説明

陽極接合用ガラス

【課題】 MEMS(マイクロエレクトロニクスメカニカルシステム)などの製造に好適な、シリコンウエハなどと低温で陽極接合が可能なガラスを提供すること。さらに好ましくは低温かつ低電圧で陽極接合が可能なガラスを提供すること。
【解決手段】 酸化物基準のモル%で0.1%〜20%のNaO、0.1%〜50%のPの各成分を含有する陽極接合用ガラス。より好ましくは酸化物基準のモル%で、30%〜90%のSiO、0%〜50%のB、0%〜50%のAlの各成分を含有する請求項1に記載の陽極接合用ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小電気機械素子等に使用されるシリコン等の半導体や金属と陽極接合する場合に有用なガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
陽極接合は、センサまたはアクチュエータ(機械的駆動機構)と、それを駆動する集積回路とが混在する微小電気機械素子において、外部要因から内部を保護するためにシリコンウエハとガラスを接合する方法、前記微小電気機械素子の製造プロセスにおける各種基板とガラス台座を接合する方法、またはシリコンウエハ等のマスク基板とガラスの支持部材を接合する方法として用いられている。
【0003】
陽極接合は一般的にシリコンウエハとガラスとを300℃〜600℃に加熱した状態で電圧を印加し、両者を接合する技術である。ガラスによる封止は高い気密性が得られる点および共有結合による強固な接合が得られる観点から、陽極接合は主にMEMS(マイクロエレクトロニクスメカニカルシステム)の封止技術として利用されている。
近年、MEMSセンサーを搭載する民生用デバイスにおいて、デバイスの小型化が市場の潮流であり要求でもある。そこで、デバイスを小型化するためには、MEMSを小型化もしくは集積化する考えがある。また、集積回路とMEMS装置を混在させ複合化デバイスとする考えもある。しかし、現在の陽極接合では、特に気密封止用途において、陽極接合時の加熱によってMEMS素子が損傷を受ける問題や、陽極接合工程以前に行われるMEMS素子等の接合部位は陽極接合時の加熱に耐えうるものである必要があるために、接合の方法が限定される等の問題がある。従って、MEMS素子の小型化および集積化、集積回路とMEMS素子との複合化は困難である。また、太陽光発電素子においても陽極接合法が用いられ、特に薄膜型太陽光発電素子において250℃以下での接合が求められている。そのため、陽極接合の低温化が期待されている。
一方で、デバイスの低コスト化という市場の要求もある。デバイスを構成するMEMSの製造では、従来の陽極接合の温度に耐えうる設備にする必要があり、製造コストが高くなる問題があった。そのため、陽極接合を低温化する事が期待されている。
低温で陽極接合するためには、高電圧を印可することが有効であるが、高電圧はMEMS素子を損傷させるため、低温で陽極接合を実施することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1には陽極接合用ガラスが開示されているが、加熱温度が最低でも240℃を要している。
【特許文献1】特開2001−72433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は低温で陽極接合が可能なガラスを提供することである。さらに好ましくは低温かつ低電圧で陽極接合が可能なガラスを提供すること、加えて、アルカリ成分の基板表面への析出が少ないガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、特定成分の含有範囲を規定することによって、上記の課題を解決することを見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0007】
(構成1)
酸化物基準のモル%で0.1%〜20%のNaO、0.1%〜50%のPの各成分を含有する陽極接合用ガラス。
(構成2)
酸化物基準のモル%で、
30%〜90%のSiO
0%〜50%のB
0%〜50%のAl
の各成分を含有する構成1に記載の陽極接合用ガラス。
(構成3)
酸化物表示で、MgO、ZnO、BeO、CaO、SrO、BaO、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分を含有し、これらの成分の合計量が酸化物基準のモル%で30%以下である構成1または2に記載の陽極接合用ガラス。
(構成4)
酸化物基準のモル%で、
0%〜20%のMgO、
0%〜20%のZnO
の各成分を含有する構成1から3のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
(構成5)
酸化物基準のモル%で、LiO、KO、RbO、CsOから選ばれる1種以上の成分の合計量が10%以下である構成1から4のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
(構成7)
酸化物基準のモル%で、BeO、CaO、SrO、BaOから選ばれる1種以上の成分の合計量が10%以下である構成1から6のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
(構成8)
酸化物基準のモル%で、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分の合計量が20%以下である構成1から7のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
