説明

関節病を治療するためのPAK阻害剤の使用

本発明は、関節病、例えば変形性関節症またはリウマチ様関節炎を治療するための、または、関節痛を治療するための、p21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤の使用、および、関節病を治療するための医薬品としてのPAK阻害剤を発見するための標的タンパク質としての、PAKの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症またはリウマチ様関節炎のような関節病を治療するための、または関節痛を治療するためのp21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤の使用、および、PAKの、関節病の治療のための医薬品としてのPAK阻害剤を発見するための標的タンパク質としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
西洋において、人間の最もありふれた身体障害状態は、変形性関節症である。人々の加齢のために、我々は、増加の一途をたどる患者群と直面しなければならず、彼等の生活の質はひどく影響を受けている。加えて、この病気は、高い直接的および間接的なコストを伴う莫大な社会経済的な重荷を含む。現在の治療法は、変形性関節症に関連する痛みの制御に注意を向けているが、それでもなお、我々にとって、病気の経過を遅くする、停止させる、または、元に戻すことも可能な薬理学的な治療法がまったく欠落している。
【0003】
変形性関節症は、滑膜性の連結の構造的および機能的な破損を引き起こす各種障害の臨床的および病理学的な結果とみなすことができる。変形性関節症は、関節組織の破壊と修復との動的平衡が崩れた場合に発生する。関節の軟骨の構造的な破損は、健康な軟骨を傷つける異常な機械的歪、同様に、生理学的な機械的歪の影響下で変性する病理学的に機能が損なわれた軟骨の破損に起因する可能性がある。変形性関節症で観察された形態学的な変化としては、軟骨のびらん、同様に、様々な程度の滑膜の炎症が挙げられる。これらの変化の原因は、軟骨の高分子の破壊を引き起こすタンパク質分解酵素などの生化学的要因の複雑なネットワークにある。活性化滑膜細胞、単核細胞または関節の軟骨そのものによって生産されるIL−1およびTNFαのようなサイトカインは、メタロプロテイナーゼ(MMP)、および、サイトカイン遺伝子発現を著しくアップレギュレートし、代償的な合成経路を鈍らせる。例えば、MAPK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)経路を介したシグナル伝達による、IL−1および/またはTNFαによるAP1−転写因子複合体の活性化は、変形性関節症に関連するマーカー遺伝子の発現の調節に重要な役割を果たす。
【0004】
炎症性の痛みの、軟骨の代謝と形成に関与するさらなる生化学的な要因は、PGE2(プロスタグランジンE2)である。PGE2とは、シクロオキシゲナーゼ(COX)−1および−2によって合成されたエイコサノイドのことであり、これは、IL−1介在プロテオグリカン分解に関与しており、PGE2を意識のあるラットまたはマウスに投与すると、痛覚過敏を誘発する。ヒトの変形性関節症の関節において、IL−1βの内因性発現により、COX−2の誘導が引き起こされる。
【0005】
従って、変形性関節症は、関節の軟骨の進行の遅い変性を特徴とする。変形性関節症の正確な原因論はまだわかっていないが、一般的に、軟骨基質成分の分解は、細胞外プロテイナーゼ、主としてマトリックスメタロプロテイナーゼ、および、変性性のプロセスを増幅させるサイトカインの大量の合成と活性化による事象と一致する。変形性関節症を治療するための新規のアプローチが必要であり、軟骨の障害に関する生物学の理解を進めることにより、軟骨の修復を刺激するか、軟骨基質の破壊を阻害する産物を生産する遺伝子の使用をもたらした。数種の研究により、例えば、変形性関節症における構造変化の進行を遅くする手段として、IL−1活性を調節することの可能性のある重要性が説明されている。
【0006】
それゆえに、本発明の目的は、軟骨に害を与える要因の作用を回避または減少させるための新しい治療法を見出すことである。
【0007】
驚くべきことに、変形性関節症に関連するマーカー遺伝子発現のアップレギュレーションを引き起こすシグナル伝達経路の、IL−1によって誘導された活性化の重要な媒介物質として、PAK、特にPAK1が同定された。
【0008】
PAK1は、細胞の形態形成、運動性、生存、有糸分裂および血管新生などの多種多様な細胞機能に重要なセリン/スレオニンキナーゼの進化上保存されたファミリーの構成要素の一つである。PAKは、Ste20プロテインキナーゼの大規模なファミリーに属する。Ste20pは、S.セレビシエ(S.cerevisiae)における交配経路に関与する推定上の酵母のマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼキナーゼキナーゼ(MAP4K)である。哺乳動物、ショウジョウバエ、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)、およびその他の生物におけるそのホモログは、ヒトにおけるホモログの構成員も含む大規模な新しいプロテインキナーゼのグループを構成する。Ste20グループのキナーゼはさらに、p21活性化キナーゼ(PAK)と、胚中心のキナーゼ(GCK)ファミリーに分類される。これらは、保存されたキナーゼドメインと、キナーゼと様々なシグナル伝達分子および細胞骨格の調節タンパク質とを相互作用させる大きな構造的多様性を有する非触媒領域の存在を特徴とする。
【0009】
数種の文献により、哺乳動物細胞におけるMAPK活性の調節におけるPAKの役割が説明されている(例えば、Dan,C.等(2002年)Mol.Cell Biol.,22,567〜577を参照)。MAPKカスケードは、多様な細胞性の事象、細胞外の刺激、例えば成長因子、サイトカインおよび環境ストレスからのシグナル伝達において重要であり、それにより、転写因子を活性化し、遺伝子発現の調節が起こる(Johnson,G.L.およびLapadat,R.(2002年)Science,298,1911〜1912)。シグナル伝達は、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAP3K)、MAPキナーゼキナーゼ(MAP2K)およびMAPKからなる三重のキナーゼ単位の直線状の連続的なリン酸化が介在する。三重のキナーゼ単位およびその活性化メカニズムは、酵母から哺乳動物への真核性の進化において高度に保存されている。
【0010】
哺乳動物細胞において、PAKは、Cdc42およびRac1の下流エフェクターの標的と同定されており、GTPアーゼがPak1へ結合することにより、そのキナーゼ活性が自己リン酸化によって刺激される。PAKは、活性化された(GTP結合)p21と特異的に複合体を形成し、p21GTPアーゼ活性を阻害し、キナーゼの自己リン酸化と活性化を起こす。PAKファミリーキナーゼは、酵母からヒトに至るまで保存されており、これは、Cdc42またはRac1によって、保存されたN末端モチーフ(PAKの残基71〜137に対応する)との相互作用を介して直接的に活性化される。自己リン酸化されたキナーゼは、Cdc42/Rac1の親和性を減少させ、さらなる刺激性の活性、または、GTPアーゼ活性化タンパク質によるダウンレギュレーションのためにp21を遊離させる(Manser,E.等(1994年)Nature,367,40〜46)。Rac1やCdc42に加えて、新たに同定されたGTPアーゼのRhoファミリーのホモログ(例えばWrch−1およびChp)もまた、PAKを活性化し、糸状仮足の形成とストレスファイバー溶解を誘導することができる(Aronheim,A.等(1998年)Curr.Biol.8,1125〜1128)。グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、および、GTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)は、GTPアーゼのRhoファミリーのGTP−GDP結合状態を調節するものであり、これらは、PAK1キナーゼによって活性化される下流のシグナル伝達の重要な決定因子である(Zhou,K.等(1998年)J.Biol.Chem.,273,16782〜16786)。
【0011】
