説明

障壁ステントおよびその使用

本発明は、以下を含む血管ステントに関する:内部区画を規定する拡張可能ステント;該ステントにより規定された内部区画に曝露された第一の重合層であって、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの混合物を含む、第一の層;および、少なくとも一部がステントの外側にある第二の重合層であって、血管表面の接触に適合化され、かつ血管平滑筋細胞遊走に対して実質的に不透過性の孔を特徴とする、第二の層。血管ステントの作製法および使用法も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、新規ステント構築物;血栓症と新生内膜(neointima)形成を予防するための、およびそれによって冠状動脈疾患または血管疾患を治療するための、その使用;ならびに製造法に関する。
【0002】
本出願は、2005年3月9日に出願され、参照により本明細書に全体的に組み入れられる米国仮特許出願第60/659,899号の恩典を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
全世界で毎年150万人を超える患者が、経皮的経管的冠状動脈形成術(「PTCA」)および末梢動脈形成術(「PTA」)を受けている。成功裡の手順であるにもかかわらず、PTCAおよびPTAは未だ、患者の30〜60%で起こる再狭窄によって制限されている(Rajagopal et al., Am. J. Med. 115:547- 553 (2003))。したがって、血管形成術後の再狭窄は、臨床面だけでなく、医療費に対するその影響力に関しても重要である。
【0004】
再狭窄の病理学的機構は、新生内膜形成、弾性収縮(elastic recoil)、および血管の負のリモデリングである(Isner, Circulation 89:2937-2941 (1994); Mintz, Curr. Interv. Cardiol. Rep. 2(4):316-325 (2000); Schwartz et al., Rev. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 5:S4-9 (2002))。血管内ステントの開発によって、弾性収縮および負のリモデリングはどちらも、かなりの程度まで対処に成功している。実際には、臨床試験によって、再狭窄に対する好都合な影響力を有するための最初の機械的介入としてステントが確立された(Rajagopal et al., Am. J. Med. 115:547-553 (2003); Bittl et al., Am. J. Cardiology 70:1533-1539 (1992); Fischman et al., Radiology 148: 699-702 (1983))。従来の血管内ステントは、弾性収縮および血管の負のリモデリングを遮断することができ、それによって再狭窄率が約10%低減されるが、これは新生内膜肥大を阻害することができず、また、ステント内再狭窄をもたらす新生内膜形成を増大させる可能性さえある(Bennett, Heart 89(2):218-224 (2003); Holmes, Jr., Rev. Cardiovasc. Med. 2(3):115-119 (2001); Lowe et al., J. Am. Coll. Cardiol. 39(2):183-193 (2002); Virmani et al., Curr. Opin. Lipidol. 10(6):499-506 (1999); Hanke et al., Herz. 17(5):300-308 (1992))。したがって、血管内ステントの出現は再狭窄の発生率を低減させたが、ステント術を受けた血管の20〜30%において未だ問題が生じる(Rajagopal et al., Am. J. Med. 115:547-553 (2003))。
【0005】
複雑な多細胞事象の結果でありまた新生内膜肥大の原因となる最も重要かつ最終的な細胞事象である新生内膜形成は、血管平滑筋細胞増殖および遊走の結果である(Steele et al., Circ. Res. 57:105-112 (1985); Teirstein et al., Circulation 101:360-365 (2000); Pauletto et al., Clin. Sci 87(5):467-479 (1994); Bauters et al., Prog. Cardiovasc. Dis. 40(2):107-116 (1997); Hanke et al., Eur. Heart J. 16(6):785-793 (1995); Kocher et al., Lab. Invest. 65:459-470 (1991))。バルーン創傷(すなわち血管形成術に由来する)は、血管内皮細胞への損傷をひきおこす。前述の新生内膜形成とは、血管壁および多数の血中の前増殖(pro-proliferative)因子からの応答による、損傷中膜における平滑筋細胞の活性化である(Regan et al., J. Clin. Invest. 106(9):1139-1147 (2000); Aikawa et al., Circulation 96(1):82-90 (1997); Ueda et al., Coron. Artery Dis. 6(1):71-81 (1995); Hanke et al., Circ. Res. 67(3):651-659 (1990))。最初の活性化応答に続いて、血管平滑筋細胞の増殖および内膜への遊走が起こる(Pauletto et al., Clin. Sci. 87(5):467-479 (1994); Bauters et al., Prog. Cardiovasc. Dis. 40(2):107-116 (1997); Hanke et al., Eur. Heart J. 16(6):785-793 (1995); Kocher et al., Lab. Invest. 65:459-470 (1991); Garas et al., Pharmacol. Ther. 92(2-3):165-178 (2001))。ステント術を受けた条件下で、VSMCは、メッシュを通過してステントの内部まで遊走することができる(Bennett, Heart 89(2):218-224 (2003); Holmes, Jr., Rev. Cardiovasc. Med. 2(3): 115-119 (2001); Lowe et al., J. Am. Coll. Cardiol. 39(2):183-193 (2002); Virmani et al., Curr. Opin. Lipidol. 10(6):499-506 (1999); Hanke et al., Herz. 17(5):300-308 (1992))。内膜中のVSMCは倍増して、細胞外マトリクスを合成すると考えられ、これによって新生内膜形成および再狭窄がもたらされる(Hanke et al., Herz. 17(5):300-308 (1992); Pauletto et al., Clin. Sci. 87(5):467-479 (1994); Bauters et al., Prog. Cardiovasc. Dis. 40(2):107-116 (1997); Hanke et al., Eur. Heart J. 16(6):785-793 (1995); Kocher et al., Lab. Invest. 65:459-470 (1991); Garas et al., Pharmacol. Ther. 92(2-3): 165-178 (2001))。アテローム性動脈硬化症の発症におけるVSMC増殖の重大な役割が、多数の基礎研究および臨床研究によって確認されており、ここで、全身的アプローチまたは局所送達アプローチのいずれかによるVSNCの増殖対策が、再狭窄の低減に成功している(Kuchulakanti et al., Drugs 64(21):2379-2388 (2004); Andres et al., Curr. Vase. Pharmacol. 1(1):85-98 (2003); Fattori et al., Lancet 361(9353):247-249 (2003); Cutlip, J. Thromb. Thrombolysis 10(1):89-101 (2000))。
【0006】
血小板活性化、血小板沈着、組織因子の過剰発現、および、血管損傷部位における壁性血栓などの、血栓症に関連する事象は、血管バルーン損傷およびステント埋め込みに対する初期の応答である(Chandrasekar et al., J. Am. Coll. Cardiol. 35(3):555-562 (2000); Conde et al., Catheter Cardiovasc. Interv. 60(2):236-246 (2003); Ischinger, Am. J. Cardiol. 82(5B):25L-28L (1998); Clowes et al., Lab Invest. 39:141-150 (1978))。動脈損傷部位に付着する能力、凝集体を形成する能力、および非常に強力な増殖因子を分泌する能力によって、血小板が、VSMC増殖および再狭窄の発生において重要な役割を果たすであろうことは明らかである。血小板および血栓症を標的とする多くの新規の薬物および送達系が、動物およびヒト両方において再狭窄を低減する(Ischinger, Am. J. Cardiol. 82(5B):25L-28L (1998); Clowes et al., Lab Invest. 39:141-150 (1978))。動脈血栓症を阻害するための新規候補は、血小板付着およびコラーゲンに対する活性化の原因となる血小板特異的細胞表面受容体である、GPVIである。GPVIは、コラーゲン誘導性血小板活性化に関する主な受容体であり、かつシグナル伝達に関する重要なパイプ役であることが、現在認められている(Ichinohe et al., J. Biol Chem. 270(47):28029-28036 (1995); Tsuji et al., J. Biol Chem. 272(28):23528-23531 (1997))。対照的に、血小板におけるその他の主要なコラーゲン受容体であるGPIa-IIaは、主として、伸展(spreading)および細胞-細胞粘着のカチオン依存性プロセスに関係する。
【0007】
血管内皮細胞内皮の生理的機能には以下が含まれる:透過性、血管形成性、および白血球付着性の障壁調節、ならびに、増殖阻害分子の産生。これらの分子は、新生内膜肥大による管腔狭窄の予防に不可欠である。したがって、無傷の内皮は、新生内膜形成を予防する自然の手段であると考えられる。しかし、血管形成術およびステント埋め込みの後、内皮細胞は損傷を受け、かつ/または露出する。内皮の完全性とVSMC増殖の間の逆相関関係は、動物モデルにおいて十分確立されている(Bjorkerud et al., Atherosclerosis 18:235-255 (1973); Fishman et al., Lab Invest. 32:339-351 (1975); Haudenschild et al, Lab Invest. 41:407-418 (1979); Davies et al., Br. Heart J. 60:459-464 (1988))。ヒト動脈における内皮の完全性と新生内膜肥大の関係に関するデータは、限られてはいるが、動物実験の結果と一致する(Schwarcz et al., J Vase Surg. 5:280-288 (1987); Gravanis et al., Circulation 107(21):2635-2637 (2003); Kipshidze et al., J. Am. Coll. Cardiol. 44(4):733-739 (2004))。
【0008】
薬物または内皮細胞接種のいずれかによる内皮再形成(re-endothelialization)の促進は、血管形成術およびステント埋め込みの後の新生内膜増殖を低減することが報告されている(Walter et al., Circulation 110(1):36-45 (2004); Chuter, Cardiovasc. Surg. 10(1):7-13 (2002); Conte et al., Cardiovasc. Res. 53(2):502-511 (2002); Garas et al., Pharmacol. Ther. 92(2-3): 165-178 (2001); Edelman et al.., Am. J. Cardiol. 81, pp. 4E-6E (1998))。
【0009】