(構成9)
30℃〜400℃における平均線膨張係数が25×10−7/℃〜70×10−7/℃である構成1から8のいずれかに記載の陽極接合用ガラス
【0008】
本発明においてガラスとはアモルファスガラスおよび結晶化ガラスの両方を含む概念である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガラスによれば、例えば200℃以下の低い温度で陽極接合が可能なガラスを提供することができる。このガラスを用いて陽極接合をすることにより、MEMS素子の熱的損傷を低減することができる。また、MEMS素子等の接着方法の選択肢がより多くなる。製造設備に高い耐熱性を持たせる必要が無くなるので、MEMSデバイスの製造を低コストで行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】陽極接合試験の概要を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガラスを構成する各成分について説明する。なお、特に記載の無い場合、本明細書においては前記各成分は酸化物基準のモル%にて表現する。
ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩、炭酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、この生成酸化物のモル数の総和を100モル%として、ガラス中に含有される各成分の量を表記する。
【0012】
本発明のガラスは 酸化物基準のモル%で、0.1%〜20%のNaO、0.1%〜50%のPの各成分を含有することにより、低温で接合可能な陽極接合用ガラスを提供することができる。
【0013】
NaO成分は陽極接合時の可動イオンとして振る舞い、ガラスを陽極接合に使用可能とする成分であり、必須成分である。NaO成分の含有量が多いほど可動イオンが多くなりシリコンとガラス間の静電気力が強くなるため、300℃よりも低温での陽極接合が可能となる。NaO成分の含有量が0.1%よりも少ないと可動イオンが少なくなってしまい300℃よりも低温での陽極接合が困難となるため、NaO成分の含有量の下限は0.1%が好ましい。上記効果をより得やすくする為にはNaO成分の下限は1%がより好ましく、2%が最も好ましい。
また、NaO成分の含有量が20%よりも多いとガラスの平均線膨張係数が所望の値よりも大きくなってしまうと共に、ガラスが失透してしまう。従って、NaO成分の含有量は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、12%以下が最も好ましい。
【0014】
成分はガラス骨格を形成する成分であり、P成分が含有していると加電圧時に分極しやすくなる。そのため、可動イオンが伝導しやくなり、300℃よりも低温での陽極接合が可能となるので必須成分である。
成分の含有量が0.1%よりも少ないと分極しづらい、300℃よりも低温での陽極接合が困難となるため、P成分の含有量の下限は0.1%が好ましい。上記効果をより得やすくする為にはP成分の下限は1%がより好ましく、2%が最も好ましい。
また、50%よりも多いとガラスの平均線膨張係数が所望の値よりも大きくなってしまうと共に、ガラスが失透してしまう。
従って、P成分の含有量は50%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0015】
このように上記特定の成分を特定量含有させることにより、低温で接合可能かつアルカリ成分の析出が少なく、化学的に安定な陽極接合用ガラスを提供することができる。
【0016】
SiO成分はガラス骨格を形成する成分であり、平均線膨張係数を小さくし、シリコンと同等の平均線膨張係数を得る効果があるので、含有することが好ましい。SiO成分の含有量が30%よりも少ないと平均線膨張係数が所望の値よりも大きくなるとともに化学的耐久性が悪化しやすくなる。従ってSiO成分の含有量は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、55%以上が最も好ましい。
また、SiO成分の含有量が90%よりも多いとガラスの溶融性が悪化する。従って、SiO成分の含有量は90%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、68%が最も好ましい。
【0017】
成分もSiO成分と同様にガラス骨格を形成しうる成分であり、溶融性を向上させ、平均線膨張係数の曲線をシリコンの平均線膨張係数の曲線に近似させる効果がある為、任意で含有できる成分である。しかし、この成分の含有量が50%を超えると化学的耐久性が悪化するとともに失透しやすくなる。従って、B成分の含有量の上限は50%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。
【0018】
Al成分は、ガラス骨格を形成することができ、また、ガラスを安定化し、平均線膨張係数の曲線をシリコンの平均線膨張係数の曲線に近似させるのに有効な成分であり任意で含有させることができる。しかし、Al成分の量が50%よりも多いとガラスが失透してしまうとともに分極しづらくなってしまう。従って、Al成分の含有量は50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下が最も好ましい。