配列番号1および2に、PAK1の核酸配列およびアミノ酸配列をそれぞれ示す。Cdc42およびRacへの強固な結合に必要なPAK1の配列が、短縮されたフラグメント、および、部位特異的突然変異体の特性を解析すること、同様に、Cdc42とWASPの相同セグメントとの複合体の解離構造を決定することによって研究されている(Burbelo,P.D.等(1995年)J.Biol.Chem.,270,29071〜29074;Rudolph,M.G.等(1998年)J.Biol.Chem.,273,18067〜18076;Abdul−Manan,N.等(1999年)Nature,399,379〜383)。PAK1のPBD(p21結合ドメイン)とオーバーラップするが完全一致ではない部分は、自己阻害に関与するセグメントである(Zhao,Z.S.等(1998年)Mol.Cell Biol,18,2153〜2163;Lei,M.等(2000年)Cell,102,387〜397)。この自己調節的な領域は、阻害スイッチ、および、キナーゼの自己活性化に干渉するキナーゼ阻害ドメインを含む(Lei,M.等(2000年)Cell 102,387〜397)。自己調節的な領域内の突然変異により、構成的に活性な突然変異体が生じる(上記のZhao,Z.S.等(1998年);上記のLei,M.等(2000年))。哺乳動物細胞におけるPAK1のアミノ酸83〜149(PAK阻害ドメインのPID)を含む自己調節的ドメインの発現は、PAK1を介する下流エフェクターの活性化を妨害する。従って、このPAK阻害剤の、構成的に活性なGTPアーゼCdc42G12V、PAK1のアクチベーターとの共発現により、例えば、末梢のアクチンの微小突起の形成、それに付随するストレスファイバー(通常はこのp21−タンパク質により誘導される)の損失が防がれる(上記のZhao,Z.S.等(1998年))。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年の報告によれば、乳ガン細胞におけるPAK1活性の阻害は、乳ガンの浸潤に関与することがわかっているc−JunのN末端キナーゼ活性における減少、転写因子AP−1のDNA結合活性の阻害、および、インビボでのAP−1プロモーターによって駆動する転写の抑制に関連している(Adam,L.等(2000年)J.Biol.Chem.,275,12041〜12050)。その上、淋病の病原体であるNgoは、低分子量GTPアーゼのRhoファミリーからのシグナルをJNKおよびAP−1活性化に方向付けるPAKを含む細胞性ストレス応答キナーゼのカスケードを介して、前炎症性サイトカインの活性化を誘導する(Naumann,M.等(1998年)J.Exp.Med.,188,1277〜1286)。しかしながら、PAKファミリーキナーゼが、変形性関節症のような関節病において可能性のある役割を有するという報告はない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明の一つの主題は、関節病、特に変性関節病、例えば変形性関節症および/または炎症性関節病、例えばリウマチ様関節炎の治療のための、PAK阻害剤の使用である。また、本PAK阻害剤は、特に、変性関節病における関節痛を減少させることによって関節痛を治療するのに用いることもできる。加えて、PAK阻害剤は、上記で述べたように、関節病を治療するための、および/または、上記のような関節痛を治療するための医薬品を製造するのに用いることができる。
【0014】
本発明に係る用語「阻害剤」は、好ましくは、PAKのセリン/スレオニンキナーゼ活性、または、PAK遺伝子の発現、または、PAKの細胞中での局在化を阻害するか、または、減少させる、生化学的な物質または化学的な物質を意味し、例えば、Kiosses,W.B.等(2002年)Circ.Research,2002年4月5日,697〜702で説明されている。セリン/スレオニンキナーゼ活性は、標準的なプロトコールに従って測定することができ、例えばアプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems,Inc.),フォスターシティー,カリフォルニア州,米国の、HitHunterTMセリン/スレオニンキナーゼ分析を用いて測定することができる。PAK遺伝子の発現は、本発明の実施例で説明されているようなRT−PCTまたはウェスタンブロット解析によって測定することができる。
【0015】
用語「PAK」は、セリン/スレオニンp21活性化キナーゼのファミリーを意味し、例えば、これらに限定されないが、PAK1、PAK2、PAK3および/またはPAK4が挙げられる。これらのタンパク質は、好ましくは、上述のような低分子量のGTP結合タンパク質Cdc42やRacの標的として役立つ。特に、用語「PAK」は、ヒトPAK、特にヒトPAK1を意味する。配列番号1および2は、ヒトPAK1の核酸およびアミノ酸配列をそれぞれ示す。配列番号3、4および5は、ヒトPAK2、3および4のアミノ酸配列をそれぞれ示す。これらのヒトPAKをコードする遺伝子配列は、遺伝子コードを用いることによって容易に誘導することができる。ヒトPAK1、2、3および4の遺伝子バンクの登録番号は、それぞれNP_002567、Q13177、NP_002569およびNP_005875である。非ヒトホモログは、ヒトPAK1、2、3または4の遺伝子配列を用いて、当業者既知の方法で、例えば、標準的な実験方法に従って、例えばヒトPAK配列から誘導された適切なプローブを用いたPCR増幅、または、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション(例えば60℃で2.5×SSC緩衝液、続いて、37℃で、より低い緩衝液濃度中での洗浄工程を数回)によって単離することができる。
【0016】
このようなPAK阻害剤の例は、アミノ酸配列HTIHVGFDAV TGEFTGMPEQ WARLLQTSNI TKSEQKKNPQ AVLDVLEFYN SKKTSNSQKY MSFTDKS(配列番号6)を有するPAK1阻害ドメイン、アミノ酸配列KPPAPPMRNT STM(配列番号7)を有するPAK1ペプチド、アミノ酸配列YGRKKRRQRR RGKPPAPPMR NTSTM(配列番号8)を有するTat−PAK融合ペプチド、PAKに対して、特に、PAKの活性部位に対して向けられた結合タンパク質または結合ペプチド、PAK遺伝子またはPAKそのものに対して向けられた核酸、化学分子、好ましくは低分子物質、および/または、天然産物の抽出物である。
【0017】
本発明に係る用語「化学分子」は、非高分子の有機化合物、脂質、炭水化物、ペプチド、好ましくは、約10〜約80個のアミノ酸、特に10〜25個のアミノ酸を有するペプチド、および、オリゴヌクレオチド、好ましくは約10〜約90個のヌクレオチド、特に15〜25個のヌクレオチドを包含する。特に好ましくは、低分子量の化学分子、特に非高分子の有機化合物であり、これらは、実験室で合成されたか、または自然界で発見されたかのいずれでもよく、好ましい分子量は、約200g/モル〜約1500g/モル、特に400g/モル〜1000g/モルである。
【0018】
あるいは、本発明の阻害剤は、天然産物の抽出物の形態が可能であり、これらは未精製の形態または精製した形態のいずれでもよい。このような抽出物は、水および/またはアルコールおよび/または有機溶媒抽出、および/または、カラムクロマトグラフィー、および/または、動物、植物または微生物源、例えばヘビ毒、葉または微生物の発酵液からの沈殿のような標準的な手法に従って製造することができる。
【0019】
用語「結合タンパク質」または「結合ペプチド」は、PAKに結合し、かつ阻害するタンパク質またはペプチドのクラスを意味し、例えば、これらに限定されないが、PAKに対して向けられたポリクローナルまたはモノクローナル抗体、抗体フラグメント、および、タンパク質の足場、例えばPAKに対して向けられたアンチカリン(anticalin)が挙げられる。
【0020】
抗体または抗体フラグメントの製造手順は、当業者周知の方法に従って、例えば、哺乳動物(例えばウサギ)をPAKで免疫化することによって、必要に応じて、例えば、フロインドアジュバントおよび/または水酸化アルミニウムゲルの存在下で行われる(例えばDiamond,B.A.等(1981年)The New England Journal of Medicine:1344〜1349を参照)。その後、免疫反応の結果として動物中で形成されたポリクローナル抗体は、周知の方法を用いて血液から単離することができ、さらに、例えばカラムクロマトグラフィーによって精製してもよい。モノクローナル抗体は、例えば、WinterおよびMilsteinの既知の方法に従って製造することもできる(Winter,G.およびMilstein,C.(1991年)Nature,349,293〜299)。
【0021】
また、本発明に係る用語「抗体」または「抗体フラグメント」は、組換えによって製造され、必要に応じて改変された、抗体またはそれらの抗原結合部を意味するものとも理解され、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、多機能抗体、二重特異性または多重特異性抗体、一本鎖抗体およびF(ab)、または、F(ab)2フラグメントである(例えば、EP−B1−0368684、US4,816,567、US4,816,397、WO88/01649、WO93/06213、または、WO98/24884を参照)。