再狭窄を阻止するための最初の試みでは、放射線が用いられた。ステント術後に病変内に一時的に留置したまたはステント材料に組み込まれたリボンに、γ線源またはβ線源を塗布した(Schwartz et al., Rev. Cardiovasc. Med. 3 Suppl 5:S4-9 (2002))。このような照射は、実際に、新生内膜形成を阻害した(Mintz, Curr. Interv. Cardiol. Rep. 2(4):316-325 (2000); Bittl et al., Am. J. Cardiology 70: 1533-1539 (1992))が、血管内密封小線源療法は、血栓症のリスクの増大、および、ステントの端部における過形成の刺激(キャンデーの包み効果(candy wrapper effect))という、2つの望ましくない結果を有する。したがって、米国食品医薬品局(「FDA」)は、最初のステント術用ではなく、ステント内再狭窄の治療用としてのみ、そのような装置を認可している。
【0010】
現在、ベアメタルステント(bare-metal stent)(すなわちコーティングステント(coated stent))を取り巻くポリマーコーティングを介して局所的に送達される抗増殖剤が注目を集めている。2種類の広く使用されているコーティングステントが、現在市販されている。第一のものは、2ポリマーコーティング中にシロリムスを含む、バルーンにより拡張可能な(balloon-expandable)ステンレス鋼ステントであり、これはFDAにより2003年4月に認可された。Health Alliance of Greater Cincinnatiは、バイパス手術の10%が薬剤溶出ステントの挿入に置き替わり、直接(straightforward)血管形成手順の15%はステント術に変更され、コーティングステントの使用は再入院を25%低減させると推定している。
【0011】
放射性ステントおよび薬剤溶出ステントの現在の支持率は、大部分が、初期新生内膜増殖の阻害においてベアメタルステントよりもこれらがずっと有効であるという事実によるものである(Leon et al., N. Engl. J. Med. 344:250-256 (2001); Liistro et al., Circulation 105:1883-1886 (2002); Kolodgie et al., Circulation 106:1195-1198 (2002); Morice et al., N. Engl. J. Med. 346:1773-1780 (2002); Waksman et al., J. Am. Coll. Cardiol. 36:65-68 (2000))。両方の場合において、損傷部位におけるVSMC増殖を標的とする戦略は、新生内膜病変形成の低減に成功している。しかし、これらの介入の初期の魅力的な成功は、再狭窄予防のための無差別な抗増殖アプローチの潜在的なマイナス材料を露呈した。実際に、VSMCおよび内皮細胞の非選択的増殖阻害による、内皮再形成の遅延および後期の血栓症の発生(Farb et al., Circulation 103:1912-1919 (2001); Liistro et al., Heart 86:262-264 (2001); Guba et al., Nat. Med. 8:128-135 (2002); Asahara et al., Circulation 91(11):2793-801 (1995))が、放射性ステントおよび薬剤溶出ステントの両方において見出された。したがって、そのようなアプローチは、増殖性応答を予防するのではなく遅延させるだけという可能性があり、長期間にわたる結果は、現時点では未だ定義されていない(Farb et al., Circulation 103:1912-1919 (2001); Liistro et al., Heart 86:262-264 (2001); Guba et al., Nat. Med. 8:128-135 (2002); Asahara et al., Circulation 91(11):2793-801 (1995))。
【0012】
ステントに対する非多孔性外部コーティングの使用は、以前に記載されている(Marin et al., J. Vasc. Interv. Radiol. 7(5):651-656 (1996); Yuan et al., J. Endovasc. Surg. 5(4):349-358 (1998))が、これらのコーティングは内皮細胞遊走を提供せず、他の材料と組み合わせても使用されなかった。
【0013】
動脈の動脈瘤(arterial aneurysm)について現在使用されているステント移植片もステントの外側表面に被覆を有するが、この被覆は、細胞透過性の多孔性材料で作製されている(Palmaz et al., J. Vasc. Interv. Radiol. 7(5):657-63 (1996); Zhang et al., Biomaterials 25(1): 177-87 (2004); Indolfi et al., Trends Cardiovasc. Med. 13(4): 142-8 (2003))。したがって、血管壁のVSMCは、これらの被覆の孔を通過して管腔へと遊走できる。現在、被覆ステントは、内皮再形成を促進するための内層を有さない。
【0014】
したがって、ステント内の内膜新生および血栓症を予防する一方で初期の内皮再形成を促進できる血管ステントが未だに必要とされている。本発明は、当技術分野におけるこれらおよびその他の不備の克服を目的とする。
【発明の開示】
【0015】
発明の概要
本発明の第一の局面は、以下を含む血管ステントに関する:内部区画を規定する拡張可能ステント;該ステントにより規定された内部区画に曝露された第一の重合層であって、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの混合物を含む、第一の層;ならびに、少なくとも一部がステントの外側にある第二の重合層であって、血管表面の接触に適合化され、かつ血管平滑筋細胞(VSMC)に対して実質的に不透過性の孔を特徴とする、第二の層。1つの好ましい態様によると、第二の層は、全細胞に対して実質的に不透過性の孔を有する。別の好ましい態様によると、第二の層は、扁平上皮細胞(squamous epithelial cells)または内皮細胞に対しては透過性であるがVSMCに対しては不透過性の孔を有する。
【0016】
本発明の第二の局面は、人工(prosthetic)移植片の挿入後に患者において新生内膜過形成を予防する方法に関する。本方法は、本発明の第一の局面による血管ステントを提供する段階;および患者の血管部位に血管ステントを挿入する段階を含み、ここで、第二の重合層の材料は、ステント内部での血管平滑筋細胞の遊走を実質的に妨げ、それによって新生内膜過形成を予防する。
【0017】
本発明の第三の局面は、ステント内血栓症を予防する方法に関する。本方法は、以下の段階を含む:本発明の第一の局面による血管ステントを提供する段階であって、第一の重合層が、血栓症を阻害する薬剤を含む、段階;および、患者の血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、第一の重合層からの、血栓症を阻害する薬剤の放出が、血小板の凝集(すなわちステント内の)を実質的に妨げ、それによって、ステント内血栓症を予防する、段階。
【0018】
本発明の第四の局面は、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、卒中、またはその他の血管床疾患を治療する方法に関する。本方法は、以下の段階を含む:本発明の第一の局面による血管ステントを提供する段階;冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、または卒中に関連する症状を示す患者における血管部位で血管形成術を実施する段階;血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、該挿入が、内皮再形成を促進する一方で内膜新生およびステント内血栓症を実質的に妨げ、それによって、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、卒中、またはその他の血管床疾患を治療する段階。
【0019】
本発明の第五の局面は、本発明の血管ステントを作製する方法に関する。本方法は以下の段階によって実施される:内部区画を規定する拡張可能ステントを提供する段階;拡張可能ステントの少なくとも内側表面に、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの組み合わせを含む第一の重合材料を塗布し、それによって、内部区画に曝露された第一の重合層を形成する段階;および、ステントの拡張可能性を維持し、かつ血管平滑筋細胞遊走に対して実質的に不透過性の孔を有する多孔性の第二の重合層を形成する様式で、拡張可能ステントの少なくとも外側表面を第二の重合材料で被覆する段階。
【0020】
好ましくは、本発明の血管ステントは、ほぼ全ての物質の透過を可能にする従来のベアメタルステントの荒い開口構造(coarse open structure)と、ほぼ全ての物質の透過を遮断する堅固な障壁との間を仲介するよう設計された孔を含む、外側コーティングを特徴とする。1つの態様によると、外側コーティングは、水およびタンパク質のような小分子透過性を可能にするが全細胞の透過を遮断する、弾性膜または弾性繊維状の(すなわち織られたまたは織られていない)コーティングである。第2の態様によると、外側コーティングは、高い縦横比および数μmの範囲の幅をもつ孔を有する、弾性繊維のウェブ(web)である。その結果、外側コーティングは、扁平上皮細胞の優先的浸透を助長するのに十分な多孔性を有する。外側コーティングに加えて、本発明の血管ステントは1つまたは複数の薬物送達層を含む。1つの態様によると、薬物送達は、異なる薬物を異なる割合で放出する材料の複合物により起こる。新生内膜形成を阻害するための固有の機構に加えて、この新規ステントは、現在の薬物コーティングステントの恩典を維持している。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、改善された血管ステントおよびその使用に関する。本発明の血管ステントは、(i) 弾性収縮を遮断するように;(ii) ステントの内部区画への血管平滑筋細胞の浸潤を阻害し、一方同時に扁平上皮細胞または内皮細胞の増殖および内部区画への遊走を促進することによって、ステントが挿入される血管部位の内皮再形成を促進するように;ならびに、(iii) ステント内血栓症を阻害するように、設計されている。
【0022】
本発明の血管ステントは、拡張可能ステントを用いて形成される。拡張可能ステントは、任意の適切な構造を有することができるが、好ましくは、任意の適切な手段(例えばバルーン拡張)によるステントのインサイチュー拡張を可能にする、メッシュ構造を有する。中でも、適切なステント材料には、金属およびモノフィラメント重合材料が含まれる。例示的な金属には、ニチノール、金、白金、ステンレス鋼、タンタル合金、コバルトクロム合金、白金/タングステン合金などが含まれるが、これらに限定されない。例示的なモノフィラメント重合材料には、ポリウレタン、ポリエーテルエステル、エチレンコポリマー(例えば、エチレンと酢酸ビニル(EVA)、エチレンとメタクリレート(E-MA)など)、ポリエステル、コポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、およびポリエチレンが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
拡張可能ステントは、内部区画を規定し、内側表面および外側表面を含む。少なくとも内側表面は、ステントによって規定された内部区画に曝露された第一の重合層でコーティングされ、少なくとも外側表面は、第二の重合層でコーティングされている。第一の層は、連続的である(例えば、織られたもしくは織られていないシート、または内側表面全体を被覆する膜)か、不連続的である(例えば、単なるステントメッシュのコーティング)ことができる。1つの態様によると、第二の重合層は、ステントのメッシュ構造の完全に外側である。別の態様によると、第二の重合層は、ステントのメッシュ構造内部に少なくとも部分的に浸透している。好ましくは、第一および第二の層はそれぞれ、生体適合性、生体吸収性、および/または生分解性である。
【0024】
