説明

離型層付きモールドおよびその製造方法ならびにモールドの製造方法

【課題】インプリント耐性を十分に備えながらも、精度良くパターンを転写させる。
【解決手段】インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールド30に離型層が設けられる離型層付きモールドにおいて、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、前記化合物の分子鎖は、元型モールドに対して吸着している吸着官能基を少なくとも2個以上有し、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型層付きモールドおよびその製造方法ならびにモールドの製造方法に関し、特に、パターン転写に用いられる元型モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等で用いられる磁気ディスクにおいては、磁気ヘッド幅を極小化し、情報が記録されるデータトラック間を狭めて高密度化を図るという手法が用いられてきた。その一方で、この磁気ディスクは高密度化がますます進み、隣接トラック間の磁気的影響が無視できなくなっている。そのため、従来手法だと高密度化に限界がきている。
【0003】
最近、磁気ディスクのデータトラックを磁気的に分離して形成するパターンドメディアという、新しいタイプのメディアが提案されている。このパターンドメディアとは、記録に不要な部分の磁性材料を除去(溝加工)して信号品質を改善しようとするものである。
【0004】
このパターンドメディアを量産する技術として、マスターモールド、またはマスターモールドを元型モールドとして一回又は複数回転写して複製したコピーモールド(ワーキングレプリカともいう)が有するパターンを被転写材に転写することによりパターンドメディアを作製するというインプリント技術(または、ナノインプリント技術という)が知られている。
【0005】
なお、このインプリント技術は大きく分けて2種類あり、熱インプリントと光インプリントとがある。熱インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である熱可塑性樹脂に加熱しながら押し付け、その後で被成形材料を冷却・離型し、微細パターンを転写する方法である。また、光インプリントは、微細パターンが形成されたモールドを被成形材料である光硬化性樹脂に押し付けて紫外光を照射し硬化させ、その後で被成形材料を離型し、微細パターンを転写する方法である。
【0006】
ここで挙げたインプリント用モールドにおいては、通常、微細パターンが設けられたマスターモールドそのものは用いられない。その代わりに、このマスターモールドの微細パターンを別の被成形材料に転写して形成された2次モールドや、この2次モールドの微細パターンを更に別の被成形材料に転写して形成された3次モールドなどが用いられる。このコピーモールドが変形・破損したとしても、マスターモールドが無事ならば、コピーモールドを作製することができる。
【0007】
さて、上述のようなパターンドメディアを実際に作製する際には、作製ライン毎にこのコピーモールドを作製する必要がある。そして、このコピーモールドを作製する際には上述のように、微細パターンが形成されたマスターモールド(または元型となるコピーモールド、以降、これらのモールドをまとめて元型モールドまたは単にモールドともいう)を被転写物における被成形材料に押し付ける必要があり、それに伴い被成形材料、ひいては被転写物から元型モールドを離型する必要がある。
【0008】
被転写物から元型モールドを円滑に離型するために、元型モールド表面に予め離型層を施してからパターンの転写を行うことが知られている。このように元型モールドに離型層を設けることにより、元型モールドと離型層との間はある程度の密着性を有しつつ、離型層と被転写物との間は離型しやすくすることができる。
例えば特許文献1には、離型層として、直鎖パーフルオロポリエーテル構造を有する有機シリコーン化合物からなる表面改質剤を用いる技術が記載されている。
また、特許文献2には、オルガノポリシロキサン構造を基本構造とするシリコーン系離型剤について記載されており、具体的には、未変性または変性シリコーンオイル、トリメチルシロキシケイ酸を含有するポリシロキサン、シリコーン系アクリル樹脂等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008−537557号公報
【特許文献2】特開2010−006870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および2に記載されているように、ナノインプリント用離型剤としては、パーフルオロポリエーテル化合物が一般的に使用されている。これらの化合物では、通常、化合物の分子鎖の一方の末端基のみが、離型層を設けるべき基体表面へ化学結合させるための官能基となっている。また、この官能基には変性シラン基が用いられることが多く、これらは基体表面においてシラノール結合により脱水縮合を起こし、この化合物の分子鎖は基体表面へ吸着することになる。
一方、離型剤におけるパーフルオロポリエーテル基の部分は、フッ素により表面エネルギーが低下している。そして、化合物の分子鎖における変性シラン基が設けられていない部分、すなわちこのパーフルオロポリエーテル基の部分と被転写物とが接触することになる。その結果、元型モールド上に設けられた離型層から元型モールドを円滑に離型できる。
【0011】
確かに、パーフルオロポリエーテル基を含む末端変性シラン系離型剤を用いると基体に対して強固に密着する離型層を形成することができ、良好なインプリント耐性が得られる。しかしその反面、シリコーン系離型剤は反応性が高いため、基体表面以外の雰囲気中の水と反応しやすく、離型剤自体による凝集が起こるおそれがある。このように離型剤自体による凝集が起こると、離型層において凝集部分が相当の物理的高さをもつ欠陥となる。その結果、インプリントの際に、精度良くパターンを転写することが困難となり、ひいてはコピーモールドにより得られる最終製品の品質に影響を与えるおそれがある。
【0012】
また、特許文献1および2のような一方の末端に変性シラン基が設けられている化合物では、化合物の分子鎖の末端の変性シラン基が基体と密着している。また、図9(a)に示すように変性シラン基が分子鎖の一方の末端にしか設けられていないため、変性シラン基から分子鎖のもう一方の末端まで、すなわち分子鎖全体が離型層の厚さ方向に配向していると考えられる。そうなると、離型層の厚さは分子鎖の全長に依存することになり、分子鎖の全長レベルのパターンを形成する必要が生じたときに、パターン精度に影響を与えることが予想できる。具体的には図9(b)に示すように、所定のパターンサイズと分子鎖の長さが同程度である場合、パターンサイズと同程度の厚さを有する離型層によって、所定のパターン形状が大きく変化してしまう可能性があり、パターン精度に影響を与えるおそれがある。