【0022】
典型的な抗体の代わりに、例えば、PAKに対するタンパク質の足場を用いることも可能であり、このようなタンパク質としては、例えば、リポカリンに基づくアンチカリン(anticalin)が挙げられる(Beste等(1999年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,1898〜1903)。リポカリン(例えばレチノール結合タンパク質またはビリン結合タンパク質)の天然のリガンド結合部位は、例えば「コンビナトリアルタンパク質設計」アプローチによって改変でき、この方法では、上記結合部位は、選択されたハプテン、ここにおいてはPAKに結合する(Skerra,2000年,Biochim.Biophys.Acta,1482,337〜50)。分子を認識するための抗体の代わりとなるその他の既知のタンパク質の足場がわかっている(Skerra(2000年)J.Mol.Recognit.,13,167〜187)。
【0023】
用語「PAK遺伝子またはPAKそのものに対する核酸」は、例えばPAK遺伝子発現またはPAK活性を阻害する二本鎖または一本鎖DNAまたはRNAを意味し、例えば、これらに限定されないが、アンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(短鎖干渉RNA)およびリボザイムが挙げられる。
【0024】
このような核酸(例えばアンチセンス核酸)は、例えば、ホスホトリエステル方法に従って化学合成できる(例えば、Uhlmann,E.およびPeyman,A.(1990年)Chemical Reviews,90,543〜584を参照)。アプタマーとは、ポリペプチド(ここにおいてはPAK)に高い親和性で結合する核酸である。アプタマーは、SELEXのような選択方法によって、様々な一本鎖RNA分子の大規模なプールから単離することができる(例えば、Jayasena(1999年)Clin.Chem.,45,1628〜50;KlugおよびFamulok(1994年)M.Mol.Biol.Rep.,20,97〜107;US5,582,981を参照)。また、アプタマーは、合成し、それらの鏡像体の形態で(例えばL−リボヌクレオチドとして)選択することもできる(Nolte等(1996年)Nat.Biotechnol.,14,1116〜9;Klussmann等(1996年)Nat.Biotechnol.,14,1112〜5)。この方法で単離された形態は、天然に存在するリボヌクレアーゼによって分解されないため、より大きい安定性を有するという利益を享受する。
【0025】
核酸は、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼによって、特に、細胞中に存在し得るDNアーゼおよびRNアーゼによって分解する可能性もある。従って、核酸を改変して、それらを分解に対して安定化し、それにより長時間にわたり細胞中で高濃度の核酸が維持されるようにすることが有利である(Beigelman等(1995年)Nucleic Acids Res.23:3989〜94;WO95/11910;WO98/37240;WO97/29116)。典型的には、このような安定化は、1またはそれ以上のインターヌクレオチドのリン基を導入すること、または、1またはそれ以上のリン以外のインターヌクレオチドを導入することにより得ることができる。
【0026】
適切な改変されたインターヌクレオチドは、上記のUhlmannおよびPeyman(1990年)によって編纂されている(Beigelman等(1995年)Nucleic Acids Res.23:3989〜94;WO95/11910;WO98/37240;WO97/29116も参照)。本発明に係る使用のいずれか一つで用いることができる核酸中の、改変されたインターヌクレオチドのリン酸基および/または以外の架橋としては、例えば、メチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、ホスホロジチオエート、および/または、リン酸エステルが挙げられ、それに対して、リン以外のインターヌクレオチド類似体としては、例えば、シロキサン架橋、カーボネート架橋、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート架橋、および/または、チオエーテル架橋が挙げられる。また、このような改変の形態は、本発明に係る使用のいずれか一つで用いることができる医薬組成物の耐久性を改善するとも言える。
【0027】
適切なアンチセンス核酸の使用が、例えば、ZhengおよびKemeny(1995年)Clin.Exp.Immunol.,100,380〜2;NellenおよびLichtenstein(1993年)Trends Biochem.Sci.,18,419〜23,Stein(1992年)Leukemia,6,697〜74、または、Yacyshyn,B.R.等(1998年)Gastroenterology,114,1142)でさらに説明されている。
【0028】
遺伝子発現(ここにおいてはPAK遺伝子発現)をダウンレギュレートまたはスイッチオフするプロセスにおけるRNA干渉のためのツールとしての、siRNAの生産および使用が、例えば、Elbashir,S.M.等(2001年)Genes Dev.,15,188、または、Elbashir,S.M.等(2001年)Nature,411,494で説明されている。
【0029】
また、リボザイムは、mRNAに特異的に結合し、切断することができるため、これも核酸(ここではRAK遺伝子)の翻訳を阻害するための適当なツールである。リボザイムは、例えば、Amarzguioui等(1998年)Cell.Mol.Life Sci.,54,1175〜202;Vaish等(1998年)Nucleic Acids Res.,26,5237〜42;Persidis(1997年)Nat.Biotechnol.,15,921〜2、または、CoutureおよびStinchcomb(1996年)Trends Genet.,12,510〜5で説明されている。
【0030】
従って、上述の核酸を、インビボおよびインビトロの両方で、細胞中のPAK遺伝子の発現を阻害する、または減少させるのに用いることができ、その結果、本発明の意味でPAK阻害剤として作用させることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムそれぞれとして使用するには、一本鎖DNAまたはRNAが好ましい。医薬品製造のために、本発明のPAK阻害剤は通常、1種またはそれ以上の製薬上許容できる添加剤または補助剤を用いて製剤化され、このような添加剤または補助剤としては、投与の形態に応じて、例えば生理緩衝溶液、例えば塩化ナトリウム溶液、脱塩水、安定剤、例えばプロテアーゼまたはヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはアプロチニン、ε−アミノカプロン酸もしくはペプスタチンA、または、金属イオン封鎖剤、例えばEDTA、ゲル化剤、例えば白色ワセリン、低粘度パラフィン、および/または、黄色ワックスなどが挙げられる。
【0031】
適切な追加の添加剤としては、例えば、界面活性剤、例えばトリトンX−100、または、デオキシコール酸ナトリウム、それに加えて、ポリオール、例えばポリエチレングリコールまたはグリセロール、糖類、例えばスクロースまたはグルコース、両性イオン性化合物、例えばアミノ酸、例えばグリシン、または、特にタウリンまたはベタイン、および/または、タンパク質、例えばウシまたはヒト血清アルブミンが挙げられる。界面活性剤、ポリオール、および/または、両性イオン性化合物が好ましい。
【0032】
好ましくは、生理緩衝溶液のpHは、約6.0〜8.0、特に約6.8〜7.8、特に約7.4であり、および/または、浸透圧モル濃度は、約200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくは約290〜310ミリオスモル/リットルである。一般的に、本医薬品のpHは、適切な有機または無機緩衝液を用いて、例えば、好ましくは、リン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)、または、MOPS緩衝液(3−モルホリノ−1−プロパンスルホン酸)を用いて調節される。一般的に、それぞれの緩衝液の選択は、望ましい緩衝液のモル濃度に依存する。例えば、注射および輸液には、リン酸緩衝液が適切である。
【0033】
本医薬品は、従来の方式で投与することができ、例えば、経口投薬形態(例えば錠剤またはカプセル)によって、粘膜(例えば鼻または口腔)によって、皮下への埋め込みの形態で、本発明に係る医薬品を含む注射、輸液またはゲルによって投与することができる。さらに、上述のような特定の関節病を治療するために、本医薬品を、場合により、リポソーム複合体の形態で、局所的および局在的に投与することが可能である。その上、治療は、本医薬品の一時的な制御放出を可能にする経皮吸収型製剤(TTS)によって行うことができる。TTSは、例えば、EP0944398A1、EP0916336A1、EP0889723A1、または、EP0852493A1に記載されている。
