説明

防磁シートとその製造方法

【課題】特別な設備を必要とせずに、構造の簡単な成形金型、一般的なプレス機、恒温槽や磁性粉体で高効率、低コスト、高剛性、形状や板厚が自在な防磁シートの提供。
【解決手段】下型と、成形するべき磁性シートの形状に対応したキャビティが設けられ該下型の上面に順に重ねられた第1中間型及び第2中間型と、これらの中間型のキャビティ内に挿入される押圧部を有する成形装置を用い、前記キャビティ内に、磁性粉体とバインダーとを少なくとも含む粉体材料を入れ、次いでキャビティ内の粉体材料をプレスして予備加圧体を作製する予備加圧を行い、次いで、上型を上昇させ、第2中間型を外し、第1中間型の上面を擦り切り面として予備加圧体の上部を擦り切り、次いで予備加圧体を高圧プレスしてシート成形体を作製するプレス成形を行い、次いで該シート成形体を加熱してバインダーを硬化させて防磁シートを得る防磁シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電磁誘導方式による無接点方式電力伝送システムにおいて電力伝送用コイルの防磁用に使用される防磁シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、電気剃刀機、卓上掃除機、リモートコントローラなど、コードレスにした機器(コードレス機器)に内蔵したバッテリーを充電する充電器として、充電器に内蔵した一次コイルと機器に内蔵した二次コイルとを磁気結合した無接点充電式機器が知られている。また、腕時計、電卓等、従来、電池の起電力が低下した場合に電池交換することが一般的であった機器についても、近年では、内蔵バッテリーを無接点方式によって充電する方式のものが出現してきている。この種の無接点充電式機器では、充電器と機器を電気的に接続する接点を設けることなく、一次コイルから二次コイルへの電磁誘導により、充電器から機器に電力を供給することができる。この無接点充電式機器に用いられる送電コイル、受電コイル、電子キーシステム用アンテナコイルなどの、電子機器用コイルとしては、表面に樹脂絶縁層が形成されたもの(樹脂外装付きコイル)を採用することが一般的である(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0003】
前記無接点充電式機器の送電コイルには、外部金属体の影響を遮蔽し、受電コイルへの電送効率を良くするために防磁シートを使用することが求められ、磁気シールド効果の高い新素材の採用が検討されている。
従来、防磁シートに関しては、例えば、特許文献5,6に開示された技術が提案されている。
特許文献5には、少なくとも1種類の軟磁性粒子と、高分子材料と、揮発性溶剤とからなる液状の防磁性組成物を絶縁性支持体の少なくとも一方の表面に塗布することにより得られる防磁性シートが開示されている。
特許文献6には、特殊ニッケル合金防磁板を塩化ビニール系防磁シートで全体を覆い、フックを3か所設けて、それに携帯電話のアンテナを引っかけてアンテナからの電磁波を防磁し、脳、眼球を守る携帯電話の電磁波防磁板が開示されている。
【特許文献1】特開平5−258941号公報
【特許文献2】特開平6−302221号公報
【特許文献3】特開2005−136342号公報
【特許文献4】特開2005−137173号公報
【特許文献5】特開2003−243877号公報
【特許文献6】特開平9−223888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在知られている各種の防磁シートは、剛性が弱いために、前述したように送電コイルと組み合わせた時の特性安定維持が困難であり、また価格も高いという欠点があった。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、特別な設備を必要とせずに、構造の簡単な成形金型、一般的なプレス機、恒温槽や磁性粉体で高効率、低コスト、高剛性、形状や板厚が自在な無接点方式電力伝送コイルとして好適な防磁シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、下型と、成形するべき磁性シートの形状に対応したキャビティが設けられ該下型の上面に順に重ねられた第1中間型及び第2中間型と、これらの中間型のキャビティ内に挿入される押圧部を有し、下型に対して昇降可能に設けられた上型とを有する成形装置を用い、
前記キャビティ内に、磁性粉体とバインダーとを少なくとも含む粉体材料を入れ、
次いで、上型を降下させ、キャビティ内の粉体材料をプレスして予備加圧体を作製する予備加圧を行い、
次いで、上型を上昇させ、第2中間型を外し、第1中間型の上面を擦り切り面として予備加圧体の上部を擦り切り、