【0013】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、インプリント耐性を十分に備えながらも、精度良くパターンを転写させることができる離型層付きモールドおよびその製造方法ならびにモールドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドにおいて、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、前記化合物の分子鎖は、元型モールドに対して吸着している吸着官能基を少なくとも2個以上有し、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする離型層付きモールドである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、前記吸着官能基はヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、またはこれらのうちのいずれかの組み合わせであることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、前記吸着官能基が、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における両末端に設けられていることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1ないし第3のいずれかの態様に記載の発明において、前記フルオロカーボンには(C2mO)[mは整数かつ1≦m≦7であり、nは、前記(C2mO)の分子量が500以上かつ6000以下となる整数]が一種類または複数種類含まれることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1ないし第4のいずれかの態様に記載の発明において、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖は側鎖を有さないことを特徴とする。
本発明の第6の態様は、インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドにおいて、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖には(C2mO)[mは整数かつ1≦m≦7であり、nは、前記(C2mO)の分子量が500以上かつ6000以下となる整数]が一種類または複数種類含まれ、前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基としてヒドロキシル基を少なくとも2個以上有し、前記化合物の分子鎖における両末端に前記ヒドロキシル基が設けられており、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする。
本発明の第7の態様は、第1ないし第6のいずれかの態様に記載の発明において、前記元型モールドは、所定のパターンに対応する溝が設けられた石英基板よりなることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドの製造方法において、前記元型モールドに離型剤を塗布した後、前記元型モールドに対して100℃以上250℃以下にて熱処理を行う熱処理工程を有し、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基を少なくとも2個以上有し、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする離型層付きモールドの製造方法である。
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の発明において、前記熱処理工程の後に、離型層に対してリンス処理を行うことを特徴とする。
本発明の第10の態様は、所定のパターンに対応する溝が設けられたインプリント用の元型モールドからモールドを製造する方法であって、前記元型モールドに対して離型層を設ける工程と、前記モールド用の基板上にハードマスク層を形成し、前記ハードマスク層上にパターン形成用レジスト層を形成する工程と、光インプリントまたは熱インプリントにより、前記元型モールドが有するパターンを前記レジスト層に転写する工程と、前記レジスト層から前記元型モールドを離型する工程と、所定のパターンが転写された前記レジスト層をマスクとして、前記ハードマスク層に対してエッチングを行う工程とを有し、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基を少なくとも2個以上有し、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とするモールドの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インプリント耐性を十分に備えながらも、精度良くパターンを転写させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る離型剤を構成する分子鎖における吸着官能基が元型モールド上の物質と結合している様子を説明するための概念図であり、(a)は水酸基が分子鎖の末端にある場合、(b)は水酸基が分子鎖の末端以外にある場合、(c)は主鎖に対してファンデルワールス力が働いている様子、(d)は水酸基が3つある場合、(e)は水酸基が4つある場合の様子を示す。
【図2】本実施形態に係る離型層付きモールドの製造工程を説明するための断面概略図である。
【図3】図2の離型層付きモールドを用いてモールドを製造する工程を説明するための断面概略図である。
【図4】本実施形態に係る離型層付きモールドを熱処理した際の分子鎖の様子を説明するための概念図である。
【図5】実施例および比較例により得られた離型層付きモールドについて、走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を示す図であり、(a)(b)は実施例、(c)(d)は比較例における離型層付きモールドの表面を示す写真である。
【図6】実施例および比較例により得られた離型層付きモールドについて、離型層の層厚に基づいてインプリント耐久力を調べた結果を示すグラフである。
【図7】実施例および比較例により得られた離型層付きモールドについて、離型層の表面自由エネルギーに基づいてインプリント耐久力を調べた結果を示すグラフである。
【図8】実施例および比較例により得られた離型層付きモールドについて、離型層の厚さを示すグラフである。
【図9】比較例において、(a)は離型層を設けることによりパターンサイズが変わる様子を説明するための概念図であり、(b)はシラン基が分子鎖の一方の末端にしか存在しない場合における元型モールドと離型層との吸着の様子を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、インプリント耐性を有しながらも、自己凝集による欠陥の発生を抑制することができる離型層について種々検討した。この検討の際、本発明者らは、従来から使用されていたシリコーン系離型剤において、基体との密着性に寄与すると同時に自己凝集の一因となっている変性シラン基に着目した。