【0034】
一般的に、体に比較的少量の溶液または懸濁液(例えば約1〜約20ml)だけを投与する場合、注射液が用いられる。一般的に、それより多い量の溶液または懸濁液(例えば1リットルまたはそれ以上)を投与する場合、輸液が用いられる。輸液用溶液に対して、注射液の場合はほんの2〜3ミリリットルしか投与されないため、注射の際の血液または組織内の流体のpHおよび浸透圧とのわずかな差は、痛みの感覚に関して、それ自身重要性を生じないか、または、有意な程の重要性を生じない。それゆえに、一般的に、本発明に係る製剤を使用前に希釈する必要はない。しかしながら、比較的大量を投与する場合、本発明に係る製剤は、投与前に、少なくともほぼ等張の溶液が得られるような程度に、一時的に希釈されると予想される。等張溶液の例は、0.9%濃度の塩化ナトリウム溶液である。輸液の場合、希釈は、例えば滅菌水を用いて行うことができ、一方で、投与は、例えばいわゆるバイパスを経由して行うことができる。
【0035】
上述の核酸は、裸の形態、遺伝子トランスファーベクターの形態、またはリポソームまたは金粒子との複合体の形態で用いることができる。
【0036】
遺伝子トランスファーベクターの例は、ウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクター、または、レトロウイルスベクター(Lindemann等(1997年),Mol.Med.,3,466〜76;Springer等(1988年)Mol.Cell.,2,549〜58)である。リポソームとの複合体は通常、特に皮膚細胞で極めて高効率のトランスフェクションを達成する(AlexanderおよびAkhurst,1995年,Hum.Mol.Genet.4:2279〜85)。リポフェクションにおいて、カチオン脂質で構成される小型の単層の小胞は、リポソーム懸濁液を超音波処理することによって製造される。DNAは、正味の正電荷が残存し、全てのプラスミドDNAがリポソームと複合体形成するような割合で、リポソームの表面にイオン結合する。Felgner,P.L.等(1987年),Proc.Natl.Acad.Sci USA,84,7413〜7414によって用いられているDOTMA(1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−トリメチルアンモニウム臭化物)およびDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)脂質混合物に加えて、これまで、多数の脂質配合物が合成されており、多種多様な細胞系をトランスフェクトする効率に関して試験されている(Behr等(1989年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,6982〜6986;GaoおよびHuang(1991年),Biochim.Biophys.Acta,1189,195〜203;Felgner等(1994年)J.Biol.Chem.,269,2550〜2561)。脂質配合物の例は、DOTAP N−[1−(2,3−ジオレオイロキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムメチルサルフェート、または、DOGS(ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン)である。
【0037】
核酸の細胞へのトランスファーを高める補助剤としては、例えば、核酸が細胞の細胞核に輸送されるようにするDNAに結合するタンパク質もしくはペプチド、または、合成ペプチド−DNA分子が挙げられる(Schwartz等(1999年)Gene Therapy 6:282;Branden等(1999年)Nature Biotech.,17,784)。また、補助剤としては、核酸が細胞の細胞質に放出されるようにする分子も挙げられる(Planck等(1994年)J.Biol.Chem.,269,12918;Kichler等(1997年)Bioconj.Chem.,8,213)、または、例えばリポソーム(上記のUhlmannおよびPeyman(1990年))。
【0038】
その他の特に適した形態は、上述の核酸を金粒子に塗布し、これらの粒子を、いわゆる「ジーンガン」を用いて組織または細胞に発射することにより得ることができる(Wang等(1999年)J.Invest.Dermatol.112:775〜81,Tuting等(1998年)J.Invest.Dermatol.111:183〜8)。
【0039】
本発明のその他の主題は、関節病、特に変性関節病、例えば変形性関節症または炎症性関節病、例えばリウマチ様関節炎を治療するための、および/または、特に、変性関節病における関節痛を減少させることによって関節痛を治療するための、PAK阻害剤を発見するための標的としての、PAKまたはPAK遺伝子の使用である。好ましくは、PAK阻害剤は、上述のような医薬品の形態で用いることができる。
【0040】
従って、本発明はまた、PAK阻害剤をスクリーニングする方法にも言及し、前記方法は:
(a)PAKまたはPAK遺伝子を提供する工程、
(b)試験化合物を提供する工程、および、
(c)PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響を測定または検出する工程、を含む。
【0041】
一般的に、PAKまたはPAK遺伝子は、例えば分析システム中で提供され、試験化合物、特に生化学的または化学的な試験化合物に、例えば化学物質ライブラリーの形態で、直接的にまたは間接的に接触させる。次に、PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響を測定または検出する。その後、適切な阻害剤を解析および/または単離することができる。化学物質ライブラリーのスクリーニングには、当業者既知の、または市販のハイスループット分析の使用が好ましい。
【0042】
本発明に係る用語「化学物質ライブラリー」は、化学合成された分子や天然産物などの複数の源のいずれかより集められた、または、コンビナトリアルケミストリー技術によって生成した複数の化学物質を意味する。
【0043】
一般的に、PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響は、ヘテロジニアスまたはホモジニアスアッセイで測定または検出される。本発明で用いられるように、ヘテロジニアスアッセイは、1またはそれ以上の洗浄工程を含む分析であり、それに対して、ホモジニアスアッセイでは、このような洗浄工程は必要ない。試薬および化合物を混合するだけで測定される。
【0044】
適切な機能分析は、PAKの遺伝子発現、Cdc42、Rac1、Wrch−1またはChpのようなGTPアーゼによるPAKの直接的な活性化、または、活性化(GTP結合型)p21との複合体形成に基づいていてもよい。PAKの阻害剤として試験しようとする生化学的な物質または化学物質の存在下で、遺伝子発現、直接的な活性化、または、例えば上述したような細胞タンパク質のような他のタンパク質との複合体形成は、一般的に当業者既知の手段によって、基準となり得る。一般的に、市販のキナーゼ分析システムは、基質に取り込まれたリン酸塩の量を定量的に検出する。
【0045】
例えば、末梢のアクチンの微小突起形成の予防と、それに付随するストレスファイバーの損失は、上記のZhao,Z.S.等(1998年)で説明されているように測定することができる。
【0046】
ヘテロジニアスアッセイは、例えば、ELISA、DELFIA、SPAおよびフラッシュプレート分析である。
【0047】
ELISA(酵素結合免疫吸着検査法)に基づく分析は、様々な会社から提供されている。この分析は、PAKのようなキナーゼによってリン酸化可能なランダムペプチドを用いている。通常、キナーゼを含むサンプルは、例えばATPと必要なカチオンを含む反応緩衝液に希釈し、次に、プレートのウェルに添加する。単に混合物を除去することによって反応を止める。その後、プレートを洗浄する。例えばビオチン化基質をキナーゼに添加することによって、反応を開始させる。反応後、特異的抗体を添加する。通常、サンプルを、予めブロックされたタンパク質−Gプレートにトランスファーし、洗浄後に、例えばストレプトアビジン−HRPを添加する。その後、未結合のストレプトアビジン−HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を除去し、ペルオキシダーゼ基質の添加によってペルオキシダーゼ染色反応を開始させ、適切なデンシトメーターで光学密度を測定する。
【0048】