【0019】
また、SiO成分、P成分、B成分、Al成分が安定したガラス骨格を形成する為にはこれらの成分の合量が50%以上であることが好ましく、60%以上であることが好ましく、65%以上であることが最も好ましい。また、これらの成分の合量は99.9%以下であることが好ましい。
【0020】
また、P成分の量に対するSiO成分の量の比は加電圧時の分極性およびガラスの化学的耐久性向上に寄与し、酸化物基準のモル%で表わされたSiO/Pの比の値は、1以上100以下が好ましく、2以上50以下がより好ましく、5以上30以下が最も好ましい。比が1未満になると、ガラスの化学的耐久性が低下する場合がある一 方、比が100を越えると、ガラスが加電圧時に分極しづらくなる場合がある。
【0021】
本発明の陽極接合用ガラスは、酸化物表示で、MgO、ZnO、BeO、CaO、SrO、BaO、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分を含有し、これらの成分の合計量が酸化物基準のモル%で30%以下であることが好ましい。これらの成分はガラスの安定化に寄与する成分であり、これらの成分の合計量を30%以下とする事で、ガラスの失透を効果的に抑制することが可能となる。この効果をより得やすくする為には、前記合計量を20%以下とすることがより好ましく、15%以下とすることが最も好ましい。
【0022】
また酸化物表示で、BeO、CaO、SrO、BaOから選ばれる1種以上の成分は溶融性を向上させるのに有効な成分である。これらの成分の合計量が10%より多いと平均線膨張係数が大きくなると共に体積抵抗率が大きくなり、300℃よりも低温での陽極接合が困難となりやすい。従って前記成分の合計量は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下が最も好ましい。
【0023】
また、酸化物表示で、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分の合計量を20%以下とすることでガラスが安定化し、ガラスの失透を抑制する効果が得やすくなる。したがって、前記成分の合計量は20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0024】
MgO成分はガラスを安定にし、溶融性を向上させる成分であり、任意で含有することができる。ただし含有量が20%より多いと平均線膨張係数が所望の値よりも大きくなるとともに、ガラスが失透しやすくなる。その為MgO成分の含有量は20%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0025】
ZnO成分は溶融性および化学的耐久性を向上させるとともに平均線膨張係数を小さくする効果が大きい成分であり、任意で含有することができる。ただし含有量が20%より多いとガラスが失透しやすくなる。その為ZnO成分の含有量は20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0026】
BeO成分は溶融温度を低くさせやすくする任意で添加できる成分である。ただし含有量が多いと可動イオンが伝導しづらくなるとともに平均線膨張係数が大きくなるため、その含有量の上限は、それぞれ好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0027】
CaO成分は溶融温度を低くさせやすくする任意で添加できる成分である。ただし含有量が多いと可動イオンが伝導しづらくなるとともに熱間成型時の失透性が増大するため、その含有量の上限は、それぞれ好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0028】
SrO成分は溶融温度を低下させやすくする任意で添加できる成分である。ただし添加量が多いと可動イオンが伝導しづらくなるとともに平均線膨張係数が大きくなりやすくなるため、その含有量の上限は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0029】
BaO成分はガラスの分相を抑制しやすくするとともに、溶融温度を低下させやすくする任意で添加できる成分である。ただし添加量が多いと可動イオンが伝導しづらくなるとともに平均線膨張係数が大きくなりやすくなるため、その含有量の上限は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0030】
LiO、KO、RbO、CsOの各成分は、溶融性を向上させる成分であり、任意で含有することができる。ただし、これらの成分の合計量が10%よりも多いとガラスの平均線膨張係数が所望の値より大きくなってしまうと共に可動イオンが伝導しづらくなってしまい、300℃よりも低温での陽極接合が困難となる。従って、これらの成分の合計量は10%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
また、LiO、KO、RbO、CsOの各成分は可動イオンのイオン伝導を阻害する成分なので、これらの成分は実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0031】
LiO、KO、RbO、CsOの各成分は、溶融温度を低下させやすくする成分である。これらの各成分は上記の合量の範囲内で任意に添加することができる。ただし各成分の含有量が多いと可動イオンが伝導しづらくなるとともに平均線膨張係数が大きくなりやすく、化学的耐久性が悪くなることから、その各々の成分の含有量はそれぞれ、好ましくは10%以下、より好ましくは3%以下であり、最も好ましくは含有しないことである。
