説明

防汚層を備えた反射防止層の成膜方法及び同成膜を行うための成膜装置

【課題】 光学素子の反射防止層上に、光学素子の視認性を損なうことなく、耐久性の優れた防汚層を備えた反射防止層の成膜方法及び同成膜を行うための装置を提供する。
【解決手段】 基材上に反射防止層を成膜し、前記反射防止層上に、厚さ10nm以下のポリテトラフルオロエチレン膜を防汚層としてCVD法により積層することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚層を備えた反射防止層の成膜方法及び同成膜を行うための成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子等の光学素子には反射防止膜が設けられ、この反射防止膜上に更にシラン化合物を塗布又は真空蒸着して防汚層を設けるようにしている(例えば、特許文献1)。
このシラン化合物は、耐久性が決して高いものではないため、その代わりとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を防汚層として設けることが考えられる。しかし、真空蒸着によりPTFE層を成膜しても、緻密な膜が得られず耐久性に問題があることがわかった。
これに対して、特許文献2に開示されるCat−CVD法によりPTFE膜を成膜することが考えられるが、同文献では光学素子の視認性について何も触れられておらず、同文献に開示される方法をもとに、PTFE層を成膜したとしても光学素子の視認性が悪いという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−3817号公報
【特許文献2】特開2007−92166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、光学素子の反射防止層上に、光学素子の視認性を損なうことなく、耐久性の優れた防汚層を備えた反射防止層の成膜方法及び同成膜を行うための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明者等は鋭意検討の結果、反射防止層上にCVD法又はRFスパッタリング法により厚さ10nm以下のPTFE層を成膜すれば光学素子の視認性を損なわずに耐久性の優れた防汚層が得られるという知見に基づき、以下の解決手段を見いだした。
即ち、防汚層を備えた反射防止層の成膜方法は、請求項1に記載の通り、基材上に反射防止層を成膜し、前記反射防止層上に、厚さ10nm以下のポリテトラフルオロエチレン膜を防汚層としてCVD法又はRFスパッタリング法により積層することを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の成膜方法において、前記反射防止層を、Si、Ta、Nb及びTiのうちのいずれか2種をそれぞれ主体とするターゲットを、スパッタリングするとともに酸化した金属酸化層を交互に積層することにより成膜することを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の成膜方法において、前記CVD法は、Cat−CVD法であることを特徴とする。
また、本発明の防汚層を備えた反射防止層の成膜装置は、請求項4に記載の通り、真空チャンバ内に、基材をその周面に保持することが可能な回転ドラムと、前記回転ドラムの周面に対向する位置に配置された、金属層を成膜するための少なくとも2つのスパッタリング装置と、前記金属層を酸化するための酸化装置を備えた反射防止層成膜手段と、チャンバ内に前記基材を支持するための基材ホルダと、前記基材に接触させるための反応ガスを導入するための原料ガス導入装置を備えたCVD法により防汚層を形成するための防汚層成膜手段とを、基材搬送手段により接続し、前記基材搬送手段は、前記反射防止層成膜手段と前記防汚層成膜手段との間において、前記基材を外気と遮断した状態で搬送できるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、光学素子の視認性を悪くすることなく、耐久性に優れた防汚層を反射防止層上に形成することができる。
また、本発明の装置によれば、反射防止層を成膜してから防汚層を成膜するまでの間に、外気と遮断された状態で搬送されるので、防汚層が白濁して視認性を悪化させるようなことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上記の通り、本発明の防汚層を備えた反射防止層の成膜方法は、基材上に反射防止層を成膜し、前記反射防止層上に、ヘキサフルオロポロピレンオキサイドを原料ガスとし、厚さ10nm以下のポリテトラフルオロエチレン膜を防汚層としてCVD法又はRFスパッタリング法により積層するものである。