DELFIA(解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ)に基づく分析は、固相分析である。通常、その抗体は、ユーロピウムまたはその他のランタニドで標識されており、未結合のユーロピウム標識抗体を洗浄して除いた後に、ユーロピウム蛍光が検出される。
【0049】
通常、SPA(シンチレーション近接分析)、および、フラッシュプレート分析は、放射標識基質を捕捉するためにビオチン/アビジン相互作用を利用している。一般的に、反応混合物は、キナーゼ、ビオチン化ペプチド基質、および、γ−[P33]ATPを含む。反応後に、ビオチン化ペプチドはストレプトアビジンによって捕捉される。SPA検出において、ストレプトアビジンは、シンチラントを含むビーズに結合し、それに対して、フラッシュプレート検出では、ストレプトアビジンは、シンチラントを含むマイクロプレートのウェル内部に結合する。一度固定されれば、放射標識基質は、光の発光を刺激するのに十分な程度にシンチラントに近接する。
【0050】
その代わりとして、ホモジニアスアッセイは、例えば、TR−FRET、FP、ALPHA、および、遺伝子分析である。
【0051】
TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)に基づく分析は、通常、ユーロピウムと、APC、改変されたアロフィコシアニン、または、スペクトルがオーバーラップするその他の色素、例えばCy3/Cy5またはCy5/Cy7との間の蛍光共鳴エネルギーの移動を利用する分析である(Schobel,U.等(1999年)Bioconjugate Chem.10,1107〜1114)。例えば337nmの光によるユーロピウムの励起の後に、分子は、620nmで蛍光を発する。しかしながら、このフルオロフォアがAPCと十分に近接している場合、ユーロピウムは、その励起エネルギーを、665nmで蛍光を発するAPCに移動させると予想される。通常、キナーゼ基質はビオチンで標識された基質である。キナーゼ反応後に、ユーロピウムで標識された(P)特異的抗体を、ストレプトアビジン−APCと共に添加する。リン酸化ペプチドは、ユーロピウムで標識された抗体とストレプトアビジン−APCを近接させて接触させる。APCのユーロピウムフルオロフォアへの近接は、APC蛍光(FRET)によるユーロピウム蛍光の消光を引き起こすと予想される。
【0052】
蛍光偏光(FP)に基づく分析は、偏光を用いて、溶液中で蛍光性の基質ペプチドを励起させる分析である。これらの蛍光性のペプチドは、溶液中で遊離して、崩壊しており、放出された光の偏光解消を引き起こす。しかしながら、基質ペプチドがそれより大きい分子に結合する場合、このような(P)−Tyrは、その崩壊速度は大きく減少し、および、放出された光は高度に偏光したままになる。キナーゼ分析のためには、一般的に2つの選択肢がある:
(a)蛍光ホスホペプチドトレーサーが、(P)−特異的抗体に結合する。リン酸化産物は、抗体からの蛍光ホスホペプチドと競合し、偏光の高から低への変化を引き起こすと予想される。
(b)リン酸化基質ペプチドが、リン酸特異的な抗体に結合し、偏光の低から高への変化を引き起こす。
【0053】
ALPHA(増幅ルミネッセンス近接ホモジニアス)に基づく分析は、リン酸化ペプチドによって近接に運ばれたドナービーズとアクセプタービーズ間の一重項酸素の移動に依存する分析である。680nmでの励起の際、ドナービーズ中の光線感作物質が、雰囲気酸素を一重項状の酸素に変換し、これが、200nmの距離まで拡散する。アクセプタービーズ中の化学発光基は、ビーズ内の蛍光性のアクセプターにエネルギーを移動させ、その結果、約600nmで光を放出する。
【0054】
特に化合物のハイスループットスクリーニングのためには、EFC(酵素断片コンプリメンテーション)に基づく分析、またはそれと同等の分析を用いることができる。EFC分析は、2つのフラグメント、すなわち酵素アクセプター(EA)と酵素ドナー(ED)からなる加工されたβ−ガラクトシダーゼ酵素に基づく。フラグメントが分離されている場合、β−ガラクトシダーゼ活性は生じないが、フラグメントが一緒になると、それらは会合して(補って)、活性酵素を形成する。EFC分析は、ED−分析物結合体を利用しており、ここにおいて、分析物は、抗体または受容体のような特異的結合タンパク質によって認識され得る。特異的結合タンパク質の非存在下では、ED−分析物結合体は、EAを補うことができ、それにより、活性β−ガラクトシダーゼが形成され、陽性の発光シグナルが生産される。ED−分析物結合体が、特異的結合タンパク質によって結合する場合、EAで補うことが阻害され、シグナルは生じない。遊離の分析物が提供される場合(サンプル中に)、特異的結合タンパク質への結合に関して、ED−分析物結合体と競合することが予想される。遊離の分析物は、EAで補うためにED−分析物結合体を放出し、サンプル中に存在する遊離の分析物の量に応じたシグナルを生産すると予想される。
【0055】
遺伝子分析の例は、2ハイブリッドシステム分析である(FieldsおよびStemglanz(1994年)Trends in Genetics,10,286〜292;ColasおよびBrent(1998年)TIBTECH,16,355〜363)。この試験において、細胞は、本発明に係るポリペプチドと、転写因子のDNA−結合ドメイン(例えばGal4またはLexA)からなる融合タンパク質を発現する発現ベクターで形質転換される。形質転換された細胞は加えて、レポーター遺伝子(そのプロモーターは、対応するDNA−結合ドメインのための結合部位を含む)を含む。既知または未知のポリペプチドと、活性化ドメイン(例えばGal4または単純疱疹ウイルス VP16由来)からなる第二の融合タンパク質を発現するその他の発現ベクターで形質転換することによって、第二の融合タンパク質がそのポリペプチドと相互作用する場合、レポーター遺伝子の発現を大きく高めることができる。その結果として、この試験システムは、PAKと、例えばGTPアーゼ、例えばCdc42、Rac1、Wrch−1またはChp、または、活性化された(GTP結合型)p21との相互作用を阻害する生化学的な物質または化学物質のスクリーニングに用いることができる(例えばVidalおよびEndoh(1999年)Trends in Biotechnology,17,374〜81を参照)。この方法によって、関節病を治療するのに用いることができる新規の活性化合物を迅速に同定することが可能である。
【0056】
その代わりに、試験化合物が、タンパク質またはペプチドである場合、この試験化合物と、PAKの存在下におけるPAKのアクチベーターとして、GTPアーゼ、例えばRac1、Wrch−1、Chpまたは構成的に活性なCdc42との共発現を用いて、例えば上記のZhao,Z.S.等(1998年)で説明されているようにして、PAKに対する試験化合物の影響を測定または検出することができる。
【0057】
その他の遺伝子分析の例は、機能分析であり、この場合、キナーゼの活性が、機能的な細胞の反応、例えば増殖、増殖の停止、分化またはアポトーシスに変換される。このタイプのスクリーニングのためには、酵母が、特に適切なモデル系である。例えばPAK1−酵母における機能分析において、グルコースを含む培地で培養した場合、例えばPAK1−酵母細胞は、正常な酵母細胞と同様に増殖する。しかしながら、ガラクトースと接触させた場合、PAK1の細胞内発現が誘導され、酵母細胞に死をもたらす;この場合、PAK1活性を阻害する化合物は、細胞死を防ぐ。
【0058】
その他の分析は、固相結合ポリペプチド、例えばPAK、GTPアーゼ、例えばCdc42、Rac1、Wrch−1もしくはChp、または活性化(GRP結合型)p21、および、試験しようとする化合物での干渉に基づく。従って、試験化合物は、例えば、検出可能なマーカーを含み、例えば、すでに上述したように、化合物を、放射標識、蛍光標識または発光標識することができる。その上、化合物は、タンパク質にカップリングさせることができ、それによって、例えば、クロモジェニック基質を用いるペルオキシダーゼ分析を用いた酵素による触媒作用によって、または、検出可能な抗体の結合によって間接的な検出が可能である。その他の可能性は、マススペクトロメトリーによって固相結合タンパク質複合体を調査することである(SELDI)。試験物質との相互作用の結果としての、例えば上述のPACまたは他方のタンパク質のコンフォメーション変化は、例えば、ポリペプチドの内因性トリプトファン残基の蛍光変化によって検出することができる。
【0059】
また、固相結合ポリペプチドは、アレイの一部であってもよい。このようなアレイを固相化学と光不安定性の保護基を用いて製造する方法が、例えばUS5,744,305に開示されている。これらのアレイはまた、試験化合物または化合物ライブラリーと接触させ
、相互作用、例えば結合またはコンフォメーション変化に関して試験することもできる。
【0060】
