融した熱可塑性樹脂を示すもの、6は熱可塑性樹脂の押出機を示すもの、7は押出機6のスクリュを示すものである。なお、樹脂含浸用ローラ8としては、後述の比較例イの場合と同様の樹脂含浸用ローラ、つまりローラが軸と一体になった構造のものを用いた。
【0057】
11a, 11bは、撚りを付与する機構を持った引き取り機、換言すれば、引き取り機構を持った撚り機を示すものである。この撚りを付与する機構は、ローラ11a とローラ11b とで構成されている。即ち、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組11a, 11bであって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組11a, 11bよりなる。
【0058】
13は、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断してペレット化する切断機、つまりペレタイザーを示すものである。
【0059】
12は、撚り機11a, 11bによる撚りと同じ方向に撚り、撚り機11a, 11bにより付与された撚りを保つ手段(撚り保持手段)を示すものである。この手段12は、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組(上側ローラと下側ローラとの組)であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなる。この手段12は、撚り機11a, 11bと切断機13との間の切断機13に近い位置に設けられている。
【0060】
熱可塑性樹脂としては、下記の如きポリプロピレン系樹脂を用いた。即ち、密度:0.91g/cm3、MER(230 ℃、2.16kgf):60g/10 分、融点(DSC法):165 ℃のホモポリプロピレン樹脂100 質量部に、無水マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂〔三洋化成工業社製、商品名「ユーメックス1001」、酸価:26mgKOH/g、密度:0.95g/cm3、分子量:40,000(GPC 法による重量平均分子量)〕5質量部をブレンドした樹脂ペレットを用意した。そして、この樹脂ペレットを270 ℃に加熱して溶融した。
【0061】
強化用繊維としては、平均直径:17μm のガラス繊維をγ−アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理した後、無水マレイン酸変成PPのエマルジョンで処理した1200tex のE−ガラス繊維のロービングを用いた。
【0062】
上記装置を用いて、下記の如き長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を行った。即ち、押出機により270 ℃に溶融したポリプロピレン系樹脂を熱可塑性樹脂浴容器内に導いた。張力をかけたガラス繊維ロービング1を引き揃えて束状にして熱可塑性樹脂浴容器5内の溶融したポリプロピレン系樹脂2中に導入し、樹脂含浸用ローラ8の外周面に接触させて走行させると共に、このローラの上下を交互にジグザグに通した。これにより、ガラス繊維束(ガラス繊維ロービングの束)へのポリプロピレン系樹脂の含浸を行った。そして、引き取り機(撚り機)11a, 11bにより、熱可塑性樹脂浴容器5の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き抜くとともに、該樹脂含浸繊維束の軸心を中心にして回転させて該樹脂含浸繊維束に撚りを付与した。更に、この撚りが付与されたもの〔長繊維強化熱可塑性樹脂(ポリプロピレン系樹脂)ストランド〕を、撚り保持手段12により、前記撚り機11a, 11bによる撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機11a, 11bにより付与された撚りを保つようにした。この後、この長繊維強化熱可塑性樹脂(ポリプロピレン系樹脂)ストランドをペレタイザー13で8mm長のペレットに切断してペレット化した。なお、ペレット径は約3mmφであり、ペレット中のガラス繊維の含有量は約50質量%である。
【0063】
このとき、樹脂含浸繊維束の引き抜き速度は30m/分とした。撚り機11a, 11bによる撚りの付与に際し、撚りのピッチは25mm、撚り回数は40回/mとした。なお、撚りのピッチ:25mmとは、樹脂含浸繊維束中の繊維束がらせん状に360 °1回転ひねられるに要する軸方向距離のことである。撚り回数:40回/mとは、1mあたりに何ピッチあるか、即ち、1mの軸方向において繊維束の360 °のひねりが40回入っているということである。
【0064】
このようにして得られたペレットのペレット長さを1本ずつ測定し、8±1.5mm の範囲を外れたペレットの本数の割合を求めた。また、8時間の連続運転を5セット行い、その間にストランドがガイドから外れる等のトラブルが起った回数を求め、評価した。
【0065】
(比較例1)
比較例1においては、撚り保持手段12を設けなかった。即ち、引き取り機(撚り機)11a, 11bにより熱可塑性樹脂浴容器5の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き抜くと共に該樹脂含浸繊維束に撚りを付与した後、この撚りを保つようにすることなく、ペレタイザー13でペレットに切断してペレット化しようとした。この点を除き、実施例1の場合と同様の装置を用い、同様の方法による製造、装置の運転を行った。そして、実施例1の場合と同様にして8±1.5mm の範囲を外れたペレットの本数の割合を求め、また、実施例1の場合と同様にしてトラブルが起った回数を求め、評価した。