【0018】
そして本発明者らは、この変性シラン基(すなわち基体に対する吸着官能基)と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーと、自己凝集の際の吸着官能基同士の結合エネルギーとの関係に着目した。その結果、自己凝集の際の吸着官能基同士の結合よりも、元型モールドと吸着官能基との吸着の元となる結合の方が安定していれば、インプリントの際に問題となる、離型層内部における自己凝集を抑制できることを見出した。
【0019】
さらに本発明者らは、図9(b)に示すような従来の変性シラン基は、インプリント用離型層を形成する化合物の一方の末端のみに設けられていることに着目した。そして、上記の吸着官能基を複数有することにより、図1に示すように、複数の吸着官能基が、分子鎖におけるいわばアンカーの役割を果たすことを見出した。その結果、離型層の厚みを離型層内部の分子鎖の全長に制限されないようにして、パターンの精度を向上させることを見出した。
【0020】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施形態について説明する。順序としては、まず、元型モールドに離型層を設ける工程について、断面概略図である図2を用いて説明する。その後、光インプリントによりコピーモールド20を製造する工程について、断面概略図である図3を用いて説明する。
【0021】
なお、本実施形態においては、元型モールドに離型層をもうけてコピーモールドを作製する工程について述べる。だが、このコピーモールドを用いてパターン転写を行う際に、コピーモールドに離型層を設けても当然よい。本実施形態においてモールドとは、インプリント用の元型モールド(すなわちマスターモールド等)や、元型モールドによって作製されるコピーモールドを含むものとする。
【0022】
(元型モールドの準備)
元型モールド30であるが、図2に示すように、コピーモールド20に転写されるパターンの元型となるモールド30を用意する。この元型モールド30は、インプリントモールドとして使用できるものならばよいが、透光性を有するもの(例えば石英、サファイア)であれば元型モールド30上から後述する露光を行うことができるため好ましい。コピーモールド用基板が透光性を有するならば、コピーモールド用基板側から露光を行うことができる。その場合、元型モールド30の材料としては、透光性を有さないもの(例えばシリコンウエハ、ニッケル)であっても使用することができる。また、基板に直接離型層31を設けるのではなく、基板上に別の物質からなる層を設けた元型モールド30に対し、その別の物質の層の上に離型層31を設けても構わない。本実施形態においては、所定のパターンに対応する溝が設けられた石英基板を用いた場合について説明する。
【0023】
なお、この石英基板上に設けられる所定のパターンはミクロンオーダーであってもよいが、近年の電子機器の性能という観点からはナノオーダーであってもよいし、インプリントモールドなどにより作製される最終製品の性能を考えると、その方が好ましい。
【0024】
また、元型モールド30に設けられる所定のパターンがインプリントにより転写されると、コピーモールドにはこの所定のパターンとは逆のパターンが形成される。そのため、コピーモールドのパターンを最終的に得たいパターンとするならば、元型モールド30にはそのパターンとは逆のパターンを形成しておいてもよい。また、仮のコピーモールドにパターンを転写した後、この仮のコピーモールドのパターンを、別のコピーモールドに転写することにより、元型モールド30と同一のパターンを得てもよい。
【0025】
(元型モールドへの離型層の設置)
そして本実施形態においては、図2に示すように、この元型モールド30、少なくとも所定のパターンが形成された部分に離型剤を塗布することにより離型層31を設ける。この離型層31を設けることにより、後述する図3に示すコピーモールド作製用基板1上に設けられたレジスト層4と元型モールド30(ひいては離型層31)とを接触させたときに、レジスト層4から離型層31を容易に引き離すことができる。その結果、レジスト層4から元型モールド30を円滑に離型でき、スループットが向上するとともに元型モールド30及びレジスト層4のパターン毀れを抑制することができる。以下、この離型層31について詳述する。
【0026】
(離型層の化合物組成の概要)
まず、本実施形態に係る離型層31に含まれる化合物は、離型に寄与する主鎖部分と、元型モールド30に吸着するための吸着官能基とを含む。
【0027】
(離型層の化合物の主鎖部分)
この分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれている。フルオロカーボンにおけるフッ素により、離型層31における表面、すなわちコピーモールド作製用基板1上に設けられたレジスト層4と接触する部分の表面エネルギーを低下させることができる。その結果、円滑に離型を行うことができる。
【0028】
なお、前記フルオロカーボンには(C2mO)が一種類または複数種類含まれるのが好ましい。このように化合物の主鎖にパーフルオロエーテル基を含ませることにより、離型層31において、前記レジスト層と接触する部分の表面エネルギーを低下させることができる。それに加え、図1(a)(b)に示すように、エーテル基の存在により分子鎖全体がランダムコイル状となり、分子鎖の屈曲性を向上させることができる。分子鎖の屈曲性が向上すれば、従来は層厚方向に配向することに起因して層厚が分子鎖全長に依存していたところ、層厚方向への分子鎖の配向度合いが分子鎖の屈曲性により緩和されることになる。その結果、離型層31の厚さを従来よりも減少させることになる。
【0029】
なお、前記mの値は整数かつ1≦m≦7であるのが好ましい。
mが1以上であれば、適度に屈曲性が発揮されるため、元型モールド30と吸着した後の分子鎖同士の間隔を適度に近接させることができ、適度に密集したフルオロカーボンからなる分子鎖により、離型層31の表面エネルギーを十分に低下させることができる。
mが7以下であれば、適度に剛直性が発揮されるため、先に述べたような分子鎖全長に層厚が依存するのを防ぐことができる。このような分子鎖の密着性及び剛直性のバランスを取るためには、mが3または4であるのが特に好ましい。
【0030】
また、前記nの値は、前記(C2mO)の分子量が500以上かつ6000以下となる整数であるのが好ましい。
(C2mO)の分子量が500以上であれば、分子鎖が短くなりすぎて吸着官能基同士が自己凝集しやすくなることもなくなる。さらに、元型モールド30上に吸着した後の分子鎖同士を近接させる方向の分子間力を維持することができ、適度に密集したフルオロカーボンからなる分子鎖により、離型層31の表面エネルギーを十分に低下させることができる。