第一の重合層は、以下の最大2つの機能を供給することができる:薬物送達ビヒクルとしての機能;および、ステント内内皮再形成を促進する材料としての機能。ステント内内皮再形成を促進しかつ薬物送達に使用可能である適切な材料には、ヒドロゲル、多孔性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(エチレンテレフタラート)(PET)、脂肪族ポリオキサエステル(aliphatic polyoxaesters)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに制限されない。その薬物送達特性および/または内皮再形成特性を増大させるために、この重合層に任意の追加の添加剤を含めることができる。
【0025】
例示的なヒドロゲルには、アルギネート、カラギーナン、寒天、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸(ポリメタクリル酸)ヒドロキシアルキル(polyhydroxyalky (meth)acrylates)、ポリアルキレンオキシド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびポリグリコール酸-ポリ乳酸コポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
また第一の層には、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの組み合わせを含めることもできる。
【0027】
第一の重合層は、好ましくは、約0.5μm〜約100μm厚であり、より好ましくは、約5μm〜約50μm厚である。薬物送達ビヒクルとして使用する場合、好ましくは、第一の重合層は迅速な薬物放出のために使用され、これは、最大約30日間薬物を送達することができる。
【0028】
第一の重合層は、ステントメッシュの内側表面を主にコーティングすることができ、または代替的に、第一の重合層は、ステント全体をコーティングすることができる(すなわち後述の含浸コーティング)。
【0029】
好ましくは、第二の重合層は、以下の2つの機能を供給する:薬物送達ビヒクルとしての機能、および、血管平滑筋細胞(VSMC)遊走に対する障壁としての機能。(上述の)第二の重合層の物理的な位置にかかわらず、第二の重合層は、血管表面の接触に適合化されており、かつ、VSMC遊走に対して実質的に不透過性の孔を特徴とする。
【0030】
第二の重合層は、好ましくは約0.05〜約0.5mm厚であり、より好ましくは、0.1〜約0.3mm厚である。
【0031】
1つの態様によると、第二の重合層は、全細胞に対して実質的に不透過性の孔を有する。この態様において、水、低分子、およびタンパク質は、第二の重合層を通過することができる。この態様において、孔の平均幅は約100nm〜約5μmであり、より好ましくは、約200nm〜約4μmであり、またはさらに、約250nm〜最大約2μmである。この態様において、孔の形状は、好ましくは実質的に細長く、縦横比は約1.5〜約20、より好ましくは約2.5〜約15である。孔の縦横比とは、孔の長さを孔の幅で割ったものである。
【0032】
別の態様によると、第二の重合層は、扁平上皮細胞または内皮細胞に対しては透過性であるがVSMCに対しては不透過性の孔を有する。VSMCは、典型的には直径約80〜150ミクロンで幅約8ミクロンであるが、一方、内皮細胞は、典型的には直径約20〜110ミクロンで幅約7ミクロンである(Haas et al., Microvasc Res. 53(2):113-120 (1997)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。移動性の内皮細胞またはVSMCの大きさは、細胞骨格再構成のために、これらの範囲から僅かに変動すると考えられる。この態様によると、第二の重合層の孔の平均幅は、約5μm〜約15μmであり、より好ましくは約5μm〜約10μmであり、最も好ましくは約5μm〜約7.5μmである。この態様において、孔の形状は、好ましくは実質的に細長く、縦横比は約1.5〜約20、より好ましくは約2.5〜約15である。
【0033】
第二の重合層の任意の適切な材料または構築物を利用して、所望の効果を達成することができる。例示的なポリマーまたはコポリマーには、ポリウレタン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエーテルエステル(例えばDomique(登録商標))、エチレンコポリマー(例えばEVA、E-MAなど)が含まれるが、これらに限定されない。孔の構造特性または薬物送達特性を増大させるために、重合層に任意の追加の添加剤を含めることができる。例示的な添加剤には、ポリエチレングリコール(PEG)、およびポリ(ビニルアルコール)(PVA)が含まれる。
【0034】
内皮再形成を促進する例示的な薬剤には、血管内皮増殖因子(VEGF)およびその活性断片、アンジオポエチン-1およびその活性断片、ならびにαvβ3アゴニストが含まれるが、これらに限定されない。内皮細胞に対する維持および保護因子であり、かつ透過性、増殖性、および遊走性の因子でもあるので、VEGFは好ましい(Walter et al., Circulation 110(1):36-45 (2004); Chuter, Cardiovasc. Surg. 10(1):7-13 (2002)、これらはそれぞれ、その全体が本明細書において参照により組み入れられる)。内皮特異的な増殖因子であることが示されているので、アンジオポエチン-1は好ましい(Kanda et al., Cancer Res. 65(15):6820-6827 (2005); Koh et al., Exp. Mol. Med. 34(1):1-11 (2002)、これらはそれぞれ、その全体が本明細書において参照により組み入れられる)。
【0035】
血栓症を阻害する例示的な薬剤には以下が含まれるが、これらに限定されない:GPVIアンタゴニスト(モノクローナル抗GPVI抗体および、Fab断片などのその活性一本鎖断片を含む)、どちらもモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはそれらの断片であってよい血小板付着受容体(GPIb-V-IX)または血小板凝集受容体(GPIIb-IIIa)に対するアンタゴニスト(Zhang et al., J. Lab. Clin. Med. 140(2): 119-125 (2002)、これはその全体が本明細書において参照により組み入れられる)、抗トロンビン抗体、活性化プロテインC(Lin et al., J. Vasc. Interv. Radiol. 14(5):603-611 (2003)、これはその全体が本明細書において参照により組み入れられる)、ヘパリン、ピセタノール(piceatannol)およびオキシンドール(oxindole)などのSyk阻害剤(Lai et al., Bioorg Med Chem Lett. 13:3111-3114 (2003)、これはその全体が本明細書において参照により組み入れられる)、PI3-Kp110 βイソ型(Jackson et al., Nature Med. 6:507-514 (2005)、これはその全体が本明細書において参照により組み入れられる)、CD40Lアンタゴニスト(抗CD40L抗体およびその断片を含む)(Prasad et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(21):12367-12371 (2003); Nakamura et al., Rheumatology 45(2):150-156 (2006); Tanne et al., Int. J. Cardiol. 107(3):322-326 (2006)、これらはそれぞれ、その全体が本明細書において参照により組み入れられる)。中でも、GPVIアンタゴニストおよびSyk阻害剤が好ましい。
【0036】
その他のGPVIアンタゴニストを同定するためのアッセイ法には、その全体が本明細書において参照により組み入れられるMoroi et al., Blood 88(6):2081-2092 (1996)に記載のものと類似した定常フローアッセイ法(constant flow assay)、または、その全体が本明細書において参照により組み入れられるMatsuno et al., Br. J. Haematol. 92:960-967 (1996)、および、その全体が本明細書において参照により組み入れられるNakamura et al., J. Biol. Chem. 273(8):4338-4344 (1998)に記載のプレートアッセイ法が含まれる。それぞれの場合において、Mg2+の存在下または非存在下で、候補GPVIアンタゴニストを、反応成分と予めまたは同時にインキュベーションすることができる。Mg2+非存在下での(例えば二価のカチオン非含有付着緩衝液中での)インキュベーションによって、残存コラーゲン依存性の活性が主にGPVI受容体によって媒介されるように、GPIa/IIaの機能が遮断される。
【0037】
上記で明らかにした第一および第二の重合層に加えて、本発明の血管ステントは、また、主に薬物送達ビヒクルとして機能する1つまたは複数の追加の重合層を含むこともできる。該1つまたは複数の追加の重合層は、好ましくは、第一および第二の重合層と異なる送達速度を有する。該1つまたは複数の追加の重合層によって送達される薬物は、内皮再形成を促進する薬剤および/または血栓症を阻害する薬剤と同一であっても異なってもよい。
【0038】
該1つまたは複数の追加の重合層を介して送達できる追加の薬物には以下が含まれるが、これらに限定されない:塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)およびその活性断片、ラパマイシンおよびラパマイシン類似体、パクリタキセル(Taxol(商標))またはTaxan(商標)、アンチセンスデキサメタゾン、アンジオペプチン、Batimistat(商標)、Translast(商標)、Halofuginon(商標)、ニコチン、アセチルサリチル酸(ASA)、Tranilast(商標)、everolimus(商標)、ヒルジン、ステロイド、イブプロフェン、抗菌剤、または抗生物質(例えばアクチノマイシンD)などの抗炎症剤、組織血漿活性化剤、ならびに、転写因子E2F1(Goukassian et al., Circ. Res. 93(2):162-169 (2003)、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)またはCD9阻害剤(例えば、細胞外ループ2(168位〜192位のアミノ酸)を含む、mAb7およびCD9断片などの抗CD9抗体)、IL-10阻害剤、およびPI3K阻害剤(例えば、Calbiochem(San Diego, CA)製のLY294002)、CD40Lアンタゴニスト、PARP1阻害剤(例えば、Calbiochem製のPJ34)(Zhang et al., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 287:H659-666 (2004)、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)などの、VSMC増殖または遊走に影響する薬剤。
【0039】
本明細書の血管ステントの例を、図1に示す。該ステントは、抗血栓剤を単独でまたは内皮再形成を促進する薬剤と組み合わせて含む薬物溶出膜14(すなわち第一の層)でコーティングされた、拡張可能メッシュステント12(例えばPalmaz-Schatz(商標))を含む。コーティング14は、これらの薬物の一方または両方の急速な薬物放出を提供する。2つの外層16および18が提供される。最外層16は、内皮再形成を促進する薬剤(膜14に含まれる薬物と同一または異なる)を含む薬物溶出膜であり、中間層18は、その内部に分解性薬物放出繊維20および22が包埋されているポリウレタン-ポリプロピレングリコール膜である。繊維20は、遅延放出用の内皮再形成を促進する薬剤を含む、単成分繊維または異相構造(bi-component)繊維である。繊維22は、遅延放出用の抗血栓剤を含む、単成分繊維または異相構造繊維である。
【0040】
この態様において、最外層16は、VEGFを含む、ポリウレタン-ポリエチレングリコール(PEG)マトリクスである。内膜の内皮細胞へのVEGFの迅速放出を達成して内側ステント表面上での迅速な内皮再形成を助長するために、この材料を外側ステントコーティング用に使用することができる。繊維20によるVEGFの遅延放出は、ステントを通して内皮再形成を助長する。
【0041】
この態様において、コーティング14は、GPVIアンタゴニストを含むポリウレタン-PEGマトリクスである。ステント金属を薄膜でコーティングして、ステント内血栓症(これは通常、急性の設置の際に起こる)を阻害するためのGPVIアンタゴニストの迅速かつ高濃度の放出を達成するために、この材料を使用することができる。また、長期間にわたるステント内血栓症を阻害するためのGPVIアンタゴニストの遅延放出も、ゆっくりと分解する繊維22内にこの薬剤を配置することによって達成できる。