【0066】
(比較例2)
比較例2においては、撚り保持手段12を設けなかった。そして、撚り保持手段12に代えて、5mmφの金属製のチューブ(長さ:100mm )をペレタイザー13の手前に設けた。即ち、ストランドのガイドとして直径:5mmφ、長さ:100mm のチューブ状のガイドを設置した。この点を除き、実施例1の場合と同様の装置を用い、同様の方法による製造、装置の運転を行った。そして、実施例1の場合と同様にして8±1.5mm の範囲を外れたペレットの本数の割合を求め、また、実施例1の場合と同様にしてトラブルが起った回数を求め、評価した。
【0067】
〔実施例1、比較例1〜2での結果〕
前記実施例1、比較例1及び比較例2の場合の結果を表2に示す。この表2からわかる如く、8±1.5mm の範囲を外れたペレット(規定範囲外ペレット)の本数の割合は、比較例1の場合は56%である。比較例2の場合は比較例1の場合よりは少し小さくなるが、それでも22%もある。これに対して、実施例1の場合は僅か2%であり、極めて小さい。
【0068】
トラブルが起った回数は、比較例1の場合は118 回である。比較例2の場合は比較例1の場合よりは大分少なくなるが、それでも42回もある。これに対して、実施例1の場合はトラブルは全く起らず、トラブルの回数は0であり、極めて小さい。
【0069】
これらの結果は、比較例1や比較例2の場合に比べて、本発明の実施例1の場合は連続運転性に極めて優れていることを示している。即ち、本発明の実施例1の場合は、ペレット長が不揃いになり難く、また、ストランドがガイドから外れてペレット化ができなくなる等のトラブルの発生がなく、このため、途中で運転を中止する必要が少なく、連続運転性に極めて優れている。
【0070】
(例a)
例aに係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置の概要を図1及び2に示す。図1は上面図である。図2は、図1に示す装置の要部を拡大して示す側断面図である。
【0071】
上記装置において、樹脂含浸用ローラ(含浸用ローラ)としては、図3に示す軸を図4に示す管(但し貫通穴を設けていないもの)に挿入して構成されたローラであって該管が該軸の周りに回転自在に支持されているローラが用いられている。この樹脂含浸用ローラは、図1及び2に示す如く、熱可塑性樹脂浴容器(クロスヘッド)内に配置されている。即ち、このローラの軸方向が強化用繊維束の走行軌道に対して直角に交差すると共に、このローラの管の外周面に強化用繊維束が接触して走行するように、また、このローラの上下を交互にジグザグに強化用繊維束が通るように、これらのローラ(5個)が熱可塑性樹脂浴容器内に配置されている。そして、熱可塑性樹脂浴容器の下流側には樹脂含浸繊維束を引き取る手段(図示していない)が設けられている。なお、上記ローラの軸は軸受に回転自在に支持されて回転可能である。ローラの直径は10mmである。
【0072】
熱可塑性樹脂としては、下記の如きポリプロピレン系樹脂を用いた。即ち、密度:0.91g/cm3、MER(230 ℃、2.16kgf):60g/10 分、融点(DSC法):165 ℃のホモポリプロピレン樹脂100 質量部に、無水マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂〔三洋化成工業社製、商品名「ユーメックス1001」、酸価:26mgKOH/g、密度:0.95g/cm3、分子量:40,000(GPC 法による重量平均分子量)〕5質量部をブレンドした樹脂ペレットを用意した。そして、この樹脂ペレットを270 ℃に加熱して溶融した。
【0073】
強化用繊維としては、平均直径:17μm のガラス繊維をγ−アミノプロピルトリエトキシシランで表面処理した後、無水マレイン酸変成PPのエマルジョンで処理した1200tex のE−ガラス繊維のロービングを用いた。
【0074】
上記装置を用いて、下記の如き長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造を行った。即ち、押出機により270 ℃に溶融したポリプロピレン系樹脂を熱可塑性樹脂浴容器内に導いた。張力をかけたガラス繊維ロービングを引き揃えて束状にして熱可塑性樹脂浴容器内の溶融したポリプロピレン系樹脂中に導入し、樹脂含浸用ローラの管の外周面に接触させて走行させると共にこのローラの上下を交互にジグザグに通した。これにより、ガラス繊維束(ガラス繊維ロービングの束)へのポリプロピレン系樹脂の含浸を行った。そして、熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き抜き、長繊維強化熱可塑性樹脂(ポリプロピレン系樹脂)ストランドを得た。更に、このストランドをペレタイザーで8mm長のペレットに切断してペレット化した。
【0075】
このとき、樹脂含浸繊維束の引き抜き速度は、30m/分とした。そして、トラブルによって装置の運転をストップする(ストランドの製造を中止する)までの連続運転時間を求め、評価した。ただし、120 時間連続運転が可能であった場合は、運転を中断し、連続運転時間としては120 時間以上とした。
【0076】
(例b)
例bにおいては、樹脂含浸用ローラとして、図3に示す軸を図4に示す管〔貫通孔(貫通穴)を5個設けている〕に挿入して構成されたローラであって該管が該軸の周りに回転自在に支持されているローラを用いた。つまり、ローラを構成する管として、貫通孔を5個有するものを用いた。この点を除き、例aの場合と同様の装置を用い、同様の方法による製造、装置の運転を行った。そして、例aの場合と同様にして連続運転時間を求め、評価した。尚、上記貫通孔の直径は1mmである。