また、分子量が6000以下であれば、分子鎖が長すぎることにより離型層31の層厚減少効果が相殺されてしまうこともなくなる。
具体的なnの値としては、6または7が好ましい。
【0031】
また、(C2mO)は、複数種類におけるランダムコポリマーであっても、ブロックコポリマーであってもよい。一例を挙げるとするならば、(CFO)及び(CO)のランダムコポリマーが挙げられる。
【0032】
(離型層の化合物の吸着官能基)
また、離型層31に含まれる化合物は、元型モールドに対する吸着官能基を少なくとも2個以上有している。先にも述べたように、離型層31は、コピーモールド作製用基板上に設けられたレジスト層との離型を円滑に行えることが求められるのと同時に、レジスト層と物理的に接触・離型する際のインプリント耐久力が求められる。具体的には、元型モールド30に対して離型層31が十分な密着性を有している必要がある。仮に十分な密着性を有していない場合、インプリントの最中に離型層31が元型モールドから剥離してレジスト層上に残存してしまい、コピーモールドのパターン精度に影響を与えるおそれがある。本実施形態においては、元型モールドに対する吸着官能基を複数とすることにより、元型モールド30と吸着官能基1個では強固に吸着できなくとも、化合物における1つの分子鎖に2つの吸着官能基を設けていれば、1つの分子鎖の2箇所で元型モールド30に対していわばアンカーを設けることができ、その結果、元型モールド30との密着性を高めることができる。
【0033】
なお、上述のような分子鎖に対するアンカー効果を十分に発揮するためには、前記吸着官能基が、前記離型層31に含まれる化合物の分子鎖における両末端に近い部分(図1(b))、好ましくは両末端に設けられている(図1(a))のが好ましい。前記吸着官能基が分子鎖の両末端に近い部分にあれば、分子鎖全長を層厚方向に配向するのを抑制することができ、ひいては層厚を従来よりも大幅に減少させることができる。しかも、分子鎖内の離れた2箇所で元型モールド30と強固に結合させることにより、元型モールド30と離型層31との間の密着性を向上させることができる。
【0034】
前記吸着官能基が、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における両末端に近い部分に存在する場合、推測ではあるが以下の効果が期待できる。すなわち、前記吸着官能基が元型モールド30に吸着すると、先にも述べたように主鎖はランダムコイル状になると推測される。しかしながら、図1(c)に示すように、この主鎖と元型モールド30との間にファンデルワールス力のような相互作用が働き、元型モールド30に向かう方向の物理的な力が主鎖に対して働いていると推察される。
【0035】
さらに、上述のように前記吸着官能基が分子鎖の両末端に近い部分に設けられている場合、図1(d)に示すように、その部分よりも分子鎖中央部分にさらに吸着官能基を有するのが好ましい。こうすることにより、分子鎖におけるアンカーの箇所を増加させることができ、ひいては層厚をさらに低下させることが可能となる。特に、密着性、離型性、使いやすさ及び自己凝集を抑制する点などのバランスから、図1(d)(e)に示すように、前記吸着官能基は合計で3または4個有するのが好ましい。
【0036】
また、前記吸着官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、またはこれらのうちのいずれかの組み合わせであるのが好ましい。変性シラン基よりも自己凝集を起こしにくい官能基だからである。仮に、変性シラン基に比べて元型モールド30との密着性が低くとも、先に述べたように本実施形態においては1つの分子鎖に吸着官能基を2個設けており、元型モールド30に対して十分な密着性を確保することができる。後で述べる結合エネルギーの観点、すなわち密着性及び自己凝集を起こしにくい点を考慮すると、吸着官能基はヒドロキシル基であるのが好ましい。
【0037】
なお、前記吸着官能基と元型モールド30に吸着すると説明したが、前記吸着官能基がヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、またはこれらのうちのいずれかの組み合わせからなる場合、元型モールド30上に存在する水と吸着官能基とが脱水縮合を起こして強固な結合が形成されていると考えられる。また、元型モールドが石英基板よりなる場合、石英基板表面の酸素と吸着官能基とが水素結合を起こし、その結果、元型モールド30と離型層31との密着性を更に向上させることができる。なお、上記に列挙した官能基以外の場合は、先に述べたように、元型モールド30上の水と脱水縮合を起こすことにより強固な結合が形成されていると考えられる。
【0038】
(吸着官能基の結合エネルギー)
さらに、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きくする。先にも述べたように、インプリントにおいては離型層内部における離型剤の自己凝集が、パターン精度を低下させる要因の一つとなる。しかしながら、このような結合エネルギーの関係を有する化合物を離型剤に使用することにより、吸着官能基が仮に自己凝集を起こしたとしても、元型モールド上に存在する物質と吸着官能基との結合エネルギーの方が高いが故に自己凝集が解除される。そして最終的には、元型モールド30上に存在する物質と吸着官能基とが結合することになる。その結果、離型剤による自己凝集を抑制することにより、元型モールド30と離型層31との密着性を高めることができる。
【0039】
(添加剤)
なお、この離型剤は上記のような化合物以外にも、離型剤に添加可能な公知の物質を含んでいてもよい。
【0040】
(元型モールドへの離型剤の塗布)
以上のような化合物を有する離型剤を、元型モールド30に離型層31を設けるべく、元型モールド30上に塗布する。この塗布方法については、一例を挙げるとするならば、ディップ法、スピンコート法、インクジェット法、スプレー法などが挙げられる。
【0041】
ディップ法を用いる場合、5分以上の浸漬時間とするのが好ましい。この時間範囲ならば、元型モールド30に離型剤を十分塗布することができる。吸着官能基が元型モールド30に吸着するのに十分な時間を確保することができる。
また、浸漬した後の引き上げ速度は80〜200mm/分で行うのが好ましい。上限以下の速度ならば、液面の揺れで離型剤の塗布の際の均一性が損なわれることはない。また、下限以上の速度ならば、メニスカス力のせいで引き上げ液量が低下するという事態を抑制することができる。
【0042】
(離型剤塗布後の熱処理)