【0042】
1つの態様によると、外層14および16は、全細胞に対して実質的に不透過性である(すなわち、孔の平均幅が最大で数μmであり、孔の形状が非常に細長い)。別の態様によると、外層14および16は、扁平上皮細胞または内皮細胞に対しては多孔性であるがVSMCに対しては多孔性でない(すなわち、孔の平均幅が最大で約5μm〜10μmであり、孔の形状が非常に細長い)。
【0043】
望ましい薬物溶出速度に応じて、膜、繊維、またはそれらの組み合わせを含む異なる材料から、様々な重合層(すなわち、第一の重合層、第二の重合層、および1つまたは複数の追加の重合層)を形成することができる。一般に、膜は、大量の薬物を投薬するための薬物貯蔵所として機能し、その微細構造を、迅速放出を達成するように設計することができる。繊維を用いて、その生分解中の遅延薬物放出を達成することができる。単成分繊維および異相構造繊維を用いることができるが、該繊維を膜内に包埋することができ、または、織られたまたは織られていない布地中に存在させることができる。単成分繊維は、ゆっくりと不均一に分解する1つのポリマーまたはコポリマーから作製することができる。異相構造繊維は、あるポリマーが繊維シェル内で薬物を含有し、一方で別のポリマーが繊維コア内で同一または異なる薬物を含有するような、コアシェル(core-shell)繊維として作製することができる。大きさの細かい異相構造繊維は大きな表面積を提供するが、これにより、繊維シェルからは薬物が迅速送達されるが繊維コアからは薬物がより遅く送達されることが可能になる。繊維が粗くなるほど、シェルおよびコアからの放出が遅くなる。
【0044】
新規の繊維および技術の出現と共に、生物医学的用途における織物の使用が実質的に増大している。生物医学的織物は全て、天然または合成の繊維から形成されている。これらの織物は、創傷被覆材から、血管インプラントおよび組織工学骨格などの高度先進装置までの範囲にわたる医用製品および装置において使用される(King et al., Can. Textile J. 108(4):24-30 (1991)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。生物医学的適用可能性は、以下の特定の繊維構造に依存する:モノフィラメントかマルチフィラメントか;撚ってあるか編んであるか;ポリマーの種類(天然か合成か);および、性能(分解性か非分解性か)。織物繊維は、ナノスケール範囲の繊維であってもよく、最大でいくつかの直径の範囲内の直径を有する繊維であってもよい。
【0045】
本発明では、最大3つの以下の異なる技術を任意で組み合わせることによって、柔軟な薬物溶出を達成することができる:(1) 分相(phase-separated)ポリウレタンからの溶出;(2) コア-シェル繊維のコアおよび/またはシェルからの溶出;ならびに(3) 表面移植/表面結合(surface-grafted/ bonded)薬物分子からの溶出。
【0046】
分相ポリウレタンからの溶出によって、1週間にわたる初期の薬物送達が可能になる。分相形態を有するポリウレタンは、図2に示すように、薬物の拡散経路における硬いセグメントの干渉により、薬物放出の寿命を増大させる(Kim et al., Internat'l J. Pharm. 201 :29-36 (2000)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。これは、薬物をより早く放出すると考えられる従来の薬物溶出ポリマーによって与えられる拡散プロファイルとは異なる。
【0047】
薬物溶出繊維は、任意の様々なアプローチによって形成できる。例示的なアプローチには、電気紡績(electrospinning)、異相構造繊維(BCF)技術、および溶融吹きつけ(melt-blowing;MB)が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
電気紡績(ES)プロセスでは、ポリマー溶液を細くして10〜1000nmの範囲の直径を有する中実の繊維にするために、強い静電力を使用する。これらの細い繊維によって大きな表面積対体積比が生じるが、これは、織物材料に関する新しいレベルの性能を提供する見込みがある。ナノ繊維の直径は、動作状態の化学的性質、粘度、強度、および均質性に左右される。これらのナノ繊維は、超薄フィルターメンブレン、創傷被覆材用の不織マット、および組織工学用の骨格の製造に使用されている。
【0049】
繊維の直径500〜600nmのESポリウレタン繊維が調製された。ポリ(エチレンオキシド)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、およびポリアミドを含む、数多くのその他のポリマーの電気紡績が成功した(Tsai et al., 16th AFS Annual Technical Conference and Exposition, June 17-20, 2003)。またESは、I型コラーゲンとポリ(ラクチド)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレンオキシド)、およびポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)などの合成ポリマーとから不織マットを産生するためにも使用された。さらに、遺伝子操作されたエラスチン-生体模倣ペプチドポリマーが電子紡績された(Ratner et al., Biomaterials Science 2ed. 89 (2004)、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられている)。
【0050】
単一シリンジに基づくポリマー送達の産生速度が低いことはESの主要な制約の1つであるが、この問題が、本明細書で言及される本適用に対する深刻な制約とは考えられないことに留意することが重要である。これは、小さな対象(ステント)に対しては繊維の薄い被覆しか必要でないためである。本明細書において提供される実施例において、ステントを5分未満で十分にES繊維でコーティングできることが観察された。
【0051】
また、典型的にはコア-シェル構造からなる異相構造繊維(BCF)技術は、薬物送達にも使用された。ハイブリッドBCFフィラメントは、PLAまたはPGAなどの生体吸収性ポリマーのシェル、および、PETなどのより生体吸収性の低いまたは非吸収性のポリマーのコアを有してもよい。または、マルチフィラメント糸が、一緒に垂れた(lopped)または編まれた(braided)生体吸収性および非吸収性のフィラメントを有してもよい。この技術は、非吸収性ポリマーの曝露を遅延させることによって治癒プロセスを制御することを可能にする(Ratner et al., Biomaterials Science 2ed. 91 (2004)、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0052】
25年を上回る期間、2つ以上のポリマータイプ(ナイロンとポリエステル、ポリプロピレンとポリエチレンなど)を有する異相構造繊維は、コア/さや(sheath)構造、並列構造、または切り分けたパイ(segmented pie)構造と共に溶融紡糸されてきた(Zhao et al. J. Applied Polymer Science 85:2885-2889 (2002); Zhao et al., Polymer Engineering and Science 43(2):463-469 (2003); Zhao et al., Polymer International 52(1):133-137 (2003); Zhou et al., J. Applied Polymer Science 89:1145-1150 (2003)、これらは、それぞれ全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0053】
溶融吹きつけ(melt blowing;MB)プロセスによって、熱可塑性のポリマーからウェブが産生される(Wente, Ind. Eng. Chem., 48:1342-1346 (1956), Buntinに付与された米国特許第3,972,759号, Buntinらに付与された米国特許第3,849,241号, Wadsworth et al., INDA J. Nonwovens Res. 2(1):43-48 (1990)、これらは、それぞれ全体が参照により本明細書に組み入れられる)。MBプロセスは、上述のタイプの異相構造繊維の使用と互換性がある。一段階MBプロセスの最も注目に値する利点とは、直径約1〜9μmのマイクロファイバーからなるウェブを高速で作製できることである。MB PUウェブの弾性は、血管壁に対するステントの構造を考慮している。この特徴は、ステントケージ(stent cage)のメッシュと血管との間のより良好な付着を達成するのに有用でありうる。
【0054】
薬物が繊維のコア内に存在し、薬物が溶出される前にシェルが実質的に分解されるので、BCF技術は遅延薬物放出を可能にする。電気紡績によって、繊維の直径を分布させることができ、これによって、図3に示す放出プロファイルがもたらされる。
【0055】
第三の技術である表面が移植/結合された薬物によって、フィブリングルー(fibrin glue)によってまたはポリウレタン表面への移植によってステントのコーティングに付着した定常的な低レベルの化学的シグナルが生じる(図3)。
【0056】
本発明の血管ステントは、いくつかの加工段階を用いて調製することができる。
【0057】
第一の段階において、第一の重合材料を、拡張可能ステントの少なくとも内側表面に塗布することができ、それによって、ステントの内部区画に曝露された第一の重合層が形成される。第一の重合材料には、(上述の)ポリマー成分、および、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの組み合わせが含まれる。ポリマー材料の硬化は、その後の段階に進む前に完了できるまたは部分的に完了できる。
【0058】
好ましいアプローチによると、拡張可能メッシュステントは、第一の重合層を形成する原薬-ポリマー溶液で含浸コーティングまたは噴霧コーティングされる。含浸コーティングによって、ステントの内側表面だけでなく、メッシュステント全体がコーティングされる。噴霧コーティングの様式に応じて、噴霧は、主に内側表面を、またはステント全体を被覆することができる。
【0059】
第二の段階において、拡張可能ステントの少なくとも外側表面を、ステントの拡張可能性を維持しかつ血管平滑筋細胞遊走に対して実質的に不透過性の孔を有する多孔性の層を形成する様式で、第二の重合材料によって被覆し、それにより第二の重合層を形成する。拡張可能性を維持するために、ステントを、被覆段階の前に拡張させることができる。
【0060】
被覆段階の手順の例には以下が含まれるが、これらに限定されない:折りたたまれバルーン拡張されたステントの円周の周りへの熱可塑性ポリマーフィラメントの微量押し出し(micro-extrusion);ステントの周りのナノファイバーの電気紡績(ES);細いフィラメントおよびナノファイバーの層(すなわち複合物)内へのステントの設置(encasement);ならびに、ステントの周りへのマイクロファイバーの溶融吹きつけ。布地へ組み込まれる任意の薬物を、ステント被覆の製造の前に組み込むことができる。
【0061】
第二の重合層の多孔性を、被覆手順の際に制御することができる。特に、孔径および孔の形状の両方を、加工の間に制御することができる。繊維の直径、ウェブの基本重量、および収集器の動きを変動させることによって、孔径を制御することができる。ダイ-収集器間距離(die-to-collector distance;DCD)および一次送気量(primary airflow rate)を操作することによって、孔の形状を制御することができる(Bresee et al., Internat'l Nonwovens J. 13(1):49-55 (2004); Bresee et al., Internat'l Nonwovens J. 14(2):11-18 (2005))。DCDの調整および一次送気量によって、孔の縦横比が制御される。
【0062】
第二の重合層による被覆の前に、任意の中間層を、すなわち拡張可能メッシュステントと第二の重合層の間に、塗布することができる。上述の好ましい態様で記載したように、すなわち、ポリマー繊維と共に包埋した重合膜を用いて、膜を前述のステント層に噴霧、はけ塗り、またはローラー塗りすることによって、これらの材料を塗布することができる。
【0063】