【0077】
(比較例イ)
比較例イにおいては、樹脂含浸用ローラとして、図5に示すローラを用いた。つまり、ローラが軸と一体になった構造のものを用いた。この点を除き、例aの場合と同様の装置を用い、同様の方法による製造、装置の運転を行った。そして、例aの場合と同様にして連続運転時間を求め、評価した。
【0078】
〔例a〜b、比較例イでの結果〕
前記例a、例b及び比較例イの場合の連続運転時間を表1に示す。この表1からわかる如く、比較例イの場合の連続運転時間は26時間である。これに対して、例aの場合の連続運転時間は49時間であり、極めて長い。更に、例bの場合の連続運転時間は120 時間以上であり、著しく極めて長い。このように、例aの場合は連続運転性に極めて優れており、さらに例bの場合は連続運転性に極めて優れている。
【0079】
なお、上記の例aでは、ロールとして管が軸の周りに回転自在に支持されて回転可能であると共に、軸が軸受に回転自在に支持されて回転可能である方式のものを用いたが、軸固定方式のものを用いた場合、連続運転時間が少し短くなるものの、比較例イの場合よりは連続運転時間が長く、連続運転性に優れていた。例bのロールにおいて軸固定方式とした場合、連続運転時間は120 時間以上であり、連続運転性に極めて優れていた。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】例aに係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置の概要を示す模式図である。
【図2】例aに係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置の要部の概要を示す模式図である。
【図3】例aに係る樹脂含浸用ローラ用の軸の概要を示す模式図である。
【図4】例bに係る樹脂含浸用ローラ用の管の概要を示す模式図である。
【図5】比較例イに係る樹脂含浸用ローラの概要を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例1に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
【0083】
1--強化用繊維、 2--溶融した熱可塑性樹脂、 4--強化用繊維のボビン、
5--熱可塑性樹脂浴容器、 6--押出機、 7--スクリュ、 8--樹脂含浸用ローラ、
11a, 11b--ローラ組(引き取り・撚り機)、 12--撚り保持手段、 13--切断機(ペレタイザー)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断してペレット化する長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置であって、前記撚り機と切断機との間に、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保つ手段を設けたことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置。
【請求項2】
前記撚りを保つ手段が、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを挟んで対向させて配置したローラ組であって互いのローラ軸の角度をずらせて配置したローラ組よりなる請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置。
【請求項3】
前記撚りを保つ手段が、前記撚り機と切断機との間の切断機に近い位置に設けられている請求項1又は2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造装置を用いて長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを製造する方法であって、熱可塑性樹脂浴容器内の溶融した熱可塑性樹脂中に強化用繊維束を導入し、該強化用繊維束に該熱可塑性樹脂を含浸させ、該熱可塑性樹脂浴容器の出口ノズルから樹脂含浸繊維束を引き取ると共に撚り機によって該樹脂含浸繊維束に撚りを付与し、これにより得られた長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを、前記撚り機と切断機との間に設けられた撚りを保つ手段により、前記撚り機による撚りと同じ方向に撚り、前記撚り機により付与された撚りを保ち、この後、長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドを切断機により切断することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ストランドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−231922(P2006−231922A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65775(P2006−65775)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【分割の表示】特願2001−378761(P2001−378761)の分割
【原出願日】平成13年12月12日(2001.12.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】