その他の本発明の実施形態において、本方法は、細胞全体を用いて行われる。通常、マルチウェルプレートの底部で増殖させた細胞を、固定し、膜透過させ、ブロッキングし、例えば対象の基質に対する一次(P)−特異的抗体とインキュベートする。次に、例えばユーロピウムで標識した、または、HRPに接合させた二次抗体を、例えば上述のような特異的な化学発光物質または比色物質と併せて利用して、シグナルを発生させる。顕微鏡を併用することによって、(P)−特異的抗体の量を単細胞レベルで定量することができ、加えて、リン酸化で誘導された基質の転位、または、細胞の形態学的な変化も定量することができる。
【0061】
有利には、本発明の方法は、ロボットシステムで行われ、このようなシステムとしては、例えば、ロボット式プレーティングや、ロボット利用の液体移動システム、例えば、マイクロフルイディクスを用いた、すなわち流体を導く構造(channelled structured)のシステムが挙げられる。
【0062】
その他の本発明の実施形態において、本方法は、ハイスループットスクリーニングシステムの形態で行われる。このようなシステムにおいて、有利には、スクリーニング方法は自動化され、小型化されており、特に小型化されたウェルを用いており、マイクロフルイディクスはロボット制御される。
【0063】
その他の実施形態において、本発明はまた、関節病、特に変性関節病、例えば変形性関節症または炎症性関節病、例えばリウマチ様関節炎を治療するための医薬品、および/または、特に、変性関節病における関節痛を減少させることによって関節痛を治療するための医薬品を製造する方法にも言及し、本方法は:
(a)請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法を行う工程、
(b)測定または検出された、関節病および/または関節痛を治療するのに適した試験化合物を単離する工程、および、
(c)例えば上述したように、測定または検出された試験化合物を、1種またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤を用いて製剤化する工程、
を含む。
【0064】
以下の図、配列および実施例は、本発明を説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0065】
図1A〜Cは、HEK293細胞の抽出物、および、ヒト一次軟骨細胞におけるPAK1の発現を示す。
【0066】
ヒトHEK293細胞の抽出物、同様に、変形性関節症の患者の軟骨由来の、およびコントロールの軟骨由来のヒト一次軟骨細胞を、二次元ゲル電気泳動によって分離した。ウェスタンブロッティングによってタンパク質をPVDFメンブレンにトランスファーし、特異的抗体によってPAK1を検出した。
【0067】
図2は、ヒトSW1353細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたMMP13の発現を抑制したことを示す。
【0068】
PAK1阻害ドメインを、pCEP4ベクターにサブクローニングし、SW1353細胞にトランスフェクションした。適宜、IL−1βを、濃度10ng/mlで24時間の刺激として用いた。上清を回収し、MMP13タンパク質の量をELISAで決定した。値は任意単位で示し、少なくとも3つの独立した結果±SDを示す。格子縞のカラムは、ベクターpCEP4(空のベクター)を用いた実験を示し、黒いカラムは、ベクターpCEP4_PAK1−1Dを用いた実験を示す。
【0069】
図3は、ヒトSW1353細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたPGE2の発現を抑制したことを示す。
【0070】
PAK1阻害ドメインを、pCEP4ベクターにサブクローニングし、SW1353細胞にトランスフェクションした。IL−1βとTNFαの両方を組み合わせて、濃度10ng/mlで24時間、細胞を刺激した。上清を回収し、MMP13タンパク質の量をELISAで決定した。値(任意単位)は、2回の実験の平均を示す。点描のカラムは、ベクターを用いず、IL−1βとTNFαを用いた実験を示す。格子縞のカラムは、ベクターpCEP4(空のベクター)と、IL−1βおよびTNFαを用いた実験を示す。黒いカラムは、ベクターpCEP4_PAK1−IDと、IL−1βおよびTNFαを用いた実験を示す。
【0071】
図4は、ヒトHEK293細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたIL−8の発現を抑制したことを示す。
【0072】
pCDNA3.1ベクターにサブクローニングされたPAK1阻害ドメインを、HEK293細胞に一時的にトランスフェクションした。細胞を、IL−1βで、濃度10ng/mlで所定時間刺激した。上清を回収し、IL−8タンパク質の量をELISAで決定した。値(任意単位)は、2回の実験の平均を示す。丸は、ベクターpCDNA3.1_PAK1−IDと、IL−1βを用いた実験を示し、四角は、ベクターpCDNA3.1(空のベクター)と、IL−1βを用いた実験を示す。
【0073】
配列の説明
配列番号1は、PAK1の核酸配列を示す。
配列番号2は、PAK1のアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、PAK2のアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、PAK3のアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、PAK4のアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、PAK1阻害ドメイン(PAK1−ID)のアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、上記のKiosses,W.B.(2002年)に記載のPAK1のプロリンリッチな阻害剤の配列のアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、上記のKiosses,W.B.(2002年)に記載のHIV tatタンパク質由来の多塩基性の配列に融合したPAK1のプロリンリッチな配列を含む合成ペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、ヒトPAK1cDNAとマウスPAK1cDNAとの間で保存された配列を標的化するための第一のPCRプライマーを示す。
配列番号10は、ヒトPAK1cDNAとマウスPAK1cDNAとの間で保存された配列を標的化するための第二のPCRプライマーを示す。
配列番号11は、PAK1−IDを増幅するための第一のPCRプライマーを示す。
配列番号12は、PAK1−IDを増幅するための第二のPCRプライマーを示す。
【実施例】
【0074】
1.方法
1.1:逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)
まず、ゲノムDNAによる汚染を防ぐために、トータルRNA(1μg)を、RNアーゼ非含有DNアーゼI(1ユニット)で消化した。次に、DNアーゼIで処理したRNAを、製造元が提供した手順に従って、サーモスクリプト(Thermoscript)逆転写酵素(ライフテクノロジーズ社(Life Technologies))を用いて、オリゴ(dT)20で開始させてcDNAに逆転写させた。ヒトPAK1cDNAとマウスPAK1cDNAとの間で保存された配列を標的とする5’−TGGCTGGAGGCTCCTTGACA−3’(配列番号9)と、5’−GAGGGCTTGGCAATCTTCAGGA−3’(配列番号10)(MWGバイオテク社(MWG,Biotech AG),ドイツ)をプライマーとして用いて、PCRを行った。PCR条件は、エキスパンド・ハイ・フィデリティ(Expand High Fidelity)PCR DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics GmbH),ドイツ)を50μlの反応液あたり2.6ユニットを用いて、95℃/30秒、60℃/30秒、および、72℃/45秒を25サイクルであった。
【0075】
1.2:ベクターコンストラクトの設計
PAK1の自己阻害的ドメインと同定されたPAK1の残基83〜149をコードするポリペプチド(上記のZhao,Z.S.等(1998年))を、PCRで増幅した。増幅に用いられたプライマーは、
5’ATCGCCACCATGTACCCTTATGATGTGCCAGATTATGCCCACACAATTCATGTCGGTTTTG−3’(配列番号11)
(コザック配列は下線で示し、血球凝集素(HA)タグは太字で示した)、および、