このように離型剤を元型モールド30に塗布した後、この元型モールド30に対し100℃〜250℃にて熱処理を行うのが好ましい。離型剤における溶媒を除去することにより、離型層31を緻密化し、元型モールド30と離型層31との密着性を向上させるためである。またこの温度範囲ならば、離型剤における化合物の熱分解を発生させずに密着性向上を図れる。さらに、上記の温度範囲で熱処理を行うことにより、図4に示すように、2個以上ある吸着官能基を元型モールド30と吸着させやすくすることができる。言い換えるなら、2個以上ある吸着官能基を元型モールド30上の物質と結合させやすくすることができる。ひいては、元型モールド30と離型層31との間の密着性を更に向上させることができ、分子鎖の全長に膜厚が依存することを防止することができる。
具体的な加熱手段としては、一例を挙げるとすれば、クリーンオーブンやホットプレートなどが挙げられる。
【0043】
(リンス処理)
上述のような熱処理を行った後、離型層31付き元型モールド30に対してリンス処理を行う。このリンス処理は、元型モールド30と吸着しなかった化合物の分子を洗い流すために行われる。
【0044】
本実施形態においては、上述のような熱処理を行った後にリンス処理を行うことに意味がある。なぜなら、通常、上述の熱処理を行わずにリンスを行うと、元型モールド30への吸着が十分でない分子鎖も基板1上から洗い流してしまうことになってしまう。しかしながら、上述の熱処理の後ならば、分子鎖各々は元型モールド30に対して十分吸着することができている。そのため、元型モールド30に対して吸着していない分子鎖のみを洗い流すことができる。こうして不使用の吸着官能基を離型層31に残存させることに起因する表面エネルギーの増加を抑制することができ、その結果、離型性を低下させずに済む。リンス液としては、離型層31を溶解しないものであればよい。
【0045】
以上が元型モールド30に離型層31を設けるための工程である。以下、この離型層31付き元型モールド30を用いて、光インプリントによりコピーモールドを作製する工程について、図3を用いて述べる。
【0046】
(コピーモールド製造用基板の準備)
まず図3(a)に示すように、コピーモールド20のための基板1を用意する。
この基板1は、コピーモールド20として用いることができるのならば良く、先に述べた元型モールド30と同様の材質でも構わない。また、元型モールド30と同材質であってもよい。なお、光インプリントを行う場合は被転写材への光照射の観点から透光性基板であることが好ましい。この透光性基板1としては、石英基板などのガラス基板が挙げられる。なお、元型モールドが透光性を有するのならば、Si基板などの非透光性基板であっても構わない。
【0047】
また、基板1の形状についてであるが、円盤形状であるのが好ましい。レジストを塗布する際、円盤基板1を回転させながらレジストを均一に塗布することができるためである。なお、円盤形状以外であっても良く、矩形、多角形、半円形状であってもよい。
本実施形態においては、円盤形状の石英基板1を用いて説明する。
【0048】
(ハードマスク層の形成)
次に、図3(b)に示すように、前記石英基板1をスパッタリング装置に導入する。そして本実施形態においては、タンタル(Ta)とハフニウム(Hf)の合金からなるターゲットをアルゴンガスでスパッタリングし、タンタル−ハフニウム合金からなる導電層2を成膜し、基板1上に形成される溝に対応する微細パターンを有するハードマスク層7の内の下層(導電層2)とするのが好ましい。
【0049】
なお、導電層2の材料としては、公知の導電層として用いられるものであってもよい。一例を挙げれば、Taを主成分とする化合物が挙げられる。この場合、TaHf、TaZr、TaHfZrなどのTa化合物やその合金が好適である。一方、ハフニウム(Hf)とジルコニウム(Zr)の少なくとも一方の元素又はその化合物(例えばHfZrなど)を選択することもでき、さらにこれらの材料をベース材料として、例えばB、Ge、Nb、Si、C、N等の副材料を加えた材料を選択することもできる。本実施形態においては、タンタル−ハフニウム(TaHf)合金からなる導電層2について説明する。
【0050】
次に、本実施形態においては、酸化防止の観点から前記導電層2に対して大気暴露は行わず、クロムターゲットをアルゴンと窒素の混合ガスでスパッタリングして窒化クロム層3を成膜し、微細パターンを有するハードマスク層7の内の上層(導電層用酸化防止層3)とするのが好ましい。
【0051】
なお、酸化防止層3の材料としては、成膜の際のスパッタリングにおいて酸素を用いなくて済む点からも窒化クロム(CrN)が好ましいが、それ以外でも酸化防止層として使用できる化合物であればよい。例えばモリブデン化合物、酸化クロム(CrO)、SiC、アモルファスカーボン、Alを用いてもよい。本実施形態においては、窒化クロム(CrN)からなる酸化防止層3について説明する。
【0052】
こうして図3(b)に示すように、タンタル−ハフニウム合金層2を下層とし、窒化クロム層3を上層としたハードマスク層7を、石英基板1上に形成する。
【0053】
なお、本実施形態における「ハードマスク層」は、単一または複数の層からなり、パターンに対応する溝が形成される予定の部分を保護することができ、基板上への溝のエッチングのマスクに用いられる層状のもののことを指すものとする。ただし、ハードマスク層7における酸化防止層3は、導電層2を兼ねても良い。その場合はTaHfのような導電層は省略可能である。
このように、基板上にハードマスク層7を設けたものを、本実施形態においてはマスクブランクスという。
【0054】
(レジスト層の形成)
マスクブランクスにおけるハードマスク層7に対して適宜洗浄・ベーク処理を行った後、図3(c)に示すように、前記マスクブランクスにおけるハードマスク層7に対して光インプリント用のレジストを塗布してレジスト層4を形成し、本実施形態におけるコピーモールド20の製造に用いられるレジスト付きマスクブランクスを作製する。光インプリント用のレジストとしては、光硬化性樹脂とりわけ紫外線硬化性樹脂が挙げられるが、光硬化性樹脂の内、後で行われるエッチング工程に適するものであればよい。
【0055】
また、この時のレジスト層4の厚さは、各種エッチングが完了するまでマスクとなる部分のレジストが残存する程度の厚さであることが好ましい。
【0056】
なお、レジスト層4を設ける前に、ハードマスク層7上に先に密着層を設けてもよい。密着層を設けることにより、インプリントやエッチングの最中にレジスト層4が剥離することを防止することができる。
【0057】
(レジスト層への元型モールドの載置)
このレジスト層4に対して適宜ベーク処理を行った後、図3(d)に示すように、このレジスト層4の上に、微細パターン及び離型層31が形成された元型モールド30を配置する。この時、レジスト層4が液状であるならば、元型モールド30を載置するだけでよい。また、レジスト層4が固体形状の場合は、元型モールド30をレジスト層4に対して押圧して微細パターンを転写できる程度に軟らかいレジスト層4であればよい。
【0058】
(露光によるパターン転写)
その後、紫外光照射装置を用いて、前記レジスト層4に対して元型モールド30の微細パターンを転写する。このとき紫外光の露光は元型モールド30側から行うのが通常であるが、マスクブランクスの基板1が透光性基板である場合は、基板1側から行ってもよい。