使用の際、ステントは、ステントの拡張を可能にするための、例えばバルーンカテーテルを用いて患者の血管に挿入される。拡張されたら、器具が血管から抜かれるのでステントは留置され、外科的切開部が閉じられる。典型的には、これは血管形成術の後に実行される。
【0064】
患者は、典型的には、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、または卒中に関連する症状を示す患者であり、この場合には医療行為が正当化されている。患者は任意の動物であってよく、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ラマ、またはバイソンである。
【0065】
ステントの挿入前に、第一の層の内部表面(すなわち、ステント管腔)に内皮細胞、好ましくは治療対象の患者から直接採取した内皮細胞を接種することも可能である。ステントの接種はさらに、内皮再形成を促進できる。
【0066】
本発明のステントを使用した結果として、本発明のステントは、従来のメッシュステントに対してステント内血栓症を低減でき、(実質的にステント内部へのVSMCの遊走を妨げることによって)従来のメッシュステントに対してステント内新生内膜過形成および再狭窄を低減できる。これらの理由のため、本発明の血管ステントは、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、または卒中の長期治療における血管ステントの高い成功率をもたらすと考えられる。
【0067】
実施例
以下で考察した実施例は本発明を説明することを意図しており、決して、請求される主題を制限することを意図するものではない。
【0068】
実施例1 - 従来のステントと、細胞に対して不透過性の外側ポリエチレン層を有するステントの比較
試作障壁ステントは、本発明者らの依頼により、Scientific Commodity, Inc.によって、全細胞に対して不透過性の外側ポリエチレン層を用いて、調製された。これらの試作ステントを、インビボにおいて、従来のメッシュステントと比較した。
【0069】
本発明者らの以前の研究で記載したように、ラット頸動脈のバルーン血管形成術を実施した(Hamuro et al., J. Vasc. Interv. Radiol. 12(5):607-611 (2001)、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。血管形成術の直後に、損傷した頸動脈内にステントを埋め込んだ。ステント埋め込みの直後(0日目)ならびに14日後および28日後にラットを屠殺し、組織学的分析のために、ステント挿入されたセグメントを単離した。図4に示すように、試作(新規)ステントを有する頸動脈内の管腔領域は、従来のステントを有するものよりも大きい。これらの結果により、細胞不透過性の層の使用によって、血管形成術後の管腔領域が増大することが示唆された。
【0070】
その後、画像解析システムを用いて、ステント内部の新生内膜形成を測定した。図5に示すように、試作ステント内部の新生内膜形成は、従来のメッシュステント内部よりも有意に小さかった。したがって、細胞不透過性の試作ステントは、血管形成術後のステント内部の新生内膜形成を低減する。
【0071】
図6A〜図6Bは、従来のメッシュステントおよび試作ステントで処置されたラットに由来する、ラット頸動脈のヘマトキシリン-エオシン染色切片の代表的な顕微鏡写真を示す。試作ステント内部には非常に小さな新生内膜形成しか存在しないが、従来のステント内部の新生内膜形成は巨大である。したがって、試作ステントで処置した頸動脈における管腔領域は、従来のメッシュステントで処置したものよりもずっと大きい(図4)。
【0072】
総合すると、これらの結果から、VSMC細胞に対して不透過性の試作ステントが新生内膜内殖(neointimal ingrowth)および再狭窄の予防または減少に有用でありうることが示唆される。
【0073】
実施例2 - 外側コーティング材料の合成および評価
外側ステントコーティング用のポリウレタンの選択は、生体適合性に基づく(Brown, J. Intraveneous Nursing 18:120-122 (1995); Szycher et al., Medical Devices Technol. 3:42-51 (1992); Jeschke et al., J. Vascular Srg. 29:168-176 (1999)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0074】
ポリウレタンは、分子鎖内の硬いおよび柔らかいセグメントからなるポリマーである。ポリウレタンの形態は、柔らかいセグメントのマトリクス内に分散した、硬いセグメントの凝集、すなわち剛性ドメインに特徴づけられる。相分離は、硬いセグメントと柔らかいセグメントの間の化学的な違いによる。ポリウレタンの化学的性質により、反応性中間体である、ジイソシアネート、柔らかいセグメント、および鎖カプラー(chain coupler)の適切な選択を通して、数多くの用途に合わせるための特性の調整が可能になる。ポリウレタンエラストマーは、低圧条件下で弾性挙動を示す。硬いセグメントの濃度が低くなるとより大きな弾性挙動が生じるが、一方で、硬いセグメントの濃度が高くなると塑性変形が観察される。同様に、硬いセグメントの濃度が増大すると、より大きな硬さとより良好な圧力耐性が得られるが、付着耐性は低下する(Szycher et al., Medical Devices Technol. 3:42-51 (1992)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。所与のジイソシアネートおよびカプラーについて、機械的特性(Benson et al., J. Polymer Sci. Polymer Chem. 26:1393-1404 (1988)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)および血液適合性(hemocompatibility)は、柔らかいセグメントの分子量に直接関係する(Lyman et al., Trans. Amer. Soc. Artif. Inter. Organs 21:49 (1975)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。生物医学的用途において使用されるポリウレタンは、ポリエーテルまたはポリエステルの柔らかいセグメントを基礎としている。ポリエーテルの柔らかいセグメントを基礎とするポリウレタンは一般に、その加水分解安定性のために、移植可能装置に使用される。
【0075】
様々なポリウレタンエラストマーを合成することができる。例えば、ポリウレタンは、メチレンジイソシアネート(MDI)、MDIに関連しない脂肪族化合物、ポリエーテルの柔らかいセグメント(ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、およびポリエチレングリコール(PEG))、および鎖カプラー(1,4-ブタンジオールおよびエチレンジアミン)を基礎としてもよい。所望の範囲で変動するよう設計された特性を有する材料を得るため、異なる分子量(2000、1000、および700)を有する3種類の柔らかいセグメントを合成において使用することができる。二段階重合法によって合成を実施することができる(Lyman, J. Polymer Sci. 45:49 (1960); Conjeevaram et al., J. Polymer Sci. Polymer Chem. 23:429-444 (1984)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0076】
PEGを基礎とするポリウレタンは、最も吸収性の低いポリマーコーティングよりも、本質的に高い親水性を有する。水性(waterborne)ポリウレタンを基礎とする連続的な親水性コーティングによって、メンブレンを通過する水の迅速な拡散が可能になる。これらの親水性をより高めるために、コーティングに最大40%のポリ(エチレングリコール)(PEG)を組み入れてもよい。
【0077】
ポリウレタン(PU)は、それらの加工可能性ならびに、ステント挿入に必要な関連する機械的、化学的、および障壁の特性、ならびに挿入後の寿命の点で、評価されるべきである。機械的試験によって、引張強度および破壊ひずみに関する情報が提供される。耐摩耗性および耐薬品性などの追加の試験もまた、様々な加工材料形状である不織布、マイクロファイバー、ナノファイバーウェブ、および電気紡績ウェブに対して行われる。
【0078】
所望の組織の成長を促進するため、血流を促進するため、および十分な耐久性を示すためのステント材料としての使用について、ポリウレタン材料を包括的に評価することができる。これらの材料は、水性分散剤から、有機溶媒から、または、熱押し出し膜(thermally extruded film)として、もしくは繊維として適用されるため、血液適合性に加えて、加工柔軟性も提供する。
【0079】
溶融吹きつけされたポリウレタン布地コーティング
溶融吹きつけされた熱可塑性ポリウレタン(Noveon Estane 58245、ポリエーテルTPU)マイクロファイバーを、手動で回転させた拡大(12mm)金属ステント表面に堆積させた。ステント布地の孔径およびその他の特徴の分析を、拡大12mmステントについて、および、可能な限り同じ加工条件で収集した平面布地について行った。
【0080】
加工条件は以下を含んだ:425°F(218℃)〜450°F(232℃)のダイ温度;450°F(232℃)〜500°F(260℃)の熱風温度(hot air temperature);直線1インチあたり25個の紡糸口金を備えた、孔径15ミルの60°のノーズチップ;各エアナイフの外側縁部から30ミルのダイチップセットバック(die tip setback);各エアナイフの内側平面とノーズチップとの間の、30ミルのエアナイフギャップ;0.2〜0.4 g/孔/minのポリマー通過速度;および、ダイ幅1インチあたり約120 scfmの熱風流量(hot air flow rate)。MB繊維は、手動回転されたステントのマンドレル表面または、平面ウェブ試料を作製するためのベルト収集器上のいずれかで、約14インチ離れて収集された。ステント被覆チューブの厚さは、繊維の流れの中で異なる期間ステントマンドレルを回転させることによって変動させた。商業生産においては、MBまたはESダイからの回転ステントマンドレルの距離は、一定の特定表面速度、MBダイからの一定の特定距離、および、その上に堆積する繊維の流れに対する高さを維持する電気的な精密駆動システムによって制御される。
【0081】
電気紡績されたステント被覆布地
ポリウレタン(Noveon Estane 58238)を、注射針から、紙コーティングした平面収集器または拡大回転金属ステントのいずれかの表面に電気紡績した。Noveon Estane 58238は、熱可塑性ポリウレタンとして溶融紡糸してもよいし溶媒中で電気紡績されてもよいポリエステルPUである。調製された電気紡績溶液は、15% 58238 PU/42.5% テトラヒドロフラン(THF)/42.5% ジメチルホルムアミド(DMF)を含んだ。注射針上のクランプを通じて18KVのDC電圧を印加し、収集器を置き、注射針末端と平面収集表面または回転金属ステント型との距離を約6インチとした。
【0082】
過去の経験から、ES TPU繊維の直径は100〜600ナノメートルの範囲であることが公知である。電気紡績されたポリウレタンを示す例示的な画像が、図7に示されている。
【0083】
実際の3〜6mmステントに対して繊維状の被覆を作製するためには、溶融吹きつけプロセスまたは電気紡績プロセスのいずれかを用いて、実際の拡張された金属ステントを被覆する。これによって、弾性ステントを血管挿入前に折りたたむことが可能になり、この際、血管形成術および血管ステント術の間に全体のアセンブリを拡張させることができる。ステントを直接コーティングするための代替法としては、複製ケージをコーティングし、その後ステント被覆を除去する;次に、被覆を、患者の血管への設置前に血管ステント表面に装着することができる。
【0084】
ES PUステント被覆の拡張・収縮能力の実証
ES TPUコーティングを、外径5mm、長さ6cmの金属ワイヤばね表面に作製した。次に、繊維状チューブをステント型の末端から広げ、ハンドルに取り付け、約6cm裏返しに引っ張った。チューブを引き抜くと繊維の連続的な薄い被覆はワイヤ上に残存したが、このことによって、ステントの収縮およびその後の拡張の間、該被覆がステントに付着したままであろうことが示された。除去されたチューブは、血管形成手順の前には収縮したステント表面に存在すると考えられるため、収縮形状であった。除去された被覆を通じて加圧された流体の流れを(口から)導入する際、被覆は、圧力の影響下で拡張された。弾性や機械的強度の明らかな損失を伴うことなく、該プロセスは数回繰り返された。このことは、電気紡績ポリウレタン被覆材料が、使用の間にステント表面に存在する程度に拡張可能であることを実証している。