次いで、上型を降下させ、予備加圧体を高圧プレスしてシート成形体を作製するプレス成形を行い、
次いで、該シート成形体を加熱してバインダーを硬化させて防磁シートを得ることを特徴とする防磁シートの製造方法を提供する。
【0007】
本発明の防磁シートの製造方法において、前記磁性材料は、Mn−Znフェライトが30〜70質量%、残部が鉄系磁性粉、ニッケル系磁性粉の組成であることが好ましい。
【0008】
本発明の防磁シートの製造方法において、前記バインダーが加熱硬化型エポキシ系樹脂であることが好ましい。
【0009】
本発明の防磁シートの製造方法において、前記予備加圧におけるプレス圧力が50〜200kgの範囲であることが好ましい。
【0010】
本発明の防磁シートの製造方法において、前記プレス成形におけるプレス圧力が20〜100tの範囲であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、前述した本発明に係る防磁シートの製造方法により製造された防磁シートを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特別な設備を必要とせずに、構造の簡単な成形金型、一般的なプレス機、恒温槽や磁性粉体で高効率、低コスト、高剛性、形状や板厚が自在な無接点方式電力伝送コイルとして好適な防磁シートを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1〜図5は、本発明の磁性シートの製造方法の一実施形態を、工程順に示す断面図である。これらの図中、符号1は下型、2は上型、3は第1中間型、4は第2中間型、5は粉体材料、5Aは予備加圧体、6は擦り切り板、7は治具受け板、8はシート受け皿、9はシート成形体である。
【0014】
(使用する成形型)
本実施形態では、図1に示すように、下型1と、成形するべき磁性シートの形状に対応したキャビティが設けられ該下型1の上面に順に重ねられた第1中間型3及び第2中間型4と、これらの中間型3,4のキャビティ内に挿入される押圧部を有し、下型1に対して昇降可能に設けられた上型2とを有する成形装置を用いている。中間型3,4のキャビティ形状及び上型2の押圧部形状を変更することで、円形、楕円形、長丸形、三角形、正方形や長方形などの四辺形、5角以上の多角形などの種々の形状及び厚みを有する磁性シートを製造できる。
【0015】
(粉体材料)
本発明の製造方法において、磁性シートの材料として、磁性粉体とバインダーとを少なくとも含む粉体材料が用いられる。
【0016】
磁性材料としては、フェライト系磁性粉、鉄系磁性粉、ニッケル系磁性粉、コバルト系磁性粉などが挙げられ、これらを1種又は2種以上を混合した磁性粉体を用いることができる。本発明において、好ましい磁性粉体としては、Mn−Znフェライトが30〜70質量%、残部が鉄系磁性粉、ニッケル系磁性粉の組成を持つ磁性粉体が挙げられ、さらにMn−Znフェライトが40〜60質量%、鉄系磁性粉が60〜40質量%の組成のものが好ましい。
【0017】
バインダーとしては、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール樹脂などが挙げられ、特に、加熱硬化型エポキシ系樹脂が好ましい。
このバインダーの配合量は、粉体材料全量の1/20〜1/40質量の範囲、特に1/30質量程度が好ましい。
【0018】
(粉体材料充填工程)
本実施形態において、防磁シートを製造する場合、まず、図1に示すように、成形装置の上型2を上昇させ、第1中間型3及び第2中間型4に設けられたキャビティ内に、前述した粉体材料を適量充填する。粉体材料は、予め十分に混合しておく必要がある。
【0019】
(予備加圧工程)
次に、図2に示すように、上型2をその先端面が第1中間型上面よりも上位にある予備加圧位置まで下降させ、上型2をエアープレスで押し、擦り切り可能な固さの予備加圧体5Aを作製する予備加圧工程を行う。この予備加圧工程のプレス圧力は、50〜200kgの範囲とするのが好ましい。このプレス圧力が前記範囲未満であると、予備加圧体5Aが充分に固化せず、次工程で第2中間型4を外した際に崩れやすくなる。またプレス圧力が前記範囲を超えると、予備加圧体5Aが固くなってしまい、擦り切りが困難になる。
【0020】
(擦り切り工程)
次に、図3に示すように、上型2を上昇させ、さらに第2中間型4を取り外し、第1中間型3の上面を擦り切り面として予備加圧体5Aの上部を擦り切り板6のエッジで擦り切り、所定の厚さに揃える擦り切り工程を行う。
【0021】
(プレス成形工程)