【0032】
ZrO成分、TiO成分、MnO成分およびFe成分はガラスを安定にする成分であるため任意で含有できるが、これらの各々の成分の含有量が20%を超えると不溶物が発生する為、前記ZrO成分とTiO成分の各々含有量の上限はそれぞれ20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0033】
As成分およびSb成分はガラスの清澄剤として任意で添加できる成分である。ただし多量に加えても清澄効果は大きくならないため、As成分および/またはSb成分の含有量は5%を上限とし、好ましくは3%以下、最も好ましくは1%以下である。
【0034】
しかし、As成分およびSb成分は近年人体や環境への影響を考慮して使用が控えられる傾向にあり、この点においてはこれらの成分はできるだけ含有しないことが好ましい。本発明のガラスにおいては上記清澄剤の代替としてCeO成分および/またはSnO成分を使用できる。これらの成分もAs成分およびSb成分と同様に多量に加えても清澄効果は大きくならないため、CeO成分および/またはSnO成分の含有量は5%を上限とし、好ましくは4%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0035】
PbO成分はガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があり、そのためのコストを要するため、本発明のガラスにPbOを含有させるべきでない。
【0036】
本発明のガラスの平均線膨張係数は、30℃から400℃の範囲において、25×10−7−1〜70×10−7−1の範囲である。より好ましい態様においては30℃から400℃の範囲において、27×10−7−1〜62×10−7−1の範囲の平均線膨張係数を得ることができる。
【0037】
本発明のガラスの製造方法としては、公知の溶融法を用いる事が出来る。すなわち、本発明のガラスが酸化物基準で表わされた組成となるように珪砂、硼酸、酸化アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄、亜砒酸、五酸化アンチモン、酸化錫、酸化セリウム等からなるガラス原料を、石英、アルミナまたは白金などからなる坩堝へ充填する。そして電気炉、ガス炉などの溶融炉で加熱溶融する。本発明のガラスはガラス原料の溶融温度が1600℃以下であり、前記溶融炉での加熱溶融時の温度は1450℃〜1600℃、好ましい態様においては1450℃〜1550℃の温度で溶融することができる。
溶融後、必要に応じ清澄、撹拌を行いガラスを均質化させ、その後成形型に溶融ガラスを流しこみ急冷することによって成形、徐冷炉において徐冷する。
【0038】
本発明の陽極接合用ガラスはガラスの状態であってもシリコンと近似した平均線膨張係数を得られるが、得られたガラスを熱処理し負の平均線膨張係数を有する結晶を析出させることにより、ガラス全体の平均線膨張係数をさらに調整することも可能である。このときの熱処理は500℃〜900℃で1時間〜30時間熱処理し核形成を行い、その後、600℃〜1000℃で1時間〜30時間熱処理し結晶成長を行う。結晶化の熱処理後は緩やかに降温し徐冷する。析出させる結晶は小さい平均線膨張係数を有する点でムライトやコーディエライト、ネフェリンなどが好ましい。シリコンウエハとの熱膨張をより近似させる為には結晶化ガラスの結晶化度はモル%で50%以下が好ましく、47%以下が最も好ましい。また、析出する結晶の平均粒径は50nm〜200nmの範囲が好ましい。アルカリ金属酸化物を多く含有させることにより可動イオンが増加し陽極接合温度の低温化に寄与するが、アルカリ金属酸化物は熱膨張を大きくする成分である。従って、アルカリ金属酸化物の含有量を少なくすることによってガラスの平均線膨張係数を低くし、シリコンウエハと陽極接合用ガラスの熱膨張を近似させようとすると、陽極接合の低温化と相反することとなる。しかし、結晶化ガラスはガラス相の部分でアルカリ金属酸化物の含有量を多くして陽極接合時の低温化を図りつつ、小さい平均線膨張係数を有する結晶を析出させることによって全体として低熱膨張性を得ることが可能となる。
但し、結晶化ガラスは結晶相とガラス相との硬度の違いにより、研磨後の表面に微細な凸凹が生じこの凸凹が原因となって陽極接合後の強度が充分に得られない場合があるため、陽極接合用ガラスとしては結晶化していないガラスであることがより好ましい。また、結晶化していないガラスを陽極接合用ガラスとする場合、結晶を析出させる為の熱処理工程が不要の為、製造コストが少なくてすむ。
【0039】
徐冷を終えたガラスは必要に応じて切断、研削加工を施して所望の形状とすると共に、接合面を研磨することがより好ましい。このときの接合面の表面性状はJIS B0601に規定される算術平均粗さRaで10.0nm以下であることが好ましく、5.0nm以下であることが最も好ましい。
【0040】
また、徐冷炉から取りだしたガラスを粉末状に加工し、バインダー、溶媒等と混合してスラリー化し、その後ドクターブレード法等によりグリーンシートを成形し、グリーンシートを乾燥、焼結して板状の陽極接合用部材を作製する事も可能である。スラリーにはアルミナやコージェライトなどのセラミックス粉末を混合して平均線膨張係数や機械的強度等の物性を調整することも可能である。