【0085】
MBおよびES被覆布地の厚さ、重量、および多孔性
TPU 58245は、平面布地としての、および拡大(12mm)ステントマンドレル上のチューブとしてのMBであった。表1は、これらのウェブの試験結果を示す。より薄いMB布地およびチューブを作製することもできるが、平面布地の平均厚は0.97mm〜1.98mmであり、対応する平方メートルあたりのグラム重量(gsm)はそれぞれ217gsmおよび492gsmであった。布地の平均繊維直径(コンピュータ支援光学顕微鏡測定により決定)は、3.8〜5.4μmの範囲であり、対応する平均孔径は12.7μmおよび7.1μmであった。試料2.1MBは、平面布地の厚さが0.97mmと最も小さいが、未だ平均孔径が10.0μmと比較的小さいことを留意するのは興味深く、これは、繊維径およびMB条件の小さな変更に加えて、繊維布設(fiber laydown)などのその他の要素が平均孔径に影響しうることを示している。T.1 MBおよびT.3 MB TPUステントチューブの平均厚は0.90および0.84mmであり、それぞれの平均重量は115および138gsmで、それぞれの平均孔径は7.8および6.2μmであった。
【0086】
表1はまた、ES平面繊維が、0.031〜0.160mmの範囲にわたる、ずっと薄くて軽い繊維を有し、それぞれの平均重量が9.8および7.1gsmであり、それぞれの平均孔径が11.1および11.5μmであったことも示している。最薄および最厚のES平面繊維がほとんど同じ平均孔径を有していたことは、大変注目に値する。MBと同様に、繊維収集物の不均質性、繊維径および小さな加工変化は、薄いステントチューブを作製しながら孔径を制御するための実証された手段に影響を与える。
【0087】
実験用ES PUステントチューブ試料T.1およびT.2は、MBチューブと比べて、0.14および0.18mmと非常に薄い壁を有し、それぞれの重量は35.1および28.3gsmであった。試料T.1 ESの平均孔径はわずか1.8μmであった。このステントは低分子の通過を可能にするが、平滑筋細胞および内皮細胞に対して不透過性であることが予想された。
【0088】
(表1)溶融吹きつけ(MB)および電気紡績(ES)ステント被覆特性


【0089】
予測実施例3 - 混合繊維/膜コーティング材料の合成および評価
連続的なフィラメントマイクロファイバー、マイクロファイバーの不織ウェブ、およびナノファイバーの不織ウェブの適切な層を用いた、複合繊維状ポリウレタン材料を合成する。微量押し出し溶融紡糸(MS)技術を用いて連続的なフィラメントを作製し、溶融吹きつけ(MB)を用いてマイクロファイバー製の不織ウェブを作製し、電気紡績(ES)を用いてナノファイバー製の不織ウェブを作製する。ポリマーが溶媒中に溶解するので、ESにおいて使用されるポリウレタンは、溶融加工可能である必要はない。
【0090】
気体クエンチ(air quench)、成形(drawing)、および連続巻き取りシステム(continuous take-up system)を備えた微量押し出し機(例えば、直径5/8インチのスクリュー、単一紡糸口金ダイ、押し出されたフィラメントを成形するための2つのゴデット(godet)を備えた、Randcastle Microtruder Model No. RCPR)を用いて、まずPUの連続的なフィラメントを作製する。押し出されたフィラメントは巻き戻されて(unwound)、生体適合性、分解性、および機械的特性について試験される。
【0091】
最適化PUフィラメントは、大きな1/2インチ〜2インチのステント複製物(ステント製造業者からまたは特注のいずれかで得られる)の周りに手巻きされる。1、5、および20回の収縮〜バルーン拡張状態のサイクルの後に、疲労特性を試験する。マクロおよびミクロレベルでの構造変化を評価するために、手巻きステント複製物を、光学顕微鏡によって調べる。単一のフィラメントを取り出して、引張強度および破断点伸び(elongation-to-break)について試験し、押し出されたフィラメントの耐久性評価を支援するためのサイクル試験前の対照フィラメントと比較する。張力および弾性回復測定(例えばUnited Tensile Tester Model No. SSTM-1-E-PCを用いる)もまた、フィラメントが適切な機械的特性を有するかを判定する助けになり、かつまた、PUの改変および交換を導く。フィラメントの表面織地(surface texture)はステント収縮/拡張の間に変化しうるので、繊維を、走査型電子顕微鏡によっても試験する。
【0092】
インビボ用途のための試作ステントは、十分に制御されたフィラメントの自動巻き取りを提供する高速巻き取り機で巻かれる。ステント/複製物のマクロおよびミクロレベルの構造的変化は、電子顕微鏡および光学顕微鏡で入手する。異なる収縮-拡張サイクルの前後で、ステント全体の接触角および湿潤特性を決定する(例えばKruss DSA100 Expert Systemを用いる)。単一の繊維の強度、破断点伸び、および表面織地を、自動巻き取りによって形成されたステント/複製物の1、5、および20回の収縮〜拡張サイクル後に再度評価する。
【0093】
最適PUフィラメントの分析を完了した後、溶融吹きつけによって形成されたマイクロファイバーおよび、電気紡績によって形成されたナノファイバーについて、同様の測定値を求める。溶融紡糸された単一フィラメント、溶融吹きつけによって形成されたマイクロファイバーのウェブ、および電気紡績によって形成されたナノファイバーのウェブを組み合わせることによって作製される複合材料も製造し、試験する。
【0094】
上述と同じ様式で、ESおよびMBによりPU膜に堆積した単一および複数の繊維の複合コーティングを調製し、薬物送達特性およびステント耐久特性を試験する。
【0095】
予測実施例4 - 被覆ステントのインビトロ試験
非透過性コーティングおよび選択的透過性コーティングを有する両ステントを評価する。被覆ステントの血液透過性を、インビトロ灌流システムを用いて試験する(Swanson et al., Int. J. Cardiol. 92(2-3):247-251 (2003)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。回路のステントセグメントを、PBSを含むガラス収集チャンバに浸漬する。灌流液は、ヘパリン添加ウサギ血液(heparinized-rabbit blood)である。灌流圧を生理学的レベルに保ち、流量を、蠕動ポンプ(Watson-Marlow 302S)を用いて初めに10 mL/minで維持する。滅菌シリコンチューブ(口径3mm、Fisons)を用いて、チャンバハウジングへの灌流を行う。正常なおよび病的な(狭窄した冠状動脈)血流を模倣した異なる条件を使用して、ステント透過性を試験する。1、2、4、6、および12時間の灌流後、ガラスチャンバの外側の溶液を収集して、Coulter計数分析を介して血液細胞の存在を計測し、BioRadタンパク質測定分析法によってタンパク質量を計測した。ステントの内側を顕微鏡で調べ、血液細胞付着および0.1%SDS界面活性剤によって溶出する任意の結合タンパク質について調べる。また、BioRad法によって、タンパク質量も評価する。生理学的圧力下での、扁平上皮細胞などの所望の細胞に対する選択的透過性は、顕微鏡を介して評価する。
【0096】
以前記載されたように、VEGFおよびGPVIアンタゴニスト放出動態もまた、インビトロにおいて評価される(Palmerini et al., J. Am. Coll. Cardiol. 44(8): 1570- 1577 (2004)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。本実験において、含浸コーティングまたは噴霧コーティングによって125I標識VEGFまたは125I標識GPVIアンタゴニストをコーティングして、ステントの内側層とする。次に、放射線標識ステントを、上述のようにインビトロ灌流回路に浸漬し(Swanson et al., Int. J. Cardiol. 92(2-3):247-251 (2003); Palmerini et al., J. Am. Coll. Cardiol. 44(8):1570-1577 (2004)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)、1%BSAを含むPBSと共に閉ループ回路内で10 mL/minで連続的に灌流する。VEGFまたはGPVI放出は、γウェルカウンター中で計数する。全体として、本実験には6個の125I標識VEGFで被覆された本発明のステントおよび125I標識GPVIアンタゴニストが必要となる。灌流溶液を、48時間の間、4時間毎に日常的に交換し、溶出の動態を決定する。拡大研究に関しては、放射性同位体の半減期が短いので、HPLC検出法を実行してもよい。
【0097】
VSMC、内皮細胞、線維芽細胞、および白血球の遊走の完全なまたは選択的な遮断は、1つまたは複数の不織弾性コーティングについて評価する。本実験において、ヒト大動脈内皮細胞、ヒト大動脈平滑筋細胞、ヒトHL-60細胞、およびヒト線維芽細胞系MRC-5を使用する。内皮細胞はトリプシン処理されて、線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、ヒドロコルチゾン、およびペニシリン/ストレプトマイシン含有10%ウシ胎仔鉄添加血清を添加した培地(MCDB-131; Sigma)中、37℃、5%CO2インキュベータ内で継代培養される。培地は48時間毎に交換する。ヒト大動脈VSMCは、Cloneticsから入手し、推奨培地(SmGM-2、Clonetics)中で培養する。培地は一日おきに交換する。培養されたVSMCは、継代4代目〜継代7代目の間を用いる。ヒト白血病(HL-60)細胞は、American Type Culture Collectionから入手し、10%熱不活化ウシ胎仔血清、100ユニット/mlペニシリン-ストレプトマイシン、および2 mM L-グルタミンを添加したRPMI1640培地中で増殖させる。Me2SO(1.3% v/v)を該細胞に7日間添加し、好中球表現型への分化を誘導する。線維芽細胞系MRC-5については、10%熱不活化ウシ胎仔血清、50 IU/mlペニシリンおよび50μg/ml硫酸ストレプトマイシンを添加したMinimal Essential Medium(Gibco BRL)中で、37℃、5% CO2雰囲気下で細胞を増殖させて単層として維持する。
【0098】
下面を10μg/mlフィブロネクチンでコーティングしたステントセグメントを備えたおよび備えていない(細胞に対して不透過性および選択的透過性の)改変Boydenチャンバ(Transwell-Costar Corp.)を用いて、細胞遊走アッセイ法を実施する。サブコンフルエントな細胞をトリプシン処理し(0.01%トリプシン/5 mM EDTA; Cambrex)、中和し(Cascade Biologies, Inc.)、EBM/0.1% BSAで洗浄して、再懸濁する。典型的には、5×105個の細胞を各遊走チャンバの上部に添加し、4〜24時間、被験材料の下面へと遊走させる。細胞を固定して染色する(Hema 3 Stain System; Fisher Diagnostics)。メンブレンあたりの遊走細胞数を、Spotデジタルカメラ(Diagnostic Instruments)に接続した明視野顕微鏡を用いて捕捉する。NIH Imageソフトウェアを用いて、捕捉した画像から遊走細胞を計数する。
【0099】
ステント内側層における内皮細胞増殖(内皮形成(endothelialization))の広がりおよび速度を、内皮細胞培養系において評価する。ヒト大動脈内皮細胞をCloneticsから入手し、継代4代目〜継代10代目の間を用いる。細胞は上述のように培養する。
【0100】