次に、図4に示すように、第1中間型3上に第2中間型4をセットし、上型2を下降させ、予備加圧体5Aを高圧プレスし、成形シート9を作製するプレス成形工程を行う。このプレス成形工程におけるプレス圧力は、直径50mmの防磁シートの場合、20〜100tの範囲が好ましい。このプレス圧力が20t未満であると、得られる防磁シートの透磁率が低下して磁気シールド性能が低下する。一方、プレス圧力が100tを超えると、成形体が型からはみ出し易くなる。
【0022】
(成形シートの離型)
次に、図5に示すように、下型1を外し、第1中間型3の端部を治具受け板7で支持した状態で、エアープレスにセットし、成形シート9を下方に配置したシート受け皿8上に落として離型する。
【0023】
(アニール工程)
次に、前記のように得られた成形シート9を、恒温槽(図示せず)に入れ、加熱することで、バインダーとして加えた樹脂を硬化させるアニール工程を行う。このアニール工程の温度及び処理時間は、バインダーとして使用する樹脂の種類に応じて適宜設定され、前述した加熱硬化型エポキシ系樹脂の場合には、加熱温度100〜180℃の範囲、加熱時間0.5〜2時間程度が好ましい。
【0024】
以上の各工程を経て製造された防磁シートは、高い剛性及び優れた防磁性能を持ち、無接点方式電力伝送コイルとして好適に使用できる。
このように、本発明の製造方法によれば、特別な設備を必要とせずに、構造の簡単な成形金型、一般的なプレス機、恒温槽や磁性粉体を使って、高効率、低コスト、高剛性、形状や板厚が自在な防磁シートを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による防磁シートの製造方法の一実施形態における粉体材料充填工程を示す断面図である。
【図2】同じく予備加圧工程を示す断面図である。
【図3】同じく予備加圧体の擦り切り工程を示す断面図である。
【図4】同じくプレス成形工程を示す断面図である。
【図5】同じく成形シートの離型工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…下型、2…上型、3…第1中間型、4…第2中間型、5…粉体材料、5A…予備加圧体、6…擦り切り板、7…治具受け板、8…シート受け皿、9…シート成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型と、成形するべき磁性シートの形状に対応したキャビティが設けられ該下型の上面に順に重ねられた第1中間型及び第2中間型と、これらの中間型のキャビティ内に挿入される押圧部を有し、下型に対して昇降可能に設けられた上型とを有する成形装置を用い、
前記キャビティ内に、磁性粉体とバインダーとを少なくとも含む粉体材料を入れ、
次いで、上型を降下させ、キャビティ内の粉体材料をプレスして予備加圧体を作製する予備加圧を行い、
次いで、上型を上昇させ、第2中間型を外し、第1中間型の上面を擦り切り面として予備加圧体の上部を擦り切り、
次いで、上型を降下させ、予備加圧体を高圧プレスしてシート成形体を作製するプレス成形を行い、
次いで、該シート成形体を加熱してバインダーを硬化させて防磁シートを得ることを特徴とする防磁シートの製造方法。
【請求項2】
前記磁性材料は、Mn−Znフェライトが30〜70質量%、残部が鉄系磁性粉、ニッケル系磁性粉の組成であることを特徴とする請求項1に記載の防磁シートの製造方法。
【請求項3】
前記バインダーが加熱硬化型エポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防磁シートの製造方法。
【請求項4】
前記予備加圧におけるプレス圧力が50〜200kgの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防磁シートの製造方法。
【請求項5】
前記プレス成形におけるプレス圧力が20〜100tの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防磁シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の防磁シートの製造方法により製造された防磁シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−207365(P2008−207365A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43974(P2007−43974)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(592053952)米沢電線株式会社 (28)
【Fターム(参考)】