5’−ATCTTATGACTTATCTGTAAAGCTCATG−3’(配列番号12)(MWGバイオテク社,ドイツ)であった。PCR条件は、エキスパンド・ハイ・フィデリティPCR DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス社,ドイツ)を50μlの反応液あたり2.6ユニットを用いて、95℃/30秒、60℃/30秒、および、72℃/30秒を25サイクルであった。そのPCR産物を、PCR−TOPO2.1ベクター(インビトロジェン社(Invitrogen GmbH),ドイツ)にサブクローニングした。HAタグを有するPAK1を、哺乳動物pcDNA3.1(インビトロジェン社,ドイツ)のHindIIIおよびXbaI部位に導入した。PAK1−IDを、5’HindIII、および、3’NotI制限部位を介してpCEP4プラスミド(インビトロジェン社,ドイツ)に挿入した。全てのプラスミドは、配列解析で確認された。
【0076】
1.3:細胞培養
ヒトSW1353軟骨肉腫の培養物を、10%ウシ胎仔血清(FCS)とペニシリン/ストレプトマイシン(37℃、5%CO2)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。トランスフェクションのために、6×104/ウェルを一晩培養し、次の日、DNA(2μg)とGenePORTERTMトランスフェクション試薬(ジーン・セラピー・システムズ社(Gene Therapy Systems,Inc.),サンディエゴ,カリフォルニア州,米国)(10μl)でトランスフェクションさせた。3時間後に、20%FCSを含む等量の培地を添加し、一晩インキュベートした。pCEP4ベクター(インビトロジェン社,ドイツ)を用いた過剰発現の場合、トランスフェクションの2日後に、200μg/mlのハイグロマイシンB(インビトロジェン社,ドイツ)を用いて細胞を選択した。トランスフェクション効率を、FACScan(ベクトン・ディッキンソン・イムノサイトメトリー・システムズ社(Becton Dickinson Immunocytometry Systems,Inc.),マウンテンビュー,カリフォルニア州,米国)を用いて、倒立蛍光顕微鏡上で試験した。ほとんどの実験で、60000個の細胞を、35mmの6ウェルプレートの各ウェルにトランスファーした。刺激の前に、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、FCS非含有DMEMで30分間培養した。実験のために、細胞を、10ng/mlのヒトIL−1β(ロシュ・ダイアグノスティックス社,ドイツ)含有または非含有、および、10ng/mlのTNFα(ロシュ・ダイアグノスティックス社,ドイツ)含有または非含有の血清非含有DMEM(1ml)中に24時間置いた。
【0077】
ヒト胎児腎臓(HEK)293を、10%ウシ胎仔血清が追加されたダルベッコ改変イーグル培地中で維持した。トランスフェクション実験のために、トランスフェクションの24時間前に、細胞を、6ウェルの培養皿に5×105細胞/ウェルで植えた。ウェルあたりリポフェクトアミン(R)(ライフテクノロジーズ社,米国)20μlと、トータルDNA5.0μgを含む無血清培地(1.0mL)中で、細胞を4時間インキュベートした(pcDNA3.1−PAK1(83〜149)プラスミドまたはpcDNA.1の空のベクターが、コントロールとして用いられた)。細胞を未処理のままにするか、または、回収期間(16時間)の後、10%ウシ胎児を含む培地中で、インターロイキン−1β(10ng/ml;R&Dシステムズ社(R&D Systems,Inc.),ミネアポリス,ミネソタ州,米国)で刺激した。培養上清を除去し、IL−8(R&Dシステムズ社,ミネアポリス,ミネソタ州,米国)、PGE2(SpiBiom Inc.)、および、MMP−13(アマシャム・ファルマシ・アバイオテク社)の発現を、ELISAで製造元が提供した手順に従ってモニターした。
【0078】
1.4:ウェスタンブロット解析およびELISA
HAタグを有するPAK183-149ペプチドの発現を評価するために、細胞を、完全EDTA非含有プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ・ダイアグノスティックス社,ドイツ)が追加された溶解緩衝液(20mMのMOPS、2mMのEGTA、5mMのEDTA、0,5%ノニデット(Nonidet)P−40(100μl)に溶解させ、タンパク質濃度を、BCAタンパク質分析キット(ピアース・バイオテクノロジー社(Pierce Biotechnology,Inc.),ロックフォード,イリノイ州,米国)を用いて決定した。タンパク質を、PVDFメンブレン(ミリポア社,米国)にトランスファーする前に、4〜12%NuPAGEゲル(インビトロジェン社,ドイツ)によって分離した。
【0079】
変形性関節症に罹った患者の組織由来のヒト一次軟骨細胞、同様に、正常な組織由来のヒト一次軟骨細胞から、タンパク質抽出物を、標準的な技術に従って製造した。PAK1の発現を、タンパク質30μgを用いた二次元ゲル電気泳動と免疫ブロッティングで調査した。二次元ゲル電気泳動には、等電点分画法を、直線状の7cmの固定されたpH3〜10勾配のIPGストリップ(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社(Bio−Rad Laboratories,Inc.),米国)を用いて、タンパク質IEF細胞(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ社,米国)で行った。最終的な焦点合わせの工程は、4000Vで8時間であった。二次元ゲル電気泳動を、NuPAGEノヴェックス4〜12%ZOOMゲル(インビトロジェン社,ドイツ)で行い、タンパク質をPVDFメンブレン(ミリポア社,米国)にトランスファーした。
【0080】
免疫ブロッティングのために、HAタグを有するPAK183-149とPAK1タンパク質を、それぞれHAタグポリクローナル抗体(BDバイオサイエンス・クロンテック(BD Biosciences Clontech),パロアルト,カリフォルニア州,米国)と、αPAK(N−20)ポリクローナル抗体(サンタクルーズ(Santa Cruz))を用いて検出した。簡単に言えば、メンブレンを、TBS−T(5%の無脂肪の粉乳を含む、150mMのNaCl、20mMのトリス、pH7.6、0.1%トゥイーン209)で、室温で1時間ブロックした;1/500希釈したHAタグ抗体または1/50希釈したαPAK(N−20)抗体のいずれかを含むTBS−T中で、室温で1時間インキュベートし、最終的に、1/10000の抗ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗体(ピアース)を含むTBS−T中で、1時間インキュベートした。メンブレンを、ECLを製造元の説明書(アマシャム・ファルマシ・アバイオテク社)に従って用いて加工した。
【0081】
MMP13、IL−8およびPGE2タンパク質レベルを解析するために、細胞培養の上清を、ELISAで、MMP13(アマシャム・ファルマシ・アバイオテク社)、IL−8(R&Dシステムズ社,ミネアポリス,ミネソタ州,米国)およびPGE2(SpiBio)に関して供給元により説明されているようにして決定した。
【0082】
2.結果
2.1:ヒト軟骨肉腫細胞系、および、マウス一次軟骨細胞におけるPAK1発現
RT−PCRを用いて、レチノイン酸で刺激した、または刺激されていないヒトSW1353軟骨細胞系、同様にマウス一次細胞におけるPAK1の発現を解析した。
この実験で得られた結果から、ヒトSW1353軟骨肉腫細胞系、同様にマウス一次軟骨細胞で、PAK1が発現されることがはっきりと実証された。さらなる一連の実験で、RT−PCRを用いて、ヒトCH8軟骨細胞系におけるPAK1の発現を確認した。
また、RNAレベルで示された結果は、PAK1に特異的な抗体を用いたウェスタンブロット解析を用いることによってタンパク質レベルでも確認された(図1)。
総合すると、RNAおよびタンパク質レベルでの結果により、ヒトおよびマウスの、軟骨細胞系および一次軟骨細胞において、PAK1が発現されることが確認された。
【0083】
2.2:IL−1シグナル伝達によるPAK1の阻害ドメイン発現の干渉
MMP13(マトリックスメタロプロテイナーゼ13)は、変形性関節症に関連するタンパク質のIL−1により誘導された発現に関する重要なマーカータンパク質の代表である。IL−1からMMP13発現の誘導をもたらすシグナル伝達のためのPAK1に関する必要条件を研究するために、ヒト軟骨肉腫細胞系SW1353において、PAK1阻害ドメイン(PAK1−ID)を過剰発現させた(図2)。
【0084】
トランスフェクションされた、同様に、トランスフェクションされていないSW1353細胞において、IL−1βへの接触により、MMP13の発現と、培地への放出が大幅に増加した。この実験の結果により、ヒトSW1353軟骨細胞系において、PAK1−IDの過剰発現により、IL−1βにより誘導されたMMP13の発現が約55%まで阻害されることがはっきりと実証された。その上、トランスフェクションされた、同様に、トランスフェクションされていないSW1353細胞において、培地へのMMP13分泌の基底レベルを観察することができた。上記の刺激されていない細胞において、PAK1−IDの発現により、IL−1βにより誘導されたMMP13の発現が、80%を超過して阻害され得る。総合すると、これらの結果より、PAK1が、IL−1βにより誘導されたMMP13の発現に必要であることが確認される。