VEGFコーティングしたステントが、ステントの内側表面における内皮細胞増殖(内皮形成)に与える影響は、近年報告されたインビトロ細胞遊走アッセイ法を用いて測定する(Palmerini et al., J. Am. Coll. Cardiol. 44(8):1570-1577 (2004); Baron et al., Cardiovasc. Res. 46(3):585-594 (2000)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。簡単に言うと、動脈壁表面を刺激するために、以下のように硬いフィブリンゲルを調製する。リン酸緩衝生理食塩水(1.5 mg/mL)中に溶解したフィブリノゲン(Sigma)を、0.1 mol/L HClを用いてpH7.2に調整する。次に、フィブリノゲン溶液1mlあたりの最終濃度が0.625Uになるようにトロンビン(Sigma)を添加することによって重合が開始されたらすぐに、このフィブリノゲン溶液を100mm×100mmのペトリ皿に注ぎ、均等に広げる。リン酸緩衝生理食塩水でゲルを4回濯ぎ、培地中で、37℃、5% CO2インキュベータ内で一晩インキュベーションする。培地を除去したら、ヒト大動脈内皮細胞を、密度20,000細胞/cm2でゲル上に接種し、細胞のコンフルエント層が得られるまで(1〜2日)培養する。培養細胞のコンフルエンスは、視覚的(顕微鏡的)検査によって決定する。
【0101】
3つの異なるステント(対照Palmaz-Schatz(商標)ステント、VEGFコーティングなしの本発明のステント、およびVEGFコーティングされた本発明のステント)を、各皿内の内皮形成ゲルの表面上に平らに押しつける。ステントの設置前に、ステント設置領域内の細胞を引っ掻いて移動させる。ステントを載せたゲルを、37℃、5% CO2インキュベータ中で、4、7、10、および14日間インキュベーションし、ステント表面での内皮細胞遊走をモニタリングする。
【0102】
4、7、10、および14日目に、ステントをリン酸緩衝生理食塩水で濯ぎ、メタノールで5分間固定して、2% Giemsa染色剤で染色する。染色後、光学反射顕微鏡(reflective light microscopy)を用いて、細胞遊走距離および各ステント全体の細胞密度を測定する細胞遊走距離は、各修飾縁部(modified edge)の中点から進行細胞のリーディングエッジ(leading edge)までの垂直線上で測定する。金属表面における細胞密度は、100×視野あたりの細胞数として決定し、細胞/cm2として表す。各時点は、各群について6本のステントを含むべきである。
【0103】
最後に、GPVIアンタゴニストでコーティングされた本発明のステントの効果を、インビトロでの血小板沈着および血栓症について評価する。GPVI特異的抗体、抗体断片、およびGPVIポリペプチド(可溶性ポリペプチドを含む)を含む候補化合物のアンタゴニスト活性、アゴニスト活性、または抗血栓症活性を、Diaz-Ricart et al., Arteriosclerosis, Thromb. Vasc. Biol. 16:883-888 (1996)(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)により開発されたシステムを用いてさらに分析できる。このアッセイ法により、内皮除去(de-endotheliailized)ウサギ大動脈およびヒト内皮細胞マトリクスを用いた流動条件下で、候補化合物が血小板に与える影響が決定される。
【0104】
また、対照および本発明のステントにおけるインビトロでの血小板沈着および血栓症は、以前説明された流動回路を用いても測定される(Fraker et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 80(4):849-857 (1978); Inoue et al., Atherosclerosis 162(2):345-353 (2002)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。概説すると、ウサギから血液試料(30ml)を収集し、ヘパリン10 IUを含むシリンジ内に入れる。標準的技術を用いて、血小板を111インジウム(111In)または51Crで標識する(Zhang et al., Chin. Med. J. (Engl.) 117(2):258-263 (2004)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。放射線標識された血小板を、ヘパリン(10μml-1)を含むさらなる血液100mlに添加する。対照Palmaz-Schatz(商標)ステントおよびGPVIでコーティングされた本発明のステントを挿入し、次に、バルーンを14atmで20秒間ふくらませることによって、シリコンチューブ(内径3mm)内に配置する。その後、ずり速度の理論上計算値が?64 s-1から最大1500s-1で、111In標識血小板を含む血液を灌流液として流量10 ml/minでポンプ輸送するよう設定された灌流回路に、シリコンチューブを接続する。次にシリコンコネクタを用いて回路を閉じ、120分間灌流を実施する。温度は、水浴によって37℃で安定に維持する。ステントを濯ぎ、各ステントに関する放射活性をγカウンタ(Packard Cobraシリーズ自動γ計測システム、15-75 keV window)で計測して定量する。一部の試料については、被験材料を固定して、付着、伸展、および、(血小板が付着するだけではなく活性化応答も受けていることを示す)糸状仮足形成について、粘着性の血小板を顕微鏡で調べる。存在するならば、材料を、血小板凝集体の存在について試験およびスコアリングする。
【0105】
候補GPVI阻害化合物が同定されたら、以下に記載された血小板機能の標準的モデルを用いて、これらのアンタゴニストのインビボ活性を分析することができる:Coller et al., Blood 66:1456-59 (1985); Coller et al., Blood 68:783-86 (1986); Coller et al., Circulation 80:1766-74 (1989); Coller et al., Ann. Intern. Med. 109:635-38 (1988); Gold et al., Circulation 77:670-677 (1988); およびMickelson et al., J. Molec. Cell Cardiol. 21 :393-405 (1989)(これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0106】
予測実施例5 - 被覆ステントのインビボ試験
ウサギの左側頸動脈において血管形成術を行い、その後、本発明のステントまたは対照Palmaz-Schatz(商標)ステントのいずれかを用いてステント移植を行う。
【0107】
試験には、ニュージーランド白ウサギ(Myrtles Rabbitry, Thompson Station, Tenn、雄、2.5〜3.0kg)を用いる。頸動脈のバルーン血管形成術およびステント移植は、記載のように行う(Zhang et al., J. Biol. Chem. 276(29):27159-27165 (2001); Danenberg et al., Circulation 108(22):2798-2804 (2003)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。ケタミン(35mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の筋肉内注射によって、動物を麻酔する。その側枝と共に左側の総頸動脈、外頸動脈、および内頸動脈を露出させた後、左側の外頸動脈の第一側枝にシースを挿入する。シースを通じて3F Fogartyカテーテル(Baxter Edwards)を導入し、肩甲舌骨筋の近位端まで進める。頸動脈損傷を生じるため、本発明者らは、生理食塩水でバルーンをふくらませ、それを、肩甲舌骨筋の近位端の直下から頸動脈分岐部まで、3回引き出す。損傷後、ヘパリン(500ユニット)を与える。抗血小板剤またはさらなる抗凝固剤は全く投与しない。本発明のステント(完全不透過性または選択的不透過性)または対照Palmaz-Schatz(商標)ステントのいずれかのステントを、直径3.0mmで長さ20mmのバルーンカテーテル(Johnson & Johnson)に機械的に圧着し、シースを通じて損傷総頸動脈内に挿入する。バルーンは10atmで60秒間ふくらませ、その後しぼませる(バルーン/動脈直径比?(1.2〜1.3):1)。その後、カテーテルを除去し、手術創を閉じる。
【0108】
ステント移植から7日後、14日後、28日後、90日後、および180日後にウサギを屠殺する。屠殺の前に、Doppler流量プローブ(Transonic Systems, Inc.)を、左側のステント術を受けた総頸動脈および右側の非損傷総頸動脈の周辺に挿入し、以前記載されたように、血流を測定する(Van Belle et al., Circulation 95(2):438-448 (1997)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0109】
ステントの内部および外側ならびに管腔領域での新生内膜形成を、組織学により決定する。簡単に言うと、血流測定の後、生理的圧力において10%中性緩衝ホルマリンで動脈を灌流固定する。ステント術を受けた動脈を単離し、メタクリレート製剤で包埋する。自動ミクロトーム(Leica, Inc.)上で、ステント術を受けた各セグメントの近位端および遠位端および中点から、タングステンカーバイドナイフ(Delaware Diamond Knives)を用いて5μm厚の切片を複数切り出す(Walter et al., Circulation 110(1):36-45(2004)、これはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。切片をVerhoeffエラスチン染色液で染色する。ステント内部および外側の新生内膜領域ならびに管腔領域を、Verhoeff組織エラスチン染色した切片上で、コンピュータ画像化分析システム(Scion Image CMS-800)によって測定する。初期試験として、1つの時点(28日目)のみを用いて、新規ステントの恩典的効果を評価する。
【0110】
血管形成術後のウサギ頸動脈における内皮再形成に対する本発明のステントの効果を決定するために、ウサギ頸動脈バルーン損傷およびステント移植を上述のように実行する。ステント移植から3日後、7日後、14日後、および28日後に動物を屠殺する。走査型電子顕微鏡によって内皮再形成を判定する(Zhang et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 25(3):533-538 (2005); Zhang et al., J. Exp. Med. 199(6): 763-774 (2004)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。屠殺前に、耳静脈を介して動物にヘパリン(2000 U)を投与する。左心室にカニューレを挿入し、100 U/mLヘパリンを含み、その後0.25%硝酸銀を加えた5%デキストロース溶液100mLを、インサイチューで20秒間灌流する。この後、5%デキストロースを加え、次に、10%緩衝ホルマリンを用いて100mmHgで2時間圧力灌流(pressure-perfusion)を行う。ステント術を受けた頸動脈を単離し、長軸方向に切断して開く。2×〜10×対物レンズおよび10×接眼レンズを備えた走査型電子顕微鏡によって、表面内皮形成を定量する。顕微鏡の視野を、拡大率×1.25の要素を備える引き抜きチューブアタッチメント(drawing tube attachment)を通して、標準的デジタル化パッドのLED光カーソルに取り込むことができる。測定は、Scion Image CMS-800を用いて行う。デジタル化タブレットを介したコンピュータによる顕微鏡の取り込みは、×25〜×125での内皮表面の直接試験を容易にした。
【0111】
血管形成術後のウサギ頸動脈におけるステント内血栓症に対する本発明のステントの効果を決定するために、ウサギ頸動脈バルーン損傷およびステント移植を上述のように実行する。ステント内血栓症を判定するために、ステント移植から1日後、3日後、7日後、14日後、および28日後に動物を屠殺する。屠殺前に、耳静脈を介して動物にヘパリン(2000 U)を投与する。ステント術を受けた頸動脈を、上述のように灌流し、単離し、切除する。一部の血管をメタクリレート製剤で包埋し、H-E染色のために断面を切り出す。ステント内血栓症を、組織学的分析および走査型電子顕微鏡によって検出する(Zhang et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 25(3):533-538 (2005)、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0112】