前記基材としては、特に制限するものではなく、一例として、ガラスやアクリル等の樹脂製の基材を使用することができる。
【0008】
反射防止膜は、無機材料、有機材料の単層又は多層で構成される。無機材料としては、例えば、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ce、Mg、Y、Sn等が挙げられ、これらの酸化物を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0009】
無機材料は、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法等により成膜をすることができる。
有機材料は、真空蒸着法の他、スピンコート法、ディップコート法等により成膜することができる。
【0010】
上記した反射防止層が形成された基材に、本発明では、厚さ10nm以下のポリテトラフルオロエチレン膜をCVD法又はRFスパッタリング法により形成する。これにより、反射防止層を通過する光の透過度の低下を押さえた防汚層を形成することができる。厚さが10nmを超えると、透過率を高めるために反射防止層を設けたにもかかわらず、防汚層により透過率を低めることになるからである。
前記ポリテトラフルオロエチレン膜は、対象となる基材の雰囲気ガスとして、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド等を導入することにより形成することができる。
【0011】
また、ポリテトラフルオロエチレン膜の防汚層は、Si、Ta、Nb及びTiのうちのいずれか2種をそれぞれ主体とするターゲットを、スパッタリングするとともに酸化した金属酸化層を交互に積層することにより形成された反射防止層上に形成することが好ましい。
【0012】
また、前記ポリテトラフルオロエチレン膜は、Cat−CVD法により成膜されることが好ましい。
【0013】
次に、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1に示す装置は、反射防止層成膜手段1、防汚層成膜手段2及び基材搬送手段3から構成された装置であり、同図(a)はその平面図、同図(b)は正面図である。
反射防止層成膜手段1は、真空チャンバ4、その略中央部に設けられた回転自在の円筒ドラム5、ターゲット6をスパッタリングするための第1のスパッタリング装置7、酸化プラズマ源やイオンガン等の酸化源を備えた酸化装置8、他のターゲット9をスパッタリングするための第2のスパッタリング装置10を備えている。尚、円筒ドラム5の周面には、基材11を支持するための基材ホルダ12が設けられている。
第1のスパッタリング装置7は、スパッタリングカソード13、AC電源14、ポンプ等を備えたAr等の反応ガス導入系15及びターゲット6と基材11間を遮断可能に構成されたシャッター16を備えている。
第2のスパッタリング装置10は、スパッタリングカソード17、AC電源18及びポンプ等を備えたAr等の反応ガス導入19系及びターゲット9と基材11間を遮断可能に構成されたシャッター20を備えている。
【0014】
前記反射防止層成膜手段1に隣接して、防汚層成膜手段2が設けられる。この防汚層成膜手段2は、チャンバ21に、原料ガスを導入するための原料ガス導入装置24を備えており、このチャンバ21内において、反射防止層が成膜された基材11に対して、CVD法により、PTFE膜が積層される。
【0015】
そして、反射防止層成膜手段1と、防汚層成膜手段2とは、それぞれ、基材搬送手段3により接続される。この基材搬送手段3は、基材11、或いは、基材11を基材ホルダ12とともに、外気と遮断した状態で搬送できるようにトンネル状に構成される。また、図示した基材搬送手段3の途中には、反射防止層成膜手段1の真空チャンバ4内、防汚層成膜手段2のチャンバ21内から基材11等を取り出すことができるようにロボットアーム(図示しない)を設けた室22が設けられている。更に、前記室22には、外から基材11を出し入れ可能とするための仕込み取り出し室23が接続される。
【0016】
上記装置の構成において、まず、反射防止層成膜手段1の円筒ドラム5に基材11を取り付け、所定の圧力となるまで真空排気を行う。
次に、円筒ドラム5を回転させ、第1のスパッタリング装置7により、反応ガス導入系15から反応ガスを導入し、シャッター16を開き、単原子層程度の金属ターゲットをスパッタリングし、酸化装置8により酸化し、第2のスパッタリング装置10において同様に単原子層程度の金属ターゲットをスパッタリングして、酸化装置8により酸化し、基材11上に金属酸化膜の積層体を反射防止層として形成する。