【実施例】
【0041】
本発明の陽極接合用ガラスについて、シリコンウエハとの陽極接合試験を実施した。
【0042】
[ガラスの作製]
本発明の実施例について説明する。ガラスが酸化物基準のモル%で表わされた表1〜2に示す組成比となるように珪砂、硼酸、酸化アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄、亜砒酸、五酸化アンチモン、酸化錫、酸化セリウム等からなるガラス原料バッチを調製した。バッチはアルミナまたは白金坩堝へ充填し、電気炉により1400〜1550℃の温度で6〜24時間加熱溶融した。溶融したガラスを板状に成型し徐冷した。作製したガラスについてJOGIS(日本光学硝子工業会規格)16−2003「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」に則り、温度範囲を30℃から400℃の範囲に換えて平均線膨張係数を測定した。測定した平均線膨張係数(α)の値を表1〜2に示す。
【0043】
[ガラスの加工]
接合試験に適した形状のガラスサンプルとする為、作製した板状ガラスから所望サイズの円柱状にくりぬき、スライス加工により所望の厚みのディスク状の基板に切断にして、両面精密研磨機にて研磨を実施した。その後、Zygo社製のNew Viewにてガラスサンプル表面の算術平均粗さRaを測定した。加工後のガラスサンプルの形状、算術平均粗さRaを表1〜2に記載する。
【0044】
[接合試験]
シリコンウエハと作製したガラスサンプルの陽極接合試験を実施した。
シリコンウエハは株式会社フェローテックシリコン社製のホウ素をドープしたP型、シリコン純度は約約99.999996%、方位は(100)±1.0°、比抵抗1〜20Ω・cm、直径は76.5mm、厚さ0.8mmを使用した。
陽極接合は、アユミ工業株式会社のAB40特注品(神奈川県産業技術センター所有)を使用し、図1に示す様にシリコンウエハ側をプラス、ガラス側をマイナスにして温度200℃、直流電圧800Vを10分間印加することで行った。
この時の最大電流値(mA)を表1〜2に記載する。
【0045】
接合試験後、接合の評価をおこなった。評価はシリコンウエハと接合したガラスサンプルの面積をガラスサンプルの片面全体の面積で割った値を接合割合(%)として評価した。接合試験後に暗く変色した領域をシリコンウエハと接合した領域とした。








【0046】
【表1】















【0047】
【表2】

【0048】
表1〜2に示す通り、本発明の陽極接合用ガラスは接合面積が74%〜100%であり、200℃の低温でも良好な接合性を示した。
【0049】
また、実施例1の組成のガラスサンプルについて、接合時の直流電圧を600Vに変更した以外は上記と同様の条件で接合試験をした。その結果接合割合は85%であり、良好な接合結果を得た。
【符号の説明】
【0050】
1 プラス電極
2 ヒーター
3 マイナス電極兼ヒーター
4 シリコンウエハ
5 ガラスサンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%で0.1%〜20%のNaO、0.1%〜50%のPの各成分を含有する陽極接合用ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%で、
30%〜90%のSiO
0%〜50%のB
0%〜50%のAl
の各成分を含有する請求項1に記載の陽極接合用ガラス。
【請求項3】
酸化物表示で、MgO、ZnO、BeO、CaO、SrO、BaO、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分を含有し、これらの成分の合計量が酸化物基準のモル%で30%以下である請求項1または2に記載の陽極接合用ガラス。
【請求項4】
酸化物基準のモル%で、
0%〜20%のMgO、
0%〜20%のZnO
の各成分を含有する請求項1から3のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
【請求項5】
酸化物基準のモル%で、LiO、KO、RbO、CsOから選ばれる1種以上の成分の合計量が10%以下である請求項1から4のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
【請求項6】
酸化物基準のモル%で、BeO、CaO、SrO、BaOから選ばれる1種以上の成分の合計量が10%以下である請求項1から6のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
【請求項7】
酸化物基準のモル%で、ZrO、TiO、MnO、Feから選ばれる1種以上の成分の合計量が20%以下である請求項1から7のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。
【請求項8】
30℃〜400℃における平均線膨張係数が25×10−7/℃〜70×10−7/℃である請求項1から8のいずれかに記載の陽極接合用ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−20894(P2012−20894A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159178(P2010−159178)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】