本発明のステントにおける新生内膜の組織学的な特徴および本発明のステントの長期生体適合性を決定するために、以下の免疫組織化学的実験を実施する。ステント移植から14日後、28日後、90日後、および180日後にウサギを屠殺する。屠殺の前に、生理的圧力で、インビボにおいて10%中性緩衝ホルマリンで動脈を灌流固定する。灌流後、ステント術を受けた頸動脈を単離して、上述のように包埋する。VSMC、白血球、および内皮細胞の免疫染色を、以前記載されたように、血管断面(5μM)において、ABCキット(Vector Laboratories)を用いて行う(Hamuro et al., J. Vasc. Interv. Radiol. 12(5):607-611 (2001); Foo et al., Thromb. Haemost. 83(3):496-502 (2000); Aggarwal et al., Circulation 94(12):3311-3317 (1996)、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。一次抗体と共に1時間インキュベーションする前に、組織片をH2O2で処理して内在性過酸化物活性を消失させる。次にビオチン化二次抗体を適用する。免疫染色は、Vector ABCキットを用いて検出する。一次抗体も二次抗体も含まない対照染色を実施する。白血球染色については、マウス抗ラットCD45(白血球共通抗原、クローンOX-1)(BD Pharmingen)を用いる。VSMCおよび内皮細胞については、SMCバイオマーカーに対する抗体であるα-アクチン(Sigma)、および、内皮細胞バイオマーカーに対するフォンウィルブランド因子(Dako)を使用し、その後、標準的な間接的免疫ペルオキシダーゼ手順をおこなう。さらに、上述のように、血小板および血栓症も測定する。
【0113】
提唱された実験により、本発明者らは、最終的に設計された本発明のステントが再狭窄に与える効果を試験することができる。本明細書で示された病理学的機構および予備データに基づくと、動物モデル内で新規血管内装置が内皮再形成を増大させ、血栓症を低減し、かつステント内再狭窄を低減すること、および、本発明の(完全不透過性または選択的不透過性)ステント内での任意の新生内膜が有するVSMCがより少ないことが予想される。本発明のステントは、インビボにおいて良好な長期生体適合性を有することも予想される。
【0114】
本明細書において好ましい態様が示され詳細に記載されているが、本発明の精神を逸脱することなく各種の改変、付加、置き換え等が可能であることは、関連する技術分野の当業者には明らかであろう。また従って、これらは、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲内に含まれるものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】図1Aは、血管内に挿入された本発明の血管ステントの一態様の透視図である。拡大断面図(図1B)は、該ステントの内側および外側コーティングを示す。
【図2】本発明の血管ステントにおいて使用された薬物溶出ポリマーコーティングの概略図である。
【図3】遅延放出型コア-シェル異相構造繊維と組み合わせた急速放出膜(例えばポリウレタン-ポリエチレングリコール)の組み合わせに起因する、予想薬物放出プロファイルを示すグラフである。また、薬物を膜表面に移植して、拡散の定常速度を提供することもできる。
【図4】外側障壁を欠く従来のステント(対照)によって達成された結果を不透過性の外側ポリエチレン障壁を有するステント(新規)と比較した、血管形成術から14日後および28日後のステント内側の管腔領域を示すグラフである。
【図5】血管形成術から14日後および28日後の、対照および新規のステント内部の新生内膜領域を示すグラフである。
【図6】図6A〜図6Bは、対照または新規のステントを用いた血管形成術から14日後および28日後のラット頸動脈の新生内膜形成および管腔領域を示す断面顕微鏡写真画像である。組織はヘマトキシリン-エオシン染色された。元の倍率は、図6Aにおいて4×、図6Bにおいて10×であった。
【図7】電気紡績ポリウレタンナノファイバーのSEM顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、血管ステント:
内部区画を規定する拡張可能ステント;
該ステントにより規定された内部区画に曝露された第一の重合層であって、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの混合物を含む、第一の層;および
少なくとも一部が該ステントの外側にある第二の重合層であって、血管表面の接触に適合化され、かつ血管平滑筋細胞に対して実質的に不透過性の孔を特徴とする、第二の層。
【請求項2】
第二の層が扁平上皮細胞または内皮細胞に対して透過性である、請求項1記載の血管ステント。
【請求項3】
第一および第二の層が独立して、ポリウレタン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエーテルエステル、エチレンコポリマー、ポリエステル、コポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれらの組み合わせからなる群より選択されるポリマーまたはコポリマーで形成される、請求項1記載の血管ステント。
【請求項4】
第二の層がポリウレタン-ポリエチレングリコールマトリクスを含む、請求項1記載の血管ステント。
【請求項5】
第二の層が、内皮再形成を促進する薬剤または抗増殖剤をさらに含む、請求項4記載の血管ステント。
【請求項6】
内皮再形成を促進する薬剤が、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン1、またはαvβ3アゴニストである、請求項5記載の血管ステント。
【請求項7】
抗増殖剤が、転写因子E2F1、CD9阻害剤、IL-10阻害剤、PI3K阻害剤、CD40L阻害剤、PARP1阻害剤である、請求項5記載の血管ステント。
【請求項8】
ポリウレタン-ポリエチレングリコールマトリクスが、内皮再形成を促進する薬剤および/または抗増殖剤の第二の層からの拡散を可能にするチャネルの存在を特徴とする、請求項5記載の血管ステント。
【請求項9】
第二の層と拡張可能ステントとの中間の層内に第一および第二の薬物溶出繊維をさらに含む、請求項1記載の血管ステント。
【請求項10】
第一の繊維が、血栓症を阻害する薬剤を含み、第二の繊維が、内皮再形成を促進する薬剤を含む、請求項9記載の血管ステント。
【請求項11】
第一および第二の繊維が、それぞれ独立して、単成分繊維および異相構造(bi-component)繊維からなる群より選択される、請求項9記載の血管ステント。
【請求項12】
第一の層が実質的にステントを封入している、請求項1記載の血管ステント。
【請求項13】
第一の層がポリウレタン-ポリエチレングリコールマトリクスを含む、請求項1記載の血管ステント。
【請求項14】
ポリウレタン-ポリエチレングリコールマトリクスが、内皮再形成を促進する薬剤および/または血栓症を阻害する薬剤の第一の層からの拡散を可能にするチャネルの存在を特徴とする、請求項13記載の血管ステント。
【請求項15】
第一の層が、GPVIアンタゴニスト、VEGF、またはそれらの組み合わせを含む、請求項13記載の血管ステント。
【請求項16】
第一および第二の層の一方または両方の表面に、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの組み合わせが付着しているまたは移植されている、請求項1記載の血管ステント。
【請求項17】
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびその活性断片、ラパマイシンおよびラパマイシン類似体、Taxol(商標)またはTaxan(商標)、アンチセンスデキサメタゾン、アンジオペプチン、Batimistat(商標)、Translast(商標)、Halofuginon(商標)、ニコチン、アセチルサリチル酸、Tranilast(商標)、everolimus(商標)、ヒルジン、ステロイド、イブプロフェン、抗菌剤または抗生物質(例えばアクチノマイシンD)、組織血漿活性化剤、抗繊維症剤(antifibrosis agents)からなる群より選択される薬物をさらに含む、請求項1記載の血管ステント。
【請求項18】
第一および第二の層両方がポリウレタン-ポリエチレングリコールマトリクスを含む、請求項1記載の血管ステント。
【請求項19】
第二の層の孔の平均幅が約100nm〜最大約5μmである、請求項1記載の血管ステント。
【請求項20】
第二の層の孔の平均幅が約5μm〜最大約15μmである、請求項1記載の血管ステント。
【請求項21】
第二の層の孔の形状が実質的に細長く、孔の平均縦横比が約1.5〜約20である、請求項1記載の血管ステント。
【請求項22】
第二の重合層の形状が織られたまたは織られていない布地である、請求項1記載の血管ステント。
【請求項23】
人工(prosthetic)移植片の挿入後に患者において新生内膜過形成を予防する方法であって、以下の段階を含む方法:
請求項1〜22のいずれか一項記載の血管ステントを提供する段階;および
患者の血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、第二の層の材料が、ステント内部でのVSMCの遊走を実質的に妨げ、それによって新生内膜過形成を予防する段階。
【請求項24】
ステント内血栓症を予防する方法であって、以下の段階を含む方法:
請求項1〜22のいずれか一項記載の血管ステントを提供する段階;
患者の血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、第一の層が、血栓症を阻害する薬剤を含む段階;および
患者の血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、第一の層からの血栓症を阻害する薬剤の放出が、血小板の凝集を実質的に妨げ、それによってステント内血栓症を予防する段階。
【請求項25】
冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、卒中、またはその他の血管床疾患を治療する方法であって、以下の段階を含む方法:
請求項1〜22のいずれか一項記載の血管ステントを提供する段階;
冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、または卒中に関連する症状を示す患者における血管部位で血管形成術を実施する段階;
該血管部位に血管ステントを挿入する段階であって、該挿入が、内皮再形成を促進する一方で内膜新生およびステント内血栓症を実質的に妨げ、それによって、冠状動脈疾患、末梢動脈疾患、卒中、またはその他の血管床疾患を治療する段階。
【請求項26】
以下の段階を含む、血管ステントを作製する方法:
内部区画を規定する拡張可能ステントを提供する段階;
拡張可能ステントの少なくとも内側表面に、内皮再形成を促進する薬剤、血栓症を阻害する薬剤、またはそれらの組み合わせを含む第一の重合材料を塗布し、それによって、内部区画に曝露された第一の重合層を形成する段階;
ステントの拡張可能性を維持しかつ血管平滑筋細胞遊走に対して実質的に不透過性の孔を有する多孔性の第二の重合層を形成する様式で、拡張可能ステントの少なくとも外側表面を、第二の重合材料で被覆する段階。
【請求項27】
前記被覆が、ステントの周りへの熱可塑性ポリマーフィラメントの微量押し出し(micro-extrusion)、ステントの周りでのナノファイバーの電気紡績(electrostatic spinning)、細いフィラメントおよびナノファイバーの層内へのステントの設置(encasement)、ならびにステントの周りへのマイクロファイバーの溶融吹きつけ(melt blowing)によって行われる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記被覆が、ステントの外側のみで行われる、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記塗布が、噴霧、含浸、はけ塗り、またはローラー塗りによって行われる、請求項26記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2008−532643(P2008−532643A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500902(P2008−500902)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/008377
【国際公開番号】WO2006/099020
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(507301165)ザ ユニバーシティー オブ テネシー リサーチ ファウンデーション (5)
【Fターム(参考)】