【0085】
その他の重要なマーカー遺伝子は、プロスタグランジンPGE2である。SW1353細胞におけるPGE2発現の調節を、それぞれPAK1−IDの存在下および非存在下で解析した(図3)。
【0086】
MMP13発現の阻害で観察されたように、これらの結果により、PAK1−IDの過剰発現によるPAK1の阻害は、IL−1βにより誘導されたシグナル伝達経路の顕著なダウンレギュレーションを引き起こすことが確認された。SW1353細胞系において、IL−1βにより誘導されたPGE2の発現は、50%を超えて阻害された。その上、PGE2の調節は、変形性関節症における痛みに関連するプロセスにPAK1が関与することを示す。
【0087】
SW1353細胞におけるそれらの作用に加えて、我々は、さらにヒト胎児腎臓HEK293細胞系においても、PAK1−IDの作用、すなわちその生物学的な阻害剤によるPAK1活性の干渉を調査した(図4)。
【0088】
この実験の結果により、SW1353細胞における研究で得られた発見が確認された。PAK1は、IL−1βにより誘導され、IL−1Rの活性化に始まり、転写因子の活性化を引き起こし、変形性関節症と痛みに関連するマーカー遺伝子の発現、例えばMMP13、IL−8、および、PGE2をアップレギュレーションするシグナル伝達カスケードの調節において、必須の役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】1A〜Cは、HEK293細胞の抽出物、および、ヒト一次軟骨細胞におけるPAK1の発現を示す。
【図2】ヒトSW1353細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたMMP13の発現を抑制したことを示す。
【図3】ヒトSW1353細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたPGE2の発現を抑制したことを示す。
【図4】ヒトHEK293細胞において、PAK1−IDの過剰発現が、IL−1βにより誘導されたIL−8の発現を抑制したことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節病を治療する医薬品を製造するための、p21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤の使用。
【請求項2】
関節病は、変性関節病または炎症性関節病である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
変性関節病は、変形性関節症である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
炎症性関節病は、リウマチ様関節炎である、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
関節痛を治療する医薬品を製造するための、p21活性化キナーゼ(PAK)阻害剤の使用。
【請求項6】
関節痛は、変性関節病に関連する、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
PAKは、PAK1、PAK2、PAK3またはPAK4であり、好ましくはヒトPAK1である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
PAK阻害剤は、アミノ酸配列HTIHVGFDAV TGEFTGMPEQ WARLLQTSNI TKSEQKKNPQ AVLDVLEFYN SKKTSNSQKY MSFTDKS(配列番号6)を有するPAK1阻害ドメイン、アミノ酸配列KPPAPPMRNT STM(配列番号7)を有するPAK1ペプチド、アミノ酸配列YGRKKRRQRR RGKPPAPPMR NTSTM(配列番号8)を有するTat−PAK融合ペプチド、PAKに対して向けられた結合タンパク質または結合ペプチド、PAK遺伝子またはPAKに対して向けられた核酸、化学分子および/または天然産物の抽出物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
結合タンパク質または結合ペプチドは、PAKに対する抗体、抗体の抗原結合部、または、タンパク質の足場、好ましくはアンチカリン(anticalin)である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
核酸は、アンチセンス核酸、アプタマー、siRNAまたはリボザイムである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
関節病または関節痛を治療するための医薬品としてのPAK阻害剤を発見するための標的タンパク質としてのPAKまたはPAK遺伝子の使用。
【請求項12】
PAKまたはPAK遺伝子を、試験化合物に直接的または間接的に接触させ、PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響を測定または検出する、請求項12に記載の使用。
【請求項13】
(a)PAKまたはPAK遺伝子を提供する工程、
(b)試験化合物を提供する工程、および
(c)PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響を測定またはを検出する工程、
を含む、PAK阻害剤をスクリーニングする方法。
【請求項14】
試験化合物は、化学物質ライブラリーの形態で提供される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
PAKまたはPAK遺伝子に対する試験化合物の影響は、ヘテロジニアスまたはホモジニアスアッセイで測定または検出される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
ヘテロジニアスアッセイは、ELISA(酵素結合免疫吸着検査法)、DELFIA(解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ)、SPA(シンチレーション近接分析)、または、フラッシュプレート分析である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ホモジニアスアッセイは、TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)分析、FP(蛍光偏光)分析、ALPHA(増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ法)、EFC(酵素断片コンプリメンテーション)分析、または、遺伝子分析である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
方法は、アレイで行われる、請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
方法は、細胞全体を用いて行われる、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
方法は、ロボットシステムで行われる、請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
方法は、マイクロフルイディクスを用いて行われる、請求項13〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
方法は、PAK阻害剤をハイスループットスクリーニングする方法である、請求項13〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
(a)請求項13〜22のいずれか一項に記載の方法を行う工程、
(b)測定または検出された、関節病および/または関節痛を治療するのに適した試験化合物を単離する工程、および、
(c)測定または検出された試験化合物を、1種またはそれ以上の製薬上許容できるキャリアーまたは補助剤を用いて製剤化する工程、
を含む、関節病および/または関節痛を治療するための医薬品を製造する方法。

【公表番号】特表2007−537134(P2007−537134A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519882(P2006−519882)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007855
【国際公開番号】WO2005/011721
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】