【0059】
なおこの際、元型モールド30とマスクブランクスとの間の位置ずれによる転写不良を防止するため、アライメントマーク用の溝を基板上に設ける準備を行ってもよい。
【0060】
(レジスト層における残膜層の除去)
微細パターン転写後、図3(e)に示すように、元型モールド30をレジスト付きマスクブランクスから離型する。そして、窒化クロム層3上にあるレジストの残膜層を、酸素、オゾン等のガスのプラズマを用いたアッシングにより除去する。こうして、図3(f)に示すように、所望の微細パターンに対応するレジストパターンを形成する。なお、レジストが形成されなかった部分において、基板1上に溝が形成されることになる。
【0061】
(第1のエッチング)
次に、基板上にレジストパターンが形成された基板1を、ドライエッチング装置に導入する。そして、酸素ガスを実質的に含まない雰囲気下で塩素系ガスを含むガスによる第1のエッチングを行う。このとき、還元性ガスと共に上記のガスによるエッチングを行うと、導電層2の酸化防止という観点からも好ましい。
【0062】
なお、「実質的に酸素ガスを含まない雰囲気下」とは「エッチングの際に酸素ガスが流入したとしても、異方性エッチングを行うことができる程度の流入量である雰囲気下」であることを指すものであり、好ましくは酸素ガスの流入量を流入ガス全体の5%以下とした場合の雰囲気である。
【0063】
このエッチングにより、図3(g)に示すように、微細パターンを有するハードマスク層7を形成する。なお、この時のエッチング終点は、反射光学式の終点検出器を用いることで判別する。
【0064】
(第2のエッチング)
続いて、第1のエッチングで用いられたガスを真空排気した後、同じドライエッチング装置内で、フッ素系ガスを用いた第2のエッチングを、石英基板1に対して行う。この際、前記ハードマスク層7をマスクとして石英基板1をエッチング加工し、図3(h)に示すように、微細パターンに対応した溝を基板1に施す。その前後において、アルカリ溶液や酸溶液にてレジストを除去する。
【0065】
ここで用いられるフッ素系ガスとしては、C(例えば、CF、C、C)、CHF3、これらの混合ガス又はこれらに添加ガスとして希ガス(He、Ar、Xeなど)を含むもの等が挙げられる。
【0066】
こうして図3(h)に示すように、微細パターンに対応する溝加工が石英基板1に施され、微細パターンを有するハードマスク層7が石英基板1の溝以外の部分上に形成される。こうして残存ハードマスク層7除去前モールド10を作製する。
【0067】
(ハードマスク層の除去)
このように作製された残存ハードマスク層除去前モールド10に対し、第1のエッチングと同様の手法で、引き続いて残存ハードマスク層除去前モールド10上に残存するハードマスク層7をドライエッチングにて除去する工程が行われ、それによりインプリントモールド20が作製される(図3(i))。
【0068】
なお、いずれかのエッチングのみをウェットエッチングとし、他のエッチングにおいてはドライエッチングを行ってもよいし、全てのエッチングにおいてウェットエッチングまたはドライエッチングを行ってもよい。また、パターンサイズがミクロンオーダーである場合など、ミクロンオーダー段階ではウェットエッチングを行い、ナノオーダー段階ではドライエッチングを行うというように、パターンサイズに応じてウェットエッチングを導入しても良い。
【0069】
なお、本実施形態においては、第1〜第2のエッチングを行ったが、マスクブランクスの構成物質に応じて、別途エッチングを第1〜第2のエッチングの間に追加しても良い。
【0070】
(コピーモールドの完成)
以上の工程を経て、前記溝形成部分以外の部分のハードマスク層7を除去した後、必要があれば基板1の洗浄等を行う。このようにして、図3(i)に示すようなコピーモールド20を完成させる。
【0071】
(元型モールドの再生)
新たにコピーモールドを作製するために、インプリントを行った後の元型モールド30に対して、再生処理を行う。具体的には、硫酸過水などで元型モールド30を洗浄して離型層31を除去する。その後、適宜洗浄や乾燥等を行う。そして、再び離型剤を塗布することにより新たに離型層を元型モールド30上に設ける。
【0072】
以上のような本実施形態においては、以下の効果を得ることができる。
まず、離型層を構成するフルオロカーボンにおけるフッ素により、コピーモールド作製用基板上に設けられたレジスト層と接触する部分の表面エネルギーを低下させることができる。その結果、円滑に離型を行うことができる。
【0073】
さらに、元型モールドに対する吸着官能基を複数とすることにより、1つの分子鎖の2箇所で元型モールド30に対して結合することができ、その結果、元型モールド30との密着性を高めることができる。
【0074】
それに加えて、前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きくすることにより、離型剤による自己凝集を抑制でき、しかも元型モールドと離型層との密着性を高めることができる。
【0075】
また、このように光インプリントを用いて作製したコピーモールドそのものは、熱インプリントにも光インプリントにも用いることができ、さらにはナノインプリント技術にも応用することができる。特に、インプリント技術を用いて作製されるパターンドメディアに本実施形態を好適に応用することができる。
【0076】
<実施の形態2>
先に述べた実施の形態1においては、光インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20について述べた。
その一方、本実施形態においては、熱インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20について説明する。なお、以下の説明において特筆しない部分については、実施の形態1と同様である。
【0077】
まず、熱インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20製造に用いられる基板についてであるが、ハードマスク層7に対するドライエッチングに用いられる塩素ガスに耐性があるSiC基板が挙げられる。
【0078】
なお、熱インプリントを行う場合の基板1について、塩素系ガスに対して耐性を有する基板であるSiC基板以外にも、以下のような工夫を施すことにより塩素系ガスへの耐性が比較的弱いシリコンウエハを使用することもできる。すなわち、シリコンウエハ1上にまずはSiO層を設ける。このSiO層の上にハードマスク層7を設けることにより、ハードマスク層7が塩素ガスで除去されたとしても、SiO層がシリコンウエハ1を塩素ガスから保護することになる。そして、バッファードフッ酸すなわちフッ化アンモニウム及びフッ酸からなる混酸により、SiO層を除去する。こうすることにより、熱インプリント用モールドを作製するために、シリコンウエハを使用することもできる。また、シリコンウエハ上に加工層としてSiO層を設けたものを基板として使用することもできる。このときには加工層であるSiO層に溝を設けることになるため、シリコンウエハ1を用いる場合に比べてSiO層を厚くすることが好ましい。