反射防止層が成膜された基材11は、前記ロボットアームにより、基材11単独又は基材ホルダ12とともに、防汚層成膜手段のチャンバ21内に搬送し、原料ガス導入装置24から原料ガスを導入してCVD法により、基材11にPTFE膜を成膜する。
以上の装置の構成により、反射防止層を成膜してから、その表面を汚染することなく防汚層が成膜できるため、高速に反射防止層及び防汚層の成膜が可能となる。
また、前記基材11の搬送経路は、不活性ガス雰囲気下とすることが好ましく、真空雰囲気下とすることがより好ましい。反射防止層の成膜後に、いったん大気に戻して、次いで防汚層の成膜を行なった場合と、本願発明の反射防止層を成膜して直ちに真空搬送し、防汚層の成膜を行なった場合とを比較すると、防汚層の均一性と緻密性に優れていることが判明したためである。これは、成膜直後の反射防止層表面は化学的に活性な結合に寄与しないダングリングボンドが存在し、防汚層が島状に成長することを抑えられるためと推察される。
【0017】
尚、上記実施の形態においては、防汚層成膜手段2において、CVD法により成膜を行うようにしているが、防汚層成膜手段2内に、ターゲットと基材に高周波を印加してRFスパッタリングを行うようにしてもよい。
尚、上記実施の形態における成膜時の条件としては、特に制限するものではないが、例えば、真空チャンバ1内の真空度は1×10−5Pa〜1×10−3Pa、円筒ドラム5の回転速度は、101rpm〜250rpmの範囲において行うことができる。
また、第1のスパッタリング装置7及び第2のスパッタリング装置10におけるスパッタリングの条件についても、同様に特に制限するものではないが、例えば、電圧を200V〜800V程度の範囲において行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態である防汚層を備えた反射防止層の成膜装置の説明図((a)平面図,(b)正面図)
【符号の説明】
【0019】
1 反射防止層成膜手段
2 防汚層成膜手段
3 基材搬送手段
4 真空チャンバ
5 円筒ドラム
6 ターゲット
7 第1のスパッタリング装置
8 酸化装置
9 他のターゲット
10 第2のスパッタリング装置
11 基材
12 基材ホルダ
13 スパッタリングカソード
14 AC電源
15 反応ガス導入系
16 シャッター
17 スパッタリングカソード
18 AC電源
19 反応ガス導入系
20 シャッター
21 チャンバ
22 室
23 仕込み取り出し室
24 原料ガス導入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に反射防止層を成膜し、前記反射防止層上に、厚さ10nm以下のポリテトラフルオロエチレン膜を防汚層としてCVD法又はRFスパッタリング法により積層することを特徴とする防汚層を備えた反射防止層の成膜方法。
【請求項2】
前記反射防止層を、Si、Ta、Nb及びTiのうちのいずれか2種をそれぞれ主体とするターゲットを、スパッタリングするとともに酸化した金属酸化層を交互に積層することにより成膜することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記CVD法は、Cat−CVD法であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
真空チャンバ内に、基材をその周面に保持することが可能な回転ドラムと、前記回転ドラムの周面に対向する位置に配置された、金属層を成膜するための少なくとも2つのスパッタリング装置と、前記金属層を酸化するための酸化装置を備えた反射防止層成膜手段と、チャンバ内に前記基材を支持するための基材ホルダと、前記基材に接触させるための反応ガスを導入するための原料ガス導入装置を備えたCVD法により防汚層を形成するための防汚層成膜手段とを、基材搬送手段により接続し、前記基材搬送手段は、前記反射防止層成膜手段と前記防汚層成膜手段との間において、前記基材を外気と遮断した状態で搬送できるように構成したことを特徴とする防汚層を備えた反射防止層の成膜装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−275918(P2008−275918A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119860(P2007−119860)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】