本実施形態においては、円盤形状のSiC基板を用いて説明する。
【0079】
本実施形態においては、TaHfからなる導電層2及び窒化クロム層3を基板1上に成膜する。
次に、前記マスクブランクスにおけるハードマスク層7に対して熱インプリント用のレジストを塗布し、レジスト層4を形成して本実施形態におけるコピーモールド20の製造に用いられるレジスト付きマスクブランクスを作製する。熱インプリント用のレジストとしては冷却すると硬化する樹脂が挙げられるが、この樹脂の内、後で行われるエッチング工程に適するものであればよい。なお、この樹脂は、元型となるモールドを押圧したときに転写すべき微細パターンが形成される程度の軟らかさを有することが好ましい。元型となるモールドをレジスト上に押圧したとき、元型モールド30の微細パターン及び離型層31に合わせてレジストが容易に変形し、後の冷却処理にて微細パターンを精度良く転写することができるためである。
【0080】
その後、冷却処理装置を用いて、前記レジスト層4に対して元型モールド30の微細パターンを転写する。
【0081】
微細パターン転写後、ハードマスク層7上にあるレジストの残膜層をアッシングにより除去した後、実施の形態1に記載された工程により、インプリント用マスターモールドに対するコピーモールド20を完成させる。
【0082】
なお、本発明における「基体」とは、実施の形態に示すような元型モールドを形成するものであって、その上に本実施形態に係る離型層を設けることができるものであればよく、例えば基板、そして基板上に別の化合物層が設けられたものを含む。
【0083】
以上、本発明に係る実施の形態を挙げたが、上記の開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。本発明の範囲は、上記の例示的な実施形態に限定されるものではない。本明細書中に明示的に記載されている又は示唆されているか否かに関わらず、当業者であれば、本明細書の開示内容に基づいて本発明の実施形態に種々の改変を加えて実施し得る。
【実施例】
【0084】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろんこの発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<実施例>
本実施例においては、深さ30nm、ライン15nmかつスペース10nmのハーフピッチ25nm周期構造のラインアンドスペースパターンが設けられている石英基板からなる元型モールド30を用いた。この元型モールド30を、VERTRELXF−UP(VERTRELは登録商標 三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)で0.5wt%に希釈した下記化合物((C36O)の分子量:500以上かつ6000以下)を含む離型剤に5分間浸漬した。
【化1】

その後、120mm/分の速度で元型モールド30を引き上げた。
【0086】
このようにディップ法により離型剤の塗布を行った。なおこの際、複数の試料を作製し、各々の試料に対して130℃〜205℃の温度にて熱処理を行った。その後、元型モールド30に対してリンス処理を行った。この際にもリンス液としてVertrelXF−UPを用い、10分間リンス処理を行った。このようにして、本実施例に係る離型層付きモールドを得た。
【0087】
その後、本実施例のコピーモールド20作製用基板1として円盤状合成石英基板(外径150mm、厚み0.7mm)を用いた(図3(a))。この石英基板1をスパッタリング装置に導入した。
【0088】
そして、タンタル(Ta)とハフニウム(Hf)の合金(Ta:Hf=80:20原子比)からなるターゲットをアルゴンガスでスパッタリングし、実施例でも用いた基板上に7nmの厚みのタンタル−ハフニウム合金からなる導電層2を成膜した。
【0089】
次に、クロムターゲットをアルゴンと窒素の混合ガスでスパッタリングし、窒化クロム層3を2.5nmの厚みで成膜した(図3(b))。
【0090】
こうして、基板1上に形成された導電層2及び窒化クロム層3からなるハードマスク層7上に、スピンコート法により密着補助剤を塗布した。この塗布の際の回転数は3000rmpとし、60秒間塗布した。
【0091】
密着補助剤を塗布した後、160℃で60秒間、基板1のベークを行った。
【0092】
インプリント装置(MII製Imprio1100)を用い、光インプリント用の紫外線光硬化性レジスト層4(東洋合成社製PAK−01)をインクジェット法により45nmの厚みに塗布した(図3(c))。
【0093】
次に、前記元型モールド30を光硬化性レジスト層4に載置し、20秒間、紫外線露光を行った(図3(d))。紫外線露光による微細パターン転写後(図3(e))、ハードマスク層7上にあるレジストの残膜層を、酸素、アルゴンガスのプラズマを用いたアッシングにより除去し、所望の微細パターンに対応するレジストパターンを形成した(図3(f))。
【0094】
次に、レジストパターンを有するハードマスク層7が形成された基板1をドライエッチング装置に導入し、ClガスとArガスとを同時に導入しながらドライエッチング(Cl)を行った。そして、微細パターンを有するハードマスク層7を形成した(図3(g))。
【0095】
続いて、ハードマスク層7に対するドライエッチングで用いられたガスを真空排気した後、同じドライエッチング装置内で、フッ素系ガスを用いたドライエッチング(CHF:Ar=1:9(流量比))を、石英基板1に対して行った。この際、前記ハードマスク層7をマスクとして石英基板1をエッチング加工し、微細パターンに対応した溝を基板に施した。
【0096】
そして、濃硫酸と過酸化水素水からなる硫酸過水(濃硫酸:過酸化水素水=2:1体積比)を用いてレジスト層4を除去し、本実施例におけるコピーモールド20の製造のための残存ハードマスク層除去前モールド10を得た(図3(h))。
【0097】
その後、レジスト層4を除去した後の残存ハードマスク層除去前モールド10を、先のハードマスク層7へのエッチングに用いたドライエッチング装置に導入した。そして、基板上のハードマスク層7を除去し、適宜洗浄を加え、本実施例におけるコピーモールド20を作製した(図3(i))。
【0098】
<比較例>
上述の実施例と比較するために、比較例においては離型剤として変性シラン基を有する化合物(製品名:OPTOOL(登録商標)ダイキン製)を用い、離型剤塗布の際に110℃にて熱処理を行った。これ以外については、実施例と同様にして離型層付きモールド及びコピーモールドを作製した。
【0099】
<評価>
実施例および比較例により得られた離型層付きモールドについて、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果を図5に示す。図5(a)(b)は実施例における離型層付きモールドの表面を示す写真であり、(a)はインプリントを行う前の離型層付きモールドの表面を示す写真であり、(b)はインプリントを1回行った後の離型層付きモールドの表面を示す写真である。また、図5(c)(d)は比較例における離型層付きモールドの表面を示す写真であり、(c)はインプリントを行う前の離型層付きモールドの表面を示す写真であり、(d)はインプリントを1回行った後の離型層付きモールドの表面を示す写真である。
【0100】
実施例においては、図5(a)(b)より、インプリント前に加えてインプリント後においても自己凝集による欠陥は発見されなかった。
その一方、比較例においては、図5(c)(d)より、自己凝集による欠陥が複数発生していた。しかも、インプリント後には欠陥が多く発生していた。
【0101】
また、実施例及び比較例に係る離型層付きモールドにおけるインプリント耐久力についても調べた。その結果を示す図6(離型層厚)を見ると、実施例においては離型層の層厚が維持されていた。その一方、比較例においては、インプリント回数を増すと離型層が剥離してしまった。また図7(離型層の表面自由エネルギー)をみると、実施例はインプリントを複数回行っても表面自由エネルギーは低いままであり、良好な離型性を維持していた。
【0102】
また、実施例及び比較例に係る離型層付きモールドにおける離型層の厚さについても調べた。その結果を示す図8を見ると、実施例の方が比較例よりも薄い離型層を得ることができた。
【符号の説明】
【0103】
1 基板
2 導電層
3 窒化クロム層
4 レジスト層
7 ハードマスク層
10 残存ハードマスク層除去前モールド
20 コピーモールド
30 元型モールド
31 離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドにおいて、
前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、
前記化合物の分子鎖は、元型モールドに対して吸着している吸着官能基を少なくとも2個以上有し、
前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする離型層付きモールド。
【請求項2】
前記吸着官能基はヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、またはこれらのうちのいずれかの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の離型層付きモールド。
【請求項3】
前記吸着官能基が、前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における両末端に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の離型層付きモールド。
【請求項4】
前記フルオロカーボンには(C2mO)[mは整数かつ1≦m≦7であり、nは、前記(C2mO)の分子量が500以上かつ6000以下となる整数]が1種類または複数種類含まれることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の離型層付きモールド。
【請求項5】
前記離型層に含まれる化合物の分子鎖は側鎖を有さないことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の離型層付きモールド。
【請求項6】
インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドにおいて、
前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖には(C2mO)[mは整数かつ1≦m≦7であり、nは、前記(C2mO)の分子量が500以上かつ6000以下となる整数]が一種類または複数種類含まれ、
前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基としてヒドロキシル基を少なくとも2個以上有し、
前記化合物の分子鎖における両末端に前記ヒドロキシル基が設けられており、
前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする離型層付きモールド。
【請求項7】
前記元型モールドは、所定のパターンに対応する溝が設けられた石英基板よりなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の離型層付きモールド。
【請求項8】
インプリントにより所定のパターンを被転写物に転写するための元型モールドに離型層が設けられる離型層付きモールドの製造方法において、
前記元型モールドに離型剤を塗布した後、前記元型モールドに対して100℃以上250℃以下にて熱処理を行う熱処理工程を有し、
前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、
前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基を少なくとも2個以上有し、
前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とする離型層付きモールドの製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程の後に、離型層に対してリンス処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の離型層付きモールドの製造方法。
【請求項10】
所定のパターンに対応する溝が設けられたインプリント用の元型モールドからモールドを製造する方法であって、
前記元型モールドに対して離型層を設ける工程と、
前記モールド用の基板上にハードマスク層を形成し、前記ハードマスク層上にパターン形成用レジスト層を形成する工程と、
光インプリントまたは熱インプリントにより、前記元型モールドが有するパターンを前記レジスト層に転写する工程と、
前記レジスト層から前記元型モールドを離型する工程と、
所定のパターンが転写された前記レジスト層をマスクとして、前記ハードマスク層に対してエッチングを行う工程とを有し、
前記離型層に含まれる化合物の分子鎖における主鎖にはフルオロカーボンが含まれ、
前記化合物は、元型モールドに対する吸着官能基を少なくとも2個以上有し、
前記吸着官能基において、前記吸着官能基と元型モールドとの吸着の元となる結合エネルギーが、前記化合物の分子鎖における吸着官能基同士の結合エネルギーよりも大きいことを特徴とするモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224982(P2011−224982A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69290(P2011−69290)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】